2015年7月5日日曜日

B&O Bang & Olufsen BeoPlay H8 ワイヤレス・ノイズキャンセリングヘッドホンのレビュー

B&Oの2015年新作「H8」ヘッドホンのレビューです

エレガントで上質なデザインにばかり目が行きがちですが、音質も値段相応になかなかの物なので、紹介したいと思います。




アップルストアで46,000円前後と、ポータブルヘッドホンとしては高価な部類ですが、見かけによらず最新スペック満載のハイテクヘッドホンです。



Bang & Olufsen B&Oという会社についてですが、デンマークにある総合オーディオ・ヴィジュアルメーカーでして、我々オーディオマニアにとっては過去数十年間、良き友であり最大の宿敵でもある微妙な存在として君臨してきました。

B&Oは、最近もてはやされている北欧系デザイン家電の元祖とも言えるくらいプロダクトデザイン業界では有名なメーカーです。50年以上前から家電製品、とくにオーディオ機器に異常なまでのデザイン美意識を取り入れており、一般的に部屋の隅で申し訳なく積み重ねられているようなレコードプレーヤー、カセットデッキ、ラジオチューナーなどを、堂々とオブジェ調度品の一部として展示できるようなまでに昇華させてきました。

http://www.bang-olufsen.com/ja/sound

とくにレコード・CDプレーヤーのBeogram、ラジオのBeoMasterなどは半世紀経った今でもマニアのコレクターが多いためビンテージ品として中古市場が高騰しています。ニューヨーク近代美術館にB&Oの主任デザイナーJacob Jensenが過去に担当した商品が展示されていますが、どれも時代を感じさせない美しい佇まいです。

http://www.moma.org/collection/artist.php?artist_id=2909

B&Oがオーディオマニアの宿敵と言われている理由は、いわゆる「デザインばかりの高価なぼったくりで、中身はスカスカ」といった誤解が巷に流布しており、上流階級の医者や弁護士が買うものだといった印象が強いです。とくに大都市にあるB&Oのショウルームに足を運ぶと、高級外車の販売店のように「自分ごときでは身分不相応でした」と申し訳なく感じてしまうほどエレガントで上品な空間なため、自社のブランドイメージというのを非常に大事にしている会社だなと感じさせます。

実際B&Oオーディオ機器の音質がゴミだったかというと、案外そうでもなく、総合的なシステムとして購入した際の相性の良さはもちろんのこと、技術的にもかなり革新的なことをやってきたメーカーです。ただしレコードプレーヤーなど独自技術が満載であまり互換性が無く、修理や交換パーツに苦労をするといった難点もあります。レコードからCDの時代に移行した際には、自社内でCDプレイヤーを開発することは無理と判断して、当時最高クラスだったフィリップス系のプレイヤーをOEMとして採用していたため、外観の美的センスと同時に、音質的にもかなり優秀でした。

また、意外と知られていないことですが、B&Oのもう一つの大きな事業に「組み込みオーディオ」があり、他社のオーディオシステムなどに使われるアンプモジュールなどを多数開発供給しています。なかでもクラスDアンプとして一番定評のあるB&O ICEpowerモジュールは非常に音質が優れており、過去のパイオニアのAVアンプや数百万円もするジェフローランドのハイエンドアンプなどに使われているほか、アウディやメルセデスベンツ、BMWなど高級車の車内オーディオもB&Oが提供しています。

オーディオメーカーとしての歴史が深いB&Oですが、ヘッドホン・イヤホンに真剣に取り組みはじめたのはここ数年のことで、とくにBeats、Bose、B&Wと並んでアップルストアで販売されていることで知名度が上がってきました。

現在メインで展開されているHシリーズでは、ポータブルオンイヤーヘッドホンのH2、イヤホンH3、アラウンドイヤーヘッドホンヘッドホンのH6、といったラインナップでしたが、今回最上位機種としてH8が発売されました。

H6がアラウンドイヤー型だったのですが、H8はコンパクトなオンイヤー型ということで一見グレードが下がるように見えますが、H6の41,000円から、H8はさらに5,000円アップの46,000円という位置づけになります。

