2017年8月8日火曜日

AZLA イヤホンのレビュー

韓国の新たなイヤホンブランド「AZLA」から、同名のデビューモデル「AZLA」イヤホンを購入したので、感想とかを書いておきます。

AZLAイヤホン

2017年8月発売の密閉型IEMイヤホンで、価格は約5万円弱と、そこそこ手が出しやすいモデルだと思います。

買ってしまった理由は、単純にデザインがカッコよかったから、というのもありますが、大ぶりな音響ハウジングとダイナミック+BAのハイブリッド同軸ドライバーというユニークな構成が、一体どんな音がするのか気になったからです。


AZLA

このAZLAというイヤホンについては、ネット上の各メディア媒体や個人ブログなどでかなりの数のレビューがあるので、細かい技術情報とか音質評価とかはそっちのほうが参考になると思いますが、私もせっかく興味本意で買ってみたので、メモしておこうと思いました。

面白そうだったので買ってみました

近頃の、飽和しまくっているイヤホン市場においては、単純に新製品を出して、店頭に並べれば売れるというほど簡単ではないのですが、このAZLAイヤホンを販売しているのは、Astell & Kernなどを取り扱っているアユートなので、そのへんのマーケティングもお手の物だと思います。

こういう話題性のある商品というのは、世間に対して斜に構えている人だと「どうせマーケティングに踊らされてるだけだろう」と距離をおいてしまいがちなのですが、それにしても、短期間でここまで多くの人が興味を持つということは、単純にそれだけ潜在的な需要があったという事だと思います。

時系列で見ると、デビューの手際良さに感心します。まず2017年7月11日に公式発表があり、その時点で公式ホームページも丁寧に作られており、その日のうちに各大手ショップブログなどでニュースが巡回し、その週末には視聴者数が多いeイヤホンTVで詳細動画があり、翌週にはイヤホンショップで試聴会、さらに同週末に秋葉原ポタフェスにて大規模な試聴機ブースが用意される、という、絵に描いたような怒涛の展開です。

とくに秋葉原ポタフェスでは多くのAZLA試聴機が準備されていたのですが、連日尽きることなく長蛇の列ができており驚きました。マーケティングもさることながら、それだけ世間のイヤホンマニアが最新情報に敏感なことも凄いですね。

私もイベント当日に行列に並んで、ほんのちょっとだけ試聴してみたのですが、ものの数分でしたし、周囲の騒音で音質もあまりよくわからなかったので、せっかくなら買ってみようとアマゾンで予約する事になってしまいました。

デザイン

AZLAイヤホンは韓国でポータブルオーディオ業界の中心にいた人物が立ち上げたプロジェクトということで、さすが、市場を熟知したスキの無い商品に仕上がっています。

汎用性の高いデザインです

商品説明を読んでみると、製品企画の「お手本」と呼べるくらい入念で手際よい戦略です。まず、肝心のドライバーを手掛けたのは韓国老舗のDynamicMotion社、ケーブルは香港の高級ケーブルブランドLabkable社、ケースはDAP用などで有名な韓国のDignis社、といった感じに、マニアックなポータブルオーディオ業界のオールスターチームのようなプロジェクトです。

ちなみにDynamicMotion社は日本ではあまり知られていませんが、たとえばファッションブランドなどのイヤホン・ヘッドホンを陰ながら設計・製造している、OEM界のベテラン企業で、例えるなら日本のフォステクスみたいな、縁の下の力持ち的メーカーです。

そんなわけで、「急に現れて、一体どこの馬の骨だ」という疑念が無くなると、イヤホンマニアの心情としては、「ケーブルも流用できそうだ」とか「ケースも実用的そうだ」なんて、買う口実をいくらでも見つけてしまうものです。そもそも、このAZLAイヤホンがなぜここまで注目を集めているのかというと、単純に「これで5万円なら・・・」という十分な説得力があるからだと思います。

私自身も、とくに最近は、話題性のある何十万円もするような高価なイヤホン・ヘッドホンばかり試聴する機会が増えてしまい、実際「どうせ聴いても買えないし・・」と、虚しく思っていたので、そんな中で現れたAZLAイヤホンは「これなら買っても良いかも」と思えてしまいました。

