2018年4月24日火曜日

ソニー WH-L600 ワイヤレスサラウンドヘッドホンのレビュー

ソニーのヘッドホン「WH-L600」を買ったので、感想とかを書いておきます。

2018年4月発売の家庭用ワイヤレス・バーチャルサラウンドヘッドホンです。HDMI ARCや光デジタル入力登載で、価格は3万円弱というこで、主にテレビ鑑賞をターゲットにした商品のようです。

WH-L600とMDR-HW700DS

ワイヤレスサラウンドで16時間連続再生ということで、旧作MDR-HW700DSのように気軽にゲームなどで使えればと思って購入してみました。


ソニーのサラウンドヘッドホン

私自身は結構テレビでゲームやDVD・ブルーレイを見たりする方なのですが、これまでに色々なサラウンドヘッドホンを試してきた結果、ソニーが2013年に発売した「MDR-HW700DS」というモデルに落ち着いていました。

MDR-HW700DSは完璧ではないものの、4KパススルーやドルビーTrueHDなど、当時としては相当なフルスペックモデルだったので、5年経った2018年でも十分活用できる優秀なヘッドホンだと思います。

ボロボロ、グラグラで、はやく捨てたいMDR-HW700DS

ヘッドバンド、イヤーパッドは黒いカスが散乱します

そんな私のHW700DSですが、ゲームなどで常用しているため使用時間が1,000時間を遥かに超えて、そろそろ買い替えたくなってきました。バッテリーは12時間再生というスペックながら、今では3~4時間持てば良い方ですし(幸いマイクロUSB充電なので、モバイルバッテリーを繋げて動かしています)、組み付け接着剤はボロボロ、イヤーパッドはパリパリに劣化して、装着後は耳に黒い海苔みたいなものがベタベタ付着します。

さらに、ソニーといえば、近頃はNW-WM1Z、MDR-Z1R、TA-ZH1ESなど真面目なヘッドホンオーディオの開発に相当な力をいれているので、それらの技術恩恵を受けた新たなサラウンドヘッドホンがいつ出るのか首を長くして待っていました。

今回発売したWH-L600は、残念ながらそういったハイエンドモデルではなく、スペックを見てもかなり中途半端な存在なので、身の回りやネットレビューなどでは「地雷モデル」として話題になっていたのですが、それでも個人的な現状として、不本意ながらHW700DSをまた買い直すか、WH-L600を買うか、という決断に迫られて、せっかくなので新製品を試してみたいという気持ちが勝ちました。

WH-L600

WH-L600は、サラウンドヘッドホンといっても、ヘッドホンのドライバーそのものは左右にひとつずつで、入力された5.1chサラウンドデータをデジタル信号処理(DSP)を通す事で擬似的に三次元っぽく鳴らすという、いわゆるバーチャルサラウンドヘッドホンです。

肝心なのは、2chステレオの音声を擬似的にサラウンドっぽくするというのではなく(そういった機能もついてますが)、ゲームや映画などの本物の5.1chサラウンドデータが扱えるという点です。

最近、普通のステレオヘッドホンでもバーチャルサラウンドっぽく鳴らす事ができるソフトウェアなんかもたくさん出ていますが(Windows Sonic、Dolby Atmos for Headonesなど)、WH-L600の場合は、信号処理とヘッドホンがセットで開発されているので、より確実で正確なサラウンドの再現が期待できます。

パッケージ

久々に見た発泡スチロール梱包です

私は普段から多くのヘッドホンを買っていますが、今回WH-L600を買ってみて「やっぱりオーディオじゃなくてAV家電なんだな」と実感が湧いたのは、梱包が「二分割の発泡スチロール」だったからです。テレビや炊飯器なんかではまだ見ますが、エコロジーや美的観点から、最近ヘッドホンのパッケージで発泡スチロールはあまり見ませんね。

ACアダプターと角-角光デジタルケーブルが付属してます

それにしても、巨大な送信機です

本体イヤーパッドには保護カップがついてました

中身を取り出してみると、ヘッドホン本体はHW700DSとほぼ同じサイズなのですが、送信機が想像以上に大きくて驚きました。確かにヘッドホンスタンドと充電器を兼ねているので、ガッシリしてないと倒れてしまいますね。


PS4とかと質感が合います

光とHDMI ARC入力

まず送信機の方は、ACアダプター駆動で、入力端子はHDMI ARC(これについては後述します)、光デジタル、そして一応3.5mmステレオアナログ入力も搭載しています。

背面には出力音量のハイ・ローゲイン切り替えスイッチがありますが、私はローゲインのままで十分でした。

送信機側面のスイッチ

側面には「MATRIX」「COMPRESSION」「CTRL FOR HDMI」というスイッチがあります。WH-L600は5.1ch信号のみ対応しているのですが、MATRIXをONにすると、それを内部的に7.1chっぽく拡張してくれるという機能です。

ちなみにサラウンドというと5.1・7.1・9.1・7.1.4chという風に年々スピーカー数が増えてますが、WH-L600は古典的な5.1chサラウンドにのみ対応しています。

COMPRESSIONは、サラウンドではよくある機能で、映画やゲームなどの音声コンテンツは、たとえば爆発音がうるさすぎて、声のセンターチャンネルが静かすぎるなんて事が結構起こるので、そういった場合に各チャンネルの音圧範囲をある程度均一化する機能です。通常はOFFの方がダイナミクスを最大限に活かせます。

CTRL FOR HDMIは、後述するHDMI ARC入力を使う際に、送信するテレビ側に「今HDMIでWH-L600が接続されていますよ」という信号を送る機能です。これをOFFにすると、テレビの挙動によっては、自動的にTV内蔵スピーカーに出力が切り替わります。(BRAVIAの場合はそうでした)。

