2017年2月3日金曜日

ゼンハイザー HD6XX と HD650のレビュー

ゼンハイザーの開放型ヘッドホン「HD6XX」を手に入れました。

Massdrop × ゼンハイザー 「HD6XX」

「XX」のネーミングでわかるマニアもいると思いますが、アメリカMassdrop恒例の限定モデルです。2016年11月に予約受付が始まり、クリスマスシーズンに発送されました。HD650の廉価版としてゼンハイザーが製造した「Massdrop特注」ヘッドホンで、濃いブルーのスペシャルカラーが特徴的です。

サウンド自体は通常版HD650と同じということなので、すでにHD650を持っている身としては、そこまで欲しいというほどでもなかったのですが、US$199(約23,000円)と安かったので興味本位で買ってみました。

これ単体では、たいして書く内容も思い浮かばないので、今更ながら、傑作ヘッドホンHD650についても簡単に振り返ってみようと思います。


Massdrop

Massdropは米国にある「グループ購入型」オンラインショップで、このブログでも過去に何度か紹介したことがありますが、ヘッドホンなどのポータブルオーディオ商品が特に充実しています。

このショップの仕組みを簡単に説明すると、まずサイト会員による投票で人気商品の目処が立ったら、Massdrop社のスタッフ自身がメーカーのセールスマンと掛け合い、その商品を会員向けにバルク購入する条件で、販売単価を下げるというシステムです。

目当ての商品がサイトに掲載されたら、注文の受付終了日までに何人が購入に参加するかによって、全員分の購入単価がどんどん下がっていくという仕組みです。

受付が終了した時点で、到達できた最低価格が自動的にクレジットカード引き落としされ、追って商品が郵送される仕組みです。人気商品であれば一瞬の内に最大購入人数に達して終了することもありますし、逆に不人気商品であれば規定人数にとどかずキャンセルになる、なんてこともあります。

Massdropの仕組み

例えば写真にあるNuForceのイヤホンは定価$149.00の商品ですが、終了日までに購入希望者が10人に満たなければキャンセル、10人以上なら$69.99、25人以上なら$59.99で買えることになります。

進行状況グラフを見ると、すでに5人が参加しており、あと5人参加すれば、全員が$69.99で購入できることになります。また、その下のグレーのグラフで、さらに10人が$59.99なら参加することを決定しているので、つまりあと10人集まれば、全員が$59.99で購入できます。

メーカー側も、Massdropのシステムを有効に利用している場合が多く、たとえば、新興IEMメーカーやポタアンメーカーなど、新製品の店頭在庫を大量生産する前に、まずMassdropにて試験販売のような形でロット製造し、モデルごとの人気需要や、製品フィードバックを得たりなど、ひとまず小規模なスケールに抑えることで、リスク回避が行えます。

HD600・HD650・HD6XX

一年に数回、サイトの話題性を高めるために、Massdrop運営側のほうから大手メーカーに掛け合って「特別注文」モデルを限定販売することもあり、今回のゼンハイザーとのコラボレーションモデル「HD6XX」もそれの一環です。

大人気HD650をMassdrop専用に簡略化することで、米国での定価US$499.95(日本でのメーカー小売価格75,000円)から、US$199(約23,000円)に抑えたという商品です。

海外発送も受け付けているため、私の場合もすんなりと購入完了し、後日発送のメールがあり、しばらくして手元に小包が届きました。

AKG K7XXとFostex TH-X00

ちょうど一年前の2015年末には、フォステクスTH-X00というウッドハウジングの意欲的なリリースがあり、そのちょっと前にはコンパクトなヘッドホンアンプGrace Design m9XXや、精悍なブラックカラーのAKG K7XXなんかあったりして、なんだか毎年恒例のイベントになっています。他にも、HiFiMANによる$99のダイナミックヘッドホンHE-350など、ここでしか買えないモデルもあり、サイト上の紹介ページもけっこう熱意が感じられるので、マニア心をくすぐる良い運営方式だと思います。

このようなMassdrop限定モデルの場合、販売台数が決められているので(HD6XXは5,000台限定)、場合によっては販売開始当日に急いでネット注文しないと売り切れてしまうこともあります。今回のHD6XXはサウンド自体は通常版HD650と同じだと明記されてあったので、レア度も低いですし、そこまで焦って注文せずとも容易に購入できました。

もし人気商品をゲットし損ねても、好評なモデルはリクエスト投票に応じて数ヶ月ごとに再販される事が多いため、その辺は良心的です。再販するときは別カラーバーションにしたり、あの手この手で、商売上手なショップです。

再販する場合はカラー変更があったりします

AKG K7XXの時は、初回がマットブラックで、二回目はレッドのワンポイントが追加されていましたし、フォステクスTH-X00の時も、初回はマホガニーで、二回目はパープルハートという紫色の木材でした。

安さゆえに、「調子に乗って買ったはいいけど、結局使わない」という人も多いので、eイヤホンなどの中古でもよく見かけます。ようするに「限定」といっても高価なプレミアムモデルというよりは、むしろアウトレット品みたいな感じですね。もちろんメーカー公認なのでB級品とかではありませんし、ネットオークションなどで買うよりは安心です。

