2016年4月14日木曜日

iFi Audio micro iDAC2のレビュー

iFi AudioのUSB DAC 「micro iDAC2」を購入しました。

英国のオーディオメーカー iFi Audioの製品はガジェットマニア的に興味を惹かれるものが多く、値段も手頃なため、ついつい誘惑に負けて、手を出してしまいます。

iFi Audio micro iDAC2

今回も、じつは上位機種の「micro iDSD」をすでに所有しているのにもかかわらず、その機能限定版とも言うべき「micro iDAC2」を買い足しました。

これはただの気まぐれではなく、最近ずっとメインシステム用のUSB DACを探し回っていて、結局これを選びました。ライン出力用途ではmicro iDSDとくらべてはっきりと実感できる音質向上があります。

2015年7月発売のモデルで、店頭価格が6万円くらいのUSB DACなので、あまり高級とも珍しい製品とも言えませんが、最近流行りのDXDやDSD256完全対応ですし、音質はとびきり良いです。micro iDSDと比べると影が薄い存在ですが、実は据え置き型USB DACのダークホースだったりするかもしれません。


iFi Audio

英国のオーディオメーカー「iFi Audio」については、これまで何度か紹介してきましたが、ここ数年でかなり力をつけてきた新興ブランドです。

シンプルなパッケージ

売れ筋の「ヘッドホンアンプ・ポータブル・ハイレゾ」といったキーワードの低価格路線で頑張っており、筆箱みたいなコンパクトサイズで統一された銀色のアルミシャーシがトレードマークです。

中小企業らしいフットワークの軽さで、サポートのメール受け答えもしっかりしていますし、よく掲示板とかに開発陣がひょっこり顔を出してくれるのが、マニア的に近親感が持てて嬉しいです。

重ねて使える、共通シャーシです

コンパクトサイズで、フォノアンプやヘッドホンアンプ、USB DAC、さらにはUSBフィルタや真空管バッファなどのアクセサリー群まで、ありとあらゆるニーズを網羅した、幅広い商品展開を行なっています。かくいう私も、今回紹介するmicro iDAC2以外に、上の写真にあるmicro iDSDとmicro iPhonoを持っています。

こんな専用ラックも売っていますが、高いので買ってません

ちなみに、積み重ねて活用するために専用ラックも売っているのですが、そこそこ高価なので買いそびれています(たしか2万円くらい)。まあ実際は、フォノアンプとかUSB DACとか、用途ごとに置き場所も違うでしょうし、わざわざ重ねて使う必要も無いのですが、統一感があるとカッコいいです。

公式サイトをご覧になればわかりますが、似たようなケースデザインで無数のモデルがあるため、どれがどれなのか、かなり困惑します。今サイトにあるものだけでも:
  • micro-iCAN SE
  • micro iUSB3.0
  • micro iDAC2
  • micro iDSD
  • micro iCAN
  • micro iPhono
  • micro iLink
  • micro iTube
  • micro iUSB
  • nano iUSB3.0
  • nano iDSD
  • nano iCAN
といった感じで、もういいかげんにしろと言いたくなります。

nanoとmicroのサイズ

ネーミングは、長さがハーフサイズのものが「nano」、フルサイズが「micro」なので、たとえばヘッドホンアンプの「nano iCAN」と「micro iCAN」では、サイズが大きい「micro iCAN」のほうが、より高価で高性能です。

Retro Stereo 50 というアンプも発売されました

最近では「Retro」シリーズという高スペックのミニコンポを発表しましたし、近々さらに高性能で据え置き型の「Pro」シリーズも展開するらしいので、楽しみにしています。

大好評のnano iDSD

日本では、数年前に登場した「nano iDSD」が、スマホ対応バッテリー駆動のコンパクトサイズで新世代フォーマットのハイレゾPCM・DSD完全対応、という他社を出し抜く完璧超人のようなスペックを誇り、なおかつ3万円という低価格ということでベストセラーになりました。