送信機フロントボタン

現在の接続によってランプが点灯します

送信機の前面には、電源、SOUND FIELD、INPUTという三つのボタンがあります。

送信機の電源は、ヘッドホンを充電スタンドから外すと自動的にONになり、スタンドに戻すとOFFになるので、普段は押す必要がありません。

INPUTは、HDMI・光デジタル・アナログを切り替えるボタンで、前面のランプで現在どの入力か表示されます。電源ONで必ずHDMIになるので、光デジタルを使いたい場合は毎回切り替えないといけないのがちょっと面倒です。

SOUND FIELDは、AVアンプやテレビなどのギミックでよくある、バーチャルサラウンド的なやつです。「OFF→CINEMA→GAME→SPORTS→VOICE」のモードが選べます。

ヘッドホン

ヘッドホン本体は、HW700DSと比べると全体的にプラスチックで安っぽいのですが、装着感は良好で、重量も変わらず320gなので、ほとんど同じ装着具合で、すんなりと違和感無く移行できました。

意外とカッコいいです
一般的なヘッドホンといったところです

軽量化のためにはプラスチックになるのでしょう

側面デザインは、プラスチックでありながら、できるだけチープさを見せないような涙ぐましい努力を感じさせます。ハウジングはザララザで一見MDR-HW700DSっぽいレザー調の質感にしているのが健気です。

MDR-HW700DSとの比較

MDR-HW700DSと並べて見ると、サイズ感やハウジング形状などはほぼ同じだということがわかります。HW700DSはハウジング回転ヒンジ部品が飛び出している形状なので、ホールド感が良好だったのですが、私の個体はこのヒンジが弱くガタガタになってしまったので、WH-L600のように、一般的なソニーヘッドホン(MDR-1Aとか)と同じ形状の方が安心できます。

MDR-HW700DSとの比較

パッドの厚さは違うものの、どちらも快適です

イヤーパッドは最初はゴワゴワしていましたが、使っているうちにだんだんとHW700DSに近い質感になってきました。どちらも長時間使用に耐えうる良好な装着感で、このへんはさすがソニーといったところです。

この部分が気になります

8時間連続で使ってみたところ、イヤーパッドには不満は無かったのですが、ヘッドバンド頭頂部に充電端子用の窪みがあり、ここがクッションの段差になっているので、2時間に一度くらいは頭の接触位置をずらさないと痛くなってきました。

このギミックのためにわざわざ凝ったクッションデザインになっているので、もうちょっとどうにかならなかったか、疑問に思います。最近スマホで増えてきた非接触充電とかはまだ急速充電とかには向いてないんでしょうかね。

ドライバー

イヤーパッドはMDR-1Aみたいに簡単に取り外せるので、中身のドライバーなどが観察できます。サラウンド用といっても、一見普通のヘッドホンと変わりませんね。ちなみにMDR-HW700DSではここに薄いメッシュが接着してあり、使っているうちに剥がれてしまいました。

スイッチ類

本体側面には電源ボタン、ボリューム上下と、SOUND FIELD切り替えボタンがあります。

できればINPUT切り替えボタンもヘッドホン側にあったほうが便利ですが、MDR-HW700DSではボタンやレバー類がゴチャゴチャしすぎていて、間違えて押してしまうこともあったので、無くて正解かもしれません。

ヘッドホンの電源ボタンは送信機の電源とは別で、こちらはユーザーが手動でONにする必要があります。スタンドに戻すと自動的にOFFになります。

WH-L600で改善された良い点としては、オートパワーオフしにくくなった、というのが個人的に結構嬉しいです。

HW700DSはヘッドホンにセンサーがあって、外した状態で数分放置すると、ヘッドホン、送信機ともに勝手に電源が切れてしまいました。

WH-L600では、音声が流れている間は、ヘッドホンを外した状態でも勝手に電源が切れませんでした。HDMIが無信号状態だと一時間くらいで送信機が切れますが、ARCなのでソースとテレビ間の接続が切れるわけではありません。

HW700DSでは送信機の電源が切れるとパススルー状態になり、ソース側からすると、いきなり別のモニターに挿し替えたように思われます。ゲームやHDCP対応BDプレイヤーなどでは、こうなると再起動するまで全く音が出なくなったり、もしくはバグで強制終了するといった問題が発生します。ヘッドホンのオプションで「オートパワーオフしない」という設定項目があればそれで済むのに、というのが不満でした。

このOSDが無くなったのは非常に残念です

WH-L600の悪い点ですが、MDR-HW700DSにあったOSD(オンスクリーンディスプレイ)が無くなったのは痛いです。OSDでヘッドホンの詳細設定などを画面を見ながら細かく行えましたし、現在再生しているサラウンドフォーマットについての情報がわかるのは、初期設定の際にとても便利でした。

時代的には、ソニーもWH-1000XM2でやっているように、詳細設定はスマホアプリでできれば良かったのですが、難しかったのでしょうか。

もう一つ悪い点として、ゲーマーにはあまり重要ではないかもしれませんが、MDR-HW700DSは合計4機まで増設子機を追加できます。WH-L600は単独のヘッドホンのみです。

HDMI ARCと光デジタル

MDR-HW700DSでは「3×HDMI入力、1×HDMI出力」という、いわゆるAVアンプのようなパススルー方式だったのですが、今回のWH-L600は「HDMI ARC(Audio Return Channel)」方式になりました。

