Forte EarsのMacbeth とMefistoという二種類のイヤホンを試聴してみたので感想を書いておきます。
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Forte Ears Macbeth & Mefisto |
私は今回初めて知ったメーカーなのですが、独創的なデザインと尋常でない価格という表面的なインパクトに対して、サウンドは意外と真面目で良いという噂を聞いたので、興味がわいてきました。
Forte Ears
Forte Earsというのはシンガポールにあるイヤホンメーカーで、公式サイトを見ても、現時点では今回紹介する二機種とケーブル(それと謎のマスコットフィギュア)しか販売していないという、明らかに小規模な新興ガレージ系メーカーのようです。
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公式サイトより |
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極めて個性的なデザイン |
赤いMacbethと黒いMefisto、どちらも世間一般のイヤホンではなかなか見ない、修学旅行の土産店で見るような中二病感溢れるデザインはインパクトがあります。
価格はMacbethがUSD$3999、Mefistoが$2899ということで、イヤホン市場の中でも最高級の部類に入るため、今回このブログで紹介すべきか迷ったのですが、実際に音を聴いて感想を書いてみたくなりました。
公式サイトによると、Forte Earsの社長は以前Hifimanに在籍しており、そこから独立して起業したようです。そもそもForte EarsはHifimanからのDNAを継承しているか不明ですが、だいぶ高価なモデルですから、単なる思いつきではない経験豊富なチームによって作られているという安心感は大事です。
Macbethは「5BA + 2骨伝導 + 4 静電型」で、Mefistoは「4BA + 2DD + 2平面型」という構成なので、上下関係というよりも、音作りの思想が根本的に異なっているようです。
単純に考えれば、まずフラッグシップのMacbethを作ってから、次は同じ作業工程でドライバー数を減らした廉価版を作るのがビジネスプランとしては正解なところ、そこをあえて全く違う二種類を世に送り出しているあたりに真剣度合いを感じます。
デザイン
Macbethというとシェイクスピアですが、Forte Earsの公式解説によるとヴェルディのオペラの方からインスピレーションを受けたということで、オペラが大好きな私としては嬉しいです。たとえば自動車とか動物からインスピレーションを受けたというよりも、音楽作品からという方がオーディオメーカーとして共感が持てます。
最近は高級イヤホンメーカーが乱立しており、多くの場合ハイテクガジェットとしての評価軸が先行して、実はそこまで音楽に興味が無い人が開発しているのではと思えてしまうこともよくあり、その点Forte Earsは珍しい存在です。
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ギラギラしています |
シェルデザインは明らかに好き嫌いが分かれそうです。私はデザインを見て一歩引いてしまいますし、街中で装着するとなると服装も選びそうで難しいです。
王冠と剣に派手な宝飾や赤色のエナメル加工と、だいぶ世間一般のイヤホンデザインから逸脱しています。ちなみに銀色の部分は銅にロジウムメッキを施したものだそうです。
ロストワックスで自作シルバーアクセを作るとかが趣味な人なら共感してくれそうですが、そういう人と高級イヤホンユーザー層がどれくらい重なるのかは不明です。それでも他社の高級イヤホンはラグジュアリーファッションを模倣するライフスタイル系デザインが多い中で、あえて逆張りでクラフト工房系のこだわりを押し出すのは面白い試みです。
たとえばShenzhenaudioやLinsoulなどオンラインショップを観覧すると、どのメーカーも鉱石や宇宙っぽいラメ入りプラスチックシェルばかりなので、試聴して気に入ったモデルがあっても全部デザインがそっくりで結局どれだったか忘れてしまうのがよくあります。そんな中で一度でも見たら絶対に忘れないデザインというのは大事です。
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もっと派手なEmpire Ears |
