2022年2月6日日曜日

2021年によく聴いたジャズの高音質新作アルバム

 前回に続き、今回は2021年に聴いたジャズのアルバムで、とりわけ演奏や音質が良かったものをいくつか紹介します。


クラシックと比べてそこまで多くのリリースはなかったものの、古典的なものからモダンなスタイルまで様々な作品が楽しめた一年でした。特にダウンロードやストリーミングサービスのおかげで海外のレア盤も瞬時に聴けるようになったので、昔ほどハードルが高くなく気軽にジャズファンになれる時代になってきたようです。

2021年

アメリカがいち早くコロナ自粛から抜け出したおかげで、主要なレコーディングスタジオで新規スタジオセッションが続々行われており、2021年は優れたアルバムが続々登場した一年でした。

残念ながらジャズバーなどでのライブは休止されているところが多く、バンドも以前のようにレギュラーメンバーで世界各地を巡業するのが困難なようで、そういった「現在のライブシーンの最先端」を伝えるようなライブアルバムがほぼなくなってしまったのは残念です。


ジャズの新譜を探すとなると、相変わらずBandcampの独占状態になっており、新鋭レーベルやインディーズの多くがBandcampとストリーミングの二刀流といった販売形式をとっているようです。

ジャズに限らず、音楽ファンはアーティストの音楽活動に直接お金が渡るようにと願っており、ストリーミングで聴ける楽曲でも、あえてBandcampでハイレゾダウンロード版やCD・レコードなどの物販を購入するという人は結構多いです。

私もBandcampをよく使いますが、一つだけ不満を挙げるとするなら、いわゆるキュレーションの方法がシンプルすぎるため(例えばランキングが「ベストセラー」「新着」「レコメンド」の三種類しかなくて、期間絞り込みとかができないなど)、上位に登ってくるものが玉石混交でなかなか目当てのアーティストや演奏スタイルが見つかりにくい、というのはあります。逆に言うと、週末の暇な時間に延々と新着を観覧試聴していて、10ページ目くらいの奥深くで凄い良さそうなアルバムを見つけたときは嬉しいので、宝探し的な面白さはあります。

さらに、BandcampのおかげでインディーズでもデジパックCDやレコードが手軽にリリースできるようになったことで、各国のジャズ専門レコード店も少量から発注して店頭販売できるようになり、まさに洋服のセレクトショップと同じような感じで、専門店ならではのキュレーションが活きてくるようになりました。昔だったら、地元の新人アーティストが手売りでCDショップに置いてくれるよう頼んで周っていたのが、今はBandcampを通じて国際的に行えるようになったということです。

Bandcampがジャズで特に活躍している理由は、ジャズはポップスのような大手レーベルのスタジオでの複雑な手直しや編集作業が不要で、ほぼワンテイクの生演奏セッションに最小限の編集のみで完成できるからです。

逆に言うと、ここ数年の大手レーベルから出ているジャズアルバムを見ると、どちらかというと複雑な多重録音やEDM要素を交えた重厚なアンサンブル作品が増えてきたように思います。

10年くらい前までは、オーソドックスなジャズカルテットとかも大手レーベル経由でリリースする事が多かったのに、レーベルの衰退でアーティストの専属契約が切られ、インディペンデントレーベルに移行した事で、今度は大手レーベル自身が売るコンテンツがなくなってしまい迷走しているのは皮肉なものです。

2021年のベスト

早速ですが、2021年の個人的ベストアルバムを紹介します。Rainy DaysレーベルからBenito Gonzalez 「Sing to the World」です。

ジャケットを見てわかるとおり、錚々たるメンバーラインナップによるニューヨークOrange Sheepスタジオでのセッションです。

ドラムはMashinとWattsが一曲ごとに入れ替わり、ベースは一曲目のみEssiet-Essietで残りがMcBrideです。これだけのメンバーが一同に集合したことからもわかるとおり、ベネズエラ出身のピアニストGonzalezはとにかく熱く、まるでマッコイタイナーのようなパワフルな速弾きでバンド全体を牽引する、近年まれに見る高エネルギーなセッションが繰り広げられます。Youtubeでセッション動画が上がっていますが、これを見るだけでテンションが高まります。

私がこのアルバムをベストに挙げている理由は、演奏が凄いのはもちろんのこと、音質がとにかく素晴らしく、近年ジャズセッションの最高峰だと思えたからです。特にベースに注目すると、重厚な芯が通っていながら音程と定位がしっかりと聴き取れる、これ以上は望めない理想的な録り方ですし、どの曲を聴いてもソロの音色に心を奪われます。スローバラードでのNicholas Paytonのトランペットは美しすぎて耳が離せません。

このRainy Daysというのはロシアのサンクトペテルブルクに本拠地を構える新興レーベルで、ロシアのアーティストによる地元でのセッションと、今作のようなアメリカでのセッションなど多方面で頑張っている、現在一番活気のあるジャズレーベルのひとつです。

今作も、Orange Sheepスタジオによる録音から、モスクワCinelabスタジオでのエディットを加えて、Systems TwoのMike Marcianoのマスタリングで仕上げるという、まさにグローバルなプロジェクトになっています。

Rainy Daysレーベルは他にも優れたアルバムが多く、たとえば2020年のアルバムですがAzat Bayazitov 「The Doors are Open」なんかはニューヨークBunker StudioにてDavid Kikoski、Adam Rogers、Boris KozlovといったCriss Crossレーベルでよくあるようなセッションで、リーダーBayazitovが惜しげなくバリバリとサックスを吹きまくる爽快な作品です。

他にも「A Rough Guide to Russian Contemporary Jazz Music」というコンピなど、ロシアにおけるジャズの力強さを存分に体感できる、素晴らしいレーベルです。

Sunnyside Records

2021年に特に精力的だったレーベルというとSunnyside Recordsが真っ先に思い浮かびます。メインストリームからオルタナティブ、フュージョンまで様々なアルバムが年間で40枚近くリリースされており、なにげなくサンプルを聴いて気になったアルバムが、またSunnysideだった、なんてことが何度もありました。

Criss CrossやSmoke Sessionsのようなレーベル独自のプロデュースというよりは、来る者拒まずの持ち込みレーベルのような体制なので、作品ごとのクオリティはバラバラですが、おかげでマンネリに陥らず、新鮮な作品が多いです。個人的に気に入ったアルバムがあまりにも多かったため、ここで一気に紹介したいと思います。

とりわけ2021年Sunnysideで一番気に入ったアルバムはTodd Cochran TC3 「Then and Again, Here and Now」でした。John Leftwich、Michael Carvinとのオーソドックスなピアノトリオです。

聴いてみればすぐにわかりますが、リーダーのピアノが控えめで温厚な録り方で、その代わりにLeftwichのベースが強烈にセンターに鎮座しています。Carvinのドラムもかなりメリハリが効いていて、キックドラムのズシンと体感に響く感じが爽快です。

演奏自体はそこまで珍しくもないスタンダード集で、アレンジもそこまで特出しているわけでもないので、もし別のレコーディングエンジニアの手にかかったら、もっとスムーズで無難などこにでもあるようなアルバムになっていたでしょう。ここまで迫力のある飽和寸前の仕上げ方はジャズとしては過剰かもしれませんが、たまにはこういうのがあっても良いと思います。

