2024年8月20日火曜日

HiBy FD5 デスクトップDAC ヘッドホンアンプの試聴レビュー

 HiByから変な新製品が出たので試聴してみました。FD5という名前で、公式サイトによると「サイバーパンク・デスクトップHiFi」だそうです。

HiBy FD5

ACアダプター駆動のUSB DACヘッドホンアンプで、Bluetooth入力もあります。デザインはたしかに奇抜ですが、音質はどうなのか気になります。現時点では日本未発売です。

FD5

中国のHiByは新たなジャンル開拓に怯まないあたりに好感を持てます。

少し前のHiBy Digital M300というDAPも公式サイトにて「Gen-Z Music Player」と明記してありましたし、今作FD5はサイバーパンクがテーマだそうです。Gen-Zのように対象年齢が限定されないのは良いですが、それにしても、このデザインにゴーサインを出せるメーカーというのは凄いです。

ちなみにFD5というモデル名はFiioのイヤホンとかぶるので、もうちょっとオリジナリティが欲しいところです。

これを書いている時点では日本ではまだ発売されていないようですが、US$430なので6-7万円くらいでしょうか。

全体的なデザインはFiioのようなゲーミング路線というよりも、どちらかというと超合金とか80年代のハリウッドSci-Fiを連想するスタイリングで、直近のHiBy R4 DAPとの共通点も多いです。公式サイトによると「サイボーグ・インスパイア」デザインだそうです。

私としてはDigilentとかArduino用ケースを連想しますし、昔の人ならMDプレーヤーっぽいサイズ感というと伝わるかもしれません。単純に機能だけを見ればiFiのZenシリーズに対抗するような商品にあたるのでしょう。

奇抜なデザインとは裏腹に、用途としては至極シンプルなUSB DACヘッドホンアンプです。目立った機能としてはBluetooth入力があるくらいで、それ以外にはストリーミング機能やS/PDIF、アナログライン入力なども一切ありません。

D/Aチップは旭化成AK4493EQを四枚搭載、クラスA・ABを切り替えられる強力なヘッドホンアンプ回路を採用しています。Bluetooth入力ではSBC・AAC・UAT・LDACに対応しており、aptX系は非対応のようです。

好き嫌いが分かれそうなシャーシデザインなのは明らかですが、個人的に、良い点と悪い点がそれぞれあります。

画面の発色が鮮やかです

まず良い点ですが、小さいながらもカラーOLED画面があり、発色がかなり良いです。この画面のおかげで実物を見た時の高級感が格段に向上します。

各機能の状態がアイコンとして色分けされており、限られたスペースを上手く活用しています。

中華系オーディオブランドというとラベルや画面のフォントデザインが壊滅的にダサいというのが周知の事実だったのですが、今回FD5がそれを覆してくれました。

さらに、上面のガラスパネルを通して見えるガンメタルの放熱フィンのようなデザインも、実際の機能性は薄いと思いますが、デザインとしてかっこいいです。FD5の「5」ロゴとスリットがカラーLEDでアクセントになっているのも良いです。シックな北欧家具とかが好きな人には絶対に合わなそうなデザインですが、サイバーなコンセプトとしては筋が通っています。

悪い点は二つ思い浮かびます。まず、一見プラスチックに見えるシャーシが実は重厚なアルミ削り出しなのは良いのですが、それ以外のノブやスイッチ類が全部チープなプラスチック製なのが残念です。

ユーザーインターフェースの観点から言えば、むしろユーザーの指が触れるノブやスイッチ部分にこそ高級素材をあてがうべきです。FD5はその真逆なので、実際に使ってみるとカチャカチャと安っぽい手触りに落胆してしまいます。

USB→Bluetooth切り替え

とりわけ本体上面にある三角形のボタンはアイキャッチでもあるので、できれば金属製にしてもらいたかったです。しかも、このボタンはBluetoothとUSB入力を切り替えるという単一機能しか持たないのも意外でした。

