前回に続いて、2022年の新作を振り返ってみます。今回はアンプやDAPなどです。最後に2022年に個人的によく使ったイヤホン、ヘッドホンなども紹介したいと思います。
ポータブルDAP
まずポータブルDAPについてですが、2022年のDAP市場は例年通り、相変わらずといったところで、順当な進化が実感できた一年でした。
Androidを使った基本設計に目立った変更は無いものの、各メーカーの上位機種では画面サイズの大型化が顕著になり、iPhoneなどと同様に5.5インチ以上が一般的になってきたようです。
iPhone 14 Pro MaxとiBasso DX320は縦横幅が同じくらいです |
これはDAPがスマホの部品を流用しているからという理由もありますが、それと同時に、ほとんどのユーザーがストリーミングサービスのアプリを利用するようになったことで、画面サイズや解像度も現行スマホと同じ使用感が求められるためでもあります。
一昔前のDAPを使おうとしても、現行アプリの最低スペックに満たずインストールできなかったり、解像度が足りず表示に不備があったりなどの問題が起こりがちです。
さらにストリーミングアプリを快適に動かすために高速なSoCや大容量メモリが求められるようになるなど、スマホと比べても遜色ない性能を持つDAPも増えてきました。
スマホのカメラがどんどん高性能化していったように、数年前にちょっとだけ流行った高音質DACを積んだスマホや、スマホのようにSIMカードが挿せるDAPなども、もうちょっと流行るかと思ったのですが、そうはならなかったですね。やはりカメラは他人に見せたり送ったりする自己顕示欲の道具なのに対して、音楽はあくまで他人には伝わらない自己満足の世界なので、メーカーが競い合うメリットも無いのでしょう。
私は相変わらずSDカードにFLACやDSFファイルを入れて聴く古典的な使い方をしているので、近ごろのDAPの肥大化はそこまで歓迎していません。ポケットに入れて使うなら初期のAK DAPなどの4インチサイズでちょうどよいのですが、最近は上級機でそこまで小さいモデルが無くなってしまったのは残念です。
また、DAPメーカー純正の音楽再生アプリも、昔ほど使う人が少なくなったのか、メーカーも開発にそこまで力を入れていないようで、機能面での進化が止まっていたり、バグが放置されている事も多いようです。その点AKは2022年の新型にてアプリデザインを新調しているあたり、他社との格の違いを実感します。
DAPのSoCが高速になった副次的な利点として、SDカードスキャンやアルバム観覧表示などの処理が昔のDAPとくらべて高速になっているのはありがたいですし、高速化を有効活用して、リアルタイムで高度なアップスケーリング処理を行う音楽再生アプリも増えてきました。シャーシサイズが大きくなることで、より大規模なオーディオ回路基板を搭載できるようになるというメリットもあります。
近頃のDAPのもうひとつのトレンドとして、旭化成のD/A変換チップ供給難のせいで別のソリューションを模索するメーカーが増えており、数年前のような旭化成 v.s. ESSというシンプルな二者択一の図式ではなくなっています。
ローム社の最新D/Aチップを採用したCayin N8iiとiBasso DX320、ディスクリートR2RのHiby RSシリーズやLuxury & Precision P6 Proなど、D/A変換だけでも選択肢が増えましたし、ヘッドホンアンプ回路も含めると、一見どれも同じように見えるDAPでも、メーカーごとの独自色が強くなっている印象があります。
Astell&Kern SP3000 |
そんなわけで、2022年に登場した新作DAPを振り返ってみて、個人的に一番凄いと思ったのは、ベタですがAstell&Kern SP3000でした。唯一これだけは純粋に欲しいと思えたDAPなのですが、60万円という価格は私では手が届かないのが悔しいです。
従来のAK DAPと比べてアンプのパワーもだいぶ上がっていますし、フラッグシップ機では待望の4.4mm端子搭載と、欠点が見当たらない製品です。
旭化成の最新D/AチップAK4499EXを搭載しているという以外では、そこまで奇抜な事もやっているようにも見えず、極めて普通のDAPなのですが、いざ音を聴いてみると圧倒されます。なにか具体的な特徴があるわけでもないのに、従来の完璧のレベルから、もう一段上に進化したことが実感できるのが不思議です。
Cayin N8ii |
そんなSP3000とは真逆の性格で印象に残ったのがCayin N8iiでした。こちらも50万円という超高級機ですが、ロームBD34301EKV D/Aチップに、アナログ回路にはKORG Nutube真空管を搭載、サウンドも期待通りツヤツヤで濃厚な美音を奏でてくれます。
このCayin N8iiや、2021年末に出たAstell&Kern SP2000T、iBassoのAMP13・14モジュールなど、Nutube真空管搭載というのも近頃のトレンドのようで、いつくかのメーカーが有効な活用方法を模索しています。Nutubeは部品サイズが大きく単価も高いため、10万円以上の高級機がメインになってしまいますが、ポータブル機でも真空管を通した独特のサウンドを生み出せるようになりました。ほとんどのモデルでNutube回路のON/OFFが切り替えられるので、聴き比べも楽しいです。
Hiby RS8 |
2022年の高級DAPでは、Hiby RS8も印象的でした。55万円でディスクリートR2R DACを搭載しています。
私はこれよりも前に登場したRS6というDAPを使っているのですが、RS8ではR2R回路の規模が二倍に、ヘッドホンアンプもディスクリートになるなど、上位機種にふさわしい大幅なアップグレードが行われており、チタン製シャーシもかっこいいです。ただしSP3000などと同様に5.5インチのサイズは相当大きいので、毎日携帯することを考えると、もし資金があったとしても、RS6から買い替えるのには覚悟がいります。
Hiby RS2 |
Hibyはさらに低価格なRS2というDAPにもディスクリートR2R DACを搭載しました。7万円程度の小型DAPなのですが、Android非搭載で、初期のFiioのようなテキストベースの簡素なインターフェースを採用しており、機能面での大幅なコストダウンの上でR2R DACの音質のみを凝縮した面白いモデルです。
日常的に使うには操作性でイライラさせられますが、ヘッドホンアンプを通す前のライン出力も搭載しているので、R2RのラインDACとして据え置き機に組み込むのも面白いと思います。
Luxury & Precision P6 Pro |
Hiby以外では、Luxury & Precision P6 ProというモデルもディスクリートR2R DACを採用している、70万円を超える高級機です。一昔前のL&Pと比べると、デザインに独自性を持ちながら、成金っぽさが薄れて、ずいぶんカッコいいと思います。
