2016年2月1日月曜日

Cowon Plenue S の試聴レビュー

先日、CowonのDAP「Plenue S」を試聴する機会があったので、感想などをまとめてみます。

贅沢な試聴セッションでした

日本での正式な価格は今これを書いている時点では不明ですが、AK320あたりと合わせてくると思うので、約$2,000USD、20万円強でしょうか。とても高額です。私ごときでは手が出せない価格帯なので、今回は数時間の試聴のみで、購入はしていません。

それにしても、ここ最近は高価なDAPが続々登場していますね。これまでCowonのDAPを所有したことは無いのですが、試聴のみの印象では、10万円の「Plenue P1(Plenue 1)」をとても気に入っていました。今回のPlenue Sはさらに上位モデルということで、どれほど進化したのか非常に気になります。

Plenue Sに搭載しているDACチップはバーブラウンのPCM1792Aということで、Plenue P1から変化は無いのですが、今回はバランス出力と、DSD256対応というのがセールスポイントです。


CowonのDAP

Cowonは韓国のDAPメーカーで、そこそこハイエンドな良い物を作っているのですが、なんというか、同じく韓国のライバル社iRiverの「Astell & Kern」シリーズの影に隠れて、今ひとつ目立たない存在です。そういえば、以前中国のDAPメーカー「iBasso」を紹介した時も、「Fiioの影に隠れて」みたいな感じだったので、それと似たようなポジションですね。

ちなみにCowonの「Plenue」という名前は、プレミアムラインナップ用のブランド名で、iRiverにおける「Astell & Kern」というネーミングと同じような感じでしょうか。

Plenue D

Plenueシリーズというと、最近では、2015年12月に登場した「Plenue D」という3万円くらいの低価格DAPが、記憶に新しいです。

Cowon Plenue D

このPlenue Dは、低価格というだけではなく、ハイレゾDAPとしては驚くほど軽量でコンパクトなボディに、カラータッチスクリーン操作、そして脅威の「100時間連続再生」という、入門機、及びサブ機としては最適なモデルです。

個人的には、Plenue Dは安いなりに使用感に難点があったため、あえて買い足すほどでもないと思いました。具体的には、タッチスクリーンがカクカクしてあまり快適ではなく、マイクロSDカードがFATフォーマットのみ対応など(手持ちのがexFATだったため、聴き慣れた音楽で試聴できませんでした)、これだったら、Fiio X1とかX3-IIのほうが良いかな、という印象です。

まあPlenue Dに関しては、そこまでの意見も無いのですが、それ以前に登場している「Plenue M」と「Plenue P1」は、どちらも大変素晴らしいDAPだと、つくづく思っていました。

Plenue MとP1

低価格なPlenue Dが発売されるまでは、CowonのDAPというと、Plenue MとPlenue 1(Plenue P1)の二種類のみのラインナップでした。

まず2014年に、10万円のPlenue 1が発売され、2015年にはその廉価版で8万円のPlenue Mが登場しました。Cowonはそれ以前にもいくつかDAPを作っていますが、「Plenue」ブランドでの高級路線は上記のみです。

Plenue 1とPlenue M

価格やデザインを見ると、同世代のAstell & Kernを意識しているのかな、といった印象です。

Plenue 1とMは、どちらも見かけは似たようなデザインで、3.7インチ液晶のいわゆるスマホ系DAPなのですが、これら二機種の差別化としては、低価格のPlenue Mは内蔵64GBで、DACチップがPCM1795、上位のPlenue 1が内蔵128GBで、DACチップはより高性能なPCM1792A、といった感じです。それ以外のスペックはほぼ同じで、「二万円の差は十分ある」といった程度の違いです。あと、そういえば、Plenue 1に付属しているレザーケースは、Mには無かったと思います。

私自身はPlenue 1を試聴するたびに、その音質をとても気に入っていたのですが、2014年発売のモデルということで、たとえばDSDのネイティブ再生に対応していなかったり、最近のDAPと比べると出力がちょっと低かったりなど、小さな不満も多く、別に嫌いではないのですが、なんとなく買うタイミングを逃してしまった感がありました。そのため、「そのうちP1の後継機が出たら、次は絶対Plenueを買おう」、なんて心に決めていました。

そんな時に、堂々登場したのが今回のPlenue Sなのですが、値段がPlenue 1の二倍ということで、財布の中身と相談すると、さすがの決心も、どこかに消え去ってしまいました。

