2017年11月7日火曜日

Westone UM PROシリーズ(2017年モデル)の試聴レビュー

Westone UM PROシリーズがアップデートされたので、改めてこの名作イヤホンを聴きなおしてみました。

UM PRO 30で新旧比較

2013年モデルのマイナーチェンジ版ということで、2万円弱でシングルドライバーのUM PRO 10から、75,000円で5ドライバーのUM PRO 50までの4モデルが全てが更新されました。サウンドは極力変えずにデザインのみ改善したそうです。

前回紹介したゼンハイザーIE80/IE80Sがダイナミック型イヤホンの銘機だとすれば、こちらはマルチBA型イヤホンの銘機なのですが、どちらも同時期に新デザインに世代交代したのが面白いですね。


UM PROシリーズ

Westoneといえば、Shureと双璧をなすマルチBA型IEMイヤホンの大手メーカーです。最近では家電店とかでも好調に売れていますが、本来は補聴器や聴覚検査用品を販売している会社で、プロミュージシャンがコンサートなどで使うためのカスタムIEMを製造するついでに音楽鑑賞用イヤホンも作ってみたら、思いのほか人気を得てしまったということです。

Westoneの特徴は、補聴器やコンサートステージで蓄積してきた膨大なユーザーフィードバックによる、人間工学に基づいたフィット感を実現していることと、不快感を抑えて長時間聴けるように自然な音作りを徹底していることです。Shureと比べるとマイルドなサウンド傾向なので、好みによって両メーカーの住み分けができており、よきライバルと言えます。私自身はどちらかというとWestoneファンです。

WestoneのカスタムIEM「ES80」

ラインナップの中で頂点にあるのは、自分専用の耳型で作ってもらうカスタムIEMシリーズなので、多くのWestoneファンは最終的にそっちに行き着くようですが、イヤーチップを装着するユニバーサルIEMタイプもあなどれず、現在3種類のシリーズが展開されています。

公式サイト上でもしっかり用途で分かれています

今回更新されたUM PROシリーズは、その名の通りプロミュージシャンのために作られたモデルなのですが、もちろん我々一般人が音楽鑑賞に使っても問題ありません。ヘッドホンにおける「スタジオモニター系」というのと同じような位置付けでしょうか。

W20

コンシューマー向けとしてはWシリーズというのがあり、仕様はUM PROシリーズとほぼ同じなのですが、デザインがもうちょっとポップで、サウンドもリスニング向けにチューニングしています。カラフルな交換可能サイドパネルでカジュアルさを演出しています。

AM PRO 20

さらに最近ではAM PROシリーズというのもあり、これはIEMイヤホンとしては珍しく、遮音性を無くして、装着中でも外の音がちゃんと聴こえるというイヤホンです。つまりミュージシャンや、仕事上、周囲の音を意識していないといけない人なんかが使います。いわゆる開放型イヤホンと違って音楽の音漏れは少ないという点もユニークです。普通のイヤホンだと耳栓っぽくて不快だという人にも良いかもしれません。

そんなわけで三つのシリーズの中でも一番プロっぽくてストイックなのがUM PROシリーズなのですが、プロ用だからといってサウンドが硬くシビアなわけではなく、むしろ逆に、業務で長時間使っても聴き疲れしないようなアプローチです。

日本のスタジオモニターヘッドホンにおける、ShureがソニーだとしたらWestoneはJVCみたいな感じでしょうか。双方のファンにはお互い理解しがたい隔たりがありそうです。

UM PROシリーズは旧モデルのスペックでは下記のようになっており、新型もほぼ同じだと思います。
UM PRO 10 25Ω・114dB/mW
UM PRO 20 27Ω・119dB/mW
UM PRO 30 56Ω・124dB/mW
UM PRO 50 45Ω・115dB/mW

3ドライバーのUM PRO 30が一番能率が高く、5ドライバーのUM PRO 50ではクロスオーバーの関係で能率が若干下がるのが面白いです。

インピーダンスに関してはWestoneは積極的に数字を提示していないのですが、これはマルチBA型イヤホンは周波数ごとにインピーダンスが大きく変わるため、何Ωと書いてもあまり参考にならないからです。

