iFi Audio Zen Streamを買ったので、感想とかを書いておきます。
iFi Audio Zen Stream |
これは自前のUSB DACをネットワーク化するためのアクセサリー的な製品です。以前からこういうのが欲しかったので、気になって購入してみました。
海外では2021年6月発売で価格は5万円程度、これを書いている時点では日本ではまだ売っていないようです。今回使ったのは海外版なので、日本で発売する際には仕様が若干異なるかもしれません。
Zen Stream
このZen Streamという製品自体にはDACやアナログ出力は搭載しておらず、あくまで自前のDACへの橋渡し的な製品です。
入力は無線もしくは有線LAN、出力はUSBと同軸S/PDIF (RCA)のみというシンプルで潔い構成です。Bluetooth送受信は付いておらず、そちらは別の商品(Zen Blue)として売っています。
iFi Audio Zen DAC + Zen Can |
iFi Audioといえば、iDSDやxDSDといったバッテリー駆動のポータブル機で有名なブランドですが、ZenシリーズというのはACアダプター駆動の据え置き機器で、いわゆる昔ながらのセパレートの外観だけを縮小したような感じです。これまでにDACの「Zen DAC」やヘッドホンアンプ「Zen Can」などが出ており、どれもコストパフォーマンスの高さから好評を得ています。
低価格な入門機というと、多くのメーカーが「初心者なら全部入りのオールインワンが欲しいだろう」と考えるのに対して、Zenシリーズはあえてセパレートにすることで、オーディオファイルならではの段階的なシステムアップグレードやインターコネクトの楽しみを教えてくれる、素晴らしいコンセプトだと思います。将来的にもっと高級なシステムに買い換えるとしても、部分ごとに検討できるので無駄になりません。
また、すでにスピーカーアンプ用のシステムを持っていて、強力なヘッドホンアンプを追加したければZen Can、フォノアンプならZen Phono、今回の私のようにストリーミング機能が欲しければZen Stream、といった具合に、既存のオーディオマニアでも興味本位で買い足しができるのもヒットの理由だと思います。
特にヘッドホンアンプやストリーミングのように、実際に必要かどうか信憑性が怪しいガジェットの場合、いきなり高価なものに手を出すよりも、ひとまずZenシリーズで試してみるいう人も多いようです。
これまでのZen DACやZen Canなどが二万円台だったのに対して、今回のZen Streamは五万円台とそこそこ高価なので、購入するかちょっと悩みました。私としては、二万円くらいだったらケーブルアップグレードなどのアクセサリー感覚で「とりあえず試してみるか」という気持ちになりますが、さすがに五万円を超えると心配になってきます。しかしこういうネットワーク機器となると、店頭デモとかではなく実際に自宅の環境でテストしてみないとわからないので、思い切って買ってみることにしました。
実際の用途
Zen Streamの使い方は、大きく三つに分かれると思います。
まず、パソコンとUSB DACの間の中継機として、USBケーブルの長さに縛られない環境を作りたい人です。私の場合はパソコンからDACまでUSBケーブルが2mを超えるとDSD256などが不安定で切断することがあったので、まさにこれでした。ただしパソコン上の音楽再生ソフトがDLNAなどネットワーク再生に対応している必要があります。DLNA以外にもHQPlayerならNAA、RoonならRoon Bridgeにも対応しています。
次に、Zen StreamにNASやUSB HDDの音楽ライブラリーを接続しておいて、スマホやパソコンのブラウザ上から楽曲を観覧して再生するネットワークプレーヤー的な使い方です。AurenderなどHDD内蔵型のプレーヤーとか、IODATAのSoundgenicのようにNASに音楽プレーヤーアプリが搭載されているものと似たような感じです。
最後に、ストリーミングアプリからの送り先としての使い方です。iPhoneから無線LANのAirPlayで送ったり、Spotify ConnectとTidal Connectに対応しているので、同じサブネット上にあればアプリから再生先として選択することができます。最近はロスレスのサブスクリプションサービスも増えているので、自前の音楽フォルダーを持たずに高音質が楽しめる環境が整ってきました。
iFi Audioの事ですから、今後も要望に応じてファームウェアアップデートでもっと幅広い用途やフォーマットに対応してくれるだろうと期待しています。
デザイン
Zen Streamの筐体はこれまでのZenシリーズと同じアルミ製で、見た目よりも意外と重厚です。背面に色々とケーブルを接続しても傾いたりすることはありません。
フロントパネル |
LANが落ちると赤色に |
フロントパネル左側は電源スイッチ、右側は無線ホットスポット立ち上げ用ボタンです。これについては後述します。
左側の大きなLEDランプはネットワークの状況を表しており、白はインターネット、緑はLANのみ、そしてそれぞれ青か黃なら通信速度が遅い、赤なら未接続といった感じです。
これが意外と便利で、ルーターが落ちている時などLEDを見れば一目瞭然なので、無意識にチェックする癖ができてしまいました。
黄色は176.4kHz以上を再生中 |
右側はストリーム中のサンプルレート表示で、緑なら44.1~96kHz、黄なら176.4kHz以上です。ちなみにDSDネイティブだと青色になりますが、DoPで出す設定にすると黄色になるので、これは変更してもらいたいです。