私だけではなく、各大手イヤホンショップの年間売上げランキングとかを見ても、なんだかんだで、やはりこの5万円弱という価格帯が一番の売れ筋のようです。

5万円が高いか安いか、という問題ではなく、世間の様々な娯楽商品と比較した上で、たとえばSWITCHやPS4などのゲーム機や、iPadのようなタブレットなど、学生・社会人ともに「ここまでなら娯楽に出せる」と納得できるギリギリの心理ラインだと思います。

ところで、近頃の何十万円もするような高級イヤホンに必須のキーワードというと、下記のようになります:
  • 耳掛け式
  • マルチドライバー
  • 交換可能な(MMCX・2ピン)高級ケーブル
  • 汎用サイズのシリコンチップ

そんな条件を全て満たし、さらに、なにやら新しいハイブリッドドライバー技術を搭載しているとなれば、おのずと注目を集めるのは当然です。このリストの条件が一つでも欠けていると、(たとえば、ケーブル端子が特殊形状だとか)、購入をためらう理由になってしまいます。

はじめての高級イヤホンとして買うにも申し分無いスペックですし、さらに、すでにこの価格帯でWestone UM-PRO30・Shure SE535・ゼンハイザーIE80のようなベテランモデルを愛用しているユーザーでも、そろそろ買い換え時期かな・・・なんて気にさせてくれます。

そんな感じで、このAZLAというイヤホンは、ネット情報で見た事前情報と、現在の市場を照らし合わせてみて、ちょうど良いと思わせてくれるところがポイントだと思います。

シンプルな紙パッケージ

説明書類

パッケージ中身

付属のナイロンケース

中の仕切りはベルクロで取り外しできます

さすがに肝心な部分以外はかなりコストダウンしている雰囲気が感じ取れます。パッケージは簡素な厚紙製ですし、付属の収納ケースもレザーやアルミではなくナイロンです。

よく他社のイヤホンを買ったら豪華なアクセサリー盛りだくさんで「そんなの要らないから、もっと値段を安くしてくれ」と思うことがあるのですが、AZLAの場合はあえて簡素にすることで、本体にコストを割いているぞという意気込みが伝わります。

INFINITY DRIVERと書いてあります

本体を眺めてみると、巨大なハウジング内はほとんどスカスカで、肝心のドライバーユニットは金属カバーに覆われています。ちなみに私が買ったのはグレーのやつですが、シルバーも売っています。

金属カバーに大きく書いてあるように、INFINITY DRIVERというのがセールスポイントらしいです。これは、ハウジング技術の「Infinity Sound Technology」とドライバー技術の「BED」をまとめてそういった名称で呼んでいます。具体的な部分は、公式サイトにて展開イラストを含めた丁寧な詳細が載っていますが、個人的な感想としては、2017年現在におけるイヤホンのトレンド最先端を行く意欲的なコンセプトだと思います。

同軸ドライバー

AZLAのデザインで一番ユニークな点は、11mm低音用ダイナミックドライバーの中心に高音用BAドライバーを詰め込んだ、「BED」という名称の同軸2WAYドライバーを登載していることです。これは世間でもあまり類を見ない技術です。

公式サイトから、BEDドライバーのイラスト

金属ケースに覆われて見えません

同軸ドライバーというのは、スピーカーの世界では、大昔から一部のマニアのあいだで絶大な支持を得ており、とくにイギリスの二大メーカーである、タンノイのDual Concentric DriverとKEFのUni-Qという伝統的なモデルがあります。

タンノイのDual Concentric Driver

KEFのUni-Q

カーオーディオの同軸2WAY

また、多くのスピーカーを搭載するスペース余裕の無いカーオーディオの世界でも頻繁に使われている技術です。

大型スピーカードライバーの中心部分は、実は何の役割も持たない、通称「ダストキャップ」と呼ばれている部品なので、そこにもう一つ小型のスピーカーを入れてしまおう、という単純なアイデアです。もちろん、直径200mmのスピーカーでならともかく、AZLAの11mmドライバーでそれをやるのは至難の業でしょう。

省スペースはもちろんのこと、同軸ドライバーのメリットとしてよく挙げられるのは、高音ドライバーと低音ドライバーの縦位置が揃うため、時間軸が揃って、波形の位相がピッタリ合う、ということが言われています。

実際のところ、たとえば1kHzの音の波長は約34cm、10kHzで3.4cmなので、ほんの数ミリのドライバーのズレによる位相ズレが極端に目立つようなものでもありません。(大きなスピーカーのツイーターとかなら効いてくるかもしれませんが)。とは言っても、オーディオは謎が多いので、無視するよりも対策したほうが良い、ということでしょう。

