2016年12月17日土曜日

Beyerdynamic Amiron Home ヘッドホンの試聴レビュー

ベイヤーダイナミックの新作ヘッドホン「AMIRON HOME」を試聴してきました。

NEWテスラテクノロジードライバを搭載した、家庭用リスニング向けの開放型ヘッドホンだそうです。

ベイヤーダイナミックAMIRON HOME

ネタ的にあまり珍しさが無い、ベイヤーダイナミックらしい王道ヘッドホンなので、たいして書く内容も思い当たらないのですが、せっかく試聴してきたので、ごく簡単に紹介しておこうと思いました。音はとても良かったです。



最近ベイヤーダイナミックは、コンシューマ向けヘッドホンに従来のようなモデルナンバー制(T70、T90とか)ではなく、それぞれ個別の名前をつけたがっているようです。今回の「AMIRON HOME」の他にも、低価格イヤホンの「BYRON」や、ハイエンドイヤホンの「XELENTO」などといった感じです。

その一方で、プロフェッショナル用ヘッドホンは、「DT1770 PRO」や「DT1990 PRO」など、新作でも従来どおりの番号制を続けているので、コンシューマとプロモデルの差別化を明確にする意図があるのかもしれません。

たしかにこれまでのベイヤーダイナミックでは、「T70はコンシューマでDT770はプロ」みたいな線引きがユーザーにあまり浸透しておらず、ほとんどの人が購入時に意識していなかったと思います。

パッケージ

AMIRON HOMEのパッケージは、白い背景に本体の写真という、ベイヤーダイナミックらしいシンプルなデザインを踏襲しています。なんとなく最近のソニーとかにも似てますね。

家庭用を称するならもうちょっとパッケージに華があっても良いと思いますが、写真の横にさりげなく「Gifted in music!」つまり「音楽の才能あるぜ!」みたいなワンポイントが書いてあるのが唯一カジュアルさを演出してます。

プロっぽいパッケージ

反対側はセピア調の写真です

付属のケースはT90後期型やJubileeなどと共通のタマゴ形状です。DT1770やT5pなどのケースよりも簡素ですが、ヘッドホン本体をしっかりと保護してくれます。本体収納時にケーブルを外さないといけないのはちょっとめんどくさいですね。

ケースはこのタイプのやつでした

6.35mm変換アダプタを入れるポーチがあります

ケーブルが邪魔になります

ベイヤーダイナミックのヘッドホンを紹介する時に毎回言いますが、どれもヘッドホン本体の形状は同じくせに、付属ケースの形状を頻繁に変えすぎだと思います。向上心があるのは良いことだと思いますが、これまでどのケースも一長一短なので、そろそろ決定版みたいなのに統一してもらいたいです。

デザイン

AMIRON HOMEはNEWテスラテクノロジードライバ登載の開放型ヘッドホンということで、同時期に発売されたヘッドホン「DT1990 PRO」とスペックが似ており、一体どこが違うのかと不思議に思っていたのですが、いざAMIRON HOMEを手にとって眺めてみると、なんとなく意図しているコンセプトが理解できました。

全体的に簡素化・軽量化しています

プロ用モデルのDT1990 PROと比べると、AMIRON HOMEでは構成パーツなどにいくつかの簡素化が見受けられ、DT1990 PROほど容易に分解修理や部品交換ができません。AMIRON HOMEのデザインは、むしろT90に近いです。もちろんサウンドは各モデルごとに大きく異なります。

2012年発売のT90は、コンシューマ向けの初代テスラテクノロジー開放型ヘッドホンとして長年販売されていたのですが、AMIRON HOMEが実質的な後継機となり、T90はディスコンになるっぽいらしいです。値段的にも、さすがにT90は古いので値崩れが激しいですが(現在では3万円台)、それでも発売当時は8万円くらいだったので、AMIRON HOMEの発売価格に近いです。

T90とAMIRON HOMEの具体的な違いは、まずテスラテクノロジードライバが新型になったことと、ケーブルが着脱可能な左右両出し仕様になったことです。また、ハウジングデザインも、より個性的な風貌に一新されました。

Beyerdynamic T90

そもそもT90がコンシューマ向けとしてはあまりにも「プロっぽい」無骨すぎる外観だったので、AMIRON HOMEのレトロ調なデザインは個性的でインパクトがあると思います。