Plenue Sのデザイン

手にとって見た感触は、削り出しのズッシリとした重厚感が印象的ですが、これといって派手なプレミア感は無い、落ち着いたデザインです。

Plenue 1などと同じ、長方形デザインなので、ハッキリ言って「ただの四角い箱」で、地味です。

しょぼいスマホ写真しか撮れなかったので、広報写真をどうぞ・・

あまり特徴の無い、四角いデザインです


Plenue 1(左)と比べても、さほど大きくなったようには見えません

背面がデコボコしているのがデザイン要素です

裏面を見ると、放熱フィンのような短冊状になっているので、結構カッコいいですが、正面や側面にはなんのギミックもありません。サイズも、手触りも、「まあこれくらいだろう」という感じです。

色合いとかは、AK120IIとかと似ているかもしれませんが、こちらはボリュームがボタン式でロータリーノブが無い分、特徴が薄いです。20万円台の価格帯だったら、もうちょっと意表をつくような、所有欲を満たす奇抜さも欲しいなとも思います。(スポーツカーとスーパーカーの違い、といったところで)。

この電源ボタンのある角が、メチャクチャ尖っています

唯一気になった点は、正面右上の角だけ異常に尖っており、触ると痛いです。専用のレザーケースが付属しているので、大丈夫だと思いますが、この尖り具合は尋常じゃないです。(日本の製品だったらNGだとおもいます)。

Fiio X7とそっくりな側面ボタン

ちなみに、側面のボタンは、「最近どこかで見たことがあるな」と思ったら、サイズや形状など、Fiio X7のものと瓜二つでした。こういうスイッチにも規格サイズみたいなのがあるんでしょうかね。

付属のレザーケースをつけると、結構カッコいいですね

ちなみに、結構しっかりした本皮ケースが付属しているのですが、出し入れがキツくてマイクロSDカードの交換に手間取ったので、今回はケースを外して使用しました。AKのようなイタリアンブランド品ではありませんが、それらに引けをとらないくらい高品質なレザーを使っています。

DSD再生

これまでのPlenue 1とMでは、DSD再生はリアルタイムPCM変換だったのですが、Plenue SはDSDのネイティブ再生をセールスポイントとしています。ちなみに、DAPとしては珍しく、現在最高レートのDSD256(11.2MHz)が再生可能です。

PCM側は192kHzが上限ですが、実際352.8kHzファイルを再生してみたところ、リアルタイムにダウンサンプルしているようで、問題なく音が出ました。

DSD256のファイルを再生できています

PCM 352.8kHzは再生できますが、192kHzにダウンコンバートらしいです

内蔵128GBやバランス出力端子など、全体的なスペックは、ライバルであろうAstell & Kern AK320と似ているのですが、AK320はDSDのネイティブ再生ができないので(PCM変換)、Plenue Sはそこが有利です。

とはいっても、5万円のFiio X5-IIでさえネイティブDSD再生に対応しているわけで、結局AK320が未対応というのは、単純に上位モデルAK380との差別化のための機能削減といった印象が強いです。

PlenueのOS

Cowon PlenueシリーズがAstell & Kernと似ている、というのは、単純に外見だけではなく、搭載OSに独自ソフトを採用している、という理由もあります。

大画面タッチスクリーンなのですが、搭載しているのは音楽再生ソフトのみで、別途自前のアプリをインストールしたりはできません。その辺はアンドロイド系のソニーNW-ZX1やFiio X7、Onkyo DP-X1などと大きく異なります。

クセがあるけど、使い勝手は悪くないです

今回、Plenue Sを使ってみたところ、搭載されているOSは、Plenue 1やMとほぼ一緒のようでした(低価格のPlenue Dは、かなり簡略化されています)。実際にPlenue 1と並べて比較してみましたが、操作性、設定画面など、どれもほぼおなじ使用感でした。

このPlenueシリーズのOSは、一通り音楽を聴くための機能は揃っているため、実用上不自由はしないのですが、ネットの評判を見ると、大絶賛と大不評に、なぜか意見が大きく分かれているようです。

個人的にはインターフェースをそこそこ気に入っており、特に、通常のブラウジングはサクサクと快適で、再生中のトランスポート画面も慣れれば使いやすいと思います。この「慣れれば」というのがちょっとクセモノで、いわゆる一般ユーザーが慣れ親しんでいる「iPhoneの音楽ソフト」や、それの亜種であるOnkyo HF Playerなどとは結構アレンジが異なるため、なかなか探しているものが見つからなかったり、よくわからない機能が満載なので、一度じっくりと腰を落ち着けて操作法をマスターしないと、戸惑うことになります。