HDMI入力にはTV(ARC)と書いてあります

MDR-HW700DSはAVアンプっぽい3入力1出力でした

ほとんどのテレビであればARC出力がありますが、とくにオーディオマニアで実際に使ったことがある人は少ないと思います。私も今回が初めてです。

うちの東芝はHDMI 1がARCでした

ソニーのはHDMI 3がARCでした

自宅にあるテレビを確認してみたところ、2012年の東芝REGZAと、2017年のソニーBRAVIAのどちらも、四つのHDMI入力端子のうちのひとつに「ARC」マークがありました。

このHDMI ARCからWH-L600に接続することで、他のHDMI入力の音声がWH-L600に送られるという仕組みです。

余談になりますが、私のソニーBRAVIA(55X9000E)で馬鹿だなと思ったのは、四つのHDMI入力端子のうち、HDMI 2・HDMI 3のみが「ハイスピード4K 60p 4:4:4、4:2:2、4:2:0 10ビット」に対応しており、残りのHDMI 1・HDMI 4は4K ・24フレームに限定されます。しかし、HDMI 3がARC用端子に割り当てられているので、WH-L600を接続すると、ハイスピード入力はHDMI 2しか残っておらず、ちょっと困ります。(AVアンプやHDMIスイッチャーなんかを通せばよいのですが)。

うちのBRAVIAはリニアPCM5.1ch入力対応なのですが・・・

テレビの説明書を読むと、ARCはリニアPCM 2chです

それはさておき、HDMI ARCの一番致命的な問題は、実は2chステレオとドルビーデジタル&DTSにしか対応していないという点です。

つまり、HDMI 1.0規格で標準化されている「5.1ch・7.1chリニアPCMサラウンド」や、それ以降に導入されたドルビーTrueHD、DTS HD Master Audioに対応していません。

HDMI ARCというのは、ケーブルはHDMIですが、実質的には光デジタルケーブルと同じレベルのものです。テレビがHDMIリニアPCMサラウンド入力対応であっても、説明書をよく読むと、ARC出力は2chステレオのみです。

このHDMI ARCと光デジタル接続を前提としたからこそ、WH-L600はHDMI入力でありながら、2chステレオとドルビーデジタルのみにしか対応していないという中途半端なスペックになったのでしょう。

最近は、AVアンプでサラウンドスピーカーを組むような家庭も減ってきて、テレビの下に置くサウンドバーが主流になっており、そういうのを気軽に接続するために、光デジタルの代わりに登場したのがHDMI ARCです。光デジタルだと、抜き差しの自動認識やボリューム操作連動などができないのですが、ARCならそれができるので便利だということでしょう。

ところで、2017年末に登場したHDMI 2.1規格では、ようやくARCで7.1chリニアPCMサラウンドを送れるという「eARC」という新フォーマットが提案されましたが、まだ導入している例を見たことがありませんし、少なくとも私のテレビもWH-L600も未対応のようです。

ドルビーデジタル

そんなわけで、HDMI ARC、光デジタルともに、サラウンド信号はドルビーデジタル・DTSにしか対応していないので、WH-L600もそれだけにしか対応していません。

ドルビーデジタルについて一応書いておきます。これはいわゆる非可逆圧縮デジタルフォーマットです。つまりMP3のように、データを減らして圧縮するため、音質劣化が伴います。本来は、90年代に映画館で上映する音声のために開発されたものです。

家庭用ドルビーデジタルは、1995年にDVDという新デジタルフォーマットが登場した際に、まだHDMIケーブルは存在していなかったので、当時すでに普及していた(CDプレイヤーとかについていた)S/PDIF同軸・光デジタルケーブルの2chステレオ信号に、圧縮した5.1chのデジタルデータを詰め込んで送り出すという仕組みです。なんだか、DSDのDoPといい、いつの時代もS/PDIFは老体に鞭打って想定外の用途で酷使されてますね。

接続先のAVアンプのデコーダーさえ正しくドルビーデジタルだと認識できればよいので、経路は既存の2chステレオ用を流用できるというのが大きなメリットですが、今となっては化石のように古い規格です。

同時期に似たようなDTSというシステムも登場しました。当時はDVD音声にてドルビーデジタルとDTSのどっちが高音質かで議論になったりしましたが、結局どちらもMP3のような圧縮音源なので、ハイレゾリニアPCMサラウンドが一般的となった今となっては興味も薄れています。映画の配給会社がドルビーがワーナー系でDTSがユニバーサル系で、DVDでは双方の顔を立てて両方採用したような流れだったと思います。

ドルビー社の狙いどおり、ドルビーデジタル方式のDVDや、それらを解読するデコーダーを搭載するアンプなどに、ドルビーのロゴが掲示され、ライセンス料が発生するという、膨大な利権ビジネスになりました。(最近のMQAも似たようなビジネスモデルですね)。

2002年にHDMIケーブルという新規格が登場した時、我々はようやくドルビーデジタルと圧縮音源というしがらみから開放されると期待しました。HDMI 1.0規格にて、非圧縮リニアPCM7.1chサラウンドに対応するということが明記されています。

しかし、まだDVDなどドルビーデジタルで記録されているものを見る機会も多いので、レガシー互換性のためにも、これまでの光デジタルケーブルの代わりに、HDMI内で2chステレオ信号としてドルビーデジタルを送るということも規格に盛り込まれており、それが現在まで細々と生き残っています。

自宅での接続

私の使用用途はゲームメインなので、いろいろと接続してみました。

MDR-HW700DSで見ると、PS4はLPCM 7.1chですが

オプションで圧縮音源のドルビーデジタル・DTSが選べます

ソニー・プレイステーション4は、HDMIサラウンド出力はデフォルトでリニアPCMですが、設定メニューにてドルビーデジタル、DTSのどれかを選べるので、これでWH-L600がサラウンドで使えます。

