2018年2月7日水曜日

ゼンハイザーHD660Sの試聴レビュー

ゼンハイザーの開放型ヘッドホン「HD660S」を聴いてみたので、感想とかを書いておきます。

Sennheiser HD660S

2017年11月発売で、これを書いている時点での価格は55,000円くらいです。

2004年から販売が続いている不朽の名作ヘッドホン「HD650」の後継機として、満を持してのデビューということで、大きな注目を集めています。外観はあまり変わったようには見えませんが、サウンドは大幅に変化しています。


HD660S

今回はデザインについて触れる前に、ちょっと音質について先に書いておこうと思いました。

これを書いている時点で、発売からもう2ヶ月以上経ってしまったので、いまさら感もあるのですが、実はそれには理由があります。

HD660SとHD650

実はHD660Sの発売当時に、店頭試聴機を開封して真っ先に音を聴いてみました。古くからHD650のファンだったので、それの後継機となれば、どのような進化をしたのか気になるのは当然のことです。

ところが、この新品HD660Sのサウンドがあまりにも酷くて、「これはちょっと・・・」と落胆させられました。普段このブログでは自分が気に入ったものを掲載するようにしているので、HD660Sについて感想を書くのはどうしても無理でした。

なんというか、とにかく固くてキンキンして、空間もベタッとして、良いところがひとつも思い当たらなかったくらいです。隣に用意しておいたHD650と聴き比べてみても、そちらのほうが圧倒的に自然で心地よいサウンドだったので、このHD660Sは不良品か、もしくは、ついに自分の耳が最先端の音についていけなくなったかと不思議に思えました。

それから二ヶ月間、機会があるごとに同じ試聴機を繰り返し使ってみて、二つのことに気がつきました。

まず、エージングでしょうか、月日を重ねることで徐々に音が良くなっていきました。その間に試聴機は私以外のユーザーにも使い回されただろうと思います。

さらに、アンプとの組み合わせに敏感で、かなり性格が変わりやすいヘッドホンだということにも気づきました。

そして、2ヶ月経った今、ようやく満足に「良いヘッドホンだ」と思えるレベルに到達できたので、せっかく撮り溜めた写真とかもありますし、ブログに書き留めておこうと思いました。

デザイン

本体デザインはほぼHD650と同じなので、装着感も全く一緒です。HD650(もしくはHD600)は多くの人がすでに慣れ親しんだフォルムだと思いますが、まだ未体験な人のために簡単に説明すると、楕円形のハウジングは側圧が結構強めで、耳周りにカポッとはめる感じで、ハウジングはほとんど回転せず、フレームもガッシリと強固です。ヘッドバンドにはハンモック的な物はついておらず、薄いクッションがあるのみですが、側圧で押さえて、頭頂部にはほとんど負荷がかからないようなデザインです。

HD660S

フレーム形状は同じです

あいかわらずアイルランド製です

さすがに20年以上も形が変わらず愛されているフォルムだけあって、装着感はかなり良好で、長時間の着用でも痛くなったりすることの無い、優秀なデザインです。なんというか、スキーのゴーグルみたいな感じで、ピッタリした装着感ですが接触面は十分広いので、逆にグラグラ動かない安定感があります。もちろん開放型なので蒸れも少ないです。

イヤーパッド

家庭でのリスニングでは、もっとフカフカでゆったりした装着感が好まれると思いますが、HD660Sは一応プロ用モニターヘッドホンという位置付けなので、リスニング中にハウジングがズレて音像定位が狂ってしまわないように、あえて耳との位置関係が安易に動かないようなデザインになっています。

さらに、260gという軽量を重視して設計されているので、他社であるような400gオーバーのヘッドホンなどと比較すると、長時間使用での疲労感はとても少ないです。

グリルが立体的になっています

HD650と比較してみると、外観デザインで唯一変更されたのはハウジングの開放グリルで、HD660Sは立体的にプレス加工されています。HD598からHD599へのモデルチェンジと同じように、ゼンハイザーロゴを四角いラベルのように強調するのがコンセプトのようです。デザイン効果のみで音響的な意味は無いと思いますが、写真映りは良くなっています。