B&O H8について

H8の一番のキーポイントは、Bluetoothワイヤレスでアクティブノイズキャンセリングを採用していることです。

最近ワイヤレスヘッドホンやノイズキャンセリングヘッドフォンは多数販売されていますが、実際ワイヤレスでノイズキャンセリングといった商品は限られた数しかありません。2015年6月現在で流通している商品ではBeats Studio V2 Wireless、Parrot Zik、Denon AH-GC20、Sennheiser Momentum 2 Wirelessなどがワイヤレス+ノイズキャンセリングです。
意外にもノイズキャンセリングで一番有名なBoseからは出ていませんし、ソニーもMDR-ZX770BNなどの低価格帯モデルでお茶を濁している状態です。

ワイヤレス+ノイズキャンセリング(NC)の両方入りというのは通勤などで使うポータブルヘッドホンとしては理想的なコンビネーションだと思いますが、なぜこれまであまり種類が出ていなかったかというと、単純に電池の持ちや技術的な問題はもちろんのこと、飛行機内で使うことが多いNCヘッドホンとしては、Bluetoothワイヤレスは連邦航空局の認可が難しい状態だったので、機内で使えないなら売る意味が無い、といった事情がありました。しかし最近になってようやく機内でもBluetoothが使用可能になった航空会社が増えてきたので(去年くらいから離着陸時でも電気製品OKになってきましたしね)、各メーカーからワイヤレス+NCヘッドフォンの発売ラッシュが続いています。

個人的に出張などでBose QC20やQC25は欠かせない存在だったので、そろそろワイヤレスのNCヘッドホンが欲しいと思っていろいろ検討していたところ、DenonのAH-GC20は音質的に若干不満があったこと、BeatsやParrot ZikはNCが弱くオーディオマニアとして体面も悪いこと、SennheiserのMomentum Wirelessは高価でフィット感が悪く自分の頭に合わなかったこと、そして本命のソニーやBoseは新製品待ち、といった中で登場してくれたB&O H8に興味を持ちました。

B&Oのような高級ブランドにおいては商品展開の戦略というのも非常に重要ですが、今回のH8もとても良いタイミングでの投入だと思います。この手のメーカーは高価ゆえに一生ものとして購入する古典的な客層が多く、商品の陳腐化が最大の敵なので、たとえばソニーなどのように毎年の無意味なバージョンアップ、マイナーチェンジモデル投入は逆に商品のブランド価値を下げてしまいます。(幸いソニーのフラッグシップMDR-Z7ではバージョン商法は避けていますね)。技術進歩が速いポータブルオーディオ、ましてやワイヤレス、ノイズキャンセル商品において陳腐化を避けるのは非常に難しいと思います。

B&Oはこの時期に満を持してH8を発売しましたが、タイミング的にはBluetooth 4.0やAptX、NC・バッテリー技術や、ポータブルヘッドホンにおける理想的な音作りのトレンドなど、いろいろな要素がようやく熟成してきたのが2015年現在だと思います。このなかで各最新技術を潤沢に搭載したのがH8ヘッドホンということで、「今まで保留していたけど、これだったら買ってもいいかな」と私のような消費者に言わせる商品を出したB&Oの判断につくづく感心します。

開封後 ハウジングにシールが貼ってあります


ヘッドホンの下には3つの箱が


箱の中には収納袋とケーブル類

H8のパッケージは価格相応の上質なものです。中にはまずヘッドホン本体が入っており、その下に綺麗に仕切り分けされたアクセサリボックスが入っております。付属品は布袋、航空機アダプタ、二種類のケーブル、そして説明書類ということで、あまり高級感はありません。たとえばキャリーケースなど、もうちょっと力を入れてほしい気もします。



B&O H8

ヘッドホン本体のデザインはやはりB&Oだけあって、惚れ惚れします。手に取るだけで金属の面取り加工やレザーのステッチ、色使いのコンビネーションなど、総合的なデザインセンスに脱帽です。こればかりは、いくらコアなオーディオマニアだとしても、おしゃれなカフェのアップルユーザーのごとく「意識高い系」に鞍替えした気分にさせてくれます。スタイライズされたB&Oのロゴ以外には不必要な刻印が少ないことも美しさに貢献していると思います。日本の製品でしたらむやみにモデルナンバー、技適マーク、製造国などの刻印が乱雑に散布されていることでしょう。同じワイヤレスではAKG K845BTも作りこみが良いと思いましたが、あちらは手に取るとギシギシと音がして安っぽく感じます。

