2015年10月1日木曜日

ソニー MDR-HW700DS ヘッドホンのレビュー

今回は、ソニーの高級ヘッドホン「MDR-HW700DS」のレビューです。

私は自他認めるヘッドホンマニアなので、よくオーディオショウなどで「一番好きなヘッドホンはどれですか?」と聞かれることがよくあるのですが、それぞれモデルごとの良さがあるため、真剣に悩んでもなかなか答えを一つに絞れません。

しかし、「では一番使用頻度が高いヘッドホンはどれですか?」と聞かれたら、それに対しては、はっきりと、「ソニー MDR-HW700DSです」と答えられます。

ソニー MDR-HW700DS

ちょっと意地悪な回答なのですが、MDR-HW700DSはいわゆる「ワイヤレスサラウンドヘッドホン」というジャンルの商品です。購入以来、もう何千時間使ったかわかりませんが、一週間を通して、毎日5-6時間は装着していることもあります。

ワイヤレスサラウンドは各メーカーがそこそこ力を入れており、よく家電量販店のテレビ部門の片隅に陳列してあるジャンルなのですが、マニアが好む「ピュアオーディオ」の仲間に入れてもらえず、あまりヘッドホンレビューなどで取り上げられる機会の少ない、可哀想なヘッドホンです。

個人的には、このソニーはとても素晴らしい機種だと思っているので、今回紹介しようと思いました。とくに最近のゲームはサラウンド対応のタイトルが多いため、ゲーマーにとって、このようなヘッドホンは必需品だと思っています。



MDR-HW700DSは、ソニーのワイヤレスサラウンドヘッドホンの中でも最上位モデルで、各社の類似品と比較しても、かなり高額なモデルです。

2013年に発売されたので、AV家電としてはもうかなり古いモデルなのですが、2015年現在でもソニーは未だにこれを販売しているので、一般的なオーディオ用ヘッドホンと比べて商品のサイクルは長いみたいです。価格も定価43,380円、実売で3万円程度で販売されており、いくら最上位モデルとは言っても、10万円超えのようなオーディオヘッドホンとは対象枠が違います。

ワイヤレスサラウンドヘッドホンの意義

一昔前のワイヤレスサラウンドヘッドホンというと、乾電池を内蔵して、赤外線通信でアナログ信号を送るようなタイプが主流でした。ちょっと射程から離れたり、手で遮ったりすると、「ザーッ!」というノイズが発生するような稚拙なシステムです。

最近のワイヤレスサラウンドはほとんど2.4GHzなどのデジタル通信を採用しており、ヘッドホン内蔵のDACでアナログ変換される商品が多いです。このソニーの場合も、接続状況はかなり安定しており、たまに1時間に一度ほど「プチッ」と瞬間的に切断することもありますが、概ね優秀です。

このようなヘッドホンの一般的な使い道は、ホームシアター的な映画鑑賞だと思うのですが、私個人は、それ以外でもゲームでの使用に非常に重宝しています。



具体的な接続方法は、まず、MDR-HW700DSに送信機が同梱されています。

この送信機は入力にHDMIが3個と、角形TOSLINK S/PDIFデジタル入力、そしてアナログ入力が一系統あり、出力にHDMIとS/PDIFデジタル出力を一つづつ備えています。

つまり、シンプルなHDMI切り替えスイッチとして活用できます。HDMIは4Kパススルー対応なので、パソコンのモニタなどとの組み合わせも良好です。

私自身は、この送信機のHDMIの入力に
1.デスクトップパソコン
2.ゲーム機(Xbox One)
3.ノートパソコン用予備

・・という風に接続しており、HDMI出力をテレビに出しています。

一人暮らしでわざわざホームシアターAVレシーバーはいらないけど、テレビのHDMI切り替えがめんどくさい、という人にとっては、かなり便利な装置だと思います。入力切り替えもヘッドホン側のボタンからできるので、リモコン要らずで動画鑑賞やゲームなどを切り替えられる、プライベート利用での理想的なシステムだと思います。

