2019年4月16日火曜日

Hiby Music R6 PRO DAPのレビュー

Hiby Musicの新作DAP 「R6 PRO」を買ってみたので、感想とかを書いておきます。

Hiby Music R6 PRO

日本では2019年3月発売、価格は10万円くらいです。Android多機能DAPとして良さそうだったので、スペック買いしてしまいました。

昨年発売した「R6」の上位版ということで、オーディオ回路の高級化・高出力化と4.4mmバランス出力に対応したモデルです。


Hiby Music

Hiby Musicは新興DAPメーカーで、日本では2018年8月に「R3」「R6」というデビューモデルが登場しました。ちなみにアマゾンによると呼び方はハイビーだそうです。

Hiby R3 & R6

「R3」は2万円台の低価格モデル、「R6」はフルスペックな上級DAPで6万円台のアルミボディか、7万円台でステンレスボディを選べる点が珍しいです。

とくにR6はGoogle Playストア対応Android OSに無線LAN・Bluetooth対応など、多機能DAPとしてスペックが充実しており、音質も含めて、他社DAPと比べてコストパフォーマンスが高いということで好評を得ています。

私も発売当時ステンレスモデルがカッコいいので買おうかと思っていたところ、さらに上級モデルの「R6 PRO」が開発中というニュースを見て、それを待つことにしました。

Software by Hiby Music

Hiby Musicは中国のメーカーで、コンシューマーブランドとしては新参ですが、これまで長年に渡りオーディオ機器のOEMを行っていた実績があります。

たとえば初期Fiio DAPや、最近私が愛用しているQuestyle DAPなども、インターフェース操作機能部分などはHibyが提供していました。他にも多くのオーディオメーカーのDAPを手がけています。

Fiioが数年前に自社製インターフェースに移行した頃から、Hibyが独自ブランドでDAPを作るという話題が浮上してきました。私はFiioの初期インターフェースが好きで、最近のやつはどうもダメだと思っていた事も、Hibyに興味を持った理由の一つです。


Hibyのデビューモデルは2017年にプロジェクト開始が発表され、クラウドファンディングで開発が始まった点がユニークです。中国のオーディオメーカーというと、とりあえず物量投入で玉石混淆あれこれ奇抜なものを作ってみるという社風が多いのですが、Hibyはもっと国際派で、クラウド先行投資ユーザーの声を聞いて開発に反映することで、万人受けするようなハイスペック多機能DAPになりました。

しかもR3はKickstarter、R6はIndiegogoと、異なるクラウドファンディングプラットフォームを使ったのが面白いです。私も当時プロジェクトの進行をチェックしていたのですが、中国のAndroid DAPということで、初回はバグだらけで使い物にならないだろうと思い、先行出資には参加しませんでした。

プロジェクトは2018年1月に比較的スムーズに終了し、先行ユーザー向けの発送が終わってから、8月には日本を含む各国への店頭流通在庫が現れました。

日本での輸入代理店は静岡県にある飯田ピアノという会社だそうです。メインのピアノ販売以外に超高級KuraDaヘッドホンを作っていたり、DAPを輸入したり、イマイチ業務体系が謎な会社です。

今回R6 PROはR6のマイナーチェンジ版ということで、クラウドファンディングではなくHiby自社サイトで発売の案内が行われました。まず初回は中国国内のレビューや店舗に出回って、日本や海外向けの本格的な量産は2019年3月頃になり、私も公式オンラインショップで注文しておいたところ、3月末に手元に届きました。

R6 PRO

R6 PROを買ってみようと思った最大の理由は、ステンレスボディのデザインがカッコいいと思ったからです。

このシンプルなデザインが好きです

中国のDAPメーカーというと、無駄にゴテゴテした違法建築のようにいびつなモデルが多いですが、R6 PROはスマホのように画面優先で無駄を省いたシンプルなデザインなのが気に入りました。

ステンレス加工の仕上がりも上質ですし、ボタンの押しやすさやヘッドホンジャックの位置など、どれも良好です。あまりに普通すぎて無個性でもありますが、他社のDAPを使ってみて、「なんでこんなに使いにくい配置にしたんだ」と思う事ばかりなので、R6 PROの普通具合はかえって新鮮です。

Fiio X7 Mark II・AK SP1000・R6 PRO

AK SP1000とステンレス比較

AK SP1000のステンレス版と比較してみると、質感は違いますが、遜色ない品質の高さだと思います。エッジの丸め方が綺麗です。

AK SP1000Mとの比較

Fiio X7 Mk2との比較

R6PROの画面サイズは4.2インチなので、SP1000Mとほぼ同じです。本体の厚さやサイズ感も似ていますが、アルミで203gのSP1000Mと比べてステンレスのR6 PROは285gと重いです。画面解像度は1280×768ピクセルでSP1000Mとほぼ同じなので、インターフェースもよく似ています。

Fiio X7 Mark IIと比べると、着脱アンプモジュールが無い分だけコンパクトです。こちらも4インチ画面ですが800×480ピクセルなので、R6PROと比べると粗っぽく見え、表示できる情報も少ないです。

