2017年5月1日月曜日

いろいろ試聴記① Fiio X5 3rd generation

普段から、色々な新製品を立て続けに試聴しているのですが、全部をブログで紹介するのも面倒なので、とくに気になったものだけを適当に暇を見計らって書いてました。

ただ、最近はあまりにも面白い新製品が多すぎて、このままだと音質の印象とかも忘れてしまいそうだったので、いくつか感想を手短に書いておくことにしました。

まずは、前回Cowon「Plenue 2」を試聴したついでに聴いてみた、FiioのDAP「X5 3rd Gen」です。

Fiio X5 3rd gen

Android 5登載のタッチスクリーンDAPで、価格は5万円くらいとかなりコスパが高いモデルです。10万円の同社フラッグシップ「X7」で得た経験を元に設計されたモデルなのですが、単なる廉価版ではなく、実は進化している部分も多い、侮れない新作DAPです。

Fiio X5

個人的にFiio X5シリーズはこれまでに初代「X5」「X5 2nd Generation」の両方とも所有しており、とくに初代X5は長らくメインDAPとして、そしてX5 2ndはライン出力の据置きDACとして、どちらもそれぞれ一年くらい使い込んでいたので、ずいぶんと愛着があります。

初代X5(左)とX5 2nd Gen(右)

X5 2nd Genの時には、もうあのテキスト画面とグリグリダイヤル操作は嫌すぎて、次期X5が出るならば、絶対にタッチスクリーン操作であって欲しいと願っていたのですが、その願いがついに実現しました。

Androidスマホ系DAPというと、難解でバグが多い印象があり、あまり好きではないのですが、最近のやつはそこそこ安定しているみたいですし、なんにせよ旧X5よりも格段に使いやすいことは確実なので、素直に歓迎できます。

とくにFiioの場合、AndroidはX7ですでに十分な経験を積んでいるため、X5 3rd Genにはあまり致命的なバグは多くないようです。とは言ったものの、案の定これまでどおり、中国での初回ロットではソフトバグが多かったらしく、あちらのマニアが散々実験台になってくれた上で、より完全な姿で海外リリースの販売が始まるようです。

ちなみに日本の場合はX7でも問題になりましたが、代理店によるBluetooth搭載機器の「技適」手続きが面倒なので、そのせいで発売が遅れるのはいつももどかしいです。

ちょうどよいスマホっぽいサイズ感です

X5シリーズというと、大きすぎず小さすぎず、チープすぎず高級すぎず、Fiioというブランドの代表格というか、常にポータブルオーディオ業界を一歩先で牽引しているモデル、という存在感が強いDAPです。

私のFiio所有歴は、X3→X5→X3-II→X5-IIと、モデルチェンジごとに買い換えていたのですが、X7でAndroid搭載機になって以来、スパッと糸が切れてしまったかのように購入意欲が失せてしまいました。

X7でタッチスクリーン化されたことは嬉しかったのですが、発売当時は不具合が多かったため(その後アップデートでずいぶん修正されましたが)、その頃ちょっと使ってみて、これはダメだと思い、結局トラブルの少ないAKやPlenueに目映りしてしまいました。

Android系DAPといえば、最近では他にもOnkyo DP-X1やiBasso DX200など色々出ていますし、Youtubeや定額ストリーミングサービスとかを使う人であれば、選択肢も豊富で、とても便利時代になったと思います。

最近ではOnkyo Granbeatなど、SIM通信が使える「高性能スマホDAP」が台頭してきている感じなので、ストリーミングを求めているユーザーはそっちに移行するのが必然でしょうし、今後はより一層「ローカル再生DAP」と「ネットワークDAP」の二分化が進むだろうと思います。

X5 3rd Gen

X5 3rdの重量は168gということで、X5 2ndの165gとほぼ同じです。X7+AM1が220gだった事を考えると、ここまで軽量化するのによく頑張ったなと感心します。

X7は見かけ以上にズッシリしていたので、今回X5 3rdの意外なほどの軽さには拍子抜けしてしまいました。

この電源ボタンの配色は良いですね

今回使った試聴機はマットブラックフィニッシュですが、これまでのX5シリーズとはちょっと質感が違います。表面のザラザラ感は、どちらかというとiBasso DX80やAstell & Kern AK300に近い手触りでした。