ヘッドホン本体

ヘッドホンはソニーらしい無難なデザインなのですが、さすがAV機器ということで、非常に考え尽くされている良質な設計です。音質も、まあ普通のソニーといった感じで、50mmのドライバによるバーチャルサラウンドです。ヘンなクセが無いため、2chステレオでも良好な音質です。

ごく一般的なヘッドホンのデザイン


一般的なアラウンドイヤー型ヘッドホンなのですが、320gと比較的重いのにもかかわらず、非常に快適な装着感です。とくに、イヤーパッドが重量のほとんどを占めているのではないかと思えるくらい、分厚くモチモチで、耳へのフィット感がものすごく良いです。週末などには一日中、満充電から電池が切れるまで使うこともあるので、つまり無意識に10時間装着しても不快ではないということです。

ハウジング外側はレザー調のザラザラな手触り


ハウジングの外側はレザー調の手触りになっており、それ以外はシルバー系の塗装プラスチックなので、実物はそこそこチープな感じもします。調整用スライダーは金属製ですが、それ以外はプラスチックなので、見た目より軽量に思えます。

ヘッドバンドも合皮で、あまりクッション性は無いのですが、実際ヘッドホンの重量のほとんどをイヤーパッドの側圧で受けているため、頭頂部が痛くなることは一切ありませんでした。側圧もHD650などと比べれば緩いです。ちなみにヘッドバンドの合皮は経年劣化でボロボロになってきたのですが、交換は不可能なようです。

ワイヤレス関係のすべての機能をヘッドホン側で行えるので、スイッチ類がたくさんついているのですが、とくにボリューム調整が手回し型のアナログダイヤルなのがありがたいです。個人的に、それ以外のボタンはほぼ触りません。どれも形が似ているので、偶然押してしまうと逆に混乱します。

なんと、充電はマイクロUSB端子です


このヘッドホンの最大のメリット(というか、購入時に決定打となった)のは、マイクロUSB充電端子です。ソニーというと「独自規格の専用コネクタ」を毎回投入してくるイメージがありますが、今回はどういう風の吹き回しか、一般的なマイクロUSB端子です。つまり、アンドロイド携帯などと同様のケーブルで手軽に充電できます。

他社製モデルでは、専用充電クレードルなどが付属されている商品もあり、それも悪く無いと思うのですが、個人的にはケーブル充電のほうが好きです。たとえば、使用時に電源が切れたら、パソコンのUSBジャックから長めのマイクロUSBケーブルを使って、充電しながら使うことも可能です。(USBハブが内蔵されているキーボードを使っているので、そこに接続します)

充電に関しては、一日使ったら一晩充電する、というサイクルを繰り返しているため、満充電までの時間はよくわかりません。

電池の持ちは、スペックで12時間と書いてありますが、実際は8~10時間程度で切れることが多いようです。そもそもそれ以上長時間、連続使用するのは体に悪いと思うので、毎晩充電するクセをつけておけば問題は無いと思います。

本体には無数のスイッチが付いています


本体のスイッチは、ボリュームノブと電源ON/OFF、入力切り替え以外では、「メニュー」と「エフェクト」という機能があります。

「メニュー」はTV画面上にOSD(オンスクリーンディスプレイ)を表示して、色々な設定や調整が可能になりますが、実際使ったことはありません。購入時に初期設定を確認するだけで、あとは放置しています。

説明書から、OSDメニューの項目

具体的には、映像との遅延オフセット、センターチャンネルの音量、LFE音量など、かなり詳細な設定項目があります。あまり頻繁に使うメニューでは無いので、あえてヘッドホンの押しやすい場所にボタンを配置しなくてもいいと思うのですが・・。