R2Rといってもメーカーごとにアルゴリズムや実装は大幅に異なるため、たとえばHibyは初期のCDプレーヤーのような骨太な鳴り方なのに対して、L&Pはふわっとした空気感が豊かな鳴り方であったり、必ずしもR2Rらしい音という定義はありません。
旭化成やESSのD/Aチップにも言えることですが、D/A変換の性能を主張したほうが素人にもわかりやすいものの、実際のところ、音質はアナログ回路や電源回路などの設計や実装に依存する部分も大きいです。
つまり同じD/Aチップやオペアンプなどを搭載していても、高級DAPはむしろそれに付随する周辺回路にコストをかけていることが多いので、チップの型番ではなく実際に音を聴いて判断するのが大事です。
NW-WM1ZM2 & NW-WM1AM2 |
D/A変換の論争とは無縁の、孤高の存在であるソニーからも、ようやくウォークマンの新型が登場しました。2016年以来、待望のフラッグシップ更新なので、首を長くして待っていた人も多いだろうと思います。私の身の回りでも、発表の時から買い替える気満々の人が結構いました。
NW-WM1ZとWM1Aの両方ともM2に世代交代して、やはり近頃のトレンドどおり、Androidアプリ対応と、それに伴う画面の拡大、そしてUSB-C採用と、全体的な近代化が実施されました。
私としては、DMP-Z1のコンセプトを継承するような奇抜なデザインなんかも期待していたのですが、やはり黄金のウォークマンのインパクトは強いので、多くの人が望んでいた順当なアップデートだったと思います。D/A変換もあいかわらず独自のS-MASTER HXを採用しており、SACDプレーヤーの頃から一貫した基礎設計の強さを実感します。
ちなみに、42万円のWM1ZM2と18万円のWM1AM2ですが、旧型ほど音の好みが分かれる感じではなく、もっと素直な上下関係が感じられる印象でした。旧型では音質面であえてWM1Aを選んだような人でも、今回改めてWM1ZM2を聴いてみる価値はあると思います。私も今作なら、どちらか選ぶとなったらWM1ZM2の方が好みです。
これを書いている時点で、他のウォークマンシリーズも更新され、新作ZX707とA300のどちらも魅力的なので試聴するのが楽しみです。
iBasso DX320 & DX320 Edition X |
中国iBassoは2021年のDX240につづいてラインナップ全体が更新され、現在はDX170、DX240、DX320、それぞれ6万、9万、21万円というわかりやすい構成になっています。
DX170とDX240はポータブルしやすい5インチサイズですが、DX320は6.5インチという巨大な筐体で、実物を手に持ってみるとiPhone Max並の迫力があります。さらにその上には31万円のDX320 Edition Xというのも出たのですが、国内70台の限定品ということで、試聴できていません。
AMP12 & AMP14 |
iBassoのDAPはアンプカードという部品を交換することでパワーや音質が異なるヘッドホンアンプに入れ替えることができるのが大きなメリットになっており、ソリッドステートのAMP12やNutube搭載のAMP13とAMP14など、DAP購入後も色々なサウンドが楽しるあたりも魅力的です(そのため音質の評価も定まらないのですが)。
他のハイエンドDAP勢と比べて本体の価格設定が一段安く、性能のわりに意外とリーズナブルなのがiBassoの魅力でもありますが、結局このアンプカードを色々買ってしまうという罠があります。
Shanling M3 Ultra、M6 Ultra、M9 |
iBassoと並んでDAPに力を入れているShanlingもM3 Ultra、M6 Ultra、M7という三段構成になっています。その上にM9という30万円超のモデルも出たのですが、AK4499EQチップが廃番になったことで、世界500台限定生産という売り方になり、今後別のチップを搭載する新型が出るそうです。
Shanlingは長らく据え置きオーディオを作ってきたことで、音作りにも定評があるメーカーなのですが、私の身の回りに気軽に借りられる環境が無いため、残念ながらじっくり試聴できていません。
Fiio M17 |
中国DAPの老舗Fiioもラインナップの一新が実施されました。現行DAPは定番M11シリーズのM11SとM11 Plus、そして上位機種として巨大なM17というシンプルな棲み分けになっています。値段はそれぞれ8万、12万、30万円で、画面サイズが5インチ、5.5インチ、6インチというのもわかりやすいです。
とくにM11 PlusとM17はヘッドホンアンプ回路にTHXアンプモジュールを採用することで、近頃のDAPの中でもかなりパワフルに仕上がっており、M17にいたっては最大3W、35Vppという、据え置きヘッドホンアンプ並のハイパワーを実現しています。
M17は写真で見てもわかりにくいですが、想像以上にデカく、冷却ファン付きスタンドが付属しているあたりもFiioらしくて面白いです。一台で何でもこなせる汎用性の高さから、Fiioは相変わらず優秀なメーカーです。
デスクトップDAP
このFiio M17のように、ポータブルでの活用をあえて切り捨てた、据え置き向けの大型DAPというのも近頃のトレンドになっています。Astell&KernのKANNシリーズがその先駆けだったと思いますが、このような大型機が各メーカーで独自の発展を見せているのは面白いです。
Fiio M17 & Astell&Kern KANN MAX |
KANNシリーズもKANN ALPHAからKANN MAXに進化、さらなる高ゲイン化やD/Aチップの更新など、全体的なアップデートが施されています。AK DAPラインナップの中でも異端な存在のように見えるKANNシリーズですが、あまり奇抜なことをせず順当にモデルチェンジが続けられており、実は一番の優等生かもしれません。
そんなKANN MAXでさえも、Fiio M17と並べて比べてみると、まるで親子のようにサイズが違うので、M17の現物を見たことが無い人も、どれだけ巨大なのか納得できると思います。
自宅で使う大型DAPが増えた理由としては、ストリーミングサービスや家庭内ストリーマーNASと連携することで、パソコンにUSB DACをつなげるよりもスマートな、タッチスクリーンとAndroidアプリで事足りるという人が増えたのが大きな理由だと思います。またラインプリとしてアクティブスピーカーにつなげてシンプルなシステムを組むのにもちょうどよいです。
IEMイヤホンからオーディオ趣味を始めたような人はパソコンよりもDAPの操作性の方が慣れているでしょうし、そこから大型ヘッドホンも鳴らしたいという需要が増してきたことや、DAPメーカー側としても、既存のポータブルDAPとは別腹の、新たな市場を開拓する意図も感じられます。
AK KANNがポータブルDAPの巨大化であれば、逆に2018年のソニーDMP-Z1が据え置き機にDAP的な使い方をもたらした先駆者かもしれません。発表当時はずいぶん奇抜なアイデアだと思えたのに、いざ使ってみると、私を含めて「意外とこういうのが欲しかった」と思えた人が多かったようです。