R6 PROの主なスペックは下記の通りです:
  • 4.2インチタッチスクリーン(1280×768)
  • 120 × 67 × 15.7mm 285g
  • Android 8.1
  • 3.5mm アンバランス・4.4mm バランス
  • 3.5mm ラインアウト・S/PDIF
  • D/A変換: ESS ES9028Q2M × 2
  • I/V変換: NJR MUSES8920 × 4
  • LPF & ヘッドホンアンプ: アナログ・デバイセズ SSM6322 × 2
  • PCM 384kHz/32bit DSD256 ネイティブ再生
  • ストレージ:32GB + マイクロSDカードスロット × 1
  • Bluetooth aptX・aptX HD・LDAC・HWA
  • アンバランス12時間・バランス8時間再生
  • USB C クイックチャージ3.0対応

と言った感じで、とても充実したスペックです

通常版のHiby R6と内容はほぼ同じなのですが、一番わかりやすい違いはバランス出力端子が2.5mmから4.4mmに変更されたことです。これは賛否両論あると思いますが、私は4.4mmが流行ってほしい派なので、これもPROを選んだ理由の一つです。

D/AチップはどちらもESS 9028Q2Mですが、後続アナログ回路がR6は「OPA1612 → TPA6120A」というテキサス・インスツルメンツの教科書的定番コンビだったところ、R6 PROはMUSESとアナデバというマニア好みの構成に変えているのが魅力です。

これにより、ヘッドホン出力がおよそ二倍にパワーアップしています。PROなので大型ヘッドホンとかを駆動できるようにでしょうか。3.5mmが120→245mW、バランスは300→750mWとなっています。どちらも32Ωでのスペックなので、高インピーダンスでのゲイン差は不明です。

実際どちらも優れたICなので、ノイズスペックなどの違いは少ないですが(むしろPROの構成の方が測定値は悪くなりがちですが)、実際に音を聴くとずいぶん違いが出ます。

ちなみにヘッドホンアンプがディスクリートではなくワンチップである点を非難する人もいるようですが、据え置き型なら話は別ですが、DAPの電源やスペース制限の中で最大限のパフォーマンスを得るにはワンチップが最善だと思います。

R6のTPA6120Aチップは定番中の定番で、たとえばソニーとかが長年愛用しておりPHAシリーズや超弩級DMP-Z1などにも使われている事が有名です。R6 PROのSSM6322は2017年に登場した最先端アンプチップで、まだ搭載実績が少ないため、これが気になった事もR6 PROを買った理由の一つです。

他にもAndroidバージョンやクロックなどR6とR6 PROで変わった点があるみたいですが、少なくとも機能よりもサウンドに焦点を当てた事が好印象です。

これらの変更のためR6 PROの方がボディサイズがわずかに大きくなっており、重量も275g → 285gと重くなっています。ちなみに通常版R6は190gのアルミ版がありましたが、R6 PROはステンレスのみです。

パッケージ

私が買ったのは公式サイトからの海外流通版なので、日本での在庫は内容が微妙に違うかもしれません。

外箱

アクセサリー類

一般的な黒い厚紙パッケージで、豊富なアクセサリー類が同梱されていました。

USBケーブルとS/PDIF用ケーブル、マイクロSDトレイ用ピン、スペアのスクリーンフィルム、そしてFiioとかでよくあるゴムっぽい透明ケースです。ハイレゾマークのステッカーがスペアで数枚入っていたのも中国らしいです。冷蔵庫に貼ったら音が良くなるでしょうか。

ケース

初回購入特典ということで、そこそこまともな合皮製ケースが別途付属していました。使いやすいので結構嬉しいです。

せっかくなのでDignisとかの高級レザーケースも買ってみたいですが、今のところ無いようです。R6とR6 PROは微妙にサイズが違うのも困ります。

デザイン

シンプルなデザインなので、これといって奇抜な事もないのですが、使ってみて気になった点を挙げておきます。

まず本体デザインには満足しています。角が丸く握りやすいサイズ感、ヘッドホンジャックなどもグラグラしておらず、ボタンも簡単には壊れそうにありません。

ボリュームボタン

電源ボタンとトランスポート

ヘッドホンジャック

スマホっぽくわかりやすいボタン配置なので、戸惑うことなく使えました。

不満というほどではありませんが、あえて指摘するとすれば、まだデザイン水準が甘い点がいくつかありました。

たとえばライン出力のタイポグラフィが合っていないのは、日本メーカーだったら作り直しでしょう。

また、トランスポートの曲送り・曲戻しボタンが逆になっています。つまり再生ボタンの「▶」矢印の向きに対して、「▶▶」ボタンが曲送りのはずですが、押してみると曲戻りです。Hibyアプリのみでなく他のアプリでも全て逆に認識しているので、ファームウェアアップデートとかで修正できるのでしょうか。実用上たいした問題ではありません。

インターフェース

AndroidベースのDAPなので機能が豊富です。全部を網羅するわけにもいかないので、使ってみて気づいたポイントをいくつか挙げてみます。

  • 標準アプリHiByMusicがかなり安定しており、100時間以上使ってもバグらしきものには遭遇しませんでした。処理も非常に高速なので、普通にカードから音楽ファイルを聴く用途には文句無しです。
  • ライブラリースキャンが圧倒的に速く、私がいつも絶賛しているPlenue並です。512GBカードの4000曲以上を40秒ほどでライブラリー登録してくれました。
  • UNICODEに対応しており、タグのアクセント表記なども文字化けしません(Fiioはフランス語とかが中国語に化けます)
  • スマホのように電源を入れっぱなしで画面OFF状態にしておけるので、手にとってすぐに使えます。音楽を再生していなければ、この状態で一日放置してもバッテリーは90%程度に減るのみです。もし電源OFFから立ち上げる場合でも他のAndroid DAPよりも高速で、約30秒でホーム画面が立ち上がります。
  • 音質や機能などに細かな設定がいくつもあるので、DAPを使い慣れた玄人向けだと思います。試聴機を借りる場合はエフェクトなど事前にチェックが必要です。
  • USB DAC・USBトランスポート(OTG)モードともに使い勝手は良好です。
  • 無線LAN・Bluetoothなどはスマホ感覚で、トラブルはありませんでした。