これら二つのLEDランプはかなり大きく、遠くからでも視認性が良く、しかも擦りガラスっぽくてギラギラ眩しくないのが嬉しいです。
背面ポート |
背面は入力用に無線LANアンテナと1Gbps有線LANポートがあり、出力は同軸S/PDIF (RCA端子)とUSB A端子があります。S/PDIFにはiPurifierとわざわざ書いてあるので、出力品質に自信があるのでしょう。下手なUSB-S/PDIFのD/Dコンバーターを買うよりも、これを使う方が良いかもしれません。
USB端子は二つあり、片方にUSB DAC、もう一方に音楽ファイルが入ったUSB HDDを挿しておいてZen Streamのウェブ画面で再生したり、それぞれに別のDACを接続しておけば設定画面でどちらを使うか選べるので便利です。
入りません |
これでもギリギリ厳しいです |
USBポートの間隔は狭いので、オーディオグレードの派手なUSBケーブルだと両方同時に刺さらないかもしれません。デスクトップパソコンのUSBポートでもよくある悩みです。
個人的にiFi AudioのGemini USBケーブルをこれまで長らく愛用してきたので、せっかく2ポートあるのに刺さらないのは残念でした。片方にGeminiを挿すともう片方もギリギリ埋まって厳しいので、今回は端子が薄い別のケーブルを使いました。
iPower 12V |
電源はDC 9V (1.8A) ~15V (0.8A)と書いてあり、DC 12VのiPower ACアダプターが付属していました(海外版を買ったので海外プラグです)。これは一般的なものよりもノイズが少ない優秀なACアダプターで、単品で6000円くらいするので、付属しているのは嬉しいです。ちなみに別の人が海外で買ったZen StreamではiPowerではないACアダプターが同梱されていたので、そのあたりは謎です。
ただしiFi Audioは最近iPower II、iPower X、iPower Eliteといった高価でカッコいいACアダプターを展開して商魂たくましいので、今となってはベーシックなiPowerがショボく見えてしまいます。
iPurifier DCも持っていれば挿せます |
iFi Audioファンなら別売のiPurifier DCも挿せます。
電源の隣にはファクトリーリセット用ボタンがあります。ネットワークの設定ミスとかで繋がらなくなったら使うのでしょう。
USB C端子もありますが、これはファームウェアアップデート専用だそうです。設定画面からネット経由でもアップデートできるので、ネットから隔離したいとか、何らかの非常事態でもないかぎり、この端子を使うことは無いでしょう。
モード設定ダイヤル |
さらにダイヤルスイッチで、All In One (AIO)、Roon、Tidal、NAA、DLNAという五つのモードから選べるようになっています。
通常は初期設定のAll In Oneを選んでおけば大丈夫です。たとえばRoonを選ぶとRoon通信のみに限定されます。なんでわざわざこんなスイッチが用意されているのかというと、多分ユーザーサポートのためでしょう。
家庭のネットワークのことが一切わからないお爺さんとかに「ブラウザーでコンフィグを開いて・・・」、なんて説明するよりも、背面のスイッチで機能を限定するほうが、売る側としては説明の手間が省けるので楽になります。
接続とインターフェース
設定画面はスムーズで、よく考えられていると思いました。「ある程度ネットワーク機器について経験がある人なら、その想定通りの挙動をする」といったところに好感が持てます。
ちょっと前にChordのMojo/PolyやHugo 2/2Go/2Yuの設定があまりにも予測不能で、全然上手く行かず、半日苦労して結局断念したのと比べると、Zen Streamの設定は拍子抜けするほどスムーズでした。
ただし、インターフェースに関しては完璧とまでは行かず、いくつか細かい不満点もあったので、それについてはまとめて後述します。
ブラウザーでifi.local |
まず有線LANでDHCPなら勝手につながるので、接続後に同じサブネット内からブラウザでhttp://ifi.localに行けば設定画面が開きます。見た感じスマホを前提に作ったインターフェースのようなので、パソコンからだとずいぶん空白が多く、情報量が少ないです。
DHCP無しの固定IPとか、無線LANアクセスポイントに繋げるなら、まず起動時にパスワード無しのオープンホットスポットが立ち上がるので、それに接続してhttp://ifi.localの設定画面から任意のネットワークに接続するという流れです。
日本語モード |
インターフェースは日本語にも切り替えられ、翻訳もそこそこ悪くないですが、いくつかの項目は英語が混在しているので、今回は英語のままで使いました。
接続情報 |
ネットワーク設定 |
ホットスポットにパスワードも設定できます |
まず誰でも最初にネットワーク設定を行うだろうと思います。私の場合は有線LANのみなので、ここで無線LAN機能をオフにしました。
無線LANがオンだと近辺のアクセスポイントが表示されて接続できるようになります。さらにホットスポットモードを無効にしたり、オープンではなくパスワードを設定できたりなどの機能があります。
System Settings |
システム設定画面でのPlayer NameというのがDNSホスト名になるので、これを変えるとhttp://ifi.localではなくなりますので注意してください。