Astell&Kern CA1000 |
たとえばAstell&KernからはCA1000というモデルが登場しており、20万円でバッテリー搭載の大型据え置きDAPという、一見奇妙なアイデアに思えても、手元にあると便利な製品です。近々これにNutubeを搭載したCA1000Tというモデルも出るそうです。
Lotoo Mjölnir |
Fiio R7 |
Shanlingからは2021年に座布団くらい大きなモジュラー式DAPのM30が出ていますし、Lotooから近々発売のMjölnirというのも面白そうです。Fiioからはバッテリー非搭載でコンセント電源のR7というモデルが発表されており、同社は「デスクトップDAP」と呼んでいます。
こういうオールインワンの一体型というのは、拡張性やアップグレードの道筋が乏しいため、マニアにはセパレートの方が好まれるというのがこれまでの常識でしたが、私の身の回りを見ると、大規模なセパレートシステムを組んでいたヘッドホンマニアが、ダウンサイジングとしてこういった小型オールインワンを求めるケースが増えてきたように思います。
身も蓋もない話ですが、たかがヘッドホンを鳴らす程度なら数ワットのパワーがあれば十分なので、スピーカー用アンプほどの巨大なシャーシは不要ですし、無闇にパワフルな電源や増幅回路を入れても、感度の高いヘッドホンにとってはノイズや歪みの原因になります。
スピーカー用オーディオを真似たようなフルサイズ機器の見た目に魅了されていたヘッドホンマニアも、ある程度経験を積んだら、むしろコンパクトで洗練されたモダンなユニットの方に魅力を感じるようになるのかもしれません。
今後このようなデクストップタイプのオールインワンDAP機器が増えてくると思いますが、FiioがデスクトップDAPと呼んでいるくらいで、このジャンル独自の名称がまだ決まっていないようなので、今後業界全体でどのような発展を見せてくれるのか楽しみです。
ドングルDAC
正式な名称はわかりませんが、スマホのバスパワーで動かすドングルDACというのも続々と新製品が登場しています。これとトゥルーワイヤレスイヤホンが、ここ数年のオーディオ関連で最大のトレンドと言えそうです。
アップル純正アダプター & Audioquest Dragonfly |
ESSや旭化成などのチップメーカーがUSB DACとヘッドホンアンプ機能を統合したICチップを作ってくれたおかげで、弱小メーカーでも手軽にドングルDACが作れるようになったのがありがたいです。また近頃ハイエンドDACでは影が薄いシーラスロジックなどのチップメーカーも、このジャンルでは健闘しているのが嬉しいです。
もはやドングルDACの枠を超えたCayin RU6 |
一番シンプルなタイプではワンチップで済ませていますが、オーディオブランドともなると、これらUSBインターフェースDACチップを中心に、ブースターアンプや電源の安定化などを追加することで、独自の音質チューニングを追求するようになり、モデルごとにサウンドやパワーに違いがあります。極端な例では、Cayin RU6のようにドングルDACなのにディスクリートR2R D/A変換を詰め込んだ破天荒なモデルもあります。
そんなCayin RU6でさえ4万円以下で買えるのが、このジャンルの人気の秘訣でしょう。こういうのは、やはり中華系IEMやワイヤレスイヤホンと同じで、そこそこ安価で色々と買い集められるため、友達間での音質評価の話題に花が咲いて、必然的に流行るのだと思います。
Fiio KA3 & iBasso DC03Pro |
現時点では、Fiio KAシリーズとiBasso DCシリーズが二強で争っているようです。新作がどんどん出ているので、最新版に買い替えるという需要もすでに生まれています。
そして、それらメジャーなモデルに飽きた人がAstell&Kern、Shanling、Questyle、Lotooなどニッチなブランドに行っており、さらに45,000円のiFi Go Barや55,000円のLuxury & Precision W2-ACGなどの高価なモデルも出ています。
デザインはどれも似たりよったりですが、細かいところでメーカーごとの違いがあり、たとえばボリュームボタンの有無であったり、そのボタンが自分のスマホとちゃんと連動するかなど、スマホ機種や、使いたいアプリごとに挙動が違ったりするので、事前にテストしないと痛い目に会います。
Questyle M15 |
Astell&Kern HC2 |
iFi Audio GOLD BAR |
外観のデザインでは、個人的にはQuestyle M15の透明パネルは面白いと思いました。こういうのはインパクト勝負みたいなところもあるので、Astell&Kern HC2のアーティストコラボモデルとか、iFi AudioのGold Barなど、単なるガジェットに留まらない面白いモデルも出ています。
ドングルDACの大きな利点は、バスパワーという仕様上、そもそも強力なアンプを搭載する事を諦めているため、回路が比較的シンプルになり、価格のわりに歪み率などの測定スペックが意外と優れている点が挙げられます。そのためイヤホンを鳴らすのなら大型アンプを使うよりも高音質だったり、簡易的なラインレベルDACとして使っても優秀です。
また、これまで必要性に賛否両論あったイヤホンのバランス接続においても、バスパワーの限られた電力で、大きな電圧振幅を得るために、バランス化は有効な手段なので、ドングルDACでもバランス出力タイプが増えてきました。
2022年の時点で、ドングルDAC最大の問題は、Lightningとの互換性が足かせになっている事だと思います。単純に端子が違うという意味ではなく、USB Cと比べてLightningはバスパワー電力が極めて非力で不安定なため、ドングルDACが発揮できるパワーが制限されてしまいます。
AndroidスマホやiPadなどUSB 3.1以降のUSB Cが500mA以上供給できるのに対して、Lightningのバスパワーは資料によっては100mA、200mA、300mAと様々な数字が書いてありますが、実際はiPhoneの世代によっても違いますし、iPhoneのバッテリー残量によっても挙動が変わるようです。
そのためドングルDACのメーカーにとってはLightning互換性の保証が非常に面倒ですし、高音質設計の足枷になってしまい、一部のメーカーでは、USB Cで接続する時のみ本来の性能で駆動できるような設計になっています。音質や使用感のレビューを読む際も、LightningとUSB Cのどちらかチェックしたほうが良さそうです。
ポタアンとか
盛況なDAPやドングルDACとくらべて、デジタル・アナログポタアンは下火のようで、新作の数も少ない一年でした。ドングルDACから乗り換える5万円以下のエントリー価格帯に、もうちょっと選択肢があってもよいのではと思います。