Sunnysideからは他にも凄い小編成ジャズ作品が続々リリースされており、どれも個人的に2021年のベスト盤に選んでも不思議ではない、優秀なアルバムばかりです。


Tobias Meinhart 「The Painter」も一級品のアルバムです。Eden Ladinのエレピやピアノが良い具合にステレオ感のある音響効果を展開して、その上でMeinhartがブレッカーのようにスピーディーなブロウを繰り広げるといったフォーマットで、さらにIngrid JensenのトランペットやCharles Alturaのギターも加わり、聴き応えのあるソロが立て続けに繰り広げられます。

ニューヨークSear Soundでのセッションなので音質は抜群に良く、ジャケットのイメージにピッタリ合うような、煙とストロボに包まれた幻想的なフワッとした空間を演出してくれています。

上のMeinhartと同じようなサックスの激しいブロウでも、Michael Thomas 「Natural Habitat」はサウンドの印象が全く異なるので面白いです。こちらは一管のカルテットで自作曲という潔いアルバムです。

録音はSear Soundと双頭を成すニューヨークBunker Studioで、十分に余白を持たせたクリーンな仕上がりがThomasのパリッとしたサックスの音色に合っています。ピアノも音響を広げるのではなく、あくまでサックスとの対話のような形をとっているので、似たようなバンド構成でも(つまり同じライブステージなら似たようなサウンドになるのに)レコーディング次第でこうまで雰囲気が変わるのかと関心します。

Abraham Burton & Lucian Ban 「Black Salt - Live at the Baroque Hall」も強烈にホットなアルバムです。Burtonは中央アメリカのベリーズにルーツを持つニューヨークのサックス奏者で、ルーマニア出身のピアニストLucian Banとともにルーマニア・ティミショアラで行ったライブ公演の録音です。

両者ともボクシングのごとく交互にガンガン思うがままに演奏しまくり、フリーキーで破綻するかと思いきや、スッと綺麗なメロディに戻ってくるギリギリのスリルが楽しいです。特に二曲目「Belize」の二人の白熱したやり取りはまさに息を呑む体験です。

激しいブロウから一転して、神秘的なピアノが楽しめるFrank Kimbrough「Ancestors」はベースのMasa KamaguchiとコルネットのKirk Knuffkeとのドラムレストリオで、2020年に亡くなったピアニストKimbroughの遺作になります。

冒頭からピアノとベースの掛け合いがまるで流れる水のように美しく、そこにおもむろに入ってくるコルネットの柔らかい音色が絶品です。全編を通してKimbroughのピアノは淡い情景を描く印象派のようなスタイルなので、音楽の流れはベースを目印に聴いていると迷わずに楽しめます。

Noah Haidu 「Slowly (Song for Keith Jarrett)」はタイトルどおりキースジャレットへのトリビュート盤ということで、彼を彷彿とさせる曲を揃えていますが、Haiduのピアノはジャレットのような没頭するスタイルとはずいぶん異なり、どちらかというとノリの良いグルーヴを中心にした演奏です。

バスター・ウィリアムスとビリー・ハートというベテラン二人のどっしりと構えたサポートもあって、安心してグルーヴの流れに乗れる優雅な作品です。

Jean-Jacques Rojer 「Soko」はリーダーのギターとWarren Wolfのヴィブラフォンをメインに置いた作品で、Joe Benitezのノリの良いベースラインとJeff "Tain" Wattsのタイトなドラムの組み合わせにSaturnioのパーカッションが乗って、南国の雰囲気を生み出しています。

リーダーのRojerはカリブ海キュラソー出身ということで、いわゆるラテンとは一味違うアフロルーツのスタイルが印象的です。彼のパットマルティーノのような淡々としたギターのラインと、Wolfのゲイリーバートンのような縦横無尽なヴィブラフォンがステレオいっぱいに広がって豊かな情景を描いてくれます。

大手ジャズレーベル

ジャズの有名レーベルの多くは、ここ数年の隔離期間中でもアルバムリリースのクオリティを維持しつづけているのが嬉しいです。ツアーに行けなくなったアーティストにとってもありがたい事でしょう。

Smoke Sessionsからも優れたアルバムが続々登場した一年でした。本拠地Smoke Jazz and Supper Clubは現在臨時休業中のようですが、その期間中もクラブのステージでの無観客ストリーミングコンサートやレコーディングセッションを行い、もちろんSear Soundでのセッションも継続してくれたのがありがたいです。

唯一の例外として、2019年に亡くなったHarold Mabernが前年にSmokeで行ったライブ公演からの音源が「Mabern Plays Coltrane」として発売されました。この2018年ライブからはすでに「Mabern Plays Mabern」「Iron Man」がリリースされており、それぞれテーマが異なる三部作として彼の晩年の貴重なドキュメントになっています。

一番オーソドックスでスタリッシュなジャズとしてはJoe Farnsworth 「City of Sounds」がおすすめです。Kenny Barron、Peter Washingtonとのトリオでスタンダードを演奏するという、なんのひねりもないアルバムですが、彼の軽快なスウィング感に乗ってケニーバロンとワシントンの親密なやりとりが繰り広げられると、これぞジャズの醍醐味といった感じがします。公式Facebookにセッション時の動画がアップされており(リンク)、しっかり仕切りとマスクで隔離しながら演奏しているので、自由気ままなイメージのあるジャズでもプロはちゃんとこういうところはしっかりしてるなと関心しました。

Smoke Sessionsレーベルで個人的なベストはRenee Rosnes 「Kinds of Love」です。Rosnesは作曲家ビッグバンドアレンジャーみたいな印象があったので、今作も難解な組曲とかかと不安に思っていたところ、Chris Potter、 Christian McBride、 Carl Allen、 Rogério Boccatoというコンパクトな精鋭バンドでの激しいジャズだったので驚きました。Rosnesの作曲はそこまでトリッキーではなく、各メンバーもしっかりとソロがとれて充実した一枚です。

Criss CrossレーベルはオーナーのGerry Teekensが2019年に亡くなったことで長らく休止中でしたが、家族がレーベルを継続することを決めたということで、待望の新作が登場しました。2020年は彼が残した音源の整理で何枚かアルバムがリリースされましたが、2021年のDonald Edwards Quintet 「The Color of Us Suite」からは新体制での新録セッションになり、流石に気合が入っています。

2021年はこの一枚のみでしたが、2022年1月早々には新たに二枚David Binney 「A Glimpse of the Eternal」とMisha Tsiganov 「Misha's Wishes」がリリースされ、どちらもこれまでどおりCriss Crossらしい勢いのあるリアルなジャズが繰り広げられており、今後の発展が期待できます。

Criss Cross休止中の穴を埋めるように、最近はPosi-Tone Recordsが結構頑張っています。Diego RiveraやDavid Kikoskiが参加するBlue Moods 「Myths & Wisdom」、Alex Sipiagin 「Upstream」、Boris Kozlov 「First Things First」など、メンバーや演奏スタイルもCriss Crossとかぶるような作品が多くなってきました。上の三作はどれもベースがKozlovなので統一感があります。

これまでのPosi-Toneレーベルというと、ジャケットもなんとなくアマチュアのギグ手売り物販感が強く、演奏も録音も生ぬるい感じがして、個人的にそこまで積極的に聴いていなかったのですが、最近は気になる作品も増えてきたので、これでジャケットデザインがもうちょっとパリッとしてくれれば一般受けも狙えると思います。