不満点をいくつか挙げると:
  • HiByMusicアプリのブラウザーは進化の余地があります。たとえば絞り込みできない(ジャンルを選んでからアルバムを選べない)、サンプルレートやフォーマットで選べない、手軽にソートできない、といった感じです。他社がこれらを全部できているわけではありませんが、こういったところはパソコン(iTunes、JRiver、Audirvanaなど)の使い勝手にまだ敵いません。
  • 連続再生のギャップレスは優秀ですが、別の曲を選ぶと開始時にプチッとDCノイズが乗ることがあります。
  • HiByMusicアプリ内の設定画面と、Android OSのオーディオ設定画面が分かれているので、頻繁に行き来することになります。他のアプリもインストールできる設計なので仕方がないのですが、これはちょっと面倒です。
  • HiByMusicアプリはネイティブ再生ですが、Onkyo HF Playerをインストールしたところ全て44.1kHzで変換再生されました。これはAndroidの仕様上仕方ないのでしょうか。

現行ファームウェアでバグっぽいのを挙げると:
  • アルバムを選択して再生すると、アルバムの終わりで停止せず、アルファベット順で次のアルバムを再生してしまいます。(設定で変更できないようです)。
  • 物理トランスポートボタンの曲送りと曲戻しが逆になっています。
といった感じです。総合的に見てインターフェースが良くできており、満足できました。たとえばカードスキャンやブラウザスクロールなど、他社DAPを使うたびに遅いと不満を言ってきましたが、べつに無理難題だったわけではなく、R6 PROはちゃんと実現できています。他社も見習ってもらいたいです。

Androidバージョン

HiByMusicアプリ

私のR6 PROはAndroid 8.1.0で、ワイヤレスアップデートしてみたところ、「R6PROInt_1.11GBeta_20190127_1546」というファームウェアがインストールされました。HiByMusicアプリのバージョンは1.3.5です。

ホーム画面

ボリューム調整

Androidホーム画面から、無線LANをつなげてPlay Store経由でOnkyo HF Playerをインストールしてみました。先程述べたようにHiByMusicアプリ以外は再生フォーマットが44.1kHzに変換されてしまうのですが、ネイティブにする方法はあるのか探してもわかりませんでした。

ボリュームボタンを押すと音量調整画面になり、タッチスクリーン操作でも、0~100の範囲で調整できます。

Android設定画面

Bluetoothコーデック

Bluetoothコーデックを見ると、デフォルトは自動選択で、ちゃんとaptX HDやLDACに対応しています。ちなみに中国版aptXといえるHWAコーデックはAndroid側が標準対応していないので、HiByMusicアプリ内の設定で選択でき、他のアプリでは使えません。

オーディオ設定

それぞれの設定項目

オーディオ設定画面は項目が多いです。これらはHiByMusic以外のアプリでも反映されます。

DSD再生のゲインの調整スライダーがあり、私はSACDの習慣に合わせて+3dBを選びました。これでPCMと比べてちょうどよいです。

D/AチップのローパスフィルターはESSなので「Minimum Phase・Fast Rolloff・Slow Rolloff」が選べます。出力ゲインのLOW・HIGHもここで切り替えます。

さらにTonalityという項目で、「Default・Reference・Warm・Tube Amp」から選べるのですが、これは音楽を聴きながら色々切り替えてみても音の違いがわかりませんでした。

これらの機能は今のところ画面上端のスワイプショートカットで手軽に切り替えられないのが残念です。

HiByMusicアプリ

アルバムブラウザ

アルバム選択

標準でインストールされているHiByMusicアプリは典型的なスマホ音楽プレイヤーアプリで、レスポンスも速く快適です。DXDやDSD256などもトラブル無しで聴けました。

タグラブラリーやフォルダブラウザー、トランスポート画面などもごく一般的なものです。ジャケット先読み、フリックスクロール、アルファベットジャンプなど、レスポンスが速く使いやすいです。

フォルダブラウザー

カテゴリー表示

メインのブラウザー画面で、カテゴリーを非表示にできるのはありがたいです。私はアルバムかフォルダー選曲しか使わないので、曲やアーティストなどのリストは非表示にしました。

絞り込み(たとえばアーティストやジャンルを選んでからアルバムが選ぶ)ができればなお便利なのですが、残念ながら不可能です。たとえばジャンルで「クラシック」と選ぶと、クラシックの曲が数千曲アルファベット順に全部並んでいるだけですので使い物になりません。あと、アルバムアーティストタグに対応していないことは残念です。

スマートプレイリストに対応してくれるのが最善だと思うのですが、どのメーカーもやってくれませんね。

HiByLink

検索

ライブラリー画面で横にスワイプすることでプレイリストやHiByLink(DLNAみたいなもの)、そしてキーボード検索が使えます。この検索画面に行ってしまうと、戻るには画面左上の小さな矢印を押さないといけないので面倒です。

