2016年4月4日月曜日

ソニー h.ear in NC MDR-EX750NA ノイズキャンセリングイヤホン Bose QC20と比較とか

ソニーのアクティブノイズキャンセリング式イヤホン「MDR-EX750NA」を購入しました。

最近ソニーがプッシュしている「h.ear」シリーズに属するモデルで、「h.ear in NC」という愛称でも呼ばれています。

h.ear in NC MDR-EX750NA

同じデザインで、ノイズキャンセリング未搭載の「MDR-EX750AP」や、Bluetoothワイヤレスの「MDR-EX750BT」というモデルも登場しましたが、今回はノイズキャンセリングタイプのみを購入しました。ちなみに日本国内版は現在グレーのみなのですが、海外ではカラーバリエーションが豊富なので、並行輸入品のブルーを選びました。

この手のイヤホンに興味がある人であれば想像すると思いますが、ベストセラー王座に君臨するBOSE QuietComfort 20 (QC20)と機能が似ており、ライバルモデルと考えられます。

このEX750NAは、3~4万円台のBOSEと比べて格安な16,000~20,000円あたりで販売しているので、ノイズキャンセリング式イヤホンが欲しい人にはかなり魅力的なモデルだと思います。

私自身はすでにBOSE QC20とQC25を所有して、出張や長旅などで使い倒しているのですが、そろそろ飽きてきたところで、今回のソニーを買ってしまいました。とくにQC20との比較が気になります。


アクティブノイズキャンセリング

アクティブノイズキャンセリング(アクティブNC)というと、イヤホン内に仕込まれたマイクによって周囲の環境騒音を検出し、それと逆位相の音を発して、耳に届くノイズを打ち消してしまう仕組みなわけですが、今回のEX750NAも基本的な仕組みは変わらないもの、実際の消音効果においては年々ニューモデルが出るたびに驚くほど進化しています。

また、数年前のような、猫も杓子もNC式イヤホンを発売していた頃とは違って、最近はメーカーの「勝ち組・負け組」が明確になってきたように思います。この手の技術開発は地道な努力と実地テストが欠かせないため、ソニーのように長いスパンで着々と進化しているメーカーと比べて、「とりあえず」それっぽいNCを搭載してみたメーカーは淘汰されてきているようです。

数年前であれば、「騒音99%カット!(同社比)」みたいな意味不明なセールス文句で各メーカーが競い合っていたようですが、最近はそのような「まやかし」はどのメーカーもやらなくなっていますね。実際、今回のソニーも、○○%カットといった表記は一切書いてありません。

しかし、その当時の後遺症をまだ引きずっているというか、いまだに家電量販店にて、A社の「97%カット」とB社の「99%カット」モデルがあれば、「99%カットのほうが良いだろう」と盲信して買っている人が多いのは、悩ましくもあり、業界の自業自得のような気もします。

アクティブノイズキャンセリングの苦悩

アクティブNCイヤホンを作るにあたって、高音質イヤホン技術、ワンチップ(DSP)の信号処理技術、バッテリー効率技術など、ありとあらゆるハイテク分野の開発力が要求されるため、一介のヘッドホンメーカーでは手に余る無理難題です。ソニーのようなガジェット系を手広くやっている大企業は、こういった部分で強みが出ます。

ソニー初期のNC製品はけっこう人気でした

私自身は、NCイヤホンデビュー当時は、主にソニー製品をずっと使い続けていました。もう10年前にもなるMDR-NC22や、NC100などのイヤホンから、NC7やNC200Dなどのコンパクトヘッドホンまで、低価格帯のニューモデルが出るたびにワクワクしていた記憶があります。いまだにあの時代のNC22などを現役で使っている人も多いのではないでしょうか。