HD6XX

12月末に、アメリカからMassdrop社ロゴの入ったダンボールで送られてきました。

到着したダンボール

化粧箱がそのまま入っていました

ゼンハイザーらしくないモダンなデザインです

化粧箱はMassdrop専用デザインです。無印良品っぽく簡素なイメージを強調していますが、厚紙の質感なんかはとても良いです。

ハードケース付きなのは嬉しいです

箱を開けてみると、通常版HD650と同様の豪華な布張りハードケースが入っています。これまでのAKG K7XXやフォステクスTH-X00は値段相応のペラペラな紙箱だったので、今回のゴージャス感には素直に驚きました。

私がすでに持っているHD650は旧タイプの銀色ボックスのやつなので、この薄めのボックスは新鮮ですが、最近のHD650はこのタイプのパッケージなんですかね。

中身はこんな感じでした

低価格ながらしっかりとしたプレゼンテーション

Massdropロゴが印刷されています

本体はハードケースにそのまま入っており、デザインや形状はHD650と全く一緒です。

カラーは「ミッドナイトブルー」ということでしたが、実物を眺めてみるとほとんどブラックかグレーといった感じで、注意して見比べてみると、「茄子みたいな濃い紫」っぽい色合いです。

ほぼブラックに見えます

光の加減で紫やグレーにも

照明を当てるとブルーだということがわかります

HD650の場合はハウジングやヘッドバンドがメタリックグレーの「ハンマートーン」っぽいキラキラした光沢のある塗装なのですが、HD6XXは本当に「プラスチック成型色そのまま」のサラサラした未塗装フィニッシュです。

未塗装で非常にチープな手触りです

ヘッドバンドも未塗装です

なんだかワゴンセールのノーブランドヘッドホンみたいな印象で、これは確かに安っぽいな、と思いました。

イヤーパッドやスポンジなどはHD650と同じです

MADE IN IRELANDと書いてあります

イヤーパッドはHD650とまったく一緒の黒いベロア調素材です。内部のスポンジなども同じようです。

イヤーパッドと背面グリルを外して、ドライバハウジングを確認してみました。ドライバカプセルやフレーム、排気スポンジ、そして銀色のバッフルグリルなんかもHD650とそっくりなので、ハウジングカラー以外は本当にHD650と一緒のようです。ちなみに、ちゃんとHD650と同じアイルランド製でした。

左からHD600・HD650・HD6XX

フレームのモールド(金型)は上記HD650と若干異なります

今回せっかくなので、HD600・HD650・HD6XXの三者を並べて比較してみましたが、注意して見ると、HD6XXだけフレームの金型が若干異っていました。たとえばHD600・HD650では一部の通気口に突起があるのに、HD6XXではありません。

参考に使ったHD600・HD650は数年前のモデルなので、もしかしたら現行モデルはHD6XXと共通した金型なのかもしれません。ほんの些細な違いなので、音響面で影響は無さそうです。

付属ケーブルと、3.5 → 6.35mmアダプタ

HD650のケーブルは3mでしたが、HD6XXでは1.8mという短いやつが付属されています。コネクタも6.35mmではなく、3.5mmになっています。

最近はポタアンとかを使う人も多いので、たとえ室内用の開放型ヘッドホンでも、これくらい短いケーブルのほうが好ましいという判断かもしれません。

ケーブ線材と2ピン端子はHD650と同じタイプです

左からHD600・HD650・HD6XX

左からHD600・HD650・HD6XX

ケーブルはHD600のヒョロいタイプではなく、HD650と同様の太いOFCケーブルなのが嬉しいです。左右コネクタもHD650と同じく、大きいタイプです。

HD6XX(HD650)のサウンドについて

今回HD6XXを受け取ってから、三週間ほど毎日数時間のリスニングに活用して、それ以外では200時間ほどDAPに繋いで鳴らしっぱなしにしておきました。

Cowon Plenue Sを使いました

最近買ったJVC SU-AX01も使いました

正月休みが終わり自宅に戻ってから、手持ちのHD650と聴き比べてみたところ、私の耳ではどっちがどっちだかわからないくらい、双方のサウンドは似ています。つまり商品解説に偽りはなく、HD6XXのサウンドはHD650と同じということです。

もちろんマニアが細かく聴き込めばそれなりに違いはあるのかもしれませんが、それで優劣が決まるほど大きな差は無いので、純粋に音質面だけで言えば、HD6XXの$199という価格は、かなりお買い得だと思います。

HD650のサウンドについて、あえて説明する必要は無いと思うのですが、せっかくの機会なので、この往年の銘機をちょっと振り返ってみようと思います。

HD650

ゼンハイザーHD650シリーズは、「ヘッドホン至上最高傑作」と主張する人も多い、伝説的モデルなので、私なんかよりもよほど詳しく熟知しているマニアが世の中に沢山います。

私自身も全盛期に興味を持って購入しましたが、ちょうど同時期に流行っていたAKG K601/K701の方が好みのサウンドだったので、実は買ったもののあまり使う機会が無く、放置気味なヘッドホンになってしまいました。

現在HD650の実売価格は4万円くらいなので、近頃のハイエンドヘッドホンと比べるとそこそこリーズナブルでありながら、10万円を超えるような高価なハイエンドモデルと比較しても、「やっぱりHD650じゃないとダメだ」という愛用者が多い、名作ヘッドホンです。