設定画面

イコライザー

MSEB

MSEBの効き具合

HiByMusicアプリは設定項目やサウンド調整が豊富なので、いくつか画面を紹介します。私は全てOFFにして使いました。

イコライザーとは別に「MSEB」という機能があり、これはDSPで特定のキーワードをもとにサウンドを調整するという機能です。

たとえば全体の傾向を明るく・暗くとか、低音が速い・遅い、女性ボーカル、シビランス、空気感など、よくオーディオレビューで使われるような漠然とした言い回しでスライダー調整できます。スライダー調整範囲(効き具合)も選べるなど、しっかり作られていて、面白い試みだと思います。

アプリ内設定

日本語表示

HiByMusicアプリ内の設定項目はかなり豊富です。先程のMSEBは英語のみでしたが、設定画面は日本語に切り替えることも可能で、翻訳も意外としっかりしています。

アプリの挙動をカスタマイズするものが多いので、見ればだいたい想像がつきます。ちょっとした罠だったのは、ロックスクリーン設定(つまりAndroidロック画面で通知が出るか)をオフにしたら物理トランスポートボタンに反応しなくなった事です。

USB入出力

USB C端子はクイックチャージ3.0ということで、対応充電器を使ってみたところ、みるみるうちに充電されたので結構驚きました。1時間で70%だそうで、体感上もそれくらい速いです。

USB C

パソコンに接続すると充電モードになり、画面上でファイル転送・USB DACモードを選べます。

ファイル転送はAndroidなのでMTPモードなのが面倒ですが、カードに書き込んでみたところ、Samsung Evo+ 512GBやSandisk Extreme 256GBなどで35MB/s程度出せたので、そこそこ満足です。

高速カードリーダーなら80MB/s程度出せるカードですが、このDAPはトレイ式でカード着脱が面倒なので、入れっぱなしで気長に書き込むことにしました。


USB DACモードでMacに接続してみたところ、問題なく認識して音楽が聴けました。Audirvanaで上記の通りです。ちゃんと普通に動くのは当たり前ですが嬉しいです。Windows 10でもWASAPI標準ドライバーでJRiverからDSD128・DXDまで再生できました。

Hiby MusicアプリからUSB出力

Onkyo HF PlayerからUSB出力

nano iDSD BLでも問題ありません

USBトランスポートとして使ってみました。

iFi Audio Pro iDSDに接続してみたところ、R6 PROの画面上に外部DACが接続された旨が表示され、自動的にトランスポートモードになりました。

Hiby Musicアプリはもちろんのこと、ためしにインストールしたOnkyo HF Playerからでも問題なく外部DACで音楽が聴けました。先ほどDAP単体ではHF Playerでネイティブ再生できませんでしたが、トランスポートしてはネイティブで送れるようです。

とくに驚いたのは、上の写真のとおり、DSD256(11.2Mhz)もしっかり送れる事です。Audioquestの変換ケーブルを使いましたが、音飛びもありません。ここまでできるDAPは珍しいです。

PCM変換・DoP・Native

アプリ設定でUSB DACへのDSD出力をDoPかNativeで選べるのですが、iFi Audio Pro iDSDやmicro iDSDなどではどちらを選んでもDSD256を聴けました。

これまで他社のDAPで散々苦労させられてきたので、こんなに簡単に(しかも音飛び無しで)ネイティブDSD256が送れるのがむしろ不思議に思えます。

同軸S/PDIF

私が普段使っているPlenueやQuestyle DAPは光S/PDIF出力なのですが、R6 PROは同軸タイプです。

光ケーブルの方が電磁ノイズなどの干渉を受けないので安定性が高いですが、ハイレゾなど高速データ伝送では同軸のほうが有利です。

ライン出力端子の設定を切り替えることで同軸S/PDIFになります。このあたりも旧式Fiio DAPを連想させます。

S/PDIF

付属S/PDIFケーブル

カッコいいS/PDIF用ケーブルが同梱されていました。3.5mm側は四極TRRSで、ピンアサインは「NC・NC・DATA・GND」です。つまり設定を戻し忘れてアナログTRSケーブルを挿してもショートされてデジタルノイズが出ない仕組みです。

FiioもTRRSですがDATAとGNDが逆だったので、ケーブルや送り先の仕様にもよりますが、厳密な同軸としては互換性がありません。

同軸S/PDIFでDoP

同軸S/PDIFでiFi Audio Pro iDSDに接続してみたところ、PCMは192kHz、さらにDoPでDSD64(2.8MHz)まで送れました。もちろん送り先のDACがS/PDIFのDoPに対応している事が前提ですが、これは想定外で嬉しいです。(たとえばQuestyle CMAではS/PDIF DoPは認識しませんでした)。

Pro iDSDでPCM 192kHzとDSDを再生すると音飛びが頻繁に起こりました。micro iDSDでも一応音は鳴るものの、プチプチとノイズが出ます。

ケーブルが悪いようです

付属ケーブル(上)・正しい75Ω同軸ケーブル(下)

原因を調べてみたところ、R6 PROに付属しているS/PDIFケーブルが良くないです。代わりにちゃんとした75Ω用同軸S/PDIFケーブルを作ってみたところ、192kHzでも音飛び無しで音楽が聴けました。

