2018年4月6日金曜日

USB電源、iFi Audio iPower

先月はChord Qutest DACとCampfire Audio Cascade ヘッドホンという大きな買い物が立て続けにあったので、それらで音楽を聴くばかりで、(というか資金切れで)ブログの更新から遠のいてしまいました。

USB電源は選択肢が多いので悩まされます

今回はChord Qutest関連で、DACやDAPなどで使う機会の多いACアダプターやUSB電源について気になったので、ちょっとチェックしてみました。


USB電源

このあいだ購入したChord Qutestは、パソコンと通信するUSBのケーブルから直接電源を取る「USBバスパワー駆動」ではなく、データ通信用のUSBケーブルと電源用のマイクロUSBケーブルを別々に接続しなければなりません。(バスパワーのみでは駆動しません)。

DAC入力用USB B端子と、電源用マイクロUSB端子

電源用にUSBケーブルを使うというのは、バッテリー搭載のポータブルDAC・アンプではよく使われている手法で、たとえばChordのHugo 2やMojoなどもそうでしたし、JVC SU-AX01なども同様です。

マイクロUSBの5V電源のみを使い、実際にデータのやりとりなどは行われないので、つまり一般的な丸型端子の5V ACアダプターを使うのと同じです。利便性のために、あえて世間で普及しているマイクロUSBという形状を採用したということでしょう。

USB2.0ケーブル

まずUSB 2.0ケーブルについて簡単におさらいですが、データと電源で合わせて4本線が入っています。マイクロUSBの場合、通常のUSBケーブルには無い5本目の識別線が追加されています(これでOTGやスマホの識別を行います)が、常時電流が流れるわけではないので無視します。

オーディオ機器ではUSB 3.0や3.1ではなく、枯れた規格であるUSB 2.0がまだ普及している理由は、まず現状でステレオ2チャンネルであれば、たとえDSD256やPCM 352.8kHzなどの超ハイレゾデータであっても、USB 2.0のデータ転送速度で十分対応できるということと、XMOS社などのWindowsドライバーやインターフェースチップの実績が豊富で、安定しているからです。

また、USB 2.0の4本線に対して、USB 3.0は高速伝送のために9本線、USB 3.1 Super Speed +では12本以上という大量の線材を細いケーブルの中に収める必要があり、ノイズ混入や電流不足といった問題が悪化するので、そこまでの速度を必要としないのであれば、あえてメリットが無いということでしょう。近頃はUSB Type-Cコネクターを搭載したDAPなども増えてますが、実は内部的にはUSB 2.0用の4本線のみ、というものが多いです。


上のイラストのように、USB 2.0のデータ線は差動伝送なので、プラスとマイナスの二本線で通信されます。ヘッドホンのバランス接続と似たようなものですね。

データはGHzに及ぶ高速伝送なので、線材はAWG28~34 (直径0.33~0.16mm)くらいの細いやつが好まれます。電線が太いとインダクタンスが高くなり、高速信号を鈍らせてしまうので、細い方が良いのですが、細すぎると十分な電流が流せず、ケーブルを長くできないというジレンマがあります。

よくオーディオケーブルでも話題になる表皮効果(信号は電線の中心ではなく表面のみを通る)というのはMHz・GHzでは現実問題になるので、USBの場合はたとえば細い銅線で表面に銀メッキを施してデータ電流を流れやすくするなどの手法が使われます。

また、データ線の特性インピーダンスも90Ωになるようにツイストする間隔やケーブル間距離もぴったり設計しなければなりません。それを無視した適当な設計では、どんなに高品質な線材を使っても、終端での信号反射などでデータ品質が悪化します。

USBデータ通信は細いケーブルが良いならば、なぜ高級USBケーブルは太くて硬いのかというと、線材そのものが太いわけではなく、絶縁素材にビニールではなく高周波用に良好な発泡フッ素樹脂を使ったり、外来ノイズをブロックするためにアルミホイルを何重にも巻いてシールドしたり、外堀を埋める形で、様々な手法で品質を上げています。

古くから「ケーブルは銅線が太い方が良い、高純度OFCが良い」といったアナログ頭の人にとっては、デジタルデータケーブルにとっての良し悪しは、なかなか頭の切り替えができない部分です。