一方、Windowsパソコン(NVIDIAやAMDのビデオカード)や、任天堂SWITCHは、HDMI出力はリニアPCMサラウンドのみで、ドルビーデジタルは選べません。

そもそもHDMIの標準規格でリニアPCMサラウンドを使うべきと明記されているのですから、わざわざ圧縮音源でライセンス料を払ってまでドルビーデジタルに対応させるメリットが無いということでしょう。

つまり私の身近にあるものでWH-L600にHDMI ARCでサラウンド接続するとなると、プレイステーション4限定になってしまいました。こういうのがソニーっぽいですね。


パソコンの場合、幸いマザーボードにある光デジタル出力でドルビーデジタルが使える物もあります。しかし厄介なのが、ドルビーデジタルLIVE(もしくはDTS Interactive)です。

DVDディスクなどの場合は、すでにドルビーデジタルで記録されているデータをそのまま出力するだけです。しかしパソコンのゲームなどでドルビーデジタルサラウンドを使いたいとなれば、ゲームソフトから出力されるリニアPCMサラウンドデータを、リアルタイムでドルビーデジタルに変換しなければなりません。つまりエンコーダーです。ドルビーはこの機能をドルビーデジタルLIVEと呼んでおり、これがまたライセンス料が結構高いということで、パソコンによって対応していたりしていなかったりで、厄介な状態が続いています。

Dolby Digital Live 5.1

たとえば私のASUS Z370マザーボードは、ちゃんと光出力がドルビーデジタルLIVEに対応しており、ASUSサイトから公式サウンドドライバーをインストールすると、Windowsのサウンド設定にて、ドルビーデジタルLIVEとDTS Interactiveが選べるようになります。

ライセンス料金が惜しくて未対応なマザーボードなんかも多いので、その場合はCREATIVEなどのサウンドカードで、光出力のドルビーデジタルLIVEに対応しているやつを買い足すことになります。

つい最近では、2017年3月のWindows 10 Creators UpdateをインストールするとドルビーデジタルLIVEが使えなくなるというバグが発生していて、マザーボードのオーディオチップを作っているRealtek社が対策ドライバーを公開したのが8月なので、完全に解決するままでに5ヶ月ほどかかりました。この2017年3月アップデートでWindows 10にDolby Atmos for Headphones・Windows Sonic for Headphonesが導入されたので、色々と考えさせられるものがあります。

なんにせよ、ドルビーデジタルという規格があまりにも古すぎて、HDMIケーブルが出てからもう16年ですし、さすがにユーザーはもうリニアPCMサラウンドに移行しているだろうと想定して、メーカーの眼中に入っていないというのが現状です。

SWITCHをMDR-HW700DSで見ると、LPCM 5.1chだそうです

ソニーのテレビはLPCM5.1ch入力対応なのですが

ドルビーデジタル未対応で光デジタルも無いSWITCHはお手上げです。私のテレビのHDMI入力はリニアPCM5.1chサラウンド対応なのですが、ARC出力は2chステレオに変換されてしまうので、一応WH-L600から音は出ますが、サラウンドの臨場感はありません(サブウーファーも鳴りません)。できればAVアンプやテレビがARC出力をドルビーデジタルに変換してくれればよいのですが、そこまではしてくれないようです。

そんなわけで、私の自宅環境では、PS4がテレビ経由のHDMI ARCでドルビーデジタル、SWITCHはテレビ経由のHDMI ARCで2chステレオ、パソコンはWH-L600に光デジタルケーブルでドルビーデジタルLive、といった接続になりました。MDR-HW700DSと比べるとずいぶんややこしいですが、新型機を使ってみたいので仕方がありません。

音質とか

ソニーのヘッドホンですし、まずはPS4のHDMI ARC経由で、2chステレオモードで普通に音楽を聴いてみました。

やはりステレオでは、聴くに堪えないというほどでもないですが、さすがに近頃の3万円クラスのヘッドホンと比べてしまうとかなり厳しいです。

硬質でキンキンしたアタックと、ワンワン響く風呂場みたいな音響が共存しているような、なんとも説明し難い不思議なサウンドです。全体が緩くモコモコしたサウンドなのに、そこから刺々しい高音が飛び出してくるといった感じでしょうか。

DSP処理のみでなく、ヘッドホンそのもののサウンド特性もサラウンド用にチューニングしているのでしょうかね。

もちろん、このヘッドホンは真面目な音楽鑑賞のために買ったわけではないので、文句は言えませんが、やはり2chステレオには別のヘッドホンを使った方が良さそうです。

ソニーといえば、2万円で素晴らしいMDR-1Aヘッドホンが買えますし、3万円台でBluetoothノイズキャンセリングのWH-1000XM2 (MDR-1000X)が結構良い音なので、それくらいの高音質を期待していただけあって、ちょっと残念でした。テレビ用ワイヤレスヘッドホンとなると、ゼンハイザーRS175~195シリーズの方がステレオ音楽鑑賞には断然適していると思います。(あちらは逆にサラウンドは弱いですが)。

JRiverから、FLACサラウンドをドルビーデジタルで再生

パソコンのJRiver Media Centerがドルビーデジタルのエンコード出力機能を登載しているため、BISレーベルのショップで買ったFLAC 5.1chサラウンド音源を、ドルビーデジタルにリアルタイム変換して光出力で送るというのを試してみたところ、変換している旨が表示され、WH-L600受信機のランプもちゃんとドルビーデジタルのランプが点灯します。

