Campfire Audio Lyra II, Vega, Dorado |
高音質と斬新なデザインのおかげで、2015年発足の新興メーカーとしては異例のペースで知名度を得たCampfire Audioですが、新作リリースのペースも速すぎて、なかなかついていけません。
今回試聴したのは2016年11月に登場した新作シリーズで、ダイナミックドライバ搭載の「Lyra II」と「Vega」、そしてダイナミック+2BAのハイブリッド型「Dorado」の三機種でした。
私自身は半年ほど前にBAドライバ型の「Andromeda」というモデルを購入しているので、それとも聴き比べてみました。
Campfire Audio
以前Andromedaイヤホンを試聴した時にもちょっと紹介しましたが、Campfire Audioというのは米国オレゴン州ポートランドにある小さなガレージメーカーで、ALO Audioというブランドでヘッドホンアンプやオーディオケーブルなんかも販売しています。
今回試聴したラインナップ |
以前からALO Audioブランドのヘッドホンアンプはマニアから好評を得ていましたが、それらに見合うレベルのイヤホンを自前で作りたいという意志から設立されたのがCampfire Audioだそうです。
米国公式サイトにある動画でも見られるように、本当に小さな町工場みたいなところで、社長自らせっせと設計開発に取り組んでいるような会社です。
イヤホンの製造工程も手作業のロット生産なので、各モデルごとに一度に出荷できる台数が限られており、人気商品となると、なかなか手に入りにくいです。各国の代理店に周期的に在庫を送っているので、一度品切れになると「次期入荷待ち」が延々と続いてファンをイライラさせます。大量生産では味わえない手作りの魅力にあふれたイヤホンメーカーなので、文句は言えません。
Campfire Audioイヤホンの魅力は、常識にとらわれない「優れた技術力」を、しっかりと「優れたサウンド」に反映出来ていることだと思います。
社長が最先端科学のノウハウに長けており、なかなか他社では検討できないような画期的なアイデアでも、少量生産というフットワークの軽さを活かして商品に続々投入していくスタイルなので、新しいイヤホンが出るたびに、今度はどんな音がするのだろうというワクワク感があります。自動車におけるスーパーカー・メーカーのように、真面目に開発を進めた結果、常識を覆すようなとんでもない斬新なモデルが出来てしまう、といった面白さがあります。
イヤホンラインナップ
2015年Campfire Audio設立時のデビューモデルは、ダイナミックドライバの「Lyra」と、BAドライバ1基の「Orion」、BA4基の「Jupiter」というラインナップでした。すでにこの時からダイナミック型とBA型の両方を手がけているのは凄いです。
2016年には、BAドライバ2基の「Nova」と、5基の「Andromeda」が登場し、価格やサウンドの好みに応じて選択肢が広がりました。
この時点では、ダイナミックドライバ型の「Lyra」のみが特別なセラミック(ジルコニア)製ハウジングを採用しており、残りのBA型モデルは全てアルミ削り出しハウジングでした。
残念ながら、Lyraに使われていたセラミック製ハウジングは、音響特性は良いものの、形状を削り出すための製造工程が難しすぎて、コストの割が合わなかったということで、2016年に生産中止となりました。
セラミックということは、瀬戸物の食器を削るようなものなので、その過程で頻繁に割れたりして、歩留まりが悪かったようです。なんでも、専門の加工業者に依頼したところ、成功率はたったの一割で、残りの九割が廃棄処分になったそうで、これでは商売にならない、という結論に至ったそうです。もちろん完成品は落としたりしない限りは割れる心配はありません。
そんなわけで、一度は登場したダイナミック型イヤホンが販売中止になってしまったため、その後継機はいつ出るのかと期待していたところ、今回Lyra復活のみでなく、上位モデルのVegaと、ハイブリッド型Doradoという三機種が一気に登場しました。
AndromedaとVegaの比較 |
話は逸れますが、BA型ラインナップはこれまで通り、Orion、Nova、Jupiter、Andromedaの4機種が健在です。
ただし、Andromeda以外のBA型イヤホン三機種は、新たにモデルネームに「CK」と付き、「Orion CK、Nova CK、Jupiter CK」になりました。CKというのはCerakote(セラコート)という特殊な表面処理を意味します。