メジャーレーベルも決して無視できず、Blue NoteからはCharles Lloyd & The Marvels 「Tone Poem」、Bill Charlap Trio 「Street of Dreams」が良かったです。どちらも大御所なので他のレーベルみたいな新鮮味は無いかもしれませんが、やはり相変わらず人気を保ち続けているのは理由があるわけで、大手レーベルらしい洗練されたアルバムです。

Lloydは今作ではアルトフルートを吹く曲が多く、Bill Frisellのギターを全面的にフィーチャーしており、ブルースロック調の陽気なノリの良いスタイルのアルバムで、一方Charlapのアルバムの方は普段どおりPeter Washington・Kenny Washingtonとの息のあったトリオによる緩いムード溢れるスタンダード集です。あまりにも対照的なので、両極端として交互に聴くと面白いです。

ECMからは、Andrew Cyrille Quartet 「The News」とMarcin Wasilewski Trio 「En attendant」が良かったです。

Andrew Cyrilleの方はBill FrisellのギターとDavid Virellesのピアノ&シンセで繰り広げられる柔らかな情景が、まさにECMに求められているサウンドそのものです。同じFrisellでも先程のCharles Lloydのアルバムでの演奏とはスタイルが全然違うので、それぞれアルバムのコンセプトを引き立てる事に徹底しているあたり、さすがベテランだと関心します。こちらのリーダーのCyrilleはドラムなので、一見メロディラインはなんてことないような曲でも、ドラムに注意して聴いてみると実はかなり高度な演奏をやっています。

Wasilewskiは2020年のアルバムがJoe Lovanoとの共演で比較的オーソドックスなスタイルだったのに対して、今作はトリオに戻り、過去作よりもさらにエッジの効いたミステリアスな作風に進化しています。初期のアルバム「Trio」や「January」なんかはリラックスした雰囲気で味わえましたが、この新作はリラックスする暇もなくトリッキーな演奏が続き、緊張感を保ったまま最後まで楽しめます。

同じくドイツのACTからは凄いアルバムが出ました。SWR Big Band 「Bird Lives」です。SWR(南西ドイツ放送)特設ビッグバンドをMagnus Lindgrenが指揮、John Beasleyがピアノを担当して、チャーリー・パーカーの名曲を演奏するというコンセプト盤なのですが、これが圧倒的に派手な仕上がりです。

ベイシーっぽいのからファンク、フュージョンまで、一曲ごとにビッグバンドのスタイルを大幅に変えて、軽快なピアノのリードとホーンセクションのサポートの上に、浮遊感のあるストリングスとスキャットボーカル、そして怒涛のソロ回しが強烈です。Chris Potter、Joe Lovano、Miguel Zenon、Tia Fuller、Charles McPhersonという錚々たるサックスのゲストを一曲ごとにフィーチャーしており、パーカーということで普段よりも気合を入れて思い切り吹きまくっています。Zenonが吹くファンキーなDonna Leeから、McPhersonとストリングスのドラマチックなLauraといった具合に、一枚でビッグバンドジャズの全てが楽しめるような贅沢なアルバムです。音質もあのSWRですから完璧です。

Storyvilleからは、気分転換がてらにGrønvad/Søndergaard Quintet 「Plays the Latin Vibe of Clare Fischer」をおすすめします。

60年代ラテン・ボサノヴァブームの中心人物Clare Fischerが関わってきた名曲の数々をデンマークのMorten GrønvadとJens Søndergaardのバンドがオマージュした一枚です。ヴィブラフォンとアルトサックスという爽快きわまりないコンビで、クールで正確無比な演奏がラテンのリズムに妙に合っていて、単なるムード音楽では終わらない充実感があります。ラテンジャズというとどうしても世俗的に見られて、リバイバルされる機会が少ないので、こういった真面目に取り組んだアルバムは食わず嫌いをせずに聴いてみる価値があります。

こちらもリラックスした気分転換に最適な、Stunt RecordsのAlvin Queen Trio 「Night Train to Copenhagen」です。タイトルから想像できるとおり、デンマーク・コペンハーゲンのStunt Recordsスタジオから、オスカー・ピーターソンのトリビュート盤です。

リーダーAlvin Queenのドラムと、ピアノCalle Brickman、ベースTobias Dallとのトリオで、ピーターソンがNight TrainやWe Got Requestsあたりで弾いていた名曲を独自のアレンジで再現しています。後年のピーターソンのような怒涛の速弾きではなく、この頃のゆったりしたメロウな雰囲気が上手く再現されており、録音も温かみの中にタッチの艶が乗った、とても上品な仕上がりです。スタンダード曲のセンスの良いアレンジの勉強にもなりますし、とにかく綺麗で不快感の無いジャズを楽しみたければこのアルバムが絶対おすすめです。

スタンダード曲のアレンジを追求するとなれば、Challenge RecordsからMartial Solal 「Coming Yesterday」はぜひ聴いてもらいたいですが、こちらは決して綺麗でメロウな演奏ではありません。

2019年パリのSalle Gaveauでのコンサートで、92歳のソラールはこれを最後に引退することを発表したので、この最終コンサートを臨場感溢れるサウンドで収録してくれたことに感謝したいです。

私が個人的に好きなピアニストを挙げろと言われたらソラールは必ず五本の指に入るような存在で、1954年のVogue「Martial Solal Trio」から、63年のニューポート、リー・コニッツとのPortland SessionsとBerlin Jazz Days、NHØPとの「Movability」、79年のソロ「The Solosolal」、そして2017年の「My One and Only Love」など、好きなアルバムを挙げるとキリがありません。

そんな中で、今作は引退コンサートを意識してか、ジョークを交えてリラックスしたスタイルでTea For TwoやI'll Remember Aprilなどのスタンダードを演奏、観客の歓声や笑い声も含めて感慨深い体験です。ソロピアノといっても自己陶酔に没頭するのではなく、観客を楽しませるためにあの手この手で変奏曲を繰り広げ、92歳にして続々とアイデアが浮かび上がる頭の回転とスゥイング感抜群の指使いは驚異的です。

各国の新興レーベル

ジャズにおいては、そこそこ有名なレーベルでも専属契約ではなく音源持ち込みが多いため、新人でも腕が立つならスタジオを借りて数曲録って、Sunnysideなどのレーベルで商品に仕上げて流通してもらうというような事もできるので、昔ほど「巨大レーベルの搾取から離脱してインディーズになる」みたいな風潮は少なくなりました。

それでも特にアメリカ以外では、地元のジャズ文化とともに地域密着の新興レーベルがちらほらと現れており、冒頭で紹介したロシアRainy Daysのような世界をまたぐプロジェクトもあれば、アーティストが自宅スタジオを作って友達と気ままにセッションを行うだけのようなレーベルもあります。もしくは、パーティーやイベントを巡業するバンドが自己プロモーション用としてレコーディングしてCD-Rで手売りするだけのレーベルもあり、やっていることは昔のインディーズとさほど変わっていないものの、録音機材が安価になったことで、大手レーベルに負けないようなクオリティの作品が作れるようになってきています。