ブラックの中で、唯一電源ボタンが「赤いリングに青いLED」というのが、ワンポイントでカッコいいです。

他にもシルバーっぽいやつと、メタリックレッドの派手なやつがあります。メタリックレッドは友人が持っているのを見たのみですが、かなり質感が良くて上出来でした。

ボリュームノブの仕上がりも上品です

ボリュームはX7のボタン式から、AK DAPシリーズのようなダイヤル式になりました。本体がV字にカットしてあるのもインパクトがありますし、ダイヤルのギザギザ加工とブロンズカラーのワンポイントも、実物で見ると、とても高級感があります。

3.5mmヘッドホン、2.5mmバランス、3.5mmライン出力

ライン出力はS/PDIF同軸デジタルにもなります

3.5mmヘッドホン出力端子は本体下側にありますが、その隣には、今回目玉の2.5mmバランスヘッドホン出力端子も配備されています。

ヘッドホン端子とは別に、ちゃんと3.5mmアナログライン出力端子も用意してあるのがFiioらしいです。ちなみにこのライン出力はこれまでのFiio DAPと同じく、ソフト上の設定によってS/PDIF同軸デジタル出力にもなります。

USBはごく一般的なマイクロUSBタイプですが、急速充電に対応しているので、タブレット用などの急速充電器と充電ケーブルを持っていれば、10時間再生のバッテリーを、ほんの一時間半ほどで完充電できるそうです。もちろんマイクロUSB用急速充電というのは各社で規格が入り乱れているので、うまくいくかどうかは運次第だと思います。

このタイプのSDカードスロットは大嫌いです

内蔵ストレージは32GB(OSがあるので、実際に使える容量は27GBくらい)ですが、X7ではマイクロSDカードスロットが一枚だったところ、X5 3rdでは二枚使えます。これもX5 2ndと同じですね。

ところで、写真にあるように、マイクロSDカードスロットが、iPhoneのように細い棒で押し出すタイプになりました。これは個人的にかなり嫌いなので、以前のような、カードが露出しているスプリング式のやつの方が良かったです。

私の場合、リスニング用・試聴テスト用・新譜用など、複数のカードを頻繁に入れ替えることが多いですし、とくにスマホのSIMカードとは違い、友達のカードと入れ替えて試聴することもあるので、毎回ペーパークリップを探し回るのが面倒です。

付属のクリアケースはスリムでカッコいいです

付属クリアケースがかなり上出来でした。これまでのFiioクリアケースというと、X5ではふにゃふにゃで黄色く変色するシリコンケース(しかも臭い)、X5 2nd Genでは透明プラスチック製で経年劣化でバキバキに割れてしまう、なんて、あまり良い印象が無かったのですが、今回は完全に透明で「程よく固く柔らかい」素材で出来ており、装着時でもあまりダサくないと思います。

3.5mmヘッドホン端子のみ露出しており、2.5mmバランスと3.5mmライン出力端子は、クリアケースの一部がキャップみたいな蓋になっています。ホコリ防止には有用ですが、これらの端子を多用する人にはかなり邪魔なので、事前にカッターなどで切っておくと良いと思います。

Fiio音楽プレイヤーアプリ

Android OSはX7では4.0系だったところ、X5 3rdでは5.0系を搭載しているため、その恩恵でスリープ時などのバッテリー省電力性能が向上した、とのことです。

画面機能のほとんどはAndroidスマホのものを流用しているため、普段からAndroidを使い慣れている人であれば、違和感なく移行できると思います。

上からスワイプした画面にPURE MUSIC MODE切り替えがあります

X7同様に、AndroidとPure Musicという二つのモードがあり、Pure Musicを選択すると、Fiio音楽プレイヤーアプリ以外の全ての機能が停止され、ホームボタンを押してもAndroidデスクトップすら使えない、DAP専用モードになります。

Androidモードだとデスクトップアプリとかが使えるようになります

一方Androidモードにするとデスクトップに行けるようになり、スマホのようにインストールアプリなどが使えるようになります。どちらのモードでもFiio音楽プレイヤーアプリ自体は同じなので、普段は頻繁に切り替える必要は無いと思います。