上のオシロパターンはmicro iDSDに192kHzデータを送信している状態です。

オーディオメーカーによくある話ですが、付属品はS/PDIFケーブルとは名ばかりで、ただのアナログ用線材を使っています。44.1kHzデータならかろうじて誤魔化せていますが、192kHzになると波形の立ち上がりが鈍すぎて、反射も発生しており、これでは送り先によってはロックが不安定になり再生不可もしくはジッターが酷いです。

出力とか

いつもどおりヘッドホン出力の最大電圧を測ってみました。0dBFSの1kHzサイン波FLACファイルを再生しながら、音割れ(THD > 1%)が発生するまでボリュームを上げた状態です。

このDAPは3.5mmアンバランス・4.4mmバランス・3.5mmラインアウト端子があり、しかもそれぞれにハイ・ローゲイン設定があるので面倒です。できれば通常版R6と比べてみたかったですが、残念ながら手元にありません。

出力電圧

それぞれの出力電圧はこんな感じです。ローゲインモードはソフトウェアリミットのようなので、出力インピーダンスなどが悪化する事はありませんでした。

3.5mmで無負荷時の最大電圧が8.2Vpp (2.9Vrms)、4.4mmバランスではピッタリ二倍の16.5Vpp (5.8Vrms)出るので、DAPとしてはかなりパワフルです。

アナログラインアウトはちゃんとヘッドホン出力とは別回路で出力を抑えてあるのが良いです。これは以前Fiio X5などでも感心した機能です。単純にヘッドホン出力をライン用途に使うよりも、しっかり外部オーディオ機器との連携が考えられています。

ちなみにラインアウトもボリューム調整ができ、ハイ・ローゲイン切り替えができます。つまりDACプリとしても使えます。ボリューム最大で無負荷時ハイゲインが5.4Vpp (1.9Vrms)、ローゲインが3.8Vpp  (1.35Vrms)ですので、送り先のアンプを壊すことは無さそうで安心して使えます。

ボリュームを1Vppに合わせた状態

無負荷時にボリュームを1Vppに合わせて、負荷に対する出力の落ち込みを確認してみました。

横一直線で優秀なスペックです。バランス出力もアンバランスと同じく低い出力インピーダンスを維持できているのは素晴らしいです。他社のDAPだとどうしてもバランス接続は性能が悪くなるのが弱点でした。

ラインアウトは単純に出力抵抗を入れているわけではないのが意外です。

他のDAPと比較

他のDAPと、バランス出力での最大電圧を比較してみました(micro iDSDのみアンバランス)。

R6 PROは40Ω以上ではmicro iDSD BLのノーマルモードよりも電圧が高く、AK KANNに迫る勢いですから、ほとんどの大型ヘッドホンでも問題なく駆動できそうです。

実用上では、R6 PROはちょっと使いづらい面もあります。3.5mmアンバランスのローゲインモードでもかなりゲインが高いので、感度が高いIEMイヤホンとかではすぐに大音量になってしまいます。

バックグラウンドノイズはKANNほど高くないので音質には問題ありませんが、ボリューム調整ステップが大きいので、BA型IEMだと「ボリューム30だと静かすぎ、31だとうるさい」といったケースもあります。とくにIEMイヤホンを4.4mmバランスで使いたいならなおさらです。こういうのはファームウェアとかでもっとゲインが低いIEMモードとかを追加できるのでしょうか。

音質とか

R6 PROを買ってから色々なシナリオで100時間ほど聴いてみました。今のところサウンドにはかなり満足しています。

低価格DAPとは十分な差が感じられ、ハイエンドクラスと競えるサウンドだと思います。

Ultrasone Edition Eleven

サウンド設定はEQなど全てOFFで、フィルターはMinimum Phaseを使いました。ハイレゾ音源だとフィルターを変えてもたいして音は変わりません。

イヤホンは普段使い慣れているDita Dream、Unique Melody Mavis II、Final E5000などで、ヘッドホンはFostex TH610、Ultrasone Edition Elevenなど身近にあるやつを手当たり次第使ってみました。

Campfire Audio Andromedaなど超高感度イヤホンでも、バックグラウンドノイズは僅かなもので、気になりませんでした。他社と比べても十分良い方だと思います。

3.5mmで十分ゲインが高いので、よほど鳴らしにくいヘッドホンでないかぎり、4.4mm必須という事は無さそうです。ただしアンバランスとバランスでサウンドが若干変わります。

Dita Dreamは3.5mmと4.4mmプラグを交換できます

私は4.4mm対応アンプを買うのが今回初めてなので、あまり4.4mmバランスケーブルを持っていないのですが、Dita Dreamはケーブル端子部分だけ付け替えられるので、音の違いをテストするには最適でした。他にも前回聴いたオーディオテクニカ2000Tiシリーズは4.4mmケーブルが付属しているので、それでも聴き比べてみました。


ジャズのHighNoteレーベルからJeremy Pelt 「The Artist」を聴いてみました。

トランペットカルテットにゲストで数曲ヴィブラフォン、ギター、オルガンなどが入ってくるアルバムで、彫刻家ロダンをイメージした組曲だそうです。ペルトはゲスト参加だと普通に上手いのに、リーダーになると奇抜なコンセプト性を押し出しがちなのですが、今回はそのあたりが見事に融合できています。90年代ニュージャズ風味の爽快感に、美音のソロ展開が心地良いです。古臭くない生ジャズを聴きたい人にオススメします。