初代DT880っぽいです

初代DT880

AMIRON HOMEのハウジングデザインは、広報写真で見たときは、なんだか古臭い初代DT880とかをオマージュしている感じが安っぽく見えたのですが、実物を手にとって見ると印象がガラリと変わりました。

銀色のパーツはダイキャストの表面を整えた感じです

グリルはナイロン糸を織り込んでいます

中心にあるロゴ部分はダイキャスト製で、文字の表面を削ることでコントラストを演出しています。写真ではプラスチックだと思っていたので、メタルの質感の高さには驚きました。また開放グリルも、ただのメッシュではなく、細かいナイロンの糸の束を複雑に織り込んだ、珍しい素材です。

じっくりと見れば見るほど、安価な大量生産とは対極にある丁寧な作り込みに感心します。さすがドイツ本工場製といったところです。

Beyerdynamicロゴ

Made in Germanyです

ヘッドバンドは外側もモコモコ素材です

ヘッドバンドは従来通りのシンプルなスライダー調整式なのですが、今回は素材がフリースみたいなモコモコした手触りで、とくに上部のグレーのモコモコに、ベイヤーダイナミックのロゴがエンボス加工されているのは良い感じです。

ケーブルが左右両出しで着脱可能というのは、バランス接続やアップグレードケーブルなど夢が広がるので、ヘッドホンマニアに大変喜ばれます。コネクタ部分はすでに発売されているT1・T5p 2nd Generationと同様の3.5mmタイプなので、それらのケーブルを流用できます

3.5mmですが、スリーブ部分が細くないと入りません

左右の3.5mmジャックはハウジング内の奥まった位置にあるため、社外品や自作ケーブルを作る際には、相当細いコネクタでないと入らないので注意が必要です。今回の試聴では、付属ケーブルと、T1用のXLRバランスケーブルも試してみました。

アンプ側も3.5mm端子です

AMIRON HOMEの付属ケーブルは、T1・T5p 2ndのような布巻きではなく、絡まりやすいベタベタした黒いゴム素材なのが若干残念です。長さは3mでアンプ側端子は3.5mmにネジ込み式の6.35アダプタが付属しているタイプでした。せっかく家庭用コンシューマ機ということなので、見掛け倒しでも良いのでもうちょっとケーブルに気を使って欲しいと思いました。

本体重量は、T90が425g、AMIRON HOMEが340gということで、大幅な軽量化を果たしました。どちらもケーブルを含めた重さかどうかは不明ですが、両方を持ってみると明らかに体感できるレベルの重量差があります。

イヤーパッドはフリースっぽいベロア調

イヤーパッドを外した状態

イヤーパッドはこれまでのモデルと同じようなベロア素材の円形タイプなのですが、ハウジングに挟み込む部分がとても薄くてペラペラな透明なビニール素材なので、一旦外してしまうと、従来のイヤーパッドみたいにグルグル回転させて装着しようとしても上手くいかず、かなり苦労しました。

これまでのベイヤーダイナミックヘッドホンだと、イヤーパッドを外して外周のプラスチックリングをパチパチと取り外すことでドライバ部品がゴロッと取り外せる仕組みだったのですが、今回AMIRON HOMEでは構造が若干変わっており、リングを外してもドライバが外せませんでした。

ドライバが外せませんでした

スポンジを外すと、DT990などと似たような白い紙みたいなグリルが見えます。AMIRON HOMEに登載されているテスラテクノロジードライバは、T90やT1のような初代金属タイプか、それともDT1990 PROの軽量なブルーのタイプか、もしやそれらとは別の新型ドライバなのか気になったのですが、残念ながら中身を見ることができませんでした。

本体を持った感じではT90よりも遥かに軽量なので、多分DT1990 PROのようなドライバが登載されているのだろうと想像します。

音質とか

AMIRON HOMEはT90やDT1990 PROと同じ「250Ω・102dB/mW」というスペックなので、大型ヘッドホンの中でもけっこう鳴らしにくい部類です。スマホなどの生半可な出力ではボリュームが頭打ちしてしまいますので、家庭用ということで、ちゃんとした高出力アンプを用意するのがベストです。

その点、ベイヤーダイナミックでもモバイル用と称するT5pやT70pなどは、同じく102dB/mWでもインピーダンスが32Ωなので、あまり電圧が稼げないポータブルアンプでも十分な音量が発揮できる設計になっています。