私の勝手な解釈としては、ドングルDACとの違いはバッテリーを内蔵しているかどうかだと思います。つまりスマホのバスパワー給電に依存しない、パワフルなアンプ設計が可能になるわけです。
ポタアンとドングルDACの境界線として、Fiio BTR7やiFi Audio Go Bluのように、バッテリー内蔵のBluetooth受信機で、さらにUSB DACとしても使えるモデルも存在します。
Chord Mojo 2 |
2022年の新作では、まずベストセラーChord Mojoがついに後継機Chord Mojo 2に世代交代しました。価格は8万円だそうで、初代の発売価格が75,000円だったので、僅かな値上がりで済んだのは嬉しいです。
初代Mojoが登場したのがいつだったか確認してみたら、2015年だったので驚きました。私も発売当時に買って使っていたので、それがもう七年前ということになります。FPGAの出力をトランジスターでそのままドライブするという画期的な手法は今でも類を見ない革新的なアイデアです。
新型Mojo 2ではFPGAプロセッサーの更新とともにアナログ回路も一新されており、一見同じようなデザインでも、音質面ではかなり変化しています。細かい点ではUSB C端子も追加されたのも嬉しいです。
買い替え需要で、初代Mojoの中古や処分品もたくさん見かけるようになりましたが、私としては差額を踏まえても新型Mojo 2に音質メリットがあると思います。この勢いでそろそろHugo 2の方も新型に更新してもらいたいです。
Fiio Q7 |
FiioからはQ7が登場しました。Mojo 2よりも高価な15万円です。こちらはFiio M17 DAPからプレーヤー機能を省略したDACアンプということで、ES9038PROとTHX 788+アンプを搭載した、まるでデスクトップ機のようなスペックで、バッテリー駆動時に1.5W、ACアダプター接続時には3Wものハイパワーを発揮します。あれこれ悩まずに、どんなヘッドホンでもパワフルに鳴らしたいという人には最適なモデルです。
EarMen Angel |
EarMenからはAngelという青いモデルが登場しました。前作の赤いTR-AMPと似ているものの、10万円超の上級機ということで、シャーシがもうちょっと長く、Micro iDSDと同じくらいのサイズになっています。
ES9038Q2Mとバランスアンプ回路を搭載しており、結構真面目に作られているようなので、micro iDSDシリーズのライバルとして歓迎します。特にボリュームノブにデジタル制御を使っているのが嬉しいです。現在試聴している最中なので、良さげだったらまたブログで紹介しようと思います。
Brise Audio Tsuranagi |
他にも見落としたモデルもあるかもしれませんが、ポータブルアンプの新作というと、上記の三作くらいしか思い当たりません。価格コムを観覧してみたところ、Brise AudioからTsuranagiという30万円のアナログヘッドホンアンプが出ているのですが、残念ながら現物を試聴する機会がありませんでした。アップグレードケーブルのブランドとしては定評があるので、このアンプもどんな鳴り方なのか気になります。マス工房とかもそうですが、マニアしか近寄らないようなニッチなガレージメーカーっぽいアナログポタアンは、たまに凄い鳴り方をしてくれたりします。
アナログポタアンといえば、2023年にはAstell & KernからPA10というモデルが出るそうです。これまでDAPなどデジタル方面で活躍してきたAKなので、アナログアンプを出すのは意外ですが、どんな鳴り方なのか気になっています。アナログクロスフィード搭載というのも個人的にポイントが高いです。
据え置きアンプ
Chord DAVEを筆頭に、dCS BartokやBricasti M3など、近頃はスピーカーオーディオ用の据え置きDACに、それなりにパワフルなヘッドホンアンプが内蔵されているモデルが続々増えてきたことで、据え置きヘッドホンアンプの定義や境界線が曖昧になっています。
据え置きDACにヘッドホンアンプ |
ヘッドホンアンプ自体も、時代のトレンドによる変化があります。古典的なスタジオモニターヘッドホンを前提に作られたヘッドホンアンプは、電圧ゲインが高く設計されているため、近頃の高感度ヘッドホンやイヤホンではメリットが引き出せず、ボリュームノブの調整範囲が使いづらかったり、アンプの歪みやノイズが目立ってしまいます。THD+Nが110dBと書いてあっても、それは600Ωヘッドホンでボリューム最大付近まで上げた時の数字だったりします。
つまり近年はヘッドホン自体の設計思想が変わってきたことで、ヘッドホンアンプに求められる性能が変わってきており、それに順応できるメーカーとなると、必ずしも伝統的なハイエンドオーディオやプロスタジオ機器のメーカーではなく、意外と安価でフットワークが軽い新興ブランドの方が音質も性能も良かったりします。
ただし、あくまで趣味の範囲で音楽を聴いているのであれば、測定スペックの優劣にばかり気を取られず、自分が好きな音楽が良い音で鳴っているか判断するのが大事ですし、実際に何ヶ月も使い慣れてようやく気がつく事もあります。
メーカー開発の人からよく聞くのは、オーディオアンプはTHD+Nやクロストークなどのスペックが全てではなく、そういう数値を追求するだけなら、経験が浅い電子メーカーでも作れるけれど、むしろ測定値は悪化したのに音が良いと思えてしまうことも多く、それらの理由を深追いすることで開発が難航するのがよくあるそうです。
もちろんこれは感性の世界なので、大手メーカーは大勢のスタッフの賛同を得なければいけないため、音作りも凡庸になりがちですし、逆に小規模なガレージメーカーは様々な条件で評価する環境が無いため、特定のヘッドホンや音楽ジャンルに傾倒したクセの強い音になってしまいがちです。
ADI-2/4 PRO SE |
私としては、たとえばRME ADI-2DAC FSなど、測定スペックにも定評のあるクリーンなDACアンプで鳴らした時のサウンドをしっかりと把握した上で、そこから先は、自分の感性に任せて選べば良いと思っています。
そんな定番ADI-2シリーズも、新型のADI-2/4 PRO SEが登場、私はまだ試していませんが、4.4mmバランスヘッドホン対応、DSD録音再生(ボリュームはD/Aチップにて)といった具合に、旧作ユーザーの声にしっかり対応した製品になっているようです。今のところA/D変換機能の無いモデル(ADI-2DAC FS後継機)の情報は出ていません。
dCS LINA |
2022年に登場した据え置き型ヘッドホンアンプを振り返ってみると、以前流行っていたようなフルサイズのオールインワンの時代から、新たにハーフラック・デスクトップサイズのセパレートの時代に突入した印象がありました。
まず、ほとんどの人には縁がない製品だと思いますが、イギリスdCSからLINAというシステムが登場、ヘッドホンアンプ、ストリーマーDAC、マスタークロックの三段重ねで、全部合わせると総額560万円くらいになるそうです。
