2017年4月20日木曜日

HIFIMAN RE400 の修理と改造

前回HIFIMAN HE-560について紹介したので、この機会にHIFIMAN RE400イヤホンについて、ちょっとしたネタを書きとめておきます。

HIFIMAN RE400

巨大な開放型ヘッドホンが有名なHIFIMANですが、イヤホンも色々と出しており、陰ながら密やかな人気を得ています。

私自身は所有していないのですが、このあいだ故障したやつを修理した時に写真を撮っておいたので、紹介しようと思いました。


RE400

不思議なことに、私の身の回りにいるコアなヘッドホンマニアの友人のうち数人が、このHIFIMAN製イヤホンを心底支持しており、日々愛用しているようです。

どれだけ高級な大型ヘッドホンを多数所有していたとしても、イヤホンだけはマルチBA型などの高級ハイエンド品ではなく、安価なHIFIMANイヤホンをずっと使い続けている、といった固定ファンが少なからず存在します。

とくに、今回手元にある銀色のRE400というイヤホンが人気らしく、わずか一万円程度の安価な(しかも見た目もそれ相応に安っぽい)ダイナミック型イヤホンでありながら、あまりにも好きすぎて、すでに2回、3回と買い替えているという強者もいます。

RE300、RE400i、RE600

RE400の下には7,000円程度のRE300というのもありますし、上には2万円くらいのRE600もあるのですが、なぜかこの中堅モデルのRE400の支持者が多いです。ちなみにリモコン付きのRE400iというのもあります。

ユーザーの話を聴くかぎりでは、とくに普段から高級大型ヘッドホンを聴き慣れているベテランマニアであるほど、マルチBAイヤホンでは必然的に周波数帯域にアップダウンがあり満足できない、ということです。もちろんシングルダイナミック型でもRE400よりも高価なイヤホンはたくさんありますが、ほとんどのモデルで低音を増強したサウンドが主流なため、なかなかRE400と同じ方向性を持ったサウンドが得られないそうです。

個人的には、イヤホンとヘッドホンは全くの別物として考えているので、マルチBA型に関しては(とくに以前と比べて、最近のものは)素直に素晴らしいと思えるのですが、このRE400のサウンドは、確かにフラットで特出した響きやクセが少ないため、独特の「レファレンス感」があります。

ただし、1万円台という値段なりに、音色の厚みや立体感が乏しい、エキサイティングとは程遠いサラサラしたサウンドなので、常用したいというほどではありません(もちろん値段を考えると悪くないと思います)。なんとなくゼンハイザーIE800のようなストイックさや、ベイヤーダイナミックDT770など一昔前のモニターヘッドホン、最近だとAudeze iSINEとかで感じられる傾向との共通点もあるため、支持しているユーザーが多いのも納得できます。往年のソニー製イヤホンMDR-EX90とかに近いかもしれません。ユーザーの本音を聞くと、RE400から高級イヤホンにアップグレードしたい気持ちは十分あるのですが、いざ最新高級イヤホンを試聴してもどうしても納得できずRE400に戻ってしまう、という腐れ縁みたいな存在らしいです。

ちなみに上位モデルのRE600になると高域のキツさが増すので、高解像という意味では良いのでしょうけれど、RE400の方が落ち着いていて聴きやすいと思いました。

RE1000

ちなみにHIFIMANの最上位イヤホンというと、10万円のRE1000というやつがあり、これはUnique Melodyとの共同開発ということで、シェルのロゴも「HIFIMAN & UM」と書いてあります。Unique MelodyのカスタムIEMシェルに、HIFIMANのダイナミックドライバを2基(8.5mmと9mm)搭載しているという異色のモデルです。BAドライバは入っていない、純粋なツインダイナミック型カスタムIEMというのは非常に珍しいです。

ちなみにRE1000は個人の耳型に合わせて作成する「カスタムIEM」限定で、ユニバーサルタイプは販売していないのですが、以前、店頭試聴用のシリコンチップが装着できるユニバーサルタイプを試聴したことがありました。RE400やRE600といった下位イヤホンモデルのサウンドを継承しており、それにさらに低音ドライバが別に鳴っているような、「明らかにツインドライバ」といった不思議なサウンドでした。カスタム版ではまた印象も変わると思います。

改造

ところで、冒頭で、RE400を「すでに2回、3回と買い替えている」ファンもいると書きましたが、それもそのはずで、故障しやすい事でもけっこう有名になっています。

具体的には、まずアルミ製シェルハウジングの前後パーツがパチっと嵌め合う構造になっており、接着剤で固定してるあのですが、それが経年劣化で弱くなってしまい、突然パカッと割れてしまった、というのをこれまでに何度か見てきました。

もう一つは、ケーブルの外皮がツルツルしたビニール素材で、ちょっとでもかすり傷が付くと、みるみるうちにそこから破れてしまうようです。こればっかりはHIFIMANも承知しているようで、上位モデルのRE600の方は、数年前に「RE600 V2」という名称で、より信頼性の高いケーブルにアップグレードされました。一方RE400の方は依然壊れやすいままのようです。個体数の差もあるのでしょうけど、私がよく修理を頼まれるのは、ほぼRE400ばかりで、RE600はめったに見ません。

今回、友人から、「ケーブルが壊れてて音が出ないから、どうせ捨てるつもりだったから好きにしていいよ」というRE400を受け取りました。

ケーブルが壊れやすいです

見れば明らかにケーブルの外皮が破れて、中の配線が露出しています。なんだか20年前のイヤホンみたいな貧弱な線材ですね。

ケーブル自体はそこそこ高級っぽい作りです

このケーブルはY分岐部分以下は布巻きになっているので、壊れやすいのは左右に分かれたビニールむき出し部分であることが多いようです。写真で見えるように、左右をまとめるスライダーパーツも角ばったやつなので、これのせいでケーブルに傷がつくこともあるみたいです。

