2015年7月18日土曜日

FiiO X5 2nd gen の試聴 レビュー

FiiOの高音質ポータブル・デジタル・オーディオ・プレイヤー(DAP)X5 2nd gen(X5II)をお借りすることができたので、簡単に感想をまとめておきます。

左から順に: X1、 X3 2nd gen、 X5、 X5 2nd gen


これまでFiiO社のDAPはX3 → X5 → X3 2nd genと3種類も購入してきたのですが、今回のX5 2nd genについては購入を見送ることにしました。その理由については後述します。



FiiOのDAPは毎回高音質ながら価格を低く抑えてあるので、ニューモデルが出るたびに気になる存在になります。今回のX5 2nd genは初代X5の後継機ということで値段は多分5万円台になると思いますので、最近インフレ化が進んでいるAstell & Kernなどと比較するとずいぶん良心的なメーカーだと思います。10万円台のDAPが多い近年の市場では5万円台というと音質が悪いのかと思われてしまいますが、FiiOは音質に関してはコストパフォーマンスが非常に優れています。

ほんの数年前まではスマホ以外に別口でDAPを購入する(しかも5万円)なんてことは一般的に想像もつかなかった事態です。iPhoneがあればウォークマンなんていらないや、なんて言っていた頃が懐かしいです。

デザインはX3 2nd genと似ており、初代X5よりコンパクトに

さて、今回のX5 2nd genですが、数カ月前に初代X3がX3 2nd genにリニューアルされたのと同じように、そろそろ古くなってきた上位機種のX5をスペックアップしてリニューアルしたモデルになります。(X3 2nd genは以前レビューしました:http://sandalaudio.blogspot.com/2015/06/fiio-x3-2nd-generation-dap.html

実際X3はX3 2nd genに変わって、ほぼ別物になったというくらい飛躍的な進化を遂げましたが、X5においてはどんな感じでしょうか。初代X5は2013年に登場して、ちょうど2年経ったことで商品敵魅力が落ちてきましたが、かなりの高スペックを誇っているため、最新のDAPと比較しても引けをとらない素晴らしい商品です。

X5 2nd genはDACとアナログ回路構成については初代からほぼ変わっておらず、どちらもPCM1792というバーブラウンの最高峰DACチップを採用しています。このチップは超高音質ながら電力消費量が大きいため他社のDAPでは敬遠されがちですが、オーディオマニアにとっては信頼と期待がおける選択です。DAC以降のアナログ回路についてもOPA1652によるI/V変換、OPA1612によるローパスフィルタと電圧増幅、そして最終段にBUF634Uによる電流バッファといったように、最高峰のオペアンプ等を総動員した、かなり本格的なアンプ回路を持っています。

バッファアンプに関してはX5で採用していたLMH6643から、新規にBUF634Uに変更するこで最大電流供給が67%向上したとのことです。

FiiOはそもそもアナログのポータブルアンプを主力製品として扱っているため、アンプについてのノウハウが他社のDAPメーカーとくらべて経験豊富です。とくに近年ではE11やE12などポータブルアンプのベストセラーを連発しているため、ユーザーレビューやフィードバックをもとに開発を進めることが可能で、マニアもうならせる失敗の無い音作りできるだけの実力を持っています。

アンプ部分以外の変更点では、まず個人的に一番重要だと思うのが、駆動電圧の向上です。これまででもFiiOのDAPは他社と比較してそこそこ電圧が高く、高インピーダンスのヘッドホンなどでも十分に音量が出せるパワーがありました。今回X5 2nd genになりハイゲイン・モードでの電源がこれまでの10Vp-pから14Vp-pまで昇圧されたので、今まで以上に低能率・高インピーダンスのヘッドホンでも十分な音量が得られるようになったということです。

X5 2nd genになって、もう一つの変更点は、ネイティブDSD再生対応になったことです。初代X5ではDSF、DFFなどDSDファイルは自動的にPCM変換後に再生されていましたが、今回はネイティブ対応だということです。ちなみにX5が使用しているPCM1792 DACではDSDのボリューム制御が内蔵されていないため、他社のDACと比べてネイティブDSD対応が面倒なのですが、今回X5 2nd genではPGA2311というデジタル制御アナログボリュームを採用することで、DSDの音質をデジタルボリュームで劣化することなく、ネイティブで再生することを実現しています。

ほかにも高品質マスタークロックなど、音質向上の要素は十分に力をいれた製品となっており、先行して発売されたX3 2nd genに引けをとらない大きなアップデートになりました。

左から:X1、X3 2nd gen、X5

X3 2nd genと比較するととても大きいです


デザイン面では、従来のX5はお世辞にも精巧な作りとはいえなかったのですが、今回X5 2nd genになり、X1やX3 2nd genのように統一された現行世代のFiiO DAPデザインになりました。