実際、ショップの試聴コーナーなどでも、様々な最新モデルと聴き比べたあげく、最終的にHD650を選ぶ人をよく見かけます。

300Ωという高めのインピーダンスのおかげで、アンプのクセがあまり目立たず、どんな装置でも安定して鳴らせる安心感があります。能率もそこそこ高いため、スマホやDAPでもなんとか駆動できます。開放型なので、騒音下でガンガン鳴らすような使い方はたぶんしないでしょうから、静かな環境で、低めの音量で音楽をじっくり味わうのに向いていると思います。

技術的な視点から見ても、HD650シリーズはかなり独創的で、優れたデザインを誇っています。快適なフィット感と、しっかりとした剛性を両立しながら、工具不要で容易にバラバラにでき、必要なパーツを瞬時に交換できるのは、プロ用スタジオモニターとしての利便性を突き詰めたノウハウによるものです。

工具無しでバラバラにできるのが魅力です

イヤーパッドを内周のツメでパチパチと着脱できる仕組みは、他のヘッドホンで類を見ないくらい優れた方式ですし、万が一ドライバが故障した場合でも、背面のメタルグリルを「容器のフタ」みたいに引っ張るだけで、そのままパコッと外せるので、分解作業が容易です。

ドライバユニットにそのままケーブル端子を接続する仕組みです

さらに、そこから振動板やボイスコイルが一体ユニットパーツとして手軽に取り外せるのがユニークです。

HD650のケーブルがあえて左右両出しで着脱可能なのも、単純に、AKGやベイヤーのようなヘッドバンド内部を通す橋渡しケーブルが不要になり、左右のケーブルをそのまま左右ドライバユニットに直接接続できるというシンプルさによるものです。それが結局、高級ケーブルアップグレードや、バランス駆動化ができるというメリットに繋がったのは、単なる偶然です。

容易にバラバラに分解できるということは、自作マニアのカスタムベースとしても魅力的なのが、息が長い理由のひとつなのかもしれません。

そんなHD650と比べると、最近の高級ヘッドホンは、フレームの剛性とか、余計な振動を排除するといった理由で、接着剤や一体成型を多用しているモデルが多いので、改造や修理もなかなか容易ではありません。

1993年のゼンハイザー「HD580」

HD650シリーズの歴史を簡単に振り返ってみると、このデザインのスタート地点であるヘッドホン「HD580」が1993年に登場したということに驚かされます。2018年には25周年ですね。

最近の高級ヘッドホンと互角に張り合えるデザインやフィット感を、1993年の時点ですでに達成できていたのは凄いです。

1993年というと、LPレコードやカセットテープは過去のものとなり、CDが一般家庭に本格的に普及しはじめた頃なので、ポータブルCDプレイヤーや、ベッドルームの高級ミニコンポなど、高校生でも買えるような手頃なオーディオで、旧世代の大型オーディオ機器を凌駕するような低ノイズ・高音質が味わえるようになってきた時代です。

コンパクトなコンシューマオーディオの普及と同時に、住宅や家庭事情のため「ヘッドホンを使うオーディオマニア」というサブジャンルが普及しはじめたのも、この頃からだと思います。(もちろん現在ほどの規模ではないですが)。

HD580の限定モデル「HD580 Jubilee」

1995年には、ゼンハイザー社の創立50周年を記念して、HD580を派手に仕上げたリミテッドモデル「HD580 Jubilee」が登場しました。このJubileeは、ボディやヘッドバンドに当時斬新だったカーボンファイバー調フィニッシュを施し、ハウジングの開放グリルも、HD580のプラスチック製よりも通気性や高級感のあるメタルグリルにアップグレードされました。写真を見れば一目瞭然なように、もはやこの時点でHD600とそっくりです。

ドライバも、基本的にHD580と同じものですが、製造技術の向上により、左右マッチングや周波数特性のムラが少なくなり、より優秀なスペックを誇っているそうです。

「HD580 Jubilee」を量産モデル化した「HD600」

4,000台の限定モデルとして販売されたHD580 Jubileeでしたが、好評だったため翌年の1996年に量産モデルとして登場したのがHD600です。

Jubileeの特徴であるメタルグリルや、より精度の高いドライバを継承し、ハウジングデザインがカーボン調から、HD600では大理石調になりました。

思い返してみると、外観やドライバ製造技術にいくつかの更新はあったものの、2017年現在に店頭で販売されているHD600は、1993年のHD580からほとんど変わっていないということですね。

HD600・HD650・HD6XX

2003年には、そろそろ古くなってきたHD600のブラッシュアップとして、上位モデル「HD650」が登場しました。当時のマーケティング的には、業務用スタジオモニターヘッドホンHD600をベースに最先端技術を投入し、家庭用スピーカーリスニングを意識したオーディオマニア向けのスペシャルモデル、という感じでした。なんとなく現在のHD800とHD800Sの関係に似ています。

ヘッドバンドのスポンジはHD600(左)とHD650(右)で異なります

HD650はHD600の経験をもとに、細かい部分で改良が施されており、たとえば凹みやすかったメタルグリルが厚くなり、断線しやすく貧弱だと言われていたケーブルはケブラー補強された太いOFCケーブルになりました。

一番大きな変更点はドライバで、振動板の外周と中心で厚みを変えた「Duofoil」という次世代の素材に変更され、ドライバのボイスコイルは軽量なアルミになったことで、とくに中域がレスポンスよく鳴るようになったということです。