パッと見ただけですぐわかるように、ヘッドホンアンプとしても、RCAライン出力DACとしても使えるという分かりやすいデザインが人気の秘訣だと思います。

micro iDSD

大人気nano iDSDをベースに、さらにヘッドホンアンプの高出力化を果たしたのが「micro iDSD」で、私がこれまで愛用してきたのはこのモデルです。7万円という価格、性能、スペックともに、最近話題のChord Mojoの良きライバルだと思います。両方持っている私でも、音質の傾向が違いすぎて優劣がつけがたいです。そういえばどちらもイギリスのメーカーですね。

iFi Audioのモデルラインナップは複雑なのですが、USB DACの「iDAC」、アナログヘッドホンアンプの「iCAN」、そしてそれら二機種を合体させたオールインワンモデルの「iDSD」という感じになっています。

つまり、スペックだけを見れば、micro iDSDが一番多機能で最上位モデルということになります。

今回私が購入したmicro iDAC2というモデルは、ACアダプター、バッテリー、強力ヘッドホンアンプ回路などを排除した、純粋な「USBバスパワー駆動」の「ライン出力DAC」機能に特化した商品で、価格もmicro iDSDから1万円安い、6万円くらいです。

たった1万円の差なら、ちょっと奮発してmicro iDSDを買ったほうが良いんじゃないか、なんて考えるのは当然ですし、もうmicro iDSDをすでに持っているのに、あえてmicro iDAC2を買い足す意味は無いだろう、と思うかもしれませんが、それがオーディオの面白いところで、micro iDAC2には、スペックや機能だけでは語れない特別な魅力がありました。

micro iDAC2

micro iDAC2のフロントパネルを見ると、3.5mmヘッドホン端子とボリュームノブがついているので、「あれ?ヘッドホンが使えるなら、結局iDSDと同じじゃないか?」と思うかもしれません。

というか、フロント・リアパネルはmicro iDSDよりもnano iDSDとそっくりです。

micro iDSD(左)とmicro iDAC2(右)

たしかに、micro iDAC2には一応ヘッドホン出力は装備されているのですが、そのパワーはmicro iDSDとくらべて貧弱なので、あまりアテにしないほうが良いです。

それと、micro iDACにはバッテリーが無いので、USBバスパワー駆動のみです。つまりポータブル用途には一切使えません。

ヘッドホン端子の隣ににあるRCA端子はライン出力で、「レベル固定」です。これは実は重要なポイントです。つまりRCA端子はボリュームノブとは無関係なので、コントロールプリアンプとしては使えません。

  • micro iDSD → RCA端子はボリューム可変・固定を切り替え可能
  • nano iDSD → RCA端子はボリュームノブ連動の可変のみ
  • micro iDAC2 → RCA端子はボリューム固定のみ

ということで、見た目は似ていてもそれぞれ機能が違うので、知らないと混乱します。

裏側と、裏面

リアパネルには、USB入力と、同軸S/PDIFデジタル出力、そしてDACのフィルタ設定用スイッチがあります。nano iDSDと全く一緒です。

USBはフルサイズのB型端子なので、種類豊富なオーディオ用USBケーブルを使って遊べます。micro iDSDではアップルCCKやアンドロイドOTG接続に配慮して「A型延長ケーブル端子」だったので、良いケーブルを探すのに色々苦労したこともあり(安物ケーブルだと高レートDSDとかでプチプチノイズに悩まされました)、今回のB型端子はとても嬉しいです。

ちなみにご覧のとおりUSB端子は青色の「USB 3.0」タイプなのですが、実際は「USB 2.0」で動作するので、わざわざUSB 3.0ケーブルを使わずとも、USB 2.0ケーブルで大丈夫です。iFi Audioいわく「USB 3.0のほうがケーブル品質が良いものが多いから、使えるようにした」そうです。そうは言いながら、冒頭の写真にある付属ケーブルは普通の「USB 2.0」タイプなのが支離滅裂です。

隣の黄色いS/PDIF端子は「出力」のみなので注意が必要です。

  • micro iDSD → RCA同軸デジタル入出力(自動検知)+3.5mm光デジタル入力
  • nano iDSD → RCA同軸デジタル出力
  • micro iDAC2 → RCA同軸デジタル出力

つまり、S/PDIFデジタル「入力」が使えるのはmicro iDSDのみです。

DACのフィルター用スイッチは「Standard」「Bit-Perfect」「Minimum Phase」の三種類が選べる、バーブラウン製DACでは一般的なやつです。これは純粋にリスニングで好みのタイプを選ぶのみです。

個人的な感想では、Standardは地味、Minimum Phaseはフワフワっぽく感じたので、通常はBit-Perfectで使っています。micro iDSDの時もそうでした。