たとえば56Ωと書いてあるUM PRO 30では、以前測定してみたところ、たしかに500Hzでは56Ωくらいですが、100Hzでは20Ωくらいで、1kHzでは100Ωといった具合に、大きな幅があります。つまり数字にあまり意味がないというか、「56Ωだから鳴らしにくい」とか安直に考えてしまうと競合メーカーの思う壺です。重要なのは「可聴帯域内でのインピーダンスグラフ」なので、全メーカーはそれを掲示してもらいたいです。(雑誌レビューなどではよくカタログ値と実測グラフの差が指摘されます)。

ちなみにUM PROシリーズのラインナップには4ドライバーモデルのみ存在しません。コンシューマーモデルのWシリーズではW40という4ドライバーモデルがあり、5ドライバーは無く、その上に6ドライバーのW60と8ドライバーのW80があります。純粋にモデルごとのサウンドの狙いに応じてドライバー数を選んでいるのでしょう。

上位イヤホンの値段が高いのはドライバー数のコストが増えるからであって、音質と直接比例するとは限らない、と考えれば気が楽かもしれません。

旧型(左)と新型(右)では形が違います

新旧モデルを並べて比べてみると、単純にスモーククリアカラーになっただけではなく、形状も変わっている事がわかります。特にイヤーチップを装着する音導管付近はけっこう違いますね。

旧タイプは先端に向かって絞られていくティアドロップ型だったのに、新タイプはドロップ飴型というか、ずいぶん平凡な形状です。装着感はどちらも良好なので文句はありませんが、新タイプの方が若干薄型で浅めです。素人目では人間工学的というのとは逆行しているようにも見えます。

細いサイズのイヤーチップが必要です

あいかわらずShureと互換性のある、サイズの細いイヤーチップを使います。音導管が細いということは音響的にデメリットもありそうですが、耳孔内でシリコンチップの伸縮範囲が広く確保できるため、自分にピッタリ合うサイズを見つけやすいです。私の場合、SpinFitが一番良いようなので、常にそれを使っています。

低反発ウレタンのコンプライチップを使うにしても、潰れたウレタンで音導管が隠れないため、ソニーやゼンハイザーのような大口径サイズと比べて音質劣化が少ないです。

上から見た形

付属ケーブル

上から見ると装着面の形状がよくわかります。ケーブルは旧型と全く同じものが付属しているのですが、本体側のMMCXコネクターが改善されました。個人的には、これが今回新型になったことで一番嬉しいポイントです。

旧モデルでは社外品MMCXコネクターが入りません

これまでの古いUM PROシリーズでは、ご覧のように社外品の太いタイプのMMCXコネクターだと本体にぶつかってしまい、ちゃんとカチッと挿入できません。無理に押し込もうとすると抜けなくなってしまったり、本体に負荷が掛かって真っ二つに割れてしまったのも見たことがあります。

もちろんWestone純製ケーブルなら問題なく使えるので、文句を言う筋合いは無いのですが、MMCXだからといって確認せずに社外品アップグレードケーブルを買ってしまって泣きを見た人も多いと思います。

新型デザインではばっちり入ります

新型UM PROシリーズでは、コネクターの下にちょっと余裕を持たせてあるため、これまで入らなかったMMCXケーブルもちゃんと入るようになりました。色々なケーブルが使えるようになったので、バランス化などの選択肢も広がり嬉しいです。

純正の付属ケーブルは、前回紹介したゼンハイザーIE80ほど悪くないですし、軽快で柔軟性もあり、ごく普通に使えます。もっと派手なケーブルと合わせることで、元々地味なUM PROシリーズのサウンドに華を添えることができるので、色々と試してみる価値はあります。

旧UM PRO 30とUM PRO 50では見分けるのが難しいです

新型では色分け&刻印があります

旧モデルではパッと見ただけではどれがどのモデルか見分けがつかないのが難点でしたが、新モデルでは先端部分のカラーパーツでモデルことに色分けしてあり、識別しやすくなりました。

ちなみにUM PRO 10から順にオレンジ、ブルー、グリーン、グレーです。さらにカラーパーツをよく見てみると、表面に「50」や「30」など、モデルナンバーが刻印されています。

せっかく内部がシースルーなのでじっくり眺めてみたら、このカラーパーツが重要な役割を持っていることがわかりました。エンジンのマニフォールドのように、各BAドライバーの出音ノズルがカラーパーツの穴にぎゅっと挿入されており、それらをまとめて音導管に導く仕組みです。つまり音質にかなり影響を及ぼす部品です。組み立てに無駄がなく合理的で、しかもわかりやすい、マルチBA型のお手本のようなデザインです。