AKのソフトも独自性があるので、どっちもどっちという感じですが、日常的に使うシナリオ(例えば、「再生中にブラウザに戻って、次に聴くアルバムを観覧して選ぶ」、とか)では、Plenueのほうが余計なゴチャゴチャが多くて手順数が増えるようです。

また、Plenueシリーズの広報サイトを見ると、イコライザー機能が充実しているらしいのですが、個人的にEQはOFFにしているのでスルーしてしまいました。このへんは、高価なDAPに何を見出すかにもよるのでしょう。結構ヘッドホンごとにイコライザーを調整したりする趣味の人も多いみたいです。

AKにあって、Plenueに無いのがとても残念なのが、ネットワーク機能です。最近の高級DAPというと(Lotooとかは除きますが)、大概ネットワーク経由でハイレゾロスレス再生ができたり、ストリーミングできたりなど、そういったギミックが増えてきているようですが、Plenueシリーズは単純なまでにメモリーからの音楽再生に特化しています。実際Wi-FiやBluetoothがあると、「電波で音質劣化が」、なんて文句を言うマニアも多いので、無ければ無いで好印象です。

逆に、Plenueを使っていて、感動的までに素晴らしかったのは、マイクロSDカードの読み込み速度です。これはPlenue 1やMでも同様で、大絶賛したいです。たとえば楽曲が目一杯入っている128GBのマイクロSDカード(exFAT)を挿入したら、「Database Update」とかメッセージが出て、ものの数秒で、全部の楽曲がライブラリに登録されます。

他社製DAPで、最低3分、長くて15分(HiFiMANとか・・・)とか待たされることに慣れているため、この速さは感動的です。とくにハイレゾファイルが多いと128GBカードでも不十分なので、このPlenueくらいの速さであれば、カードを複数枚持って、入れ替えるのも良いかな、なんて気にさせてくれます。

データ読み込みは高速なのですが、データ書き込みの遅さにはガッカリさせられました。内蔵ストレージ、マイクロSDカードともに、Plenue SからマイクロUSBケーブル経由(MTPモード)で楽曲を転送しようとすると、20MB/sくらいが上限です。USB2.0なのでしょうがないですね。そろそろどのDAPメーカーも、USB3.0くらいは導入してほしいです。

USB DACモード

USBケーブル接続では、ケーブルを挿した時点で、USBストレージモードかUSB DACモードか選べるのが、地味にありがたいです。(他のDAPだと、よく設定し忘れて、一旦外して、設定画面に行って、みたいに面倒なので)。

USB DACモード

USB DACモードですが、今回はMacbook Airしか持っていなかったので、それで試してみました。

Macではドライバ不要でちゃんと認識しましたが、なんか不具合が多くて予測不能な動作でした。

なぜか、どのソフトでも88.2と176.4kHzが使えませんでした

具体的には、対応フォーマット認識から88.2kHz、176.4kHzが消えており、再生ソフトによっては挙動不審になります。JRiverでは88.2kHz系やDSDではエラーで止まり、Audirvanaではサンプルレート変換されます。また、DSDはDoP指定にしても、44.1kHzに変換されてしまいました。

このへんの問題は、またファームウェア更新などで改善されるかもしれません。

デジタル出力

ヘッドホン出力端子は光出力にも対応しているので、一応試してみましたが、ちゃんと192kHzまで出せました(Mojoの色で確認)。たとえば352.8kHzファイルの再生だと、176.4kHzにダウンコンバートされるみたいです。

青緑なので、176.4kHzのようです

ただしDSD再生時には無音でした。たしかAKとかはDSDもPCM変換で光で出せるのですが、そもそも光のDoP出力に対応しているDAPってあるんですかね。(USB DACだと、Resonessence Concero HDとかは同軸でDoPを出せます)。

バランス出力

肝心のアナログ出力ですが、Plenue Sにはバランス出力端子が付いている、というのが一つの大きなセールスポイントになっています。

バランス出力は2.5mmではなく、3.5mm 4極端子でした

しかし、よく見てみると、なんと「3.5mm 4極」という、ちょっとめずらしいコネクタ端子になっています。最近では、AKに使われている「2.5mm 4極」が主流ですし(Onkyo DP-X1も2.5mmでした)、または、古くはALOなどが使っていた四角いコネクタとか、ソニーの3.5mm 3極×2とか、様々な種類はあるのですが、今回の3.5mm 4極というのは意外です。