今回気になるのはUSBケーブルの中でもデータ線ではなく、+5Vと0Vグラウンドという二つのバスパワー電源線です。これらは高速データ用のような細い電線ではなく、もっとしっかり電流が流せる太い銅線が好まれます。

たとえばデータ線と同じくらい細いAWG30(0.25mm)線材だと、0.5~0.8Aくらいしか流せないので(それ以上流そうとしても発熱するだけです)、もっと太いAWG24(0.5mm)くらいあれば、4AくらいとUSBとしては十分すぎるマージンがとれます。最近ではスマホ急速充電などで、何アンペアという概念や、安いケーブルではダメだということが広く一般的にも知られるようになってきましたね。

また、隣接するデータ線からノイズの影響を避けるため、電源線は分離してアルミホイルなどでシールドしている場合もあります。

というわけで、一番安い部類の粗悪なUSBケーブルだと、あまり深く考えて作られていないので、データ線も電源線も全部まとめて細い線材で、分離せず一緒に適当にツイストされていて、絶縁もビニール素材(高周波が素通りする)で、アルミホイルシールドも気休め程度のペラペラで、なんて、色々と問題があります。

また、高級ケーブルの中でも、よくわかっていないオーディオメーカー品などで、同社のスピーカーケーブルと同じような線材に、単純にUSB端子をはんだ付けしただけの適当なケーブルも多いです。線材は高級品なので高価になりますが、USBケーブルとしてはむしろ性能が悪かったりします。

Qutest付属のACアダプター

そんなわけで、Qutestを購入すると、いわゆるスマホ充電用みたいなマイクロUSB ACアダプターが同梱しており、これを接続することでQutest本体が起動するという仕組みです。


ところで、Qutestを購入後、Head-Fiなどのネット掲示板を観覧してみたところ、Qutestそのものの音質の良さを談義しているかと思いきや、「どんな電源でQutestを駆動すべきか」という、USB電源についての話題が過熱していて驚きました。製品の本質ではなく末葉の些細な事でスレッドが乗っ取られるというのは、日本も海外も似たようなものですね。

ようするに、掲示板いわく、Qutestに付属しているACアダプターは安物だから音質が最悪で、○○という人が作っているハイエンド・オーディオグレードUSB電源に交換したら音質が飛躍的に向上した、なんていう主張の流れでした。

オーディオに限らず、カメラでも自動車でも、一旦そこそこ高価な本体を買ってしまったら、当面は買い換えるわけにはいかないので、周辺機器のドレスアップで些細なアップグレードを図ろうと企むのは、どの趣味でも同じですね。


私自身も、物量投入の古典的ハイエンド・オーディオに慣れているせいか、極太の高純度ケーブルとかが当たり前になっているので、スマホ充電器みたいなショボいACアダプターでは感覚的にどうにも心許ない気分になってしまいます。いくらメーカーが「これで大丈夫だ」と言っても、なんとなく気になってしまうという人は多いのではないでしょうか。

QutestはせっかくマイクロUSB端子なので、自分の身の回りにも様々な充電器やケーブルがありますから、色々と試してみようと思いました。

そうやってあれこれ挿し替えて比較試聴してみると、面白いもので、(プラシーボ効果もあるのでしょうけれど)、音質が変わるようです。たとえば、身近にある好評なものとしては、アップルの白いUSB充電器とオーディオテクニカのマイクロUSBケーブルを合わせたものを使うと、なんとなくサウンドが太く力強くなるようにも思えます。

iFi Audio iPower 5V

また、せっかくなのでiFi Audio iPower 5Vというのも買ってみました。こういったガジェット類を探すと必ずiFi Audioに突き当たります。

iPowerは8,000円くらいの一見ただのACアダプターで、5, 9, 12, 15Vの四種類が個別に販売されています(よくあるマルチ電圧切替タイプではありません)。

豊富な変換コネクター類

マイクロUSB変換アダプター

ちょっと緩いので固定しました

USBの電源線は5Vなので、iPowerの5Vモデルだけは、丸型端子をマイクロUSBやUSB A型メス端子に変換するアダプターが付属しています。

iPowerのスペックは5V・2.5Aなので、Qutestで使うには十分余裕があります(1Aでも大丈夫です)。ちなみに変換アダプターは緩くてすぐに外れそうだったので、スミチューブで固定しました。