HD650(左)とHD660S(右)

それよりも個人的にちょっと不満なのは、ハウジングやヘッドバンドがただの黒いプラスチックで、高級感が減ってしまったことです。

好き嫌いはあると思いますが、HD600では大理石調、HD650ではメタリックのようなラメ塗装が施されており、当時の最先端ヘッドホンとしてそれなりに高級感の演出を頑張ったことが伝わってくるのですが、HD660Sは「どうせ最近みんなマットブラックが好きなんでしょ」というような投げやり感があります。

ヘッドホンのデザインは、数年前にBeatsが流行っていた頃は、各メーカーとも率先して派手なメタリックカラーとかをオマージュしており、それからBose QC35とかが流行ってからはマットブラックのステルスカラーが定番になっているようです。HD800SやIE800Sもそうですし、ソニーZ1Rとかもですね。ブラックはブラックで結構なのですが、HD660Sの値段ならもっと綺麗に塗装するとか、何か一工夫が欲しかったです。

HD660S(左)とHD6XX(右)

とくに、私がHD660Sを見て真っ先に思ったのが、これって手触りとかがHD6XXっぽいな、という感想でした。HD6XXというのは、HD650を未塗装・簡略化することで、同じサウンドを$199という格安価格で味わえるというモデルでした。それはそれで良いとして、HD660Sも同じくらいチープに見えてしまうのは、55,000円という値段を考えるとちょっと頑張ってほしいです。

イヤーパッドやスポンジの質感はHD650と同じです

ハウジング前面のメッシュ形状も従来と同じようです

HD600やHD650の魅力の一つに、慣れれば工具無しで簡単にバラバラに分解できるということがあります。これはプロ用ヘッドホンとして、わざわざ返品せずともスペアパーツを取り寄せて現場で即座に修理できるようにという配慮なのですが、ヘッドホンマニアが増えた今となっては、手軽にカスタマイズやアップグレードができるという魅力にもなりました。とくに、ハウジングの響きをチューニングするために内部にゴムシートや吸音材を貼るテクニックはよく目にします。

イヤーパッドは爪で固定されているだけなので、引っ張るとパカッと外れます。その下には一枚のスポンジが挟んであり、これはHD650などと同じ物のようです。

このシリーズのサウンドを決定づける要素として、ドライバー周辺に楕円形の薄い金属メッシュのようなフィルムが貼られています。この素材の張りや透過率によって、ドライバーからの音を耳まわりで部分的に逃したり反射したりすることで、全体の周波数バランスや響き具合をチューニングしています。ようするにドライバー振動板の延長線みたいなものです。今回は新型ヘッドホンということで細かな違いはあるのかもしれませんが、見た感じではHD650のものとあまり変わりありません。

HD660SとHD650のグリルを外した状態

新設計ドライバー

今回HD660Sの目玉は、新型ドライバーを登載していることです。HD650と同じフレームに組み込まれているため、口径は変わっていないようですが、構造や素材が全面的に見直された最新デザインだそうです。

写真で新旧を見比べてもわかるように、ドライバーカプセルユニットの形状がかなり変わっています。公式サイトでは「ステンレス製の精密素材」と書いてあるのですが、それが実際どの部分を指すのかはいまいち言葉を濁してあります。

HD660Sの公式スペックにてインピーダンスは150Ω、駆動能率は104dB(/mW?)と書いてあります。HD650は300Ω・103dBなので、能率はほぼ一緒で、インピーダンスが約半分になったということです。ちなみにHD700は150Ω・105dBで、HD800は300Ω・102dBだそうです。

ヘッドホンはインピーダンスが低いほど、電圧が低いアンプでも駆動できるようになります。デメリットとして周波数特性が乱れやすく、レスポンスも鈍るので、プロ用ヘッドホンでは強力なアンプを使うことを前提に、あえてインピーダンスを高めに設計することが一般的なのですが(ゼンハイザーの場合、HD650とHD800はどちらも300Ωでした)、最近ではポータブル用途の需要も高まっているため、インピーダンスを下げる事がトレンドになっています。ともかく、150Ωというとまだまだ高い部類ですね。