今回の試聴では、ポータブルDACアンプのJVC SU-AX01と、据え置き型のSimaudio MOON 430HADを使ってみました。

音量はSU-AX01でギリギリOKなくらいで、クラシックなど音源によっては厳しい感じだったので、もうちょっとパワーに余裕があった方が安心できます。DAPのAK240やPlenue Sなども使ってみたのですが、音量を8~9割くらい上げるケースもあったので、強力なデスクトップアンプで駆動することを検討すべきです。さすがMOON 430HADはコンセント電源なだけあって余裕の駆動力を発揮してくれました。

そもそもモバイル用途を想定していない設計なので、音漏れも遮音性も悪いです。きちんとしたリスニングを楽しみたいのであれば、それなにりに環境騒音などに配慮しないといけないヘッドホンだと思います。とくに遮音性は皆無なので、部屋のエアコンの音とかも結構気になります。遮音性などをあえて考慮しないことで、スピーカーのような開放的サウンドが得られるわけですから、仕方がないですね。

AMIRON HOMEの試聴を初めたときの第一印象は、開放型らしく素直で優しく、ソフトなサウンドだと思いました。とくにT90など過去のテスラテクノロジー系ヘッドホンで顕著だった高域の金属感や硬さを上手に取り除いています。

高域のトゲが無いからといって、マッタリとした中域主体のサウンドというわけではなく、やはりベイヤーダイナミックらしい広帯域で粘り気の少ない、フラットさを念頭に置いたサラッと透き通った自然な鳴り方です。

方向性としてはDT880やAKG K701〜712シリーズとかに近いプレゼンテーションで、それらと同じような軽快な装着感とサウンド傾向を持ちながら、さらにワンランク上の解像度や、余裕を持った広帯域が得られます。

T90と聴き比べてみると、やはり音像の定位とかステレオ音場表現なんかはけっこう似ています。たぶんT90から刺激や刺さる感じを取り除いたおかげで、それまで隠れていた高域の繊細なプレゼンス成分や、空間音響の情報がより耳に届くようになり、ふわっと包み込むような音響が得られるようです。ステレオイメージも、ケーブルが左右分離になったおかげかもしれませんが、T90と比べてとくに中低域の楽器などが自由に展開するようになりました。

実際、他社のヘッドホン勢を聴き慣れていると、AMIRON HOMEのサウンドはなんだか無難で味気ないな、なんて思ってしまいがちなのですが、たとえばSHURE SRH1840やオーディオテクニカATH-AD2000X、ゼンハイザーHD650など、他の開放型ヘッドホンと比較してみたところ、AMIRON HOMEのメリットみたいなものがなんとなく理解できました。

地味なサウンドというのを裏返してみれば、ようするに際立ったクセが無く、とくに出音の素直さと、制限のない音の伸びの良さにおいてAMIRON HOMEは他社を圧倒しています。「この程度の無難なサウンドだったら、別のもっと安いヘッドホンでも十分達成できるだろう」なんて甘く見ていたのですが、結局どんなに比較試聴を繰り返してみても、5万円台とかでこのレベルのサウンドに到達できているヘッドホンというのは見つかりませんでした。

あえて出音部分にカリカリしたアタック音を付加しないことで、わかりやすい解像感みたいなものは損なわれるのですが、そのおかげで音楽全体の見通しの良さや音響空間そのものに包み込まれる感覚が向上しています。

とくに、音像の展開は左右に広いながらもセンターに穴が空いておらず、空間の繋がりが絶妙に良いです。開放型ヘッドホンは音場が広い、という安直なイメージがありますが、実際は各モデルごとにプレゼンテーションが異なります。

多くの開放型ヘッドホンの場合、どうしても一部の楽器音などがドライバ付近に留まってしまい、ステレオ音場というよりは、「左右のドライバ」から音が出ているような印象を受ける事が多いです。その点AMIRON HOMEは「ドライバが鳴っている感覚」そのものを意識させない「繋がりの良い」音場展開がとても優秀です。よくスピーカーリスニングにおける、「スピーカーの存在が消える」と言われるアレです。

DT1990 PROと聴き比べてみました

個人的に一番気になったのは、最近発売されたDT1990 PROとの比較です。私はついこのあいだDT1990 PROを買ったばかりなのに、AMIRON HOMEは左右別ケーブルだったりして、もしサウンドが同じで、バランス接続ができるのであれば、こっちを買ったほうが良かったかも、なんてモヤモヤしていました。