個人的に、イヤホンでの同軸ドライバーのもっと現実的なメリットは、二つのドライバーを音導管の手前で直線的に配置できる、ということが大きいと思います。とくに高音用BAドライバーというのは指向性が強く、配置角度によって周波数特性が変わってしまいますし、さらに、多くのBAイヤホンの場合、曲がりくねった細長いチューブを経て回析しながら耳元に到着するのが良くないです。それを極限まで排除して鼓膜へストレートに音を届けるためには、同軸ドライバーが最善のアイデアだと思います。

DynamicMotion DM200H

ところで、このアイデア自体は、AZLAのドライバーを手掛けたDynamicMotion社がすでに自社ブランドにおいて「Bulls Eye Driver」という名称で商品化しており、2016年中盤にはDynamicMotion DM200Hといったイヤホンに搭載されています。

もちろんドライバーそのものは今回AZLA専用にカスタマイズされていると思いますが、つまり未知数なヘンテコ技術というよりは、DynamicMotion社が生み出した渾身の力作を、技術提携のような形で採用したのでしょう。

実際DM200Hは同軸ドライバーのポテンシャルを実証する優れたイヤホンだと思いますが、硬質な小型ハウジングのせいか、どうにもシビアでキツいサウンドだったので、今回AZLAにて、さらにドライバーの潜在能力を引き出すような進化を遂げたと思います。

ハウジング

AZLAが「ハイブリッド型」だと呼ばれているのは、ダイナミックとBAという二種類のドライバーを搭載しているから、という理由とは別に、さらに開放型と密閉型という二つのデザイン概念を両立させているからでもあります。

ケーブルが出ている部分が開放ポートのようです

本体をよく見てみると、ドライバーを覆っている金属部品が、それ単体で独立した「開放型イヤホン」の設計になっており、それだけでおおよそのサウンドチューニングが仕上がっています。

しかし、ポータブル向けのIEMイヤホンということで、遮音性や音漏れに配慮するとなると、「密閉型」である必要性があるので、そのために、プラスチックの密閉ハウジングを被せています。

あえて透明プラスチックを使い、そんな二層構造を明確に示している演出がユニークだと思います。公式サイトの宣伝フレーズにも、「オープン型のサウンドステージと密閉型の遮音性を両立させる」と書いてありますが、それをここまで具体的に提示しているのは画期的です。

世間一般のイヤホンというと、たとえばマルチBA型イヤホンのように、ギュウギュウにドライバーが詰め込まれていて音響的な配慮が無い、ほぼ耳栓状態の完全密閉型デザインがある一方で、シングルダイナミック型で、よく見るとハウジングに小さな通気口を空けてセミオープンにすることで、ドライバー単体では出しきれない豊かな低音やシャープな高音を、ハウジングの反響で補うようなデザインもあります。(セミオープンというのは、オープンとクローズの中間という意味ではなく、特定の周波数のみを外に逃し、それ以外を反響・吸収させ、サウンドのチューニングに利用しているという意味です)。

しかし、ハウジング反響を過剰に使ってしまうと、クセが目立ち、いつまでも響きの「唸り」が消えない、いわゆるレスポンスが悪いサウンドになってしまいます。

そんな風にいろいろと考えても、明確な単一の回答は無いということです。世の中のイヤホンはそんな中で右往左往している状態です。

ここまでハウジング内空間が広いイヤホンは見たことがありません

AZLAが提案した回答は、開放型イヤホンを基本として、十分すぎる空間余裕のある巨大なハウジングを被せれば、背圧はそこに逃がせるし、不快な反響も少ない、というアイデアです。

ドライバー裏側の通気口から逃げる空気が、ハウジング内部の緩やかな曲線で自然に拡散されるように、物理解析や素材選びなどで上手に設計するところがキモなのでしょう。

そうすることで、ドライバーから出る音は開放型のような自然さで、実用上は密閉型、というメリットを両立できます。

たとえば、内部のドライバーユニットが「ロックバンド」だとして、透明ハウジングは「バンドの練習スタジオ」だと当てはめてみれば、想像できると思います。出来るだけスペースは広い方が良いですが、青空の下で完全開放ではダメですし、あまりガチガチの無響室にしてしまっても味気ないですし、逆にモコモコキンキン響きすぎても困るので、そのちょうど中間になるような気持ち良い空間が、「自然」だと感じられます。