逆に言うと、ジャケットはカッコよくて、音質は抜群に良いのに、演奏がプロの域に達していない、なんて作品も意外と多いので、優れた作品を見抜くのも大変です。そんな中から個人的に気に入ったアルバムをいくつか紹介します。

2021年のインディペンデントで一番気に入ったアルバムはMalcolm Jiyane Tree-O 「Umdali」でした。ハイレゾダウンロード盤は個人名義で、後日LPレコード盤はMushroom Hourというレーベルから出ています。

リーダーのJiyaneは南アフリカ出身のトロンボーン奏者で、トランペットやアルトサックスも加わった地元中心のジャズバンドに、パーカッションがチャカポコ入る感じです。インディペンデントでアフリカというとアバンギャルドなイメージがありますが、このアルバムは最初から最後まで明るくメロディアス、一言で表すなら「優しい」雰囲気の演奏で、ありきたいな民俗的なクリシェも使わずに、自身のジャズを表現しています。南アフリカのSumo Soundというスタジオでのセッションだそうですが、録音もアメリカの一流スタジオに引けを取らない優秀な仕上がりです。

アルトのNhlanhla MahlanguやピアノのNkosinathi Mathunjwaなど、南アフリカのミュージシャンの多くは、文化的にもアメリカと同様に高度な音楽教育と教会や地元文化からの影響が融合した環境で育ってきており、音楽フェスティバルや文化交流プログラムなどでアメリカやヨーロッパのジャズシーンとの積極的な交流を目指しているようなので、今後の活躍も期待できそうです。

フランスJazz & Peopleレーベルからは、Dal Sasso Big Band 「Africa/Brass Revisited」が印象に残りました。その名の通りコルトレーンがImpulseで試みたビッグバンド作品「Africa/Brass」のオマージュで、レーベルが誇るDavid El-Malek、Geraldine Laurent、Sophie Alourをソリストに迎えての壮大なビッグバンド作品です。

パリのヴィレット公園ホールで2020年に開催されたジャズフェスティバルでの演奏をラジオフランスが収録したもので、コルトレーンのオリジナルをそのままコピーしたものではなく、インスピレーションを受けた自由な解釈で繰り広げられています。GreensleevesやBlues Minorなどオリジナルを知っていればより一層楽しめます。

Whirlwind RecordingsからIvo Neame 「Glimpses of Truth」も凄い演奏です。6管のラージコンボで、ミニマルな打ち込みっぽいスタイルを全て生演奏で再現するというようなスタイルなので、まるでゲームサントラのようなクリーンなエレクトロジャズの超上級な生演奏版みたいな印象があります。

ブラスセクションもあえてタイトなフレージングを心がけており、スタイリッシュなフュージョンのようでありながら、楽器の音色は生っぽい自然な鳴り方という、意外とありそうで無いユニークな音楽です。カッチリした進行のおかげで転調やシーン転換がわかりやすく、そこそこ小編成ながらビッグバンドのような色彩豊かな演奏が楽しめます。

Snibor RecordsのEnrico Peidroは毎年コンスタントにアルバムを出しているので、集めている人も多いかと思います。今作「Sweet as Bear Meat」はギターJonathan Stoutを迎えて、いつものリズムセクションと陽気なジャズを繰り広げます。

Peidroの作品はどれもClef/Verveを思い起こさせるようなイージーなスゥイングのスタンダード集で、なにも革新的な事をやっているわけではないのですが、バンドのクオリティが高く、録音も独特な温かい雰囲気は、まるで50年代にタイムスリップしたかのように、肩の力を抜いてサックスの音色が楽しめます。

イタリアの新興レーベルBirdbox RecordsのLuca Mannutza 「The Uneven Shorter」は、タイトルからして興味が湧きました。ショーターの作品ばかり集めたアルバムで、リーダーのピアノにサックスのPaolo Recchiaを迎えてのカルテット演奏です。

アレンジも演奏も悪くなく、そこそこ楽しめるアルバムだったので、ショーターのファンなら必聴盤だと思いますが、音質がそこまでパッとしなかったのがちょっと残念でした。丁寧に録れていてもフラットで気が抜けているような感じで、もうちょっと音色の艶やかさやダイナミックな推進力がほ欲しいです。ヨーロッパの作品ではありがちな傾向で、多くのプレーヤーがニューヨークでセッションを行いたい理由のひとつだと思います。もちろんこういう整頓されたサウンドが好きな人も多いでしょうし、単純に好みの問題です。

ポーランドのAllegro RecordsからMarcin Janek & Extradition Quintet 「Movin' On」はサックスとトランペットの二管クインテットで、まるで60年代中盤のブルーノートのアンドリューヒルやサムリヴァースのようなドッシャンガッシャン強烈なやかましい演奏が爽快です。

こちらも録音が一般的なジャズアルバムと比べるとずいぶん奇妙で、左右に広いわりにセンターにコームフィルターがかかっているような奥まった鳴り方に違和感があります。上のアルバムと同様に、もし同じ演奏がニューヨークのスタジオでの定番スタイルで仕上がっていたらどうなっていたか、気になって仕方がありません。

CD流通はSunnyside RecordsでもBandcamp上ではインディーズというか自主制作扱いという作品も結構多く、Michael Wolff 「Live @ Vitellos」もそんなアルバムの一つです。Bandcampで買った時はクレジットが無かったので、こんなに良い作品なのにレーベルが無いのかと驚いたところ、後日CDショップではSunnysideのデジパックで売ってました。

ロサンゼルスのVitellos Jazz Clubでのライブで、Mark Ishamのトランペット・フリューゲルホルンがフィーチャーされています。自作の曲以外ではFallとNefertitiをやっていることからもわかるように、あの時代のマイルズっぽいダークな雰囲気で、Ishamのトランペットもマイルズっぽい煙たさとモダンな切れ味を両立できていて非常に上質です。Wolffのピアノは音数が少なく、ベースラインの上で肝心なところだけをキラリと光らせるようなセンスの良い弾き方なので、暑苦しいジャズに飽きてきたらこういうのを聴いてみるのも良いです。

その他

オーソドックスなジャズに収まるかどうか微妙だけれど、素晴らしいと思ったアルバムを何枚か紹介します。

ジャンル的にはワールド系というのでしょうか、ニューエイジっぽい雰囲気なのに実は真面目なジャズが隠されている、といったスタイルをよく見かけます。大抵のアルバムは、導入部分は民俗楽器のグルーヴというかラーガみたいなのが提示されて、それが調子に乗ってきたらジャズバンドが派手に演奏する、みたいなフォーマットが多いので、イントロだけ聴いても興味を引かなくても、一曲通して聴くと「なるほど」と思う作品が多いです。

まずはACTからDaniel Garcia Trio 「Via de la Plata」です。スペインのピアノトリオによるマドリードでのスタジオ録音で、ゲストにトランペットのIbrahim Maalouf、ギターGerardo Núñez、クラリネットAnat Cohenが参加しています。

ゲスト三人の中でも特にNúñezのクラシックギターが主導的なイメージを作りだしており、リーダーでピアノのGarciaも世界遺産の街サラマンカ出身ということで、ロマネスクや中近東の雰囲気も混ざった、単なるジャズやワールドミュージックという型にはめるべきではない奥深い音楽です。