これまではアルミ削り出しにアノダイズド処理を行っていたのですが、実は私のAndromedaを見ると、半年使っただけで、角の部分とかの色が剥げてきています。そこで、新たにセラコートという硬質なセラミックコーティングを施すことになったようです。手触りも、従来のツルツルしたアノダイズではなく、ザラザラしています。
Andromedaも、公式サイトを見ると、CKモデルと同時期からは商品説明に「Zirconium blasted aluminum」と書いてあり、写真でもなんだかザラザラしています。CKモデルのセラコートでは無いものの、なにか仕様変更があったのだと思います。
気になったので私のAndromedaと最新ロットを比較してみたところ、写真で見えるとおり、確かに表面処理が明らかに違います。私のやつは、ケース内でボコボコぶつかっていたと思うので、かなり傷が付いていますが、それ以外でも、表面に切削跡が見えますが、新型では見えませんね。あと細かいところでは、ネジもトルクスから三角タイプに変わっています。ジルコニアというのは多分、切削後にサンドブラスト処理をして、グリーンのアノダイズ処理の食いつきを良くさせているのでしょう。
Andromedaの新ロット(右)と、私物の初回ロット |
気になったので私のAndromedaと最新ロットを比較してみたところ、写真で見えるとおり、確かに表面処理が明らかに違います。私のやつは、ケース内でボコボコぶつかっていたと思うので、かなり傷が付いていますが、それ以外でも、表面に切削跡が見えますが、新型では見えませんね。あと細かいところでは、ネジもトルクスから三角タイプに変わっています。ジルコニアというのは多分、切削後にサンドブラスト処理をして、グリーンのアノダイズ処理の食いつきを良くさせているのでしょう。
あえて買い換える程のことでもないですが、確かに剥げやすいので、マイナーチェンジがあったとしても不思議ではないですね。
Lyra II、Vega、Dorado
そもそも初代Lyraは「セラミックハウジングが音響的に優れている」ということが大きな魅力だったわけで、いくら製造が困難だったからといって、後継機ではセラミックは捨てて、アルミとかプラスチックになっていたら嫌だな、なんて思っていました。
左からLyra II、Vega、Dorado |
しかし、さすがCampfire Audioですから、余計な心配は無用でした。今回の新ハウジングはセラミックの代わりに、画期的な新素材「Liquid Alloy Metal」で造られていると書いてあります。このLiquid Alloy Metalというのは、他にもLiquidmetalなど商標はいくつかあるのですが、いわゆる金属ガラスとかBMGと言われている材料のことです。
金属ガラスは最近スポーツ用品などでも使われるようになってきたので、ここ数年で知名度が高くなってきました。
ジルコニウムと銅など、特定の金属類の配合で合金を作ると、一般的な金属のような結晶構造ではなく、ガラスのように「結晶構造を持たない」性質になる材料のことです。
結晶構造を持たないということは、普通の金属よりも数倍硬くなりますし、音の伝達が速くなり、金属特有の過剰にキンキン響く「鳴り」が発生しないメリットがあります。
また、通常のガラスやセラミックと異なり、金属ガラスは400℃くらいの低温度で柔らかくなり、粘土のようにモールドできるので、あまり大規模な設備投資が要らず、少量生産に適しています。
大手メーカーの場合、大量生産で数万ユニットを一気に作るためには、金属ガラスのような高価な材料を使うよりも、大規模な量産施設でプラスチック射出成形したり、鋳型でダイキャストするほうコスト的メリットがあります。
逆に、Campfire Audioのような小ロット製造では、たとえ高価であっても次世代材料を採用することで、製造コストを抑えて、より狙い通りの理想的音響を得られるというメリットがあります。
新素材ですが、手触りは金属ダイキャストみたいです |
一般的な金属の場合、たとえばチタンとかは硬質で音響的にも良好な特性だと言われていますが、融解する温度が1600℃以上なので、型に溶かしてモールドするのはほぼ無理です。そのため、業者から大きな塊を購入して、専用の工作機械で削り出すという高価な作業が必要です。
アルミなら600℃くらいで溶けるのでダイキャストとかも可能ですが、柔らかくて響きやすいので音響特性は理想的でありません。マグネシウムはアルミよりも響きを抑制できるのでオーディオ機器で多用されていますが(ソニーのイヤホンとか)、酸化しやすく切削が面倒ですし、型に溶かす鋳造技術も困難で、大規模な設備投資が必要です。