2003年のHD650登場と同時期に、HD600のほうにも水面下で仕様変更が行われました。製造ラインの合理化のためだと思いますが、これまでのHD580とHD600用ドライバの背面にあった真鍮製のリングが、この時期のモデルから無くなりました。

コアなHD600マニアに言わせると、旧世代の真鍮入りドライバと、現行タイプでは、サウンドが異なるようです。私自身が何度か比較試聴してみたところ、確かに違いは感じられますが、どちらかが圧倒的に優れているというわけではないですし、エージングや経年劣化の影響も大きいので、よほど熱愛しているコレクターでない限り、違いを気にすることも無いと思いました。

このドライバ仕様変更はコスト削減が理由だと思うので、今となっては旧タイプの方が優れていたと主張したくなる気持ちもわかります。

HD650の開発にあたって、ゼンハイザーのエンジニア達は、これまでようなラボでの測定スペックやエンジニアの評価とは趣向を変え、家庭用オーディオマニアによる試聴評価を入念に繰り返したそうです。

つまり、スタジオモニターヘッドホンとは一味違う、家庭で数百万円もするようなハイエンド・スピーカーを聴き慣れているベテランマニアの耳でも納得できるヘッドホンサウンドを目指したかったのでしょう。

考えようによっては、これまで、測定テストなどを基準とした旧来のセオリーをもとに「完璧」を実現したのがHD600だったわけですが、そこからさらに次のステージへ音楽性を高めるためには、セオリーのみでなく、リスナーの立場からの意見や評価が必要不可欠だったようです。

そうして登場したHD650のチューニングは、HD600よりも中低域を持ち上げて、不快な刺激を抑えた、まさに音楽鑑賞といった仕上がりです。分析的というよりも、リラックスして音楽を聴くことを重視しているため、モニター調のHD600とは趣向が異なり、2017年現在においても、いまだに双方のファンの間で白熱した論議が繰り広げられているのが面白いです。

上からHD600・HD650・HD6XX

以前ブログで紹介したように、ヘッドホンにおいて完璧に「フラット」な「正しい」チューニングというのは存在しません。当時、スタジオの無響室をモデルにしたチューニングのゼンハイザーHD600やベイヤーダイナミックDT880、AKG K501などでは、すでに進化の壁に直面して行き詰まりを感じており、それを脱却するために取り組んだのが、HD650やK701といった次世代機だったのでしょう。

HD600とHD650のどちらが正解というわけではなく、旧来のスタジオモニターヘッドホン的チューニングに耳が慣れている人と、家庭での大型スピーカーオーディオに耳が慣れている人で、住み分けを明確にしたということは画期的だと思います。

では、楽器演奏を録音したり、DTMで作曲したりといった用途にはHD600の方が向いているのか、というと、これも意外と難しいところです。

たとえば普段は家庭用スピーカーなど、中低音がしっかり鳴るように作られたシステムで音楽を聴き慣れている人が、いざ録音だからといってHD600を使ってみると、普段よりサウンドが軽すぎるように聴こえてしまい、録音の仕上げで余計に中低音を持ち上げてしまいがちです。そんな経緯を経て完成した曲をリスナーが家庭用スピーカーで聴いてみると、低音が盛りすぎに聴こえてしまいます。

このへんをちゃんと把握して、気に入った方のモデルを買えば良いのですが、優劣で結論づけてしまうのは短絡的です。

ドライバ周辺の布が変更されました

2007年には、HD600・HD650の両方で、また新たに大きなアップデートが行われました。

まず、中身を眺めてみれば一目瞭然なのですが、ドライバ周辺のバッフル材が、従来の黒から、銀色の布地に変更されています。この変更が、音質にとても大きな影響を与えたと言われています。

このバッフル材は、音楽の中でも特定の周波数帯をハウジングの外に逃がす、いわゆる音響フィルターの役目を果たしているので、その素材によってサウンドチューニングがけっこう変わります。

旧タイプの黒いシルクっぽい布素材は、湿度や経年劣化で目詰まりしたり、シワが寄り、ダレてくるため、そのせいで音響が乱れてしまうという問題があったそうです。そのため、2007年の新型からは、金属を含んだ編み込みメッシュにすることで、より安定したチューニングが実現されました。

また、ドライバ自体にも若干の仕様変更があったようで、振動板を見ると、素材がかわったのか、もしくは若干厚くなっているようです。これまで振動板中心にプレスしてあった刻印が、新型からは印刷に変わりました。これと同時期なのか、それ以降なのかはわかりませんが、HD600の広報カタログの方にもHD650と同様に「アルミニウム・ボイスコイル」と書かれるようになったので、両ヘッドホンのパーツを一部兼用するような製造ラインの合理化が図られたのかもしれません。

この新型デザインから、HD600・HD650ともに、とくに高域のヌケ具合やメリハリが若干良くなったので、それ以前の古いレビューでよく指摘されていたような、「HD600がフラットで、HD650はこもっている」、という定説が通用しなくなりました。

つまり、両モデルの音質差が縮まり、初期モデルほど大きな差が無くなったようにも思います。

もちろん新型でも、HD600よりもHD650の方が中低域の量感は豊かなのですが、私の個人的な印象としては、現行HD650は現代的なヘッドホンのチューニングに近いサウンドだと思います。まあ好き嫌いの問題ですし、結局のところ、ゼンハイザーHD800とかがある現在、そこまで両者の違いにこだわる意味も薄れていると思います。