このiPowerは一般的なACアダプターよりも低ノイズ設計なので、既存のものを入れ替えるだけで手軽に音質アップできるというのが狙いです。量販店であるような普通のACアダプターは大体2,000円くらいですから、それらと比べるとそこそこ高価ですが、オーディオ製品としては手が出しやすい価格なので、まんまと釣られて買ってしまいました。

実際このiPowerに変えてみて、Qutestが大きく音質アップしたかというと、なんとなく音が明確でクリアになるような印象がして、今のところこれで落ち着いていますが、絶賛しておすすめするという程の効果はありませんでした。

Qutestは高価なDACだけあって、内部の電源クリーニング回路もしっかりしていると思います。たとえば、もっと低価格なDACなどでは、電源ノイズがそのままD/A変換やアナログアンプ回路に流入してしまうリスクが高いので、iPowerのような電源アップグレードの効果も上がるのでしょう。

電源回路というのはオーディオ設計でもかなり技術とコストがかかる部分なので、メーカーにとっても腕の見せ所です。よくガレージメーカーなどで、本体と同じくらい高価な電源ケーブルや外部電源モジュールなんかをオプション販売しているところもありますが、それでは自社製品の内部設計(電源レギュレーションとかフィルター回路)が粗末だと主張しているようなものなので、本末転倒ですね。

ともかく、色々と遊んでみて、せっかくなので電源品質に実際差が出るかどうか確認してみようと思いました。

テスト

真面目な実験ではないので、マイクロUSBの配線をオシロで拾えるアダプターを作って挟んでみました。いわゆるブレイクアウトというやつです。

これで、マイクロUSBのグラウンドを基準点として、5V電源線のACノイズ成分をMHzくらいまで測ってみるわけです。

適当な自作アダプター

このアダプターのせいで余計なノイズが乗ったりするのではという心配もありましたが、実際そこまで変な挙動は見せませんでしたし、しっかり再現性のあるデータがとれました。

ここで重要なのは、ちゃんとQutestを駆動して、音楽を再生して、電流を流して、負荷をかけた状態でノイズを観測することです。無負荷でUSB 5V端子を測っても、空気中のノイズを拾うアンテナになるだけで無意味です。

たとえば上の写真のアダプターも、Qutestに接続していない状態であれば、近くのテレビを点けたり、スマホやBluetoothマウスを振りかざすだけで微電流のノイズが盛大に5Vに乗りますが、Qutestに接続して電流を流している状態であれば、それら電磁波はエネルギーが低すぎて全く影響を与えません。

PICO 5000

オシロはイギリスPICOの5000シリーズを使ってみました。普段はアジレントの大きいやつを使うのですが、こちらはPCからUSBで制御するタイプで、60MHz・16bitということで、こういったちょっとした作業に便利です。

フルスペックなオシロと比べると非常に値段が安いので趣味用には便利なのですが、電源部分がパソコン依存になるので、耐圧が低いことと、アース環境次第ではアンテナのごとく盛大にMHzノイズが乗ったりして、安いだけあって実務上の安心感は低いです。さすがにMHzで16bit出せるかというと怪しいものですが、しっかりとしたアースと部屋とパソコンさえ整えれば、少なくとも今回のようなチェックくらいなら、そこそこの再現性が得られます。

ショート

参考までに、オシロの0Vショートの状態ではこんな感じです。上のグラフの±100mVの5秒スウィープで雰囲気を見て、下のFFTはフィルター無しの16MHz 16384ポイントでBlackman窓関数です。絶対値というよりも雰囲気を比較するにはこれで良いです。

こういうよくあるやつ

まず、そこらへんにあったBelkinのスマホ充電器を使ってQutestを駆動してみた時の例です。
一般的なUSB充電器でQutestを駆動

USB 5V電源に乗っているACノイズにズームインするとこんな感じです。

ランダムノイズも多いですが、時間軸をズームインしてみると、13kHzでギザギザな波形になっているのが見えます。DC 5Vと言っても実際は±20mVくらいの振幅があるので、4.98~5.02Vくらいでスイッチングノイズが残ってQutestに流れていることがわかります。FFTで周波数成分を見ても、この13kHzとその高調波がはっきり見えます。