ところで、くだらない話ですが、私がイヤホンを試聴するときに必ず試してみることがあります。それは、音楽を聴きながらイヤホン本体を指でグッと耳に押し込んでみて、音がどうなるか、という実験です。

多くのイヤホンの場合、それをやると空気の圧力でドライバーが「詰まって」しまい、音が出なくなります。そのため、ソファーで横になっている時など、イヤホンが枕に圧迫されて音が出なくて困るわけです。

これをAZLAで試してみると、本体を押し込んでも音が全く乱れないことに驚きます。つまり、開放型ドライバーの背圧が密閉ハウジングの中で自己完結しているため、外部の圧迫に影響されないということでしょう。

ケーブル

ケーブルは編み込みタイプで、透明ビニール被覆なので「銀合金+OFC」ということがハッキリわかるようなデザインです。

耳掛け部分はワイヤー入りで、アンプ側は3.5mmのL字端子です。柔軟性も良好で、タッチノイズもほぼ無い、使いやすい優秀なケーブルです。

豪華なケーブルです

AK DAPで有名なアユートからの発売なので、2.5mmバランスケーブルも同梱しているかと期待していたのですが、さすがにこの価格では無理だったようです。公式サイトによると同じ線材の2.5mmバランスケーブルは別途販売するということなので、どれくらいの値段になるのか気になります。

Labkable社に設計を依頼したということで、そこそこ悪くないであろう事は想像できます。音質も、若干キラキラですがキンキンしておらず、しなやかで美音っぽい印象なので、他のイヤホンに流用してみても面白いと思います。たとえば高音は維持したいけど硬さをほぐしたい場合には、相性が良いと思います。

Labkableは日本ではあまり有名ではありませんが、サイト(→http://labkable.com/)を見れはわかるように、香港ではかなりの大手企業で、自社の高級ケーブルブランド以外にも、オンラインストアで他社の高級切り売り線材やオーディオアクセサリ類を積極的に販売しています。

2ピン端子です

一般的に「カスタムIEM用」と呼ばれている2ピン端子なので、様々な社外品ケーブルと交換できます。ひとつだけ、AZLAのデザインで残念だなと思えるのは、ケーブル端子の接続向きが明確になっていないことです。

これは発売間近で気づいたのか、パッケージ内に説明書とは別に、ケーブルの正しい向きについてのイラスト紙が同梱されていました。右は赤丸、左は青丸のマーカーが本体上向きになるように装着してくれとのことです。

装着方法の資料があります

本体のケーブルの色で端子向きがわかります

幸いなことに、本体ハウジングが透明で、しかも内部配線にもケーブルと同等の線材を使っているようなので、銅と銀のワイヤーをそれぞれ合わせることで正しい向きになります。ちなみに「銀色がグラウンド(マイナス)側」ということを覚えておけば、社外ケーブルを装着する際に役立つかもしれません。

社外品ケーブルに交換できます

さらにちょっと気になる点としては、端子穴がハウジング表面にあるので、事故でピンを曲げてしまう心配もあります。できればUnique Melodyのように端子のプラスチック部分までグッと押し込めるようなくぼみを設けて欲しかったです。

インピーダンスとか

自慢の同軸ハイブリッドドライバーがどんなものなのか気になったので、簡単にインピーダンスを測ってみました。

インピーダンスと位相グラフ

片チャンネルごとの(反対側ユニットはケーブルから外して)ケーブルを含めたインピーダンスグラフです。

ちなみにケーブルは40kHz以上まで0.4Ω/2.4mをキープしていたので、無視して構わないくらい優秀です。聴感上のクロストークもほぼありません。

公式スペックのインピーダンスは「24Ω」ということですが、グラフ上の実測もピッタリそのとおりでした。左右のバラつきもほとんど無いです。

ダイナミック+シングルBAのハイブリッドだということが明らかにわかる測定結果になりました。低音から1kHzくらいまではダイナミックドライバーらしい平坦なインピーダンスで、それ以上の高音域では一旦落ち込んでから一気に上昇していく、BAらしいインピーダンス特性です。

