2016年1月24日日曜日

Astell & Kern AK240の分解と、ボリュームノブの修理

先日、ひょんなことからAstell & Kernの高級DAP「AK240」を手に入れました。

中古で買ってしまったAK240・・・

知り合いのマニアな方から、「AK380を買ったから、AK240はもういらない。処分したい。」と声をかけられて、次の瞬間にはすでに私の手元にありました。

とはいっても、実際の商談はそこまで簡単ではなく、まず保証期間が切れていること、そしてボリュームノブに不具合があることを理解した上で、ということが条件でした。とはいっても定価の三割程度の値段というオファーをスルーすることも出来ず、これまであまり興味が無かったものの、この機会に買い取ることを決断しました。

本当は、Fiio X7を買うために貯金していたお金だったのですが、やはりAK240は「腐っても鯛」ということで、音質云々よりも、カッコいいデザイン、バランス出力、そして内蔵256GBのメモリが魅力的です。

AK240についてはもう各所ブログや掲示板などで語り尽くされている感じですし、今更記事にしても面白くないとは思いました。でも最近は、中古市場がかなり手頃な価格になっており、「この値段だったら買ってみようかな」と思っている人も多いと思います。そのため、AKシリーズで多く見るボリュームノブの不具合をまず対処しようと思います。




AK240のボリュームノブ問題

AK100II、AK120II、AK240など、いわゆる第二世代機というのは、どれも本体側面にあるロータリーエンコーダーで音量調整が出来るようになっています。

爆音覚悟・・恐怖のボリュームノブ

これはいわゆる一般的な「可変抵抗ボリューム」(ボリュームポット)とは違い、実際にそこに音楽信号が流れるわけではなく、グリグリと回転した情報を、AKのコンピュータが分析して、それに合わせてソフト上でデジタル音量を調整するという仕組みです。そのため、上下ともに無限に回転できて、回転とともに画面上のボリューム表示が変化します。

このロータリーエンコーダーというのは、ちゃんとまともに動いているときは便利なのですが、この手の小さなモバイル機に使われているやつは、故障しやすいことでも有名です。

実際AK240のボリュームノブは、カクカクと段階的な目盛りの感触があるタイプなので、ゆっくりと動かせば画面上のボリューム表示もワンステップづつ上下します。しかし、速くグリグリすれば、本来はスーッとボリュームが変化するはずが、急に音量がジャンプしたり、上げているのに下がったり、一方向に回してるのに数値が上下にふらふらして結局全然ボリュームが変わらなかったり、なんてトラブルに遭遇しています。

私の筐体のみの問題かと思い、友人のAK240、AK240SSなど4つをテストしたところ、どれも少なからず同じ問題に直面しており、とくに初期のモデルは音量がジャンプしやすい傾向でした。

その中の一台は、保証期間中にAKに送って修理してもらったということで、それから数ヶ月はトラブルフリーだったのが、最近になってまた再発し始めたらしく、オーナーは怒っていました。

AK240の中でも、後期ロットは対策部品に変更されているのかもしれませんが(とはいっても、AK240SSでも同じトラブルを確認しました)、保証期間外だと有償修理になり、数万円もかかると言われたので、せっかく安く買ったのに余計な出費は嫌です。

ボリュームはタッチスクリーンでも調整可能

実際のところ、悩めるユーザー達はどうしているかというと、ボリュームノブをちょっと動かすと画面上に音量数値が表示され、それを指でなぞればタッチスクリーン操作で音量調整ができるため、そういう使い方に慣れてしまえば実用上はあまり困りません。

でも、発売時の定価が25万円もする「高級DAP」で、このようなチープな不具合があるのは恥ずかしいですので、ちょっと修理してみることにしました。

AK240の分解

この手のDAPは、スマホなどと同じように、組み立てに接着剤や両面テープを多用しており、分解が困難なケースが多いのですが、AK240に限っては、分解作業はかなり簡単でした。

もちろん、分解すると保証対象外になってしまうため、自己責任になります(丁寧に分解しても、両面テープの状態などでバレてしまいます)。そのため、保障切れモデルを廃品覚悟で開けるということが前提です。

まずは下面のトルクスネジ

まず本体に傷がつかないように注意しながら、下面のUSB端子付近にある2つのネジを外します。これはトルクスT6なので、いわゆるミニチュアドライバセットによくあるやつです。私はMacbookの修理を頻繁に行うため、iFixitのドライバセットは手元に欠かせません。

いろいろ分解用に重宝します

このサイズのネジは内部にもいくつかあるため、どれがどこのネジかちゃんと覚えておかないと後で泣きます。幸いトルクスはここのみで、あとはプラスネジです。

分解修理の友「吸盤」

次は、背面のカーボン調パネルを外すのですが、無理にヘラなどでこじ開けると傷がつくため、こういった場合は吸盤を使います。ノートパソコンの修理などでも、この手の吸盤は必要不可欠です。