それにしても、Macbethのデザインは派手すぎて自分には厳しいと思っていたところ、同時期に試聴したEmpire Ears Odin IIと比べれば地味に見えてしまいます。やはりこれくらいの価格帯になると、派手なイヤホンを人前で堂々と装着できるような勇者を想定して作られているのでしょう。
外観デザインはさておき、Macbethの中身については、ドライバーがAcoustic Resonance Chamber (ARC)というチャンバーユニットに組み込まれており、クロスオーバーは5WAYで、5BAの中でも低音用ドライバーについては"Diablo" Exclusive Sonion Customized Bass Driverというのがセールスポイントとして強調されています。
最近の高級マルチドライバー型イヤホンというと、今作のように骨伝導や静電型ユニットを含めたハイブリッド構成が主流になり、昔のようにBAユニットの数だけで価格や音質を競い合う時代ではなくなりました。
単純にドライバー数だけでなく、それらを音響的に有効な配置で組み込む技術的ノウハウと組み立て精度の重要性が浸透してきたので、たとえ同じようなドライバー構成であっても、適当に詰め込まれたイヤホンと、熟練技術で丁寧に調整して組み上がったイヤホンではサウンドが全然違い、そのあたりが価格設定に反映される時代になったように感じます。
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Mefisto |
Mefistoの方は多少落ち着いていて、これなら出先で使っても悪目立ちしないギリギリのラインでしょうか。こちらもゲーテ原作の方ではなくグノーのファウストとボーイトのメフィストフェーレという二つのオペラから音楽的なインスピレーションを受けたそうです。
銀製のフェースプレートはクロームハーツとかビジュアル系バンドのアクセサリーを彷彿とさせ、下の方から悪魔の爪が迫り上がってくるデザインは、やはり中二病感が見え隠れしています。
こちらは高音用に"Aria"という名称で平面型ドライバーを採用しており、さらに低音側にも二つの7.8mmダイナミックドライバーを搭載しているということで、Macbethよりもワイドレンジで派手目なサウンドだと想像できます。
わざわざMacbethは静電型でMefistoは平面駆動型とそれぞれ使い分けているのも面白いです。どちらが上というものではなく、高音の質感や空気の表現が違ってくるので、聴き比べるのが楽しみです。他のイヤホンでの経験としては、静電型ユニットの方が最高音に空気感を加えるスーパーツイーター的効果があり、一方平面型ユニットはもうちょっと広く中域から上をクッキリと高レスポンスで描く用途に適しているという印象があります。
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形状は同じです |
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Unique Melodyと比較 |
MacbethとMefistoはシェル形状自体は同じようで、近頃の典型的なIEMのフォルムを踏襲しています。Unique Melodyとかを使い慣れている人だったらフィットに問題は感じないと思います。
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一般的な2PIN端子です |
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剥き出しの2PIN端子は嫌いです |
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試聴機のピンが曲がってました |
ところで、今作に限った話ではありませんが、もうそろそろ2PIN端子がシェル表面に露出しているデザインはやめてもらいたいです。
広く普及しているのでケーブルの互換性という点でも独自形状を避けたいのは理解できますが、どのメーカーもこの端子部分は高価なイヤホンに不釣り合いなチープな見た目ですし、実際に今回の試聴機を受け取った時も2PINが根本から曲がっておりヒヤヒヤしました。もしピンが折れて抜けなくなったら一巻の終わりです。
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付属Eletechケーブル |
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線材が違います |