ケーブル端子は従来通りです

ケーブルはこれまでどおり左右独立で着脱でき、HD650と同じコネクターなので、すでに豊富にある社外品アップグレードケーブルを共用できます。

あいかわらずコネクターのプラス・マイナスピンの太さが微妙に異なるので、間違えて逆に挿して端子穴を壊してしまわないよう注意が必要です。ケーブルのL・Rマークを外向きにすることを覚えておきましょう。

4.4mmバランスケーブル

HD660Sには6.35mmケーブル以外に、さらに4.4mmバランス端子ケーブルも付属しています。ゼンハイザーが公式にソニーと同じ4.4mmバランス端子を採用したことは、多くのヘッドホンマニアを驚かせてくれました。ウォークマンはもちろんのこと、HD660Sと同時に登場したゼンハイザーのレファレンスアンプ「HDV820」も4.4mmバランス出力を装備しています。

別売りの4ピンXLRバランスケーブル

ちなみに公式で(HD650用ですが)4ピンXLRケーブルも別売しており、ゼンハイザーは大手ヘッドホンメーカーの中ではバランス化に積極的なようです。

HD660Sの付属ケーブルは手触りからしてHD650のものと同じものだと思います。ちなみにこのケーブルは外見は太いのですが、意外と中の線材は極細のリッツ線だったと思うので、社外品で太い銅線のアップグレードケーブルとかに交換するとサウンドが結構変わります。(どちらの音が良いかは好みの問題ですが)。

音質とか

HD660Sはもっと万能で汎用性が高いヘッドホンを想像していたのに、冒頭で書いたとおり、意外にもクセモノというか、満足できるサウンドを得るまで手間がかかるヘッドホンでした。

まずエージング前の新品開封直後は、音に不自然な金属っぽい響きが上乗せされ、どんな音楽を聴いても不快な違和感がありました。エージングが一通り済んだと思われる現在でもあいかわらず、アンプとの相性が悪いとヘッドホンの印象がガラッと変わります。

周波数バランスが狂うという感じではなく、空間を埋める響き成分の量や位置、距離感などが影響を受けやすいようです。上手く表現出来ないのですが、たとえばアタック直後の音の逃げ方というのでしょうか、それがいつまでも目前に留まってしまい、歯切れが悪いです。しかし良いアンプで鳴らせば、そんな響きはスッと遠ざかっていき、正しい音響として認識できるようになります。「分離の良さ」がアンプ依存になりやすい、という風にも言えます。

AK ACRO L1000

今回の試聴では、いくつか試してみて相性が良かったアンプを使いました。たとえば最近紹介したQuestyle CMA400iとAK ACRO L1000では満足できましたし、自宅のViolectricや、Hugo 2なども良好で、とにかく有り余るパワーがあるほうが良いようです。

HD660Sはせっかくインピーダンスが下がって、4.4mmバランスケーブルも付属してくれていますが、SP1000やAK380、NW-WM1ZやPlenue S、QP2Rなど色々なポータブルDAPで聴いてみても、どれもあまりパッとせず、据え置き型アンプに頼ることになりました。特に中域の音抜けがかなり変わるので、HD660Sを試聴してイマイチ響きがクリアじゃないと思ったなら、大型アンプで鳴らし比べてみることをお薦めします。NW-WM1Zでは4.4mmバランスの効果が十分に実感できます。4.4mmといえばソニーTA-ZH1ESで鳴らしてみたかったですが、残念ながら手元にありませんでした。


HD660Sのサウンドが旧モデルからどのように進化したのか一言で表すと、クリアで明確、音の立ち上がりから減衰までの時間軸が明確になったと思います。

HD660SとHD650を聴き比べてみて真っ先に感じたのは、HD660Sはさすが新型ドライバーだけあって、音がシャキッとしていて、特に楽器やボーカルの解像感がとても高いことです。さらに上も下もハッキリとしたメリハリが出ており、かなり広帯域になったように感じられます。そのため、中低域重視の緩さや甘さは損なわれてしまったので、HD650の方があいかわらず「聴きやすい」温暖系なサウンドという魅力があります。