MDR-1RNC

これらソニーのNC技術が、MDR-1RNCなどの「高音質」ヘッドホンラインナップにも搭載されるようになって、もはや時代は全モデルラインナップにNC搭載か、とも思われたのですが、実際使ってみると、それら高級モデルの消音性能と音質の中途半端さに満足できず、結局「NCと高音質は相容れない存在なんだな」、という現実に落胆しました。

Etymotic Research ER-4

また、同時期にShureやEtymoticなどの「耳栓型」IEMイヤホンが一般市場でも流行りだしたので、アクティブNCなんか使うより、IEMを耳栓代わりにすればいいじゃないか、なんて論調も盛り上がっていました。

私も当時Etymotic ER-4を買って実際試してみましたが、やはり耳栓の閉鎖感は余計に疲労が増して、長時間フライトなどのリラックスしたい用途には合いませんでした。耳栓の閉鎖感というのは、指で耳を塞いだ時にも聴こえるように、「ゴーッ」と鳴る体内音(血液の流れる音?)のほうが大きなノイズ源です。

思い返すと、耳の奥までグーッと突っ込むトリプルフランジ(三段キノコ)とか、今考えてみると苦痛でしかなかったのに、よく頑張って使っていたな、なんて懐かしい思い出です。

BOSE QC3 QC15

そんな時代に出会ったのがBOSEでした。当時からBOSEは、「音楽の音質はどうでもいいから、とにかくNCの消音性能がものすごいやつ」、という印象でした。トップモデルのQC3はオンイヤーで耳が痛くなったので、下位モデルでアラウンドイヤー型のQC15を買ってその性能に感動しました。

BOSE A20

BOSEはNCヘッドホンのワールドリーダーとして長年君臨していますね。パイロット用ヘッドセットの開発に由来するノイズキャンセリング技術はもとより、あえてオーディオマニアではなく、裕福なビジネスマン層にターゲットを絞ったプレミア感溢れるセールス戦略が大成功を収めているようです。長距離の国際フライトなどでは、若手から年配まで、スーツ姿のビジネスマンは必ずと言っていいほどBOSE QC20やQC25を装着しているので、凄い定着率だなとつくづく関心します。

では、BOSE以外のメーカーのNCイヤホン・ヘッドホンはなぜダメなんだ?、と思うわけですが、やはりどうしてもBOSE一人勝ちの印象が強いです。アナログNC技術に関する要点の多くをBOSEが自社特許でガチガチに保護しているので、他社が同じ手法をそのままコピーしてさらに安く、とはなかなかできません。2014年にも、Apple社のBeatsヘッドホンがノイズキャンセリングに関する重要な特許を侵害したとして、BOSEが訴えて裁判を起こしていました。それくらい他社にとって参入しづらいジャンルです。

よく言われていることですが、BOSEは3~4万円という強気な価格設定でありながら、音質はあまり優れていないため、結局6000円クラスの音質のイヤホンに3万円の特許開発料を上乗せしたような理不尽感があります。

とはいったものの、BOSEがボッタクリだと言っているのではなく、このメーカーの凄さは、3~4万円という家電ガジェットとしては高価な製品でありながら、一度使ってみるだけで、誰もがその使用感と性能に魅了されているという事実です。

あんな素朴で地味なデザインなのに、トレンドでもファッション性でもなく、それまで高級ヘッドホンなんて存在すら知らなかった人でも、「これは凄い。値段相応の価値が十分ある商品だ」と確信して購入できる商品って凄いですよね。

現状では、市場で好調に売れているNC式イヤホン・ヘッドホンというと、おおまかに分けて4種類に分かれると思います。

  • BOSEのアナログフィルタ式
  • ソニーのフルデジタル式
  • オーディオテクニカATH-ANC9などの低価格路線
  • Beats Studio、Parrot Zikなど、高級ヘッドホンに搭載されている「とりあえず」NC

オーディオテクニカとパナソニックも結構人気です

オーディオテクニカのATH-ANC9やパナソニックRP-HCシリーズなどは、よく空港の免税店とかで目にします。NCヘッドホンが欲しいけど、BOSEを買うほどまで興味無い、という人達に売れているみたいで、息が長い製品が多いです。