付属ケーブルはどちらもEletech社製の四本編み込みタイプを採用しています。Macbethの方は26AWG OCC銅リッツ線で、Mefistoは25AWG 銀 + 銀メッキ銅 + 銅の組み合わせだそうです。
素人目ではMefistoのケーブルの方が銀色で高級そうに見えますが、それぞれイヤホン本体の特性に合わせて選定しているのでしょう。たとえばBrise Audioなどの例を見ても、最高級のケーブルはむしろ銅線の品質を突き詰める方向へ回帰する印象があります。その方が余計なクセが少ないのかもしれません。
Eletechもシンガポールのメーカーですし、そもそもForte Earsと同じオフィスにあるので、具体的にどのような関係かは不明ですが、コラボレーションとして最適のパートナーなのでしょう。ちなみにEletechでもさらに高価なケーブルシリーズはコネクターの彫刻などMacbethやMafistoに負けないくらい派手なので、せっかくならそっちを付属すべきでした。
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Eletech Baroqueイヤピース |
イヤピースも同じくEletech社製のBaroqueというタイプが付属しています。余談になりますが、このBaroqueというイヤピースは単独で買うと2ペアで3,500円とかなり高価なのですが、意外と無視できない存在です。
普通のイヤピースと比べて確実に音が良くなるという保証はありませんが、社外品イヤピースで迷っている人は試してみる価値があると思います。見た目も手触りも極めて凡庸なので、私も3,500円払うべきか散々迷ったのですが、実際に装着してみると、しっかりした安定感のわりに押し広げる圧迫感が少なく、しかもSpinFitやJVCのようにヌルヌルにならず、イヤピースの世界は奥が深いと実感できます。
適当に安価なイヤピースで十分と思っている人は、イヤホンの潜在能力を引き出せていない可能性があるので、定評のあるものをいくつか買って試してみることをおすすめします。たかがシリコンゴムに数千円は確かに高すぎますが、イヤホンやケーブルをあれこれ買い替えるのと比べれば安い出費です。
インピーダンス
いつもどおり再生周波数に対するインピーダンスの変化を確認してみました。
公式スペックによると、Macbethは7.3Ω・104.2dB、Mefistoは5.6Ω・105dBとあります(dB/mWでしょうか)。
それにしてもインピーダンスのアップダウンが激しいですね。この手のハイブリッドマルチドライバー型はだいぶ見てきたので、もはや驚かなくなってきました。Mefistoは低域にダイナミックドライバーを搭載していることや、高域にMacbethの静電式とMefistoの平面型といった両者の違いが現れています。
どちらも全域で5Ωを下回らないのはありがたいですが、それでも難しい負荷をしっかり駆動できるアンプが求められます。イヤホンの場合、肝心なのはアンプの最大出力が何ワットという話ではなく、出力インピーダンスの低さや電源の安定度合いなどが重要です。
音質
今回の試聴では普段から使い慣れているHiby RS6とAK SP3000 DAPを使いました。最高級イヤホンということで、しっかりしたプレーヤーで駆動したいです。
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AK SP3000 |
まず双方のフィット感についてはシェル形状からケーブルの取り回しまで全く同じなので、比較試聴への影響は無さそうです。イヤピースも付属のEletech Baroqueがとても快適で、私が普段よく使っているAZLAのMaxも良好です。
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マクベスではありませんが、オペラつながりでベッリーニ「ノルマ」の新譜を聴いてみました。Pier Giorgio Morandi指揮トランシルヴァニアフィルで、歌手陣もMelody Mooreを筆頭に強力です。
ノルマは往年カラスの名盤が強すぎて、新録となると差別化のため風変わりな独自路線に走る傾向にありましたが、今作は極めてパワフルな王道解釈です。とくに最近は演出家の凋落のせいで実際の劇場公演から足が遠のいてしまい、自宅で過去の名盤ばかり聴いているというオペラファンも多いと思うので、今作のように真面目な新録は非常に助かります。しかもSan Francisco Classical Recording Company(SFCRC)のロゴがジャケ左端にあり、その期待を裏切らない素晴らしい録音品質です。
