2020年7月22日水曜日

Campfire Audio Ara & Andromeda 2020 イヤホンの試聴レビュー

Campfire Audioからの新作イヤホン「Ara」と、傑作ロングセラー「Andromeda」の2020年アップデート版を聴いてみました。

AraとAndromeda 2020

どちらもCampfire Audio定番のメカメカしい削り出しデザインで、「Ara」の方はチタンハウジングに7BA構成で発売価格は約17万円、Andromedaは従来どおりアルミハウジングに5BAで約14万円です。

とくにAndromedaは個人的に2016年発売当初から愛用してきたイヤホンなので、最新版になってどれくらい音が変わったのか気になります。


Campfire Audio

AndromedaはCampfire Audioの中でも屈指の人気作だけあって、2016年に発売して以来、かなり多くの発生モデルが登場しています。(それぞれ外観だけでも見分けがつくので、中古品などを探す場合は混乱することは無いと思います)。

Andromeda 2020

私自身もAndromedaとの付き合いが長く、2016年の発売当日にサウンドに惚れ込んで購入して以来、ずっと同じものを使い続けています。当時は想定外の大ヒット商品になり、買い逃した人は何ヶ月も入荷待ちが続いた事が懐かしいです。

Campfire Audioは2015年発足の比較的新しいメーカーですが、まずデビュー作として1BAのOrion、4BAのJupiterなどを発売した後、ユーザーフィードバックをもとに5BAのフラッグシップ機として投入したのがAndromedaでした。サウンドは決して万能なレファレンスモデルとは言えないものの、独特の美しい音色が好評を得ています。

以降、国際的なメーカーとして急成長して、従来のような少量バッチ生産から量産体制に移行する過程でさまざまなマイナーチェンジが行われ、2018年には若干の形状変更、傷がつきにくい表面処理、付属ケースやケーブルなども初代から変わっており、さらにPacific Blue、Snow Whiteといった限定カラーバリエーションも登場しています。

ここまでのAndromedaはサウンド自体は同じものだったのですが(マニアに言わせれば微妙に違うと言われますが、意図的には変えていないという意味です)、2018年にはハウジングをアルミからステンレスに変えたAndromeda S、7BA搭載のAndromeda Special Edition Gold、5BAでセラミックアコースティックチャンバー採用のAndromeda MW10といった、サウンド設計を変えた限定モデルも登場しました。

今になって振り返ってみると、これら限定モデルは今後の製品開発における試作機のような目的があったように思えます。

今回発売したAndromeda 2020年版では、限定モデルAndromeda MW10で導入されたアコースティックチャンバーが通常モデルとして正式に作用され、一方Araの方はAndromeda Special Edition Goldから7BAドライバーを受け継ぎ、さらにハウジング素材はアルミから離れ、Andromeda Sでステンレスを使った経験を経て、チタンを選んでいます。

ようするに、Andromeda 2020とAraはどちらも初代Andromedaをベースに、限定版を経て、別方向へと発展させた兄弟機と言えると思います。

余談になりますが、Andromedaは人気モデルだけあって、遠目の写真では見分けがつかないような偽造コピー品も市場に出回っています。じっくり見比べれば削り出しの質感やネジの形状などで判別できるのですが、知らずに買った人は数多くいると思います。イヤホンの模造品というのはシュアーやゼンハイザーなどでも沢山見かけますが、一応音は出るので、使っていて気が付かない人が多いのが困ります。

ちなみにCampfire Audioのイヤホンは、パッケージや収納ケースが手作り感あふれるゴージャスなものが付属しているので、これらも含めてソックリに模造する事は困難なようで、私が見たコピー品は付属品無しばかりでした。とくにネットオークションやマーケットプレイスなどで、ボックス無しの中古品などと言って格安で売っているものは注意した方が良いです。信頼の置ける店舗で買うのが一番安心ですね。

Andromeda 2020

今回はせっかくなので、私物のAndromeda 2016年版(最初期型)と、借り物の2019年版、そして最新の2020年版を同時に並べて比較することにしました。

2020、2019、2016

まず本体のデザインを比べてみると、どれも緑色のアルミ削り出しハウジングで、色合いや形状はほぼ一緒です。写真左の2020年版のみ若干エッジが丸みを帯びて、柔らかい印象になっています。