HD600・HD650のどちらかとなると、雰囲気的にはHD650に近いように思えます。HD660Sは高音もしっかりと出るのですが、高音寄りになったというよりは、よりはっきりと情報が再現できるようになっただけなので、HD600のように軽くて線が細いスタイルとはちょっと印象が異なります。

たとえばHD650を聴いた直後にHD660Sに乗り換えると、同じサウンドなのに、一気にモヤが晴れて様々なサウンドがクリアに聴こえるように感じるのですが、一方HD600を聴いてからHD660Sを聴くと、周波数バランスが根本的に違う、別物のヘッドホンのように思えました。

どちらにせよ低音はHD660Sの方がはっきりと深く明確に鳴るのですが、最近のヘッドホンにありがちな、低音だけをモコッと前方に押し出すような演出ではないので、あえてカジュアルユーザーに媚びたようなチューニングにしなかったことは嬉しいです。低音の量が多いか少ないかということではなくて、ドライバーがそのまま鳴っていて、空間の立体表現に作為的なサブウーファーエフェクトっぽさが感じられない、ということが気に入りました。

つまり、周波数帯のプレゼンテーションがそこそこ統一されていて、平坦で意外性が少なく、予測しやすいという事です。左右の情報が不自然にミックスしておらず、音像が安定している事も好印象です。これはたぶん余計なハウジング空間が無いことで、音がドライバーから耳に直接届くためで、HD650と共通している魅力だと思います。モニターヘッドホンらしいというのでしょうか、ダイナミック型イヤホンっぽい感じにも近いです。逆に言うと、3D空間演出効果みたいなものは少ないです。

これは、似たようなハウジング形状のSONOMAヘッドホンでも感じた傾向ですし、HIFIMANなど近頃の開放型平面駆動ドライバーとも似ていると思います。ただし、それらのような大きな平面ドライバーと比べると、HD660Sのダイナミックドライバーは小さいため、ダイナミクスに対するリニア感(つまり大きい音と小さい音が同時に鳴った時の挙動)は不利だと思います。これが、HD660Sがアンプとの相性に敏感なこととも関係してくるのかもしれません。

HD650では、アンプとの相性とかは、そもそも解像感がそこまで高くなかったので気にならなかったのでしょう。HD650がマイルドで温暖系だということはわかっていましたが、ここまで甘かったのかと驚かされます。カメラのフォーカスが、HD650ではボヤケていて、なんとなく雰囲気に満足していたところ、HD660Sでは、一つ一つの楽器の音像がピタッと定まっており、まっすぐの線や輪郭が確認できます。

とくに、音像がシャープになる感じは、「HD650でもHD800でもなく、HD700っぽい」というイメージもわきました。ドライバーの見た目が似ているからといって、HD700と同じだと想像するのは短絡的ですが、設計の世代や、音色の傾向が似ている事は確かです。

それでも、HD660SとHD700ではハウジング構造やドライバーの配置などが根本的に違うので、全く同じ音ではありません。

HD700は「ミニHD800」と言われるだけあって、デザインもHD800同様に、前後非対称の傾斜配置と、周囲に展開されるメタルメッシュの開放グリルにより、とりわけ高域の響き空間をリスナー前方に浮かび上がらせるタイプです。ハウジングもドライバーもコンパクトなだけあってHD800ほどの空間は作り出せませんが、そこそこの立体感があります。HD800の音抜けと、HD598シリーズの3Dハウジングデザインを上手に融合させたような印象です。

一方HD660Sは、HD650から引き続き同じモールドのハウジングを再利用しているため、ドライバーを中心に置いた前後対象で、平面の通気グリルや、いくつかの通気孔で音響を調整しています。そのためHD660Sの音場空間はHD650とよく似ており、なんとなくアバウトで、自分の頭の周りを包み込むような感じです。前後の奥行きの効果に乏しいので、HD800のようにグッと目を凝らして前方遠くまで見通すという聴き方ではなく、自分の目の前に様々な音が壁のように形成されるタイプです。