dCSは創業から現在までD/Aコンバーターに特化したメーカーだったので、今回初のアナログアンプとしてヘッドホンアンプを出したのも意外性があります。
dCSの製品ラインナップからすれば、これでも安い方なのかもしれませんが、(たとえば同社の最上級DAC Vivaldi APEXは単体で608万円)、今作Linaはスピーカーではなくヘッドホンオーディオに特化したコンパクトなデスクトップシステムという点で型破りな製品です。つまりスピーカーオーディオと同じくらいの予算をヘッドホン環境に検討したい人たちが少なからず存在するのでしょう。私では無理です。
Ferrum Audio HYPSOS + OOR |
Ferrum Audio ERCO |
dCSよりは値段が下がるものの、それでも非常に高価なシステムで、ポーランドからFerrum Audioも注目を集めました。茶色のエンブレムでひと目見てわかるデザインは秀逸です。2020年に生まれた新興メーカーで、USB DACのERCO、ヘッドホンアンプOOR、電源ユニットHYPSOSの三段重ねで、合計100万円くらいになります。
ERCO DAC単体でもヘッドホン出力が用意されており、それを中心に、電源とヘッドホンアンプを買い足してアップグレードしていくというあたりはiFi AudioのZenシリーズと似ています。多くのショップで店頭デモ機があったので、何度か聴く機会がありましたが、派手さはないものの温厚で落ち着いた鳴り方は好印象でした。
冒頭でも言ったように、測定スペック重視なら数万円でも優れたDACアンプは色々と手に入りますし、それらが劣っているわけではないのですが、そういうのを一通り経験した上で、改めてこういったハイエンド機器を聴いてみると、明らかに「人の手が加わった」音作りのセンスというものが実感できます。
具体的に何が凄いというのではなく、普段から聴き慣れている様々な音楽で「ここの部分が、もうちょっとこう鳴ってくれた方が」と思っていた部分で、まるで予知していたかのように良い感じに鳴ってくれるのが、優れたオーディオ機器だと思います。そのためにメーカーはたくさんのユーザーフィードバックをもとに試作機の改良を突き詰めていく必要があるので、最終的な回路基板や部品を見ただけではその努力が計り知れませんし、価格のほとんどが人件費だというのも納得できます。
EarMen CH-AMP |
セパレートシステムでは、EarMenのスタックも新時代を象徴するような製品です。2021年に登場したTraduttoというDACに、同じシャーシサイズでストリーマーStaccatoとヘッドホンアンプCH-Ampを重ねる構成で、CH-AMP単体で28万円、Traduttoが13万円です。CH-AMPには大きな電源ユニットが付属しており、ここでコンセント電源から各機器にDCを供給してくれるという面白い構想です。
こういう小型のセパレートスタックを見ると、年配の人なら90年代に流行ったMDミニコンポを思い出しますね。もしオンキヨーが健在だったら、今こそINTECシリーズとかを現代風にアレンジしたら人気が出そうなのが残念です。
Violectric V226 & V340 |
世の中すべてストリーマーDACばかりではなく、私が愛用しているViolectricのように、高ゲインに特化した無骨なヘッドホンアンプを作り続けているメーカーも健在です。
2022年には一部のモデルが日本でも正規で手に入るようになりました。価格帯によってLake People・Violectric・Niimbusという三つのブランドに分かれており、ドイツ本国ではヘッドホンアンプの現行モデルだけでもG103、G105、G108、G111、V202、V222、V226、V340、V380、V550、V550 PRO、V590、V590 PRO、US5 PROと総勢14モデルが用意されていて、私もどれがどれだか混乱してしまいます。
2021年に発売したUS5 PROは100万円に迫る最高級機でしたが、31万円のV226や、42万円のV340など、それでも高価ですが、他社と比べても現実的な価格帯のモデルが登場しました。内蔵DAC、ライン出力、リモコンなど、モデルごとに細かい違いがあるので、必ずしも上級機を選ぶ必要はありません。また写真では一見同じように見えてもV226とV340でサイズが倍ぐらい違ったりするので、実物を見ると印象が変わるかもしれません。
HIFIMAN EF400 |
単発のヘッドホンアンプでは、HIFIMANのEF400というのも面白いです。USB入力のみで、自社製R2R DACを搭載する据え置きヘッドホンアンプでありながら、8万円というのは意外と安いと思います。
案の定HIFIMANらしく初期ユニットはUSBだとパチパチノイズが発生するなどの不具合があり、満足に試聴できませんでしたが、後日対策品に変わったそうで、それ以降は好評なようです。メインのレファレンスシステムとは別にR2RのNOSサウンドを味わうためのサブ機としても面白いかもしれません。シンプルなR2RなのでDSDネイティブ非対応だったり、全体的に荒削りな風貌も含めて、ヘッドホンオーディオ黎明期のような手探り感を彷彿させてくれます。HIFIMANですので、ちゃんと保証付きの正規ルートで買うことをオススメします。
Fiio K5 PRO ESS、 K7、 K9 PRO ESS |
据え置きアンプでも、低価格帯では相変わらずFiioが強いです。K5 PRO ESS、K7、K9 PRO ESSという三段ラインナップになっており、それぞれ3万、4万、14万円ということで、K9 PRO ESSだけ大型シャーシに相応しく一気に高価になります。
K5 PRO ESSはES9038Q2MにTPA6120を素で使っているのに対して、K7はAK4493SEQにTHX 788+、そしてK9 PRO ESSはES9038PROとTHX 788+に強力なリニア電源も内蔵している本格的な据え置き機です。
さすがにK9 PROのような高価格帯になるとライバルも増えてきますが、K5 PROやK7など、4万円以下でパソコンの傍らに置けるヘッドホンアンプが欲しい人にとってFiioは魅力的です。虹色に輝くボリュームノブに象徴されるように、近頃のFiioはゲーミング路線を突き進んでいるのも面白いです。
iFi Audio ZEN Air DAC & ZEN Air CAN |
低価格のライバルとして、iFi AudioのZENシリーズが健闘していますが、2022年にはZEN AirシリーズのAir DACとAir CANがそれぞれ2万円以下で登場しました。3万円台のZENシリーズの時点ですでにコスパが高いと思っていたのに、さらに安価なシリーズを出したのは意外でしたが、入門機としての需要があるのでしょう。