もうちょっと高級なACアダプターならば、ここにコンデンサーやチョークでギザギザを取り除いてスムーズに仕上げるのですが、2000円くらいのアダプターだとこれくらいが普通です。

Qutest付属の

次に、Qutestに付属していたACアダプターを見てみました。Belkin同様、10kHz付近にスイッチングノイズがありますが、時間軸で見ると全体的に振幅は若干低めで、ランダムなチリチリノイズもまあ少ないことがわかります。

確かに、そこらへんのUSB充電器を使うよりは十分低ノイズと言えそうです。

アップルの白い小さいやつ

アップルのにBelkinマイクロUSBケーブル

オーディオ用途でそこそこ定評がある、アップルの白い充電器を使ってQutestを駆動してみました。天下のアップルだけあって下手なものは作らないだろうという期待があります。

3000円くらいの「12W」というやつです。ちなみにアップルストアで買ったので確実に純正品だと思いますが、ネットなどでは低品質な模造品が多いので注意が必要です。

ノイズ振幅はQutest付属アダプターよりも多めですが、ノイズ成分が10kHz帯ではなく、100kHzから1MHzくらいまでに分布しています。だからといって音質にどう影響するかは不明です。チリチリノイズはとても少ないですね。

iPower 5V

iPower 5V

iFi Audio iPower 5Vです。オーディオ用の低ノイズ設計というだけあって、確かにこれまでの物よりも優れています。MHz帯にランダムなチリチリノイズが乗っていますが、これまでのACアダプターであったようなkHz帯のスイッチング定在ノイズが観測できません。ほぼオシロのノイズフロアで測定不可能です。時間軸で見るとランダムノイズ以外は電圧波形の振幅がとても狭いのがわかります。

今回唯一の出費で期待していただけあって、十分頑張ってくれているようで嬉しいです。

モバイルバッテリー

モバイルバッテリー

最後に試してみたかったのは、USB モバイルバッテリーでの駆動です。

Qutestは消費電力がとても低いので、1A以上出せるスマホ用モバイルバッテリーであれば十分駆動できます。

昔からオーディオマニアというと、何につけても「バッテリー駆動」というのがワンランク上のファッションアイテムでした。半世紀前のレコード用フォノアンプとかも、オートバイ用電池で駆動するとか流行ってました。

今回は適当にその辺にあったモバイルバッテリーを使ってみました。家電量販店で買った5,200mAh・2.1Aという、よくあるやつです。

これでQutestを駆動してみると、確かに電源ノイズは低いです。さすがマニアが奨めるだけのことはあります。ランダムも定在ノイズも非常に少ないですし、バッテリーだからといって不安定ということもありません。しっかり5Vで安定してくれます。(もちろん残量が減ってくると危ういですが)。

ただし、大昔からある鉛電池やアルカリ電池のような原始的な直流電池ではなく、こういったリチウムイオンバッテリーというのは、内部にスイッチング電源と同じようなレギュレーション回路が搭載されており、それで過負荷や温度上昇などを制御しています。そのためか、590kHz付近にちょっとしたピークが現れました。

モバイルバッテリーと言っても、容量も品質も様々なものがありますし、露天で買ったような低価格大容量の物は、ここまでノイズが低くないかもしれません。想定外の使い方をして爆発事故なんていうのは避けたいです。

オーディオブランドのマイクロUSBケーブル

ところで、モバイルバッテリーはせっかくここまでノイズが低いので、では高級オーディオグレードなマイクロUSBケーブルをあわせて使ったら、どれほど凄いクリーニング効果があるのかチェックしてみたくなりました。

マイクロUSBケーブルまで作っているオーディオメーカーは少ないので、個人的になにか見つけるたびに、つい買ってしまいます。

とくにDSD再生でのプチプチノイズなど、これまでマイクロUSBケーブルの「データ線」側の品質にはさんざん悩まされてきたので、色々と試す価値はあったのですが、今回はデータ線は使わず、あくまで「5V電源線とグラウンド」のみの評価なので、面白いです。