R6 PROのサウンドは、落ち着いていて、音の層が深く、派手に発散しないけれど中身の解像感が高い、といった感じです。

リーダーのトランペットはもちろんのこと、ドラムやヴィブラフォンなども前に飛び出さないので、第一印象は平凡に聴こえますが、じっくり聴いてみると奥の方まで見通しがよく、音色も細すぎずしっかり楽しめる、ポータブルDAPでは比較的珍しいサウンドだと思います。

倍音の厚い響きで包まれるようなDAPは多いのですが、そういうのは重なり合った楽器が互いに邪魔をしあい、見通しが悪く、奥行きが平面的になります。R6 PROはそうではなく、各パートが喧嘩せずに透明感のある柔らかい空間が展開している感じです。

通常版R6の方は手元に無いので、並べて聴き比べる事ができませんでしたが、以前アルミバージョンの方を借りて聴いたことがあります。その時の印象では、このPROほどの独特の個性は無く、そこそこ無難で堅実なDAPだな、という印象に留まりました。

R6は空間展開とかよりも、しっかりと一音一音をドライブしているという感じで、AK SR15やソニーZX300と比べても悪くない、でも自分のPlenue SやQP2Rがあれば使う機会は無いだろうな、なんて思った記憶があります。そんなR6と比べるとR6 PROはずいぶん変わりました。アナログアンプ回路が入れ替わった事でここまで印象が変わるということは、D/Aチップのグレードが何だとかだけで論議するのもおかしな話です。

R6 PROは3.5mmアンバランス出力の方がアタックが丸く、全体の統一感が良いです。4.4mmバランス出力を使うとベースもトランペットも輪郭がくっきりして力強くなります。ヘッドホンや楽曲との相性によってはバランス出力だとちょっと刺激的になるので、優劣というよりも使い分けが大事です。同じボリューム位置でもバランスの方が音量が大きいのと、ケーブルによる音質差なども考慮する必要があります。

とくに低音楽器の鳴り方はバランス出力の方がクッキリしており、バランスの恩恵が実感できます。一方アンバランスの緩く広がる低音も雰囲気が良いので捨てがたいです。どちらも作為的に感じない程度なのが良いです。

バランス出力の方がパフォーマンススペックとしては優れているのでしょうけれど、私は普段IEMとかを使うなら3.5mmの柔らかさでちょうど良いと思えました。今後ケーブルを買うときにどの端子を選ぶかでかなり悩みそうです。2.5mmバランス用ケーブルを買って、3.5mmと4.4mmに変換するという手もありますが、私の経験上、変換アダプターを通すと音が悪くなりがちなので、できるだけ避けたいです。


Harmonia Mundiから新譜でIsabelle Faustのバッハ「ヴァイオリン協奏曲集」を聴いてみました。

バッハのヴァイオリン協奏曲なんてあったっけと不思議に思っていたところ、有名なチェンバロ協奏曲のヴァイオリン版でした。後世の編曲かと思ったら、実は原曲はヴァイオリンやオーボエとかだったそうで、勉強になりました。ロマン派演目だとちょっと完璧主義すぎて近寄り難い感じもするファウストですが、こういったバロックのスリリングな作風ではまさに水を得た魚のようです。録音もいつものベルリンTeldex Studioなので文句無しに良いです。


R6 PROのポテンシャルにとくに関心したのは、Gradoなど派手な開放型ヘッドホンとの相性が非常に良い事です。これまで他のDAPでは、パワーは申し分ないのに、どうしてもGrado RSやGHシリーズがまともに鳴らせなくて困っていました。

Gradoは上質な据え置き型アンプだと極上の音色を奏でるのに、DAPだと音がドライバーから耳穴に飛び出してくるような、まるで拡声器のような聴きづらさがあります。アンプに左右されやすいヘッドホンなので、「なんでこんなヘッドホンが人気があるんだ」と不思議に思っている人も多いかもしれません。

たとえば私が持っているQuestyle QP2R DAPはベイヤーやオーテクなどのヘッドホンではR6 PROと交互に聴き比べても優劣に大差ありません。一方Gradoだと、QP2Rは相性が悪いようで全然ダメです。そんなはずはないと何度も挑戦してみても、毎回やっぱりダメだと落胆します。

R6 PROはとくに高音の鳴らし方が上手です。アタックが鋭利に尖っているのではなく、ギリギリのところで上品にスッと引く感じなので、とくに開放型ヘッドホンで聴くヴァイオリン協奏曲は素晴らしいです。わざとロールオフしているとか、余計な響きで厚みを付けている風ではないので、良い意味で、主張を抑えて、ミックス内での収まりが良いです。バランス出力を使うと出音がもっとハッキリしますが、尖らないのは同様です。

ソリストとオケが同じ空気の中にいて一体感があるので、空間展開が自然で、しかも余計な響きが間延びせず、見通しが良いです。もっと簡単に言えば、ヘッドホンで聴いていても左右の耳周りで響きがザワザワするような違和感が無いので、不快感・疲労感が少ないです。

ロマン派と比べてバロックは「良い音」で鳴らすのが難しいジャンルだと思います。とくに響きが複雑で少々荒っぽいピリオド楽器は、録音が良好でも、細くて退屈か、攻撃的でうるさくなりがちですが、R6 PROは両方の問題に上手に対処してくれます。