真鍮とかは、トランペットなど楽器で使われるだけあって、中高域の響きを強調するので、ハウジング素材というよりは、たとえば低音が豊かなドライバと合わせて、高音に響きを持たせるチューニング材としてよく使われています。
ようするに、今回Campfire Audioが採用したLiquid Metal Alloyという素材は、以前Lyraで断念したセラミック製ハウジングの音響的利点と、低温でモールドできる製造の容易さという二つのポイントを両立出来ている、素晴らしい新素材だと思います。
ダイナミックドライバの「Lyra II」と「Vega」は、どちらも同じ新素材ハウジングを採用していますが、搭載しているドライバが異なります。発売価格はLyra IIが約10万円で、Vegaが17万円くらいということで、結構な価格差があります。
どちらも8.5mmという比較的コンパクトなダイナミックドライバを搭載していますが、Lyra IIの方は旧モデルLyraと同様に「ベリリウムPVDドライバ」を搭載しています。
ベリリウムはマグネシウムに似た軽金属ですが、より硬く、音速が速いため、スピーカー用振動板としてはほぼ理想的な特性を持っています。ドライバ振動板は軽いほうが動きやすいのですが、柔らかいと捻れたり暴れたりして音が歪むので、「軽くて硬い」という相反するような特性が求められます。
PVDということで、薄いベリリウム金属シートを切り貼りするのではなく、蒸着によってベリリウムの薄い膜を形成する手法を使っているようです。この方が、シート素材を使うよりも、よりセラミックに近い硬い性質が得られるので、いくつかのハイエンドスピーカーブランドでも採用されている高度な技術です。
一方、より高価な方の「Vega」は、8.5mmドライバに「Non-crystalline Diamond」を使っているそうです。これも最近注目されている材料で、一般的には非結晶ダイヤモンドとか、DLC(Diamond Like Carbon)と称される素材の一種です。
Apple Watch黒色モデルのコーティングに採用されたことで知名度が上がった新素材で、主な用途としては、金属などの上に、ダイヤモンドの硬さを持った薄膜をコーティングする事ができる技術です。
一般的に、ダイヤモンドというと、ひとつの大きな結晶ですし、以前からあった工具やフライパンの「ダイヤモンドコーティング」というと、細かなダイヤモンドのクズを表面に接着する方式なのですが、最近話題になっている非結晶ダイヤモンドというのは、まず薄膜とかの上に黒鉛(グラファイト)を塗って、そこに特殊環境で強力なレーザーを当てることで、無理矢理ダイヤモンド結晶の膜に変化させるという技術です。
このようにして作った素材は、シート状の薄膜なのに、ダイヤモンドと同じ特性を持っているということで、夢の新素材として注目を浴びています。硬くて薄いコーティング処理として、エンジンのピストンとか、激しい動きや摩耗が発生するところで活用されていますが、その一方で、ダイヤモンドというと非常に硬いので、イヤホンのドライバとしても理想的な特性を持っているようです。
最後に、ハイブリッド構造の「Dorado」ですが、価格は約13万円ということで、「Lyra II」と「Vega」の中間に位置するモデルです。
値段からも想像できるように、Lyra IIと同様の8.5mmベリリウムPVDドライバを搭載しています。
BAドライバは高音用に2基搭載しており、JupiterとAndromedaで採用されている「TAEC」という技術が使われています。サイト解説によると、TAECというのはTuned Acoustic Expansion Chamberの略で、BAドライバからイヤピースまでの音導管を3Dプリンターで作ることで、音響的にベストな形状が得られる技術のようです。
これまで他社の一般的なマルチBA型IEMというと、BAドライバから真っ直ぐのプラスチックや金属製チューブを接続しているため、高域が「詰まった」ように聴こえてしまうという難点があったのですが、このチューブの代わりにチャンバー部品を搭載することで、余裕を持った空気の流れを実現して、開放感溢れる高域が得られるということです。
ケーブル
初期のCampfire Audioイヤホンは「Tinsel Wire」という結構硬めのケーブルが付属していましたが、2016年中盤にNova・Andromedaが登場した頃から、全モデルが「Litz Wire」に変更されました。