2007年頃に上記の変更が行われたわけですが、実際は、その後も旧タイプも長い間流通していたので、たとえば地方の楽器店や格安オンラインショップなどでは、かなり最近まで古いバーションの在庫を手にすることもあったりします。

要約すると、ドライバの製造技術や、黒バッフルと銀バッフルの違いなど、サウンドの傾向は世代ごとに着々と変わっていますので、ネットのレビューとかに踊らせられず、どっちが自分にとって好みのサウンドなのか、実際に自分で聴き比べてみることが大事です。

HD650の魅力

HD650は、10万円を超えるようなハイエンドヘッドホンと勝負できるほど優秀なヘッドホンだとよく耳にしますが、なぜそこまでベストセラーになりうる魅力があるのか、今回の試聴がてらにちょっと考えてみました。

HD650のサウンドを大雑把に表現すると、なんというか、中高域が落ち着いていて、煩わしい刺さりが無く、低域も豊かでありながら、耳への圧迫感が少なく、全体的にマイルドで聴きやすい、といった、ごくありふれた言葉が並びます。

しかし、私自身の感想としては、このヘッドホンはとくに「音場の表現」が独特だと感じました。各楽器の音像が全体的にリスナー前方に集まって、他では味わえない、自然なキャンバスを描いています。

HD800のような「前方遠く」に広がる奥行きとも違い、たとえば再生ソフトやヘッドホンアンプに搭載されている「ステレオクロスフィード」機能をONにしているような印象を受けます。(単純に左右の信号が混じっている「クロストーク」とは一味違う、良い意味での演出効果です)。

つまり、一般的なヘッドホンらしい、左右に広くステレオ感が強調されているようなサウンドとは正反対で、むしろ間近にあるスピーカーで聴いているような頭外感覚があります。そのおかげで音楽全体を視野に捉えやすいので、疲労感が起きにくいのが、魅力の秘訣なのだと思います。

なぜシンプルな開放型ヘッドホンなのに、このような不思議な音場が生まれるのかと色々考えてみると、やはりHD650特有の「小型ドライバと、ハウジングのメッシュバッフル」という組み合わせが効いているように思います。

そんなHD650とは対照的に、近年では、50mmや70mmといった大型ダイナミックドライバや100mm平面駆動ドライバなど、「振動板の口径は大きければ大きいほど良い」、といった風潮があるようです。

たしかにドライバ口径が大きいほど、音波が並行波に近くなって歪みが減るとか、振幅が大きくとれるので低音の量を出しやすいとか、色々なメリットがあるのですが、音場・音像の再現性に関しては、逆にデメリットもあるような気がします。

巨大なドライバを耳の間近に配置したようなデザインでは、外耳に音が届く感覚を完全に無視しているため、「どこ」から音が鳴っているかという情報が欠落して、耳孔に挿入するイヤホンと同じ状態になってしまいます。

また、振動板が大きくなることで、ハウジングの大部分がドライバに占領されてしまい、耳周辺の空気を逃がす「バッフル」を配置するスペースがなくなってしまうのも問題です。

多くの最新ヘッドホンのパンフレットなどを見ても、ドライバの素材やテクノロジーを主張するだけで、その周辺の、耳とヘッドホンの間の空間音響デザインが不十分だとすると、たとえラボの測定では正しい「周波数特性」が得られたとしても、それだけでは計り知れない「音場」や「音像」の作り込みが体現できません。

ドライバと外耳の位置関係が、絶妙な音場を体現します

上の写真で見られるように、HD650では40mmという小型なドライバをハウジングの中心に配置してありますが、実際にヘッドホンを装着してみると、楕円形イヤーパッドのおかげで、このドライバが耳の前方から外耳に向かってピンポイントでビームのように音を放っています。

このドライバと耳の絶妙な位置関係のおかげで、上手い具合と目の前にアーティストのイメージが結像して、定位置に落ち着いてくれるような錯覚が生まれます。(ただし、ドライバが小さいため、装着位置によって印象が変わりやすいです)。

 伝説的なAKG K1000と、時代を先取りしすぎたソニーPFR-V1

極端な例としては、たとえばAKG K1000や、ソニーMDR-F1、PFR-V1なんかが目指していたアイデアを、もっと理想的なヘッドホン寄りの次元で実現できているのだと思います。

さらに、HD650のドライバ周囲には、高音は逃して低音は反射する効果があるバッフルメッシュが張ってあります。つまり、無理に40mmドライバ単体に全てを任せようとせず、低音はバッフル面全体から「緩く」鳴ってくれるため、前方のアーティストを包み込むような暖かい感覚が得られます。

音圧の大部分はバッフルを通って開放ハウジングの外側に逃げるため、鼓膜を圧迫せず、快適でリラックスしたサウンドに貢献しています。

オペラ録音を例に挙げると、まず歌手がステージ上にいて、その真後ろに森とか山みたいな背景が描かれており、オーケストラは間近のピット内から湧き出るようにホールを包み込む音楽を奏でる、といったような、「舞台劇」として正しい演出を体感できます。

とくに、歌手のメロディなど、肝心な部分が40mmドライバから発せられる一方で、チェロとかコントラバスみたいな低音はハウジング全体からボーンと太鼓のように鳴るので(それでいて密閉型ほど圧迫感がないので)、まさに歌劇場やコンサートホールと同様の音響効果が実現できています。

