2015年2月23日月曜日

Fiio X5 レビュー

中国からやってきた大人気ポータブルオーディオプレーヤー、Fiio X5です。



Fiioとは長い付き合いで、ポータブルアンプから始まり、最初のプレイヤーX3が発売された時に興味本位で購入してみたところ、そのコンパクトなデザインとは裏腹に非常に音質が良かったため、さらに上位機種のX5が登場した際には真っ先に購入しました。





私の所有しているX5は海外市場向けの並行輸入品で、日本限定モデルはダイヤルがデコボコしているのですが、こちらは表面がゴムのようになっています。音質については差はないようです。


Fiio X5が発売された当時は他社製品でAK100やHifimanなど色々な選択肢が出揃ってきた頃でしたが、その中でも約7万円と群を抜いてお買い得感があったのがX5でした。

最近日本のオーディオメーカーもDAPを色々と出していますが、やはり海外(とくに中華)メーカーのアドバンテージは、ユーザーコミュニティとの積極的なコミュニケーションのやりとりだと思います。特にHead-Fiなどの掲示板で、開発状況についての詳細な投稿や、ユーザーの生の声との意見のやりとりを行っており、日本の企業にありがちな秘匿主義とは全く正反対のアプローチです。Fiioも例に漏れず、開発が始まる前からHead-Fiで機能の要望などをユーザーに求めていましたし、ファームウェアアップデートなどもユーザーとの対話でどんどん出してきました(それだけ初回ファームに不具合が多かったのですが)。

掲示板でのやりとりというのは、悪意を持ったユーザーもたくさん書き込むので、メーカーとしてはかなり労力を使うと思いますが、それをしっかり誠意とプロ意識を持って対応しているのを見ると、関心して商品を購入してしまいます。

実際、日本のメーカーさんたちも最近は非常にオープンになってきた感じはあります。オーディオフェアや、フジヤやe-earphoneの動画で開発者さんが新商品について色々と語ってくれるケースが増えてきていますが、そういうのも非常に嬉しいです。


さて、このFiio X5ですが、重さとユーザーインターフェースに難があるため、最近はもっと手軽なSony NW-ZX1を使うことが多くなりました。絶対的な音質はX5のほうが優れていると思うのですが、やはり環境ノイズの多い場所で使う場合、音質よりもユーザビリティの良さを選んでしまいます。(だったらスマホで十分なのですが、電池の持ちが心配なのでDAPは必需品です)。

筐体のデザインはアルミで剛性の高いもので、絶対に故意に曲げて折れたりしなそうです。コストはかかっていると思うのですが、工業製品としては多少アマチュア感が感じられます。ボタンのアルマイト仕上げや、ホイールのグラグラ感など、大手メーカーとは一味ちがう雰囲気です。

このX5は音質、出力、対応フォーマットなど、全てにおいて合格点だと思うのですが、ユーザーインターフェース(UI)だけが残念です。

OSにアンドロイドなどを使わずに独自開発したというのは賞賛すべきなのかもしれませんが、内容は初代iPodと似たようなレベルです。とくに個人的には、アルバムカバーをリストアップして観覧できないのは致命的です。

最近はiPod、iPhoneなどの普及によって「直感的操作」に必要な要素がどのようなものなのかというのがはっきりとルール化されてきたので(ユーザビリティ、UI専門の教本とかはいっぱい出てますしね)、このX5のような前時代的なUIはもはや時代遅れです。具体的には、ホイール反応が悪い、回転と上下が連動しない、などといった操作性の問題はかなりイライラします。スクロールで一段下に行きたいのに、ホイールをちょっと回しても反応せず、更に回すと2〜3段一気に移動してしまう、といった感じです。UI上の問題では、例えば下の写真にあるメニュー画面では、左にあるホイールの絵は、ホイールと連動して同方向に回るアニメーションなのですが、そのとなりにあるメニューアイコンはそれとは逆向きに回転する、といった不可解な挙動が多いです。