MacbethとMefisto、それぞれ交互に聴き比べてみると性格がだいぶ違います。Mefistoの方が安いからドライバー数を削って簡略化したというようなものではなく、それぞれが独立したコンセプトで頂点を目指しているような印象です。
実は今回、私の身の回りでMacbeth派とMefisto派にほぼ半々で分裂しており、しかも「どちらも良いけど、強いてい言うなら・・・」といった微妙な差ではなく、好き嫌いが明確に分かれています。
まずMacbethの方をじっくり聴いてみます。全体的に丸く落ち着いたサウンドで、とくにハイブリッドマルチ型としては意外なほど温厚に整っています。なにか派手なインパクトを期待していると肩透かしをくらいますが、時間をかけて聴くことで、その潜在能力の高さが伝わってきます。
骨伝導や静電型ユニットを搭載するならば、どうしてもそれらの存在を強調するサウンドに持っていきたくなるところ、Macbethはむしろ逆に、各ドライバーの役割分担を意識させない、全域で統一感のあるサウンドを心がけているようです。
それでもシングルドライバー型とは感触が異なり、ドライバー単体の能力とハウジングの勢いに任せるのではなく、各ドライバーを丁寧に吟味して、下から上までしっかりと厚みを持たせて音を敷き詰めている感覚があります。例えるなら、新鮮な食材の力に任せるのではなく、熟練シェフが仕上げた複雑なフレンチのソースみたいな感覚でしょうか。おかげで派手さは控えめでも帯域は狭く感じないという絶妙な仕上がりです。
Macbethという名前の先入観かもしれませんが、オペラとの相性が抜群に良いです。試聴に使ったアルバムでも、開幕の重厚なバスから突き抜けるようなテノール、そしてソプラノに至るまで、歌手の描写が素晴らしく、オケとの対比も明確です。
空間音響が無作為に発散せずに、自然な音場が形成される中で熱い歌劇が繰り広げられるため、視点をフォーカスできて、集中力が途切れずにずっと聴いていられます。
もっと四方八方に広がる壮大なスケール感を演出できるイヤホンの方がオペラには適していると思えるかもしれませんが、そのタイプのイヤホンだと、歌手よりもオケに翻弄されて聴きづらかったり、とくにマルチドライバー型の場合、中域のクロスオーバー設計が蔑ろにされて、特定の声域が詰まって息苦しいといった不具合がよく見られます。
声の再現性は、単純にイコライザー的な周波数帯調整ではなく、もっと細かな単位での位相差干渉、時間経過の過渡特性、ノズルの指向性などが関わってくる部分なので、測定ではなく人間の耳による判断が求められ、Macbethはそのあたりがとても上手に仕上がっています。たとえば自分の演奏を録音して聴き返したことがある人なら、生音との違いによる違和感を抑えることが重要になりますが、そのような努力がMacbethから伝わってきます。
また、オーケストラの中低域が十分太いのにもかかわらず、空間と時間の両方で遅れを取らないように調整されており、舞台展開の推進力になってくれます。歌唱とオケの両方が力強くグイグイと前へ進んでくれて、しかも解像力や周波数特性も優秀で隙がありません。
低音の量感だけに気を取られているイヤホンだと、立ち上がりも減衰もワンテンポ遅れてしまい、無意識に足を引っ張り冗長さにつながります。それを嫌って、あえて低音を削ってでもテンポ感を損なわないイヤホンを好む人も多いわけですが(UE-RRなどが好例です)、Macbethでは十分な重さとタイミングの正確さを両立できているため、まさにオペラのような複雑な生演奏の勢いを味わうのに最適です。世間一般の高級イヤホンの音作りに納得できず行き詰まっている人はMacbethを試してみる価値があります。
声色の質感表現については、美音系というよりは比較的無難に収めてあり、そのあたりはアンプ側に任せることになります。一般論として、アンプと比べてイヤホンの方がクセを取り除くのが難しいため、アンプはクリーンなレファレンス性能を求めて、イヤホン側でウッドや真鍮など自分好みの味わいを求めるという方が筋が通っています。
しかし最近はディスクリートDACや真空管アンプなど個性豊かなサウンドを選べる時代になっており、そうなると過度に美音系のイヤホンよりも、Macbethくらい実直に収めた音色の方が、再生機器側との組み合わせで表現の幅が広がります。
低価格帯のイヤホンであれこれ個性を楽しむというのも面白いのですが、さすがにMacbethくらい高価なイヤホンで、濃い味付けの一本調子で飽きてしまうのも困りますから、イヤホンは余計な演出を加えず、アンプのモード設定などに任せる方が最近の使い方としては理に適っています。