今回の試聴は全てマイクロSDカード内の音楽ファイルをPure Musicモードで聴いただけなので、その他の様々な機能は試していないのですが、無線LANやDLNA、Bluetooth 4.0 aptXなど、ガジェット的な使い方が好きな人であれば、色々な使いみちがありそうです。

PCM352.8kHz(DXD)も再生できました

純粋な音楽再生DAPとしての使用感は、そこそこ悪くないのですが、まだ基礎となるAndroid OSとの兼ね合いがあまり洗練されておらず、無駄に回りくどいと思える部分もありました。

画面左側にある設定機能を押すと・・・

この画面に連れて行かれます

たとえば一例ですが、音楽再生アプリ内にある「Settings」に行くと、「Gain」や「Channel balance」と書いてあるので、それをタップしてみると、ただ単にAndroid OSのオーディオ設定画面に飛ばされるだけでした(しかも、Gainを押してもGainに行くわけではないので、二度手間です)。

細かいところでは、この「Settings」画面はAndroidバックボタンやホームボタンでは消せず、左にスワイプしないと再生画面に戻れないとか、選曲画面で「Settings」を呼び出すと、なんの文字も無いブランクの画面が出てくるとか、画面を上からスワイプした画面にもGainなどのボタンが重複してるとか、文字化けが多いとか、アプリ開発の追い込みがいまいちAndroid UIガイドラインに沿っていない、つまり、結局はAndroid OS上で動く自作アプリ、という体は抜け切れていないようでした。

まだ一部UNICODE文字が中国語になってしまう文字化けが多いです

実用上さほど気にならないと思いますが、普段一番頻繁に使う部分だからこそ、新機能とかよりも、むしろもうちょっとアプリの完成度を高めて欲しいです。

旭化成D/Aチップなので、フィルタ設定も豊富です

オーディオ機能面では、D/Aチップが旭化成になったことで、フィルターの種類が以前のバーブラウンの二種類から、五種類に増えました。奇しくも前回取り上げたCowon Plenue 2と同じケースですね。唯一異なるのは、X5 3rd GenのAK4490はフィルタが5種類、Plenue 2はAK4497なので6種類ということだけです。だからなんだというほどのことでもありません。

ヘッドホン出力

X5 3rd Genのアンプ回路は、D/Aチップ後のローパスフィルター用OPA1642とゲイン用OPA426ということで、旧モデルX5 2nd Genの「OPA1652→OPA1612→OPA1612→BUF634」という構成から大きく変わりました。

これはD/Aチップが変わったことよりも、音質面では結構重要なことだと思います。

もっとも、D/Aチップが旭化成AK4490になったことでI/V変換が内蔵になって、別途I/V変換オペアンプが不要になった、というコストダウンのメリットはあります。

それよりも、X5 2nd Genではゲイン用のOPA1612の後にヘッドホン駆動用の電流バッファBUF634という定番アンプチップを搭載していたところ、X5 3rd Genではそれを排除してOPA426のゲインオペアンプ一発で賄っているというのが、よほど自信があるのでしょう。

ようするに、2nd Genの「I/V→LPF→ゲイン→バッファ」の4アンプ構成から、3rd Genの「LPF→ゲイン」の2アンプ構成にすることで、実質的に搭載アクティブICが半分になったことと、バランス出力対応のために回路規模が二倍になったことで、コスト的に調整しているのでしょうかね。他社の例を見ても、この価格帯でバランスアンプ搭載というのは、コストが結構厳しいものがあります。

いつもどおり、0dBフルスケールの1kHzサイン波をFLACで再生しながら、ヘッドホン出力に擬似的なヘッドホンインピーダンスを接続して、ボリュームを上げていって音割れ(クリッピング)が始まるまでの最大電圧を測ってみました。

前回Cowon Plenueシリーズの試聴時についでに測ったデータなので、比較対象もまずPlenueシリーズを見てみます。

かなりパワフルなアンプです

ご覧の通り、X5 3rd Genのヘッドホン出力はかなりパワフルで、Plenue 1・2を圧倒しています。さらに20Ω以下の低インピーダンスヘッドホンを使う際には、Plenue Sよりも安定して高出力が得られています。