インターネットにつながっているならファームウェア確認更新も可能で、これを書いている時点では2.29.6という最新版にアップデートされました。
ストリーミング機能設定 |
もちろん全部オンにしておいても良いのですが、プレーヤー側が複数の手段に対応している場合に混乱しないように、不要なものはあえて制限しておいたほうが確実です。
背面の切り替えスイッチはこれを強制的に指定するためにあるわけですが、このように自力で設定できるならスイッチは不要です。
左側カラム項目表示 |
プレーヤー設定 |
さらに、Zen Streamをファイルプレーヤーとして使う場合のUSB HDDやNASとの接続、左側カラムに表示するリスト、ネットからアルバムアート取得などが選択できます。私はこれらの機能は使わなかったので全部オフにしておきました。(定期的にバックグラウンドでスキャンとかされるのは嫌なので)。
USB DACを選択 |
DSDモード |
Volume Options |
DSDのネイティブ再生は、送り先のDACの仕様によってDirectとDoPのどちらか選びます。
バッファー類に関しては1Gbps有線LANならどんな設定でも安定して再生できましたが、無線LANならチューニングするメリットがあるかもしれません。さらに一番下にVolume Optionsというのがあり、ソフトかハード制御かここで選べます。私の場合はライン出力DACなので、余計な処理をされないよう念の為Noneにしておきました。
こうやって設定画面を色々見てきて、全体的に各機能が明確ですし、ちょっとわかりにくいものにはヘルプアイコンがあるなど、上手に作られていると思いました。
有線と無線
余談になりますが、有線と無線のどちらを使うべきかは難しい問題です。私自身は有線LAN用のスイッチ類が間近にあるので有線で接続しました。
動画ストリーミングと比べると、オーディオだけならDXDやDSD256でも転送レートはたかがしれているので、相当劣悪な環境でないかぎり、無線LANでもドロップアウトする事は稀でしょう。
PCM 352.8kHzを再生中(30秒間、Y軸上限は100Mbps) |
実際にDXD (PCM 352.8kHz)をパソコンからZen Streamに有線LANで再生している時のネットワーク通信を見てみると、ピーク100Mbpsもあれば十分だという事がわかります。
個人的な経験として、有線・無線のどちらも、古い安物ルーターやスイッチを使っていると、一対一での通信ならスペックの速度が出せても、複数の同時通信(家族がWIFIを使っているなど)の負荷はスイッチの処理速度がボトルネックになって一気に遅くなったりします。高価なルーターやスイッチほど、この同時処理が高速になります。
知り合いの家のネットワークオーディオの不調をチェックしに行ったら、せっかくオーディオルームに最近流行りのキラキラした「オーディオグレード」スイッチやLANケーブルを導入しているのに、結局キッチンにあるショボいルーターに依存していて、それが不安定だった、なんて事もありました。
別の家では、安物の無線ルーターについている有線LANポートが1Gbpsではなくて100Mbpsだったとか、最新WiFi 6を導入したのにホームセキュリティやIoT関連で20台以上が同時通信していて、しかもルーターがクローゼットに入っていてオーバーヒートしていた、なんて事もありました。
表面的な高級感にこだわって、根本的なボトルネックが見えてないと色々なトラブルに見舞われるのがネットワークオーディオの難しいところです。
そういった初歩的なトラブルは除いても、オーディオマニアなら、無線LANなんて掴みどころが無いものよりも、確実な1Gbps有線LANを使うのが必須だと思うかもしれませんが、むしろ逆に、無線であれば「ケーブルのノイズ伝達」が完全に排除できる、理想の通信手段だと考えるオーディオマニアも少なくありません。動画やゲームと違って音楽鑑賞だけなら無線の最大の弱点である遅延も無視できます。
昔なら「無線電波が音質に悪影響を・・・」なんて言う人もいたかもしれませんが、最近の家庭なら至るところに無線やスマホの電波が飛び交っているので、今更無意味な話です。
もちろんオーディオ機器が搭載している無線モジュールがノイズを発していて(こういったモジュールはオーディオ専用ではない汎用品なので)、それが回路に悪影響を与えるという心配はありますので、Zen Streamを含めて、多くのストリーミング機器は無線LAN機能をオフにできるようになっています。
有線LAN対無線LANは、昔からあるS/PDIF (AES3)となんとなく事情が似ています。デジタル信号のエッジの立ち上がりの正確さ(つまりジッターの少なさ)という点では75Ω同軸ケーブルが最高であることは疑いようが無いのですが、電磁波ノイズやアースループを防ぐという点では光ファイバーのTOSLINKが優れており、長距離伝送でトランスやコンセント電源のコモンモードノイズを防ぐという点ではツイストペアのAES/EBUが優れています。
つまり、S/PDIFは機器間や周囲のノイズ環境によって、同軸・TOSLINK・AES/EBUのどれが優れているかは変わってしまうので、どれが最高か議論するだけ無駄です。もちろんそれぞれにおいてケーブル自体の優劣の影響もあります。
ネットワークオーディオでも、たかが100Mbps程度の伝送レートなのに、最近のオーディオ雑誌を見るとSFP+で10Gbpsのオーディオグレード金メッキケーブルなんていうのがあったりして、滑稽に思うかもしれませんが、ファイバーにすることで絶縁できるなどのメリットは、それまで家庭用のショボいネットワーク機器を使っていた人にとっては根本的なアップグレードの良い機会なのかもしれません。