既存のZENシリーズとの主な違いは、シャーシがプラスチックになって、バランスアンプが無くなりシングルエンドのみになったあたりのようです。ヘッドホンアンプZEN Air CANには4.4mmヘッドホン端子も用意されていますが、内部のアンプはシングルエンドのようです。この価格帯であれば、無理にバランス化するよりも、もっと別にコストをかけるべきところがあるので賢明な判断だと思います。
FiioにしろiFiにしろ、他にもToppingなど中華オンラインブランドからも低価格モデルはたくさん出ていますが、測定スペックが優秀でも、やはりコスパを追求すると電源やシャーシにあまり予算をかけられないため、環境次第でノイズやグリッチが発生したり、不具合のリスクもあるので、その点においては店頭にて自前のヘッドホンでテストしたり、購入後のサポートがしっかりしているメーカーをおすすめします。
ヘッドホンとは直接関係ありませんが、iFi Audioといえば、NEO Streamという新作ストリーマーDACは意外と面白いです。20万円と結構高価なのと、私自身はもっと安い前作ZEN Stream(7万円)を買っていて満足しており、その点このNEO StreamはDACを内蔵しているのが不要なので、購入しませんでした。
しかし、付属品を見ると、本体とは別に、RJ45イーサネットケーブルをSCファイバーに変換するアダプターが同梱されており、これはこの価格帯では結構画期的なボーナスだと思います。
近頃ハイエンドオーディオ系雑誌を読むと、何千万円もするような最高級オーディオシステムでもイーサネットのネットワークオーディオが定着しており、次の段階として、オーディオシステムを自宅LANから電気的に完全に絶縁するために、スイッチやルーターなどをファイバーに変更するというのが流行っています。
私も仕事のフラッシュアレイなどで100GbEのファイバーを扱うことが多かったり、業務用では結構一般的になっているものの、家庭用イーサネットでは導入コストや取り回しの不便さから普及しておらず、未だにRJ45ケーブルの1~10GbEで頑張っている状態なわけですが、オーディオネットワークという意外な側面から、一般市場に光ファイバーが導入されるというのは面白い現象です。
また、近頃はオーディオショップがここぞとばかりに法外な価格で「オーディオグレード」と称するネットワークケーブルやスイッチなどを売り込んでいる中で、このNEO Streamみたいに、単純な付属アクセサリーとして、あくまで絶縁のためのファイバー変換器を同梱しているのは新鮮で有意義だと思います。
そういえばS/PDIFデジタルオーディオの時代にも、75Ω同軸よりもTOSLINKの方がノイズが絶縁されるから良いと支持する一派がいたわけですが、TOSLINKの場合は、優れた高速同軸ケーブルと比べると速度が出せず、96kHz以上のサンプルレートではジッターが酷くて不安定というデメリットがありましたが、イーサネットの場合、RJ45 LANケーブルに対してSCやLCファイバーのデメリットは機器コスト以外には思い当たらないので、今後もっと普及しても良いと思っています。
もちろん、オーディオ業界のことですから、マルチモードよりシングルモードの方が光量が強いから音が良いとか、トランシーバーCisco対Juniper聴き比べとか、感動の純度を高めるクライオ処理ロジウムメッキのLCファイバーケーブルとか、光ケーブル専用設計のヒノキ材ケーブルライザーブロックとかが出るかもしれませんね。
Fiio BTR30 PRO |
可能性は無限大です |
もうひとつ、据え置きDACに含まれるかは微妙ですが、有意義な据え置き機器として紹介したいのは、Fiio BTA30 PROです。これは私も購入しました。
2万円でバスパワー式の小型Bluetooth送受信機です。前面のスイッチで受信・送信モードを切り替えることができ、さらにES9038Q2Mを搭載しており、PCM384kHz・DSD256対応USB DACやUSB→S/PDIF変換としても使えるという便利ガジェットです。ちなみに使用中の電力消費を測ったら5V 86mA程度で、私のDAPからOTGでも動かせました。
Bluetooth受信機としては、RCAライン出力と光・同軸S/PDIFに出せるため、スマホから自宅オーディオシステムに音楽を飛ばすために便利ですし、送信機としては、USBと光・同軸S/PDIF入力からBluetoothヘッドホンに飛ばすのに使えます。
しかもBluetoothはaptX LL/HD対応で、LLとHDを任意で切り替えられますし、さらにユニークな点として、LDACにも対応しています。私もLDAC対応ヘッドホンをパソコンで使いたかったので、色々探した結果、これに行き着きました。
購入後のファームウェアアップデートを終えるまでは面倒でしたが、それ以降は不具合も無く、常にバスパワーDACとしてパソコンに接続しておいて、ヘッドホンの電源を入れるだけでペアリングしてくれて、かなり重宝しています。スマホと接続する場合は専用アプリもかっこよくて良いです。
Sennheiser BTD 600 |
さらに余談になりますが、Fiio BTA30 PROの唯一の欠点として、aptX Adaptiveには対応していません(aptX LL/HD対応のチップなので、両方は無理なのでしょう)。
そのため、最新世代のaptX Adaptive対応ヘッドホンをテストするために、色々と探してみた結果、ゼンハイザーBTD 600というドングルが良い感じで、安定して接続してくれたので、現在はこのBTD600とBTA30 PROの二刀流で使っています。やはりBluetoothイヤホンで最高音質を引き出すには、コーデックには気を使います。ちなみにBTD 600はAdaptive接続だとLEDが紫に光って判別できるのもありがたいです。
ちなみにBTD 600はパソコンに挿すとWASAPI 96kHz/24bitで認識しますが、他のメーカーのドングルで48kHz/24bit上限のもあるので不思議に思っていたところ、Snapdragon 855や865あたりのAdaptive初期チップを搭載しているスマホやドングルでは上限が420kbps・48kHz/24bitに設定されていて、Adaptive本来の860kbps・96kHz/24bitが出せないものがあるようです。48kHzだから音が悪いという事は無いでしょうけれど、圧縮ビットレートの上限が制限されるというのは音質に影響がありそうです。
2022年の私がよく使ったイヤホンなど
最後に、私自身が一年を通して使ったヘッドホンなどを紹介したいと思います。
これらが最善の製品というわけではありませんが、日頃から無意識に手に取る機会が多かったモデルなので、つまりそれだけ自分の好みに合っているのは確かです。
64 Audio Nio & UE Live |
まずポータブルでは、イヤホンはUE Liveと64Audio Nioの使用頻度が多かったです。外出時は一年間ほとんどこれで音楽を聴いていました。遮音性が高いUE Liveは騒音下で、通気性の良いNioはもっと静かな環境で、両方とも重宝しています。どちらもダイナミック+BAのハイブリッド型で、厚く迫力のあるサウンドなので、私はこういう音が好きなのでしょう。