ヘッドホン出力

せっかくヘッドホン出力端子がついているので、ためしに使ってみました。まあそこそこの音量が出せますが、やはり低能率の大型ヘッドホンなどを使うと、音量が足りなくなったりします。サウンドもクリアで薄味です。

micro iDAC2とmicro iDSDのヘッドホン出力

1kHzでの最大出力特性を測ってみたところ、案の定micro iDSDの足元にも及ばないですね。micro iDSD の「エコ」と「ノーマル」モードの中間くらいでしょうか。一般的なポータブルDAP程度の出力はあるのですが、低インピーダンスイヤホンを使うと出力がグッと落ちるので、マルチドライバのIEMとかは要注意かもしれません。

20Ω以上の高能率なイヤホン、ヘッドホンなどではそこそこ使えそうです。

RCAライン出力

micro iDAC2はRCAライン出力が本命なわけですが、じつはmicro iDSDにもRCAライン出力は備わっているため、じゃあそれを使えば、micro iDAC2と寸分変わらないんじゃないか、と気になったので、双方のRCAライン出力を比べてみました。

ちなみにmicro iDSDは切り替えスイッチでRCA出力の「固定・可変」切り替えができるので、ボリューム連動のプリアンプとしても活用できます。言えば言うほど、micro iDSDって本当に万能で凄いガジェットですね。それと比べて今回紹介しているmicro iDAC2は不憫なほどシンプルです。


意外にも、両者のRCAライン出力は結構異なります。

ライン出力は10kΩとかの高インピーダンス受けを想定しているので、こんな拷問のような出力グラフはあまり意味が無いのですが、それにしても、micro iDSDに比べてmicro iDAC2のほうがパワーに余裕のあるライン出力です。

無負荷では公称スペック通りにmicro iDAC2は2.1Vrms  (6Vp-p)で、micro iDSDは2Vrms (5.6Vp-p)になるので、ごく一般的なライン出力電圧です。

micro iDAC2は当然として、micro iDSDのほうもちゃんとRCA端子はライン出力専用で、単純にヘッドホン出力端子を分岐しているような手抜き設計じゃないのが嬉しいです。

DAC回路

micro iDAC2の中身は実際どんなもんかと気になったので、シャーシを開けてみました。

綺麗なレイアウトです

回路的には、microというより、nano iDSDの基板を引き伸ばしたようなデザインです。その余剰スペースを活用してアナログのラインアンプ回路と、電源品質のパワーアップに力を注いでいます。

USB入力は別基板

裏面にはUSB用のXMOSチップ

USB入力の部分は、別の基板をソケット接続してから左右のグラウンドをハンダ付けしているので、ユニークで合理的な設計です。裏面にはXMOSのUSBインターフェースチップが見えます。それと、D/A変換の制御用にSTC製の8051系マイコンが搭載されています。

裏面も丁寧です

DACチップはバーブラウンDSD1793

裏面をみると、D/A変換チップはiFi Audioがいつも使っているバーブラウンの「DSD1793」をシングルで搭載しています。micro iDSDでは左右デュアル構成、nano iDSDではシングルでした。

nano iDSDとmicro iDAC2の違い

基板を見ればなんとなくわかりますが、このmicro iDAC2というモデルは、micro iDSDや旧モデルmicro iDACとは根本的に異なる設計で、基本的に「nano iDSD」からバッテリーを排除して、DAC以降のアナログアンプ回路と、それをサポートするクリーン電源の高性能化に力を入れたモデルです。

DSD1793

iFi AudioはこのバーブラウンのDSD1793に特別な思い入れがあるようで、いつもこのDACチップを採用しています。世間一般がESSや旭化成(AKM)などの新世代DACチップに目移りしてるご時世に、あえて2003年のベテランチップDSD1793を愛用するのはそれなりに理由があるようです。

このDSD1793というDACチップは、公式データシートに書いてある対応フォーマットが、PCMは192kHz/24bit、DSDが2.8MHz(DSD64)で上限なのですが、iFi Audioは無理矢理PCM 384kHz、DSD 11.2MHz (DSD256)にまで対応させています。