さりげなくNC対応な機種も増えました

一方で、Beats Studioなど、高級ヘッドホンにNCが搭載されているモデルは最近かなり増えましたね。ゼンハイザーも、ガチなNCモデルのPXCシリーズとは別に、売れ筋のMomentumにNCを搭載したりしてます。「高音質+NC」という路線は、ちょっとマイナーですがPSB M4U2とかも草分け的存在だったように思います。

これら「高級で、とりあえずNC搭載」モデルに共通するのは、ハウジングがヘビー級の完全密閉型であり、遮音性をこの密閉ハウジングで補っているということです。つまりアクティブNC性能はおまけ程度であっても、トータルでそこそこの静音化が望めるのが嬉しいです。

では問題点はというと、やはり旅行などで長時間使用するには、ガッチリと締め付ける、重量級ヘッドホンでは疲れますし、携帯するのも面倒です。ちょっとした通勤では良いですが、乗り継ぎを重ねて20時間のフライトとか、痛くて重くて蒸れるヘッドホンは勘弁です。

最近試した中で、NC性能とフィット感がそこそこ良好だったのはDENON AH-GC20くらいです。密閉型アラウンドイヤーというのはフィット感に個人差がありますし、イヤーパッドの密着具合でNC性能がガラリと変わるので、購入前の試聴(試着?)はとても重要です。たとえばMomentum Wirelessは私の耳では装着時に隙間ができて全然ダメでした。

ところで、最近はNCとBluetoothワイヤレス機能を両立させたモデルが増えてきましたね。国際線でも離陸時からBluetoothを使っても良いフライトが増えてきていますので、そのせいもあります。

MDR-100ABN

ソニー製品の中では、アラウンドイヤー型のMDR-100ABNがワイヤレス+NCです。その点イヤホンはまだNCモデルとワイヤレスモデルが別です。そろそろ統合された奴が欲しいです。

一方ライバルのBOSEも、ワイヤレスヘッドホンを販売しているものの、ワイヤレス+NCというのは現時点ではまだ出ていません。
(追記:ワイヤレスNCのBOSE QC35が発売されたので買いました → レビュー

そんな感じで、現状を整理してみると、まだまだ性能競争まっただ中の過渡期なのかな、なんて気もします。

MDR-EX750NA

EX750NAは一万円台の普及モデルということで、ソニーらしいごく一般的なパッケージです。

冒頭で触れたように、海外モデルはカラーバリエーションが豊富ですが、全体的にポップなので、落ち着いた色というとグレーしかありません。私が買ったブルーも結構目立ちます。






付属品

付属品として、シリコンのイヤピースがSML三種類と、機内用アダプタ、充電用マイクロUSBケーブル、そしてイヤホンケーブル用クリップが同梱されていました。

モバイルバッテリーで充電しながら使用中

マイクロUSBで充電できるのは嬉しいです。充電中でも問題なく使えるので、旅先ではモバイルバッテリーがひとつあればスマホと交互に充電できて便利ですね。

BOSE QC20(左)とのクリップ比較

BOSE QC20(右)との収納ケース比較

あと、EX750NAに付属している収納ケースは、なんというか、昔懐かしい、がま口が鉄の板で、グッと左右から押すとパコッと開く、あのタイプのやつです。メガネケースとか昔の携帯ラジオとかでよくあったのを記憶していますが、最近はめっきり見なくなりました。ちなみに大きめでしっかりしているので、出し入れの使用感は良好です。

左右がわかりやすいです

イヤピースを外した状態

イヤホン本体は非常にコンパクトで、とても軽量なので驚きました。NCだからマイクが搭載されているので、もしかして重くてポロポロ外れやすいかな、と懸念していたのですが、心配無用でした。実はイヤピース部分が一番重いので、装着しても不安定な重量感は全くありません。