もう一枚おすすめしたいのはStoryvilleからEnsemble Edgeの「Dimma (A Tribute to Jan Johansson)」です。デンマークの合唱隊Ensemble Edgeと精鋭ジャズバンドによる合同作品、といっても内容の想像もつかないと思いますが、とにかくサウンドの世界観が凄いです。

どの楽曲もコーラスパートとジャズアレンジとKarmen Rõivasseppによる綺麗なボーカルという三部が柔軟に入れ替わり、ある時は神秘的な合唱に包まれ、またある時は艶っぽいジャズのリズムに乗って、そしてまたボーカルの歌声に魅了され、とても濃厚で贅沢な作品です。

ヨハンソンの作曲はロシアや北欧の民謡を多く取り入れているため、親しみのある音色が一曲を通してどのように変化していくのか追っていくだけでも楽しいです。王道のジャズではないかもしれませんが、この綺麗な世界観はぜひ体験してみるべきです。

Outnote RecordsのAmir El Saffar & Rivers of Sound 「The Other Shore」も聴き応えのある作品です。

イラクにルーツを持つEl Saffarがインドから中東にかけての伝統楽器のオーケストラRivers of Soundのリーダーを務め、さらにそこにMiles Okazaki、John Escreet、Carlo De Rosa、Nasheet Waitsといった超一流のジャズバンドを投入するという、内容が濃いアルバムです。

どの曲も導入は中東風味のオーケストラ演奏から、ある程度グルーヴが確立したらジャズのリズムが入ってきて、サックスやトランペットのソロが暴れて終わるといった流れで、不思議と交通渋滞にならずに器用に展開していきます。

超ハイレゾ

NativeDSDなど特別なショップで購入できるDSD256やDXDのような超ハイレゾフォーマットで、いくつか良かったものを紹介します。

再生できるDACを持っている事が前提ですが、最先端の録音技術を体験するのも音楽鑑賞の楽しみの一つです。電子楽器やサンプラーなど使っていればそれらがボトルネックになってしまいますが、ジャズやクラシックでは生声や生楽器を高性能なマイクとDSD/DXDレコーダーのみでシンプルに「録って出し」できるため、このようなフォーマットのポテンシャルを最大限に活かせます。DXD上でのデジタル編集を避けるため、コンプレッサーやミキサーもあえて録音時のアナログ経路で済ませてしまうというレーベルも多いです。そう考えると昔のヴァンゲルダースタジオとかがやっていた一発録りと同じような感じですね。

本来こういった超ハイレゾファイルは編集時にロスが発生しないようにオーバースペックに決められたフォーマットなわけで(画像編集時にまず大きなサイズで作業してから必要に応じてサイズを縮小するのと同じです)、実際に音質差があるかは議論が絶えませんが、ファイルそのものだけでなく、それを処理するDSPやD/A変換過程にも影響を及ぼすので、使っているDAC機器にも大きく依存するだろうと思います。

Sound LiaisonレーベルからGidon Nunes Vaz Quartet 「Ebb Tide」はDXDネイティブ録音で、トランペットリーダーのカルテットです。

一曲目「Only the Lonely」はトランペットソロで、続く「Bewitched」「Angel Eyes」でピアノのデュオになり、次の「Summer Knows」からカルテット演奏が続き、アルバムの終わりもデュオからソロになって締めるという、まさにオーディオシステムテストのための作品と言ってよいです。

Nunes Vazのトランペット・フリューゲルホルンソロの最初の一音を聴くだけで、凄いミュージシャンによる、凄い録音だということが感じ取れます。暖かく柔らかくもアーティキュレーションが絶妙にスタイリッシュで、まさに自分の意のままにトランペットが体の一部として音色を奏でているような印象です。

バンド全体の録り方も、あえて派手に前に押し出さずに奥行きを持たせているため、優れたオーディオシステムで聴かないと、解像感が不足してモコモコした不明瞭なサウンドになってしまうと思います。最近は多くの人がステレオスピーカーではなく適当なBluetooth卓上スピーカーとかで音楽を楽しんでいるわけですから、そういうのではこういう録音スタイルでは内容が上手く伝わらないため、オーディオファイル向けレーベルというものの存在意義みたいなものが納得できる優秀な作品です。

Just ListenレーベルからRembrandt Trio 「A Wind Invisible」もDXDネイティブ録音です。DSD録音の先駆者Channel Classicsの社長がクラシック以外のジャンルを好き放題に録音するために設立したレーベルだけあって、録音の本気度が違いますし、Rembrandt Frerichs率いるピアノトリオもまさに洗練を突き詰めたような玄人好みの演奏です。

開幕から、ジャズというよりもバロック音楽かニューエイジのヒーリング系かと思わせますし、途中でオルガンを使ったりなど意表を突く作風ですが、聴いていくとピアノとベースがフリースタイルでソロを回していったり、ドラム・パーカッションもスゥイング感が出ていたりなど、ジャズの演奏構成に一番近いので、私としてはジャズに含めたいです。

Rembrandt Trioの前作は古楽器フォルテピアノを使っていたので、演奏もそれに引っ張られていた印象がありましたが、今作では堂々としたスタインウェイでの演奏なので、我々が慣れ親しんだスタインウェイのサウンドが、Just Listenレーベルの録音技術でどのように収録されているかも一聴の価値があります。

制作過程がYoutubeにあるので、それを見ると一流のミュージシャンには高音質ハイレゾ録音を行う意義が伝わってくると思います。一見何気ない体育館みたいな場所で、おもむろに楽器とマイクを設置するだけで、ここまで澄んだ綺麗な音色の質感が収録できるということが驚異的です。別々に録ったトラックを切り貼りする音楽では、こういった空気感みたいなものは絶対に出せません。ヘッドホンマニアなら動画中でK1000とMysphereが同じ現場で使われているのを見るとなんだかほっこりします。

発掘・復刻盤

ジャズがアメリカで最も栄えていた黄金時代といえば1940~60年代なので、その頃の演奏がたびたび復刻されて注目を集めるのも当然のことです。

すでにCDで出ている名盤があらためてハイレゾリマスターで高音質化されたり、これまでラジオ局などの倉庫に眠っていた当時のライブ録音が発掘されたりなど、まだまだ聴くべきアルバムは続々登場しています。

発掘音源では相変わらずコルトレーンの人気は凄まじいものがあります。彼を神格化して生涯の一挙手一投足を呪文のように暗記している熱心な信者もいる一方で、ジャズファン以外のスピリチュアルやサブカル系でも支持を得ているため話題性があります。

今作「A Love Supreme Live in Seattle」はシアトルでのライブ公演にて「偶然テープが回っていた」おかげで収録できた発掘音源とのことで、これまで個人のコレクションに死蔵してあったものが浮上したらしいです。有名なスタジオアルバム「至上の愛」をほぼそのままライブで通して演奏しているという極めて珍しい録音なので注目を集めました。

レビューによると、演奏は良いもののコルトレーンのサックスが遠くて聴き取りにくいという点は不評なようです。逆にエルヴィン・ジョーンズのドラムがドッシャンガッシャンかなりうるさく派手に録音されているので、私としては、むしろエルヴィン・ジョーンズのリーダーアルバムとして、彼のドラムの凄さを体感できる素晴らしいドキュメントだと思いました。