可聴帯域での最低インピーダンスはおよそ11kHzの16Ωで、それ以外はほぼ24Ω付近をキープしており、位相プロットを見てもかなりフラットなので、マルチドライバーでありがちな急激な反転や位相ズレが無い、極めて優秀なデザインです。つまり、ダイナミックドライバーらしい中低域と、BAらしい高域を見事に融合させた、ハイブリッド型はこうあるべきという手本のような測定結果です。

装着による変化

また、実際に耳に装着した状態でインピーダンスを測定したものを重ねてみました。

グラフを見るかぎり、装着時でも特性にほとんど変化が見られません。とくに、ハウジングで響かせるタイプのイヤホンにありがちな、低音側のインピーダンスの乱れ(低域の共振点や音が響く箇所)が無いことに驚きました。

つまり、デザインの狙い通りに、「密閉型でありながら、開放型のような特性」を実現出来ているようです。

装着感とイヤーチップについて

AZLAは一般的なS・M・Lサイズのシリコンイヤーチップが同梱されています。

Lサイズのシリコンチップを装着した状態

3サイズの付属シリコンイヤーチップ

いろいろ試してみた結果、他社のイヤホンよりもかなり極端に、イヤーチップのフィットによって音質が左右されるようです。密閉が悪いと低音が全然出なくなってしまいます。

私は普段他のイヤホンではMサイズを使っているのですが、AZLAでは付属「Lサイズ」で耳孔の一番外側にちょっと押し込むくらいで装着すると、フィットが安定して、低音もバランスよく鳴ってくれるため、ちょうど良い結果になりました。

Mサイズを使ってみても、なんだかピッタリせず、ちょっと首を動かしただけで左右のバランスが狂ってしまいました。

Sサイズは自分の耳では全く密閉感が得られず、シャリシャリしたラジオみたいなサウンドになってしまいました。本体をグッと指で押し込むと低音が出てくるのがわかるので、つまり密閉することが肝心なようです。

また、本体の装着に関しても若干コツがあって、私の場合は普段のIEMと同じように装着しようとしてもポロポロ外れてしまいました。たぶん音導管とケーブルの角度・位置関係が自分の耳の形に合ってないのでしょう。

いろいろ実験してみたところ、ケーブル端子を上向き45°ではなく、ちょうど正面を向く0°になるくらいの位置で、ピッタリとしたフィット感が得られました。そのようにしてからは装着感に不満はありません。

SpinFitは音質・装着感ともに良好でした

社外品イヤーチップをいくつか試してみたところ、普段から愛用しているSpinFitのMサイズが、ちょうどAZLA同梱チップのLとMサイズの中間くらいのフィット感で、自分の耳にピッタリだったので、AZLAのLサイズと同じくらいの高音質が得られました。

私の場合、自宅でじっくり音楽を聴く場合ならAZLAのLサイズが良いですが、動き回るのであればSpinFitの方が外れにくくて良かったです。

結論として、AZLAはイヤーチップの密閉具合にかなり敏感なので、試聴する際には気に留めておくべきです。

追記:
AZLAはイヤーチップとの相性がシビアだということは多くのレビューなどで指摘されており、とくにeイヤホンさんのブログでは、かなり大掛かりな比較試聴テストを実施していて、大変参考になりました(→【やってみた】AZLAに合うイヤーピースを選んでみた!)。

せっかくだから私も色々試してみようと手当たり次第装着してみたところ、eイヤホンの評価と概ね同じ感想になり、最終的に、個人的に一番合うと思ったのは、ソニー「コンフォートイヤーピース」でした。

このソニーのやつは、コンプライとシリコンのちょうど中間くらいの低反発枕みたいな素材で出来ているので、通常のシリコンよりも劣化は早いと思いますが、フィット感はかなり良好です。

ソニー コンフォートイヤーピース

これまでは、このイヤーチップを使うと音がモコモコしておとなしくなりすぎてしまうため、他のイヤホンではほとんど使わなかったのですが、AZLAは若干刺激的なサウンドなので、このイヤーチップで若干まろやかにすることで良い感じになったと思います。(あとは、ソニーMDR-EX1000とかと相性が良いと思います)。

SpinFitのほうがしっかりとフィットする感じはするのですが、結構奥の方まで入っていくせいか、AZLAで2-3時間使っていると、太い金属音導管の角が耳孔にぶつかるようで、だんだん痛くなってきます。その点、このソニーのイヤーチップのほうが、奥まで入らず、なんとなくモチっと密着している感じで、安定感も音質も良かったです(遮音性はSpinFitよりも悪いです)。