AKG K845BTとの比較

Bose QC25との比較


B&Oの前作H6ヘッドホンは、個人的に非常に気に入っており、繊細なプレゼンテーションでAKG K550やベイヤーダイナミックDT880を連想させるような解像感の良好な音色だったのですが、薄手のハウジングやパッドのため静粛性が悪く、密閉型として使いどころが難しいヘッドホンだと思ったため(しかも音質の割に高価なため)購入には至らなかった記憶があります。

ヘッドバンドはレザーとキャンバス生地
今回のH8はデザイン的にはほぼH6と似ており、とくにヘッドバンドはH6で好評だった肉厚なレザーとキャンバス生地の組み合わせに、合金製のしっかりとしたアームを採用しています。ヘッドバンドの伸縮は十分な余裕があり、普段一般的なヘッドホンで中間くらいのポジションに設定している自分の頭では、H8でも中間付近の位置合わせでした。摩擦抵抗の加減が良い、非常に上質な調整機構だと思います。
ヘッドバンドのクッションは薄いため、1時間ほど使ったくらいで頭頂部が若干痛くなってきました。これは側圧との兼ね合いでもあるので、問題ない範囲内だと思います。

ハウジングはオンイヤー型ということでH6よりも小型です。アームとハウジングのB&Oロゴ部分はメタルですが、外周はプラスチックです。ワイヤレス・NCということでこのハウジングに多くの機能が投入されていますので後で解説します。

イヤーパッドは肉厚なドーナツ型 LR表記がありがたいです

イヤーパッドは肉厚なドーナツ型の形状で、レザーが厚くてしっかりとした素材ですが、内部のスポンジは低反発ウレタンというよりは一般的なスポンジのようなスカスカした感触です。装着感は悪くないですし、耳への吸い付きも良好ですが、やはりオンイヤー型ということで1時間くらいで耳が痛くなってきます。側圧は比較的強めで、ゼンハイザーHD25よりはピッタリとした感触です。どちらかというとAKGのQ460やベイヤーダイナミックT51pなんかと似たような感じですがもう少し密閉感があります。

イヤーパッドは交換不可能のようで、ハウジングに強固にくっついています。私が購入したのはグレー・ヘーゼルというカラーでなので、パッドはヘーゼルナッツのような濃い茶色です。もう一つのカラーはArgilla Brightで明るい粘土色ということでクリームレザーとゴールドをあしらったゴージャス系の色使いなため、女性向けアクセサリの印象が強いです。

右ハウジングのコントロール類


ハウジングの機能についてですが、まず気をつける必要があるのは、操作系やケーブル端子が一般的なヘッドホンとは違い、右側に付いていることです。幸いイヤーパッドの内部にL/R表記が大きく印刷されているので間違えることは無いですが、右側ケーブルというのはゼンハイザーHD25以外ではあまり見かけません。

有線使用時のケーブルは3.5mmの一般的なものです。充電ケーブルはマイクロUSBです。今回試してみたところ、USBでバッテリ充電中でも問題なくBluetoothで音楽が聴けたので、たとえばノートパソコンで使用している際には万が一電池が切れそうでも、USBケーブルを挿して充電しながらBluetoothで使えます。この手のヘッドホン・スピーカーはUSB充電中はノイズが出る商品が多いですが、これも例に漏れずMacbook AirからUSB充電中にパソコンのACアダプタを接続すると、本体のアースと連動して微小なハムノイズが出ました。ACアダプタを外すか、パソコン本体に指で触っている間はノイズが消えます。