写真中央のモデルは傷がつきにくいコーティング仕様なのですが、写真右の2016年版と比べても、やはり使っていれば傷が目立ってきますね。

2020、2019、2016

2020、2019、2016

別の角度から見ると各モデルの違いがわかりやすいです。まず2016年版は削り出し加工の縦線がはっきり見えますし、MMCXコネクターの形状も違います。さらに決定的な違いはイヤピースをはめるノズル部分です。2016年のみアルミで丸穴、2019年はステンレスで丸穴、2020年版はステンレスでスリットになっています。

付属ケーブル

ケーブルはどれも「Campfire Audio Litz Cable」という名前の銀メッキ銅ケーブルなのですが、2016年版のみ外皮が透明の編み込みタイプで、それ以降はスモーク色のツイストタイプになっています。スモークになってから耳掛け部分が細く柔軟になったので装着感は良くなっています。

ちなみに2020年版はAndromeda MW10で起用された内部チャンバー部品を参考にしていると書きましたが、MW10の方は限定モデルということでケーブルの線材が太い「Super Litz Cable」という上級品が付属していました。そのあたりもサウンドに影響を与えると思います。


2020年版について、内部CG図などが無いので詳細は不明ですが(さすがに借り物を分解するのは気が引けるので・・)、内部構造が根本的に変わったらしいです。

BAドライバーが低・中・高それぞれ2・1・2の5BA構成であることは変わりないのですが、従来のモデルでは、各ドライバーをアルミハウジング内に詰め込んでから配線して接着剤で固めるような製法だったところ、2020年版では3Dプリントされたチャンバー部品にドライバーや配線を事前に組み込んでおき、それを最後にアルミハウジングに落とし込むという構造になっています。

この内部構造のおかげで、削り出しでは不可能な複雑な三次元立体形状が実現でき、各ドライバーの音響チャンバーを自由に設計することが可能になったようです。アルミハウジングによるランダムな音響効果を抑え、ドライバーの組み付け誤差などの心配も無くなり、しかも組み付け工程が容易になる、といった多くのメリットがあります。

さらに高音用の2BAはTAECと呼ばれる専用のノズル部品にペアで事前に組み付けておくことで、音の濁りを最小限に抑えてイヤピースまで導くという仕組みになっています。他社の一般的なマルチBA型イヤホンを見ると、BAドライバーから長いゴムチューブを経て音が出ていて、とくに高音側ではこれが余計なクセをもたらすのですが、Campfire AudioはTAECを使うことで回避しています。

これら内部チャンバー技術は初代Andromeda登場以降のPolarisなどのモデルで導入された技術なので、数々の実績を経てようやくAndromedaに搭載されるレベルに熟成されたという事でしょう。やはり最大のメリットは、音作りに関する内部構造と、店頭や写真で見栄えする外観デザインを完全に切り離して設計できるという事です。

Ara

新作Araの方は、低・中・高それぞれ4・1・2の7BA構成です。つまりAndromedaに対して低音ドライバーが倍増しています。

AndromedaとAraのどちらが高音質か、というよりも、単純にBAドライバーが二つ増えた事、さらにハウジングがアルミからチタンになった事を踏まえての価格差だと思います。

Ara

無骨でカッコいいです

ハウジングはチタンを意識した重厚なガンメタル調で、ネジやノズルも黒いのがカッコいいです。塗装をあえて薄手に仕上げる事でエッジの光沢のコントラストを浮き上がらせています。使っているうちに摩耗してエージングされる事を考慮したデザインのようです。

Andromeda 2020・Ara

Andromedaと並べてみると、ケーブルは同じLitz Wireで、ハウジング形状もほぼ同じです。

ノズル部分のみ、Araは黒くコーティングされたステンレスで、Andromedaよりも若干長くなっています。音響チューニングのためか、それともチタンで重くなったのでイヤピースのホールド感を増すためなのかは不明です。

チタン製なので重量はそこそこ重いですが、装着時に自重で脱落してしまうという事はありませんでした。

Andromeda 2020年版と同様に、Araも内部チャンバーを導入しており、複雑な音響設計のおかげで、低音ドライバー数が倍増しても単純に低音の量を盛っただけではない上質なサウンドに仕上げているそうです。高音の2BAにはTAECモジュールを採用しています。

公式サイトでAraの紹介を見ると、クロスオーバーレスであることをメリットとして挙げています。確かに、無闇にBAドライバーの数を増やしても、周波数特性を平坦にするためにクロスオーバー回路を通すと音がベタッとなりがちですが、逆にクロスオーバー無しだとドライバー同士が喧嘩して暴れる傾向に行きがちです。Araにおいてはドライバー特性の選定や音響チャンバーの設計などでクロスオーバー回路無しで優れた帯域特性を実現できたそうです。