せっかくボリュームノブがエンコーダーなのだから、ボタン長押しで設定画面に移行して、DACフィルターなどを切り替えられると思っていたところ、そのような機能はありません。

そのかわり本体側面に二つのスライドスイッチがあり、これらでアンプのハイ・ローゲインとクラスA・ABモードの切り替えを行います。

側面スイッチのラベルが読めません

設定が画面表示にも反映されるのは良いのですが、黒い印字はほとんど判別不能ですし、画面の位置関係とも関連していないため、どちらのスイッチがどの機能なのか毎回戸惑います。まるで画面とシャーシのデザイナーが別々に設計していたかのようで、このあたりのUI設計は未熟です。

フロントパネル

フロントパネルには3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスヘッドホン出力のみというシンプルな構成です。

ボリュームノブの位置から、縦置きも考慮しているかと思ったのですが、スタンドなどは付属していませんし、公式写真を見ても横置きのみのようです。

背面

背面にはACアダプター入力と電源スイッチ、そしてその上には入力用のUSB Cとライン出力端子が用意されています。

前面のヘッドホン出力端子とは別にライン出力専用端子があるのはありがたいです。

私が普段使っているHiBy RS6 DAPなんかもライン出力専用端子があるので、HiByのこだわりなのでしょう。特に今作は据え置きDACとしてオーディオ機器に組み込む用途にも活用できます。

iFiもそうですが、最近は4.4mmをラインレベル用途に使っているメーカーも増えてきたので、ケーブルメーカーから4.4mm→ 2×3pin XLRラインケーブルの選択肢も増えてほしいです。

モジュール分離

二段重ねの構造が気になっている人も多いと思います。

こちらはコネクターで分離できるようになっており、下側は電源モジュールなので、セットでないと機能しません。つまり分離できる意味が無いのですが、将来的に拡張モジュールとかがスタックできるのでしょうか。(iFiのZen Streamみたいなストリーマーが出たら面白いかもしれません)。

シャーシ面積に対してコネクターが端にあるので曲げや捻じれの強度的に不安になるところ、上下モジュールがかなり強固なマグネットでくっつく設計になっています。組み立ての際にはマグネットに抗いながらコネクターをピッタリ合わせる必要があるので意外と厄介です。磁力が相当強いので腕時計や置時計なんかは注意が必要です。

電源モジュールの中身

電源回路

ちなみに、ACアダプターのDC入力なのに、わざわざ電源モジュールを用意する意味があるのか、どうせ中身はスカスカな配線だけだろうと思って分解してみたところ、かなりしっかりした電源回路が入っていたので驚きました。

三端子レギュレーターが三つあり、いわゆるパソコンのATX電源のように各DC電圧を独立出力する仕組みです。

iFiのZenシリーズとかは別売の高品位ACアダプターや電源フィルターモジュールとかを販売して音質アップを主張するビジネスモデルなので、それに対するアンチテーゼでしょうか。ここまでしっかりしていればACアダプターの品質とかも気にならないでしょう。(調べませんでしたが、12VDC直結線があるなら話は変わってきますが)。

Fiio K7と比較

iFi Zen DAC + CAN、Fiio K9

背面

参考までに、同じくらいの価格帯の据え置きDACアンプと並べて比べてみました。それらの中でもFD5はサイズ的にはFiio K7やiFi Zenシリーズよりも一回り小さいくらいでしょうか。どちらも卓上で使うならそこまで変わらないサイズ感です。

Fiio K9くらいになると、オーディオラックに入れる本格派っぽくなってくるので、そこまでガチっぽいのは敬遠する人もいるかもしれません。個人的にはACアダプターよりもK9のようなIECコンセント電源の方がスッキリして好みです。

接続時の注意点

今回試聴するにあたって、意外なトラブルに半日ほど費やしてしまいました。試聴機を借りて、いざ使ってみようと思ったところ、どうにもUSBデバイスとして検出されないのです。