具体的には、DACチップ内蔵オーバーサンプルモードを使わずに、「外部デジタルフィルタ入力」モードでチップを動かしています。

そいういう使い方自体は珍しくもなく、たとえばDENONのAL32とかみたいに独自のオーバーサンプル補間処理チップを搭載しているUSB DACであれば、このモードを使うのが一般的です。

iFiがユニークな点は、この入力モードを使っているにもかかわらず、あえて事前にオーバーサンプルせずに、DACにそのままオリジナルのデータを送っていることです。つまり他社であれば44.1kHzを一旦176.2kHzとかにオーバーサンプルして補間処理した上でDACチップに送るところを、iFiは直接44.1kHzで送っています。192kHz音源であれば192kHz、352.8kHzであれば352.8kHzで、といった感じに、生データをDACチップに丸投げしています。これは結構珍しい手法です。

DSDの場合はDACチップをDSDモードに切り替えて、これも直接ネイティブデータを送っています。

実際、こうやってPCMをオーバーサンプル無しでDACチップに送ることに音質的メリットがあるのかどうかはよくわかりませんが、DACチップは小細工をせず黙々とD/A変換を行うだけなので、iFiはこの方法が一番ピュアで高音質になると確信しているようです。

余談になりますが、これは10年前くらいにちょっと流行った「ノンオーバーサンプル(NOS)」DACとは違うので、混同を避けなければなりません。

NOSというのは、たとえば大昔のTDA1541などの16bit DACチップを使って、44.1kHz 16bitデータを44.1kHzの動作クロックのまま16個の抵抗を使ってアナログ変換するという古風なアプローチです。つまり音質は16個の抵抗の精度やクロック品質のバラつきによって大きく影響を受ける手法です。

一方でiFi Audioが行っているのは、あくまでDACチップに直接データを送るというだけであって、実際DACチップ内部ではバーブラウンが誇るアドバンスド・カレントセグメント方式という高度な高速アナログ変換技術が使われています。

個人的には、オーバーサンプルでも補間処理でも、音が良ければなんでもいいのですが、ここまで自社のポリシーにこだわっているメーカーというのも珍しいですね。Chordみたいな自社製プログラムで極限までオーバーサンプルしてデータ補間する手法とは対極にある存在です。

アナログ回路

中心の大型コンデンサが目立ちます

ところで、マニアックな話ですが、iFi Audioの製品って、「基板がカッコいい」というのも購入意欲をそそられる理由のひとつだと思います。

カッコいいというのは、具体的には、レイアウトがちゃんとモジュール化されて整然としており、基板上に白線と金文字で各セクションごとの区切りや説明文が書かれています。デザイナーはさぞかし設計を楽しんでるんだろうなと思わせるデザインです。

下手なメーカーの場合、オーディオ信号線の貧相なケーブルが電源トランスの真上を横切っていたり、デジタルグラウンドの隣にアンプ用レギュレータがおいてあったり、おいおい大丈夫かと心配にさせるデザインは、見ただけで購入意欲が失せます。ようするに弁当箱の上手な詰め方みたいなものです。

電解コンデンサ類は上面に集中しているのですが、その中でもひときわ巨大な電解コンが中心にドーンと搭載されています。これはオペアンプ電源の安定化に使われています。エルナーのシルミックIIというオーディオグレードのやつで、単品で買うと100円くらいする結構高いパーツです。(普通の電解コンが10円くらいなので)。

昔はこういう電解コンを大量投入するのが喜ばれました

そういえばバブル期の国産DACやCDプレイヤーとかは、この手のオーディオグレード電解コンを大量にバンバン投入することが一種のステータスだったのですが、最近ではめっきり見なくなりました。特に90年代のマランツなんかは、シルミックやセラファイン、ブラックゲートなど、高級コンデンサのバーゲンセールみたいなてんこ盛りでした。

電解コンといっても、それが今回のように電源フィルタ用に使われるのか、オーディオ信号用に使われるのかで意味合いは変わってきますが、90年代のゴージャズなオーディオ機器の贅沢っぷりを見慣れていると、最近のオーディオはどのメーカーも随分貧相なものです。

まあ、それだけ当時氾濫していた過剰な「物量投入」が、見た目は良くても、そこまで音質に貢献していなかったのかもしれません。最近のエコカーが20年前の高級セダンよりも快適で速かったりするのと同じ感覚ですね。でも物量投入はロマンがあって良いです。

iFi Audioは、どのDACチップやオペアンプを使っているかといった安直なことよりも、それらを駆動する電源のレギュレーションをどれだけクリーンにしているかといった部分を大事にしているメーカーなので、案外そういった努力はスペックや目先の魅力には現れなくても、音質が飛躍的にアップしたりするものです。