公式サイトなどには今のところ何も情報が無いのですが、Plenue Sの説明書によると、先端から「L+ R+ L- R-」という配列なので、つまり、OPPOやソニーのヘッドホンが採用している「グランド分離ケーブル」と同じということになります。

説明書によると、ソニーやOPPOと同じピンアサインのようです。

OPPO用ケーブルは、ヘッドホン側が2.5mm x 2なので、それに合うヘッドホンであればこのケーブルを使うことでバランス接続できそうです。

一方、AKの2.5mm 4極は、先端から「R- R+ L+ L-」なので、単純に2.5mm→3.5mm 4極をそのまま変換(そんなアダプタは無いですが・・)してもダメですね。再配線が必要になります。

そのうち専用ケーブルや変換アダプタが色々と出てきそうですが、現時点でIEMなどに使うには、ちょっと面倒です。

底面には、ドック用の端子がついています

別売で、こんなドックが発売されるそうです

裏面はXLRバランスライン出力端子のみのようですが、アンプ機能とかはあるんでしょうかね

ちなみに、今後専用のドックが発売されるそうで(かなり豪華なデザインです)、そのために、本体下部に接点があります。これはアナログバランス出力らしいのですが、個人的にはこういう露出した端子はあまり好きではありません。AK320では、背面ネジで固定するギミックでしたが、このPlenue Sの場合、ドックにはどうやって固定するんでしょうかね。(それとも自重でピンを押すような感じでしょうか)。

アナログ出力

特殊な端子のせいでバランス出力を試すことは不可能でしたが、普通の3.5mmステレオ出力はごく一般的なコネクタなので安心しました(当然ですが)。

Plenue Sの広報サイトを見ると、従来機よりも出力アップした、ということですし、実際スペック表でも、これまでPlenue 1の最大出力電圧が2Vrmsだったのが、Plenue Sでは3Vrmsと書いてあります。

というわけで、実際に測ってみた結果、下記のようになりました。

最近のDAPの出力と比較してみました

0dBFSの1kHzサイン波を再生して、ボリュームを最大にした状態です。ちなみにボリュームはデジタルで、0~140までの数字で表示されます。

Plenue Sは無負荷時の出力電圧が8.58Vp-pなので、RMS換算だとちょうど3Vrmsになりますね。ついでに、Plenue 1も測ってみたところ、5.91Vp-pで、ピッタリ2Vrmsなので、ちゃんとスペック通りということになります。

負荷を与えていくと、50Ωくらいから定電圧を維持できなくなってくるのは、他社のDAPと一緒です。最近のDAPの中ではまあまあ高出力を誇るiBasso DX80とほぼ同じくらいの駆動力なので、上々ではないでしょうか。同グラフ上のPlenue 1や、AK240、Fiio X7なんかよりは、高インピーダンスヘッドホンを駆動しやすいかと思います。

Headphone Modeという設定があります

ところで、Plenueシリーズの設定画面には「ヘッドホンモード」のON/OFFというスイッチがあるのですが、これは何かというと、単純に最大ボリュームに制限がかかるようになります。ヘッドホンモードをOFFにすると、3Vrmsから1.9Vrmsにリミットされるため、故意の爆音を防げますし、表示上、ボリュームのステップも細かくなります。

とはいっても、このリミットした状態でも、低インピーダンス側の挙動は変わらないため、単純にソフトウェア的なリミットのようです。

ちなみに、ソフトのバグなのか、今回試聴時に、ヘッドホンケーブルを外すたびに、ボリュームがデフォルト位置(たしか60とか)に戻ってしまいました。Plenue P1ではそんなことは起こりません。このせいで、他のDAPと比較試聴している時にはかなり手間取りました。

最大音量だと、100Ωくらいからクリッピングが始まります

出力波形は、最大音量でも100Ω程度までクリッピングを起こさなかったため、ライン出力として利用する場合も安心できます。実際ライン出力で3Vrmsはちょっと大きすぎるため、ヘッドホンモードをOFFにして、最大ボリュームの1.9Vrmsか、それ以下で使うのがちょうどいいと思います。

音質について

今回の試聴には、主にAKG K3003を使いました。残念ながら、ライバルのAK320は手元にありませんでしたが、Plenue 1、Fiio X7、AK240などがあったので、かなり真面目に試聴比較できました。