ただし、業務用の高速スイッチ類はそれ自体の消費電力がかなり高く、ノイズをばらまくので、あまりオーディオ機器の間近に置きたくはありません。私も職場のQSFPスイッチを別メーカーに入れ替えたら電磁ノイズでフォノアンプがノイズを拾って困ったことがありました。そういった意味でオーディオ用に配慮したネットワーク機器というのはニッチな存在として今後も成長するような予感がします。(ただしオーディオメーカーにネットワークスイッチなどを作るノウハウは無いので、OEMが主流になると思いますが)。
Zen Streamからの再生
Zen Streamに直接USB HDDやNASを接続して、ブラウザのインターフェースから再生する事ができます。
今回は同じサブネット上にあるQNAP NASを接続してみました。SMBでユーザーとパスワードを入力すれば簡単にマウントできました。
NASをマウント |
一旦マウントするとフォルダーが自動スキャンされて、アルバムやアーティストなどのメタデータブラウザーが構築されます。ただしマウント先の全てのフォルダーが対象になるので(つまり任意のフォルダーのみに制限できないため)、マウント時にフォルダーのパスまでしっかり指定しておくのが重要です。
上のスクリーンショットの例では、約4TB・14000曲のスキャンは10分程度で終わったので、そこそこ速いです。多くのストリーマーはこれが遅くて使い物になりません。Zen Streamよりも高価なブランドでも、1時間以上スキャンしても終わらず、最終的にフリーズしてしまうものもありました。
アルバム |
再生画面 |
フォルダー内のDXDやDSD256ファイルも正しく認識してくれるので、DLNAやRoonなどでハイレゾ再生が上手くいかないとき、トラブルの原因がDAC側なのか再生ソフトの設定なのか分離して原因究明するには役立ちます。
ただし、スクリーンショットを見てわかるとおり、ライブラリー観覧と再生インターフェースはかなりベーシックなので、本格的な実用性はありません。あくまでテスト用としてか、DAPのように聴きたい曲を厳選して入れておく程度でしょう。
タグ埋め込みのアルバムアートは認識してくれず(ネットかフォルダー内画像ファイルのみに対応)、メタデータの階層絞り込み(ジャンル→アーティスト→アルバムとか)や階層ソート(ジャンルごとに最新追加アルバム順にとか)も不可なので、数千枚以上のライブラリーだと手に負えません。
Zen Streamに限った話ではなく、他社の高級NASストリーマーも、結局は音楽をたくさん持っていてる人が開発しているわけではないので、インターフェースの使い勝手は稚拙すぎて話になりません。写真を毎日数百枚撮っている人に、過去十年間の写真からスクロールして探せと言っているようなものです。
巨大なライブラリーを持っている人なら、個人的には相変わらずJRiverとiTunesが最強だと思っています。よくiTunesを馬鹿にする人がいますが、100,000曲以上の詳細メタデータをしっかりXMLデータベース化して的確に管理できるソフトはなかなかありません。JRiverはさらに高速化とDSD対応でiTunesの上位互換みたいな存在です。
フォルダー |
どうしてもZen Streamからの再生にこだわるなら、古典的ですが、やはりフォルダー階層で管理しておくのが最善だと思います。私の場合はJRiverでファイルフォーマット → サンプルレート → ジャンル → レーベル → アルバムアーティスト → アルバムといったフォルダー階層を自動生成しているため、Zen Stream上ではメタデータではなくフォルダブラウザで目当ての曲を探すほうが断然楽です。
数年前の私なら、この手のストリーマーの使い勝手や機能性はそのうち改善していくだろうと期待して待っていたのですが、最近はサブスクリプションストリーミングが主流になり、私のように自前の音楽ライブラリーを維持している人が少数派になってしまったので、むしろファイル再生機能はどんどん衰退してしまったのがちょっと残念です。
JRiverからの接続
私はNASに入っているファイルをJRiverで管理しているので、NAS → JRiver 28 → Zen Streamというという流れで再生しています。
JRiverの設定はちょっと面倒だったので、自分用メモとして書き留めておきます。
DLNAなら他にもAudirvanaなど優秀なソフトは色々あり、それぞれ設定方法は違います。(今回Audirvana Studioも試そうと思ってデモ版をダウンロードしたのですが、インストールが失敗して先に進めませんでした)。
RoonやHQPも悪くないですが、詳細なメタデータ管理やDAPへの同期転送などは結局JRiverが強いので、他のソフトをわざわざ使う気になれません。
JRiver 28の設定 |
Configure Media Network |
まずMedia Network > Use media network to share this library and enable DLNAを有効にすると、Configure Media Networkというポップアップウィザードが出るので、そこでGeneric DLNAを選択します。良かれと思ってAudiophile 24-bit DACなどを選んだら上手くいきませんでした。
Media Network > Audio Conversionも念の為Don't convert audioにしておきます。