FD5の電源は入っていて、液晶画面も表示しているのに、パソコンやDAP、スマホなど、ありとあらゆる接続を試しても全く無反応なので、不良品かと思って諦めかけていました。

実はFD5は「先にヘッドホンプラグを接続しておかないとUSBが反応しない」という、不思議な仕組みになっています。これさえ知っておけば、なんてことはないのですが、私みたいに初回で困惑する人は多いと思います。

また、この謎の仕様のため、イヤホン・ヘッドホンを抜き差しするたびにUSB接続が切断するので、毎回Androidアプリで接続認証をするのが面倒ですし、パソコンでもデフォルト出力先が変わってスピーカーから音が出るなどで戸惑います。(むしろそれを意図しているのでしょうか)。

出力

いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて歪みはじめる(THD > 1%) 最大出力電圧 (Vpp) を測ってみました。

赤線がバランス、青線がシングルエンドで、それぞれハイ・ローゲインが選べます。破線は背面のライン出力端子で、こちらもボリュームノブとゲイン設定が反映されますので、ラインDACだけでなくプリアンプとしても活用できます。

ヘッドホン出力はバランスで最大22.6Vppつまり8Vrms発揮しており、これは公式スペックどおりです。ちなみにクラスA/ABモード切り替えは出力にほぼ影響しません。

同じ信号で無負荷時にボリュームを1Vppに合わせたグラフです。据え置きという事もあって、ヘッドホン出力は横一直線の定電圧を維持してくれています。出力インピーダンスは0.3Ωあたりとかなり優秀です。ここまで低いとイヤホンケーブルの影響の方が大きいでしょう。

ライン出力は相当な高インピーダンスなので、グラフ横軸を1000Ωまで伸ばす必要がありました。バランスで約330Ωという正真正銘のライン出力です。

色々なヘッドホンアンプと比較してみたグラフです。製品ジャンルごとにどれくらいの出力が期待できるのか参考になります。

まず最大出力電圧を見ると、FD5は据え置き型としてそこまで高電圧ではないことがわかります。これは高インピーダンスのヘッドホンを鳴らす時の最大音量に影響します。

FD5よりもポータブルDACアンプのFiio Q15の方が若干上ですし、iFi Audio Zen Can Signatureは低価格ながら圧倒的です。(この高出力が仇となる場合もあるので、それについては後述します)。

ただし、最近はヘッドホンもイヤホンも低インピーダンス化が進んでいるため、グラフ左端の30Ω以下あたりに注目すべきです。このへんならFD5、Zen Can、Q15など出力の落ち込み具合はほとんど同じです。

先日試聴したiBasso DX180やHiBy R6 IIIなどのDAPは、最大出力電圧だけでなく低インピーダンス側のパワーも限界が低いです。

それらと比べるとFiio K9やK7は30Ω以下のパワーが強力ですし、高級据え置きDACヘッドホンアンプの例として載せたFerrum Erco 2は全体的に他を圧倒していることがわかります。K9とErco 2のどちらもACアダプターではなくコンセント電源なのも関係しているかもしれません。ちなみにK9のグラフのみ段差があるのは、歪み始めると保護回路で電源が落ちる設計になっているためです。

実際そこまでの高出力や大音量が必要なのかは疑問ですが、静かな音量で聴いていても音楽のダイナミクスの迫力を引き出すには高出力が必須だという意見もありますので、単なるヘッドホンアンプでもモデルや価格帯ごとに十分な差があるという事実は知っておくべきです。

試聴時の不具合

実は今回FD5の試聴時に致命的なバグに遭遇したので、ファームウェアが修正されるまでブログにレビュー上げるのを保留しようと考えていたのですが、条件によっては影響されない人もいますし、報告のためにも書いておこうと思いました。

