2023年1月19日木曜日

2022年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホンとかのまとめ (1/2)

 2023年になったので、2022年の一年を通して個人的に気になったイヤホン、ヘッドホンなどを振り返ってみたいと思います。

コロナ規制明けという事もあって、各メーカーから新作が続々登場しており、サウンドにおいても数年前の常識を一気に覆すような、新たな時代の幕開けという印象の一年でした。

2022年

今回はヘッドホン、イヤホン、DAP、アンプそれぞれのジャンルで、とくに音が良いと思ったモデルについて振り返ってみます。

2022年の新製品を全部網羅できるわけもなく、あくまで私自身がショップで試聴したりなどで、じっくりと聴く機会があった製品のみに限定されるので、今回触れなかったからといって何か問題があるとか音が悪いというわけではありません。

また、しっかり試聴したのに考えがまとまらず(というか書く暇が無く)ブログなどに上げていないモデルも結構たくさんあるので、それらについては、これからも順次書いていけたらと思っています。

2022年全体の感想としては、日本のみでなく世界各国の物流や生産ラインが復旧したおかげで、国内外の新作が続々登場して、店頭在庫も潤沢になってきた一年でした。2020~2021年は「買いたくても在庫が無い」という状態が続いていたので、その頃と比べると、ようやく通常の感覚に戻ってきたような気分です。

ただし、日本国内はかなりの円安が続いているので、新製品の価格設定も数年前と比べるとずいぶん上がっています。海外($USDなど)での販売価格はそこまで変わっていなかったりするので、メーカーやショップに値上げの不満を言う前に、そのあたりも考慮する必要がありそうです。

また、部品や材料の仕入れコストが相当上がっているため、国内メーカーであっても値上がりが避けられないようです。このあたりは、実際に製造業に関わっていると痛感するのですが、消費者側からすると、欲しいモデルに手が届かなくなってしまったことは確かです。

逆に良い話題としては、店頭試聴会やイベントなども再開したことで、海外メーカーのスタッフが日本までわざわざ出向いてくれる機会も増え、コロナ期間中に着々と開発してきた新製品を披露できる場所が復活したのは喜ばしいです。

生産ラインがコロナで一旦停止したことで、工場の生産体制を考え直す機会になり、新しい独創的なアイデアを実践できる土壌が生まれています。2022年は単純にバックオーダーを満たすための量産が再開されたというよりは、多くのメーカーにとって新鮮なスタートの一年でした。数年前のモデルと比べて、デザインや音響設計において進化した新作が続々登場しているので、そこそこ古いシステムを使っている人は、ぜひ新しいモデルを試聴してみることをおすすめします。

大型ヘッドホン

密閉型、開放型のどちらも、2022年は各メーカーから最高級フラッグシップモデルの新作が豊富な一年でした。さらにトリクルダウンで中級機の選択肢も増えてきたおかげで、もはや古典的な定番モデルを買っておけば安泰というわけにもいかないようです。

つまり一昔前の高級ヘッドホンの常識が通用しなくなりつつあるので、過去のレビューなどはあまり気にせず、まだ未知数の最新作でも積極的に試聴してみる価値があると思います。

逆に、2万円以下くらいの低価格モデルでは、相変わらずATH-M50xやDT770などロングセラーの牙城を崩すには至っておらず、好調に売れ続けているようです。個人的には、このあたりの新たな定番になるような選択肢がもうちょっと増えてくれればと思っています。

Dan Clark Audio Expanse & Stealth

私自身が2022年に試聴した中で、良くも悪くもインパクトがあったヘッドホンというと、アメリカからDan Clark AudioのStealthとExpanseという二つの兄弟機が思い浮かびます。

Stealthは密閉型、Expanseは開放型で、軽量コンパクトな折りたたみ式デザインは一見そこまで高価には見えませんが、どちらも60万円を超える超高級機です。これまで高級ヘッドホンというと10-20万円が相場だったところに、60万円という高価なヘッドホンでも、いわゆるラグジュアリーな嗜好品としてではなく、機能性や技術力のみで価格を正当化しているという点で、新たな時代を感じさせます。

サウンド面では、開放型であれば他にも色々と優秀な選択肢がありますが、密閉型でここまで独自の理念で音質を追求しているのはなかなか無いということで、私としては、密閉型Stealthの方が面白いと思いました。

実を言うと、StealthとExpanseのどちらもそこまで好みの鳴り方ではないものの、これらを真っ先に取り上げた理由は、デザインやサウンドなど、全ての面において2022年のヘッドホン開発を象徴するヘッドホンだと思ったからです。

具体的には、ハーマンカーブ的な温厚な特性に、平面プロジェクター的な空気感の平坦化といった具合に、とくにアメリカ市場にて求められる完璧を入念に調べ上げて対策していったような仕上がりです。私自身はもうちょっとクセが強くても鮮烈で瑞々しいサウンドのヘッドホンが好みなのですが、そういうのはもっと安価でも優れた名機が手に入るわけで、そういった意味でも、60万円の価値が十分に見いだせる作品です。