ソニーのハイブリッドイヤーピースを装着してみました

イヤピースは一般的なソニーサイズなので、付属のシリコン以外でも、社外品で自分に合った幅広い選択肢があるのが嬉しいです。個人的にはソニーのハイブリッドイヤーピースを付属して欲しかったな、なんて思います。あと、JVCのスパイラルドットイヤピースとかも人気ですね。さらに遮音性を求めるのであれば、コンプライなど低反発ウレタンも使えるため、汎用性が高いです。


BOSE QC20との比較

一方でBOSE QC20は独自の羽根つきイヤピースが外れにくく軽快な装着感で、奇跡的な優秀デザインだと思うので、どちらが合うかは個人差ですね。

BOSEは耳にそっと乗せるタイプですが、ソニーはイヤピース次第でEtymoticのように耳孔にグーッと入れるタイプにも、そっと乗せタイプにも出来るので好みに合わせられます。

EX750NAのイヤピースを装着するノズルはストレートで前後の角度はつけておらず、ハウジングも左右・上下対称のデザインなので、必要であれば上下逆でシュアー掛けもできるのが嬉しいです。ケーブルは柔らかく、タッチノイズは少ないので、私はシュアー掛けにする必要は感じませんでした。

BOSE QC20のベタベタしたケーブルは最悪です

BOSE QC20は長年愛用してきたイヤホンなのですが、唯一大嫌いなポイントは「ケーブルがベタベタする」ということです。絡まりやすく解きにくい、最悪のケーブルだと思います。その点EX750NAは、ケーブルの外側に細い溝が掘ってあり、スルスルと絡まりにくいのが嬉しいです。それだけでも、QC20からEX750NAに変更する大きなメリットになりました。

けっこう長いケーブル

EX750NAのケーブルは、バッテリーパックなど含めて、イヤホンからジャックまでの全長が1.5mなので、ポケットから出すにはちょっと長すぎますが、機内などで自由に使うにはこれくらい長いほうが良いです。QC20は1.3mなので、実際に比較してみてもやはりEX750NAのほうが若干長いです。

BOSE QC20(右)とのバッテリー比較

バッテリー充電中

バッテリーパックはQC20そっくりなのですが、実はEX750NAのほうが若干小さいです。充電用マイクロUSB端子にはキャップがついています。

ちなみに公称スペックでは、QC20が2時間充電・16時間再生、EX750NAが2.5時間充電・16時間再生なので、明らかにスペックを合わせて狙ってきてますね。

NC ON・OFFのスイッチはリモコン部分についています

BOSE QC20(左)とのリモコン比較

QC20とEX750NAの一番大きな違いは、NC ON・OFFのスイッチが、QC20ではバッテリーパックの側面にあるのですが、EX750NAではケーブル中間にあるリモコン(イヤホン左右分岐点)についています。どちらが良いかは好みが分かれますが、EX750NAはリモコン感覚で手軽にNC ON・OFF出来るのは良いと思いました。リモコンはソニーらしくアンドロイド系のワンボタンリモコンなので、音量操作などはできません。

ところで、ちょっと不満に感じたのは、このリモコン部分が意外と重いので、そのままブラブラさせていると自重でイヤホンを引っ張るような感じがします。そのため、徒歩で使用する場合などは、付属のケーブルクリップで洋服の襟に固定する必要がありました。

そういえば、QC20にはリモコンに「AWAREモード」という変なボタンがついているのですが、これは全く役に立たなかったので、間違って押さないよう、無いほうが良いです。(押すと周囲の音が聞き取りやすくなる、らしいです)。

NC性能

色々な環境でNCをテストしてみた結果、双方の消音性能は全くの互角レベルです。

個人的にはソニーのほうがトータルで優勢だと思いました。ソニーとしては苦節10年、ようやくBOSEと対等になったんだな、と思うと、なんだか感激しました。

今回のテストには、まず通常の通勤環境ということで、忙しい幹線道路を歩いたり、バスや電車に乗ってみました。また、爆音な扇風機を最大パワーで回してみたり、機械音がうるさい工場に行ってみたりしました。