電池は左ハウジングに収納され、交換可能


このH8の面白い機能として電池が交換可能なことがあげられます。一般的にNCヘッドホンというとBeatsやBose QC25のように乾電池か、もしくはUSB充電式に分かれますが、H8の左ハウジングにはバッテリパックが内蔵されており、これを交換することが可能です。バッテリはどうも携帯電話に使われるものと似ているので、もしかすると純正品以外で互換性があるものが見つかるかもしれません。もちろんその場合は保証問題がありますし、スペック上14時間持つということなので、こまめに充電していればスペアの電池が必要な状況は少ないと思います。

公式スペック表では、Bluetooth+NC使用時で14時間、Bluetoothのみで16時間、NCのみで35時間、充電は3時間とのことです。この手のヘッドホンは聴いている音量などで結構変わるのでスペックはあまりアテになりませんが、他社製品と比較してもかなり長寿命だと思います。

右ハウジング側部には電源ON/OFFスライドスイッチがあり、さらにON方向に押しこむことでBluetoothペアリングモードになる一般的なものです。

ハウジング表面はタッチセンターになっています


Bluetooth使用時の操作は、Parrot Zikなどから最近流行っている、ハウジング表面のタッチセンサーを使用するものです。これについては個人的にあまり好きではありません。たとえば右ハウジング中心をタッチすることで再生・停止ボタンの役割になるのですが、ちょっとした事で誤作動する機会が多いです。ハウジングを上下にフリックすることでNCのON/OFFを切り替えられるのですが、これも説明書を読んで事前に知っていないと混乱します。あるネットレビューではNCのON/OFFができないと文句を言っているものを読みました。きっと説明書を読んでいなかったのでしょう。

曲飛ばしは左右のフリック、そしてボリュームは指をぐるぐると回すのですが、使いはじめの頃はなかなか思ったように反応せずに苦労しました。色々と試した結果、かなり指に力を入れて操作することで問題なく使えるようになりました。普段タッチセンサーというとスマホの画面のように表面に触れるだけで反応するものを想像しますが、H8の操作はグッと指を押し当てることを想定しているようです。

このタッチ操作について問題点が2つあります。まず、ハウジング表面にB&Oのロゴが印刷されているため、あまり指で触ると印刷が剥げそうで心配になります。また、円形のハウジングなので上下、左右の操作をする際の方向基準点がわかりにくいです。再生停止のためにセンターを押す場合でも、ポンと指で正確にセンターを押せるか自信がありません。物理スイッチの場合ならば一旦指で触れて確認してから押すことができるので失敗が少なくなります。

ともかく、普段使いで問題が発生するほど悪いわけではないので、操作性は良好だと思います。

Bluetoothペアリングについて

Bluetoothは海外ブランドにしては珍しく、4.0とaptXに対応している最新スペックのものです。4.0はスマホ電池寿命に大きく貢献するらしいですし、aptXは高音質ヘッドホンには必需品の技術です。
個人的な経験では、SBCコーデックのみでaptXに対応していなくても音質の良いBluetoothヘッドホンは存在しますし、aptXだから高音質とは限らないのですが、ソニーXperiaユーザーとしてはせっかく対応しているaptXを活用できるのは嬉しいです。iPhoneはaptX未対応なのでSBC・AACコーデックになります。


Xperia Z3 CompactでaptX接続


Mac OSでaptX接続


意外と知られていないですが、AppleのノートパソコンMacbookなどはaptXに対応しているものが多いので、今回私物のMacbook Airでペアリングしてみたところ、問題なくaptX接続になりました。

aptXコーデック対応のもう一つの大きなメリットは遅延が少ないことで、動画鑑賞やゲームなどではかなり重要です。SBCコーデックは数百ミリ秒の遅延があるので(AACでは更に酷いです)、動画で口パクのズレが気になることが多いですし、ゲームにおいては致命的です。最近ではaptX Low Latencyという遅延を最小限に抑えることに特化した商品も出回っていますが、一般的なaptXのスペックでも数十ミリ秒なのでSBCよりもはるかに優れています。

残念ながらH8はNFCに対応していないのでBluetoothは手動でのペアリングになりますがが、この辺の挙動はちょっと不満があります。いわゆるマルチポイント接続への対応が中途半端なようで、たとえばスマホとノートパソコンの両方からペアリングした状態にできてしまうのですが、双方からの乗っ取り再生が不可能で、どちらか片方からしか使えない、といった状況になります。毎回ペアリングするか、どちらかのBluetoothを切断すれば良いだけなのですが、複数のデバイスを持っている場合は多少面倒です。