余談ですが、本来試聴で使うはずだったベイヤーダイナミックAK T8iEは、片側から音が出なくなるという故障で、現在保証修理中です・・。

AK240、Plenue S、Fiio X7を並べてみました

大型ヘッドホンでは、Shure SRH1540と、先日購入したBeyerdynamic DT1770を使ってみましたが、どちらもボリュームが100/140くらいで十分な音量がとれたので、大抵のヘッドホンであれば問題なく駆動できそうです。

ただし、調子に乗ってHiFiMAN HE560を使ってみたら、明らかに音量不足で、楽曲によっては最大ボリュームの140で頭打ち状態でした。一般的な音量の音源であれば130くらいで丁度良いくらいでしたので、やはりギリギリ感があります。

まずはじめに、はっきりと言っておきたいのですが、このクラスのDAPになると、それぞれ交互に聴き比べても、違いがよくわかりません。楽曲によっては、ほとんど同じように聴こえることもあります。

とくに能率の高いIEMイヤホンなどでは、出力不足に由来する音質劣化が皆無なので、どのDAPを使っても十分良い音に聴こえます。フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーで、制限時速100キロの道路を悠々とドライブしている感じでしょうか。ハッキリと確信を持ってコメントできるのは、パフォーマンスよりもルックスや使用感が主になってしまいます。

これよりも低価格の(コスト的な妥協がある)DAPであれば、たとえばマルチBA型IEMを使うとバックグラウンドノイズ(ヒスノイズ)が目立つとか、特定の帯域がやけに強調されてるとか、そういった具体的な問題がありがちなのですが、流石にコスト度外視の高級DAPで、そのような低レベルの音質トラブルは論外です。

そういうわけで、なかなか各モデルの個性を特定するのが難しいわけですが、それでもやはり特徴的なサウンドの違いはあります。いつも不思議に思うのですが、超高音質ハイレゾアルバムなどよりも、60年代などの、あまり高音質とは言えないアナログ録音を聴くと、違いがよく解ることがあります。

AK240、Fiio X7と比較した場合、じつは、個人的な音色の好みではPlenue Sが一番良かったです。Plenue Sの特徴は、主要楽器の音色を上手く引き立てていることと、あまり重厚でリッチな方向に流れない、ということです。

サウンドは軽快で歯切れよく、広大な空間演出よりも、ソロの歌手や高音楽器(たとえばヴァイオリンなど)を美しく繊細に表現して、背景とのメリハリをつけています。それでいて高音が強調されているとか、刺激的といった風でもなく、なんとなく上手に清々しく丸め込んでいるような意図を感じます。リラックスしたサウンド、とでも言うのでしょうか。

AK240はもっとリッチな質感と、流れの「つながり」重視で、深みのあるまろやかなサウンドです。Fiio X7は、高音の空間表現や立体感を上手に出せる、主音楽器よりもサウンド空間全体の見通しの良さがあります。

これら二機種とPlenue Sを比較して、とくに気になったのは、ステレオの広がり具合の違いです。AK240やX7が耳元で左右ギリギリまで広く展開しているところ、Plenue Sではもっと前方にフォーカスされた、ステレオスピーカー的音場でした。セパレーション不足とか、クロストークとか、そういった過度な演出ではなく、たとえば楽器の残響が左右どちらかに「回りこむ」ことがなく、前方奥に遠ざかっていくような印象です。

AK320は残念ながら同時の比較試聴できませんでしたが、数日前に同じ楽曲とイヤホン(K3003)で試聴した記憶を思い起こすと、Plenue Sとはかなりの方向性の違いがあるようでした。

このクラスのDAPでは、それぞれにメリットがあるため、「どちらが高音質」といったランク付けは言うだけ無駄ですが、傾向としてAK320はモニター調の硬質でテキパキとした音色で、Plenue Sはそれよりもさらっとした響きの光沢が感じられます。AK320が好きな人は、どちらかと言うとプロ用のオーディオインターフェース的サウンド(例えばRMEとか、Mytekとか)が好みのタイプで、Plenue Sは、ある程度のハイファイ調なマイルドさ、落ち着きがあります。

Plenue Sのサウンドに欠点があるとすれば、それは「まとまりが良すぎる」ことかもしれません。あまりドーンと濃厚に音楽の熱量をリスナーに伝えるのではなく、なおかつモニター調に苦虫を噛み潰すような解像感に走ることもなく、一音一音の立ち上がりとメリハリがよく目立つ、綺麗なサウンドです。