DLNA Servers |
次にMedia Network > Add or configure DLNA serversでポップアップが出るので、そこでAudio > Mode = Originalにしておき、AdvancedはDLNAとDLNAExtraを有効にしておきます。
カジュアルなDLNA機器(スマートスピーカーとか)はハイレゾデータを受け付けないため、低レートに圧縮変換する仕様になっているところを、Originalを選ぶ事でネイティブなハイレゾデータを送れるようになるわけです。
ちなみにAdvancedにBitstream DSDというチェックボックスもありますが、これはオフにしておくのが正解です。多くのストリーマーはDLNAのDSD受信に非対応なのでDoP(DoPE)に偽装して送る必要があるのですが、Zen StreamはDSD受信対応なので、DoPE変換せずにそのままネイティブで送ることができます。
もちろんチェックボックスを有効にしてJriverからDoPEで送っても良いのですが、その場合はZen Stream上の再生表示はPCM(DSD64なら176.4kHz)になります。Zen Stream側の設定でDoP変換すれば再生表示はDSDになります。
IFiが現れました |
一旦設定しておけば、JRiverを起動して10秒ほどでPlaying NowにDLNAレンダラーとして現れるので、それを選択すれば音楽がZen Streamに送られます。
JRiverからDXDを再生中 |
ネイティブ再生が無事通っているか心配なら、ブラウザでZen Streamのインターフェースを開いておけば、現在再生中の音楽フォーマットが表示されます。もちろんDACにサンプルレート表示があればもっと確実です。
ZoneSwitch |
最後に細かい点ですが、JRiverの仕様上、デフォルトの再生先は必ずPlayer(つまりUSB DACなどパソコン上のサウンドカード)が優先されてしまうので、毎回Playing NowからZen Streamを選ぶのが面倒です。
これを回避するためには、JRiverでZen Streamを右クリックしてZone Switchというポップアップを開いて、[Media Type]=[Audio]ならZen Streamで再生する、というルールを作成しておくと、以降音楽再生時に送り先がZen Streamに切り替わります。
ただし、Zen StreamのIPアドレスやホスト名が変わるとZone Switchで設定したルールが無効になるので、再度設定し直す必要があります。
JRiver起動後にZen Streamを発見するまでに10秒ほどかかるので、それを待たずに音楽を再生してしまうと、Zone Switchを有効にしてあってもエラーが出ます。
そんなわけで、色々と設定が面倒でしたが、そもそもDLNAやAirplayなどはカジュアルなAV機器用として、ソフトの初期設定では低レートに圧縮して送信するようになっているため、それらをハイレゾネイティブ再生に設定し直すのが厄介だというだけです。
JRiverに限らず、DLNAは何も設定しなくても音楽は流れると思いますが、せっかくのハイレゾPCMやDSDも圧縮されて送られているかもしれません。
パソコンに慣れている人なら当然だろうと思うかもしれませんが、そうでない人にとっては、これがDLNAの問題であり、Roonが高価なのに好評なのは「面倒な設定が不要で誰でも扱える」というのが大きな理由だと思います。
Zen Streamの背面にある機能制限スイッチも、それが主な理由でしょう。上記のJRiverの設定を電話越しの客に説明しなくてはならないオーディオショップ店員の身になって考えれば、高価なRoon Coreを推したくなるのは納得します。
Roonからの接続
Roon Coreとの接続はJRiverと比べると圧倒的に簡単です。Zen Stream設定画面からRoon Bridge機能を有効にしても良いですが、せっかくなので背面のスイッチをRoonに切り替えてみると、ブラウザーでhttp://ifi.localでは設定画面に行けなくなり、Roonのみの固定モードになります。
RoonのAudioリストから |
Roonを開いてAudioリストを見ると、Zen StreamのIPアドレスとともに出力先が表示されています。Zen StreamにDACを二つ接続しておくと、ここでも両方から選択できるのは嬉しいですね。S/PDIFはrockchip-spdifという名前になっているので、Rockchip製SoCを使っているのでしょう。
各DACの設定 |
DSDモード |
デバイスはUSB DACのスペック上限まで表示されるので、Qutestだと768kHzやDSD256も選べるのですが、Zen Streamを通す場合は384KHzが上限で、それ以上を選択して再生しようとしても中断されます。
DSDはPCM変換とDoPかdCSモードが選べます。JRiverのようなダイレクトモードは選べないようです。ちなみにdCSモードは古い規格なので、今回dCS DebussyでもDoPを選ばないと音が出ませんでした。
DAC選択 |
DXDもしっかり再生出来ました。再生画面の右下に、パソコンに接続されているUSB DACやZen Stream経由のDACが一覧で選べるのは、さすがRoonは使い勝手が良いと言われているだけありますね。JRiverの無駄な複雑さと比べると雲泥の差があります。