「エフェクト」ボタンは、この手の商品によくあるDSPエフェクトの切り替えスイッチです。いわゆる「ゲーム」「シアター」などの音響エフェクトです。サラウンドヘッドホンなので、単純にEQだけではなく、各チャンネルのバランス調整なども行わられるらしいです。

やはり、AV機器というのは、こういった「エフェクト」が、ピュアオーディオマニアに敬遠される(というか蔑まれる)理由だと思います。たしかに一般ユーザーにはウケるのかもしれませんが、ピュアオーディオマニアは大抵「全エフェクトOFF、フラットで」リスニングすることに慣れているため、意図的に音を変える商品は、「基礎性能の悪さをエフェクトでごまかしている」ように捉えます。(バーチャルサラウンド自体がエフェクトなので、身も蓋もないですが・・)。

余談ですが、個人的には、もしメーカーが「オーディオマニア向けサラウンドヘッドホン」を作ってくれたら、そこそこ売れると思うのですが、実際の市場調査とかではどうなんでしょうね。

一昔前に、AVアンプがエフェクト回路をバイパスする「ダイレクト」スイッチを導入し始めた頃から、ハイエンド・オーディオ界隈でも認められるようになったように(B&WとマランツAVアンプのコンビネーションなどはよくオーディオショウで見かけます)、このようなサラウンドヘッドホンも、ピュアでダイレクトなサラウンド体験を提案してくれたら、ブルーレイやDSDでサラウンドコンサートを楽しむユーザーに人気が出そうです。

話を戻しますが、エフェクトの状態は送信機のランプで確認できるため、手軽にON/OFFが切り替えられます。遊び心としては悪く無いと思います。

ところで、一つ不思議なのは、「コンプレッション」といって、いわゆる音圧圧縮(ダイナミックレンジ・コンプレッション)の機能があるのですが、これのON/OFFは送信機側の専用スイッチで行います。ヘッドホン側にはスイッチがついていません。TVの声が聞き取れない場合に使うスイッチなので、通常はOFFで問題ありません。


電源ON/OFF問題について

色々と多機能なMDR-HW700DSですが、一つだけ大きな(致命的な)問題があります。それが電源ON/OFF機能です。

まずヘッドホンの電源についてですが、これはかなりスマートで、通常はOFFの状態で、ヘッドホンを頭に装着した時点でセンサーが反応して、「ピピッ」という音が鳴り、電源がONになります。つまり頭に装着していなければバッテリーを消費しない、非常に合理的なデザインです。

問題は、送信機側の挙動についてです。

ヘッドホンは電池駆動なので、スマートに電源ON/OFFが切り替わるのは賛同できるのですが、なぜかMDR-HW700DSは、送信機側も、ヘッドホンを外して5分後くらいに勝手に電源が切れてしまいます。(そして、ヘッドホンを装着すると、送信機も自動的にONになります)。

送信機はHDMIケーブルの中継器として使っているため、この挙動は非常に問題です。

送信機の電源が切れると、一瞬画面が暗くなり、いわゆる「パススルー」状態になるため、数秒待つと、画面は通常どおりの表示に復帰します。つまり、送信機の電源がOFFの状態でも、映像はそのままTVに表示されます。

問題なのは、この送信機がOFFの状態ではパソコン側からは送信機は存在せず、テレビに直接接続しているように見えるため、「サウンドの接続環境が急に変わる」ということです。

ヘッドホン送信機がONの場合は、HDMIで7.1chサラウンドが選べます

ヘッドホン送信機が自動的にOFFになって、サラウンド機能が消えてしまいました

パソコンの設定上、オーディオデバイス(HDMI)が切断されると、別のデバイス(内蔵イヤホンジャックなど)に優先順位が自動的に切り替わったり、またはモニターが不具合を起こします。

たとえばDirect X系のゲームは、ゲーム起動時にサウンドドライバを確認してアサインするため、それがゲーム中に急に変わると、エラーが発生したり、最悪ゲームがクラッシュしたりします。