もう一枚、発掘音源で話題になったのは、ジャズ・メッセンジャーズの1961年日比谷会館での演奏です。

メッセンジャーズ1961年来日ツアーでの音源や映像は他にもありますが、今作はすでに破棄されて失われたと長らく思われてきたセッションのテープが関係者の遺品から発掘され、それをもとにブルーノートから公式リリースされたとのことです。

モーガン、ショーター、ティモンズ、メリットという黄金時代のメンバーによる演奏なので、当時こんな凄いサウンドを体感した日本のファンが盛り上がったのも納得できます。映画用に録られたというだけあって、音質も想像以上に優れていて楽しめました。1961年といえばMoanin'・The Big Beat・A Night in Tunisiaといったスタジオアルバムを立て続けに出していたタイミングなので、それらとライブでの演奏を聴き比べてみるのも面白いです。

ライブ発掘盤でさらにもう一枚、Storyvilleからエリントンの「Berlin 1959」も素晴らしい復刻です。すでに「The Famous Berlin Concert」などのタイトルでも出ていたアルバムですが、Storyvilleによるリマスターのおかげで一層楽しめるようになりました。

ベルリンの広大なアリーナに溢れる観客の前でのライブ公演なので、バンドも気合が入って、定番の名曲で白熱の演奏を繰り広げます。特にこの時期のエリントンバンドはプロコープやホッジス、ゴンザルヴェスやカーニーといったベテランが残っている中で、新たにクラークテリーが加わった絶妙なタイミングなので、戦後にかき集められたメンバーがようやく次世代へと入れ替わりはじめる、層の厚さという点では一番充実していた時期のように思います。

ジャズとクラシックをまたいで凄い発掘音源を出してきたフランスFondamentaから、スタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルトの1966年ベルリンジャズフェスティバルの録音が登場しました。

有名なゲッツ・ジルベルトのアルバムが1964年なので、まさに大ヒット中での公演です。さらに、このライブで注目すべきは、メンバーがゲイリー・バートン、チャック・イスラエルズ、ロイ・ヘインズという錚々たる顔ぶれで、スタジオアルバムの緩さとは全く異なるタイトな演奏なのが面白いです。しかも1963年に完成したばかりのベルリン・フィルハーモニーでの公演ということで、クラシックファンでも聴いてみたくなってしまいます。

ドイツからは秘蔵音源が続々と現れているので、やはり日本のNHKやTBSなどと同様に、せっかくの海外アーティストということで地元放送局が毎回律儀にテープを回して保存してくれていたことが、今となって大きな資産になっているようです。

Jazzline ClassicsとNDRの共同で、ウェス・モンゴメリーの1965年NDRハンブルクスタジオでの音源が登場しました。ウェスの1965年ヨーロッパツアーの一環で、ハンブルクのラジオ局NDRにて放送用の公開コンサートとして収録されたセッションです。さらに物理版だとリハーサル映像のブルーレイも同梱しています。

このNDRセッションが特に興味深いのは、ウェス以外のメンバーが当時のヨーロッパオールスターともいうべきラインナップで、オーストリアからアルトのHans Koller、テナーはJohnny GriffinとイギリスからRonnie Scott、Ronnie Ross、リズムセクションはフランスからピアノのMartial Solal、ベースMichel Gaudry、イギリスからドラムのRonnie Stephensonと、ウェスを除いても当時のドイツファンからしたら見逃せないバンドだったろうと思います。私もとくにMartial Solalのピアノが大好きなので、彼が参加しているから買ったようなものです。

ジョニー・グリフィンは1962年のウェスのライブ名盤「Full House」に参加して、翌年1963年にヨーロッパに移住してフランスを拠点に活動していたので、この1965年セッションへの参加は感慨深かったでしょう。

2020年にはStoryvilleからグリフィンの1964年モンマルトルでの録音も復刻されており、そちらはNiels-Henning Ørsted Pedersen、Tete Montoliu、Alex Rielというバンドで、全く違う一面を見せてくれるので、聴き比べてみると面白いです。

この1960年代前半に多くのアメリカのアーティストが欧州に移住して、ジャズの文化が花開き、クラシックの本場で技術と知識を持っている若者がこぞってジャズに傾倒していったおかげで、それ以降の北欧やドイツでのヨーロピアンジャズの流れが生まれていますが、一方その頃、アメリカにビートルズを輸出したイギリスでは、逆にもっとコアなアバンギャルド系ジャズが独自の文化を作り出していました。

Gearbox Records・デッカの「Journeys in Modern Jazz: Britain」はそんなイギリスでのジャズの進展を完結にまとめたコンピ版です。

1965~1972年までの期間を2枚組14曲で、基本的にひとつのバンドに一曲の割り当てで一気に進んでいきます。そのためアルバムの統一感はありませんが、まるで歴史の授業のように変化の流れが掴めるようになります。音源は英デッカやEMIなどの正規版からとっているので良好です。

これらを聴いていると、やはりイギリスは優れたプレーヤーを多数輩出しているものの、アメリカに影響を受けていた最初期からどんどんオルタナティブ化していっており、これでは当時のアメリカのラテンジャズやフュージョンのような一般大衆向けの人気は出なかっただろうなと思います。逆にアメリカのジャズを一通り聴いてきた人なら、こんな平行世界があったのかと興味深く聴けると思います。


過去の名盤のリマスター復刻も、以前ほどは多くないものの、意外と趣味の良いアルバムがちらほらと登場しています。メインストリームな有名盤が一通り出たあとなので、プロデューサーも自分の好みで選ぶ余地が出てきたのでしょうか。

RiversideやPrestigeなど当時のレーベルの多くを保有しているConcordグループが2017年に新たにリマスター復刻専門のCraft Recordingsを立ち上げて独自の運営体制になったことで、これまで日の目を見なかったようなマニア寄りの佳作が続々と高音質リマスターされています。

昨今のLPレコードブームのおかげで、復刻レコード盤を出すついでに、そのために新規リマスターを行ったデータをハイレゾPCMで同時発売するスタイルが定着したので、これからもレコードブームが廃れないことを願っています。そのためアマゾンなどではCDは無しで新規LPレコードとストリーミング、という売り方が増えています。

2021年のCraftハイレゾリマスター復刻で個人的に一番嬉しかったのが、Bill Evans 「At Shelly's Manne-Hole」です。Riversideの1963年ライブ盤で、ハリウッドにあったShelly's Manne-Holeというシェリーマンが経営するジャズバーで、Chuck Israels・Larry Bunkerとのトリオでのライブです。(これと同時に「Quintessence」もハイレゾ復刻されました)。

私自身はそこまでエヴァンスの熱狂的なファンというわけでもないのですが、もし彼のアルバムで一番好きなのを挙げろと言われたら、真っ先にこの「At Shelly's」が思い浮かびます。(スタジオ盤なら「Explorations」です)。有名なスタンダード曲をゆったりと演奏しており、ライブの観客ノイズも雰囲気があります。

ライブなのでそこまで高音質というわけではないものの、今回の96kHzハイレゾリマスターは録音の粗を強調せずにライブならではの空間の臨場感が増したように感じます。

リマスターというのはファイルフォーマットの優劣だけではなく、手掛けたエンジニアのセンスの違いの影響が大きいので、これまでもK2やHDTTなど何度かリマスター盤は出ていますが、実は私自身はこのアルバムに限っては未だにOJCのCD盤のサウンドが一番好きです。今回のハイレゾ版もあくまで別の解釈として、ストリーミングサービスでも古いOJC版が差し替えられず両方聴けることを祈っています。