HD700のように小さいハウジングで無理に3Dっぽい奥行きを出そうとすると、レンズ効果というか、位相の混ざり合いに違和感を感じる部分が必ず生じるので(それが私がHD700をあまり好きになれない最大の理由なのですが)、それで響きの繋がりに不自然な部分があるよりも、HD660Sのようにしっかり音像を結像してくれる方が好印象です。

なんにせよ、HD700やHD800が登場したことによって、過去に取り残されたような存在だったHD650が、正式に、正しい方向にアップデートされた事は確かです。単純に雰囲気がモダンになっただけでなく、ちゃんと最先端の「ゼンハイザーらしい」サウンドを実現出来ていることが伝わってきました。

おわりに

HD660Sというヘッドホンは、何度かにわけて試聴を繰り返して、長く付き合ってみることで、ようやくその良さが実感できるようになりました。

空間表現はHD650の雰囲気を継承していながら、近頃HD650が時代遅れだとされていたフォーカスの甘さや、暗めのプレゼンテーションが大幅に改善されました。ベイヤーDT1990やShure SRH1840など続々登場する新型モニターヘッドホンや、もしくはHIFIMANのような平面型ヘッドホンとも十分に勝負できるサウンドを実現できています。

この価格帯であればどのヘッドホンも完成度が高いので、HD660Sがとりわけ傑出しているというわけではありませんが、これまで旧式のHD650のみが「若手の中で場違いの大御所」感があったところを、これで対等に評価できるレベルに持ってこれたと思います。現場で活躍するモニターヘッドホンというと、HD700もHD800もちょっとコンセプトが違うので、ゼンハイザーの立場的にHD660Sが登場した意義は大きいと思います。

唯一の難点は、音量ではなく音質面でアンプへの要求が高いと思えたことです。個人的に、たとえばGradoやベイヤーダイナミックのヘッドホンはそれに近いところがあります。どちらも下手なアンプで鳴らすと酷い音がする事が多いです。逆にフォステクス、HIFIMAN、Shureなどはアンプの選択に寛容で、どんな場面でもそこそこ同じサウンドが得られる強みがあると思います。(根拠は無く、勝手な感想です)。

HD660Sは様々な場面で気軽にひっぱり出すというよりは、むしろ相応しいアンプとセットで、自分なりに満足できるシステムの一環として使う、という覚悟が必要だと思いました。逆に言うと、ソースを改善することで音質の伸びが期待できる、潜在能力の高いヘッドホンです。

HD650のような完成された世界観というよりは、むしろ伸びしろが未知数なハイスペックなサウンドになったので、なにかに例えるなら、老舗の名店が、息子に代替わりしてハイテク化したような、名残惜しさもあります。

もちろんHD660Sが登場したからといって、急にHD650の音が悪くなったわけではないので、HD650も捨てたものではありませんが、ゼンハイザーとしては、たとえば低価格なHD6XXをリリースすることで、もはや旧世代の音として過去のものにする意思が感じられます。

新型がどうであれ、必ず「古いほうが良かった」と主張するマニアは現れるわけですが、HD660Sの発売直前にHD6XXを放出することで、メーカー自らHD650の価値を下げ、中古品の価格高騰対策としたのは、とても上手な戦略だと思います。10年前のゼンハイザーにとって6万円の音だったものが、今ではエントリーモデルとして若い世代の人でも手が出しやすい価格で提供できるようになったことは素直に喜ばしいです。

結局、多くの人が論議しているのは、HD650からHD660Sに買い換えるべきか、という事だと思います。個人的な感想としては、サウンドは最新鋭で、もはや別物なので、HD660Sを買うメリットは十分あるものの、HD650を処分する理由にはならないと思います。HD660Sは日々のメインヘッドホンとして使うのに相応しい素晴らしいヘッドホンですが、その傍らで、数週間に一回でも、たまにHD650を押し入れから引っ張り出して、ノスタルジーに浸る楽しみも捨てがたいです。