ノイズキャンセリングについて

H8のノイズキャンセル性能はかなり優秀な方だと思います。全体的な傾向としては自然であまり圧迫感の無いタイプです。最近の製品だとゼンハイザーのMomentum Wirelessと似ています。中低域のハムノイズはかなり強力にキャンセルしてくれるので、エアコンなどの環境騒音には非常に有効ですし、とくにハウジングやイヤーパッドの密閉具合が優秀なので、更に静音性が保たれます。アクティブノイズキャンセルというのは基本的に低域に有効な機能で、高音域はヘッドホンそのものの遮音性が重要なのですが、この点でH8は有利です。H8のNC効果はBoseクラスに近いと感じました。Beats Studio V2のような、NCが効いているかどうか判らないような弱いものではありません。Beatsは音質は悪くないのですがNC効果が値段に見合ってないのが非常に残念です。

Bose QC25と比較した場合、低域の遮音性はどちらも同じくらい強力です。H8は高域のサーッという音がBoseよりも若干強いため、比較的静かなオフィスなどで使う場合には耳障りかもしれません。QC25はアラウンドイヤーで、ハウジングがかなり耳から離れているため、まるでなにも装着していないかのような開放的の中で絶対的な静粛性が得られるのが素晴らしいと思います。それと比べて、H8はNC性能は悪くないのですが、どうしても耳に密着するハウジングのせいで「NCヘッドホンを装着している」といった印象が強いです。

H8のライバル製品であるゼンハイザーのMomentum Wirelessの場合は、QC25と似たようなアラウンドイヤー形状ですが、ハウジング自体が非常に重くボテッとした形状で、どうしても耳に密着できなかったため、十分な効果が得られませんでした。商品としては悪く無いと思いますが、自分の頭に合うかどうか確認のため試聴が重要だと思います。面白いのは、Momentum Wirelessが265グラムでB&O H8が255グラムと、たった10gしか違わないのに、H8のほうが軽量に感じます。多分ヘッドバンドを含めた全体的に重量が分散されているH8とくらべて、大型のハウジングでオーバーハングの大きいMomentum Wirelessのほうが装着時の安定性が悪いためそう感じるのだと思います。ちなみにBose QC25は195グラムということで最軽量ですがワイヤレス機能が無いため当然のことです。

ここまで比較すると、NCヘッドホンはやはりBose QCシリーズに軍配が上がるわけですが、多くのヘッドホンユーザーはそれを事前にわかっていながら、やはりBoseは音質的に満足できないため、「BoseほどNCが強力でなくてもいいから、音質の良いNCヘッドホンが欲しい」と思っている人が多いです。とくにBoseのNCは極めて強力なため、普段使いするには耳への圧迫感や、違和感を感じる人もいます。

私自身も、NCはおまけ程度でもいいので、音質を損なわないヘッドホンが欲しいと思っていました。Boseは旅行でよく持参するのですが、結局音質に満足できないため別途IEMやヘッドホンを荷物に入れることがよくあります。このH8があれば、まあこれだけで良いかな、という気になるかもしれません。(もちろんそれでもIEMくらいは持っていきますが)。

音質について

B&O H8は、H6とくらべて若干音作りを変えてきました。H6は比較的サラッとした解像感重視の音色だったのですが、H8はもう少し押し出しが強く、音色や表現力に力を入れています。具体的には中低域の充実感、そして金属的な歯切れの良さです。もとから音圧が強い録音を聴く場合では、若干聴き疲れしやすい音色とも言えます。