Evansといえば、ファンが多いので毎年次々と発掘音源がリリースされており、そのたびに一大ニュースのように話題になるわけですが、2021年はCraftからOn a Friday Eveningというタイトルで1975年のライブ音源が登場しました。

音質は鮮明ではあるものの、機材がショボかったのか空間情景全体が録れておらず、なんだかガチャガチャした録音です。個人的にこの頃のエヴァンスはそこまで好きではないので、世間が言うほどは熱中できませんでした。

エヴァンスに限らず、ジャズに興味を持ちたい人が、こういう「世紀の大発見が高音質復刻」みたいなニュースを読んで、いざ聴いてみたら音質が悪すぎて、ジャズから遠ざかってしまう、なんて事にならないか心配です。

同じくCraftのRiverside復刻から、Thelonious Monk Alone in San Franciscoも出ました。サンフランシスコのナイトクラブFugazi Hallでの無観客コンサートで、モンク全盛期の名曲の数々を、限りなく洗練されたソロピアノというフォーマットで味わえる名盤です。こちらもK2やOJC再リマスター盤など色々手に入りますが、今回のCraft盤はそこそこ良い感じです。

Craft RecordingsからはPrestige系レーベルも、どれも超有名盤というわけではないものの、マニアなら喜ぶ渋いアルバムばかりリマスターされました。

Sonny Rollins 「Work Time」 (1955)、Red Garland 「A Garland of Red」 (1956) Tommy Flanagan 「The Cats」 (1957) Kenny Dorham 「Quiet Kenny」 (1959)といったラインナップで、特にThe CatsなどはOJC CD以来RVGリマスターでは出なかったと思いますしK2版も手に入りにくいので、久々のリマスターは嬉しいです。

どれも当時を象徴するようなヴァンゲルダーの優秀な音質で、さらに1959年のドーハムはハッケンサックからイングルウッドのスタジオに移転後の録音なので、それ以前と聴き比べてみるのも面白いです。

それにしても、JVCもそろそろどうにか権利関係とかを立て直してK2盤をダウンロードで再販してもらいたいです。膨大な数の20bit高音質リマスター作品がJVCに眠っていて、たびたび出る限定CDを買った一部の人しか聴けないというのは非常にもったいないです。

Craft Recordingsから、さらに珍しいJoe Henderson 「The Elements」もハイレゾPCMで出ました。

Riversideの後継Milestoneレーベルから1973年のアルバムで、アリスコルトレーンやアフリカパーカッションを交えたアバンギャルドな作風はヘンダーソンの数々の作品の中でも異色の作品です。ヘンダーソンならもっと他にも良いアルバムがあるだろう、と言いたくもなりますが、こういった埋もれたアルバムを復刻してくれる事自体感謝すべきです。(個人的にはMilestone初期のThe Kicker、Tetragon、Power to the Peopleの三作が彼の長いキャリアの中でも一番好きな時代なので、ぜひCraftにリマスターしてもらいたいです)。

Craft Recordingsはジャズ以外のジャンルでも続々レコード盤復刻と合わせてリマスターPCMを出しているので、ぜひカタログをチェックしてみてください。

Craft Recordings以外からも優れた復刻盤がいくつか出ています。現在Bethelehem Recordsの版権を持っているBMGからは「Nina Simone and Her Friends」がハイレゾPCMで登場しました。

1958年リリースの異色作で、名義はNina Simoneになっているものの、彼女以外にもChris ConnorとCarmen McRaeが交互に収録されています。それまでBethelehemで活躍していたトップ歌手がそれぞれ他レーベルに移籍したので、過去のアルバム未収録曲蔵出しコンピ盤のようなものです。とはいえ当時を代表する名歌手のれっきとしたスタジオ曲なのでクオリティは一級品ですし、三人の歌唱の個性を楽しむのにもちょうどよいです。特にシモンが歌う「I Loves You, Porgy」は圧巻です。

ちょうどステレオ最初期の録音なので、音質そのものは良いものの、ステレオ効果がかなり奇抜というか、現代の基準から考えると信じられないようなミックスですが、当時は手探りの状態だったのでしょう。シモンの曲では声とピアノがステレオ左右に振り分けられて、コナーの曲になると空間リバーブをかけまくり、マクレーは風呂場で歌っているような厚いエコーです。そのままヘッドホンで聴くのは厳しいので、SPLなどのクロスフィードを通すとずいぶんマシになります。

Universalからはサラ・ヴォーンのEmArcy/Mercuryリマスターが数枚登場して、1954年の10インチ盤「Images」、有名なクリフォード・ブラウンとのアルバム、ベイシーバンドとの「No Count Sarah」とどれも名盤揃いです。

個人的には「Sarah Vaughan and Her Trio Recorded on the Spot at the Famous Mr. Kelly's in Chicago」を選んでくれたのが意外だったので嬉しかったです。1957年のライブで、Jimmy Jones、Richard Davis、Roy Haynesという最高のトリオでサラヴォーン最盛期を生で体験できる最高のドキュメントとして昔から高く評価されてきたアルバムです。

2xHDレーベルは取り上げる作品ごとのアタリハズレが激しいので慎重になってしまいますが、2021年はそこそこ良い復刻がありました。

まずStoryvilleから1974年のTommy Flanagan 「Solo Piano」です。当時エラの伴奏としてヨーロッパツアーに出ていたフラナガンがスイスで単独録音したセッションで、長らく眠っていたテープが2005年になってStoryvilleからようやくリリースされたものの、アルバムの全20曲のうち半分がフラナガンの演奏ではないと判明して廃番になったというエピソードがあります。そのため今回はフラナガン本人と思われる11曲に絞られての復刻です。

もう一枚のArnett Cobb 「Funky Butt」はDavid Stone Martinによるジャケット絵が1950年代のVerve/Clefをイメージさせますが、1980年の録音です。Derek Smith、Ray Drummond、Ronnie Bedfordのバンドで、当時62歳のコブがスウィング世代の名曲の数々を思い切り吹きまくるというアルバムです。演奏自体はそれこそClefで聴けるようなレトロで爽快なスタイルなのに、当時最先端のパリッとしたクリアな音質なので意表を突かれます。


ところで、話は変わりますが、近頃のストリーミングサービスは音源の情報が記載されていない無法地帯になっているのが問題だと思います。

膨大なカタログの中で、じっくり探せばレアなアルバムが見つかるというメリットがある一方で、目当てのアルバムがなかなか発見できなかったりと、アーティストやオリジナルレーベルへのリスペクトも無い、まるでフリーマーケットのような状態です。

音楽の版権を持っている大手レーベルは、わざわざCDで出すにはコストが見合わない作品というのを沢山死蔵しており、ダウンロードとストリーミングの到来により、何もしないよりは出した方が良いということで大量に放出されはじめているのですが、オリジナルジャケット絵の版権がとれなかったり、単純にめんどくさかったりで、意味不明な汎用ジャケットで叩き売りされている事が多々あります。

一つ例を挙げると、SignalのRed Rodneyという1957年の名盤があり、ジャケット(写真右)もカッコよく印象的なデザインですが、SignalレーベルはSavoyに吸収され、Savoyが日本コロムビアへ、コロムビアミュージックエンタテインメントへ、そして現在はConcord傘下Savoy Label Group (SLG)が版権を持っています。