ボタン配置はX1、X3 2nd genと同じ操作性を維持していますが、筐体はX5ゆずりの重厚なアルミ削り出しで、質感はかなり良くなっています。表面の塗装もX5の黒からX5 2nd genではグレーシルバーに変更されており、なんというか金属塗装の下地や表面処理につかうプライマーのような、淡いグレーっぽい色です。

端子が統合され、電源スイッチは横面に移動

ボリュームと電源ボタン

本体上部のコネクタは、ライン出力と同軸デジタル(SPDIF)を同一端子に統一したためシンプルになっています。マイクロSDスロットに関しても、初代X5であった面倒なプラスチックのフタが無くなり、X3のような直挿し形状になっています。初代X5と同様、カード2枚挿しできるのは嬉しいです。単純に容量拡張という意味でもちろん重宝しますが、たとえば自分のライブラリはスロット1に入れたまま、知り合いのSDカードをスロット2に入れて気軽に試聴できたりなど、自由度が広がります。

インターフェースがX1と同じタイプに変更されました

OSソフトについては、初代X5のものは撤廃され、より好評なX1、X3 2nd genと同様のソフトインターフェースに変更されています。それにともなって、スリープモードの電池持ち延長やブート時間短縮などといった電源周りの使い勝手が良くなりました。初代X5はOSソフトが致命的に悪かったので、これは歓迎すべき変更です。とくに電源に関しては、初代X5ではいざ使おうと思ったらバッテリー残量ゼロといったアクシデントを何度も経験したため、休止時の電源消費が減ったのは嬉しいです。

OSの操作性はスクロールホイールが更新されたため、物理的なフィーリングも良くなりました。またX1譲りの新OSソフトは初代X5と比べるとかなり直感的でわかりやすくなっていると思います。ただし、実際OSメニューそのものが簡素なため、相変わらず使い勝手はよくありません。HIFIMAN DXシリーズなどと比べると十分マシですが、AKシリーズやウォークマンのような優秀なタッチインターフェースを使い慣れていると、Fiioのメニュー操作は20年前の初代iPodにタイムスリップしたかのような錯覚を覚えます。

音質について

自前の初代X5に入っていたSandisk 128GB マイクロSDカードを新旧X5で交互に入れ替えて、比較試聴してみました。

まずはじめに感じたのは、一般的なIEMや高能率ヘッドホンを利用して、PCM音源を聴く場合では、新旧X5の音質差は驚くほど少なかったです。新X5 2nd genも初代X5譲りのパワー感があふれるソリッドな音作りです。つまりX5 2nd genの音はX1やX3 2nd gen、もしくは他社のDAPなどではなく、明らかに「X5の音」だと感じる安心感がありました。

個人的には、X3がX3 2nd genに世代交代した際に双方の音色がかなり違っており、X3 2nd genは非常にシャープで解像感を狙った音作りだったことに驚きましたが、今回のX5 2nd genではそこまでの音質変更はありませんでした。無論X3の場合はDACチップやアンプ回路などが根本的に変更され、ほぼ別物になったのですが、X5ではそこまで音質回路の変更は無いため、当然の結果とも言えます。

X5の音はまさにパワフルという単語がぴったりで、同価格帯のソニーNW-ZX1 が綺麗系でふわふわした音色なのと真逆の、まさにDAPに強力なポタアンが付属しているかのごとき頼りがいのある音色です。ソニーでいうとウォークマンにPHAシリーズのアンプを接続した感じに近いと思います。AKシリーズはそれぞれ音色の傾向が違うので単純な比較はできませんが、同価格帯のAK100MK2やAK JrなどはIEMに適した高分解能でエッジの鋭い感じなので、パワー感ではやはりX5の独壇場です。AKシリーズはもう少し上位のAK120IIなどくらいから検討したほうが良いと思いました。

もちろんインターフェースの使い勝手などの差はありますが、この5万円台の価格帯で、能率やインピーダンスなどを気にせずにいろいろなヘッドホンを使いたい、といった場合にはX5 2nd genが最良の選択だと思います。例えばソニーNW-ZX1やAK Jrですと、IEMや16Ωヘッドホンでしたら問題ないかもしれませんが、出先でハイエンドヘッドホンを試聴する機会があったり、自宅でちょっと開放型フルサイズヘッドホンを使いたい、なんてときに駆動力不足で悩みます。実際X5と同等の駆動力を求める場合はポタアンPHA-2などを別途接続するわけなので、そうなってくると10万円コースです。また、PHA-2のようにデジタル接続の場合はNW-ZX1内蔵アナログ回路が無駄になってしまいますのでせっかくの高級DAPがもったいないです。

音質に関しては初代と新X5 2nd genで大幅な違いは無いと言いましたが、DSDの場合はかなり変わりました。今回ネイティブDSDに対応したということで、いくつかジャズやクラシックの2.8MHz DSFファイルを再生してみましたが、新旧X5で明らかに違いが分かります。あまりにも当たり前の結果だったので説明するのもはばかられるのですが、単純に初代X5では普通のPCM音源のように聴こえていたDSFファイルが、X5 2nd genではDSD特有のさらっとした空気感を持った音色になります。演奏の空間や隙間がスムーズになるというか、リスニング中に断絶を感じさせない「雰囲気」のようなものがDSDにはあります。これが初代X5では無かったのですが、X5 2nd genでは十分に発揮できています。