インピーダンスとか

Andromedaといえば、極端にインピーダンスが低く、しかも感度が高いため、下手なDAPやアンプでは出力インピーダンスの影響を受けやすく、ノイズフロアも気になるという、つまり音量という意味では「鳴らしやすい」けれど、音質という意味では「鳴らしにくい」イヤホンでした。

逆に言うと、アンプなどのアップグレードによる音質差がわかりやすいモデルでもあるので、これを期に機器アップグレードの沼にハマってしまう人も多いと思います。

ちなみに公式カタログスペックによると、Andromeda 2020年版が12.8ΩでAraが8.5Ωだそうです。



インピーダンスを測ってみたところ、いくつかの事がわかります。まずAndromedaに関しては、これまでのモデルと比べて2020年版はけっこう大きな変化が見られます。

2016年と2019年モデルでも若干の差は見られますが、低音や高音でグラフがぴったり一致している事から、少なくともドライバーに関しては同じで、中域のすり合わせに微妙な違いがあるといった程度でした。それらと比べて2020年版では全体的にインピーダンスが高くなり、各ドライバー間のピーク位置は同じでも、特に8kHzのあたりの変動は随分違います。

なんにせよ、可聴帯域内で5~32Ωと、かなりアップダウンが激しいため、正確に鳴らすのが難しいイヤホンであることには変わりありません。

Araの方を見ると、Andromedaと比べて低音側BAドライバーが二倍に増えたことでインピーダンスが約半分に下がり、高音側はBAドライバーの数が同じなのでインピーダンスがほぼ同じという点はわかりやすいですが、その間の組み合わせは随分印象が違います。中域ドライバー自体が違うのか、逆配線にしているのか、Andromedaで見られた急激なアップダウンが無く、電気的な位相も安定しています。

もちろんこれだけ見ても、どちらが音が良いかはわかりませんが、Araの方が中域特性においてはアンプが翻弄されないのは良い事です。しかし最低インピーダンスは3Ωを切っているので、駆動がかなり厳しいですね。

どちらにせよ、このクラスのイヤホンを買うような人なら、それなりに優秀なDAPなどを持っているだろうと思います。


ところで、音量と能率についてですが、米公式サイトを見ると、感度スペックがAndromedaは94dB/7.01mVrms、Araは94dB/7.094mVrmsという不思議な単位になっています。94dBSPLを出すのに必要な電圧という事になりますが、単位を見ずに数字だけで漠然と比べていると混乱すると思います。

聴感上、Andromedaは新旧ほぼ同じ音量で、Araも大差ありません。Andromedaの方が若干うるさいかな、という程度です。(同じボリューム位置でも大丈夫な感じです)。

一応カタログスペックは1kHzでと書いてありますが、もし4Ωと仮定して計算すれば約94dB/7mV→137dB/V→113dB/mWで、以前のAndromedaの公式スペック(112.8dB/mW)にピッタリ合います。

どちらにせよ些細な話ですし、そもそもインピーダンスのアップダウンがここまで激しいイヤホンでdB/mW表記を使っていた事自体がおかしいので(業界全体の問題です)、新たな94dB/ ? mVrmsという表記に変えたのはむしろ良いことなのかもしれません。(ヘッドホンアンプは定電圧駆動なので、一定の電力ではなく、一定の電圧での音量が知りたいです)。

音質とか

近頃こういったイヤホンの試聴では、使い慣れたHiby R6PRO DAPをほぼ毎回使っていたのですが、残念ながら故障して修理に出してしまったので、代わりにAK SP2000を借りて使いました。

SP2000の緑ケースとAndromedaの緑が、そしてステンレスハウジングとAraのガンメタル塗装がそれぞれマッチしてカッコいいです。

AK SP2000

装着感に関しては、角張った削り出しハウジングは、一般的なプラスチックシェルIEMイヤホンのように耳穴へピッタリ埋め込むという感じではありません。

とくにAndromedaの方はダクトが短いので、普段よりも大きめなシリコンイヤピースを使って、ケーブルの耳掛けとイヤピースの二点支持で釣っているような感覚になります。ケーブルとイヤピースの位置や角度は優秀に設計されているので、上手く装着できないとか、ポロッと外れてしまうというような事は無いと思います。見た目と比べて意外と装着感が良いという事が人気の秘訣かもしれません。