単品で2万円くらいする高価なケーブルで、外見のキラキラ感も綺麗ですが、サウンドも中高域の開放感がありながら、シビアな刺激の少ない万能ケーブルです。他社のイヤホンのアップグレードにもお勧めできるので、そう考えるとCampfire Audioのイヤホン価格は割安感があります。
私のAndromeda付属のLitz Wireケーブルと比較してみると、新モデル付属のやつは3.5mm端子がスマホケースにぶつからないような形状に変更されているようです。
ちなみにLitz WireケーブルはオプションでAKタイプの2.5mmバランス端子バージョンも別売しています。
Campfire AudioはALOブランドで他にも色々なアップグレードケーブルを販売していますが、以前試してみた結果、結局このLitz Wireが一番無難で好みのサウンドでした。他のケーブルは、アップグレードというよりは、たとえば、より高音重視なら銀線、低域重視なら銅線といった感じに、味付けの違いを楽しむような感じです。
音質について
色々と珍しいテクノロジー盛りだくさんなCampfire Audioイヤホンですが、それが口先だけで肝心のサウンドが追いついていなければ話になりませんので、実際どんなものか試聴してみました。
試聴には、Cowon Plenue Sを使いました。バランス端子ではなく、通常の3.5mm接続です。イヤーチップはSpinFitのMサイズを使いました。
いわゆるソニーサイズのシリコンが使えます |
Doradoだけ音導管が長いです |
SpinFitではギリギリ奥まで入ります |
新モデルはどれも非常にコンパクトなおかげで、快適なフィット感が得られました。Shureなどのプラスチックシェルと比べると重量感はありますが、耳から外れたりすることもなく、ごく一般的なIEMイヤホンとして気軽に扱えます。
注意点として、Doradoだけ音導管が若干長いため、コンプライなど、イヤーチップの形状によってはドライバから鼓膜までの距離が結構離れることになります。
各モデルのスペックは
- Lyra II: 17Ω・103dB/mW
- Vega: 17.5Ω・102dB/mW
- Dorado:15Ω・107dB/mW
- Andromeda:12.8Ω・115dB/mW
といった感じで、若干の違いがあります。ダイナミック型のLyra II・Vegaのほうが能率は悪いですが、どれもインピーダンスは低いので、一般的なDAPで十分な音量が得られました。
Andromedaだけは感度が高すぎて音量が出過ぎるので注意が必要です。とくにアンプのバックグラウンドノイズとかも拾いやすいので、IEMに適した優秀なアンプやDAPを使う必要があります。それ以外のモデルはAndromedaほど過敏ではありません。
まず全体的な音質の感想ですが、どのモデルが特出して優れている、というわけではなく、各モデルごとに特徴的なキャラクターがあるような印象を受けました。単純にVegaが一番高価だから最高音質、ということでもなく、それぞれに明確な方向性というか、リスナーや音楽ジャンルとの相性みたいなものも感じます。
個人的にどれが一番好みのサウンドか、と尋ねられたら、たぶんAndromedaを選んでいると思います。今回のニューモデルの中では、Doradoに興味を惹かれました。
とくに意外だったのは、それぞれのドライバ構成などで予想していたサウンドとは間逆だったことです。いわゆるダイナミック型は低音やリラックス系で、ハイブリッド型は刺激的でパンチがある、なんていう通説とは正反対のキャラクターです。
まずダイナミック型で高価なダイヤモンド・ドライバを搭載しているVegaですが、このイヤホンは高域がかなりカッチリとしており、解像感の高い、スタジオモニターみたいなサウンドでした。ドライバのレスポンスが速いためか、一音一音の立ち上がりが非常に明確で、とくにパーカッションは小気味よく新鮮に聴こえますし、ヴァイオリンなど弦楽器も素直に鳴ります。
キンキンした響きはそこまで強くないので、たぶん新開発の金属ガラス製ハウジングが響きを上手にコントロールしているのでしょう。クリアでありながら刺々しい不快感は無いため、長時間集中して聴いてられる仕上がりです。
他社のイヤホンでいうと、ベイヤーダイナミックAK T8iEのようなゆったり広々としたダイナミック型サウンドとは真逆で、むしろゼンハイザーIE800や、ソニーMDR-EX1000とかに近く、さらにもうちょっと力強く音像が出るような印象です。