Linum Estron |
ケーブルは、色々と試した結果、UE LiveはIPX端子なのでWestone用のLinum Estron UltraBaXに交換しました。太さや取り回しは標準のSuperBaXとほとんど変わらないのに、わずかに鮮やかさが乗る感じが良い感じです。
Nioの方はEffect AudioのThor Silver Plusです。これはConX対応版が出たときに非ConXの2PIN版が格安の処分品になったタイミングで買いました。音が厚くなりがちなNioなので、銀ケーブルのギラギラした味付けでちょうどバランスがとれて爽快感が増したようです。
他には、夜寝るときなど、耳を圧迫せずに気軽に使えるイヤホンとしてゼンハイザーIE600はよく使いました。こちらは付属ケーブルが太いのが嫌いなので、軽くて柔軟な交換ケーブルを探しているところです。FiioやEffect Audioの安いやつなど、一応互換性のあるケーブルも持っているのですが、MMCXの接続が緩くて、接触不良や、簡単に外れてしまうなどのトラブルに悩まされています。ゼンハイザー純正ケーブルではそんな事は無く、パチンと強固に接続されるので、イヤホン側の問題ではなく、どこかにピッタリ合うケーブルがあるはずだと探しています。
メインでUE LiveやNioなどのハイブリッド型を使っているので、このIE600のような軽快なダイナミック型もあると気分転換になって良いです。ダイナミック型ではDita Perpetuaがどうしても欲しかったのですが、値段が高すぎて断念しました。
Hiby RS6 |
DAPはHiby RS6を使い続けています。軽くてインターフェースの処理も速く、USBトランスポートとしてやBluetooth接続も安定しているため、日々の実用に活躍してくれます。つい先日ファームウェアアップデートがあり、D/A変換にHDRモードなるものが追加されました。
音質面では、独自のR2R DACは完璧とは言えませんが、外出先の騒音下で聴くには、これくらい太く鳴ってくれる方が充実感があります。ただしDSD周りの処理に難ありなので、このあたりはファームウェアのテストが不十分だと思います。なんだかんだで、そういった音質面での不満は差し引いても、使い勝手が良いので愛用しているDAPです。
Astell&Kern SP1000 |
もうひとつ、以前からずっと欲しかったAK SP1000のステンレスモデルを、型落ちの中古品でようやく購入しました。新品では手が出せませんでしたが、DAPはモデルチェンジが頻繁なため、一昔前のフラッグシップが安く手に入るのが良いですね。
ステンレスシャーシは重く、ヘッドホン出力は非力ですし、バッテリーの持ちも悪いので、外出時に使う機会は少ないのですが、これでイヤホンを鳴らした時のサウンドは私にとっては最高の体験で、発売から5年が経った今でも、毎回使うたびに「良い音だ」と実感できます。
当時のAKは2.5mmバランス端子のみだったので、4.4mm変換アダプターを使っています。これも最初は安いやつで十分だと思っていたところ、アダプターごとに音の違いが感じられたので、色々と試した結果、Effect Audioの高いやつを買う事になってしまいました。もちろんアダプターなんて無いに越したことはないので、最近のAK DAPは4.4mm端子も搭載してくれているのはありがたいです。
最新の後継機SP3000も凄い音だと思いますが、さすがに60万円は払えません。こちらも、これから定期的に試聴を繰り返して、数年後にも良い印象が変わらないようでしたら、その時にまた中古などで購入を検討してみようと思います。
新製品が出るたびに、すぐ買って、すぐ中古で売るという人も結構多いようですが、私の場合は気に入ったモデルを何年も使い続けることが多いため、いざ買い替えるとなると、予算面はもちろんのこと、今まで使ってきたモデルを完全に代替できるほどのメリットがあるか、というのも大事なので、完全に納得できるまで何度も試聴をくりかえしてしまいます。
Fostex TH909 |
据え置きヘッドホンは、あいかわらずフォステクスTH909をメインに使っています。他にも最新ヘッドホンは色々と試聴しているものの、自分のデスクのヘッドホンスタンドに必ず常備してあるのはTH909のみで、今後当面は買い替える気がありません。
最近の平面駆動型などと比べると、そこまで高価なモデルでもありませんが、これまで様々なヘッドホンを散々使ってきた中で、今のところ音作りに一番共感が持てるのが、このTH909のようです。ダイナミックドライバーの開放型らしいリラックスした鳴り方でありながら、ウッドの絶妙な響きを持たせてあるあたり、私の日頃の音楽鑑賞において非の打ち所がありません。
やはり最近のトレンドは平面駆動型ですから、そちらも何か買いたいとも思っているのですが、どれにすべきか迷っていて一向に決まりません。
Violectric V281 |
ヘッドホンアンプもあいかわらずViolectric V281を使い続けています。2016年から、ずいぶん長い付き合いですが、まだ満足して日々愛用しています。
ブログでも紹介しましたが、ついに生産終了ということで、まだ手に入るうちにボリュームノブをボリュームポット式から固定抵抗のリレー制御式にアップグレードしました。
V281購入時に双方を聴き比べた時には、価格差に見合うほどの音質差が感じられなかったのですが、今回改めて聴き比べてみたら十分なメリットが実感できました。やはり長期間使い続けていると、機器の鳴り方の些細な変化にも敏感になるのかもしれません。ただしノブを回すたびにリレーがガチャガチャうるさいのはまだ慣れません。
SPL Phonitor Mini & Phonitor X |
Violectric V281のサブ機として、2021年にSPL Phonitor Miniというのを買っており、これはクロスフィード機能の鳴り方を大いに気に入ったので、2022年にはバランス化されたPhonitor Xというモデルに買い替えました。
あえてブログで紹介しなかった理由は、純粋な音質面ではPhonitor Miniとほぼ同じような印象だったので、概ねクロスフィードがすごく良い、というだけの話になってしまうからです。
結構ドライブ感が強いというか、懐かしい感じの鳴り方なので、もっとクリーンな鳴り方のアンプは他にも色々ありますが、クラシックやジャズなど生楽器を立体的に押し出す描き方はとても魅力的なので、そういうのが好きな人はぜひ体験してもらいたいです。
iDSD Diablo & Signature micro iDSD |
これまで長年愛用してきたのに、最近は意外と使わなくなってきたのが、iFi AudioのSignature micro iDSDです。その理由は単純明快で、近頃はDAPの出力がとてもパワフルになってきた事で、micro iDSDのメリットであった高出力の出番が少なくなったわけです。あれだけmicro iDSDを愛用してきた私ですらこうなら、ポタアンの新作が減ってきたのも納得できます。