音質とか

肝心の音質についてですが、エージングが重要だということらしいので、2日ほど鳴らしっぱなしで色々な音楽を聴き通してみました。たしかに開封直後はかなりギラギラした感じが強かったですが、だんだんと落ち着いてきたような気がします。

遮音性も音漏れの少なさも良好なので、イヤーチップのフィット感さえ得られれば、IEMイヤホンとして通勤通学にも普通に使える部類です。インピーダンスは24Ω、能率は104dB/mWなので、普通にスマホでも駆動できます。

試聴には、あいかわらずポータブルDAPのPlenue Sをメインで使いましたが、もうちょっと中域の厚みが欲しいと思ったこともあったので、JVC SU-AX01との相性も良かったです。音質の傾向からして、どちらかというとドッシリと厚みのあるアンプの方がマッチしていると思います。

試聴をはじめて真っ先に「クリア!」と驚くくらいクリアで明朗な音色に驚きました。アーティストの音像が目の前に浮かび上がるような、立体的で臨場感のあるサウンドです。

周波数特性は、低音寄りか高音寄りか、なんて考えるのがバカらしいくらい、地響きのする低音から、シャープで尖った高音まで、余すことなく広帯域に鳴らしきってくれるので、さすがハイブリッド型だと納得できる仕上がりです。

大きなハウジングによる音響も、よくありがちな低音をモコモコさせるようなギミックではなく、もっと空間的に、アーティストの背後に大きな空間を感じさせるような余裕を生み出しています。つまり密閉型イヤホン特有の閉鎖感とは真逆の効果を演じてくれるので、狙いは成功しているようです。

このAZLAイヤホンが面白いのは、そんな風に、設計のコンセプトが、しっかりとサウンドに反映されていることが実感できることです。


Criss Crossレーベルから、2017年の新譜でMatt Brewer 「Unspoken」を聴いてみました。

いつも試聴にCriss Crossレーベルばかり使っているので、もしかしたら私が求めているのは、「Criss Crossレーベルが良く鳴ってくれるイヤホン」に限定できるのかもしれません。まあ他のジャズ・レーベルも大体同じスタジオを使っているので、サウンドは似たり寄ったりですが。

リーダーのMatt Brewerはベース奏者なので、このアルバムでは目まぐるしいベースラインが楽しめます。サックスには珍しいBen Wendelが参加しているのも面白いです。

AZLAでジャズを聴いてみると、演奏者の人物像がクッキリ立体映像のごとく浮かび上がる感じなので、あまり細かいことは気にせずに、純粋にホットな音楽にのめりこめます。

とくに、BAドライバーのおかげか、一般的なシングルダイナミック型イヤホンよりも、ギターやピアノの金属弦がよく伸び、鈴鳴り感が気持ち良いです。

低音に関しては、重量もエネルギーも圧倒的で、しかも不快に耳を覆うような鳴り方ではなく、きっちり本物のベースっぽく鳴ってくれます。

たとえば、低音の鳴り方に定評のあるベイヤーダイナミックAK T8iEイヤホンと比較してみると、T8iEが「優秀なスタジオモニタースピーカーから出てくる録音された低音の音」を聴いているのに対して、AZLAはイヤホン本体がウッドベースのボディの代役として、空気の息使いを真似しているような感じです。つまりモニター調というよりは演出過多っぽい気もしますが、効果としては絶大です。

2WAYドライバーということで、クロスオーバー付近が破綻しているかどうか入念に聴いてみたのですが、そこまで違和感はありませんでした。BAとダイナミックという事実を意識させないくらいにスムーズな繋がりです。とくに、二つのドライバーをまたぐピアノやギターが凄く映えるので、双方の特性が上手く加算されていることがわかります。

若干、テナーサックス辺りの表現が軽めで、太さや丸さが足りず、ある帯域に押し込まれたような「ラジオっぽい」鳴り方に聴こえます。もしかすると、これがドライバーの境界線なのかもしれません。男性ボーカルに例えると、腹から声が出ていないような感じがするので、その部分はもうちょっとドッシリ構える厚みや骨太さがあってもよかったかもしれません。

情報を詰め込みすぎず、周囲の空間に余裕があるせいか、ステレオ音像の再現が優秀で、まるでクロスフィードのように、アーティストの音像がしっかりリスナーの前方で結像してくれるのがわかります。