音質とか

色々と試聴してみた結果、想像以上に新旧モデルの音質差が少なかったので、Westoneが言っていた「デザインのみのアップデート」というのは本当みたいです。

そんなわけで、これといって書くことも無いのですが、せっかく全部聴いたので、各モデルごとの感想なんかを書いておこうと思いました。

試聴にはCowon Plenue Sをメインで使いましたが、Astell & Kern SP1000 Copperもあったので、それも借りて聴いてみました。

A&ultima SP1000 Copper

UM PROシリーズだけでなく、Westoneのイヤホンというのはどれも、能率もインピーダンスも本当に「ちょうどよく」、まさにベテランメーカーによる理想的なイヤホン設計と言えます。

とにかく使い勝手が良いというか、スマホでもDAPでも容易に駆動でき、しかもインピーダンスはそこそこ高め、感度も過剰すぎない、といった感じで、つまり組み合わせるアンプへの性能要求が高くなく、どのようなシステムでもそれなりの音が得られる、絶妙なスペックです。

一方、他社のマニアックなイヤホンとなると、Westoneとは真逆で、アンプによってはパワーが足りない、出力インピーダンスに依存して周波数特性が変わる、高感度すぎてホワイトノイズが目立つ、なんてトラブルに遭遇することが多いです。

そんなわけで、低価格なUM PRO 10から最上位UM PRO 50に至るまで(さらに、20万円のW80も)、「とりあえず挿せば、良い音で鳴る」というのがWestoneの大きな強みです。

UM PRO 10・20・30

まず1ドライバーのUM PRO 10ですが、このモデルだけハウジングが極端に小さく、私の耳では唯一まともにフィットしてくれず、候補から外れました。とにかく豆粒のように小さいため、イヤピースをしっかり挿入しても、本体が外耳のくぼみ空間よりも小さいためフラフラ動き回り、安定してくれませんでした。

逆に言うと、たとえば女性や中学生など、耳が小さくて、普通のイヤホンではなかなかフィットしない、圧迫して痛い、という人にとっては、UM PRO 10は超小型IEMとして、かなりオススメです。これだけはShureでは実現できないユニークな存在です。

音質に関しては、さすがにシングルドライバーだけあって、中域重視でギュッと凝縮された感じです。声がよく通るラジオ放送っぽいサウンドなので、最高音も最低音も限界を感じますが、逆に中域のボーカルのみにスポットを当てるには、むしろこれがベストなので、動画や放送をよく聴く人や、音楽は歌詞に専念する人には良いと思います。

次に2ドライバーのUM PRO 20ですが、これはユニークで面白いです。実は最初に新型ラインナップを試聴したとき、どのモデルか知らずにまずこれを聴いてみて、「へー、上位モデルもずいぶん味付けを変えたんだな〜」なんて感心していました。聴き終わって本体を見たら、そこそこ安いUM PRO 20だったので驚いた、というわけです。つまり、上位の30や50とは傾向が明らかに違うものの、これはこれで独立した世界観を持った良いイヤホンです。装着感も30や50と変わらないシェルサイズなので、違和感がありません。

UM PRO 20のサウンドは広帯域で爽快感があり、軽快な印象です。これが一番Shureとかに近いかもしれません。2ドライバーということもあり、UM PRO 10とは対象的に、中域が薄く、高音も低音も派手に鳴る感じです。とくにクラシックロックとかメタルをガンガン刺激的に聴きたいという人には良いと思います。若干薄味で奥深さが足りない印象もあるので、もっと高密度なゆったり感を味わいたい人は上位モデルを狙う必要があります。

やっぱり良いUM PRO 30

個人的には、UM PROシリーズの狙い所は、3ドライバーで45,000円のUM PRO 30だと思います。新旧モデルを問わず、これはイヤホン史上に残る傑作だと私は勝手に思っています。

UM PRO 30はすべての面で「上品」で落ち着いた柔らかい音色で、どんな音楽ジャンルでも対応できる汎用性を備えていると思います。周波数特性にも目立ったクセが無く、とくに中高域にかけてスムーズに繋がっていくため、マルチドライバーっぽさも感じさせません。むしろダイナミックドライバーに近い印象もあるので、私の場合、ダイナミック型のShure SE215SPEからのアップグレードとして、これがベストな候補でした。