NCの性能というのは、単純な「消音の度合い」だけでは済まされない複雑なパフォーマンスが要求されます。

NC性能に重要なポイントをリストアップしてみました

1.耳栓的な閉鎖感が少ない
2.周囲の衝撃音で逆位相の圧迫を起こさない
3.枕や機内ヘッドレストなどに横になっても、不具合を起こさない
4.聴いている音楽で発振しない

といったポイントが挙げられます。

これまでずっとBOSE QC20を使っていて、NC性能についてこれといって不満点は無かったのですが、EX750NAと比較することで、いくつか明らかな違いや問題が見えてきました。

EX750NAはこれまで使ってきたNCイヤホンの中で、一番NC状態の不快感・違和感が少ないです。何も装着していない状態にとても近いと言えます。

よくNCに否定的な人は、NC独特の違和感がダメだ、と言いますが、それは具体的にはどういうことでしょうか。EX750NAを使った後にQC20をためしてみると、その違和感の原因がよくわかります。

QC20では、中低域における「振動のような環境ノイズ」が十分に消しきれておらず、それがイヤホンから受動的な不快音を発します。たとえば、バスのエンジン音であったり、モーターのベアリング音のような、「ブロロロロ」「ジャラジャラ」みたいな、理想的サイン波やホワイトノイズとは一味違った個性のある低域ノイズでは、QC20ではそれに反比例するような低域の「うねり」が発生します。それがイヤホンからちょっと遅れて聴こえるので、地に足がつかない不安定感を生みます。よく言われている、まるで水中にいるかのような不安定感です。

一方でEX750NAの方は、この手の中~低域のノイズカットがとても上手で、NC ONの状態でも、まったくうねりや、閉鎖フィーリングが発生しません。普段通りの環境を維持できているというか、実は一般的な密閉型イヤホンよりも耳栓効果が少なく、非常に快適です。

低域のNC性能

低音よりももっと低い、体が揺れるような振動に対してのNC挙動というのは、意外と重要だったりします。

たとえばNC ONの状態で、テーブルをドンと叩いてみると、その低音の反発でNCが誤動作して「ボッ!」と耳に圧力が生じたりするNCイヤホンもあります。

あまりにも酷いと、歩きながら使っていると踵の着地衝撃でNCが「ボッ!ボッ!」と一歩一歩に反応してしまうようなショボいNCイヤホンもあります。そいういうのは、きっと開発ラボでは飛行機の機内音みたいな定在ノイズでしかテストしなかったんでしょうね。スニーカーならOKでも、革靴だとダメだったり、メーカーもこういった入念なテストが一苦労だと思います。

この振動への挙動ではEX750NAとQC20に大きな違いがありました。QC20は、わずかですが振動ごとに逆位相の圧力が発生します。たとえば荒い路面でバスに乗っていると、「ボコボコボコ」という路面振動に対して、QC20は「ボコボコボコ」と耳に圧力がかかります。

一方でEX750NAは、同じような路面振動でも、耳に圧力がかかるのではなく、音楽の低音そのものがうねってしまいます。つまり、「ボーン」というウッドベースの響きが、路面振動のせいで「ボヨヨヨヨン」という感じに聴こえます。これは多分ドライバとハウジングの空気の流れとか、そういうのが関係しているのでしょう。

つまり、振動に対する挙動が、QC20ではNC効果における歪みになり、EX750NAでは音楽における歪みとして現れました。不思議なものです。

中高域のNC性能

両者を比べてみると、高周波ノイズのカットはQC20のほうが得意で、中域ノイズのカットはEX750NAのほうが優秀でした。

たとえば、爆音の大型ファンを回していると、QC20でカットできなかったノイズは「ゴロゴロゴロ」というファンのベアリング音のような、中域の不規則性があるサウンドが主です。また、QC20でうっすら聴こえるホワイトノイズも「サー」というよりは「コーッ」といった感じです。