ふと、このアルバムを聴きたいと思って、ストリーミングやダウンロードで探すと、1973年にSavoy名義にてタイトルが「Fiery」に変わっており、ジャケットも赤い変なやつ(写真左)になって、しかもダウンロードショップではFLACが300円くらいの捨て値で売られています。

ブルーノートなどと対等に張り合えるくらい優秀なアルバムでも、現在の版権元がジャズに興味がなく、真面目に売る気がないと、ゴミのような扱いを受けるというのがとても残念です。

別に、こういう古いアルバムを全部ハイレゾリマスターしろと無理難題を言っているわけではなく、せめて、ちゃんとアルバムが発売された当時のレーベルやアーティストを尊重して、バンドメンバーやセッション、リマスターなどの正確な情報を提供してもらいたいです。クレジットが全く無いアルバムを見つけては、毎回DiscogsやWikipedia、Jazzdiscoなどのサイトを巡回して情報を探し求めるのを繰り返すのは大変です。

たとえば今このアルバムをAmazon Musicで検索すると、こんな風になっており、情報やクレジットが一切ありません。これはかなり酷い状況です。

本来こういったカタログというのは、絞り込み検索で「トミー・フラナガンがピアノを弾いているアルバムを時系列で」とか、「旧ヴァンゲルダースタジオで録音されたアルバムをレーベル別に」といった具合にリストアップできれば(私のJRiverならそれが可能です)、同じ推薦盤ばかり延々と聴き返すのではなく、新たに自分の興味が向くままに開拓していく楽しみが生まれるので、せっかくストリーミングがあるのに、その機会を逃しているのがとても残念です。

おわりに

今回は2021年のジャズを色々と見てきたわけですが、もちろん今回紹介した以外でも優れたアルバムは沢山出ていますし、あくまで私の趣味で選んだので、それらとは全然違うスタイルのジャズも多数あります。

2021年に聴いた作品の多くはBandcamp経由で購入したもので、その勢いは衰える気配を見せていません。たとえばEDMだとJunoやBeatportなんかのほうが細かいジャンルやBPMごとの検索に対応していて人気なので、ジャズもそのように独自のニーズに合ったプラットフォームが主権を握ることはあるかもしれませんし、クラウドファンディングやパトロン形式が増えてくる可能性もありますが、アーティストが作り上げた作品に関してストリーミング以外で収益化する道筋は確立しているという事です。

では大手レーベル、たとえばブルーノートやインパルスなどを所有するユニバーサルミュージックなどは何をやっているのかというと、正直それら伝統のあるレーベルを持て余している様子が伺えます。

新譜はほんの数枚しかありませんし、それらのほとんどがベテラン専属契約アーティストの定期的なリリースか、もし若手を起用するとしても、雑誌やソーシャルメディアでのプロモーションを見ても、ジャズというよりもジャジーな雰囲気を売りたがっているというか、ジャズに興味がないレーベル社員が、ジャズに興味がない客層に、ジャズっぽい音楽を売り込もうとしているような印象が強いです。

私の勝手な印象ですが、大手レーベルが推している最近のジャズには三つの傾向があり、どれも私みたいなジャズファンとしてはそこまで積極的に聴いていません。

まず一つめは、ストリーミング向け、もしくはインテリ企業CM系ジャズです。クラシックの記事でも言いましたが、最近サブスクでジャズのランキングを見ると「リラックス」とか「おやすみ」みたいな目的別プレイリストでの再生が圧倒的に多く、そこで気に入られて収益化を望むなら、当たり障りのない最後まで聴かせる作品が求められます。ようするに感動的なオスティナートというか、ピアノで同じアルペジオを延々と繰り返して、だんだんと途中からドラムやシンセなどが段階的に入って盛り上がっていく、インテリっぽいミニマル崩れのような作品です。つまり高揚感はあるけれど、作曲の展開部やブリッジも、演奏による個性も一切なく、ただ情景に引き込んで最後まで聴かせたらフェードアウトさせるという感じです。音楽自体に強い感情を呼び起こさずに高揚感や特別感だけを演出するためにCMなどでよく使われるような音楽が、ジャズのプレイリストに多くなってきました。(今後TVやYoutubeなどの企業CMを見たら音楽に注目してみてください)。

二つめはアフロルーツ系、たとえばアフリカっぽい神秘性や民俗っぽさを入れると売りやすくなるという事、これはBLM運動とかも関連していると思うのですが、やはりその筋の専門の演奏家を起用せずにファッションや若気の至りだけでイキった社会性を入れていると、どうも陳腐で凡庸になってしまう、という作品が結構多かったです。実際にアメリカの若手音楽家が民族音楽に詳しいかというとそうでもなく、なんとなく雰囲気だけで押し通して、しかも評論家もそちらの専門家ではないので一緒に乗ってしまう、という感じです。例えるなら、日本をイメージした作品を作るのに、アジアっぽいからと中華風なメロディーとか二胡や銅鑼を入れて合掌してお辞儀をするような感じに近いです。もちろん真剣に取り組んでいる人もいますが、大手レーベルが推したいアーティストというのは、その道の権威とかよりも、若者が共感を持ってくれるようなスターが欲しいわけで、そのあたりのバランスが難しいようです。

もう一つは、ここ数年でフュージョンやファンクなどリバイバルを経過してきたわけですが、ここへ来てトリップホップ、ブレイク、アシッド、ニュージャズのリバイバルが増えてきたように思います。ようするに、80年代までにメインストリームから一旦消滅したジャズが、ダンスミュージックのネタとして再評価されて再生した時代の音楽ということです。まるでジャイルス・ピーターソンのラジオにタイムスリップしたかのように、インコグニートかブラン・ニュー・ヘヴィーズかと間違ってしまうようなダンスチューンや、ブルーノート復活の立役者US3とかSt Germainみたいなノリの良いビートが多くなってきました。

ジャズが多方面に広がっていき市民権を得るのは嬉しいですが、私としては、古いベテランアーティストとか社会派のインテリ風とかだけじゃなくて、もっとジャズの演奏と作曲に力を入れているミュージシャンが世に出る機会が増えて欲しいです。

では何がジャズで、何がジャズではないのか、という話になると、私の勝手な定義では、スウィングしていなければジャズではない、というのが大前提で、もっと具体的に言うなら、ジャズのリズムやドラミングがジャズの定義だと思います。新譜を聴いて、開幕からドラマーがロックだと「あっ・・・」と落胆してしまいます。

ロックのドラムやEDMの打ち込みにジャズっぽいトランペットソロとかを入れた作品は、むしろロックやEDMのジャンルで売るべきで、ジャズのカテゴリーでジャズファンが聴きたいニューアルバムを埋もれさせてしまっているのが困ります。私も毎週欠かさずチェックしていても、そういうのの影に隠れて、凄い新人の新譜を見逃しているのではという心配が常にあります。

コロナ前だったら、ニューヨークなどの主要なジャズバーで今ちょうど公演しているバンドをチェックしてみる、というのが一番簡単なジャズの聴き方だったのですが、最近はそうもいかないので、2022年も黙々とBandcampなどで新譜を漁ることになりそうです。