サウンドはマイルドなので、他社とくらべると最初はフワフワ、モコモコと音抜けが悪いように聴こえるのですが、じっくり聴き込むと、実は様々な音色を同時に余すこと無く出音しているため、音の密度が高いのだということに気がつきます。それらを派手にジャンジャン強調するのではなく、絶妙な柔らかさで鳴らしてくれるため、マイルドでありながら細かな情報が豊富という矛盾を両立しており、「プロ用として十分な分析能力がありながら、長時間でも聴き疲れしない」という、Westoneの狙いが見事達成できていると思います。

数分間の試聴ではなく、できれば数時間、数日間と使い続けてもらいたいイヤホンです。

空間展開もマルチBAとしては十分な距離感があり、前方扇状に音のヴェールのよう漂っている、リスナーを包み込むような雰囲気がある一方で、押し付けがましくないので邪魔に感じません。コンサートホール的な広大な音場はありませんが、上質なスタジオ設備のスピーカーで余裕を持って鳴らしているような感覚なので、これも一種のプロ用モニターサウンドと言えるかもしれません。(派手なイヤホンに慣れている人は眠く感じるかもしれません)。

W30とUM PRO 30

たとえば、同じくWestoneのW30と聴き比べてみると、どちらも3ドライバーですが、音色はかなり違います。

W30は音楽の主旋律を強調して、クリアに引き出すような仕上がりです。Westoneらしく派手さは控えめですが、大事な音色だけグッと出して、その余韻の響きまでしっかり鳴らしきり、それ以外の背景は意識しないよう奥に隠すような感じなので、聴いていて音楽に引き込まれてしまうような魅力があります。

Westoneが経験をもとに丁寧に磨き上げた絶妙な仕上がりで、多少デフォルメしているというか、聴くべきポイントをしっかりアピールしてくれるサウンドだと思います。周波数特性とかそういったことではなく、ステレオ感と、アタックや響きのダイナミクス表現で差をつけています。

とくにボーカル主体のバンドなんかとは相性が良いイヤホンだと思います。一方クラシックの交響曲などではUM PRO 30の方が良いと思います。

大編成クラシックの場合、主旋律のみでなく、細かな音色の集合体としての音楽と、その空気感、臨場感も含めて全ての音を味わいたいです。W30ではクリアな反面「音数が少ない」ような感じで、UM PRO 30の方が音響全体に包み込まれるような体験には有利です。

私はクラシックばかり聴いているので、W30ではどうも物足りなく感じてしまい、UM PRO 30を選びました。

ところで、ここまでUM PRO 10・20・30と聴いてきて、UM PRO 30で初めて、今回の新旧モデルでサウンドの違いのような物が感じられました。

ほんの僅かな差なのですが、新型UM PRO 30の方がサウンドがストレートに出ているような印象です。旧型UM PRO 30に戻ると、中高域に特定のフィルターのようなクセが感じられます。縦笛のように、ある帯域(歌手の息継ぎとか?)が捻れているような感覚です。音導管の流れなのか、クロスオーバーのせいなのかは不明ですが、新旧どちらか選べと言われたら、僅差で新型の方が好みです。買い換えるというほどではありません。

UM PRO 50

最後にUM PRO 50を聴いてみましたが、このモデルでは新旧モデルでけっこう違いがあるように思えました。新型の方が好きです。

UM PRO 50はUM PRO 30に低音が追加されたようなサウンドなので、シリーズ最上位でありながら、好き嫌いが分かれるモデルでした。私自身はUM PRO 30でちょうど良い(私にとっての「フラット」)と思っているので、UM PRO 50はモコモコして中低音が重たいサウンドだと敬遠していました。

中高域にかけては、UM PRO 30と同じようにマイルドで絶妙な完成度を誇っているのですが、そこに上乗せするように中低域が盛り上がった演出なので、邪魔だと思うことすらありました。歯切れ良いパンチのある低音というよりは、マイルドなUM PRO 30が、より一層温厚になった感じです。

しかし、新型UM PRO 50を聴いてみると意外と良くて、新シリーズの中では、実はUM PRO 30よりもこっちの方が好みかも、とも思えるようになってきました。

具体的に新旧でどこが変わったのかというと、音像の配置だと思います。旧型UM PRO 50では、厚い低音が他の音色を払い除けて、音場の中心を占拠しているような、変な位置に陣取っていました。プロのドラマー用に作られたイヤホンだ、なんて言われていたように、普段ならバンドやオーケストラの奥の方で鳴っているはずの低音楽器が、前面至近距離に現れるので、違和感がある不思議なサウンドでした。