つまりHD650のサウンドは、数多くのヘッドホンの中でも特筆して、「実際の歌劇場みたいな音場と響き」に近い体験が得られるように感じました。

ちなみに、このHD650で効果を発揮している「ドライバを遠くから外耳に向けて音を届けて、その周辺のバッフルメッシュで低音を返す量を調整する」というコンセプトは、以後登場したHD700・HD800にも継承されています。

HD800もドライバ周辺に広範囲のメッシュを配置しています。

HD800のデザインを見ると、56mmに大口径化したドライバを極限まで外耳から遠ざけるために特殊なハウジング形状になっていますし、その周辺にHD650と同様の金属メッシュバッフルを配置することで、空気の流れを絶妙にチューニングしています。この技術はHD650と全く同じコンセプトの応用なので、HD800は突然変異などではなく、ちゃんとゼンハイザーによるHD650の正統進化型なんだな、なんて実感させられます。

さきほどHD650は「歌劇場みたいな響き」なんて言ったので、それならさぞかしオペラやクラシック音楽に適したヘッドホンなのだろう、なんて想像するかもしれませんが、実を言うと、個人的には、そういうのよりもむしろポピュラーやロック系のジャンルで絶大な効果を発揮するヘッドホンだと思います。

ではオペラやクラシックでは、というと、最近の優秀録音とかでは、すでに録音の内容自体が高密度なため、実はHD650を使うと響きが豊かすぎることが災いして、常になにかモヤモヤした音響に包み込まれているような歯切れの悪さを感じさせることが多いです。アタック音が控えめで主役歌手の滑舌が目立たないため、オケ伴奏に埋もれて何を歌っているのかあまりよく聴き取れません。(皮肉ですが、このほうが実は生公演に近いかもしれません)。

最近のハイレゾ録音のオーケストラ楽曲とかで味わえる広大なダイナミックレンジや、めまぐるしい緻密な一音一音のディテールとかは、HD650では油絵のように塗りつぶされてしまいます。そもそもドライバの基礎設計が古いという原因もあるのでしょうけれど、こういうのは、むしろ最新鋭のHD800とかのほうが圧倒的に得意で、高密度な録音に負けない解像度で、奥深いポテンシャルを引き出せると思います。

たとえば、そこそこ無難に録られているオペラ録音なんかをHD650で聴いていると、音楽全体が川の流れのようにまろやかに過ぎ去っていくので、つい眠くなってしまうというか、盛り上がりに欠けて適当に聴き流してしまいそうでした。

そして、私が個人的にHD650をあまり愛用していない一番の理由は、金属的なアタックや響きの倍音成分が十分に出てくれないことです。これはゼンハイザーのヘッドホン全般に言えることなので、HD650特有のクセというわけでもないのですが、HD650発売当時から、たとえばヴァイオリンやピアノの高音なんかは、ゼンハイザーは質感が素朴でザラッとしており、一方AKG(K240とかK601など)は豊かで瑞々しい響きが堪能できる、なんてイメージがありました。

だからといって振動板に厚い金属コーティングなどをして、高音をキンキンに響かせすぎてもダメなので(そういうことをするメーカーも多いですが)、では何をもって「響きが良い」と言えるのかというのは、なかなか難しいのですが、単純に主観で言うと、「実際のコンサートで味わえる最高の音色」に近い体験ができる、という事に尽きると思います。

HD650は、音場のプレゼンテーションは歌劇場やコンサートホールにとても近いのですが、音色の部分ではあとちょっと艶っぽさが足りず、それだけはAKGとか、他社の演出に軍配が上がるように思います。

一方、HD650がロックやポピュラー系の音楽と相性が良い、と私が思う理由は、この歌劇場っぽいプレゼンテーションが効果を発揮してくれるからです。

最近のオーディオマニア向けハイレゾ盤とかでは例外もありますが、大手ポピュラー系レーベルのアルバムは、1970年代から現在に至るまで、スタジオプロデュースのセッション主体で、現場の空気感や音響などをあまり深く録っていない、「ドライ」なサウンドが主流です。

そのメリハリの強いドライさと同時に、奔放で不自然なステレオ効果が飛び回る作品が多いので、いざヘッドホンで聴くと、聴き始めは派手なサウンドに奮い立たされるのですが、だんだんと疲労感が蓄積されます。

HD650はそんな録音を上手に「料理」してくれて、現実味を持たせてくれます。マイルドに仕立てるリミッター的な役割というよりも、音像をリスナー前方にまとめて、中低音で厚みをつけてくれるため、スピーカーのような安定感と、極端に言えば、「スタジオ録音をライブ録音っぽく」味付けしてくれるような効果すらあります。

結局どういったサウンドが好みかは人それぞれ、趣味の世界なのですが、実際に多くの人が魅力を感じて購入しているということは、ゼンハイザーが目指した「リスニング用ヘッドホン」として正解を得た証なのでしょう。

新品開封後はエージングが必要です

HD650に限らず、この手のヘッドホンでひとつ注意点があるとすれば、新品開封後は入念なエージング期間を設けることが大事です。

より高価なハイエンドヘッドホンの場合、出荷前に初期不良を洗い出したり、ドライバやエッジ部分の動きを馴染ませるため、数日から数週間も工場でエージングが行われていることが多いのですが、HD650くらいの価格帯のヘッドホンでは、そこまでの入念なエージングは(たぶん)行われていないようです。