つまりQC20は、純粋なホワイトノイズ的なものであればカットできても、ちょっと中域にクセの強い特性のノイズには弱いみたいです。

一方でEX750NAは、このようなゴロゴロノイズはカットしてくれるのですが、高域の「シュー」というノイズはQC20よりも多めに残ります。全くの無音状態でNC ONにしても、やはり「シュー」という高音ノイズが聴こえます。

純粋にNC性能だけチェックしていると、このEX750NAの「シュー」ノイズは気になるポイントなのですが、実用上はQC20よりもEX750NAのほうが好ましいと思いました。とくに騒音下でNCをONにしながら音楽を聴いていると、違いが明白になります。

QC20は音楽の上にうねりやゴロゴロという中低域のメカノイズが乗ってしまうため、リスニング中に気が散ります。一方EX750NAのほうは、主なノイズが高音の「シュー」なので、録音に存在するバックグラウンドノイズとほぼ混ざってしまい、さほど気になりません。ボーカルなどの主要成分と外来ノイズが被らない、ということです。

実際、利用環境においてノイズタイプというのは多種多様なので、QC20とEX750NAそれぞれが得意とする環境は異なるでしょう。シンプルな定在ホワイトノイズだけではなく、色々な環境でテストしてみることが大事だと思います。

ちなみにEX750NAは環境ノイズのタイプによってNCの特性を自動的に切り替えているそうなのですが、よほど高度な処理を行っているのか、切り替わり条件などについて気づくことは無かったです。本来それで良いんでしょうね。

NC ONでのリスニング

音楽のリスニングをしてみたところ、どちらのモデルも一長一短といったところですが、いわゆる「原音再生」という意味で破綻していないのはEX750NAの方です。両者を比較するとやはりBOSEは「楽しく」なるように作ってあるな、という感じがヒシヒシと伝わってきます。

BOSE QC20はいわゆる中域、とくに男性ボーカルのような中低域がしっかりとしており、素朴で太い、アナログラジオ的な良さがあります。しかし、たとえばフルオーケストラなどの広帯域な音楽を聴いてみると、カラクリがバレるというか、ヘッドホンマニアにとってBOSEがなぜ異質に感じるかが手に取るようにわかります。

QC20の一番の問題点として気になったのは、周波数特性が均一ではなく、特定の帯域、とくに高域にポッカリと穴があることです。高域が全面的にカットされているというわけではなく、サラッとしたプレゼンス帯域は十分出しているのですが、その下の、たとえばソプラノ歌手とかの帯域がそっくり抜けています。オケでトランペットが鳴るべき所がスカスカで、チェロやホルンなどの中低域楽器ばかりが不自然に目立ちます。

このチューニングというかクセが、BOSE特有の「ヌケは良いのに音が厚い」という方向性に役立っているとも捉えられます。

ソニーはさすがハイレゾを押したいだけあって、中高域の鮮やかさが上出来で、フルオーケストラの端正なバランスはもとより、弦楽四重奏などもフレッシュな弦の鳴りっぷりは圧巻です。ピアノや女性ボーカルなど、綺麗であってほしい帯域が伸びやかで綺麗なのが、ソニーらしいところです。金属的な痛々しさは無いので、あくまで中域を補う意味での鮮やかさが気に入りました。

ジャズなどでも、高音の空間広がりに十分余裕があって、パーッと前方に広がるイメージはとても魅力的です。車の通りが激しい道路などでも、ピアノ・ソロを聴きながら夜道を歩いていると、その静けさと開放感に、なんか田舎のあぜ道を歩いているかのような錯覚を感じます。これは、素直で美しい高域と、違和感の少ないNC効果の賜物だと思いました。