表面はカーボン調ですが、プラスチックの爪で固定されています

吸盤をくっつけて、下面(ネジのあったほう)付近から引っ張ると、左右のプラスチックの爪がパチパチと外れていきます。あまり無理に引っ張らずにグリグリとやったほうが、カーボンパネルの破損を防げます。本体上面の付近は内部で両面テープでくっついているため、ちょっとづつ引っ張っていけば、あまり無理も無く剥がれていきます。

両面テープが剥がれればOKです。Rev.01 20140127なんて書いてあるので、初期型ですね

背面パネルが外れたら、本体内部が丸見えです。ボリュームノブにアクセスするためには、実はもうこれだけでOKなので、以下のステップはかなり飛ばすことができます。でもせっかくなので、もっと中身を見てみたいですし、もうちょっと分解してみます。

バッテリー端子。ちなみに右手にあるコネクタが一緒に外れやすいので注意

バッテリーを外すと、後はスカスカです

まずは安全のためにもバッテリーを外します。バッテリーはただスポッとプラスチックの枠に収まっているだけなので、左右の隙間から薄いヘラで持ち上げるだけです。端子も簡単に外せます。唯一注意が必要なのは、バッテリーの真下にあるオレンジのコネクタに付いている銀色のテープがベタベタしておりバッテリーにくっついていることがあり、これを確認せずにバッテリーを無理に引っ張りあげると、下のコネクタも引っ張られて壊れる可能性があります。バッテリーがちょっと浮いてきたら、下の状況を確認することが大事です。

USB基盤は、コネクタとネジだけで固定されています

次はUSB端子ですが、これはコネクタと2つのプラスネジだけで、簡単に外せます。

ここで、肝心のボリュームノブを外します。ノブ自体は内部でプラスチックのリングで固定されており、実はこれを外すのが一番苦労しました。無理に外そうとするとプラスチックの固定リングが壊れれたり、ゆるくなってしまい、後々困りますので、丁寧に慎重に外します。

わかりにくいですが、ボリュームノブのシャフトが黒いプラスチック爪パーツで固定されています

爪を上手に外すと、こんな感じにスポッとシャフトが抜けます

具体的には、銀色のバネの付いている黒いプラスチックのパーツに四つの爪があり、それがボリュームノブのシャフトの溝にはまっています。ボリュームノブを本体外側からグリグリと引っ張りながら、これらの爪をピンセットやドライバーなどでちょっとづつ浮かせていくと、ある瞬間にボリュームノブがシャフトごとスポッと抜けます。シャフトはロータリーエンコーダとは繋がっていないため、エンコーダはそのままで、シャフトだけが抜けます。

ボリュームノブがが外せたので、次に、本体全面を覆っている黒いプラスチックのフレームを外します。バッテリーが収まっていた枠ですね。ロータリーエンコーダーもこのパーツに固定されているので、一緒に外れることになります。そうなると、基盤につながっているリボンケーブルが壊れてしまうので、まずリボンケーブルを分離します。ついでに、反対側の側面にある再生・曲送りボタン用のリボンケーブルも分離します。

ロータリーエンコーダーのリボンケーブル

黒いフラップを開けて、上手にリボンケーブルを外す

ついでに、反対側にある再生・曲送りボタン用リボンケーブルも外す

これらのリボンケーブルは貧弱なので、無理に引っ張ると確実に壊れます。コネクタは黒い部分が固定用フラップなので、まずこれを浮かせると、リボンケーブルがスルッとはずれます。黒いフラップを完全に直立させてから、先の尖っていないピンセットなどでリボンケーブルを徐々に抜きます。

プラスチックフレームを外す際には、このテープを事前に剥がす
左右の爪を筐体から浮かせて外していく
こんな感じで、下にオーディオ基板が見えます

2つのリボンケーブルを外したら、ようやく黒いプラスチックフレームが外せます。これは黒いプラスネジ三つで止まっており、ネジを外してから左右の溝からフレームを浮かせていけば、簡単に外れます。無理に引っ張らずに徐々に爪を浮かせていくだけです。一箇所だけ、フレームの下にある基盤のコネクタがテープでフレームにくっついているため、テープを剥がします。

ロータリーエンコーダーが観察できます

フレームをはずさなくても、こんな感じにエンコーダだけ持ち上げられます

こうすることでボリュームノブのロータリーエンコーダーの仕組みが観察できます。実際はフレームをはずさなくても、エンコーダのリボンケーブル基盤はフレームに両面テープでくっついているだけなので、エンコーダの穴に細い棒を入れてグリグリ持ち上げれば簡単に外れます。

エンコーダの配線基板はAKの自前です


六角形のシャフトで回転するタイプです

こんなタイプのエンコーダ

このエンコーダはアルプス電気の汎用品で、穴に六角形のシャフトを入れるタイプなので、EC05Eとかでしょう。ということは、万が一の場合はリボンケーブル基盤から半田を外して交換出来るかもしれません。

実際に今回単体で測ってみても、高速でグリグリすると信号が飛ぶことが確認できました。わざわざ基盤から外して交換するのも面倒ですので(交換品を注文しても時間がかかりますし)、今回は交換ではなく、とりあえず簡単なクリーニングのみに留めることにします。