具体例としては、たとえばファイナルファンタジー14をプレイしていて、ちょっと席を外してヘッドホン送信機がOFFになってしまうと、ヘッドホンを再接続してもドライバが認識されないため、再起動するまでまったくの無音状態になってしまいます。

最近では、メタルギアソリッドVをプレイ中、ヘッドホン送信機がOFFになる時点で「HDMIケーブルが切断された」と認識されて、ゲームがフリーズしてしまうことが何度かありました。

このように、PCの場合、急にHDMIケーブルが切断されることは想定されていないため、色々な不具合が発生します。単純に、送信機の自動OFF機能を使えなくできるように設定できればよいのですが、残念ながらOSDメニュー画面の中にもそういった機能はありません。

この問題はネット上でも色々と回避策が論議されており、かなり回りくどい対応をしているユーザーも多いです。たとえば、Razerなどが配布している「バーチャル」サウンドカードをインストールすることで、DirectXにそれを使わせて、HDMIが切断されてもゲームに気づかせない、などの手法もあります。ともかく、私以外でも、困っている人が多いということです。


ゲーム用サラウンドヘッドホン


私はソニーMDR-HW700DSをゲーム用に使っているのですが、パソコンショップなどに行くと、多種多様なゲーマー向けサラウンドヘッドホンが販売されています。

ゲーミングヘッドホンは一見してわかるようにド派手です

多くはRazerやThermaltake、SteelSeriesなど、ゲーマー用マウスなどのアクセサリメーカーが販売している、派手なデザインのモデルです。実はMDR-HW700DSを購入する前に、これらの多くを試してみたのですが、残念ながら、高級オーディオヘッドホンに慣れているため、どれも音質的に満足できませんでした。(基本的にこの手のゲーミングヘッドホンはOEM製造で、ゲーミングブランドは外装デザインしか関与していません)。

サラウンドに関しては、ソニーMDR-WH700DSも含めて、多くは「バーチャルサラウンド」といって、左右2つのドライバを使って、擬似的にサラウンド効果を発生させる方式なので、サラウンドヘッドホンといっても、中身は普通の2チャンネルステレオヘッドホンとさほど変わりません。それよりもDSPによる脳内サラウンド効果のプログラムが重要です。

左右2つのドライバなのに、「サラウンド」ヘッドホンと言うのは詐欺だ、と主張する人もいますが、実際、人間の耳は左右2つしか無いので、サラウンド効果というのはそれだけでも十分に発揮できます。

実は、以前Razer Tiamat 7.1という、実際にヘッドホンの中に7.1チャンネルの個別ドライバが内蔵されている、超変態ヘッドホンを使っていたことがありました。

Razer Tiamat 7.1

複数ドライバによる、本当の7.1chサラウンドです

接続は困難を極めます


パソコンから、7.1ch分のアナログプラグと、給電用USBケーブルを、専用コントローラアンプを経由してヘッドホンに流すという、すさまじいデザインです。

しかし、実際は期待していたほどリアルなサラウンド効果は無く、装着感も悪く、音質も最悪(EQをいじることで多少は良くなりましたが、素性がニュートラルではありません)ということで、すぐに断念した経験があります。

それ以来、バーチャルサラウンドをいくつか試した結果、ソニーMDR-WH700DSが一番マシだったというわけです。

 ゲーミング用ヘッドセットというと、大手ヘッドホンメーカーも意外と力を入れているジャンルで、実際に世界的なゲーミング大会などを見ると、上記のようなゲーミングメーカーヘッドホンとは別に、ゼンハイザーとオーディオテクニカが有名なようです。

ゼンハイザー Gaming Zero

ゼンハイザーのGaming Zeroは、サラウンドではなくアクティブノイズキャンセリングに力をいれており、ヘッドホンマニアなら一見してわかるように、PXC450ノイズガードなどをベースにしています。