実際のコンサートで観客の背後にミュージシャンがいるわけではないので、ハリウッド映画のような、音が飛び交うような派手な効果は感じられませんでしたが、それでも、サラウンドで聴くことで没入感は増します。コンサートホールの音響が立体的に構築され、自分を中心に前後に広い空間が作られたような感覚です。

WH-L600に限って言えば、2chステレオをで聴くよりも、サラウンドの方が断然心地よく楽しめました。そうは言っても、では日々の音楽鑑賞に使うかとなると、普段から高級ヘッドホンに耳が慣れてしまっているため、どうにもフワフワして解像感が足りないので、やはりいまひとつ満足とは言えません。


次にPS4からブルーレイのオペラを鑑賞してみました。

Harmonia Mundiレーベルから、さまよえるオランダ人です。パブロ・エラス=カサド指揮テアトロ・レアル・マドリードでの映像で、主役の二人が、オランダ人役のSamuel Youn、ダーラントはKwangchul Younと、どちらも韓国出身のベテラン歌手というのが面白いです。演出がちょっと暗くて解釈も分かりづらいことと、ヒロインのセンタがベテランっぽすぎるのは気になりましたが、キャストの歌唱力は最近のオペラとしてはかなり張り切っていて満足できました。特にオランダ人の大迫力は「これでこそ」と言った感じで、戦慄の幽霊船長っぽさが出せています。

DTS出力でWH-L600で聴いてみましたが、確かにサラウンドっぽさが感じられ、臨場感があります。音像配置はMDR-HW700DSとよく似ていますが、個人的にはWH-L600の方が音が良くなっていると思います。それだけでも買った甲斐があったと一安心です。

HW700DSの方がリスナーを包み込むようなフワッとした音響が感じられるのですが、ソフトすぎて、あまりクリアではありません。素朴で聴きやすいとも言えますが、迫力が無いので、高音の刺激や低音のパンチも無く、常に一定の雰囲気でBGMが鳴り続けているような感覚です。

WH-L600は最新DSPや高精度クロック、ドライバーのバランス駆動など、様々な技術を登載しているということですが、そのおかげか、出音がクッキリしており、とくにセンターチャンネルから声が出るところなどは、ちゃんと周囲の音響とは別の音源から鳴っているように体感できます。正面のステージ、オケピット、そして周囲の観客席の分離が明確になっており、定位がピッタリ決まっています。さすが新型だけあって進化が感じられます。

オペラとかコンサートでは、実はステレオよりもサラウンドのほうが音源が前方に集中して鳴っているように感じるので、これではサラウンドっぽくないと思ってしまいがちですが、実はそれがサラウンドらしい正しい鳴り方です。サラウンド効果は、演奏や歌手以外の部分、たとえば観客席のざわめきや、壁や天井の反響といった効果音で表現されています。ずっと聴いていると、まるで自分がそこにいて前方のステージを眺めているかのような錯覚を得ることができます。

逆に、よくあるバーチャルサラウンドエフェクトソフトなどで聴くと、オーケストラなのに映画館のようにとんでもない位置から楽器音が鳴ったりします。ステレオ音源をコンピューターが自動解釈したものはそういった破綻が起こりますが、スタジオエンジニアが正しく5.1chに振り分けたものでは、間違った音像位置や、不条理な演出効果が起こらないので、安心して聴いていられます。

ただし、オーディオマニア的にどうかどうかというと、やはり先ほどJRiverで試したように、解像感やレンジ、音色の表現力などはいまひとつ不足しているので、サラウンドの空間展開を犠牲にしてでも、ちゃんとしたヘッドホンで2chステレオを聴いたほうが充実感は高いと思います。


私がWH-L600を買ったのはゲーム目的なので、これに重点を置いてパソコンとPS4で20時間ほど使ってみました。


個人的に、2017年で一番楽しめたゲームは「アサシンクリード・オリジンズ」でした。ストーリー、世界観、プレイの手軽さなど、総合的な完成度が異常なほどに高かったですし、日本語吹き替えや翻訳も上出来でした。(最新DLCのみ翻訳がひどかったです)。

アサシンクリード過去作はステージ制ステルスアクションゲームでしたが、今作はウィッチャー3とかに近いレベル制オープンアクションRPGです(というか、同じUBISOFTのGhost Recon WildlandsやFar Cry Primal・5と似たシステムです)。

エジプト後期王朝の広大なマップに、ギリシャやローマ人、クレオパトラやカエサルの時代がテーマで、ナイル周辺の集落や大都市アレクサンドリアを散策したり、ラクダで砂漠や山岳を自由に旅行したり、ピラミッド内を探検したり、リアルな作り込みが圧倒的です。史実を絡めた壮大なストーリーと、当時の人々の生活感など、日本でいうところの大河や時代劇みたいなワクワク感があります。神話や宗教観を大事にしながら、メインストーリーでは一切モンスターとかのファンタジー要素を出さなかったのも好印象です。

すでにMDR-HW700DSで100時間以上プレイしただけあって、WH-L600に変えると、瞬時にサウンドの違いが感じ取れました。サラウンド感はかなり向上していると思います。先ほどブルーレイオペラを聴いた時と同じように、音像配置が明確になっており、高音や低音のレスポンスが鋭くなっているので、とくにFPS・TPSなどでは、自分のカメラ操作に連動して、周囲の川のせせらぎや動物の鳴き声などがちゃんと追従している事がハッキリ伝わります。

とくに爆発音や、敵の声なんかの位置が把握しやすくなったので、目で見るよりも先に耳が反応して、無意識にスティックでカメラを正しい方向にまわす、といった事を自然にできるので、それだけでもゲームでの優位性があり、脳が錯覚できるほどリアルな没入感もあるということでしょう。