ちなみに上記のグラフはエレコムのDH-AMB12という1,700円くらいのやつを使いました。安いわりにDXDとかでも安定していて、見た目もオーディオっぽくてカッコよくて、取り回しも楽なので、最近はこればっかり使っています。

Audioquest Cinnamon

オーディオテクニカ AT-EUS1000mr/1.3

結局どのケーブルを使っても、あまり気になるような差はありませんでした。依然としてバッテリー依存の590kHzノイズが見えます。

データ線ではそこそこ違いがあったとしても、電源側はただの太い銅線なので、たかがQutestを駆動するくらいなら、それこそケーブル内に回路とか小細工を入れない限りは差は出ないということでしょうか。

もちろんもっと凄いケーブルがあるかもしれませんし、色々と話題は尽きませんが、とりあえず手元にあったもので調べたのは以上でした。

余談1

ところで、オーディオ製品に限らず、電気機器において「コンセント電源」というのは、人の命に関わってくる部分なので、日本のPSE、米国のUL、ヨーロッパはCE、中国のCCCなど、各国それぞれ製造と輸入に対する厳密な保安規格があり、法的にも責任の大きい分野です。感電事故のみでなく、挿しっぱなしで放置したら発熱して自宅全焼ということも起こりえます。

たとえそれがスマホ充電器のようにありふれた簡素なものであっても、各国それぞれの認証試験のために、実際の商品サンプルの被破壊試験、二重三重の保護回路の証明、そして製造者の資産や賠償責任保険加入の証明など(つまり万が一事故が起こった際に対応できるだけの能力があるか)といった複雑な審査があります。自作マニア程度の少量生産ならノーチェックOKという国もあれば、商品を一つ売るためにも、テストに数百万円かかるような国もあります。

ようするに、そういった事を知らずに(もしくは自分は該当しないと思い込んで)自作オーディオ電源などをネットで販売してしまうと、あとでとんでもない法的義務が発生するという事例が少なくありません。

個人的に自作オーディオにそこまで悪い印象は無いのですが、ネットオークションなどでマニアが販売している手作りオーディオ製品などでは、そもそも規格認証以前に、電源ケーブルが二重絶縁していないとか、アースがねじ止めされていないとか、輸送中に上下逆になったらケーブルがズレてショートするとか、一見しただけで明らかにアウトなデザインも多いので、マニアの手前味噌というのは恐ろしいものがあります。そういったトラブルからユーザーを守るための保安規格なのですが、それが小規模オーディオメーカーの足枷になっている側面もあるので、なかなか難しい問題です。

また、規格審査のために海外の役所機関に商品サンプルと回路図の提出したら、数年後にはそっちの国でそっくり似たような商品が発売されたとか、そういった技術流出の問題もよく聞くので、なんともいえませんね。

iPowerにもちゃんとPSEやCEなどの認証マークがあります

最近多くのメーカーが「黒いプラスチックのACアダプター」や「モジュール型スイッチング電源」になってきたのは、そういった電源専門メーカーが、オーディオメーカーの代わりに苦労して安全性と世界的な認証を取得してくれているからです。

逆に言うと、オーディオ用というニッチな産業のためだけに、わざわざ各国の認証を得るのは割が合わないということで、あまりノイズ対策などを考慮していない汎用品が普及していることも確かです。

そうなると、しょぼいACアダプターで駆動してもサウンドに悪影響を及ばさないように、オーディオ機器回路内部にどれだけ高度なノイズ除去・電圧変動除去などのクリーニング回路を盛り込むかという方向になっています。

どんなに有名なD/Aチップやオペアンプなんかを搭載していても、結局サウンドが悪い製品というのは、目先の高級アピールだけが先行して、電源回路にコストをかけていない場合が多いようです。

余談2

コンセントの交流100VからDC 5Vなどを作る電源というのは、原理的にノイズの発生は避けられません。そこで、コンデンサーやチョーク、レギュレーターもしくは何らかのフィードバック回路などでノイズを低減させて、綺麗な電源を出力する手法が一般的になっています。

その過程で取り除かれたノイズ成分というのは、理想的には熱に変わってしまえばよいのですが、実際はその何割かはコンセント側に逆流して、近くのコンセントに挿している他の機器に影響を及ぼしたり、もしくは電磁波としてエネルギーが空気中に放出されてしまいます。