今回のHarmonia Mundi録音も良いですが、クラシックでは、たとえばアナログ時代のEMIなどソリストがミックスで前に出すぎて飽和気味な録音とか、鋭く情報過多で息をつく暇もないデジタルハイレゾ録音でも、R6 PROが上品に空間を演出してくれるので、かなり聴きやすくなります。不快感無しで没頭できるので、ボーッと音楽に引き込まれてしまうような楽しさがあります。

ちょうど今月はCHANDOSでTasmin Littleの演奏作品がセールになっていたので、普段買わないディーリアスのヴァイオリン協奏曲を買ってみたところ、R6 PROとGrado GH-1でまさに夢見心地の体験ができました。上品で繊細なタッチで、塗りつぶさないところが、ディーリアスの芳醇で絵画的な作風と抜群に相性が良いです。

さらにクラシックでは、DSDと96kHz PCMなどを聴き比べてみても、いわゆるDSD臭さみたいな一貫したメリハリの弱さ、フワフワした感じが無く、フォーマットを意識させない印象です。もしかするとESS DACの特徴でしょうか。

私にとって、このR6 PROのサウンドは、なんとなくCDやSACD世代のマランツの上位クラスに似ていると思いました。CD-12・CD-7・SA-14・SA-10、色々ありましたが、一貫して流れるマランツらしさがありました。そこそこのところまできっちりと振る舞い、最後のタッチに独自の丸さと柔らかさが演出されている感じを、R6 PROを聴いていて思い出しました。

R6 PROと開放型ヘッドホンの相性が良いのは、Gradoのみでなく、HD800やHIFIMAN HE1000などでも同様でした。楽曲によってはちょっと使いづらいと思うイヤホン・ヘッドホンを持っているなら、R6 PROで鳴らしてみると良い結果が得られると思います。


フランスの「Jazz & People」レーベルから新譜のPlume 「Escaping the Dark Side」を聴いてみました。名前を聞いたことが無いアーティストですが、バンドが良さそうだったのでKissKissBankBankというクラウドファンディングサイトで先行購入してみました。

アルトサックスがリーダーのカルテットで、曲風も演奏も期待以上に良いです。延々とピロピロ吹く曲芸アルトではなく、コルトレーンのバラードみたいなメロディアスで落ち着いた曲が多いです。安定したテクニックでフレージングの味わいに集中しており、リズムセクションも張り切っていて、演奏が上手くて退屈しません。サウンドもECMみたいに豊かな臨場感があります。


このアルバムはバンド構成がシンプルで、プロダクションが素直なので、DAPを聴き比べる試聴盤として最適でした。

R6 PROを基準点として高級DAPを色々と聴いてみて、唯一明確に差を感じたのはAK SP1000でした。高価なので私は持っていませんが、いつ聴いても好きなDAPです。それ以外はR6 PROと比べてもアップグレード感みたいなものは感じられず、どんぐりの背比べ状態です。

AK SP1000はレファレンスプレイヤーとしてやはり凄いです。空間の奥行きが広いだけでなく安定しており、コンサートホールを的確に表現できています。音色はR6 PROと比べてかなり硬めでドライなので、テープの掠れやマイクの歪みなど、下手な録音では誤魔化しが効かないのがレファレンス的です。その点R6 PROはずいぶん柔らかくフワッとしていますが、そのおかげで聴きやすく角が立たない部分もあると思います。IEMなど特定の組み合わせで他を寄せ付けない凄い性能を発揮するのがSP1000なら、R6 PROは高出力であることも含めて、ヘッドホンなど多目的にそこそこ鳴らしてくれるのが魅力だと思います。

私が昨年気に入って買ったQuestyle QP2Rは、R6 PROとは根本的に方向性が違い、フレッシュ、鮮やかで、楽器の音色を美しく鳴らしてくれる点に特化しています。歌手でもピアノでもギターソロでも、メインに置かれたサウンドにスポットライトが当てられ、響きがキラキラと美しいです。R6 PROはソロをあえて主張せず、アンサンブル全体のバランスをとって、演奏に引き込む感じです。歌手だけを聴きたいとかならQP2Rの方が退屈しません。

私が長らく愛用しているCowon Plenue SはR6 PROと近い部分があると思います。どちらも音が丸く高音と低音が落ち着いています。柔らかく奥行き重視のR6 PROと比べて、Plenue Sの方が音に芯があり、ロックやジャズの泥臭さが出やすいので、私のイメージではクレルやレビンソンみたいなガッチリしたアメリカンっぽさを感じます。Plenue Sを長らく聴いていて、44.1kHzは良いけれどDSDとかの鳴り方があまりパッとしないと思っていたので、その点R6 PROは優秀です。CD音源をメインで聴くならPlenue Sが未だに私のベストです。

Plenue 2 MK IIになるとシャープで刺激的、モニターっぽい解像感の高さは優れていますが、ゆったり漠然と聴くタイプではなくなりました。私はそこそこ気に入ってましたが値段が高いので買いませんでした。Plenue Lは身近に誰も持ってなくて、いまだにじっくり試聴できていません。