もう一つ、PS4とパソコンで最近発売された「TT Isle of Man」を遊んでみました。バイクのマン島TTレースは昔から憧れていて、欠かさず放送やDVDで見ていたので、今回初めてまともにコースを走れるゲームが登場して、本当に嬉しいです。

ゲーム性はシンプルで、あまり高度なライディングシミュレーションという感じではないのですが、実際のマン島サーキットの再現度がとても良く、モデリングも精密なので、難しい事は考えずにアーケードゲームっぽく楽しめます。ゲームで走ってみても死を恐れるほどのスピード感があるので、現実のレーサーの神経が尋常ではないことが実感できます。ニッチすぎて売り上げは芳しくないと思うので、興味のある人は是非買ってみてください。

こういったリアルなシミュレーターゲームは、WH-L600の「CINEMA・GAME・SPORTS・VOICE」などのエフェクト効果を試すのに最適です。

走行中に切り替えてみると、現実で同じ車種(市販モデルですが)で走ったときのエンジン、排気音、路面や風切り音などがヘルメット越しに聴こえる雰囲気は、GAMEモードが一番それっぽく聴こえました。周波数帯域が狭くなる一方で、DSP音響のおかげか、空気感にプレッシャーを感じるざわめきみたいなものを感じるので、それがバイクや、他のゲームなら自動車、飛行機など、まるでプレイヤーが操縦席にいるかのような臨場感を作り出してくれます。

ただし、先ほどのアサシンクリードなど、セリフが多いゲームの場合、GAMEモードだと人の声がかなりキンキン刺さってしまうので、その場合はエフェクトをOFFにしたほうが良かったです。

CINEMAモードは、映画館で見ているかのような、かなり強めのルームエコーが発生します。セリフもカラオケマイクのようなエコーが発生します。つまり、映画館のPAスピーカーが部屋の壁や天井などを反射して耳に届く、あの感覚です。自宅の高級ホームシアターとかに慣れているマニアの怒りを買いそうなエフェクトですが、「実際に映画館で見ると、こうだよな」という説得力は十分あります。部屋を暗くして大画面で鑑賞するときに、あたかも映画館で見ているかのような雰囲気は味わえます。

SPORTSは、個人的にあまりスポーツ中継などを見る機会が少ないので、いまいちよくわからなかったのですが、まず低音のインパクトがかなり増強される一方で、高域のフォーカスが甘くなり、広範囲に立体的に拡散するような印象だったので、勝手な解釈としては、サッカー中継などで、観客の歓声が「ワーッ」と鳴っている時に、まるで自分がその中に飛び込んだかのような雰囲気が味わえるようです。ナレーターの声と、歓声のサウンドがちゃんと分離するので、上手くできていると思います。

VOICEはその名の通り声を強調させるエフェクトなのですが、これは普段使おうとは思わないものの、結構役立つと思います。声の帯域が太く厚くなり、それ以外が静かになるので、まるでテレビの内蔵スピーカーそのものというか、モノラルでラジオ放送を聴いているかのような印象です。どうでもいいTV番組で、とりあえず声だけ聴ければ良い、とか、映画で声が聴きとりづらいといった時にVOICEモードに切り替えられるのは便利です。

結局こういったDSPエフェクトというのはケースバイケースで使い分ける必要があり、どれがベストというわけでは無さそうです。ほとんどの場合はエフェクトOFFで使う方のが無難というか、オーディオマニア的には正しく思えますが、それだけでは味気ないです。DSPは空間を介した臨場感を再現するという目的は実現できており、優秀な仕上がりだと思います。

おわりに

WH-L600を買ってみて、接続環境を整えるまでに色々と悩まされましたが、いざ音を出してみると、ゲームや動画など、カジュアルな用途には最適な、素晴らしいヘッドホンだと思いました。

装着感の良さやバッテリーの持続時間、スタンド式充電器など、全体のデザインはさすがソニーだけあって非常に優秀なので、用途さえ合えば買って損はないと思います。

とくに、近頃は色々なメーカーから奇抜なゲーミングヘッドホンが続々登場していますが、それらと比べると、完成度の高さは群を抜いています。ゲーム用として不十分なのは、ヘッドセットマイクを搭載していない事のみです。

音質面でも、ドルビーデジタルが圧縮音源だから音が悪いなんていっても、そもそもワイヤレスヘッドホンに送信するときにデータを圧縮をしているはずなので、大した問題ではありません。

ただし、利便性や互換性の面で、リニアPCMサラウンドに対応してくれればなお良かったと思いますし、その方がソニーが自慢する高速DSP処理というのも最大限に活かせただろうと思うと残念です。


では、私にとって理想的なサラウンドヘッドホンは、というのを考えるわけですが、まずワイヤレスでハイレゾリニアPCMサラウンドというのは難しいのだろうと思います。各国の電波法の関係で、好き勝手な帯域で大量のデータを送受信することは許されません。

近頃のBluetoothイヤホンでも、音質や遅延、ドロップアウトの問題が発生していることを考えると、いくら送受信機が大きいといっても、困難はあるのでしょう。

無線LANなら、最近では100Mbpsくらいを実現できているので、ハイレゾリニアPCMサラウンドでもいけそうですが、ファイル転送とかならともかく、リアルタイムで遅延ゼロでとなると、どうでしょう。最近ではPS4のゲーム画面を無線LAN経由でスマホで見て遊ぶなんてことも実現できているので、オーディオでもその辺の進展が望まれます。