オーディオテクニカ ATH-ADG1


オーディオテクニカのATH-ADG1は、ハイファイゲーミングを主張しており、ATH-AD900xシリーズをベースに、ゲーミング向けに派手なカラーリングにしています。

どちらもゲーミング向けはマイク内蔵ということで、通常モデルよりも割高になっていますが、サラウンドに関してはあまりプッシュしていません。

Logitechなど、7.1chサラウンドワイヤレスヘッドホンを販売していますが、専用ソフトが必要なため、PS4やXboxなどの家庭用ゲーム機でのサラウンド出力は無理です。

つまり、HDMIケーブルでサラウンドというと、ゲーミング用ヘッドホンではなくソニーMDR-HW700DSのようなAV用のほうが有効だと思います。

AV用サラウンドヘッドホンにはマイクが付いていないため、ゲーム中のチャット会話はできませんが、アメリカ人の高校生ならともかく、日本人の家庭ゲーマーはあまり、ゲーム内ボイスチャットはしないのではないでしょうか?


ワイヤレスサラウンド

ソニー以外のホームシアター向けワイヤレスサラウンドヘッドホンというと、オーディオテクニカのATH-DWL5500がライバルとして店頭に並んでいます。

オーディオテクニカATH-DWL5500

ATH-DWL5500の裏側

このATH-DWL5500は3万円程度なので、値段的にもMDR-HW700DSといい勝負なのですが、こちらはHDMI切り替えではなく、TOSLINK S/PDIFの光デジタル接続なので、若干用途が違います。

それ以外のヘッドホンメーカーもあまりサラウンドヘッドホンの種類が無く、ゼンハイザーやフィリップスなど海外勢も、アナログ入力の低価格モデルが主流です。

需要はあると思うので、ソニーMDR-HW700DSだけが唯一オーバースペックな高性能モデルだということが不思議に思います。

バーチャルサラウンドの音質

バーチャルサラウンドというのはDSPを使って擬似的にサラウンド空間を演出する、一種の疑似体験なのですが、このテクノロジ自体は10年以上前から存在していました。

一番有名なのはドルビーサラウンドで、ドルビー自体も「ドルビーヘッドホン」として商品化しています。基本的にドルビー以外でも、どのテクノロジも同じで、入力音をHRTF(頭部伝達関数)やインパルス関数を通して、音が自分の横や後ろから聴こえたかのような「錯覚」を与えるギミックです。

パソコンのサウンドデコーダーチップ(RealtekやCreativeなど)のドライバに付属している無料ソフトで、蜂やヘリコプターが頭上をグルグル回るデモを体験した人は多いと思います。

このようなサラウンドの錯覚は、膨大なリスニングテストと開発研究が必要なため、生半可なメーカーでは上手に表現できません。また、われわれ人間自身が、音が前や後ろから聴こえたかという事に確証を持てない(脳内処理ですから)、そして、頭部伝達に個人差もありますし、いくらサラウンドといっても、はっきりと前後感を出すことは現実的に不可能です。

実際にMDR−HW700DSのようなバーチャルサラウンドヘッドホンをショップなどで試聴してみた人は大概、「あんまりサラウンドっぽくない」と言います。

私自身も、たとえばスピーカーを駆使した高級ホームシアターサラウンドと比べて、ヘッドホンでのサラウンド体験はまだまだだな、と思います。つまり効果があまり派手ではないというか、「言うほどでもない」のです。

それでもサラウンドヘッドホンにこだわるのは、実際にゲームなどをプレイしている時に、メリットを感じることが多いからです。

スペック上、MDR−HW700DSは9chサラウンドということですが、実際ゲームや映画などは5.1や7.1chでエンコードされていることが多いので、9チャンネルなどは使ったことがありません。HDMI音声の設定も、5.1chに設定しています。

よくサラウンドのメリットについて、プロゲーマーは、「敵の足音でどの方向にいるかわかる」といった理由をあげていますが、私の場合は単純に環境の臨場感や音響エフェクトが広がりを持つので、ゲーム内への没入感が増す、というふうに思っています。