バグというのは、「USB接続でDSDファイルを再生すると音がモノラルになってしまい、それ以降PCMファイルを再生してもモノラルのままになってしまう」という、音楽鑑賞の根幹を脅かす致命的な不具合です。電源を再起動するか、一旦Bluetoothモードに切り替えてUSBに戻ればPCMはステレオに戻ります。

DSDを再生すると・・・

上の画像はFD5にてPCMとDSDファイルを交互に再生しながらヘッドホン出力を録音したもので、ステレオの左右波形を重ねたものです。

IE600

最初のPCMファイルは明らかにステレオ再生されており、次のDSDファイルは本来ステレオ音源なのにモノラルになっており、次に最初のPCMファイルをもう一度再生してみるとモノラル化しているのがわかります。

先行試聴機とかではなくて海外の店頭に並んでいる製品版なので、私の使った個体だけの問題ではないと思いますが、発売時に報告してから三週間ほど待っても公式サイトにて修正ファームウェアが見られません。(これを読んでいる時点ではすでに修正されているかもしれません)。

ようするにDSDファイルを再生しない人には無関係の問題ですが、私はクラシックのファンということもあってDSDを結構持っているので、これは困ります。

音質とか

そんなわけで、DSDは除外して、PCMファイルのみで試聴することにしました。自前のHiBy RS6 DAPからのUSB OTG接続です。

据え置きアンプ比較

据え置きアンプということで、身近にあったアンプと交互に聴き比べたりしました。

FD5が6-7万円なのに対して、K7は35,000円、K9は8万円、Zen DAC+CAN Signatureのセットで9万円くらいです。ちなみにZenシリーズは先日新型のV3が出ましたが、まだ試聴できていません。

まずは大型ヘッドホンを鳴らしてみることで、ボリュームやパワー感が十分かどうか確認してみます。

DT770 PRO X

DCA E3

最近よく使っているベイヤーダイナミックDT770 PRO XやDan Clark Audio E3を鳴らしてみたところ、どちらもシングルエンドでも音量に困ることはありません。

写真に試聴時の音量が見えますが、DT770はハイゲインモードで52/100、平面駆動型のE3でも78/100だったので、そこそこ余裕があります。

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AlphaレーベルからP.ヤルヴィ指揮シェーンベルクとフォーレのペレアスを聴いてみました。どちらも同じテーマの表題音楽で演奏時間的にも一枚にカップリングされやすい演目です。

とくにシェーンベルクとしては初期作で聴きやすい作品なので、むしろ全盛期フォーレの方が前衛的と思える部分すらあります。どちらにせよ複雑なわりに各楽章が短いので、気に入ったトラックだけ選んでオーディオ試聴曲としても活躍してくれます。

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もう一枚、フォーレつながりのシンプルな演目として、Nonesuchレーベルからメルドーの「Aprés Fauré」を聴いてみました。

ジャズピアニストがクラシックに手を出すと、時代に沿わない勝手なアレンジなどで作品の意図を崩す傾向があるのですが、今作は至極真っ当で真摯に挑んでおり、アルバム中盤ではインスピレーションを受けた自作曲を挟んでいるあたりも好印象です。Nonesuchらしく抜けの良い高音質です。


HiBy FD5の音質の第一印象としては、同価格帯のポータブルDAPよりもリラックスした余裕があり、ステレオ音像はコンパクトで、比較的落ち着いた、安定感のある鳴り方という感じです。

とくにオーケストラのような複雑な楽曲でも、派手に発散するとか、勢いに任せるといった感覚ではありませんし、高解像でシャープに刺さるような感じでもないので、イメージとしては上質なライフスタイル系アンプとして、パソコンの傍らで気軽に使うのにちょうどよい音作りだと思います。

とくに電源の余裕からか、E3のような平面駆動型を鳴らしても音が軽くならず、全帯域が安定して駆動できている感覚がありますし、さらに、密閉型ヘッドホンでも響きが過剰にならず、アンプがドライバーをしっかりと制動できています。