据え置きオーディオ的にいうと、重量級のAudio ResearchやKrellなどとは対極にある、たとえばRegaやPrimareのような、ヨーロッパのブランドにありがちな、高級コンパクトシステム的サウンドに近いかもしれません。

つまり、試聴時にはとても気に入ったのですが、長く使っていると、もっとザクザクと音楽のドライブを体感出来るような、一種の「下品さ」みたいなものも欲しくなってきそうだな、という不安もありました。(そういった場合は、合わせるヘッドホン次第でどうにかなるものですが)。

もはや下位モデルになってしまったPlenue 1と比較すると、やはり出力アップによる音質向上は十分にあると思いました。どちらもPCM1792Aのシングル構成で、アンプ回路もほぼ同じかと想像しますが、やはりPlenue Sのほうが土台がしっかりしているというか、ふわっと流さない歯切れ良さを感じさせます。Plenue 1はとても好きなサウンドなのですが、たとえば大型ヘッドホンなどを使うと、どうしてもメリハリが足りない、流されるままのマイルド傾向になってしまうこともあったのですが、Plenue SではSRH1540やDT1770などを使っても、十分に楽しめる力量が体感できます。

Plenue Sの公式サイトに、HD800でも大丈夫、と書いてあるのも、あながち嘘ではなさそうです。少なくとも音量は十分だせましたが、HD800自体が軽妙繊細なサウンドなので、Plenue Sと合わせることで、このヘッドホンにリラックスした美しさを加味できます。逆に、もうちょっとフルパワーでガンガン鳴らすようなアンプのほうが好みという人もいるかもしれません。

まとめ

Plenue Sは平均的なサイズ感で、実用上これといって致命的な不満も出ない、堅実なDAPだと思いました。

肝心なのは、音質は値段相応に、とても良いということです。主要楽器が瑞々しくツヤがあり、あまり重苦しくならずに、サラッとしたマイルド感があります。この価格帯では、どのような音が「高音質」かは好みが別れるので、優劣よりも、気に入ったサウンドを選ぶことが重要だと思います。その点、Plenue Sはとても気に入りました。

フラッグシップ機でありながら、今時流行りのESS9018やAKM4490などを安易に採用せず、これまでPlenueシリーズで培ってきたPCM1792Aシングル構成の回路を継承していることにも、音作りに対する一貫性とポリシーを感じます。そして、それが単なる「最新高性能DAP」ではなく、「高音質オーディオプレイヤー」としてのメーカーの立ち位置を明確にしています。

「そろそろハイエンドなDAPは欲しいけど、AK320はちょっと・・・」、と考えている人には、かなり注目度が高いDAPです。あまり派手に見せびらかさず、落ち着いた大人のデザインと、音楽再生のみに特化したストイックさを魅力に感じる人も多いと思います。

個人的には、やはり値段がネックだと思います。基本的な構成は10万円のPlenue 1とほぼ同じで、さらにバランス出力対応アンプ回路、駆動力アップ、さらにDSDネイティブ再生など、アップグレード感は十分にあります。これで、「そろそろ古くなってきたPlenue 1の後継機」という位置づけで、値段据え置き、もしくは12万円くらいでしたら、非常に魅力的だと思うのですが、Plenue Sにそれ以上のプレミア感を見いだせないのが難点です。

AKやFiio、iBassoなど、多くのDAPメーカーは、第二世代機にモデルチェンジした際に、価格据置きで凄まじい進化を遂げています。その点、Cowon Plenueはまだ現行機種ラインナップが「第一世代」から抜け出せておらず、たとえば売れ筋の価格帯にあるPlenue MやPlenue 1がそろそろ陳腐化しており、ラインナップにぽっかりと穴が空いてしまった感もあります。今後、後継機が登場したとして、Plenue Sとの差別化のため意図的にスペックダウンしてしまうと、どの部分が犠牲になっても、他社との競争力が弱くなるのでは、と心配になます。

10万円前後だと、Onkyo DP-X1やFiio X7はもちろんのこと、さらに安価なクラスでも、先日紹介したiBasso DX80なども十分健闘していますし、AKも第三世代が登場したことで、旧式のAK120IIなども新品、中古ともに、かなり格安で手に入るようになっています。そういった中で、今後Plenueシリーズはどのような新製品で対抗してくるのか非常に気になるところです。