最近のゲームメーカーは大抵5.1chなどのサラウンドで音響設計をしているため、キャラクターの周囲での出来事はサラウンド的に出音されています。敵の足音だけではなく、爆発や、車が通過する、遠くから何かがやってくるなど、シネマティックなエフェクトがサラウンドで展開されているので、それらを2chステレオヘッドホンで再現するのは、非常にもったいないと思います。

たまに、パソコンの設定ミスなどで、ヘッドホンは2chステレオになっていたことがあるのですが、10分ほどプレイしてから「なんか変だ」と気がついて、確認してみるとサラウンドではなかった、といったことを何度か経験しています。つまりサラウンドとは、その程度のものです。

ゲーミングメーカーの5000円程度の下手なサラウンドヘッドホンを使うより、ソニーやゼンハイザーなどのオーディオ向け2chステレオヘッドホンを使ったほうが、断然音響効果はリアルだと思うのですが、MDR−HW700DSくらいのレベルになって、ようやくサラウンドヘッドホンを使うメリットが出てきたと思います。

光デジタル接続と、パソコンのサラウンド設定

MDR-HW700DSにはHDMI以外に「光デジタル」入力もあるため、これを使ったサラウンドも楽しめます。

実は、さきほど問題としてとりあげた、「送信機がOFFになってHDMIが切断される」問題も、パソコンからの音声出力をHDMIではなく光デジタルを使うことで、回避することができます。なぜなら、光デジタルは、音声データを流しっぱなしの一方向通信なので、切断されてもパソコン側から見て何も変わりません。

光デジタル(TOSLINK S/PDIF)オーディオの問題は、HDMIほどデータ帯域が広くないため、使用できるサラウンドサウンドに制限があることです。

HDMIの場合はオーディオに十分な帯域を確保しているため、たとえば9.1chハイレゾサラウンドなんていう荒業もできるのですが、光デジタルの場合は2chで96kHz・24bitが上限なため、サラウンドの場合は5.1chの「圧縮」音質が上限になります。つまり、サラウンドデータはMP3に似たような圧縮をかけて送信されます。これがドルビープロロジックやDTSといった技術です。

もちろんDVDでのコンサート鑑賞でも、S/PDIFを使っていれば圧縮されたサラウンドになってしまうため、当時オーディオマニア的にはサラウンドは流行りませんでした。

最近ブルーレイなどになって、ようやくHDMI経由の非圧縮サラウンドが登場したのですが、ゲームなどもHDMIを活用することでこのような非圧縮サラウンドを実現できるようになりました。

実際に聴き比べてみると、確かに光デジタルの5.1chと、HDMIの非圧縮5.1chでは大きな差があります。とくに、メリハリというか音の鮮明さが明らかに違います。光デジタルではなんとなくぼやけた「空間」的サラウンド体験が感じられるのですが、HDMIでは、明らかに各オブジェクトの三次元的な「定位感」がはっきりとしています。つまり、ゲームなどでは非常にメリットがあります。

そういった事情で、できるだけ光デジタルは使わずにHDMIの非圧縮サラウンドを選びたいです。

また、光デジタルのサラウンド出力にはもうひとつ問題があります。それは、混乱する業界規格の現状です。たとえばパソコンの場合、HDMIのオーディオ出力は、NVIDIAやAMDなど、ビデオカードが受け持ちます。マザーボード上の光デジタルの場合は、Realtekなどのマザーボードオーディオデコーダーチップが受け持ちます。これらのチップやドライバによって挙動が変わります。