この辺は、ポタアン開発のベテランであるFiioならではのパフォーマンスです。10Ωまでピッタリ最大電圧まで鳴らしきれているのは安心感があります。

AM1とAM2の中間くらいですね

さらに、過去のFiio DAPと比較してみると、最大電圧はX5-IIとほとんど同じで、低インピーダンス側の駆動に余裕が出た感じで、順当な進化だと言えますね。

Fiio X7と比べると、AM1とAM2アンプモジュールのちょうど中間くらいのゲインで、バランスの良い設計になっています。

ここまで力強いスペックを見せつけられると、他のメーカーは何をやってるんだ、と不思議に思えてしまいます。もちろん高出力イコール高音質とは限らないのがトラップなのですが、でも世間一般の購入者の考えとしては、せっかくDAPを買うのであれば、ひとまずどんなヘッドホンでも満足に駆動できるモデルを選びたいと思うのは当然だと思います。

Fiio X5 3rd Genは、多機能なAndroid機になったからといって、スマホ崩れみたいな貧弱なパフォーマンスには成り下がらず、よくもここまで低価格で、これだけのパワーを実現できたなと、つくづく感心しました。

音質

今回の試聴には、普段から使い慣れているUnique Melody MavisやベイヤーダイナミックAK T8iEなどを使ってみました。

そこそこパワーのあるアンプを搭載しているということで、大型ヘッドホンで250ΩのベイヤーダイナミックDT1770 PROも試してみましたが、全然問題なく、余裕を持って駆動できました。

まずX5 3rd Genのサウンドを一言で表すと、「丁寧でクリアでドライ」という印象でした。

安いアンプにありがちな特徴的なクセというようなものはほとんど無く、たとえば高域がギラギラ、シャリシャリしているだとか、低音がボンボン響くといったような、具体的な個性がありません。

逆に、派手さ をしっかりと抑え込んで、どんなリスナーでも納得できる整理整頓されたサウンドに仕上げているかのようです。楽器音の鳴り方が澄んでいて、過度な響きも抑制されているので、複雑な楽曲も混雑せずに、全部を聴き渡せるように狙ったような作り方だと思いました。足し算よりも引き算、というか、とくに他社との差別化は狙っておらず、かなり普通っぽい印象を受けます。

退屈でつまらない、というほどではないのですが、もうちょっと色気があってもいいんじゃないか、と思えるくらい実直で淡々とした鳴り方です。とくに中域の太さが楽しめた旧X5とはまるで別物の仕上がりだったため、なおさらそう感じるのかもしれません。様々な細かい音を聴き取る用途では、X5 2nd GenよりもX5 3rd Genの方が全体的に進化していると思います。

前回、Cowonの新作Plenue 2もあまり派手さの無いサウンドだと思いましたが、あちらはあちらで、根本的にCowonらしい、緩やかでマイルドな流れるような(若干ふわっとしている)サウンドなのですが、一方このX5 3rd Genはもっと冷たくドライで分析的な鳴り方のようです。これまでのFiioらしいかというと、そうとも思えません。

Fiio DAPというよりは、たとえばRME Firefaceとか、最近だとMytek Brooklynといった、プロ用オーディオインターフェスに近い感じもします。与えられたデジタルデータに対してしっかり仕事をしているな、という安心感は十分あるので、この価格帯のDAPとして、無駄に派手さや濃厚さを主張したサウンドでないことは嬉しいです。

Plenue S(右)と並べてみたところ

5万円という価格帯を考えると十分優秀だと思います。普段から聴き慣れているPlenue SやAK300シリーズなどと比較してみても、操作性や機能性は十分肩を並べられるくらい肉薄しているのですが、ただし音質の充実感では、やっぱり超えられない大きな差が感じられます。

上位DAPと比べて弱点だと思えたのは、あと一歩のところで、なんだか軽薄な感じがするので、もうすこしパワフルで勢いのあるサウンドが欲しいかもしれません。あとはスケール感が欲しいところで、空間の広さ、音場の展開などが平面的すぎると思います。