反対に、たとえば最高級のESS9018 DACやプレミアムなOPA627オペアンプを搭載しているのに、どうにも音が太ましくて平面的だ、なんていうメーカーは、こういう地道な努力を怠っていたりします。

ラインアンプ(右)とヘッドホンアンプ(左)

micro iDAC2のオーディオ出力は、まずDACチップからの差動出力が4回路入りのオペアンプOPA1654で合成されて、左右ラインアンプ用のトランジスタに送られます。このドライブ部分が非常にクリーンで低ノイズだというのがセールスポイントだそうです。

ちょっとユニークだなと思ったのは、ラインアンプ後にアナログスイッチICを通していることです。ミュートリレーの代わりでしょうか。

RCAライン出力は、この時点でRCA端子に接続されており、そこからさらに分岐したところにボリュームノブとヘッドホンアンプ回路があります。

基板を見ると、アナログ回路の約半分はヘッドホンアンプの回路なので、純粋なRCAライン出力DACとして使う場合には一切活用されません。もったいないような気もしますが、筐体スペースに余裕があるので、とりあえず何か入れてみたという感じです。この部分を削除したら、価格が1,000円くらい安くなったかもしれません。

ヘッドホンアンプ回路は左右チャンネルごとに専用アンプチップで行われています。QFNサイズの小型ICで、Maxim IntegratedのMAX97220Aというヘッドホンアンプみたいです。そういえば同じアンプがResonessence Herusにも採用されていました。

ともかく、ヘッドホン出力端子を使わない場合は、この回路は無視されます。

micro iDAC2の魅力

今回なぜわざわざmicro iDAC2を買うことになったのか、背景をちょっと書き留めておきます。

大満足のViolectric V281

きっかけは、このあいだViolectric V281という素晴らしいアナログヘッドホンアンプを購入したことです。それ以来、毎日のリスニングが楽しくて仕方がないのですが、その一方で、上流のアラが目立ってきました。(レビュー → http://sandalaudio.blogspot.com/2016/03/violectric-hpa-v281.html

オーディオマニアならよくある話ですが、一つのコンポーネントをアップグレードすると、それ以外の部分の問題点がどんどん見えてくるというやつです。組み合わせの相性が悪いこともありますし、もしくは部分的な性能アップによって、それまで潜伏していた弱点が見えやすくなったのかもしれません。

つまり、100点満点のサウンドを追い求めると、システム全体の中に「ボトルネック」が必ず現れる、ということです。

そのボトルネックをひとつひとつ探して潰すのが、オーディオマニアの永遠の課題であり、楽しみでもあります。逆にそんなボトルネックなんて気にせず、現在のシステムで大満足というのであれば、それはオーディオマニアではなく、音楽を聴くのが好きな人です。(そのほうが健全ですね)。

そんなわけで、Violectric V281と合わせて使えるUSB DACを、かれこれ半年ほど物色していました。それまではApogee Rosetta 200というS/PDIF DACをメインに、micro iDSDやChord Mojoなど、適当に気が向いたUSB DACを接続して使っていました。

今使っているDACの音に不満があるわけではないのですが、アンプの見通しが良くなったせいで、「もうちょっと上のレベルに行きたい」と誘惑されてしまったわけです。

USB DACを探す時に、まず重要視したのが、PCM 384kHz (DXD)やDSD128 DSD256など最新の高レート音源に対応していることでした。

高レート音源が必ずしも音質メリットがあるのかはまだ疑問が残りますが、近頃そのようなファイルを聴く期会が増えてきたので、ちゃんと満足に再生できる環境を持っていないと、その魅力を評価することすらできません。結局は趣味なので、探究心は大事です。

とくに、DSD128やDSD256となると、対応しているDACはかなり限定されます。とりあえず、現状で手に入るUSB DAC候補を考えてみると、PS Audio Directstream DAC、Exasound E22 MK2、Antelope Zodiac、Mytek各種など、錚々たる顔ぶれです。どれも50万円クラスの高価なモデルばかりで、おいそれと手がだせません。あと最近では、T+A DAC8 DSDとかも興味があります。PCMとDSDで全く別のDAC回路を使っているそうです。