ソニーやSpinFitなど内径が狭いタイプのイヤピースだと出音孔の一部が隠れてしまうため、個人的にはJVCやAzlaなど内径が広いタイプを使っています。


ECMから新譜で、Marcin Wasilewski Trio with Joe Lovano 「Arctic Riff」を聴いてみました。どちらもリーダー格のアーティストで、ジャンル的に変な組み合わせだな、と思ったのですが、意外と上手くいっています。

いつものボシレフスキらしいディープなピアノトリオの情景の中をロヴァーノがテナーサックスを颯爽と吹きまくる感じです。緻密に練り込んだアンサンブルという風ではありませんが、適当なリズムセクションとは違って積極的に食い込んでくるので、ロヴァーノの一人カラオケになっていないのが良いです。とくにスローバラードの4、11曲が心地よいです。


まずAndromeda 2020年版の方から試聴してみたところ、サウンドは確かにAndromedaだなと思える一方で、旧バージョンと比べると大きな変化が感じられました。

2016~2019年モデルの中でも些細な違いであれこれと議論されていましたが、2020年版の変わりようと比べれば、それ以前のAndromedaは全て同じ音だと総括していいと思います。


どのAndromedaにも共通する魅力というのは、マルチドライバーが絶妙にブレンドされた、軽快でまとまりのある情景です。

周波数特性は狭めの中高域寄りで、線が細く、とくに低音が控えめでインパクトが弱い点がよく指摘されます。しかし、あえて広帯域っぽく演出しないことで、音楽全体の雰囲気や臨場感に統一感が生まれて、不自然な凹凸に翻弄されずに全体を見据えて楽しむことができます。

広帯域でも帯域同士の繋がりが悪いイヤホンだと、前後の距離感やスケール感がバラバラになってしまいます。個々のサウンドを聴き分けることに集中しすぎて、音楽全体を聴きづらいイヤホンは結構多いです。

その点Andromedaは重苦しくならない程度に緩くフワッと包み込むように仕上げた上で、さらにピアノやサックスなど中域の楽器音が輝かしく響いてくれる、という二点を両立できていることが、マルチBAとしては珍しく、発売から四年経った今でも唯一無二の存在だと思います。

そんなAndromedaらしい特徴は新型2020年版になっても変わっていませんが、新型では余計な響きが暴れないように丁寧に管理されているように感じます。これは多分、新たに導入された内部音響チャンバーによって、アルミハウジングに直接ぶつかる乱反射が回避されためでしょう。音響に明確な節度があり、マイルドで扱いやすいように仕上がっています。

サックスの音色なんかを聴くと、旧型はまず出音が鋭く金属的で、そこからの響きが奔放に発散され、霧のようなヴェールを生み出します。一方新型では、出音が丸くなり、響きもだいたいこれくらいというルールに沿って、それ以上余計に長引いたり、空間に膨らみません。

アタックの金属っぽさが低減したことで、全体の重心が若干低くなり、落ち着いた印象になりました。Andromeda S(ステンレス)のように中低音が太くなったというわけではなく、単純に高域がおとなしめになっただけです。

響きに関しては、Andromeda MWは聴いたことがないので比較できませんが、私の知っている範囲ではPolaris 2にも近いような印象を受けました。Polaris 2からダイナミックドライバーの低音を取り除けば、なんとなく雰囲気が似ています。

旧型Andromedaの乱雑な不確定要素が減り、おとなしく安定志向になったように感じるので、旧型のオーナーが新型を聴くと、なんだか予定調和で丁寧すぎるような気がしますし、逆に新型に慣れてから旧型を聴くと、過剰すぎる響きの密度に翻弄されてしまいます。旧型にはユニークな魅力がありましたが、サウンドの完成度としては新型の方が優秀だと感じます。

Ara

次にAraを聴いてみました。Andromedaとはかなり性格が違うようで、好みが別れそうです。単なる周波数バランスの違いではなく、表現の魅力が根本的に異なります。

Araは設計コンセプトがそのまま音の特徴として現れています。まず低音用4BAが効いているようで、空間展開において低音域が占める割合が大きく、豊かな広がりを見せてくれますし、高音の質感もチタンハウジングのせいか一味違う独特の個性があります。