Fiioはこの価格帯だとX7 Mark IIがありますが、なんとなくデジタルっぽいというか、軽くて位相が落ち着いていないソワソワした感じがあまり好みではありませんでした。付属アンプモジュールのせいもあります。発売当初はAM2という別売モジュールが好きでしたが、最近はモジュールの種類が増えているので改めて見直したいです。近々M11という新型DAPが登場して、これがX5-IIIの後継機になり、Xシリーズは廃止するという発表がありました。今のところMシリーズのOSは不満点が多いので、今後X7相当の後継機が出るのを待つことにします。

ソニーWM1Aはソニーらしい艷やかな音色は良いのですが、R6 PROの汎用性と比べると、もうちょっとパワーが欲しいです。どうしても個人的に好きなPHA-2AやPHA-3と比べてしまいます。DMP-Z1の開発記事で、S-MASTERの限界みたいな事を言っていたので、次世代機がどうなるのか気になります。それまでは初代ハイレゾウォークマンNW-ZX1の遺産を引きずっている感じがして乗り気になれません。

2019年4月現在のDAPを見ると、X7やWM1Aなど、ある時期に一斉に現行DAPが出揃ったので、そろそろ完全新設計の次世代モデルを期待したい頃合いです。その点では、R6 PROは既存の高級DAPを参考にして、後出しのメリットを最大限に活かせたように思えます。

おわりに

新作DAPを試す機会は多いのですが、紙面スペックでは良さそうでも現物はバグが多かったり、音のクセが強すぎたりと、なかなか購入には踏み切れません。それに対して今回R6 PROは期待以上の仕上がりに満足しています。クラウドファンディングで始まっただけあって、死角が無く、総合点が高いです。

サウンドはレファレンス的ではないものの、高解像と聴きやすさを両立して上手に作られていますし、大型ヘッドホンも駆動できる高出力、快適なインターフェース、そしてS/PDIFやUSBトランスポートなど、普段私がよく使う機能が完璧に動作してくれることに驚きました。「言うは易し」で、実際こういうDAPは意外と少ないです。

4.4mmバランス出力も積極的に使いたいと思えました。唯一欠点だと思えたのはゲインが高すぎてIEMでは持て余すという事のみです。R6からR6 PROになり出力アップしたのが裏目に出たとも言えます。あえてR6を選ぶメリットもあるかもしれません。

R6 PROの10万円という値段に対する価値観は人それぞれですが、私としては、他社と比べてお買い得感がありました。音質や出力はもちろんのこと、操作性や画面サイズなどに制限を感じさせないDAPとしては納得できる価格です。ステンレスボディを私は気に入っていますが、PROが欲しいけど285gの重さは耐えられないという人のためにアルミオプションもあれば良かったと思います。

近頃のDAP市場を見ると、AK、ソニー、Plenueなどベテランメーカーの高級機は、どれもAndroidっぽさを前面に出さないシンプルな独自インターフェースで、あくまでFLACファイル再生の音質と快適さを追求しています。ポータブルでの音質を追求するために、あえて過度な高出力は狙わないメーカーも多いです。各社の最高級機はそれぞれ凄い高音質で、どれを使っても不満がありません。

その一方で、Androidアプリインストールの多機能性を売りにしているマイナーブランド高級DAP勢は、値段のわりに完成度の低さやサウンドのクセの強さなどで不満がありました。小さな会社ほどデザイナーの感性が強く出るので、好みの問題です。

DAP市場で現在一番活気があるのが低価格タッチスクリーンモデルですが、各社とも、どれだけ多くの機能スペックを、どれだけ安く提供できるかという点に集中しており、買う側もそろそろ底値の限界が見えてきました。

ようするにカタログスペックが優秀に見えても、ある程度の値段以下になると、サウンドが貧弱になり、操作性も不安定で鈍いです。「まあ安いから仕方がないよね」と自分に言い聞かせるしかありません。最近の低価格DAPブームでわかったことは、どれだけ高級チップやパーツを搭載していても、それが性能や音質に直結しているとは限らない、ということです。やはり回路定数や電源管理など、見えないところでの設計技術が重要になってくるようです。その点R6・R6 PROはしっかり作り込んだ痕跡が伺えます。


実は今回、R6 PROを買おうと思った理由がもう一つありました。事前にネットレビューを観覧していたところ、Head-Fi掲示板のHiby R6メインスレッドで公式サポートを行っている人が、昔はFiio DAPの公式スレでサポートをやっていた人でした。ユーザーの質問に答えたり、ファームウェアパッチを提供したりなど、かなり精力的に投稿しており、私も初期Fiioを使っていた頃に何度も助けられました。2016年にFiioからHibyに移ったそうです。これを見て、なんだか昔X3やX5を使っていた時期を思い出して、購入したい気分になってしまいました。

奇しくも、私が最近買ったDAPは、Questyle QP2RとHiby R6 PROで、どちらもHibyが関わっている発生系モデルと言えます。QP2Rは明らかに初代Fiio X5のアイデアを進化させたものですし、R6 PROはAndroid系Fiioに満足できなかった私にとっての助け舟です。意識して選んだわけではないのですが、自分が買いたいと思ったものが結果的にこうなりました。

そろそろAndroid DAPを使ってみたいと思っていたところで、R6 PROでようやくAndroid DAPは本来こうあるべきと思える商品に巡り会えたのは嬉しいです。

いまだにCowon Plenue SとQP2Rも使っており、今後自分にとってどれがメインDAPになるかはわかりませんが、半年ほど使ってみれば自然と結果がわかると思います。ともかく今のところR6 PROは「買って失敗した」と思わせない優れたDAPです。