それぞれを同じアンプ条件で聴き比べてみると、両者の音質差はかなり目立ちます。DT1990 PROは一音一音の音圧やパンチが強調され、楽器の力強さが目立ちます。一方AMIRON HOMEの方が音楽空間全体の展開が整っており、見通しの良さや不快感の少なさ、録音内の世界への没入感が魅力的です。

とくに低音のプレゼンテーションはDT1990 PROのほうがドスンと切れ味のいい音圧が感じられ、開放型ヘッドホンとしては珍しいくらい彫りの深いダイナミックな鳴りっぷりなのですが、AMIRON HOMEの方はティンパニやコントラバスのような低音楽器はバンドやオケの一員として、あるべき空間配置で、正しい音色で鳴っています。

どっちを買ったほうが良いか、というよりも、ちょっと聴き比べてみただけで違いがわかるので、明確にどちらかが気に入る人もいれば、どっちも魅力を感じてしまい、悩んでしまう人もいると思います。

では、より高価なヘッドホンと比べるとどうなのかというと、たとえばT1やT5p 2nd Generationと比較すると、音色というよりも音像のプレゼンテーションが明らかに異なります。T1とT5pはドライバが前方に傾斜しているデザインで、一方AMIRON HOMEは左右並行配置です。

T1・T5pはバンドやオーケストラなどの集団演奏がリスナー前方に集約され、よりステレオスピーカー的なホログラフィック音像を形成します。一方AMIRON HOMEはT90やDT1990 PROなどと同様に、音像が左右に広く展開され、前後の立体感はあまり強調されません。ライブのアリーナや、オーケストラホールなどに例えると、T1・T5pはかなり遠くの座席で、AMIRON HOME・T90は間近で聴いているような感じです。

T1・T5pの方が単独のソロ楽器(例えばチェロ独奏とか、アコースティックギターソロとか)の「前方空間に演奏者の音像が浮き出る」効果は圧巻なのですが、逆に混雑したバンドライブやオペラアルバムなんかでは、様々なサウンドがセンターに集約されてしまうため、各要素の聴き分けが難しいこともあります。AMIRON HOMEの方が左右の展開は広いので、より混雑を避け、周囲から音楽に包み込まれるような臨場感が得られます。

どちらが優れているというよりは、好みが別れると思いますが、AMIRON HOMEは家庭用リスニングということなので、プロ用モデルとの差別化という意味でも、できれば傾斜型デザインの方が良かったのでは、とも思ったりします。ただしNEWテスラテクノロジードライバで前方傾斜型は前例がまだ無いので、コスト的にも、T90の後継という意味でも、従来型の並行配置サウンドを継承したことも納得できます。

T1のケーブルで、バランス接続を試してみました

ついでに、T1 2nd Generation用の4ピンXLRバランスケーブルを試してみました。ヘッドホン側のコネクタはピッタリ互換性があります。

大型ヘッドホンアンプSIMAUDIO MOON 430HADと、変換アダプタを介してJVC SU-AX01のバランス出力で聴いてみたところ、バランス接続による音質メリットはかなり実感できました。全体的に柔らかくリラックスした傾向のサウンドの中にも、とくに中域の音色が色濃くしっかりと強調され、より充実した満足感が得られます。

この音質向上効果は実際バランス化によるものなのか、それとも別のケーブルに交換したせいなのかは不明ですが、ともかく純正ケーブルからのアップグレードに挑戦するメリットはあるみたいです。個人的な好みとしてはAMIRON HOMEのサウンドはもうちょとメリハリとか派手さを強調しても良いと思うので、そういった傾向のアンプやケーブルと組み合わせてみたくなります。

アンプについては、今回試聴に使ったSIMAUDIO MOONやJVCなどは、個人的な趣味からか、どれも派手なドンシャリ系サウンドではないため、もうちょっとエキサイティングなアンプ(例えばベイヤーダイナミックA2やBryston、McIntoshなど)を使えばもうちょっとパンチが増すでしょうし、逆にスタジオモニター系機器(RMEとかMytekなど)と合わせれば、より見通しの良い解像感が得られそうです。