試聴に使ったジャズアルバムでは、Andromedaで聴いていて気に留めなかったような、録音に隠された細かなディテールが、Araでは浮き彫りになっています。Andromedaが遠くの観客席からの視点であれば、Araはマイクを通して観察する虫眼鏡的な性格だと思います。

中高域の表現は、チタンハウジングというと、なんとなくキンキンするような先入観があったのですが、AraはむしろAndromedaよりも低めの帯域が厚くツルッとした質感で鳴るので、尖りや粗っぽさは全然目立ちません。

Andromedaはアタック部分にキラッとした表現を与えて、そこからはフワッと奥へ広がるように仕上げていたのですが、Araはもっと堂々と前に迫り出して、レガートを補強するような、なめらかな厚みが加えられています。メロディ楽器付近のみを補強して、全体の雰囲気を重苦しく感じさせないのが良いです。

低音の重さや音圧はBAドライバーの範疇に留まっているので、Polaris 2などハイブリッド型や、Atlasのようなダイナミック型みたいなズシンと体感できる迫力はAraでは出せません。Andromedaと同じくらいの量で、楽器音が前に迫って、縦に引き伸ばされ、残響が後ろに広がるような感じです。

ベース奏者に注目すると、Araの魅力が一番わかりやすいです。Andromedaではバックグラウンドと同化したようなシンプルなベース音だったものが、Araでは主役として間近に迫り、臨場感と奥行きたっぷりのスケールの大きな演出になり、弦や胴体など個々の成分の見通しが良くなります。

さらに中高域側では、ベースソロの時に奏者がフレーズを口ずさんでいるのですが、それがAraだとかなり目立ちます。まさに虫眼鏡のように、音楽に埋もれず浮かび上がってきます。

イメージとしては、スピーカー本体の上にツイーターが乗っているような(たとえばB&W 800シリーズのような)感覚で、低音を主体とした音響の上に高音が乗って、それぞれ独立したスペースが与えられているようです。イヤホンの出音孔は同じなのに、目を閉じれば、明確に顎から眉間くらいまでが低音で、眉間から頭上までが高音、みたいに分かれて聴こえるので、とても不思議です。心理的なものだと思うので、個人差はあると思います。

AndromedaだとECMっぽいフワッとした雰囲気は出せても、個々の楽器演奏を主張するまでにいかず、物足りなさを感じるのですが、Araで聴くことで、これまで聴こえなかった音まで前に引っ張り出して、広く拡大して描いてくれるため、常に新たな発見があり、大変聴き応えがあります。


Sorel Classicsレーベルから、Triin Ruubelによるエルガーとステーンハンマルのヴァイオリン協奏曲を聴きました。どちらも美しい後期ロマン派作品なので、小難しくなく綺麗なヴァイオリン演奏が楽しめます。

オケはエストニア国立で、ソリストのRuubelはここのコンマス、そして監督のヤルヴィ(父の方)が指揮しているので、気心の知れた良い雰囲気が出ています。


こういったコンサートホール生収録の作品だと、とくにAndromeda 2020年版の素晴らしさが際立ちます。逆にAraの方はどちらかというと先程のジャズのようなスタジオ録音の方が相性が良いようです。

Araがなぜこの手の作品と相性が悪いのかという話ですが、簡単に言うと、高音と低音でイヤホンの鳴り方が大きく異るため、コンサートホール全体の雰囲気の整合性が無くなり、帯域ごとに異なるマイク越しに聴いているように感じてしまうからです。

抽象的なイメージとしては、Araはまるで望遠レンズのようで、せっかく海外旅行に行ったのに、道端の花壇とか犬猫のカッコいいスナップ写真ばかりで、広角の風景写真が撮れなかったので、結局どこに行ったのかよくわからない、みたいなもどかしさがあります。

オーケストラ作品といっても、たとえば映画サントラみたいに各パートごとにスポットマイクを沢山置いて、後で何十チャンネルもミックスダウンするような作風だったら、そもそも全体の空気の統一感は無いに等しいので、Araでも楽しめるのですが、今作のように、少ない本数のマイクでホール音響全体を取り込むような作風では、Araの問題が浮かび上がります。

まずAra独特のツルッとした質感や、間近に迫る鳴り方は、ジャズのサックスやピアノだと色っぽくていい感じだったのですが、クラシックのヴァイオリンだと、まるでマイク越しに真空管コンプレッサーで色艶をブーストされてしまったような、変な違和感があります。写真加工で人肌をスムーズに塗りつぶしたみたいなイメージが思い浮かびます。