こういったUIは、そもそも混乱しないように統一した設計にするのが常識なのですが、ちょっと小洒落た感じにするために余計なアニメーション表示にするのが問題だと思います。メニュー画面なんかは、単純に一列に並んだアイコンにすれば良いと思います。

ボタンも、バック、メニュー、早送りなどのボタン表記が無いため暗記する必要があるのは面倒です。ちなみにホイールの中心にあるのが再生停止ボタンで、右上がバックボタンです。



もう一つ困るのは選曲方法です。「アルバム→曲」といった選び方はできるのですが、たとえば「ジャンル→アルバム→曲」ができないとか、そういった細かい部分でイライラします。最近のファームウェアアップデートでようやく「アーティスト→アルバム」ができるようになったので、一応進歩はしているのかもしれません。SDカードが2枚入るので、数千曲入れてる人もいるかもしれないので、簡単で直感的な検索再生方法が無いと困ります。

発売当初にそういった問題点をメーカーに質問してみたところ、「中国のユーザーは曲にタグなんて使わないよ」「曲はネットで無料で落として、フォルダに入れて管理するのが主流」「フォルダブラウザを使え」なんて公式に言われたので、国柄というのを感じました。楽曲は海賊版をネットで盗んで、再生するためのDAPにはお金をかけるというのは、日本のオーディオマニアにとっては理解できない世界です。



出力端子にはヘッドホン・ライン出力、そしてモノラル3.5mmでSPDIFがついてます。使わない端子にキャップが付属してるのはありがたいです。ヘッドホン出力とライン出力はインピーダンスが違います。ヘッドホン出力の方はだいたい1Ω出力が出るように頑張っていますが、ライン出力は余裕を見て100Ω出しにしてあります。ライン出力は無負荷で3VRMS程度出るので、受ける側の装置によってはちょっとうるさいかもしれません。

ヘッドホン出力も高インピーダンスヘッドホンならば3V程度出せるので、十分な駆動力があります。IEMでもクリッピングせずに2Vは取れるので、かなり高出力です。

ちなみに設定メニューでハイゲイン・ローゲインのモードを選択できますが、単純にボリュームの位置が変わるだけなので、たいした意味はありません。ローゲインの最高ボリューム(表示で120)が、ハイゲインで109くらいと同じです。ちなみに高負荷状態だとハイゲイン109以上ではクリッピングが発生してしまいますが、とんでもない音量になるので実用上は関係ないはずです。





ライン出力を47kΩで受ける

ローゲインモードで最大ボリューム (120)

ハイゲインモードで最大ボリューム (120)は、1kHzサイン波0dBFSが負荷50Ωでもクリッピング発生します。

ハイゲインモードでボリュームを109にすると、ほぼローゲインモードの最大ボリューム(120)と同じになります。



マイクロSDカードスロットは本体下にあります。このゴムカバーは結構しっかりしているので壊れる心配はなさそうです。ただ、SDカードを挿入する際に結構奥まった位置でカチッと言うまで押しこむので、爪が短い人は指では無理かもしれません。ある程度入れたらボールペンなどで押してやる必要があります。


SDカードのフォーマットは本体のメニューでできるので、この手のデバイスでよくあるフォーマット次第でカードが認識しないとか、Windows 7以降でFat32でフォーマットできないなどの初心者トラブルを回避できます。他社のDAPでの掲示板の書き込みを見ると、カードが認識しないというのを結構頻繁に見るので、Fiioは本体でフォーマットできるようにしたのは正解だと思います。(大抵はユーザーがFAT32フォーマット方法を知らない、クラスタサイズを理解してない、といった問題が多いのですが)。
ちなみにexFATは認識しないようです。下位モデルのFiio X3は最新ファームウェアでexFAT対応になったので、X5も将来的にそうなるかもしれません。

パソコン上では両方のSDカードが同時に「X5 TF1」と「X5 TF2」という外部ストレージとして表示されるので、曲のフォルダ転送などは非常に便利です。ただ転送レートはちゃんとしたSDカードリーダーなどと比較すると結構遅いです。SDカードのフォルダに曲を転送し終わったあとに、設定画面でスキャンすればライブラリに追加されるという、簡単な作業です。