とりあえずクリーニング

クリーニングは、ボリュームノブのシャフトを入れてグリグリしながら、イソプロパノールで洗浄してみました。データシートに薬品に弱いとは書いてないので、多分大丈夫でしょうけど、もちろん自己責任です。変なベタベタした接点復活剤とかは、かえって逆効果になる可能性があるので、シンプルなアルコール洗浄のほうが気持ち良いです。超音波とかもいけそうですが、内部パーツが破損する可能性もありますので今回はやめました。

洗浄後、エアダスターで十分にアルコールを飛ばして乾燥させてから、組み付けに入ります。

側面の再生・曲送りボタンが脱落していないかチェック

組み付けは分解の逆手順なので難しいことはあまり無いですが、黒いフレームを入れる際に、側面の再生・曲送りボタンが外れている可能性があるので、注意が必要です。また、リボンケーブルの取り付けには細心の注意が必要です。

右の固定パーツの金属板バネで、ボリュームノブのグラグラ具合を調整

ボリュームノブの組み付けは、結構気を使います。そもそもAK240を受け取った時点でボリュームノブがグラグラしていたのですが、これは銀色の板バネのテンションである程度調整できます。つまり、若干グラグラしているようでしたら(もしくは簡単に抜けそうでしたら)、黒い爪パーツを取り付ける前に板バネを指で若干追加曲げしておくことで、ボリュームノブがしっかりと本体に食い付くようになります。

最後にカーボンの背面パネルをパチパチとはめていって、下面のトルクスネジを締めて、作業終了です。

修理の結果

まず電源を投入してみると、当然のごとく起動するのでほっと一息です。

そして、ボリュームノブをグリグリと回してみると、見事なほど完璧に、指の動きに追従します。ゆっくりでも、高速でも、ほぼジャンプすることが無くなりました。

また、ボリュームノブを固定しているバネも、以前より強めに調整したため、ノブを回す際に適度な抵抗が感じられます。以前は「ジャラジャラ」といった感じだったのが、修理後は「グリグリ」みたいなフィーリングです。

結果的に、ロータリーエンコーダーの接点をクリーニングしたのみなので、将来的に問題が再発することは十分に考えられます。しかし、一度分解手順がわかってしまえば、またクリーニングすることは容易ですし(あまり何度もくりかえしてリボンケーブルが壊れたら、一巻の終わりですね)、どうしてもダメであれば、エンコーダそのものを交換することも検討できます。

実際、この問題は、エンコーダを新品に交換しても再発する可能性が高いです。そもそも、これはエンコーダそのもののトラブルというよりも、AKの実装ミスの部分が大きいです。

エンコーダというのは回転方向を検出するために、AB...AB...といった具合に、不均等な2つの接点を順番に通過する仕組みなのですが(逆周りであればBA...BA...になるので)、これが稀に接点不良を起こして、逆周りだと勘違いしてしまう事があります。この手のミニチュアエンコーダというのは経年劣化で接点不良はあたりまえのように起こるため、多くの機器設計では「確実にジャンプしない」ことを再優先にした実装を心がけます。たとえば、高速にグリグリ回している場合には、それをソフトがいちいち即反応せずに、移動平均をとって、順方向・逆方向・速度を予測してからソフトのボリュームに反映させることで、急激な予期せぬジャンプを防ぐことが一般的です。そういったエンコーダのソフト処理がもうちょっとファームウェアなどでどうにかできないものですかね。

というか、ボリュームノブは廃止して、ボリュームアップとダウンのボタンがあれば事足りると思うのですが、AKはなぜかエンコーダにこだわりますね。ちなみにAK380では、結構スムーズな動作なので、将来的に保証期間が過ぎた頃にどうなっているか気になります。

というわけで、気になっていたボリュームノブの不具合も無事治ったことですし、また日を改めて、もうちょっとじっくりと比較試聴した後に音質や機能などについて紹介したいと思います。

追記:

分解とクリーニングでボリュームノブが治ったため、いい気になっていたのですが、2ヶ月ほど使った後、また問題が再発しはじめました。以前みたいに極端にボリュームがジャンプするようなレベルには悪化していないのですが、一気にグリグリと回すと、たまに一瞬無反応になったりします。

もう一回分解してクリーニングしてみたら元に戻ったので、悪化したらこれを繰り返しても良いのですが、それでは芸が無いので、二度目はちょっと電気回路用の接点オイルを塗ってみました。接点が酸化することが諸悪の根源なので、オイルを塗ることで長期的な保護効果があったりします。

へんなオイルを塗ると、接点不良を起こすのはもちろんのこと、周辺のプラスチック部品が化学変化を起こしてボロボロになったりすることもあるので、注意が必要です。今回は定評のある「Electrolube SOB 2X」というポリアルキレングリコール系合成オイルを使ってみましたが、別にいろんなオイルを試したわけではないので、どれが効果的かは不明です。クリーニングした後に塗布したため、今のところボリュームの動作は実に快適ですが、数カ月後に再発するかどうかが問題ですね・・。