では、より高価なイヤホン勢と比べるとどうかというと、個人的に、一番系統として近いのは、AK・JH AudioのThe Siren Seriesだと思います。とくにAngieやRoxanne IIのようなめざましく歯切れのよいサウンドには共通点がいくつも思い当たります。ただしあちらはもうちょっとドライで切れ味重視の仕上がりで、解像感も高いです。一方低音や臨場感に関しては、AZLAの方がダイナミックスピーカーっぽい豊かな広がりを見せてくれます。

ほかに、たとえばNoble Audio K10 Encore・Katana、Campfire Audio Andromeda、JH Audio 16v2(AKではないやつ)など、私が個人的に好きな定番ハイエンドBAイヤホンと比較してみると、やはりそれらとAZLAでは目指している方向性が大幅に違うと思いました。

ハイエンドBAイヤホン勢は、録音の小さなディテールや、何層にも重なりあう音を分解し解像することを得意としており、たとえば一人の歌手を取り上げるとしても、その歌手の全体像に魅了されるよりも、口元の細かな動きや、マイクからそっと距離を置いたときの影の乗り方などに一喜一憂するような聴き方です。

もちろん、それはそれですごく楽しいので、優劣はつけがたいです。つまり高価なBAイヤホンが、いわば本格派イヤホンリスニング環境なのだとすれば、AZLAは、ライブハウスの熱気の中に飛び込むような充実感があります。


RCA Living Stereoから、シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のドビュッシー「海」を、Analogue ProductionsからのDSDリマスター盤で聴いてみました。

ステレオ録音初期の1958年に録音された歴史的な名演ですが、この当時の米RCA Victorレーベルは現在にも引けを取らない超技術で録音を行なっていたので、未だにオーディオマニアの試聴テスト盤として愛聴され続けています。

そんなオーケストラ録音を取り上げても、AZLAと、一般的なマルチBA型IEMイヤホンの違いは明らかになりました。K10やAndromedaでは、ドビュッシー「海」を演奏する一人一人の弦のざわめきが波の泡の粒のように繊細なディテールを無味淡々と描くのですが、AZLAでは、油絵のように力強い音の波に圧倒され、ザブンザブンと荒波に翻弄されるような体験が味わえます。

AZLAの弱点として気になった点としては、コンプレッサーで常に音圧が高くなっているようなハイテンションな状態が続き、ダイナミクスの強弱や陰影の付け方、さらに三次元的な音の微妙な前後関係や奥行きが十分に描ききれていないようです。とくにこのような大編成オーケストラ演奏だと、尺も長いですし、常にハイテンションなノリで押しきれないので、もう一枚上手の表現力が欲しいところです。

似たようなケースで、もう一つ、AZLAの弱点だと思ったのは、たとえば70人編成オーケストラの中から、たった一人の演奏に集中しようとしても、それができません。どんなに集中して真剣に聴き分けようとしても、ギリギリ解像しない、そんな漠然としたアバウトさがあります。

サウンド全体のスケールが大きく、なんとなく距離をもって(リアルに)鳴っているような感覚なので、例えるなら「遠くにある看板の文字が読めない」ようなもどかしさです。つまりAZLAは顕微鏡的な使い方には向いていません。

では実際のコンサートホールでの生演奏はどうなのかというと、顕微鏡的に解像するBAイヤホンよりも、実はAZLAに近い感覚なので、そういった意味でも、AZLAは録音をよりリアルに近づけてくれる面白さがあります。

たとえば古めのオペラ録音なんかでは、雑な部分を隠して、臨場感たっぷりに名場面を描いてくれる強みがあります。つまり、映画やミュージカル、ライブコンサートなど、実際そこにいるような雰囲気を味わいたい人には特にお薦めできます。


イギリスのクラブ・ミュージックレーベルFabricからの新譜 No.94 「Steffi」を聴いてみました。

2016年に行政と一悶着あって閉店を余儀なくされたFabricですが、その後、大勢のファンの支援によって、ようやく限定的ながら運営が再開されたのは嬉しい限りです。本業休業中も精力的にコンピアルバムを続々出していましたが、やはり生の現場の音楽シーンと連動することで、その存在意義も際立つと思います。今作はオランダの女性プロデューサーSteffiによるもので、伝統的でハードなエレクトロ、テクノを主体に、リスニングに耐えうる厚みのあるサウンドを繰り広げています。