ファイルフォーマットは、個人的にはALACしか使っていませんが、今のところ再生に関して問題は起きていません。DSDはDSFファイルを認識して、問題なく再生できてます。DSDは一応PCMへコンバートされますが、だからといって音質が劣化するというわけでもないので(プレイヤーのアナログ回路の個性のほうが音質に影響するので)あまりDSDネイティブなどは気にしてません。

ちなみにこのX5のもう一つの大きな利点として、USB DACとして使えるので非常に重宝しています。設定画面でUSBモードを「DAC」にすると、SDカードのストレージにはアクセスできなくなりますが、代わりにUSB DACとしてパソコン上に表示されます。使い方は一般的なUSB DACと変わりないので、充電しながらDACとしてパソコンで音楽を聴く、なんてこともできます。ストレージとDACの切り替えを毎回気にしなければいけないのは多少面倒です。USBを接続した時にどちらか選択できる、とかなら良いと思うのですが・・。

USB DACとして使用中は、パソコン上のボリュームとX5のハードウェアボリュームは連動していないため、基本的にパソコンのボリュームはMAXにして、X5のボリュームボタンで音量調節します。

DACモードではPCMは普通に192kHz/24bitまで使えますが、DoPには対応していないのでDSDはソフト上でPCM変換が必要です。Audirvanaで実験してみましたが、Direct ModeやInteger Modeなども問題なく再生出来ました。


設定でDACモードにする。

パソコンからUSBで音楽再生中の画面。スペアナみたいなのはただの絵で、動いたりはしません。

内部構成はPCM1792からOPA1612のI/Vと電圧増幅そしてLMH6643の電流バッファという、なんというか大手企業よりはDIYの自作キットなどでよく使われるコンビネーションです。あえてオペアンプでI/Vというのもなんかこだわってて良いですね。ESSなどの新世代DACよりも、ちょっと前のCDプレイヤーの構成ですが、それが逆に良いのかもしれません。

下位モデルのX3がWolfsonとアナデバのチップアンプで、最近発売された廉価モデルのX1がテキサスのPCM5142とインターシルのアンプと、毎回構成を変えてきてるので、あまりポリシーが無いというか無節操なメーカーです。


音質についでてすが、一言で表すと、力強い音色だと思います。十分な駆動力や、安定した電源など、色々な要素はあると思いますが、単純にNW-ZX1やAK100系などと比較して、X5は楽器の存在感やリズムのメリハリがしっかりしていると思います。たとえば家庭用オーディオだと、パワーアンプを更に高出力なものにアップグレードした時のような感じを受けました。

ただやはり、高級な据え置きヘッドホンアンプなどと比較すると、高域のきらびやかさ、空間の余裕、見通しなどは不足しているので、ハイレゾっぽいキラキラした音はX5は苦手なようです。どちらかというと多少荒っぽいカマボコ型といった感じで、空間表現や環境音などは無視して、メインのボーカルなどに集中できる、意外とローファイな感じのプレイヤーだと思います。他社のDAP、たとえばNW-ZX1などは逆に空間の空気感などを見せつける反面、演奏者そのものの主張が弱いと思うので、どちらを取るかは好みの問題だと思います。

据え置きで5万円以上のアンプを買う予定が無く、DAP一個でいろんなヘッドホンで聴きたい、なおかつパソコンでUSB DACとして使いたいというならこのX5は妥当だと思います。ただやはり超高インピーダンスのヘッドホンなどは駆動力不足で、アタック感が悪くなります。K712だとボリューム70%くらいで聴くことが多いです。

この価格帯のDAPとしては、結構オススメですが、もうちょっと安いのだと、Fiio X3は音質も操作性も値段以上に良い商品だと思います。ただ2015年にはX3の後継機のX3K、そして上位モデルのX7が出るらしいので、どちらも期待して待っています。