光デジタルではサラウンド音声は圧縮されて送信されるのですが、その圧縮技術はいくつか種類があります。

DVDなどに採用されている圧縮規格にはドルビー社とDTS社の二種類があることは皆さんもご存知だと思いますが、その中でもいくつか詳細な区分があります。

一般的なDVDなどに記録されているサラウンドデータは、「Dolby Digital」や「DTS-Neo」といったファイル形式で保存されており、パソコンやDVDプレイヤーは、これらのデータをそのまま送信することで、レシーバーは正確に認識してサラウンド再生します。MDR−HW700DSの場合、無線の送信機がレシーバーの役目をします。

ゲームの場合は、事前に記録してあるサラウンドデータではなく、パソコン上でリアルタイムでサラウンド圧縮する必要があるのですが、そのための規格が「Dolby Digital Live」と「DTS Connect・Interactive」です。

問題は、これらを利用するためにDolby社やDTS社に使用料を払わなければならないのですが、その費用はマザーボードやサウンドカードメーカーが負担するため、メーカーがケチな場合は使用できず、パソコン上で選択できない場合があります。

Gigabyte社のマザーボード(Z97N-Gaming5)はDolby Digital Live・DTS Connectライセンスを取得していないためゲームのサラウンド再生ができず、同価格のASUS社マザーボード(Z97I)はちゃんとDTS Connectライセンスがあったので、問題なく使えた、ということもありました。

ASUSはマニュアルに小さく表記がありました・・
こういった情報はマニュアルを隅から隅まで読まないと見つからないため、買ってから気がついて苦労する事が多いです。

また、これらのライセンス確認はサウンドドライバに依存するため、間違ったサイトからドライバをインストールしたら急にDolby Digital Liveが使用できなくなった、ということもありました。(たとえばWindows Update以降いきなり消えた、など)。

このマザーボードでは、DTS Connectに対応している旨が表示されています
光出力が対応していれば、プロパティで5.1サラウンドを選択できます


最悪の場合、マザーボードに光デジタル出力があるのに、Dolby Digital Liveに対応していないため、わざわざUSBサウンドカードを別途購入して、その光デジタル出力を使う、なんて面倒なことをやった経験もあります。

それですら、動かないこともあります。たとえばCreative社の場合、多くのサウンドカードで、オンライン上で別途料金を払わないとDolby Digital Live・DTS Connectが使えない、なんて姑息なことをやっていたりします。500円程度なので、払えば済むことですが、これを知らずにサラウンドが動かなくて苦労しているユーザーも多いと思います。

オンラインで購入しないと光デジタルのサラウンドが使えない・・

つまり、せっかく光デジタルのサラウンドスピーカーやヘッドホンを購入したのに、パソコンが対応しておらずゲームがサラウンドで楽しめない、というトラブルが発生します。

とにかく、PCMゲームなどでの光デジタルのサラウンド化は、HDMIと比べて音質もあまり良くないですし、メリットはあまりありません。そういった事情から、HDMI接続が使えるソニーMDR-HW700DSは非常に嬉しいです。

まとめ

個人的に結構需要があると思っているワイヤレスサラウンドヘッドホンですが、探してみると、なかなかめぼしい商品がありません。そういった中で、ソニーMDR-HW700DSはほぼ理想に叶った最高のモデルだと思います。

装着感の良さ、ソニーらしい無難な音質、そしてHDMI入力による便利な接続性と、最近のパソコンやゲーミング用途に適した、素晴らしい総合性能です。

送信機の電源が勝手にOFFになる問題が唯一ネックになっていますが、これさえ小細工で回避すれば、実用上問題はありません。

願わくば、もうちょっとお金を払ってもいいので、さらに高性能なハイエンドモデルを作ってくれると嬉しいのですが、どのメーカーからも出ていないことを考えると、あまり需要が無いのかもしれません。

最悪、MDR-HW700DSが生産中止になってしまったら代用品が思い当たらないので、そろそろ新世代のニューモデルが出てくれることを祈っています。

それまでは、現役最高の選択肢だと思うので、ヘッドホンマニア的にはスルーしてしまうようなジャンルのヘッドホンですが、実用性は最高なのでぜひ手にとって検討してみることをオススメします。