儚さとかザラザラした苦味みたいなものがAndromedaほど上手く出せず、演奏家の表現の幅が狭くなってしまいます。

低音側もオーケストラとの相性が悪いです。先程のジャズアルバムのように、スタジオセッションで、コントラバスにマイクを置いて、それを主体として周囲の音響拾っているならAraの方が良いのですが、このオーケストラアルバムの場合は、遠く離れた位置に、コントラバスを含む多数の低音管弦楽器が、コンサートホール音響と別け隔てなく存在しています。Araではそれらが過剰に響いてしまい、いわゆる風呂場のカラオケみたいな、前後左右に膨らみ響きまくる低音になってしまいます。

Araは打ち込み音源やオンマイクで録ったドライな輪郭の低音楽器を前提に、本来以上にスケールを大きく立体的に描く効果を狙っているので、クラシック生録のように自然な音響をパッケージ化していて、それを極力自然に鳴らしたい状況との相性が悪いようです。

とくにオーケストラの低音に関しては、ダイナミック型のように瞬時の音圧を出せるのが理想ですが、それが無理ならAndromedaのように控えめにした方が全体のバランスが整うので親しみやすいです。Andromedaはそのあたりの塩梅が絶妙に良いので、「確かに実際のコンサートホールでもこれくらいの距離感と響きだよな」という妙な説得力があります。

値段も近い二機種ですが、どちらが優秀だというわけではなく、やはり適材適所だなとつくづく実感しました。

おわりに

 Campfire Audioの2020年新作を試聴してみたところ、どちらもサウンドが進化している事がしっかり感じられました。(ちなみにSolaris 2020というのも出たのですが、そちらは試聴機が無かったのでまだ未聴です)。

AraとAndromeda 2020年版は初代Andromedaから枝分かれした二つの兄弟機として、それぞれ性格や得意なジャンルが両極端に分かれたように思います。

エネルギーと迫力のAraと、一歩引いた臨場感のAndromedaといった感じで、個人的にはクラシックなどを聴くのでAndromedaの方が好みですが、Araの方が断然良いと思う人も大勢いるだろうと想像します。

私自身は今のところ初代Andromedaのままでも満足できていますが、2020年版のメリットも十分体感できたので、時期的にも初期型オーナーは買い換えを視野に入れても良さそうです。

Campfire Audioのイヤホンというのは、非の打ち所がない万能レファレンスという感じではなく、むしろモデルごとの特徴的な音作りを楽しむイヤホンです。そもそも極力フラットに解像するサウンドを求めている人には向いていないと思いますし、イヤホンマニアはそういったタイプのイヤホンをすでに経験した上で、あえて別腹としてCampfire Audioを楽しんでいるように思います。

ところで、以前から薄々感じていることですが、Campfire Audioのイヤホンラインナップの中でも、Andromedaというのはかなり特殊で、孤立した存在のように思えます。

Andromeda以降に続々登場したモデル(Atlas、Solaris、Doradoなど)のような迫力や聴き応えのあるサウンドの方がむしろCampfire Audioの本流で、Araもその系統寄りです。

言ってみれば、Campfire Audio自体はAndromedaの事をそこまで高く評価しておらず、なぜここまでの売れ行きを誇っているのか納得していないようにも思えてしまいます。

たとえるなら、ワイルドなバーベキューグリルレストランを自負しているのに、ヘルシーなサラダバーの方が流行ってしまった、みたいな不本意さでしょうか。そしてオーナー自身は内心もっとステーキやスペアリブを食べてくれと思っているような気がしてなりません。

打ち込みやオンマイクで定位や帯域がカッチリと型にはまったDAWプロダクション系の音楽では、Araの方が聴き応えがあります。一方ワンポイントマイクの生楽器アンサンブル収録とかでは、Andromeda 2020年版の方が一つの情景として綺麗にまとまっていて生演奏に近い体験が得られます。

普段あまり意識していないかもしれませんが、自分が聴いている音楽は、実際のコンサートでは、マイクとPAスピーカーを通すのか、それともマイク無しの生演奏なのかを思い出してみれば、イヤホンに求める特徴を理解しやすくなります。

音楽の好みは大きく分かれますが、今回AraとAndromeda 2020年版で見たように、そのどちらの方向性でもトップクラスに面白いサウンドを作り込む事ができる、という意味では、凄いイヤホンメーカーだと思います。