一方、新型UM PRO 50だと、その低音は従来と同じ厚さと量感でありながら、空間配置が奥の方に移動して、他の楽器の邪魔をしません。つまり、ごく一般的なライブサウンドに近い位置関係です。

結局、UM PRO 30と50のどっちが良いか決めるのは困難です。UM PRO 30で丁度良いと思う曲もあれば、UM PRO 50の厚さと低音が欲しい時もあります。上下関係ではなく互角の勝負なので、今のところ旧モデルのUM PRO 30で十分だということで、買い換えまでには至っていません。もし今どちらか買うことになったら、かなり悩むと思います。

おわりに

Westone UM PROシリーズは旧モデルの時点で音質・装着感ともに素晴らしいイヤホンだったため、今回新型に更新されたからといって、劇的に良くなったというわけでもありません。むしろ、音質面で何らかの改悪を行わなかったことで一安心しました。

今回のアップデートでは、サウンド面ではそこまで変化はありませんので、私はあえて買い替えようとは思いませんでしたが(それだけ初代が完璧だったということですが)、新規で購入するなら良い機会だと思います。

デザイン面ではMMCXケーブルの互換性が向上したことは嬉しいのですが、そのへんは別に気にしないというのであれば、今のうちに旧モデルの処分品を手に入れるのも良いかもしれません。

ちなみにUM PRO 30で比較すると、旧モデルが2013年に登場した当時の価格は約4万円で、それが現在、在庫処分品として3万円弱にまで下がっています(アマゾンとかはもう在庫が無いみたいでした)。新モデルは現時点アマゾンにて45,000円なので、今後数年かけて徐々に値下がりするまでは、結構な価格差があります。最近はライバルメーカーも増えているわけですし、できればもうちょっと発売価格を安くしてほしかったです。

ところで、UM PROシリーズのさらに上には、20万円以上のW80というモデルがありますが、これはUM PRO 50やW60以上に音の密度が高く、厚く深く重なり合うサウンドです。私の意見としては、W80はWシリーズよりもUM PROシリーズに近いように思いました。

ただし、W80の音は若干高音がギラついており、これは付属ALOコラボレーションケーブルに依存する部分もあるので、普通のケーブルに交換するとWestoneらしいマイルドで落ち着いたサウンドに戻ります。

なんとなく私が思うのは、Westoneで一番汎用性が高いモデルはUM PRO 30で、それ以上高価なモデルに進むと、普通の意味で完璧度が増すのではなく、より一層Westoneらしさが濃くなり、Westoneでのみでしか味わえないような独特の表現になってくるようです。悪いクセが強くなるというよりは、他社とは違った目線で音楽を深く掘り下げてくれる、ということです。

他のメーカーで、そんなWestoneっぽいアプローチを継承しているのは、たとえば64AudioのADEL・APEXユニバーサルシリーズなんかは近いかもしれません。全く一緒のサウンドではありませんが、目先の派手さよりも自然体を目指しているところに共感を受けます。

ただし64Audioは、色々と試聴していると簡単に10万円を越えてしまうような高価なラインナップですし、本体ハウジングは大きく、音導管も太く、Westoneの長所であるカジュアルさと使い勝手の良さは失われてしまいます。

そんなわけで、Westone UM PROシリーズは、なかなか他社のイヤホンでは代用が効かない特別な存在ということで、私みたいに様々な高級イヤホンに手を出す泥沼に入ったマニアでも、こればっかりは手放せない、という不思議な魅力を放っています。

たとえば旅行に行くときも、メインで使いたいのは、最近買った一番新しい派手なイヤホンかもしれませんが、そのサブ機として、UM PRO 30をとりあえずバッグに入れて置きたいです。そのあたりも、前回紹介したゼンハイザーIE80と似ている、ロングセラー銘機の証だと思います。

ラインナップの中では個人的にUM PRO 30をプッシュしたいですが、モデルごとにそれぞれ独自の魅力を放っているので、単純に高いほうが高音質と考えず、Wシリーズも含めて、全てのモデルを聴き比べてみる価値があります。安価な入門機かと侮っていたのに、じっくり聴いてみると、意外と高級ブランドを差し置いて、日々のメインイヤホンとして使いたくなってしまうかもしれません。