残るワイヤレス候補としては、昔の携帯電話にデジタル赤外線通信(IrDA)がありましたが、これが密かにどんどん高速化しているので、短距離なら有望かもしれません。そろそろ頭打ちになってきたBluetoothの代用として期待されているそうです。そういえば大昔にソニーの赤外線アナログワイヤレスヘッドホンというのを使ってました(受光部に手をかざすとザーッとノイズが出るやつ)。結局私はソニーのワイヤレスヘッドホンとは切っても切れない関係のようです。

極論としては、ワイヤレスは諦めて、有線ケーブル式であれば、バッテリーやデコーダーやデータ通信の問題が一気に解決します。ゲーマーやプライベートな映画鑑賞用なら、有線サラウンドヘッドホンで十分実用的だと思うのですが、誰も真面目なハイエンド機は出したがりませんね。

アナログサラウンド+USBという変態的ヘッドホンです

数年前に、Razer Tiamatというヘッドホンがあって、それをちょっと使っていた時期がありました。パソコンのサウンドカードと直結する有線アナログ7.1chサラウンドヘッドホンで、左右それぞれ5基のドライバーを登載した、正真正銘のマルチスピーカーサラウンドを実現していました。手元のリモコンで各チャンネルの音量バランスを調整できるなど、相当コアなマニア目線で作られたヘッドホンです。

結局このRazerヘッドホンは、パソコン機器メーカーが作っただけあって、一見してわかるようにいかついデザイン優先で、装着感が最悪で、ドライバーやハウジングの音響設計も素人レベルで、音作りがイマイチだったので手放しました。

もしソニーとかが、メインの2chドライバーを補助するような、たとえばサラウンド用BAドライバー登載ヘッドホンとかを作ったらどうなるのでしょう。また、ソニーWH1000XM2や、AKG N90Qなどで実証されたように、ヘッドホン内部の空間をマイクで測定して、自分の顔と耳形状に合った理想的なサラウンド音響を形成できる技術があれば、大幅な進歩が見込めると思います。さらに、最近流行りのスマホアプリで空間定位のチューニングなどが調整できればなお良いです。

こういう機会があるたびに毎回言っていますが、ソニーはせっかく映画やゲームなどハイレゾサラウンドの映像コンテンツを豊富に持っているのだから、そういった財産をプライベートなオーディオマニアでも存分に活かせる機器を開発してもらいたいです。

余談1

WH-L600とは直接関係の無い話になりますが、今後のサラウンドの展望について、まずドルビーAtmosの進展が気になります。

個人的にAtmosの動向は気になっているのですが、なんだか迷走しているというか、知名度を上げるために変な路線に走っているようで、他人事ながら心配しています。

そもそもAtmosというのは、従来の4ch、5.1ch、7.1ch、9.1chといったスピーカー本数を増やし、その分だけトラック数を増やすという手法と決別すべく生まれた画期的なシステムです。

各音源を、最大128チャンネルに分けて、それぞれに上下前後左右の空間方角や距離情報のタグを埋め込んだものをオリジナルデータとして、それを再生環境のスピーカー配置に合わせてリアルタイムに空間演算処理を行って再生させるという手法です。

つまり、映画館では規模によって30.2chや22.2ch、家庭では既存の5.1chや天井を含む7.2.4chなど、単一の生データで、再生環境に応じた柔軟な構成が得られるというシステムです。

しかし家庭用となると、まだ現在の技術では、それを演算するだけの能力も、生データを収録するだけの容量も無いので、結局7.1.2chなどに落ち着いてしまい、家電ニュース雑誌などでは「ドルビーAtmosは天井からも音を鳴らす方式」という変な固定概念が付いてしまいました。

なんだかハイレゾ・オーディオの時と同じく「本質が伝わらず、初心者に分かりやすい誤解が先導してしまう」悪い例ですね。

さらに最近では、Atmosエンコードされたゲームなどをヘッドホンでも楽しむという「Dolby Atmos for Headphones」というのも登場し、Windows 10では2017年3月アップデート以降はどのパソコンにも標準で搭載されるようになりました。これはいわゆるソフトウェアDSPによるクロスフィードなどを与えるバーチャルサラウンドなので、Atmosの本質とはちょっと離れています(似たようなテクノロジーは以前から存在していたので)。

つまり、ドルビーはAtmosというブランド知名度を高めるために、なりふり構わず、あの手この手で頑張っている感じがして、そもそもAtmosとは何なのかという本質が不透明になってきているという心配があります。

Windowsストアから無料ダウンロードできるのですが

インストールすると有料と言われます

これまで利権ビジネスで荒稼ぎしてきたドルビーだけあって、ちょっと残念なのは、せっかくWindowsでDolby Atmos for Headphonesが味わえると期待して、Dolby Accessという専用アプリを「無料」ダウンロードしても、いざ使ってみると「ここから先は有料になります。クレジットカードの準備を」みたいな、まるで成人向け動画サイトのような姑息な商売をしているので、これでやる気を削がれてAtmosに悪い印象がついた人も多いと思います。

Windows 10では、Windows SonicとDolby Atmosが標準で搭載されてます

マイクロソフトも、莫大なゲーム業界を背負っている手前、ドルビーに追従しているわけにはいかず、似たようなバーチャルサラウンドヘッドホン効果のWindows Sonic for Headphones(Spatial Sound)というのを、Windows 10にて導入しました。