ちなみにChord HugoとMojoは、常時繋ぎっぱなしのライン出力用途に使うには無駄や手間が多いので対象外でした。どちらかというとヘッドホンアンプ込みでオールインワンとして活用すべきです。

結局のところ、「ライン出力DAC」というのはどんなに高価なモデルであっても、最終的には「低ノイズのRCA 2Vライン出力」さえ出せればそれで一件落着ですので、メーカー側としても、アンプやスピーカーのような物量コストを投入できる部分が限られています。

よくオーディオ機器を買うときに、「まず下流から金をかけろ」という格言があります。

つまり、信号の流れの最終地点が価格に対して一番音質への影響が大きい、という話です。

たとえば同じ予算でも、「1万円のDACと、5万円のアンプと、10万円のヘッドホン」をセットで買うのと、その逆で「10万円のDACと、5万円のアンプと、1万円のヘッドホン」で揃えるのでは、前者のほうがトータルの音質メリットが大きいということは、なんとなく納得出来ると思います。

それくらい、音楽の出口であるスピーカーやヘッドホンは値段に性能が比例しますし、一方で、ソースとなるUSB DACはコストに対する「性能スペック」向上が比較的薄いということです。

つまり、1万円であろうが50万円であろうが、必要スペックを満たしている商品であれば、偏見無く純粋に音質の好き嫌いで選ぶことが大事です。

音質について

micro iDSDとmicro iDAC2を、Macbook AirでJRiver Media Center 21とAudirvanaを使って比較試聴しました。ヘッドホンアンプはViolectric V281とLehmann Linearで、ヘッドホンはAKG K812やベイヤーダイナミックT1など、手持ちでベストだと思う物を色々試してみました。

ところで、micro iDAC2はDSD256に「ASIOネイティブモード」で対応していたのですが、それではASIOが使えないMacではDSD256が再生できない、というのが発売当初からネックになっていました。

しかし、最近のファームウェアアップデートv5.1Aにて、DoP方式でもDSD256対応が搭載されたので、Macでも無事にDSD256が再生できるようになりました。

ちなみにDoPでDSD256ということは、表面上はPCM 768kHzに偽装するわけですが、micro iDAC2はPCM 384kHzが上限なので、実際のPCM 768kHz音楽を再生しようとするとノイズとかエラーが発生してしまいます。

そのため、公式サイト上にファームウェアが二種類用意されており、通常版はv5.1、そしてどうしてもDoPでDSD256を再生したい人のために、DoPのみのため限定的にPCM 768kHzをアンロックさせたv5.1Aというファームウェアが提供されています。つまりDoP以外のPCM 768kHz音源を再生して装置が壊れても自己責任ですよ、ということです。

そんな感じで最新ファームウェアを搭載して、色々と音楽を聴いてみたのですが、まず全体的なiFi Audioらしいサウンドの特徴というのは、「非常にクリーン」であるということです。高音寄りとか低音寄りとか、そういった低レベルな傾向ではなく、録音データがそのままアナログ変換されているような印象を受けます。

これまでmicro iDSDを使っていてそこそこ満足していたのですが、やはり同時に試聴したPS Audio DSDやMytek Stereo192-DSDとくらべて弱点として感じられる部分もありました。

micro iDSDの不満は、高音の硬さやエッジ感と、低音の奥行きの無さです。とくに「高音がキツい」、というのはmicro iDSDのレビューなどでよく指摘されていることで、一方で低音のほうも、量感は十分ながら、どうにも音が前に迫ってくるような圧迫感がありました。そのため、たとえば中音域の瑞々しい音色重視なChord Mojoなどと比べて、iFiというと、どうしてもドンシャリ傾向というか高音と低音の両極端に「押しの強さ」が感じられるギラギラな「いかにもハイレゾっぽい」サウンドでした。

micro iDSDからmicro iDAC2に変えてみると、まず高音のエッジ感が解消されて、より素直でシンプルに、よく聴き取れ、よく伸びるような感じになります。伸びると言っても、中高域の金属的な輝きや弦の鳴りっぷりはそこまで派手ではないので、演出に乏しいとも言えます。

低音は、格別に良くなりました。これまで試聴したどのDACよりも、奥行きの見通しがよく、解像感の高い低音です。ベース演奏の空間に余裕があって、押し迫らずに奥に向かって自由に鳴り響いています。それでいて、腰高になったり、低音不足と感じることは皆無です。