非力な車でスピードを出すと制御不能になるのと同じように、非力なアンプだと、音量が十分なように思えても、音が暴れてコントロール不足に感じてしまいますが、FD5ではそういう心配はありません。

ちなみにクラスAとABモードは違いがあまり感じられませんでした。最近は多くのDAPやアンプが導入している機能ですが、私の耳では、AK PA10のように違いが感じられるものと、今回のようによくわからないものがあるようです。

Focal Stellia

ヘッドホンを色々と試した結果、FD5はFocal Stelliaのような密閉型との相性が良いと思いました。

Stellia以外でもCelesteeなど、Focalヘッドホンはハウジング内の響きを多用する芸術的な鳴り方なので、DAPでは響きが留まらず過剰になってしまいがちですが、FD5の安定した鳴り方が音像に土台を与えてくれて、聴き疲れせずに楽しめます。他にもMezeやZMFなど最近流行りの響きが強めのヘッドホンに向いています。

さらにもう一点、FD5はそこまで音色に艶を加えるような美音系のアンプではないので、とくにソロピアノなど生楽器の音色を味わいたい場合、Focalのように質感に注力したヘッドホンと組み合わせると良い結果が得られます。

逆に、DT770 PRO Xなどモニター系ヘッドホンでは、FD5はちょっと安定しすぎて無難な印象もあります。いわゆる三角形のようなプレゼンテーション、つまり安定した中低域の土台に、高音の鮮やかさやキラキラ感はそこまで強調されないタイプなので、音楽に派手さやパンチを期待している人は別のアンプの方が良いです。

DT770 PRO Xなら、たとえばiFi Zen CANの方がギラギラした力強さや押し出し感があり、オーケストラ曲などでは音量を上げることでダイナミックな迫力が体感できます。これくらいの価格帯だとヘッドホンとアンプの相性が顕著に現れるため、優劣の順位はつけがたいです。

Dan Clark Audio E3くらいのハイエンドな平面ヘッドホンになると、相性に囚われず純粋にヘッドホンアンプの性格や性能差が評価できるようになります。

私の場合、E3で順位を決めるなら、ほぼ価格順に並びました。Zen CANはやはり大味すぎて、一昔前のワイルドなサウンドが楽しめるものの、最新の高音質楽曲とかで細かな質感や立体的な空間描写を味わうには物足りません。同じiFiでも高価なSignature iCANではそれが実現できているので、やはり価格相応ということでしょう。

Fiioと比較すると、K7とK9のあいだにFD5が収まるようです。K7は解像力やレスポンスはそこそこ優秀でも、FD5で得られるような土台の安定感がありません。単純に低音の量というわけではなく、その低音が音響全体との整合性が取れているか、空間に違和感があるか、という点だと思います。K7ではどんな音楽を聴いてもフワフワと宙に浮いているような感覚があり、それをホログラフィックと感じる人もいるかもしれませんが、私としては、どうにも不安定で非現実的に感じます。

一方Fiio K9になると、そのような不安定さが払拭され、FD5と同様の安定感や空間の正しさが体感できます。さらに、三角形のようなFD5のプレゼンテーションとは対照的に、K9では高音の情報量が増して、頭上の空間が広がります。いわゆる音抜けが良くなるのですが、シビアなエッジ感は少ない優秀な仕上がりです。FD5はこのあたりが不足しているので、カジュアルにゆったり聴くなら良いのですが、もっと音源の情報を聴き込むような使い方ではK9の方が有利です。

余談になりますが、K9の上にK9 Proという上級機がありますが、そちらはギラギラした鮮やかさを主張しすぎているような感じがして個人的に好みに合いませんでした。OLEDテレビで彩度MAXにした感じというか、私が普段聴く生楽器系の音楽とは相性が悪いようです。スタジオマジック全開の打ち込み楽曲なら良いと思います。