マイクロソフトによると、こんな違いがあるそうです

これも、コンテンツ開発者が音声や効果音などを8.1.4.4chに事前に割り当てておくことで、Windows側がそれを認識して、ヘッドホンで正しくバーチャルサラウンドを展開してくれるという仕組みで、家庭用ドルビーAtmosとほぼ同じ機能で、どちらを選ぶかはコンテンツ開発者に委ねられます。今はAtmos、Sonicともに、自前のヘッドホンを使う事を前提としていますが、将来的にはAtmos認証ヘッドホンとかが売れるようになるのかもしれません。(そうなるとTHXみたいな利権ビジネスになりますね)。

これらのような「生データに空間情報を記入して、それをユーザー環境に合わせて的確に再生する」オブジェクト指向サラウンドが2017年以降どんどん登場しているので、パソコンユーザーは無意識のうちに移行が進んでいます。

ようするに、DSP処理のバーチャルサラウンドヘッドホンというのは、天下のドルビーやマイクロソフトなどが競い合っている過渡期なので、今回私が買ったソニーWH-L600のような「5.1chドルビーデジタル固定」といった旧世代の(お父さん世代の)サラウンドは、もうコンセプトとしても、互換性の面でも、存在意義が失われつつあります。

そういえば2017年のポタフェスとかでも、ヤマハが「超多チャンネル」サラウンドヘッドホンの試作品を出していましたが、あれはどうなったんでしょうかね。アイデアとしては、5.1chを超えるオブジェクト音源をバーチャルサラウンドで分散させるという感じなので、ニュースを読むだけではAtmosに近いアイデアのようでした。単なる5.1chの疑似拡張技術ではないようですが、今後の進展が気になります。

余談2

そもそもサラウンドサウンドというのは、現実と同じような臨場感や没入感が得られるというのが大きなメリットです。

人間の耳は左右の二つしか無いので、極論ではスピーカーも二つあれば十分です。しかしそれでは正しい着席位置に座っていないと正しい音響は得られませんし、部屋の反響なども邪魔するので、合理的な回答は、大人数ならば、できるだけデッドな(反響しない)部屋に、出来るだけ多くのスピーカーを散りばめるか、それとも一人ならば、耳元にスピーカーを置く、つまりヘッドホンという事になります。

しかし、スピーカーとヘッドホンが根本的に異なるのは、スピーカーは空間固定で、ヘッドホンは頭固定だという事です。これは、サラウンドの臨場感を考える上で、かなり重要な違いです。

スピーカーオーディオの場合、音源の位置が変わりませんので、これは本物の生演奏と同じ感覚です。テレビの位置にセンタースピーカーを置けば、テレビのキャラクターが喋っているように感じます。一方ヘッドホンの場合は、自分の動きに合わせて音像位置も動いてしまいます。自分がテレビの方を向いていなくても、キャラクターは自分の正面で喋り続けます。

人間の脳は、音の方角や距離を計算するために、左右の耳への音量差や周波数差などを元に割り出すので、無意識のうちに頭を動かして、リアルタイムに聴こえ方の違いを感じ取っています。ところがヘッドホンでは、顔を動かしても音は変わらないため、人間の脳が空間を正しく解釈できません。

つまりヘッドホンでは、自分が真っ直ぐ画面を直視している状態でしか、正しいサラウンドは成立しません。そして、リスナーが能動的に空間を把握しようと(無意識に)顔を動かしてしまうと、そこで空想の臨場感が破綻してしまいます。

では、ヘッドホンでさらに正しい臨場感を得るにはどうすれば良いのかというと、ヘッドホンに何らかのジャイロセンサーを設けて、ヘッドトラッキングで、音源との位置関係をリアルタイムで再現する必要があります。前方で猫が鳴いていて、自分が左を向いたら、猫は自分の右耳の方で鳴いているように聴こえなければなりません。

これはつまり、すでにVRで行われている事なので、ヘッドホンはVRとの親和性が高いと言われています。

映像と音声の方角や距離が同期して、空間の一点に存在するソースとして脳が認識できれば、はじめてヘッドホンのサラウンドが完成すると思います。

VRというと、画面を顔にくくりつけるゴーグルで、周りが見えないから不便だ、実用性は低い、なんて言われています。

では、映像はVRゴーグルではなくて大画面テレビでも良いので、音声だけヘッドホンのヘッドトラッキングでテレビ映像のキャラクターと連動するようにすれば、それだけでもかなりのVR効果が得られると思いますが、どうなんでしょうかね。

Audeze Mobius

そんな次世代サラウンドヘッドホンは存在するのかと、ちょっと前にネットで検索してみたところ、やはり私だけの空想ではなく、ここ一年で、米国で多くのベンチャー企業が開発に勤しんでいます。

大手では、AudezeがMobiusという三次元ジャイロ搭載ヘッドトラッキングサラウンドヘッドホンを開発中で、Indiegogoにで現在ベンチャー資金を集めており、かなり注目を浴びています。名も知れないベンチャー企業ならともかく、Audezeなら音質も期待できそうです。

こういった画期的な新製品は、たいがい米国の先進企業がブレイクスルーを行い、数年後に日本とかの大手企業がどうにも猿真似としか思えない類似商品を出して苦笑を得るというのが続いています。たぶん内外の大手ヘッドホンメーカーからも同様のものが発売される可能性は高いので、それが今年なのか三年後なのかが気になります。

個人的にサラウンドヘッドホンは非常に興味のある分野なので、できれば一過性のガジェットとして終わるのではなく、将来的にしっかりハイレゾオーディオまで実現できればと願っています。ゲームはもちろんですが、すでに自分のパソコンに死蔵されている百枚以上ものDSD・FLACサラウンドのクラシックコンサートアルバムなんかも、いつの日か最高のヘッドホン環境で味わえる日が来る事を心待ちにしています。