そういったノイズはほぼ電源の電流量に比例するので、大きなパワーアンプなんかは顕著ですが、DAC程度では微々たるものです。

電磁波ノイズについては、世界的にはCISPR(国際無線障害特別委員会)、IEC、ISO、FCCなど様々な規定があり、これもしっかり満たしていないと販売できない、もしくは規格外のものを売って他社製品に悪影響を及ぼしたら法的責務がある、といったルールがあります。

たとえば、安っぽいスイッチング電源が嫌いだからと、大容量トロイダルトランスのリニア電源を用意したら、5V電源品質は確かに綺麗になったものの、電磁波ノイズが増大して、ヘッドホンから「ブーン」とノイズが聴こえてしまうという本末転倒もあります。

これも大手オーディオメーカーであれば、国際規格以上に厳密にシャーシのシールドでしっかり電磁波漏れを防いだり、そもそもそういった国際規格を前提として、昔のような無駄の多い物量投入な電源設計は極力避けるようになりました。そして、外来の電磁波でノイズや不具合が起こらないように、過酷な環境できっちりテストを行っています。

一方、自作キットなどでは設計者が電磁波測定器を持っていないため、ノイズ漏れまくりでも気が付かないとか、周囲の電磁波のせいで音質が悪くなる(ハムノイズとか)といったトラブルに対応しきれなかったりします。

電磁波シールドの一例

上の写真は友人宅のヘッドホンアンプなのですが、どう設置場所を移動しても、コンセントを変えても、球を変えても、どんなオーディオアクセサリーを介してもヘッドホンのジージーノイズが消えないということで、数ヶ月の試行錯誤の末、結局ベストの回答は、特殊な電磁シールド材(アルミのバーベキュー皿)を特定の位置に配置して、非磁性ロッド(塗り箸)で固定することでした。この場合、そもそも誰が悪くて、誰の責任になるのでしょう。

とくに真空管アンプの場合、電磁波に弱いので、本来ならガラス管は金属のシャーシケースに収めるべきなのに、それでは格好悪くて売れないという問題があります。高価なブランドであれば、少なくとも取り外し可能なメタルグリルくらい付属してもらいたいですね。そうでないと、音質よりも見た目を優先しているという事になってしまいます。


また、コンセント電源に逆流するノイズについては、各自治体や電力会社でガイドラインがあるのみで、中々明確な設計ルールがありません。

たとえば今回買ったiFi Audio iPowerも、各国アマゾンレビューとかを見ると、大変素晴らしいという人がいる一方で、コンセントに挿したとたんに他のオーディオ機器からいきなりノイズが出た、なんてトラブルに遭遇した人もいるようでした。その場合、iPowerの設計が悪いのか、個体差なのか、自宅配線トラブルなのか、他のオーディオ製品が悪いのか、色々とややこしいことになってきます。

幸い私の場合はとても良好で、近くのスピーカーやレコードプレーヤーも快適に使えていますが、そうでない場合もあるので注意が必要です。

余談3

電源の問題は、ポータブルDAPなど、バッテリーを搭載している機器ではさらに複雑になります。

リチウムイオンバッテリーを充電するために電源管理回路というのを搭載しているわけですが、最近ニュースになったスマホの発熱爆発事件などのように、大手メーカーでさえも問題を回避できないくらい、かなりリスクの高い分野です。

高級DAPともあれば、本来であればDAPメーカーがオーディオに相応しい低ノイズのバッテリー電源回路を設計すべきなのですが、設計ミスで爆発したら一大事なので、その辺はスマホやタブレット用で定評のある回路をまるごと買い付けて投入することが一般的です。

そこで起こる弊害としては、たとえば音楽を聴いている時に充電すると、チリチリとノイズが聴こえてしまうようなDAPがとても多いです。とくにバランス接続の高感度イヤホンだと、アナログアンプのアースがとれていないため、充電スイッチング回路の浮き沈みに合わせて音楽にパチパチとノイズが出たりします。

Cowon Plenue S

Plenue Sを充電中、普段こんな感じなのに

いきなりこんな電源ノイズが出たり

先ほど測定したUSB 5V電源のノイズも、たとえば私が愛用しているPlenue S DAPを例に挙げると、Qutestのときとは比べ物にならないほどの膨大なノイズが断続的に乗ったりします。これはDAP内部のなにかしらの電源制御によるので、外部電源やUSBケーブルをどれだけ高級品に変えても改善されませんでした。