さらに、先程の出力グラフにも入っていたFerrum Audio Ercoという35万円の高級DACアンプが身近にあったので、それも比較してみたところ、やはりFD5とは大きな差が感じられます。

面白いのは、ErcoはFD5のような安定した三角形のプレゼンテーションで、高音もそこまで派手ではない、リラックスした鳴り方なのですが、音色そのものの魅力がFD5よりも格段に上です。声や生楽器だけでなく電子音でもグッと来る何かがあり、思わず音色に集中してしまいます。このあたりが測定では表せない部分なのでしょう。

ErcoはFD5と同じサウンドだと言うとFerrum Audioに怒られてしまいそうですが、そういう意味ではなく、FD5のサウンドを気に入って、さらに上を目指すなら、Fiio K9よりもFerrum Audio Ercoの路線になるようです。

UE Live

据え置きアンプというと大型ヘッドホンをイメージするかもしれませんが、これくらい小型の卓上機ならIEMイヤホンを鳴らしたい人も多いと思います。自前のUE LiveやゼンハイザーIE600などで聴き比べてみました。

そんなIEM用途にもFD5はかなり良いです。ノイズが低いのはもちろんのこと、音質以前に、ローゲインモードでボリュームエンコーダーの調整範囲がちょうどよいため、DAPを使うような感覚でイヤホンを鳴らす事ができます。

Fiio K7やK9もイヤホン駆動は優秀です。K9はボリュームノブが通常のAカーブではなく、50%くらいまでは非常に緩やかで、そこから一気に大音量になる仕組みなので、イヤホンでも細かな音量調整が行えます。ただしイヤホンのケーブルは短いためアンプを間近に置く必要があるので、その点では大きなアンプは不利です。

Zen CANのみイヤホンには向いていません。ボリュームノブがエンコーダーではなく古典的なポットなので、小音量時には左右ステレオギャングエラーが目立ちます。先ほどのグラフでも見た通りゲインが高すぎるので、イヤホンでは最小ゲインでもうるさすぎて、ボリュームを絞ると左右の片方しか音が鳴らなくて、なかなか上手くいきません。Zen DACなどソース側の音量を落とすという手もありますが、そうなるとノイズが目立ってしまいます。(新型V3で改善されているか不明です)。

そんなわけでイヤホンで聴き比べてみたところ、やはりFD5は同じ価格帯のDAPで鳴らすよりも音に落ち着きがあり、安定しているように感じます。電源回路が優れているからでしょうか。先ほどヘッドホンで感じた音作りと一致しています。

派手さや鮮烈さとは真逆の、コンパクトにまとまった、親しみやすいライフスタイル系の音作りだと思います。サイバーパンクというテーマやデザインからは想像できないような、むしろ北欧家具っぽいリラックス感があります。

全体の雰囲気としてはカジュアルなのに、ノイズが少なく、帯域間のクセが少ないあたりは意外と珍しい仕上がりかもしれません。

そもそもIEMイヤホン程度なら自宅でもDAPで鳴らせば良いのでは、というのも一理あると思います。私としては、FD5と同価格帯のHiBy R6 III DAPと比べるなら、FD5の方が良いと思います。ステレオの広がり、音場の展開はR6 IIIの方が有利なのですが、そのせいか音が薄まっているような物足りなさがあります。FD5は音場がコンパクトになるものの解像感は損なわれず、聴きやすくまとまっています。その上のR6PRO IIやRS6だと10万円を超えてしまいます。

Fiio Q15

FiioはK9は良いとして、その下のK7を買うよりもポータブルDACアンプQ15の方が良いと思います。据え置き用の電源端子もありますし、サイズ的にもFD5とさほど変わりません。やはりK9のようなコンセント電源の大型モデルにならないと、据え置きとポータブルの境界線が曖昧なので、あえてZen CANやFD5のようなバッテリー非搭載の据え置き機を選ぶ実用上のメリットが薄い気がします。