このアルバムでAZLAの本領発揮を目の当たりにして、率直に「凄い」と思いました。こういう音楽ジャンルは格別得意なようです。

期待通り、キックドラムの低音は凄まじくパワフルな鳴りっぷりです。それでいて鼓膜への刺激や圧迫感がほぼゼロで、低音の音圧の全てがリスナーの喉元から胃のあたりにズシンと届きます。

低音と言っても、特定の帯域だけが持ち上がっているのではなく、音楽の低い領域全体が、隅々まで余すことなく表現しきれています。これを体感してしまうと、それだけでAZLAの魅力の虜になってしまいます。

低音が耳元ではなく別の体感で味わえるということが、残りのサウンドに十分なスペースを与える決め手になっています。ベースラインは曇らずクリアに目の前を駆け巡りますし、BAドライバーのおかげでスネアやハイハットもきっちり上まで伸びており、重厚なシンセ群やパーカッションも、AZLA特有のユニークな鳴り方をしてくれます。

音が脳内を奔放に飛び交う、みたいな没入的な鳴り方ではなく、自分の目の前に音像が浮かび上がり、独自の世界が繰り広げられているような感覚です。なんとなくベイヤーダイナミックT5p 2nd Genとかに近い雰囲気を連想しました。

たとえ硬質なシンセ音やパーカッションであっても、その音の周囲にちゃんと空気があるような、自然な音響を形成してくれるのがAZLAの魅力です。つまり完全にドライではなく、ハウジングによる余韻成分がそこそこあるのでしょうけれど、それが「クセ」ではなく、あくまで「自然」に思えてしまうという事が、音響設計のレベルの高さを感じます。

つまり、作曲者がパソコンのDAWソフトから直接聴いている「原音」に近いサウンドではなく、AZLAはクラブやラウンジのPAスピーカーで聴く「あの音」の空気感をそっくりそのまま再現しきっていると思いました。

あえて悪い点を指摘するとすれば、リスニング中に他の事をやろうとしても、圧倒的な音楽のテンションに注意を惹かれてしまい、それ以外にはまったく集中できません。自分から耳を澄ませて音楽を聴きに行くのではなく、音楽のほうから勝手に手を引いてくれるような感覚です。つまり、BGM用途にはあまり適していないかもしれません。

おわりに

AZLAイヤホンは、さすがイヤホン業界を熟知したチームが開発しただけあって、前評判の期待を裏切らない素晴らしいイヤホンに仕上がっています。正直私自身も見切り発車で買ってしまったので、音を聴いて一安心しています。

目覚ましい爽快感で音楽が飛び出すようなクリアな表現は、ありふれたイヤホン勢とは一線を画する見事なサウンド情景を繰り広げてくれます。

より高価なマルチBA型イヤホンと比べると、繊細なディテールやダイナミクスの幅が不足しており、若干ハイテンション気味なのですが、そのおかげで得られるものも大きいです。

肝心なのは、「この値段でこの音なら・・・」という妥協を含めた評価ではなく、どんな値段でも恥ずかしくない独自の魅力を持っており、しかも技術的な狙いがちゃんと音として伝わるように引き出せていることが凄いです。

ところで、AZLAの「5万円以下」という価格は、ライバルが多いように想像しますが、意外と選択肢が少ないです。

「いいかげんもうSE535・UM-PRO30・IE80ばかり勧めるのも飽きてきた、でもどうせ他のBA型は似たり寄ったりだし、JVC WOODやファイナルとかはクセが強いし、拡張性や汎用性を考えると・・・」なんて悩んでいる世間のイヤホンソムリエであれば、このAZLAイヤホンは新たな有力候補になりうる存在です。

結局は趣味娯楽ですし、相変わらずマルチBAにはマルチBAなりの良さがあるので、こういうのは「○○と比べてどっちが上か」で考えるのではなく、むしろ「この予算なら、SE535か、もしくは全く違う方向で、AZLAもあるよ」という提案ができるのが大事です。

ベテラン・初心者を問わず、誰が聴いてもハッキリとわかるような音質の違いが体感できるので、自分の聴く音楽ジャンルやアーティストの好みに合ったイヤホンを選ぶ楽しみがまた一つ増えたことに素直な喜びを感じます。

イヤホンの鳴り方、聴き方についても、たったひとつの正解を固持するのではなく、様々な楽しみ方があるということをわかりやすく教えてくれる傑作イヤホンだと思います。