高音のプレゼンス帯域が充実しているため、楽器のイメージが上手に再現され、前方の距離感はあまり無いものの、しっかりと目の前にリアルな立体像を描ききれているのが優秀です。なんとなく、ソニーMDR-Z1000とかオーディオテクニカATH-MSR7やDT770、AKG K271みたいな、過度に膨らまず、原音を高速に再現できる密閉モニターヘッドホンサウンドを彷彿させます。
高音のプレゼンス帯域が充実しているため、楽器のイメージが上手に再現され、前方の距離感はあまり無いものの、しっかりと目の前にリアルな立体像を描ききれているのが優秀です。なんとなく、ソニーMDR-Z1000とかオーディオテクニカATH-MSR7やDT770、AKG K271みたいな、過度に膨らまず、原音を高速に再現できる密閉モニターヘッドホンサウンドを彷彿させます。
高音に若干の硬さを感じるため、音色そのものはダイレクトかつシンプルなので、いわゆる「美音に酔う」みたいな系統ではないです。これはエージングで変化するのかもしれませんが、開封して一週間も経っていない状態での試聴だったので、まだわかりません。低音もしっかりと的確に鳴る傾向で、高音と同じようなスピードがあり、無駄なハウジング由来の響きや膨らみは感じらません。ただ、量感はそこまで豊かではないので、どちらかというと高域寄りのチューニングがモニターサウンドを連想させるのかもしれません。
Vegaの一番の魅力は、ハイスピードなドライバと、高損失なハウジングのおかげで、イヤホン本体の余計な「響き」が抑えられていることです。そのため、録音そのものに記録されている楽器の響きや音色がリスナーにダイレクトに伝わります。逆にいうと、そもそも響きの少ないオンマイクなスタジオ録音だとホットで荒っぽく聴こえてしまうので、音圧が高いポピュラー系楽曲を聴く場合にはシビアに感じてしまうかもしれません。
次に、Lyra IIを聴いてみましたが、このモデルは旧Lyraと同じベリリウムドライバ搭載ということで、両モデルのサウンド傾向もだいたい同じでした。生産中止となったLyraの後継機を待ち望んでいた人にとっては、サウンドが劣化していないというのは嬉しいです。ほんの僅差ですが、私自身はどちらかというと旧LyraよりもLyra IIの方が好みです。
Vegaと比べると明らかに高域の派手さが低減しているので、双方を交互に試聴を繰り返すと、Lyra IIはなんだかモヤッとして物足りない印象を受けてしまいます。しかし実際Lyra II単独でずっと聴いているぶんには、コレはコレで十分良いな、と思えます。
VegaがゼンハイザーIE800とかスタジオモニター調のサウンドだとしたら、Lyra IIはゼンハイザーIE80のような系統の、オーソドックスなダイナミック型イヤホンらしいサウンドです。高音のプレゼンス帯域はVegaほど出ていないため、音像が前方から飛び出るような立体的リアリズムは感じられませんが、それゆえに音楽のジャンルを問わず、派手さは控え目で、バランスよく奏でてくれます。
IE80よりも中域のダイナミクスや音抜けがしっかりしており、とくにボーカル主体の音楽はとても味わい深いです。さらに音響チャンバーで低音を盛っているIE80と比べると、Lyra IIはVega同様にハウジングが響きをしっかりとコントロールしているおかげで、中低音が過度に膨らまないのが大きな利点です。ベースの音圧がボコボコと鼓膜を圧迫したり、残響が抜けきれず中高域に被ったりすることもありません。ただし全体的にVegaよりも緩い鳴り方なので、微細なサウンドを拾うような聴き方ではVegaの方が有利だと思いました。
旧モデルのLyraとLyra IIではサウンドに大きな違いはありませんが、Lyra IIの方がもうすこし緩やかに高音がロールオフする感じで、より高音の限界が気にならなくなったように感じます。どちらにせよ、派手に発散せず幅広いジャンルの音楽で使える万能タイプのイヤホンなので、たとえばゼンハイザーIE80やシュアSE215と同じ路線で、アップグレードを探している人には魅力的だと思います。
ハイブリッド型のDoradoは、Lyraの8.5mmベリリウムドライバと、高域用のBAドライバ2基を組み合わせたということで、なんとなくドンシャリ系サウンドを予想していたのですが、実際は案外そうでもありませんでした。
Doradoはとてもゆったりとした「まろやか」な音色で、とくにLyra IIよりもさらに低域の圧迫感が無く、音響にふわっとした距離感があります。モコモコしているわけではなく、低音から高音まで十分に広帯域で、音色そのものはしっかりと聴き取れるのですが、それでいて雰囲気が緩やかで、Vegaのようなモニター系サウンドとは真逆の、リスニング重視のサウンドだと思いました。