ところで、最近のソニー「h.ear」シリーズというのは、全体的にチューニングを統一しているというか、今までのソニーと路線を若干変えているような印象があります。従来の、例えばMDR-1シリーズなどと比較して、あまり硬質なモニター臭さやフラット感を一旦リラックスさせて、この「h.ear」シリーズは全般的にもっと「クリアだけど優しい」タイプのサウンドに仕上げていると思います。なんというか、ソニーらしい高域と、やわらかな中域を上手に繋げることに成功したというか、個人的には結構好きな系統です。

低域の表現にも、QC20とEX750NAの違いが明白に現れます。これがいわゆるBOSEのサウンドが「楽しい」と言われる原因なのですが、QC20は低音の量感に対して質感が表現しきれておらず、とくに定位が定まっていません。たとえばステレオのセンターに存在するはずのベース奏者なんかも、ソニーではぴったり真ん中の位置にポイントフォーカスがキマるのですが、QC20では左右のイヤピースからズシーンという響きが鳴っている、ステレオエフェクトになっています。この「音像か、量感か」というのが、音楽を楽しむ上での方向性の違いを感じさせます。左右同時に鳴っても、それがセンターでピッタリ結像するのか、左右別々に鳴ってしまうのか、こうやって違いが出るのは不思議ですね。

つまりシーケンサーのキックドラムなど、音像がイメージとして「ステージ上の、とあるポイント」に結像する必要が無い音楽の場合は、QC20のような量感豊かな膨らみが感じられたほうが、ダイナミックで迫力があります。一方でEX750NAの場合、明確な奏者がステージ上の特定の場所に存在すべき音像では、その奏者の指使いや息使い(つまり中高域成分)と楽器の低音がピッタリと同じ位置で鳴ることで、一人の演奏者として成立します。それは逆に、広がりの少ない、迫力の無さにもつながってしまうのが難しいところです。実際ソニーの低音は、アタックは良いのに響きが豊かではないため、なんとなくダンボールを叩いているような虚しさがあるのが残念です。

騒音が少ない環境でリスニングしている時、ソニーの欠点として感じたことがひとつありました。それは、NC由来の「サーッ」というホワイトノイズが音楽の裏で常時鳴っているため、高域に「無音の息継ぎ」が発生せず、常に音が途切れないような息苦しさが多少あります。これは、音楽における無音の静けさがいかに大事かということを再確認させてくれます。

能率と音漏れ

リスニング中の音量は、EX750NAとQC20ともにほぼ同等です。どちらもNC ON状態で意外と音量が取りにくいため、私のスマホXperia Z3cでは音量がMAX付近になることも多いです。ポピュラー音楽であればほぼ大丈夫だと思いますが、いくつか古いクラシックのCDなど、ボリュームが頭打ちになることもありました。そのため、もっと音量が出せるDAPを使ったりもしています。

リスニング中の音漏れは、EX750NAのほうが若干気になりました。

よくNCイヤホンの利点として、周囲の騒音が低減されるから、その分だけ音楽のボリュームを落として聴ける、ということが言われています。つまり、どちらもそこそこ大音量で聴いてもあまり漏れているというほどでも無いのですが、EX750NAのほうが漏れている音の性質がけっこうシャカシャカした高音寄りなので、いわゆる典型的な音漏れサウンドとして周囲に聴こえてしまいます。一方QC20はどういう魔法なのか知りませんが、漏れている音がほぼ中低域寄りなので、さほど不快に感じません。

ともかく、どちらのイヤホンも、一般的なイヤホン(アップルの白イヤホンとか)と比べたら、同じ体感音量でも音漏れは非常に少ないです。

NC OFFでの音質

NC OFFの状態で音楽が聴けるかどうかというのは、けっこう重要視しているユーザーが多いようです。こまめに充電していればよいのですが、この手のNCイヤホンは電源を消し忘れて、翌日使おうとしたら電池切れだったなんてトラブルが多いので、そういった場合でも音楽が聴けるのは大事ですね。