HD650は、多くのレビューなどで「最低100時間の鳴らしは必須」なんて言われているように、新品のサウンドは音抜けがかなり悪く、あまりアテになりません。エージングも、24時間ガンガン鳴らしっぱなしで放置するのと、実際に耳に装着して使い込むのとでは、湿度や温度、時間経過などの影響で、意味合いも違ってきます。

ドライバだけでなく、イヤーパッドのスポンジがヘタってきたり、通気バッフルがホコリで詰まってきたりといった劣化現象もエージングの一部です。とくに低音はハウジング内の密閉具合と、耳への距離が重要なので、経年でイヤーパッドが潰れたりすることで変化していきます。それが「鳴らし込んだヴィンテージは音が良い」なんてエピソードに繋がったりもするのでしょう。結局はヴィンテージジーンズみたいに、それぞれの個体差が強くなるので、その過程を楽しむのも趣味の一環です。

ケーブル交換

どのヘッドホンでも、新品開封直後の状態だとヘッドホンのサウンドが安定しておらず、ケーブルを交換してもあまり違いがわからないということもありますので、いくらケーブルアップグレードが流行っているとはいえ、購入後はひとまず純正ケーブルでのサウンドに慣れるのが良いと思います。

HD600・HD650・HD6XXの純正付属ケーブル

とくにHD650の純正ケーブルは、刺々しさを抑える温暖系な鳴り方なので、これが結構マッチしてると思います。

たとえば銀コートリッツ線とか、派手な高解像ケーブルを使ってしまうと、HD650本体の弱点というか、古い設計なりの限界の低さがなんとなく感じられてしまい、高域が鼻につくような煩さとか、低域のコントロール不足といったクセが目立つようになります。

基礎設計が新しいヘッドホンと比べて、HD650の場合、高価なケーブルがむしろ逆効果を生み出すリスクが大きいので、より一層マッチングや相性といった主観的な見方が要求されます。

人気ゆえに様々な社外アップグレードケーブルがあります

私自身はHD650を購入した当時そこまでケーブルにこだわっていなかったので、付属の3mよりも短いやつが欲しいという理由で、オヤイデのPCOCC HPC-HDというのを使っていました。最近になってCowon Plenue Sを買ったため、それ専用にバランス端子に改造しました。このケーブルは純正品と比べるとサウンドが軽めで中高域が目立つ印象で、そこそこ好感が持てました。もう生産中止になって久しい古いケーブルなので、最近手に入るものではどれが人気なのかは詳しくありません。

最近だと各メーカーから五万円以上もするような高級アップグレードケーブルが販売されており、そもそもHD650ヘッドホン本体よりもケーブルのほうが高価になって本末転倒のように思えるのですが、逆に考えれば、そこまで投資してまで更なる高みに迫りたいと思う人がいるほど、HD650のポテンシャルの高さを表しています。

HD650の改造

ところで、私の所有しているHD650は、以前DMaaというところで改造してもらいました。(今回HD6XXとの比較写真や試聴に使ったのは、これではなく、友人から借りた未改造のHD650です)。

HD600・HD650は息が長いモデルだけあって、世界中で様々な改造モデルが販売されていますし、自作DIY改造のベースとしても最も愛されているヘッドホンのひとつです。

以前、このブログをご覧になってくださった方からのメールで、DMaaモディファイというのを試してみる価値があるということで、気になって改造してもらいました。改造とは別に、特注のアップグレードケーブルも販売しているということで、これも同時に購入しています。

改造済みのHD650と、アップグレードケーブル

結果としては、本体改造・ケーブルともに、確かな効果が感じられました。ただ、依頼した際に先方とメールでやりとりした感じでは、本業の片手間に個人で作業を行っているようしたし、ステマっぽく思われるのも嫌だったので、あえてブログでは大きく取り上げませんでした。

もう結構昔の話ですし、今回はせっかくHD650の話題なので、「こういうのもあるよ」といった程度に紹介できればと思います。

ドライバ裏側とバッフル面に色々手を加えているようです

ドライバ前の分厚いスポンジが、音抜けの良さそうなメッシュに交換されています

改造費用は数千円程度で、ドライババッフル周辺のスポンジやゴムの変更、イヤーパッド内のスポンジをメッシュに交換など、シンプルな内容ですが、音質は予想以上に変わりました。

これで費用が数万円とかだったらボッタクリと思うのも理解できますが、たかだか数千円なので、材料費はともかく、実際に自分自身でメッシュやゴムなどを何種類も買い集めて、ハサミやカッターで加工して、試聴を延々と繰り返す時間と手間を考えると、とてもリーズナブルだと思いました。

私の経験上、自分自身でこういった改造をしようと一念発起しても、結局音が変わるたびになにが正解なのか永遠に辿り着けず、満足できない無限ループに陥ってしまうため、そういった意味では、実績とノウハウのあるベテランに委ねるのは精神衛生上悪くないアイデアです。

そこまで吟味してサウンドを追求するほどHD650に愛着がある人達が世の中にいるということも、このヘッドホンの潜在能力の高さゆえなのでしょう。

ちなみに、DMaaで改造されたHD650は根本的な音色が変わるわけではなく、HD650の弱点を補うようなチューンナップに留まります。具体的には、まず本体のほうの改造のおかげで、低音のボヤケた感じと、高音の控え目具合がずいぶん解消され、全体的により開放的でレンジが広がりました。とくに低音の量感はまずまずあるのですが、オンオフのメリハリが明確になり、よりコントロールが効いているように感じます。