意外にも、BAドライバが攻撃的でなく、むしろもうちょっと派手さやキラキラ感があっても良いかも、と思えるレベルです。それでもちゃんと存在感は出ており、Lyra IIと比べると、高音の打楽器などが埋もれることなく、立体的にしっかり鳴っていることに気が付きます。ヴァイオリンなどはVegaの方がビシっと決まっていて魅力的に感じます。
ハイブリッド型といっても、マルチBAイヤホンに重低音用ダイナミックドライバを搭載したのではなく、あくまでDoradoの主役はLyra IIの8.5mmベリリウムドライバのサウンドであり、その弱点を補うために、ほんのちょっとだけBAドライバの力を借りたような音作りです。
そのおかげで、ベリリウムドライバが単独で全帯域をカバーするような重労働をしなくてもすむので、リラックスした鳴り方を実現できているのかもしれません。音色の隙間の余白部分とかが、とくに自然に感じられます。
BAドライバは、あえて高域の響きを過剰にギラギラさせず、アタック部分のスピード感だけを補うような使い方なので、なんだか物足りないけど、まあこれくらいで丁度良いかな、といった感じです。
Lyraよりも高域が出ているため、ハイブリッド型にありがちな、中域に穴が開いているような感覚はあります。個人的には中域の増強のためにもうちょっとBAが主張しても良いかも、と思いました。
中域の位相が狂って捻れているというほどではないのですが、それでも全体から見てボーカルやリード楽器のインパクトが弱いので、もっと派手に前に出てきて欲しい、と思うことが多々ありました。
全体的にリラックスできるリスニング体験を味わいたい人にはオススメのイヤホンですが、荒々しいエネルギーや刺激を求めている人には、熱気が足りないように聴こえると思います。
ようするに、「BA型イヤホンメーカーのハイブリッドイヤホン」ではなく、「ダイナミック型にBAのエッセンスをプラスしたイヤホン」なので、既存の商品ラインナップと被らない、Campfire Audioらしい絶妙なサウンドチューニングだと感心しました。
最後に、私の手持ちのAndromedaもせっかくなので比較してみました。ダイナミック型ではなくBAドライバ5基ということもあり、サウンドは新モデルのどれとも似ておらず、やはりBAとダイナミックは根本的に鳴り方が違うんだ、ということを実感させてくれます。
Andromedaは、数あるマルチBA型イヤホンの中でも、とくに疲労させない爽快感と、広々とした空間余裕を感じさせる見事な仕上がりです。とくに他社の場合、歌手にメガホンを使っているかのごとく中高域がうるさいモデルが多いのですが、Andromedaは主要楽器の音色そのものではなく、むしろその背景の音響空間を存分に表現してくれます。
たとえば、クラシックを聴けば、ヨーロッパの歴史的な教会、コンサートホールやオペラ座が体験でき、ジャズを聴けば、ニューヨークの老舗ジャズクラブの熱気が味わえるといった、雰囲気や空気感が充実した鳴り方です。
つまりAndromedaは、BAドライバ5基ということで、一番高解像っぽい先入観がありますが、実は一番ムード重視で雰囲気を味わうタイプのサウンドなのかもしれません。
響き過多ということは、楽器そのものの音色はむしろサラッとしており、一音一音のパワーや骨太さなんかは弱いです。そのため、歌手を聴いている時なんかは、バックミュージシャンの影に隠れてしまい、物足りなく感じることもあります。
また、低音もダイナミックドライバほどリアルに鳴るわけではないので、EDMや打ち込み系の低音をAndromedaで聴いてもあまり楽しくないですし、空気の不自然さも感じられます。これはやはりダイナミックドライバが得意としている分野なので、同じリラックス系と言っても、中低域にかけてはDoradoの方が一枚上手です。
ただ、DoradoとAndromedaの音色や周波数特性は異なるものの、双方が目指している雰囲気やプレゼンテーションみたいな感覚は非常によく似ているため、そこがやはりチューニングの上手さに納得できます。
「リスニング用イヤホンとはこうあるべき」というポリシーがあり、BA・ダイナミック型を問わず、それを実際に商品として実現できるノウハウがあることが、Campfire Audioの技術力の高さを実証しています。
Andromedaは、数あるマルチBA型イヤホンの中でも、とくに疲労させない爽快感と、広々とした空間余裕を感じさせる見事な仕上がりです。とくに他社の場合、歌手にメガホンを使っているかのごとく中高域がうるさいモデルが多いのですが、Andromedaは主要楽器の音色そのものではなく、むしろその背景の音響空間を存分に表現してくれます。