どちらもNC OFFで音楽が聴けますが、音質面では明らかにMDR-EX750NAの圧勝です。

BOSE QC20は、NC OFFにすると、もはや音楽がまともに聴けない、というくらい劣化します。いきなり頭を風呂桶に突っ込まれたような、反響がぐにゃぐにゃとねじれたような不快なサウンドです。プールで潜水中に周囲の音が聴こえる、みたいな不自然なうねりがあるので、これで音楽を聴こうという人はいないと思います。非常事態にどうしても音声放送を聴きたいから、くらいしか使いみちが思い浮かびません。

EX750NAはNC OFFにすると全体的な音圧がグッと下がり、全てが縮こまったような感じなのですが、それでも一応まともなイヤホンっぽく音楽が聴けます。中域の鮮烈感が抑えこまれ、また低音のフォーカスが甘くなり、左右にボワッと広がるため、弱々しいです。やはりNC ONのあのサウンドに慣れてしまうとどうしても不満に感じます。

どちらのモデルも、NC ONにすることで各楽器がグッと前に出てきて、生き生きとした鮮烈感が出ます。

まとめ

あまりソニーばかりを褒め称えるとステマみたいで嫌なのですが、今回ばかりはQC20と比べてソニーMDR-EX750NAのほうがNC性能、音質ともに好みでした。

しかしその一方で、一般ユーザー目線で考えると、やはりBOSE特有の魅力も侮れないな、とも思います。あの太くて厚い中低域や、ヌケが良くも派手にならない高域は、たとえば圧縮音源やストリーミング動画などを楽しむ場合には、音をより厚くするメリットになります。機内の卓上パネルで映画を観覧するとき、あの過度に圧縮されたキンキン、シャリシャリのサウンドトラックに、EX750NAはむしろ逆効果だな、とも思います。

QC20を使っているユーザーの大半は、純粋なマニア的音楽鑑賞ではなく、タブレットで最新ドラマ録画、モバイルゲーム、ストリーミング音源、ソーシャルで貼られていたYoutubeのおもしろ動画、なんて、多方面にて活用することでしょう。その汎用性においての強みがQC20にはあります。

一方で、純粋な音楽鑑賞においてはEX750NAが圧勝していると思います。

今回、私がMDR-EX750NAをかなりプッシュしているのは、まず第一に、値段の安さがあります。一万円台でこのレベルの音質と、BOSEと同レベルのNC効果が得られるというのは、前代未聞の驚異的なコストパフォーマンスです。これでQC20が同じく1万円台になったり、後継機でさらに上を行くNC性能などが登場したら、また話は別ですが、今この時期にNCイヤホンが欲しいという人は、もはや高価なBOSEをあえて選ぶメリットは皆無だと思いました。

EX750NAの音質の良さには正直驚きましたが、それは「1万円台の(しかもNC)イヤホンでここまでやるのか」、という衝撃が大きいです。

普段10万円のマルチBA型IEMなんかを堪能しているマニアにとっては、「ふーん、所詮こんなものか」という程度のサウンドかもしれませんが、現状において、その10万円クラスの高音質でソニーやBOSEに肉薄するNC性能を兼ね備えている製品は存在しないため、普段はメインの高級イヤホンを使うとして、それとは別腹で出張用サブ機として持っておく妥協点として、EX750NAがぴったりフィットすると思います。

ちなみにアラウンドイヤーが欲しい人は、それこそBOSE QC25とソニーMDR-100ABNの勝負になるので、それもまた面白いですね。ソニーはワイヤレスなので単純比較とは言えませんが、NC性能においてはどちらも健闘しています。
(追記:ワイヤレスNCのBOSE QC35が発売されたので買いました → レビュー

あと、ソニーといえば、最近発売された変態モデルの「ワイヤレスオーディオレシーバー MUC-M2BT1」も気になっています。色々と頑張ってますね。