Fiio X7と比較してみると、スタンダードなX7+AM1の組み合わせであれば、X5 3rd Genでもそこそこ良い勝負だと思います。しかしX7の場合アンプモジュールを換装できるので、個人的にはAM5モジュールのサウンドを非常に気に入っていますし、一方私があまり好きではないAM2モジュールにも多くのファンがいることから、人それぞれ好みに応じたアンプモジュールでグレードアップできるという強みがあります。

他社のDAPでは、たとえば5~6万円クラスのライバルiBasso DX80やAstell & Kern AK70と比べてみると、クールでドライなX5 3rd Genと、肉厚でホットなDX80、明るく音色が楽しいAK70、といった感じで、性格はそれぞれ対照的でありながら、どれが特出して優れているとも断言できない、「同クラスのライバル」に収まっています。

その中では、個人的にAK70を高く評価しているのですが、それが一番「高音質」だから、というわけではなく、むしろ限られたコストの中であえて完璧は望まず、明るく楽しいサウンドに仕上げているところが上手だと思います。自動車に例えると、300万円で渡来スポーツセダンと張り合うのではなく、楽しいワンボックスカーを上手に仕上げている、みたいな感じでしょうか。

一方、もっとカジュアルな、たとえば2万円台のソニーNW-AシリーズやCowon Plenue Dなどと比べると、X5 3rd Genはサウンドの見通しの良さや、ヘッドホンをしっかりと駆動している感覚など、全面的に飛躍的な音質向上がハッキリと感じ取れるので、やはりポータブルDAPというのは(ある程度までは)ちゃんと値段相応で、しっかり差が出るものだなと、今更ながら実感がわきました。

バランス出力

X5 3rd Genは最近の流行に準じてAstell & Kernタイプの2.5mmバランスヘッドホン端子を装備しています。こないだのCowon Plenue 2も2.5mmを採用したので、世間は2.5mmに統一されつつある感じですね。一方ゼンハイザーはソニーの4.4mmを制式採用するみたいなので、またややこしくなりそうです。

Fiio純正2.5mmケーブルを使いました

据え置き型ヘッドホンアンプの場合、バランス出力を搭載する意義は納得できる部分も多いのですが(シャーシアースから浮かせるなど)、それと比べて、感度の高いIEMなどを使うことの多いポータブルDAPでバランス仕様というのは、百害あって一利あるかも、程度に考えています。

多くのポータブルDAPでは、バランス接続だと接地アイソレーションが不十分でUSB充電中にノイズが乗ったりなど、バランスアンプならではの配慮が甘く、なんだかちゃんと設計出来てないんじゃないか、と思うことの方が多いです。

実は今回、X5 2nd GenからX5 3rd Genに買い換えようかと考えた時にネックになったのが、アンプ部分の甘さでした。

先程の出力グラフで見られるように、かなりの高出力(高ゲイン)を狙ったアンプだということは納得できるのですが、一方で高感度イヤホンでの使用感に難がありました。

この組み合わせはダメでした

極端な例として、非常に感度が高くて悪名高いCampfire Audio Andromedaイヤホンを、まず3.5mmアンバランスの方に接続してみると、ボリュームノブの位置に関わらず、うっすらと「プーーーー」という一定のノイズが聴こえます。充電中ではなくバッテリー駆動で、ゲイン設定も高・低どちらでも変わりません。ほんの微小なノイズですし、感度が高くないイヤホンであればほぼ聴こえませんが、イヤホンを耳に入れた瞬間から気になりました。

一方、2.5mmバランスケーブルに換装して接続してみると、今度はかなり大きな「サーーーー」というホワイトノイズが聴こえます。これは、実用上支障をきたすので、ダメだ、と思いました。リスニング中でも、たとえばピアノソロ演奏など、静寂が多い曲だと、録音中のバックグラウンドノイズ以上に、アンプのホワイトノイズが目立つくらいです。

サウンド自体は、バランス駆動にすることで繊細でマイルドな傾向になる感じで、なんとなくアバウトな、聴きやすい優しい印象でした。

ベイヤーダイナミックAK T8iEのような16Ωダイナミック型イヤホンでは、バランス駆動でも「サー」ノイズはかろうじて聴き取れる程度でしたが、それでも無音状態でケーブルを出し入れしてみると、ノイズの存在は一目瞭然でした。