よく低音が良いと、「どっしりと腰の座ったサウンド」なんて表現を使いますが、このmicro iDAC2の場合、「どっしりと」構えているようには感じられないくらい爽やかです。それでいて確かな安定具合や、フワフワと流れていかない安心感があります。「線が太い」というよりも、強靭ながら極細なピアノ線のような頼もしさです。

とくに、PCM 96kHz 24bitなどのハイレゾ音源における帯域全体に渡るディテールの見通しの良さは圧倒的です。分析的に各パーツの細部を見せるというよりは、そこにあるサウンドが、さらにリアリズムが増す、という良い方向へのディテールアップです。

とくにDSDファイル再生でこのリアルさが顕著で、micro iDAC2は高レートのDSD128、DSD256の魅力を最大限に引き出せるDACだと思いました。高レートのDSDは、明らかに、ハイレゾPCMとは違った方向で、空間全体の雰囲気みたいなものが現実味を帯びてきます。

よく、ハイレゾ音源とCD相当の音源で違いが感じられない、なんて話を聴きますが、それの全てとは言いませんが、多くの場合、再生に使われるDACやアンプの音色の濃さが邪魔になっているのかも、と思ったりします。PCM対DSDなんていう論争も、DACによる影響が9割を占めているのでは、と実感できます。

たとえ超高級なPCM 352.8kHzに対応しているハイエンドDACだとしても、そのDACやアナログ回路の純度、そして電源の安定性など、全てが素直な特性に仕上がっていなければ、せっかくの高解像音源を活かせないかもしれません。とくに複雑なアンプ回路でサウンドにコッテリ肉厚な味付けをするようなDACでは、この傾向が強いです。

ハイレゾPCM、DSDでは、たとえばChord Mojoとくらべて、より一層リアルな音場空間の体験が味わえます。

Chord Mojoはハイレゾ音源の処理が下手だと感じたことは一度も無いのですが、やはり44.1kHzなどの普通の音源を上手に料理することに特化したDACだと思いました。Chordのマジックは44.1kHzでも192kHzでも同じように感じられるので、音色の演出という魅力がある一方で、どのフォーマットにおいても、主要楽器の音色を全面的に押し出した、「質感」重視のサウンドに仕上がっています。

一方でmicro iDAC2では、高レート音源になるにつれて、空間全体の雰囲気や自分を包み込む録音風景全体を引き出すような印象を受けます。アナログ回路のクリーンさは、このmicro iDAC2の開発陣が特に重点を置いた部分です。デジタルから届いた高解像サウンドをそのまま鮮度を落とさずにヘッドホンアンプに送り届けるという役割において、micro iDAC2は格別な働きを披露してくれます。

死角のないmicro iDAC2ですが、唯一ちょっと不満というか問題だと感じる部分があります。それは、44.1kHz 16bit音源の「素朴さ」です。micro iDAC2がとてもストレートにD/A変換を行うDACだと言いましたが、まさにその通りの意味で、ハイレゾ音源とくらべて44.1kHz 16bitのCD音源が非常に地味に聴こえます。

普段聴いている音楽の大半はハイレゾではなくCD音源なので、この問題は実に悩ましいです。なんというか、CD音源を聴いていると、「やっぱりこんな感じだよな」と思わせる限界が感じられて、一方で96kHzやDSD128などのハイレゾ音源を聴くと「やっぱり凄いよな」と思わせる魅力があります。

ストレートなアナログ変換というのは、アーティスト本人にまで遡った「原音忠実」ではなく、単純に「デジタルデータの符号通りの」原音忠実だということを再認識させてくれます。そのデータが高音質であるほどmicro iDAC2は本領を発揮するのですが、その逆では、録音本来の未熟さを露わにしてしまいます。

そういった意味で、デジタルデータを極限まで補完復元処理するChord MojoやDenon AL32、JVC K2なんかのDAC技術のほうが、CD音源がより生々しく、艶っぽく、美しく再現されるので、魅力的に感じられます。

でも、これはミネラルウォーターにレモンを一滴絞るような効果でもあるので、常にそれが正しいかというのも難しいところです。やりすぎると、音楽ではなく「DAC」を聴いていることになってしまいます。