それでも、FD5は音質面でのメリットが感じられる場合もあります。ポータブルDAPなら、屋外の騒音下で使うため、もうちょっと派手でエッジの効いたサウンドが欲しくなるところですが、静かなデスクトップ用途となるとFD5くらい落ち着いた方が良いです。ヘッドホンからIEMイヤホンへ音量を変えてもサウンド傾向があまり変わらないのも良いです。

感覚的な話になりますが、IEMイヤホンを購入する際、屋外用途を前提に派手なサウンドのモデルを選んでしまうと、自宅では聴き疲れして長時間使えない、という問題があります。私が持っている中だとUE Liveなんかがそれに当てはまります。その場合FD5で鳴らすと良い感じに収まってくれます。逆にゼンハイザーIE600はちょっと派手さが足りないため私は主に自宅メインで使っているイヤホンなので、こちらはFD5よりもQ15で鳴らす方が良いなど、理想を求めるとキリがありません。

おわりに

HiBy FD5を「据え置きUSB DACアンプ」として見ると、そこまで多機能でもありませんし、値段も高くもなく安くもない中堅どころとして、相対的な位置づけが難しいです。

iFi Audio Zenシリーズの対抗馬というあたりが妥当だと思いますが、価格や出力はFiio Q15などポータブルDACアンプといい勝負ですし、そうなるとバッテリー内蔵の方が便利だし・・・などと色々と考えてしまい評価に迷います。むしろ私が根本的なメリットや需要に気づいていないのかもしれません。

個人的にFD5のユニークな点として「一見派手なドンシャリ系かと思いきや、実は落ち着いたリラックス系サウンド」という、外観デザインとサウンドの不一致が挙げられます。個人的に、この手のサウンドならB&Oみたいなエレガントなデザインを連想します。

このあたりは日本の大手メーカーとかの方が上手です。ソニーやJVCなどのラインナップを見ると、LED発光のトランスフォーマーみたいなデザインのパーティーマシンと、イソップの店内に置いても違和感が無いようなナチュラル系と、それぞれ機能やサウンドも作り分けています。その点HiByやFiio、iBassoなどはサウンドとデザインを連携させた製品コンセプトが甘い印象があります。ようするにFD5のデザインで、自称サイバーパンクを冠するなら、ド派手なEQや、ゲーム用DSPサラウンドモードとか、ビートでLED発光が連動するくらいのギミックを期待したくなります。

ともかく、デザインさえ許容できればサウンドや操作性は良好なので、デスクワークの傍らにサブ機として置いておくには便利なモデルです。ヘッドホンを接続しないとUSBが切断される点だけは個人的にあまり好きではありません。

デスクトップ据え置きDACアンプは中華系ブランドだけでもSMSLやTopping、さらに上にShanlingやCayinなども存在しますから、かなり競争の激しいジャンルです。

そんな中でFD5は「DSDを再生するとモノラルになってしまう」というバグに今回悩まされたので、数多くのライバルを差し置いてFD5をあえて薦める意欲が薄れてしまいます。

今後ファームウェアアップデートで修正すれば済むとは思いますし、もし日本で発売するのなら、それまでに治っていると願いますが、海外ではすでに流通しているわけですし、私の考えとしては、こういう致命的な不具合は発売前に少しでもテストすればすぐに判明するはずなので、それが疎かになっているとしたら困ります。

それはさておき、私もメインのオーディオシステムとは別に、なにか気軽に使えるコンパクトな据え置きDACアンプが欲しいところなので、今回のFD5みたいなモデルは興味があります。一昔前のモデルでも音質は素晴らしいものは多いですが、しかし4.4mmやUSB-Cなど利便性という観点でも新型が欲しくなります。

FiioもK11やK19など新作を続々出しているあたり、この手のDACアンプは市場の需要があるようですし、近頃はAndroid DAPよりも活気のあるジャンルだと思うので、これから優れた新作が続々登場してくれることを願っています。


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