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Vision Ears VE10 |
個人的にMacbethを結構気に入った理由として、先程挙げたUE-RRや、他にもWestone UM-PRO5・Mach80など、音作りの方向性を気に入っているのに発展が止まってしまったジャンルのサウンドの上位互換という感覚もあります。同じ路線の現行機種ではVision Ears VE10(VE-ZEN)なども近いと思います。
VE10を例に挙げると、高価なわりに派手さはありませんし(その点ではVEでもEXT2やXCONの方が面白みがあります)、下手なDAPで鳴らすとモコモコして詰まっているようなもどかしさがあります。
MacbethはVE10ほどの扱いづらさはなく、素の状態で十分に満足できる仕上がりを見せてくれるあたりは一枚上手だと思いますが、どちらも単なる解像力や帯域スペックではなく、再生機器との相乗効果で歌唱や生楽器などの自然な音色を追求できるあたりは性格が似ています。
Macbethのサウンドをまとめると、まず複雑なハイブリッドマルチ型にも関わらず、それをあえて主張しないような音作りなので、そういう派手なタイプのイヤホンはすでに聴き飽きたベテラン玄人向けと言えます。つまり他の高級イヤホンを聴き慣れている人でないとMacbethの特色や魅力は伝わりにくく、値段にも納得できないと思います。
さらに、中域の質感に特化したサウンドなので、DAPなど再生機器の能力に大きく左右されます。再生機器がMacbethの表現力の上限を定めている感覚があるため、自分が納得できる音作りの機器を選んで合わせることが求められます。もっと音色の美しさを押し出すならSP3000よりもRS6の方が良かったですし、そこにCayin C9iiをを追加するのも素晴らしいです。このように、意欲さえあれば色々な試みにしっかり応えてくれるため、長く付き合えるイヤホンです。
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Mefisto |
つづいてMefistoの方に移ります。Macbethよりも音量が若干大きく感じるので、DAP側でボリュームの微調整が必要です。
公式スペックによると駆動能率はMacbethとほぼ同じはずなのに、それ以上の音量差が感じられるのは、スペックは1kHzでの測定数値なのに対して、Mefistoは中域以外が派手目なのでしょう。
実際に聴いた感じもそのとおりで、Mefistoの方が高音も低音もクッキリと出るタイプのサウンドです。ただし量を盛っただけのV字ドンシャリではなく、可聴帯域外までスッキリ伸びていくため、音量を上げていってもギラギラした耳障りな派手さではなく精密な描写が維持されます。
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Amazon |
フュージョンジャズ系レーベルACTから新譜でdaoud「ok」を聴いてみました。トランペットのリーダー含む通常メンバーの七人と、さらに曲ごとにゲスト八人というスケールの大きなアルバムです。
ファンキーなニュージャズからドラムンベース風まで、フランスらしいグルーヴ感の強いスタイルで、シンセを多用した打ち込み系リズムと生楽器演奏の融合が上手くいっています。
とりわけMefistoの特徴が活躍してくれるアルバムとして選びました。トランペットのソロに集中するならMacbethの方が生音っぽくて聴き応えがあるのですが、このアルバムはソロ主体というよりも全体の雰囲気の一部として溶け込ませる作風なので、派手なステレオエフェクトを多用したシンセやギターを肌で浴びて、低音もズーンと体に響くようなサウンドに没入するためにはMefistoの方が断然有利です。
低音に焦点を当てると、先程のオペラのバス歌手のような腹から出る重厚な声の質感を堪能するなら、Macbethの方が中低域全体にしっかり厚みを持たせているため良いのですが、リズムを刻むためのシンセ低音では、Macbethで聴くと中域にも被ってしまうためスカッとした抜けがなく邪魔に感じます。
Mefistoでオペラを聴いても、高音はソプラノよりも上のパーカッションや空間エフェクトの3D的な広がりが目立ち、低音はバス・バリトン歌手の声色の部分がだいぶ消極的で薄味になってしまい上手くいかないのですが、そこから100Hz以下の重低音になると一気に盛り上がり、パンチとスピード感を持って鳴らしてくれます。自分が普段聴いている音楽で、低音がズンズンとリズムの役目で使われているならMefistoを選ぶべきです。