こういったアンプのホワイトノイズに関しては、あまり過敏になるのもダメだとは思いますし、実際世の中にはもっとノイズ出まくりなヘッドホンアンプも多いです。最大音量でも1ボルトにも満たない高能率イヤホンの場合、たった数ミリボルトのノイズでもしっかりと音として聞こえてしまうため、アンプ設計者にとっては、鳴らしにくいヘッドホンなんかよりも頭を悩ませる課題です。

とくに、最近のハイレゾブーム、24bit音源などが持て囃されている中、録音自体も広大なダイナミックレンジを活かすような作り込みが増えてきています。音楽の聴き方も、これまでのような主役オンリーのTV・ラジオ的な魅せ方だけではなく、楽器の響きが最後まで伸びきる感覚や、ホールの距離感など、微小な信号を脳が処理して、擬似空間を形成する聴き方も重要になってきました。

意識しないと聴き取れないくらいの微小な信号でも、それがホワイトノイズにかき消されてしまうと、音像の空間が平面的になってしまいます。つまり、「どうせボリュームを上げればノイズなんて気にならないだろう」というわけにはいきません。

例えば、映画を観る時に、「純粋に俳優の顔とセリフだけしか眼中にない」、という人と、「背景の空気感や光の使い方、BGMなども気にする」人とに分かれると思います。私は絶対に後者だ、というつもりは無いのですが、せっかくの最新高性能DAPということで、とくに気になった点がこれだった、ということです。

ようするに、アンバランスとバランス接続における音質(とくに空間や音像の)差というのは、駆動力のみではなく、こういったノイズ由来の部分も大いに影響してくるのでしょう。アンプの「音質」というのは色々な要素が複雑に絡んでくるのですが、その積み重ねの結果、X5 3rd Genの音質は、とても優秀でありながら、今一歩、より上級のX7などのアンプには届いていないようでした。

まとめ

前作Fiio X7は、同社が初めて開発したAndroidタッチスクリーンDAPということで、膨大な初期開発コストがかかったのでしょうけれど、X5 3rdはそこで培ったノウハウがあるため、高いコストパフォーマンスを実現できています。

また、軽量コンパクトなサイズ感や、マイクロSDカードが二枚挿せるなど、意外と多くの部分でX5 2ndの利点を継承しているため、実はX7よりも実用性が進化している部分が多いです。

もちろんX7が売れなくなってしまったら困りますので、その辺は、アンプ交換モジュールはX7のみの特権とすることで、説得力のある差別化が実現できています。

機能や操作性については、そこそこ満足できたX5 3rd Genですが、音質は結構淡々としてます。個人的にはもうちょっと華のある美音系サウンドを期待していたのですが、それとは真逆の純然としたプレーンなサウンドです。

大型ヘッドホンでも十分に駆動できるだけのパワーがあるので、出先のモバイル用途のみでなく、家庭用ヘッドホンなんかも鳴らせますから、あえて色濃く味付けするよりも、X5 3rd Genのようなクリアで淡々としたチューニングは正解なのかもしれません。

バックグラウンドノイズが高めなのも、一般的なイヤホン・ヘッドホンであれば、ほとんどの用途では気にならないレベルだと思いますが、音質に少なからず影響を与えますので、自分のイヤホンでテストしてみる必要があります。これが弱点だと思ったポイントです。

なんだかんだ言っても、X7とX5 3rd Genの一番大きな違いは、登載している機能などではなく、サウンドの方向性なのだと思います。

X7のような10万円クラスのDAPというと、ベテランユーザーが、自分のお気に入りのイヤホン・ヘッドホンと合わせて使うパートナーとして、試聴を繰り返し、納得した末に購入するようなモデルだと思います。

一方、X5 3rd Genは、たとえばヘッドホンオーディオを模索中で、すでに数万円レベルのイヤホン・ヘッドホンをいくつか買って持っているようなユーザーが、スマホからのステップアップとして検討するにはベストに近い候補です。

Fiio X5シリーズというのは、世代ごとに形は変われど、常に限られた予算の中で実現可能な機能性とパフォーマンスをギリギリまで詰め込んでいるので、ここから上は、費用対効果が急激に悪化しはじめる、ターニングポイント的な存在なのだと思います。