ようするにAMIRON HOMEそのものに、システムのサウンドを上塗りしてしまうようなクセや濁りが無いため、音楽の鳴り方が上流の構成に影響されやすいというか、アンプの特徴をさらけ出してしまうようなピュアさを持っているようです。

まとめ

AMIRON HOMEはベイヤーダイナミック史上もっとも聴きやすく、リラックスした音楽体験を楽しめる、まさに「HOME」という名前にふさわしいリスニングヘッドホンだと思いました。

不満の少ない、バランスの良いサウンドです

これまでの硬派なモニターサウンドとは多少異なるチューニングなので、意表を突かれるかもしれませんが、真面目に評価してみると変なニュアンスや味付けみたいなものが少なく優秀です。ベイヤーダイナミックらしさが保たれたまま、不必要なエッジや不快感を取り除いた優しいサウンドが魅力的です。

T90の後継機として、単にチューニングで味付けを変えただけには留まらず、確実にワンランク上の大人なサウンドに成長したように感じられます。

決してカジュアルなエントリーモデルのような、鳴らしやすさや低音ブーストを意識したヘッドホンではないので、むしろユーザー側の中途半端な妥協を許さない、本格的なハイエンドヘッドホンの入門モデルみたいな印象を受けました。

そのままでもすでにレベルの高いヘッドホンですが、音作りの土台がしっかりとしているので、より高性能なアンプを使ったり、バランスケーブルに変更してみたり、など、システムアップグレードの恩恵をしっかりと受け止められる実力があります。

海外のヘッドホンにありがちな話ですが、発売直後の価格が結構高いので、近頃値崩れが激しいT90との価格差はかなり開いていますし、むしろもうちょっとで上位モデルT1 2nd Generationなどに手が届いてしまう価格帯なのが微妙なところです。

ただし、T1 2nd GenerationやT90は、どちらも初代テスラテクノロジー特有の金属的なカチンとする高域の鳴り方があるので、サウンドの傾向はAMIRON HOMEとかなり異なります。つまり価格差はそのまま音質の優劣というわけではないので注意が必要です。

T90の後継機として考えても、あのT90の高域のキンキン具合がAMIRONでは完全に排除されたので、それをどう捉えるかで印象が変わります。そもそもT90はキンキンサウンドが多くのユーザーに指摘されていたので、ベイヤーダイナミックは真面目に誠意をもって改善したのがAMIRON HOMEなわけですが、それで結局「T90の魅力である高音が失われた」なんてユーザーレビューとかで言われたら、ベイヤーダイナミックとしては「じゃあどうしろってんだ?」と怒ってしまうでしょうね。

今回、私自身がAMIRON HOMEを買わなかったのは、単純に、すでに買ったDT1990 PROでかなり満足しているため、もう一台ベイヤーダイナミックの開放型ヘッドホンを買っても使う機会があまりないから、という理由だけです。

開放型の大型ヘッドホンというのは、自宅での静かなリスニング環境でしか使えないので、たとえば通勤中、職場のオフィスでとか、そういった雑用の場面ではあまり役に立ちません。DT1770・1990 PROの兄弟みたいに、今後できればT70pの後継機みたいな密閉型モデルも出してくれると面白いかもしれません。

近頃のベイヤーダイナミックは、NEWテスラテクノロジードライバに切り替わったおかげでかなり良い感じに発展しているように思います(というか、サウンドが私の趣味に合っているというだけなのですが)。

プロフェッショナル・コンシューマヘッドホンともに、往年のベテランモデルから順当に着々と世代交代のプロセスが行われています。T1やT5pのような最上位モデルは当面現行モデルのままだと思いますが、この流れで、個人的にはT51pみたいな超ポータブルで、さらに音質が優れたモデルが欲しいです。

AMIRON HOMEもその世代交代の一環として、ユーザーが家庭用開放型ヘッドホンに求めている要素を入念に検討して作り上げた、ユーザーの声を第一とした集大成的な逸品だと思います。

とくに、これまでDT880・990やAKG K702、Philips Fidelio X1/X2、ゼンハイザーHD600といった開放型の銘器を愛用しており、そろそろ上位の高級ヘッドホンへの買い替えに興味を持ったものの、どれを試聴してみても音がキツいとか、クセが強くて納得できない、なんて思っていた人にとっては、このAMIRON HOMEはかなり理想的なアップグレードになるかもしれません。