Dan Clark Audio Aeon 2 Noire & Stealth

Dan Clark Audioの新作の中では、個人的にはStealthではなくAeon 2 Noireの方が好みに合います。こちらも20万円程度とそこまで安くはありませんし、コンパクトなポータブル機として甘く見られがちですが、サウンド面では、ここ数年の密閉型ヘッドホンデザインにおける大幅な進歩を実感させてくれました。

Dan Clark Audioは2022年8月から日本での代理店が変わり、これを書いている時点ではフジヤエービックの独占販売となっているため、なかなか試聴する機会が無いのですが、個人的にこのAeon 2 Noireはもっと多くの人に聴いてもらいたいヘッドホンの一つです。

Focal Utopia SG

高級ヘッドホン新興勢力として地位を確立したフランスFocalからも、2022年はフラッグシップUtopiaの後継機Utopia SGが登場しました。こちらは66万円くらいだそうです。

公式の説明では、旧作からそこまで大きな変化は無いようなことを言っていますが、細かい部分で大幅なブラッシュアップが行われており、ここ数年のFocalヘッドホンの進化をしっかりと継承していることが実感できます。

旧作は2016年発売ということで、当時購入したオーナーも買い替えを検討するメリットがあると思います。私自身、旧Utopiaはちょっと奔放すぎて聴き疲れしやすい印象だったのですが、Utopia SGはもうすこし大人向けでバランスの良い仕上がりになっていると思いました。

急成長しているFocalは、初代モデルとくらべて2021年に登場したClear MgやCelesteeなど現行機種になって大幅に進化しており、どれもオススメできる優秀な作品が揃っています。

前作と比べてだいぶ小さくなりました

高級ヘッドホン続きで、Audezeからも2021年末にLCD-5が登場、こちらも約60万円ということなので、やはり各メーカーの最高級機はこれくらいの価格設定が定着しているようです。

AudezeはこのLCD-5から軽量コンパクト化に着手してくれたので、ようやく小柄な日本人でも真面目に検討できるサイズ感になりました。ただし、いざ試聴してみると、サウンドは旧型LCD-4とは正反対のドライで精密な鳴り方に変わったので、意表を突かれるかもしれません。これまでデザインや重さなど様々な理由でAudezeを敬遠していた人ほど試聴してもらいたいです。

Audeze MM-500

Audezeの新作では、私自身はLCD-5よりもMM-500というヘッドホンの鳴り方がかなり気に入りました。これまでほとんどのAudezeヘッドホンを試聴してきた中で、個人的に一番欲しいと思ったモデルです。

LCD-XとLCD-5の中間のようなサウンド設計だそうで、サウンドも確かにそんな感じの、プロモニターにちょっと良い風味が加わったような、どちらかというとベイヤーやフォステクスを彷彿とさせる真面目さがあるので、LCD-Xも悪くないけれど、もうちょっと上を目指したいと思っていた人に最適です。ただし値段も約30万円と決して安くはないため、気軽に手が出せません。

Yamaha YH-5000SE

最高級ヘッドホンで2022年末にひときわ話題になったモデルといえば、やはりヤマハYH-5000SEでしょう。オーディオの老舗ヤマハから待望の高音質ヘッドホンで、しかも約50万円という、上で紹介したアメリカ勢と競合するような強気の価格設定で、一体どんな音がするのかと気になっている人も多いようで、イベントの試聴ブースなども毎回長蛇の列、開始五分で整理券が終了なんてニュースになっていました。

私自身もイベントで5分間聴いただけなので、まだなんとも言えませんが、HifimanやFinalのような平面駆動型のサウンドと、HD800SやMDR-Z1Rのような前方立体音響効果が合わさった、堅実で丁寧な印象でした。

ATH-W2022 & ATH-WB2022

オーディオテクニカからは60周年記念モデルATH-W2022が登場しました。価格はなんと132万円ということで、桁違いの高級機です。桜材に越前漆の和風ハウジング、収納ボックスは檜材と、オーディオテクニカらしい贅を尽くした逸品で、12月のポタフェスでも試聴機があったようですが、私は残念ながら試聴できていません。

個人的には、そちらよりも、同時に40万円で発売したATH-WB2022の方が気になります。DLCコーディングの45mmダイナミックドライバー搭載、フレイムメイプル・ウォルナット・マホガニーの三層構造というと、ギターに詳しい人ならピンと来ると思いますが、数年前に登場したATH-WP900と同じようにギターメーカーのフジゲンが仕上げているそうです。

しかも単純にWP900の上位版というわけではなく、LDAC対応Bluetoothと、USB DAC内蔵で、パソコンやスマホからUSBケーブルで高音質再生が実現できるという画期的なモデルです。