Roonはこの手の再生関連の手軽さにおいては非の打ち所が無いくらいよく出来ているので、有料ソフトですが、毎日音楽を聴くような人なら導入する価値はあると思います。個人的にはRoonのコンセプト(自分のライブラリー内のアルバムやアーティストについてネット経由で様々な情報やオススメ提案を提供する)というのが気持ち悪いので使っていませんが。
実際に使ってみて
Zen Streamを買ってから、色々な条件で使ってみて、今のところ不可解なトラブルや音飛びグリッチなどは発生しておらず、今までのUSB DAC再生とほぼ同じ感覚で使えています。
使ってみたDAC |
いくつか手持ちのDACに繋げて実験してみても不具合も無く、これなら普段の音楽鑑賞に常用できそうです。DSDに関してはちょっと厄介なので、それについては後述します。
通常なら、ここで「音質の感想」とかを延々と書いているところなのですが、Zen StreamはあくまでD/Dコンバーターで、それ自体のサウンドというよりも、上流下流の接続環境への影響の方が大きいので、下手な事は言えません。
あくまで私の環境での感想としては、これまでASIOもしくはWASAPI USBで再生していたのと比べると、なんとなく音が変わったような感じはします。概ね好印象で、悪くなったとは思いません。何ヶ月か使ってみたら意見も変わってくるかもしれません。
音が派手になったというよりも、むしろ逆に、ボリュームが静かになったような感覚があります。音楽の静かなパッセージや、細かなディテールが聴き取りやすく、注意を引くような感じで、しっとりした音楽をしんみりと聴くようなシーンで効果が感じやすいです。
たとえばdCS Debussy DACでは、これまではUSBだと若干音がぼやけて滲むような印象があって、わざわざS/PDIFで使っていたのですが、Zen Streamを通すとUSBでもS/PDIFと同じように細かく解像してくれて、良い感じです。
以前Aurenderのストリーマーを借りてDebussyで使った時も、Zen Streamと似たようなメリットを体験しましたが、一方Raspberry Piの安価なストリーマーでは今回ほどのメリットは感じなかったので、そのあたりは未だに謎が多いです。やはり電源とかUSBバスの作り込みなどが絡んでくるのでしょうか。
よくネットワークオーディオのメリットとして、パソコンのUSBはノイズが多いので、LANで隔離することで音が良くなる、という主張があります。
先日SPL Phonitor Miniのレビューをしていた際に、DebussyからPhonitorにつないで聴くとヘッドホンからチリチリノイズが聴こえて、USBケーブルを外すとノイズが消えたので、パソコンからのアースループやノイズ混入かと困っていたところ、今回Zen Streamを中継することでノイズが消えたので、確かに実用的なメリットが体験できました。
そういったノイズや不具合には縁がないような完璧なオーディオシステム環境が整っている人なら、Zen Streamを追加しても期待したようなメリットは実感できないかもしれません。
とくに最近の優れたUSB DACならアイソレーションがしっかりしているでしょうから、測定で確認できるほどの差は見られません。私の場合だとChord QutestではDebussyほどZen Streamを通すメリットは実感できませんでした。
ライン出力 |
Quetstをパソコンから直接USBケーブル(赤線)とZen Streamを通して(青線)、-60dBFSの1kHz信号を再生してノイズフロアを確認してみると、可聴帯域でのノイズフロアは測定限界で(RME Babyfaceを使いました)、目立った違いは見受けられませんでした。
ノートパソコンの充電器 |
可聴帯域以上の高周波であれば、Zen Streamを通す事で明確な違いが目視できるケースもあります。
たとえば上のオシロのスウィープはバスパワーDAC(iBasso)のライン出力を10kΩで受けたものですが、ノートパソコンで音楽(無音ファイル)再生中にパソコンの充電器を接続すると、ライン出力に100kHzくらいのリップルが乗ってしまうのが見えます。
左はZen Streamを通した時で、ジグザクの波形は確認できません。これは充電器を外すことでもほぼ同じ結果が得られます。似たような例で、GPUやHDDが高負荷だとノイズが載る事もあります。DAPで音楽を聴きながら充電しようとするとノイズが聴こえるのも同じような理由だと思います。
100kHz以上だから聴こえないというわけではなく、このようなグリッチやオフセットであれば、感度が高いイヤホンではチリチリノイズとして聴こえます。多くのアンプではローパスフィルターで高周波ノイズをカットしていますが、最近はハイレゾ対応とかで広帯域なアンプが増えていますから油断できません。(信号経路にLPFがあっても、ノイズが電源経由で終段アンプに回り込んで増幅されたら意味がありませんし)。
これはあえて極端な例でしたが、やはりUSBはグラウンドとバスパワーという二つの根本的な問題を抱えている性質上、単なるデジタル信号の列ではありませんから、ケーブルの長さや品質、そしてフィルターやアイソレーターなどのガジェットで色々と試行錯誤している人が多いことを考えると、パソコンやスマホから気兼ねなく再生できるネットワークストリーマーというのは有意義だと思います。
Zen Streamの不満点
Zen Streamを使ってみて概ね満足できたものの、不満もいくつかありました。ばらばらに書くよりも一点にまとめておいたほうがわかりやすいと思ったので、ここに挙げておきます。
DSD256が通らなかった時のエラー |