Macbethと比べると、低音がBAではなくダイナミックドライバー、高音が静電型ではなく平面駆動型といった違いが効いているようです。いわゆるクロスオーバーのイコライザー的な音量調整ではなく、ドライバーそのものの特性によって音の質感を調整している感じです。
こういった特殊ドライバーの扱いが下手なメーカーだと、リスニング音量によってバランスが崩れたり(各ドライバーごとの電圧・音量の比率が一定ではないなど)、さらに音量を上げていくと歪んで破綻するケースが多いのですが、Mefistoはそうではありません。
私にとってハイエンドイヤホンの重要な定義の一つとして、音量を変えても鳴り方が変わらないというのがあり、Forte EarsはMacbethとMefistoのどちらもそれを実現できているため、どんな音量で聴いても音質の評価がおおむね一致してくれます。これができていないイヤホンだと、聴く人ごとに感想や評価が変わってしまいますし、店頭の騒音下で大音量で試聴した時は良かったのに、いざ購入して自宅の静かな環境であらためて聴いてみると「なんか違う」と思えてしまうリスクがあります。
MefistoとMacbethの向き不向きは、もうちょっと考えてみると、やはり楽曲の作り手の周波数帯域分割の考え方に影響されるようです。
試聴に使ったACTアルバムのようなスタジオミックスでは、ロックやポップスと同じように、各楽器パートが他の楽器と干渉せずクリアに聴き取れるように、明確な帯域幅を割り当てられています。再生ソフトのスペアナとかで見るとわかるとおり、キックドラムは30~70Hz、シンセベースは70~90Hz、トランペットは800~1500Hzといった具合に、たとえばトランペットだけ単体で取り出して聴いても高音や低音がバッサリとカットされており、生楽器とは全然違う不自然な鳴り方ですが、全体のミックスの中で引き立つように、あえてそのように余白を持たせて調整するのがミックスエンジニアの腕前です。
この場合、キックドラムの帯域、シンセベースの帯域、ハイハットの帯域といった各パートごとの描き方に最適なドライバー選定やクロスオーバー調整を行うことで、シングルドライバーで無理矢理を鳴らそうとするよりも、もっと広いレンジやダイナミクスを柔軟に表現することができ、Mefistoはまさにそのようなスタイルです。
Mefistoの弱点は、やはりMacbethが得意とする声楽や生楽器の再現性です。たとえばアコースティックギターのソロ演奏を聴くとして、胴体の箱鳴り感はダイナミックドライバー、トップ材の響きはBA、金属弦の輝きは平面駆動型といった具合に、質感が異なるデバイスが役割分担をしていると、どうしてもまとまりは悪くなります。もっと言うなら、ギターの前にコンデンサーマイクを一本置いて収録したのなら、同じく静電型ヘッドホンで聴くのが入出力の誤差が一番少ないと主張することもできるかもしれませんが、そのあたりを上手に工夫して再現できているのがMacbethの方です。
こんなふうに書くと、Macbethの方が本物で、Mefistoは偽物の音だと言っているように思うかもしれませんが、実際はそうではなく、世界中で大多数の人が普段聴いている楽曲は、声楽やクラシックギター独奏などではないので、Mefistoの方が大多数の音楽体験に合っています。肝心なのは、今作のような最高峰のイヤホンをもってしても両方を求めるのは難しく、それは最高級のスピーカーシステムであっても同じです。楽曲の作り手側の意図や、使っている録音編集機材も多種多様なので、我々リスナー側に絶対的な正しさが存在しないのは当然です。
Mefistoのサウンドをまとめると、Macbethと比べてMefistoの方が世間一般の高級イヤホンのトレンドに沿って仕上げてある印象を受けます。先程挙げたVision Ears EXT2の他にもQDC Emperor、Empire Ears各種など、世間で定評のある最高クラスのイヤホンと同じ土俵で勝負するならMacbethよりもMefistoの方が有利です。Macbethは特殊すぎて評価軸が揃いません。他社の高級イヤホンをあれこれ聴き比べて、どれを買うべきか決めかねている人はMefistoが候補に入りそうです。
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ケーブル交換 |
最後に、今回の試聴にてケーブルによる音質差というのが多少気になったので、そのあたりも確認してみました。