しかも近頃のDAPがどんどん最新ICなどを搭載して高性能化しているのに対して、micro iDSDのボリュームノブのギャングエラーやクロストーク、ゲイン調整によるインピーダンス変化など、良い音を引き出すための必要条件がシビアなあたりも基礎設計の古さが目立つので、そろそろなにか抜本的な新型を期待したいです。それならxDSD Gryphonがあるじゃないか、と言われるかもしれませんが、micro iDSD系の音が好きな人にとって、xDSD系は何か違う気がして、買い替える気がおきません。
おわりに
2023年もヘッドホンオーディオは盛況な一年でした。
特に最上級クラスの大型ヘッドホンにおける進化が顕著に実感できたので、機会があれば、ぜひ新作を店頭で試聴してみてください。HD800Sなど過去の名機が無価値になるというわけではありませんが、近年の凝った音作りと比べると、数年前の開放型ヘッドホンはなんだか軽くて物足りず、古い密閉型ヘッドホンは響きがこもりすぎと感じてしまうかもしれません。
逆に、HD25くらいのコンパクトヘッドホンのジャンルは長らく停滞している思うので、大型ばかりでなく、このあたりでなにか新しい技術的な進歩が見たかったです。このサイズのヘッドホンはワイヤレスと競合するためメーカーとしても開発意欲が無いのでしょうか。
有線イヤホンは相変わらず奇抜な超高級モデルが話題をさらってしまい、地味な中堅モデルはあまり話題にならないのが残念ですが、ゼンハイザーIE600とかWestoneのMachシリーズなど、毎日使うパートナーとしては上出来の仕上がりだと思うので、影が薄い存在でも、見過ごさないで試聴してもらいたいです。
ワイヤレスでは、特にFinal ZE8000が印象的でした。屋外での実用性では他社に譲りますが、静かな環境でじっくり音楽を聴き込む事ができるワイヤレスモデルというのは初めてなので、Bluetoothもついにここまで来たのかと驚かされました。しかも近頃高額化が目立つワイヤレスヘッドホンではなく、トゥルーワイヤレスイヤホンの方が先にそれを達成しているのが興味深いです。
ポータブルDAPは、どのメーカーも上級機の画面の大型化とは対照的に、10万円以下の普及価格帯モデルの性能が追いついていない印象があります。スマホ+ドングルDACの組み合わせに市場が奪われたのは確かですが、だからといってDAPが欲しい人全員が50万円のモデルを買いたいわけではありませんから、もうちょっとリーズナブルな価格でも操作性で不自由のない新型機を期待したいです。その点2023年早々にソニーZX707とA300が発表されたのは嬉しいニュースです。
据え置きヘッドホンアンプの市場を見ると、dCSがヘッドホンアンプ専用システムを出した事からもわかるように、近頃スピーカーオーディオの一流ブランドもヘッドホン市場に興味を持ち始めており、これからも続々と参入してくることが予想されます。
ネットワークDACにヘッドホンアンプ基板を追加するだけの簡単なものもあれば、スピーカー用アンプと同じ意気込みで本格的なヘッドホンアンプを開発するメーカーも増えてくるでしょう。
スピーカーオーディオの雑誌を読んだことがある人ならご存知かと思いますが、いわゆるピュアオーディオと呼ばれているような、あのジャンルは、ほんの一握りの富豪しか買えないような数千万円台の製品がゴロゴロ存在している魔境です。
ヘッドホンオーディオも今後そのように市場が変化していくのかもしれません。これまでは、バイトしている大学生でも、頑張ればフラッグシップ級のヘッドホンやアンプに手が届く価格帯に収まっていたおかげで、レビューや試聴イベントなども比較的フラットな観点で、誰もが中立的な立場で音質を評価しあうコミュニティが生まれたのだと思います。多くの人が最高級機を買えるのであれば、金に物を言わせるマウントの取り合いができないわけです。
ところが、各社の上級ヘッドホンが60万円、アンプシステムに100万円というような状況がさらに過熱していくと、そこそこ熱心なヘッドホンマニアでも上級機に手が出せなくなる一方で、高級嗜好品としてヘッドホンが世間一般に認知されはじめたことで、富裕層のライフスタイルの一環としての存在感が強くなっていきます。
勘違いしてもらいたくないのは、これは買う側の金銭的余裕の話ではなく、売り方の話です。もっとわかりやすく言うと、家電店やヘッドホン専門店で常連マニアに売るのではなく、ブティックやサロン的な売り方に変わっていき、売り場のスタッフも、業界に精通したオタクではなく、高級車セールスマンみたいな接客が求められるという事です。
ただし、それは必ずしも悪い傾向というわけではなく、たとえば昨今の腕時計コレクターのように、パテックやヴァシュロンを持っているような人でも、別腹でSKXやGショックのカスタマイズに熱中するような、価格帯を超えた商品そのものの魅力によってダイナミックな文化が生まれている前例もあります。
文化が栄えるには色々な要素があると思いますが、腕時計の例に戻ると、絶対的な測定性能ではなく(それなら1000円のクオーツ時計に完敗しているわけですから)、自分の生活に合った嗜好品として、個人の趣味趣向が尊重される点が挙げられます。
そこに、ある種のオマージュ文化というか、クラフトマンシップへのリスペクトみたいなものが根本にあり、つまり、低価格なモデルを作っているメーカーや、それを使っているユーザーも、最高級品に求められる技術に対する理解や敬意があり、価格にとらわれず良いものと悪いものの目利きができるのが理想です。
ヘッドホンオーディオも、そのような状況になれば安泰なのですが、むしろ逆行しているという心配もあります。コロナでネット中心の生活に依存する人が増えてきたことで、実際に商品の音を聴かずに批評やコストパフォーマンスのイメージが形成される風潮が強まっている印象があります。
もちろん、どんな時代でも、音楽を聴くのではなく、測定グラフを眺めてワクワクするような趣味の人も一定数いるわけで、それはそれで結構なのですが、私としては、ネットという閉鎖コミュニティによって、そのような目で見た情報が耳で聴いた感想を超えて、善悪の話にすり替えて流布されてしまうというのが問題だと思っています。
中学生がなけなしのお小遣いを貯めて、レビュー動画の吟味を重ねて高コスパなヘッドホンを買うのは喜ばしい事ですし、そこで高揚して、高級ブランドは全部ぼったくりだとネットに激しく書き込むのもよくある事なのですが、ネットの匿名性が災いして、中年のおじさんがその意見を盲信したり、逆に激しく反論したりなど、オンライン特有のいびつなコミュニティの中で、多くの人が時間を無駄にしているように思います。
結局何が言いたかったかというと、情報を集めるのも結構ですが、音楽というのは音を聴いて時間を過ごして楽しむ趣味ですから、新製品でも、往年の名機でも、週末に専門店に行ってみたり、友人同士の貸し借りなどで、じっくりと聴いてみるのが一番大事だという話です。