まず個人的にちょっと困ったのはDSD、とくにDSD256のネイティブ再生です。Windows PCならASIOドライバーがあるので確実ですが、Zen Streamはそうではないので、成功するか予測不能です。
Zen Streamの設定画面でDSD DirectとDoPが選べるものの、DSD Directはメーカー間の互換性が明確ではありませんので、私のChord Qutest、dCS DebussyやHiby R6PRO DAPなどはZen StreamからのDSD Directではダメで、DoPでしかDSDネイティブ再生できません。
ここでちょっと混乱させる点が二つあります。まずZen StreamをDSD Directに設定して、Qutestなど非対応のDACを接続すると、Zen Streamは勝手に352.8kHz・24bitのPCMに変換して再生しているようです。
Zen StreamのLEDが黄色(PCM)になったので、おかしいなと思ってDAC側の表示を確認して気が付きました。しかしZen Streamのブラウザー上の再生情報では2.82MHz・1bitと表示されているので、知らないでいるとDSDネイティブ再生だと勘違いしてしまいます。
DoPモードだとネイティブでも黄色です |
もう一つ混乱するのは、Zen StreamをDoPモードに設定すると、DSDネイティブで出せているのにLEDが黄色(つまりPCM)です。
DoPというのはDSDをPCMに偽装して出しているので、黄色で正しいという解釈もできるのでしょうけれど、このPCM信号をPCM音声として再生しても音は鳴りませんし、あくまでDSDネイティブなのですから、LEDは青色(DSD)の方がわかりやすいと思います。
ここで問題になるのがDSD256です。Zen StreamはPCMの上限が384KHzまでなので、DSD256のDoP偽装に必要な705.6kHzが送れず、DSD128(つまりPCM 352.8kHzに偽装)止まりです。
上の写真でもDoPのDSD128(5.6MHz)ネイティブで再生できていますが、DSD256を再生するとエラーで止まります。
micro iDSDならDSD Direct対応です |
画面上の表示 |
結局、身近にあるDACでDSD256がネイティブで通ったのは、同じiFi Audioのmicro iDSD Signatureのみでした。これならDSD DirectモードでDSD256までしっかり通って、LEDも青色になるので、このあたりは同じメーカー同士でちゃんとしています。
Qutestとかはメーカーが違うからしょうがないだろう、と言われるかもしれませんが、たとえばHiby R6PROなどのDAPをトランスポートとして使えばQutestからもしっかりDSD DirectモードでDSD256まで再生できているので、たかがDAPで実現できている程度の事が、トランスポート専用製品のZen Streamで上手くいかないのは残念です。
ようするに、DSD Directの対応はDACごとに運任せみたいなところがあるので、これが必須なら要注意です。私も仕事上DSD256を扱う事があるため、QutestでDSD Directが通らないのはちょっと不便で困ります。
S/PDIFでもDoPが通ります |
ちなみに嬉しい点としては、S/PDIF出力でもちゃんとDoPでDSDが通るので、対応しているDACならDSDネイティブ再生が可能です。もちろんS/PDIFは192kHzが上限なので、DoPもDSD64に限られます。
iFi-Streamerというホットスポットが現れます |
二つ目の不満はインターフェース関連です。初回設定時のホットスポット機能は便利ですが、パスワード無しのオープンとして公開されるのはちょっと不安で、さらに無線が途切れたら自動的にホットスポットモードが有効になるのも心配です。
一応起動後に一分間で消えるようになっており、設定画面に入ればパスワードを指定できるようにもなっていますが、素人の初心者が設定するとは思えませんし、自前のHDDやNASなどをマウントした状態のインターフェースに無線で第三者が簡単に接続して操作できるというのはセキュリティ上の不安があります。できれば一般的なルーターのように、本体底面にデフォルトのパスワードが印刷されているなどの方が良かったと思います。
この右上のポップアップが信用できません |
もう一つ、インターフェース周りで思い当たるのは、なにか設定変更した際に、画面上で報告される以上にバックグラウンド処理に時間がかかっている、という点は良くないと思いました。
たとえばLANやDAC設定を変更して「Save」ボタンを押すと、画面上にUpdate Successみたいなポップアップが一秒くらい出て消えて、その後すぐに他の操作に移行できるのですが、実際はバックグラウンドでもっと長い処理が行われているようで、20秒くらい指示が反映されません。
DACを変更してSuccessと出て、すぐにJRiverなどから音楽を再生したら、Zen Streamがまだ固まっていてエラーで止まる、といった事がよく起こります。これはUSB DACとは勝手が違うので、戸惑うかもしれません。
設定はそこまで頻繁に変えるものではありませんし、固まっても最悪一分ほど待つかZen Streamを再起動すれば良いだけなのですが、できればルーターの設定みたいに余裕を見積もって20秒くらいのウェイトタイマーを表示してくれた方が混乱せずに済みます。
これらはバグというよりも単なる不満点で、どれもファームウェアで対処できる程度のものだろうと思うので、もしiFiの人が見てくれていたらと密かに願っています。
おわりに