布巻きケーブルというのは、見た目が高級だとか、タッチノイズを低減するといったメリットがありますが、それ以外にも、ビニールゴムに傷が付くことを防ぐのと、ゴムほど伸びないため、引っ張りに対して線材への負担を低減して、断線防止の役割も果たしています。

今回みたいなケースは、断線したケーブルに継ぎ手をして補修することも可能なのですが、格好良くないので、遊び半分で、イヤホン本体を改造することにしました。

こんな感じです

ケーブルはイヤホンのアルミハウジングから黒い補強チューブを経て出ているのですが、このチューブも接着剤で固定してあるため、ここがスポッと抜けてしまったやつも見たことがあります。汗とかで接着剤やゴムが劣化するんですかね。

ちなみに写真でケーブルの上に見える穴はドライバ背圧を逃がす通気口で、音響チューニングの役割を果たしているようです。

こんな感じにパカっと開きます。回転するとケーブルが切れるので注意

本体は切れ目の部分でパカっと開く事ができます。あまり力をかけなくても、タッパーウェアのフタを開ける要領で開きます。ここも接着剤で補強してあるのですが、経年劣化で緩くなってくると、勝手に開いてしまうか、もしくはフロント部分がグルグルと回転して、内部のケーブルが断線してしまう、というのもありました。

無理に開こうとすると、分解した瞬間にケーブルがもげてしまう心配があるので、慎重に万力と当て木などでちょっと力を加えると、いとも簡単に開きます。

中身は非常にシンプルです

ダイナミックドライバのみなので、内部の配線は非常にシンプルで、ハンダ付けポイントも容易にアクセスできます。工場での組み立てやすさに配慮したデザインですね。

ちなみに、外側からも見えた、音響用の小さな穴は、内側に黒い両面テープで薄い膜のようなものが貼ってあります。これは周波数調整用フィルタですかね。

ただのアルミの筒ですね

ケーブルのハンダを除去してドライバを分離すると、ハウジングはただの空洞になります。

MMCXコネクタ

今回は、せっかくの遊びなので、MMCXコネクタを装着してみました。

Hubner & Suhnerの50Ω・6GHzストレートタイプで、600円くらいでした。高周波用なのでシールド部分が無駄に長過ぎるため、糸ノコで短く切断しました。

MMCXコネクタをつけました

イヤホン本体のケーブル穴からゴムを取り除いて、穴をドリルで0.5mmほど拡大して、タップを切りました。アルミハウジングはそこそこの厚みがあるので、わざわざMMCX端子のロッキングナットを使わなくても、そのままねじ込んで固定できました。

内部配線は、もっと細いリッツ線やエナメル線を使ってもよかったのですが、手元にあったテフロンの銀コートOFC線を使ってみました。コネクタのネジ山にそのままハンダ付けすることで、回転防止にもなります。本来ならアルミハウジングとケーブルのグラウンドを分離すべきですが、実際に既製品のイヤホンでもそれをやっていないことが多いので、無視して適当に仕上げました。

ドライバと接続

このままドライバにハンダ付けして、ケーブルを丁寧にハウジング内に収納すれば終わりです。予熱でドライバにダメージを与えないように、サッと処理するよう心がけます。

MMCXコネクタを入れることで、ハウジング内部の空間を変えてしまったたため、音響的な違いも出てくると思いますが、実際オリジナルでもケーブルがグチャッと詰め込まれていただけなので、あまり気にしていません。

今回はやっつけ仕事でしたが、簡単に手直しできる構造なので、音響に興味がある人にとっては、チューニングの微調整を試行錯誤で楽しめる、面白い実験題材かもしれません。

完成しました

こんな感じになります

これで完成です。見違えるように格好良くなった、というほどでもないですが、弱点であるケーブルに対策できて、音質もケーブルを交換することで追い込めるのがメリットです。

ケーブルは、ショボくてお蔵入りしていたベイヤーダイナミックAK T8iE(MK1)のやつを装着してみました。もちろん問題なく音は出ますし、純製ケーブルよりもなんとなくサウンドが太くなったようにも思えます。

そもそもRE400のサウンドはそこまで入念に聴いたわけではないので、改造してどれくらい変わったかとか明確にチェックする程ではなかったのですが、ひとまず余計に悪くなったという風には感じませんでした。

現実的に考えると、ここまで安価なイヤホンにわざわざ手間をかけるメリットは少ないと思いますが、どうせ捨てるなら、ということで、MMCX端子の出費のみで遊んでみる価値はありました。

RE400に限らず、他にも故障したまま引き出しの奥に入れっぱなしのイヤホンとかがあれば、こんな感じにミニ改造をしてみるのも面白いかと思います。

HIFIMAN RE2000

HIFIMAN RE800

HIFIMANといえば、まだこれを書いている時点では発売されていませんが、「RE2000」「RE800」という最上位クラスのイヤホンが発表されました。ナンバリングから想像できるように高価なモデルで、RE2000が$2,000、RE800が$700くらいになるそうです。

とくに金色のRE800の方は明らかにRE400・RE600の延長線上のデザインのようなので、値段に見合うように、ケーブルや接着剤のトラブルは改善されている事を願っています。

HIFIMANなので音質設計の良さに関しては心配無用でしょうから、それよりも、むしろマニア向けのセールスポイントとして、「ケーブルと接着剤を改善しました!(当社比)」とか書いてくれたほうが、売上が伸びるのでは、なんて思ったりします。