正直に言うと、ではどちらが良いかとなると悩ましいところです。初代X5のPCM変換されたDSDファイルは、骨太でしっかりとした線の太いパワーを感じられるのですが、新X5 2nd genでネイティブ再生された DSDファイルは、X5らしいパワー感とはまた別の表情になります。それが本来の音色だと言われればそれまでですが、なんとなく肩透かしを食らったような感じもします。どちらにせよ、DSDという媒体を楽しむといった意味では、X5 2nd genのほうがその真価を発揮できているように思いました。

 X5 2nd genは初代X5の正当な進化型で、仕上がりのクオリティやユーザーインターフェースなどの向上を含めて、最新モデルにふさわしいアップグレードを遂げたと思います。現時点で高音質なDAPがほしいけれど10万円は払いたくない、といった人には非常におすすめな商品です。個人的には、IEMに特化するのであればNW-ZX2やAK120IIといった10万円超クラスには更なる音質向上の魅力があると実感していますが、大型ヘッドホンにも兼用したいとなると、X5 2nd genは10万円超ハイエンドクラスに匹敵するか、それ以上の性能を秘めているハイパワーDAPだと思います。

おわりに

残念ながら私自身はX5 2nd genを購入しなかったのですが、それにはいくつか具体的な理由がありました。

まず第一に、普段使いのPCM音源では、音質が初代X5とあまり変わらないと思ったことです。つまり初代X5をすでに所有しておりアップグレードする場合には悩ましい判断です。初代X5を使い倒すほど愛用しているユーザーでしたら、この機会にアップグレードするメリットは十分にあると思います。しかし私の場合X5のユーザーインターフェースに手間取りすぎて常用が辛かったため、正直あの使い勝手では敬遠したくなりました。

先日X3 2nd genを購入した際に、X5よりもインターフェースが良くなっているという触れ込みだったのですが、実際使ってみるとまだまだ未熟でした。普段私はAndroidやiOSのOnkyo HF Playerを常用しているので、FiiOの小さなテキスト画面で128GBの数千曲、数百アルバムをスクロールして選曲するのは非常に苦労します。特に仕事上、名前を覚えていないアーティストや曲名を観覧しなければいけないためテキスト画面は致命的です。もし自分の慣れ親しんだ楽曲を楽しむのでしたら、X5 2nd genの操作画面で十分実用的だと思います。

そして、一番の決め手は、あと数ヶ月で上位モデルのFiiO X7が登場するため、ここであえてX5 2nd genを買ってもどうせ長くは使わないだろうとの判断です。X7はAndroidベースのタッチ操作になるらしいので、もしHF Playerなどの社外アプリをインストールできるのであれば酷いインターフェースの呪縛から脱出できます。価格は10万円前後になると思うので、値段に見合った音質になると良いのですが、音質面においてはFiiOを全面的に信頼しています。

最後に、もう一つX5を購入しなかった事情は、最近iPodにOPPO HA-2を接続したものをDAPとして活用しており、これを非常に気に入っているという理由があります(レビューしました:
http://sandalaudio.blogspot.com/2015/03/oppo-ha-2dac.html)。音質はとても良いですし(X5とはまた違った、落ち着きのある音色です)、iOSのHF Playerおよびradius Ne PLAYERが使えるのでインターフェースも良好です。

最近はこのように色々な選択肢があるのでDAPメーカーとしても過酷な市場だとは思いますが、新規ユーザーも増え続けている活気にあふれた世界でもあります。とくにFiiOはコンスタントに素晴らしいハイスペック商品を低価格で投入しているため、新規ユーザーを引き込む最重要な立役者だと思います。 多くのヘッドホンマニアは、初心者の頃にまずFiiOのポタアンや低価格DAPを買って、その音質の良さに驚き、オーディオの泥沼にはまっていったことでしょう。

そういえば、一つ面白い話題としては、今後発売されるFiiO X7からDAP部分を取り除いた(つまりUSB DAC・ポタアン)FiiO U5という製品も発売するらしいです。先ほど紹介したOPPO HA-2やiFi micro iDSDなどの対抗馬になりそうなので、スマホで音楽を楽しんでいるユーザーにとっては面白い商品かもしれません。

そして、FiiOは2015年7月にEX1というイヤホンも発売しました(http://www.fiio.net/en/story/285) 。アルミ削り出しでチタンドライバ採用のダイナミック型で、見た目はソニーEX85やEX90のような昔懐かしいデザインです。Dunu Titan 1のOEMっぽいので、なぜいまさら、とか、どういう事情で、なんて疑問がわきますが、手広く頑張っているので暖かく見守っています。