Mefistoの方がワイドレンジで派手目なサウンドだと思えたわけですが、Mefistoに付属していような銀入りケーブルはそのような傾向があると言われています。つまり単なるケーブルの違いによる影響という可能性も捨てきれません。
幸い一般的な2ピン端子なので、身近にあったケーブルを色々と試してみたところ、確かにケーブルによる影響は少なくないようです。
Macbethの方は付属OCC銅リッツ線ケーブルでのサウンドが一番満足でき、他のケーブルに変えるメリットは感じられませんでした。上の写真のような純銀系のケーブルに変えてると、もっと平坦で繊細なモニター系のサウンドになるので、気分転換としては良いです。逆に太いOFCとかだと勢いが鈍って損なわれる感じもあるので、結局Macbeth本来のサウンドを味わうために付属ケーブルに戻りました。
Mefistoはケーブルを変えるメリットが感じられました。それでMacbeth相当に変身するというわけではありませんが、低音と高音の両端が強調されるイヤホンだけあって、それらのバランス配分をケーブルで自己流に微調整することができます。私の場合はもうちょっとサラッと綺麗目に仕上げたかったので細めの純銀線に変えた方が良かったです。
それにしても、ケーブルの反応においてもMacbethとMefistoで性格の違いが現れるのが面白いです。独自のサウンドを重視するMacbethはそのままで良いのに対して、他社ハイエンドイヤホンと真っ向勝負するMefistoは、ケーブル交換であれこれ議論するイヤホンマニアの欲求も満たしてくれます。ただの偶然かもしれませんが、Forte Earsがそこまで意図して設計したのだとすれば脱帽です。
おわりに
Forte Ears Macbeth & Mefistoは外観の奇抜さの方に話題が行きがちですが、サウンドは正真正銘の本物です。私がこれまでに高級イヤホンを色々と聴いてきた中でもトップクラスに優秀な部類で、最高峰のサウンドとして選ぶ人も少なくないと思います。
小規模な新興メーカーにもかかわらず大手を凌ぐ完成度の高さに驚かされます。新興メーカーというと、独自ギミックに固執した一発芸になったり、もしくは逆に無難すぎて存在意義が見えないことがありますが、それらと比べてForte Earsは音楽的センスとレファレンスとしての普遍性が両立できています。
外観デザインがもうちょっと無難だったらと思う反面、もしそうであれば無数のイヤホンメーカーに埋もれてしまい注目されなかったかもしれないので、マーケティング的には有効なのかもしれません。
MacbethとMefistoのどちらも最高級にふさわしい素晴らしいサウンドです。私ならMacbethを選ぶと思いますが、好みが分かれるのも納得できます。
なぜMacbethを選ぶかというと、そちらの方が明らかに優れているというわけではなく、他社と比べて独立した音作りのコンセプトを実現できているからで、一方Mefistoはそこまで珍しさがなく、他のメーカーでもありそうなサウンドです(同じくらい高価になると思いますが)。
私では無理ですが、もし両方購入できるくらい余裕があれば、そうするのも損は無いです。私自身も、たとえばUnique MelodyのMest MK2とMEXTや、ゼンハイザーIE900とIE600など、なんだかんだで個性の違う二機種を両方手に入れてしまうこともあり、単純な優劣の上下関係ではない使い分けができて、どちらか片方を手放す気も起きません。
また、MacbethやMefistoくらいのハイエンド機になると、名匠の作る楽器のようなもので、モデルごとに独立したコンセプトをもとに作り込んでいるため、今後新型が出るとしても、単純な上位互換の後継機にはならないと思いますし、むしろ逆に全然違う音作りを目指す可能性も高いです。
数万円台のイヤホンであれば、同じ価格設定でもっとドライバー数や特殊部品を詰め込むなどの企業努力によって、新型が出ることでの段階的な進歩が実感できますが、MacbethやMefistoの価格帯になると、さすがにドライバーやケーブルなど部品単価で価格を決めているわけではなく、容易に真似できない音作りのセンスと職人技の人件費への対価になるので、中身がどうであれ、自分が本当に気に入ったものを買うという心構えが大事です。
新興メーカーゆえに、ただ運良く特別なものができたのか、それとも今後もっと凄いイヤホンを生み出すのかは不明ですが、現時点で一つの完成形として不思議な説得力があるので、手に入るうちに購入しておきたいという人も少なくないと思います。
アマゾンアフィリンク
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