たとえば、クラシックを聴けば、ヨーロッパの歴史的な教会、コンサートホールやオペラ座が体験でき、ジャズを聴けば、ニューヨークの老舗ジャズクラブの熱気が味わえるといった、雰囲気や空気感が充実した鳴り方です。
つまりAndromedaは、BAドライバ5基ということで、一番高解像っぽい先入観がありますが、実は一番ムード重視で雰囲気を味わうタイプのサウンドなのかもしれません。
響き過多ということは、楽器そのものの音色はむしろサラッとしており、一音一音のパワーや骨太さなんかは弱いです。そのため、歌手を聴いている時なんかは、バックミュージシャンの影に隠れてしまい、物足りなく感じることもあります。
また、低音もダイナミックドライバほどリアルに鳴るわけではないので、EDMや打ち込み系の低音をAndromedaで聴いてもあまり楽しくないですし、空気の不自然さも感じられます。これはやはりダイナミックドライバが得意としている分野なので、同じリラックス系と言っても、中低域にかけてはDoradoの方が一枚上手です。
ただ、DoradoとAndromedaの音色や周波数特性は異なるものの、双方が目指している雰囲気やプレゼンテーションみたいな感覚は非常によく似ているため、そこがやはりチューニングの上手さに納得できます。
「リスニング用イヤホンとはこうあるべき」というポリシーがあり、BA・ダイナミック型を問わず、それを実際に商品として実現できるノウハウがあることが、Campfire Audioの技術力の高さを実証しています。
まとめ
今回試聴した新作イヤホンは、まさに三者三様といった感じで、どれが自分の好みに一番マッチするか、かなり悩ませてくれるラインナップです。これまでのJupiterやAndromedaといったマルチBA型イヤホンとは別系統の、新たなダイナミックドライバ搭載シリーズということで、あえて意図的に趣向を変えてきたようにも思えます。
確立された既存のデザインを真似て、とりあえずラインナップを揃えるのではなく、理想的なサウンドを実現するために、あの手この手でチャレンジを続けている、研究所みたいなイメージが浮かびます。
たとえば、DoradoにはLyra IIと同じベリリウムドライバが搭載されていますが、では上位モデルVegaと同じダイヤモンドドライバにBAを搭載したハイブリッドモデルは無いのか、なんて思ったりもします。しかし冷静に考えてみれば、Vegaはダイヤモンドドライバのおかげで高域が十分すぎるほど出ているため、ここにさらにBAドライバを搭載しても過剰になるだけでしょう。
その点、Lyra IIはダイナミックドライバらしい温暖なサウンドなので、DoradoはそこにBAドライバ特有の高域のキレを追加することで、良好な相乗効果が実現できています。
つまり、今回の新型Campfire Audioイヤホンは、基本としてLyra IIのダイナミック型サウンドから始まり、そこからさらに上のレベルを目指すために、ドライバそのものを軽く硬質にすることで生まれたのがVegaで、BA型ドライバをプラスすることで生まれたのがDorado、なんて流れが想像できます。
普段聴いている楽曲や、録音の品質とかでも趣向が変わるので、どのモデルがベストだとは言い切れないのですが、たとえばLyra IIはポピュラー系ボーカルをしっかり堪能できる中域の充実感があり、Vegaはハイレゾのクラシック楽曲を手に取るように解像してくれる明確さ、そしてDoradoはEDMやR&Bなどで音圧が不快にならず、明確な高域と豊かな低音をリラックスして味わえる余裕があります。
新開発の金属ガラス製ハウジングは重厚な輝きを放っていますし、装着感はあいかわらず手軽で良好なので、商品そのものの魅力が極めて高いです。ガレージメーカーにありがちな雑なデザインではなく、レザーケースやキラキラと輝くケーブル、そして美しいメタリックカラーのハウジングなど、一見みかけ倒しのジュエリーっぽいデザインなのに、中身は最先端の技術が満載されている、というギャップが面白いです。
Campfire Audioは確かにニューモデルが出るペースが速いですが、これまでに登場したモデルを振り返ってみると、決して新旧で買い替えを迫られるような売り方では無いですし、初代LyraやOrionなども、それだけでしか味わえない個性的なサウンドがあります。
あまり価格の上下関係とか、買い時とかを気にせずに、色々と試聴してみれば、きっと自分の求めていたサウンドのイヤホンに巡り会える、そんな幅広いニーズに答えてくれることが、人気の秘訣なのかもしれません。