DAP内部では、バッテリー回路だけでなく、液晶ディスプレー回路、Bluetooth回路、SDカードの読み書きなど、オーディオ専用ではない汎用部品はまだまだあり、それら全てを自社設計するというのはほぼ不可能です。そんな難しい中で、現在のハイエンドDAPというのはよく頑張っていると思います。

各回路における電源ノイズに関してあまり考えすぎると、以前話題になった「高音質SDカード」のようなレベルにまで至ってしまうため、なかなか笑いものにできません。

余談4

今回とりあげたChord Qutestでは、デジタルデータ用と電源用でそれぞれ別のUSBケーブルに分けている設計でした。

一方、私がQutest以前に愛用していたiFi Audio micro iDAC2のように、一本のケーブルによるバスパワー駆動DACも多いです。

コンセント電源を使うような大型据え置きDACであっても、実はUSBインターフェース部分のみはバスパワーで、それ以降のD/A変換やアナログアンプ回路はコンセント電源という中途半端な設計は多いです。これはバスパワーにすることで5VとグラウンドをPCとDACで共有して安定化する必要があるとか、もしくはそもそもUSBインターフェースは外注モジュールを後付けしただけとか、色々な理由があります。

Qutestの場合、USBデータ線は電源的に完全にアイソレーションされている(つまりパソコンと電位を共有しない)という事が一つのセールスポイントになっています。

そもそもUSB DACというのはヘッドホンアンプなどと違って振動板を駆動するような大出力は要求されておらず、せいぜい数十ミリワット程度のライン出力のみなので、バスパワーでも十分に賄える範疇です。

それでも、あえてデータと電源を分けて取るメリットはいくつかあります。

まず、最近はUSB 3.0やスマホ急速充電対応などで、だいぶ改善されてきましたが、それ以前の古いパソコンでは、全USBポートで電力の取り合いで、マウスやポータブルHDDとかを接続していると、それらに電力を全部吸われて、USB DACに回す電力が足りない、ということもありました。当時は外付けUSBハブを通すとDACの音が良くなるとか、いろんな裏技が提唱されていました。最近のパソコンではUSB周りがずいぶん強化されているので、そういったトラブルはあまり聞かなくなりました。

個人的にもっと気になるのは、パソコンやケーブル内での、データと電源線間の飛び移りです。以前micro iDSDでも同じ事を書いたと思いますが、パソコンのUSBバスやUSBケーブルの設計によっては、データが流れると5V電源が不安定になるとか、データ線の音楽信号が5V電源線に飛び移って、それが電源を汚してしまうということです。

AK240をUSB DACとして使いました

ALO Micro USBケーブルで

バスパワーDACの例として、AK240をUSB DACとして使ってみました。

先ほどのChord Qutestと同じように、マイクロUSBの5V電源線ノイズを測りながら、音楽を停止した状態から、パソコンで音楽を再生しはじめると、音楽データがUSBケーブルに流れると当時に、5V電源線にも無視できないレベルのノイズが観測できます。上の画像だと、ちょうど横軸の-0.5秒付近で音楽再生を始めました。

これはパソコン内部で起こる部分もあると思いますが、USBケーブルによって規模が結構変わったので、やはりケーブルの設計や長さに依存する部分も大きいと思います。

このノイズは5V電源にAK240を駆動するだけの負荷がかかっている状態で現れているので、無負荷で観測できるような高インピーダンスノイズではありません。つまり、そこそこ強く実害のあるノイズで、スマホの電磁波などの微弱な外来ノイズよりも断然強力ですから、チョークコイル(フェライトコア)とかで減衰させることも難しいです。(減衰できるほど強力なフェライトを付けたら、データも劣化してしまいます)。

Audioquest Cinnamon

Xperia付属のやつ

ではどのケーブルが良いかということになりますが、同じくAK240で色々試してみたところ、ケーブル毎に差が出ることは確かです。

実は手元にあったALOやAudioquestなどの高級USBケーブルの方が電源ノイズの現れ方が顕著で、BelkinやソニーXperia付属のショボいUSBケーブルの方が、無音時のノイズは大きめですが、音楽再生時のノイズは意外と少ないという結果になりました。