ようするに、欲を言えば、このmicro iDAC2に必要に応じてスイッチオンできる高性能補完処理ギミックを搭載してくれればいいな、なんて思ったりします。これはヘッドホンアンプにとてもクリーンなViolectric V281を使っているからでもあるので、たとえばラックスマンとかのアンプを使っていたらまた別の印象を受けるかもしれません。

このCD音源への不満をiFi Audioに直接尋ねてみたところ、面白い回答が帰ってきました。CD音源に不満を感じている、そんなあなたはぜひ「micro iTube」を使ってみなさい!という事です。

このmicro iTubeというのはいわゆる真空管バッファで、micro iDAC2とヘッドホンアンプのあいだにこれを通すことで、真空管特有のサウンドを「味付け」してくれるという怪しい装置です。

真空管バッファのiTube

実際このmicro iTubeを借りて使ってみたところ、たしかに凄まじい「ツヤツヤ」効果があって、驚きました。真空管アンプというと、「ノイズが多くて低音が盛ってある」みたいな先入観があったのですが、micro iTubeは逆に、不要なバックグラウンドを消し去って、真っ暗な背景の中から楽器やボーカルサウンドが鮮やかに鳴り響くような、まさに退屈なCD音源をよみがえらせる特効薬です。

いままでずっと「デジタルデータをどのようにオーバーサンプルや補完処理をすべきか・・・」なんて悩んでいたのに、iFi Audioの回答は、デジタルデータは極力ストレートにアナログ変換して、サウンドの味付けはアナログ回路でどうにでもしろ、という考えです。当たり前すぎて、目からウロコです。

結局、このmicro iTubeという真空管バッファは買いませんでした。なんというか、あまりにも効果的にサウンドがキラキラツヤツヤになるので、一種の麻薬効果というか、恐怖すら感じて逃げ腰になってしまったような感じです。しかも、真空管サウンドとは別に、「3Dホログラフィックサウンド」という謎のスイッチもついています。面白いギミックだとは思うので、いつか気が向いたら買ってみたいです。

そんな感じで、味付けはケチャップやマヨネーズのごとく好きなだけ後付けでできるわけですが、micro iDAC2というDACの魅力は、結局のところ、極限までストレートでピュアなサウンドをアンプやヘッドホンに届けるという、DACの模範解答とも言うべきパフォーマンスです。

シンプルだからといって、生半可な開発努力ではこのピュアさ加減は到達できません。

まとめ

手頃な価格でPCM 384kHz、DSD256対応のmicro iDAC2は、想像以上に高音質なモデルです。

サウンドのクセが少なく、シンプルで正確なD/A変換だと思いました。音色の味付けはアンプやヘッドホンにまかせて、とにかくなんでもこなせてハイレゾ音源の魅力を最大限に味わえるDACが欲しいという目的にぴったりな商品です。

このmicro iDAC2よりも高価で、より高音質だと思ったハイエンドUSB DACはたくさんあるのですが、私にとっては、micro iDAC2がひとまず基準点というか、「レファレンス」と呼べる存在になってくれました。

「高価なDACほど高音質なはずだ」という先入観を消し去って、「6万円のmicro iDAC2がここまで抜かりないサウンドなんだから、ではこの50万円のDACはそれに圧勝する実力があるか?」という正直な評価ができます。

色々試聴した中で、PS Audio Directstream DACはとびきり好みの音質でした。でも純粋に比較してみると一長一短といったところで、micro iDAC2に「圧勝」できていないということから、購入意欲が失せてしまいました。(もちろん、お金に余裕があったら買いたいです)。

たとえば、もっと高価なUSB DACを買いたくて、色々検討して悩んでいる人がいましたら、まず一息ついて、このmicro iDAC2をとりあえず買ってみれば、世の中のDACの「基準点」がよくわかると思います。そして、そのサウンドに慣れ親しんだ上で、じゃあもっと弦の響きが、上下の広さが、ヴォーカルの距離感が、低音のキレが、みたいな特定の要素で秀でた性能をもったハイエンドDACを、あらためて探し求める明確な目的が生まれると思います。

また、この6万円という低価格で、純粋に「USBバスパワーで、ライン出力」に設計を専念したDACというのは意外と選択肢が少ないので、ポータブルとは別腹でちゃんとした据え置き型システムを組みたい人に是非オススメしたい商品です。