以前、自分自身でハウジング裏のスポンジを抜いてみたときは、低音不足でスカスカなサウンドになってしまったので、こういうのは料理と同じで、頭で考える以上に、実際に試してみる必要があり、その辺の良い塩梅というのを見極めるのに手間がかかるのでしょう。それがチューニングの醍醐味ですね。

ずいぶん古臭い感触のケーブルですが、音は良いです

カチッとしっかり装着できるコネクタです

ケーブルのほうは、STAXヘッドホンで使われているような平行タイプで、見た感じは地味で安っぽいのですが(なんだか昔のT字型の室内テレビアンテナに似ているのですが)、とても柔らかく、コネクタもアコースティックリヴァイブっぽい形状のしっかりしたタイプなので、良い感じです。

サウンドも純正と比べると中音域の艶っぽさや瑞々しさが向上して、よく他社のアップグレードケーブルでありがちな、変にギラギラした響きのクセがプラスされるような感じも無かったため、本体改造とはまた別の方向で音質向上が体感できました。

基本的にHD650はHD650のままで、改造したからといって、HD650がHD800かのように劇的な変貌を遂げた、なんていうわけではありません。ただ、HD650の良さは保ったままで、全体的に雰囲気が良くなった、といったワンレベル上のトータルパッケージの良さを体験できました。

Google検索すると、世界中の様々な改造HD650が見られます

eBayとかネットで検索すると、多種多様なHD600・HD650改造ブランドやオリジナルパーツショップなんかがあります。(Google画像検索で「HD650 Mod」なんて探せば、奇抜で個性的な改造パーツを観覧できて、楽しめます)。

この手のヘッドホン改造というと、メーカー本来のサウンドチューニングを崩しかねないので賛否両論あると思いますが、私のHD650みたいに、「大昔に買って使ってたけど、最近はお蔵入りで、押入れの奥で眠っている」のなら、いろいろネットとかで調べて自己流の改造を試してみるのも面白いです。

また、これだけマニアやコミュニティ的な改造が盛り上がっているのだから、ゼンハイザーももっと積極的にファンの意見を取り入れて、そろそろ自己流でアレンジしたブラッシュアップ版や、「メーカー公式モディファイ・エディション」みたいなモデルを出してもいい頃合いなのでは、なんて思ったりもします。

あと、分解は容易ですし、「ゴールド端子」とか「エアロスタビライザーベアリング」とか「カーボンプレート」とか、効果不明なチューンナップパーツをミニ四駆やラジコンみたいに売ればオジサン達に人気が出そうです。

おわりに

今回Massdrop限定モデル「HD6XX」を手に入れたことがきっかけになり、久しぶりに改めてHD650のサウンドを堪能する機会に恵まれましたが、やはりヘッドホン史上において伝説といえる音色を誇る、傑作モデルだと再確認できました。

たしかに現代の最新鋭ヘッドホンらと比較すると切れ味や音場の広さは一歩譲るかもしれませんが、暖かく豊かな音色のおかげで、音源の良し悪しにこだわらずに落ち着いた音楽鑑賞が楽しめます。

耳元を刺激するドンシャリな解像感を強調した近年のハイレゾヘッドホンとは真逆のアプローチなので、そういうのに慣れたヘッドホンマニアには物足りないサウンドかもしれませんが、純粋に音楽を聴くことが好きな人であればこそ、無数のヘッドホンを試聴した末にあえてこれを選ぶのも納得できます。

とくに、めまぐるしいポピュラー音楽をよりリアルで聴きやすく、ライブ感溢れる体裁に整えてくれる、「プレゼンテーション上手」な一面が、人気の秘訣だと思います。

たとえば、最近流行っている高価なIEMイヤホンを音楽鑑賞のメインとして使っている人は多いと思いますが、もし一台だけ、IEMイヤホンとは正反対のサウンドを味わえるヘッドホンを買うのだとしたら、このHD650はとくに有意義な候補だと思います。

IEMのような刺激的なサウンドに慣れている人でも、たまにはこういった温厚なヘッドホンで気分転換することで、聴き慣れた音楽の中から、また新たな発見があるかもしれません。

両者のサウンドは同じです

今回手に入れた「HD6XX」のサウンドはHD650と同じなので、すでにHD650を所有している人ならばあえて買い足す必要は無いと思いますが、値段は安いので、もし機会があれば気兼ねなく扱える改造ベースとして一台手に入れておくのも面白いかもしれません。

個人的な好みとしては、ミッドナイトブルーのカラーは地味すぎるので、もしMassdropが再販するのであれば、次回は別のカラーバリエーションで出してくれることも期待しています。(ネタ的には、たとえばウッド調とか、プリンカラーとか)。

実際Massdropという会社が順調に儲かっているのかどうか知りませんが、これまでにAKG、フォステクス、ゼンハイザーと一流メーカーとのコラボが続いているので、これまらまた半年、一年後に、一体どんなコラボヘッドホンで我々を驚かせてくれるのか楽しみにしています。

それにしても、こういう気になる製品が次から次へと登場するので、現状ヘッドホンマニアというホビーは非常に充実しているというか、財布の紐が危うい日々が続いています。ここまで恵まれた時代を過ごせていることに感謝するべきですね。