理由はよくわかりませんが、高級ケーブルは広帯域でノイズを通過させてしまい、逆に安物ケーブルはインピーダンスが高く、高周波ノイズのブレーキの役目があるのでしょうか、だとすれば皮肉なものです。もちろんそれら安いケーブルはデータ線側の信頼性が低くてプチプチノイズが出たりするので、完璧とは言えません。

そんなわけで、iFi AudioのようにバスパワーDACの場合は、データ線と電源線が十分離れたケーブルの方が良い、という事になるわけで、iFi AudioはまさにそのためのGeminiケーブルをちゃっかり販売しているわけで、つくづく用意周到なメーカーです。それ以外にも、USBフィルターみたいなガジェットも色々出してます。

データ線と電源線を分離したUSBケーブル

なんにせよ、USBケーブルというのは、高周波のデジタルデータとDC 5V電源が、同じケーブル内で隣接しているというシビアな環境です。

取り回しを良くしようとすればケーブルは細く密接することになり、しかもバスパワーともなると、その5V電源がオーディオ機器のD/Aやアナログアンプ電源に供給されるわけでですから、よく言われるような、「USBはデジタルなんだから、どのケーブルを使っても同じ」というのも心配になります。

おわりに

今回は暇を持て余して、Qutest DACの電源はどうすべきか気になってチェックしてみましたが、一番重要な事は(自己防衛のためにも言っておきたいのは)、それで実際の音質がどうなるというのは、なかなかよくわからないということです。

リスニング中にチリチリノイズが出るとか、接続が不安定というのであれば論外ですが(他社のDACではそういうのも経験しましたが)、Qutestの場合、その辺は過去モデルと比べてもしっかりと造られているので、「響きが、音像が」といった主観的な音質評価のみになってしまいます。

実際のところ、MHzくらいの高周波ノイズが電源から混入したところで、それが直接聴覚に影響を与えるというようなオカルト効果ではなく、むしろMHz帯域で駆動しているデジタルICやクロック、ロジック回路などに滲み(ジッター)や偶発エラーを誘発させる可能性ですから、一様には結論づけられません。

一応Qutestのアナログ出力をRMEなどオーディオインターフェースで測ってみましたが、電源由来ノイズの影響は見えませんし、私自身が24bitを超えるようなオーディオ測定機器も持っていませんし、そもそもそれで観測できたところで、そこまで低いノイズレベルを人間は聴こえるのか、という話になりますし、極論を言うと、そんなミリボルト以下のノイズ信号でイヤホンの振動板は動くのか、という事になってしまいます。


オーディオにおいてUSBというものが市民権を得て一大ジャンルを確立したおかげで、今では中核のDACを取り巻く様々なアクセサリー類が世の中に溢れています。

Qutestの場合も、マニアックな人になれば、大きなトロイダルトランスを使ったリニア安定化電源とかを導入するかもしれませんし(あまり大きすぎると、今度はそれ自体が電磁ノイズ源になるので本末転倒ですが)、さらにデータ用USBケーブルもこだわりはじめれば、ソースはやっぱりオーディオ専用NASじゃないとダメだという人もいれば、iFi Audio iUSB 3.0や、USBノイズフィルターみたいなガジェットを組み合わせる人もいます。

自宅の汎用パソコンの周辺機器という存在だったUSBオーディオが、その殻を破って音楽のためだけのUSBオーディオ環境に変化したとも言えますし、ハイエンドケーブルなどと同様に、オーディオマニア向けのプレミア感が形骸化し始めているという危うさもあります。


少なくとも今回わかったのは、まずモバイルバッテリー駆動というのは、熱心な信者が多いだけあって、やはりそれなりに低ノイズだという事、iFi Audio iPowerもACアダプターとしてはかなり頑張っているので、技術的には十分説得力があるという事、Qutest付属のACアダプターは一般的なスマホ充電器とかよりはマシなものの、スイッチングノイズがちょっと多めだった、ということくらいでしょうか。自分なりになんとなくUSB電源についての感覚が掴めてきたという事が収穫です。