第一印象で一番似ているなと思ったヘッドホンはゼンハイザーのHD25・AmperiorとB&W P5S2です。空間的な余裕はあまり無いのですが、アタックのエッジが効いているため分離がよく、主要な楽器が埋もれずにしっかりと鳴ってくれます。とくにオーケストラなどの複雑な演奏でも前後の表現がわかりやすく、後方のアンサンブルと主要なソロ楽器の区別がつきます。ピアノや男性ボーカルなどが肉厚で美音系に鳴ってくれますし、籠もりも少なく余裕があります。高域の空気感はもうちょっとあっても良いかなと思いますが小型ハウジングのオンイヤー密閉型としては優秀です。ワイヤレス・NCといった機能を無視すれば、最近購入したベイヤーダイナミックT51pのほうが繊細で気に入っていますが、あちらはあちらで不満点もあります。どちらにせよ、Bose QC25とくらべると非常にエネルギッシュでパワフルで満足しています。

H8はオンイヤー型にしては前方頭外定位もしっかりとしており、音の粒を聴き分けるモニター調というよりは、外出先で力強く演奏を楽しむ観賞用といった方向性がはっきりとしています。逆に言うと、ステレオの分離が悪く、クロスフィードかのごとくフォーカスがセンターにまとまったような鳴り方ですので、スピーカー的とも言えます。脳内をぐるぐる回るような3Dサラウンド効果を期待している人には合わないと思います。

低域も十分に鳴っているのですが、反響が少なくドンドンといったキレが良いため、多分ハウジングからの無駄な残響が少ないのでしょう。一番驚いたのが低音楽器の演出で、この部分は素の特性というよりも、かなり入念に試聴テストをして音決めしたんだな、と関心しました。ヒップホップやEDMでズンズン来る低域は圧巻ですし、多すぎず、少なすぎず、絶妙に邪魔にならない程度にまとまっています。低域が強いヘッドホンというのは最近多いですが、ここまでコントロールされているのは稀なので、NC回路によるEQ補正の恩恵かもしれません。

ここまでの評価はBluetooth接続でNCがONの状態ですが、NCをOFFにすると印象が変わります。基本的にNCはONの状態で使うことを前提にしているようで、OFFにすることによって全体のバランスが崩れて空間的に散漫な感じになります。他社のNCヘッドホンのようにNCを切ると音が悪すぎて全然使い物にならない、というほどではないですし、周波数特性の変化は少ないと思いますが、NC OFF時にはフォーカスが甘くなりアタック感が耳障りになります。全体的にライブ感が増すような感じなので、ハウジングの反響かなにかでしょうか。なんとなくミニコンポやAVアンプなどでよくあるPopとかRockなどのコンサートホール演出のDSPエフェクトみたいな感じになります。NCをONにするとそれらの問題が一気に解消され、音楽がスッとクリアになるので感心します。

BluetoothをOFFにした状態で3.5mmケーブルを使った有線接続も試してみましたが、こちらもBluetooth接続と比較すると繊細でおとなしくなり、聴きやすくなる反面、面白みがなくなってしまいます。Bluetoothよりも有線のほうが優れているという固定概念は捨てて、常時Bluetooth、NCをONの状態で活用するのがこのヘッドホンのコンセプトに見合った使い方だと思います。

まとめ

値段が非常に高価なので、だれにでもオススメというわけにはいかないですが、現時点でBluetoothワイヤレス・アクティブノイズキャンセリングの両方を採用したヘッドホンを探している人にとってはかなり注目度の高いヘッドホンです。普段自宅ではハイエンドヘッドホンを活用しており、通勤・通学時にIEM以外の高音質ヘッドホンが欲しいと思っているなら有力候補です。

非常に完成度の高いヘッドホンです


堅実な消費者ならば2015年後期くらいから続々発売されるであろうBluetoothワイヤレス・アクティブノイズキャンセリングヘッドホンが出揃うまで様子見中でしょうけれど、現時点でデザイン性、音質、機能などのトータルバランスで考えると、このB&O H8は最高に素晴らしいヘッドホンだと思います。さらに言えば、価格はひとまず無視して、ここまでデザインや携帯性の優れた高音質ワイヤレスNCヘッドホンが将来的に他社から発売されるか、と考えると、その可能性は薄いように思えます。個人的にBoseのQC25や、ソニーでもMDR-1Aクラスのアラウンドイヤータイプは普段使いではサイズが大きすぎると感じることが多いので、たとえばHD25などでオンイヤータイプに慣れており装着感に違和感を感じないのでしたらとてもオススメのヘッドホンです。