今回Zen Streamを自宅のオーディオに導入してみて、使いやすさや安定性には満足できたので、当面は使い続けてみる事にします。
とりわけユニークな製品というわけではなく、他のメーカーからも似たよう機器は色々と出ていますが、価格と機能性のバランスがちょうど良い感じで、個人的に、iFi Audioといえば、初代micro iDSDからファームウェアアップデートによる機能追加を繰り返して「既存ユーザーを置き去りにしないメーカー」、というイメージがあったので、こういうストリーマーの開発にも向いているだろうという期待があります。
他にも、Pro-Ject Streamboxなどのシンプルなものから、AuralicやHRTなど一足先にストリーマーというジャンルの先駆者として有名になったブランドもあります。既存のオーディオシステムにハードディスクを組み込むならAurenderやDELAなどが人気ですし、Mytek Brooklyn Bridgeのように自身がRoon Coreシステムになるモデルや、Naim UnitiやBluesound、そしてネットワークオーディオの生みの親ともいうべきLINNのDSMなど、それぞれ独自のエコシステムを形成して、もちろん各種プロトコルには対応しているけれど、同じメーカー製品でシステムを揃えたほうが性能や利便性のメリットがある、というスタイルが定着しています。
そんな中で、Zen Streamに興味を持つのは、私みたいに「そこそこ音が良いけれどネットワークに対応していない世代のUSB DAC」を使っている人でしょう。
結局のところ、Zen Streamのようなストリーマーを導入しても、DACまで短くなったとはいえUSBやS/PDIFケーブルが必要なわけで、それが音質劣化につながるという考えの人もいるでしょうし、たしかに中途半端な当座しのぎの手段だと思います。
しかし、私のChord Qutestや上位モデルのChord DAVEは今のところネットワーク対応モデルは出ていません。ポータブル向けのMojoやHugo 2ではネットワーク追加モジュールが登場したので、今後は上位機種もその流れになるのでしょうけれど、これらのモジュールは設定や使用感がかなりの曲者で、しかもHugo 2用は15万円もします。(私はまともに設定できず断念しました)。
dCS Debussy DACの方も、2020年に後継機Bartokが登場してネットワーク化とヘッドホンジャックが追加されているあたり、しっかり時代の流れを読んでいるようです。しかし買い換えるとなると金銭的に相当の覚悟が必要です。
どのメーカーを見ても、蓋を開けてみると、D/A変換、アナログラインアンプ、電源などのコア部分に関してはUSB DACとネットワークDACで根本的な設計変更や技術革新があったわけではないので、当面はUSB DACから買い換える気が湧きません。(もちろんメーカー側としては細かい部分で音質向上努力を怠っていないとは思います)。
もっと言うなら、DSDにこだわらなければ、USB以前のS/PDIF DACですら現代でも十分通用する凄い音で鳴ってくれます。倉庫に眠っているDACをZen Streamでネットワーク化して蘇らせるのも良いかもしれません。私も古いApogee Rosettaを久々に鳴らしてみて、改めてサウンドの素晴らしさを再確認できました。
ネットワークオーディオの普及にあたって、私が考える一番の障害はやはり「プロトコルが多すぎて、対応ソフトなどの再生手段が限られる事」でしょう。
メーカー独自の囲い込みばかりで互換性は最悪ですし、オープンソース(UPnP・DLNA)もオーディオファイル向けに作られた規格ではないので混沌としています。
放送局やライブ会場などプロの現場では従来のADATやMADIからLANケーブルへの移行が活発ですが、そちらもDanteやRavennaなどの大規模なものからレイヤー2のDigiGridやAVBのAVNU Milanなど、どれも同じLANケーブルを使うのに、互換性があるのか無いのかよくわかならい状態です。相互規格を決めるにしても、オーディオ団体のAES67か、ネットワーク団体のIEEE802.1xかで解釈や協賛メーカーが変わってきます。
また、これらの業務用規格は確実性重視のため、専用のネットワークカードが必要だったりして、家庭でインターネット用のネットワークと共存するのには向いていません。スマホやノートパソコンなど無線LANが一つしかない場合、それをオーディオ専用に占拠されるのは不便すぎます。
やはり、望みは薄いですが、マイクロソフトやアップルがネットワークオーディオを標準サウンドカード化する仕組みを提供するとか、それともどこかOEMメーカーがネットワークオーディオをWASAPI・Core Audioサウンドカードに偽装するようなドライバー(PyramixのRavenna ASIO Driverみたいなの)をデファクトスタンダード化して安価にばらまいてくれれば嬉しいです。
今後そういった試みがないかぎり、ネットワークオーディオは専用アプリやプログラムに限定されてしまい、USB DACのように汎用サウンドカードとしてゲームや動画鑑賞などに使っている人には役に立ちません。たとえばJRiverでもUSB DACでは使えるDSPフィルターなどの機能もDLNA経由だと使えないので不便です。
このあたりも、iFi Audioのような小回りの効くメーカーに、今後なにか思いも寄らないような画期的なアイデアを提案してもらいたいです。それまでの当座しのぎとしては、Zen Streamは素晴らしい「ストリーマー入門機」だと思いました。