USB有線接続が可能なBluetoothヘッドホンというと、Shure Aonic 50やB&W Px8など最近は増えていますが、40万円という高級機でこれを実戦投入しているのはオーテクくらいでしょう。内蔵アンプのパワーであったり、電子回路やバッテリーをハウジング内に納めることでの音響設計の制限もあると思いますが、DACとアンプからドライバーまで一貫したサウンド設計で追い込めるというメリットは大きいと思います。

AD2000Xがまだ掲載されてます

それにしても、オーディオテクニカの公式サイトでヘッドホン→ハイエンドを見ると、ATH-AD2000Xが未だに掲載されているのが面白いです。

2012年に登場したモデルなので、もうずいぶん前から新作を待望しているのですが、音沙汰が無いですね。上位機種ATH-ADX5000は傑作だと思うので、それの流れを汲む開放型中級機はいつになったら出るのでしょうか。

Grado RS-2Xを買いました

大型ヘッドホンで私にとって欠かせない存在としてGradoがあります。2021年には従来の「e」シリーズから現行「x」シリーズに世代交代して、同年末にはRS1x・RS2xが登場、私自身は全部試聴した結果、SR325xとRS2xを購入しました。

Grado GS1000x & GS3000x

2022年は大型イヤーパッドのいわゆるラージグラドも「x」シリーズに更新され、GS1000xとGS3000xの二種類がそれぞれ19万円と33万円で登場しました。GS2000xが出なかったのは不思議ですが、これまでのGS2000eで使われていたハイブリッド木材というアイデアが今回GS1000xに継承されたので、そのためかもしれません。

どちらも新型52mmドライバー搭載で、GS1000xはイペという南米の木材とマホガニーの貼り合わせ、GS3000xはココボロ木材の中に金属フレームを入れています。

私自身GS1000eを長らく愛用しているので、買い替えも視野に入れて試聴してみたところ、GS1000xはGradoらしからぬくっきりしたモニター調で、GS3000xは金属の硬い響きが目立つ、全く性格の異なる仕上がりでした。私はどちらかというとGS1000xの方が欲しいのですが、円安のせいかGS1000eが12万円、GS2000eが16万円だったのに対して、GS1000xは19万円とずいぶん高価になってしまいました。

これらのように、高級ヘッドホンは盛況だった2022年ですが、10万円以下の新作は意外と少なかったように思います。ソニーやゼンハイザー、フォステクスなどの大手メーカーが静かだったのが原因でしょうか。

Austrian Audio Hi-X60

意外と見落としがちなプロ用モニターヘッドホンでも、面白い新作がいくつかあります。

2021年末にはAustrian Audioから開放型Hi-X65が出ており、これは私も購入して、かなり気に入っています。旧AKG本社チームによる新作ヘッドホンという期待を裏切らず、音楽鑑賞用にも適した美音系ヘッドホンです。2022年にはこれの密閉型Hi-X60も55,000円で登場しており、私も気になっているのですが、数年前に出た密閉型Hi-X55を持っているため、買い足す気がおきません。

Neumann NDH30

さらに、ゼンハイザー傘下のノイマンからも、開放型ヘッドホンNDH30が9万円で登場しました。数年前に密閉型NDH20が出ているので、それの姉妹機です。

ゼンハイザーは2021年にプロとコンシューマー部門が別会社として分割されたわけですが、プロ側は今後上級機にノイマンブランドを使うのでしょうか。外観デザインは一昔前の問題作HD630VBを流用しているため、あまり良い予感がしないのですが、いざ聴いてみると、ずいぶん真面目でいい感じです。HD660SやHD800S以降、ゼンハイザーから久々の本格派開放ヘッドホンなので、一聴の価値があります。

Signature ProからSignature Masterへ

これら以外でも、2021年にはUltrasoneからSignatureシリーズの新作が出ており、私も2011年発売の旧作Signature Proを長年愛用してきたこともあって、10年越しで新型Signature Masterを購入しました。

昔と比べてUltrasoneファンは減ったかもしれませんが、あの独特のS-Logicサウンドは健在で、しかも以前とくらべてそこまでピーキーではなくなり、普通に音楽鑑賞に使える優秀なヘッドホンに進化しています。もうちょっとモニター調の鳴り方を求めているなら、同じシリーズのADAM SP-5もおすすめです。

これらの他にも、2021年にはベイヤーダイナミックからDT900X・DT700Xも出ていますし、ドイツ系メーカーのプロ用モニターが続々更新されているのは嬉しいです。しかもどのメーカーもプロ用途に適した真面目な製品に仕上がっているあたり、ヘッドホンブームに媚びない姿勢が好印象です。

スタジオエンジニアでもAudezeなどの高級機を使う人が増えているようですし(Sound on Sound誌などでも高級ヘッドホンの記事が増えています)、プロスタジオやDTM界隈でもそこそこ良い(数万円以上の)ヘッドホンの認識が高まったのと、ユーチューバーなどのプロダクション関連需要もあるのでしょう。

ところで、これらAustrian Audio、Neumann、UltrasoneはどれもオーテクM50xと同じ2.5mmツイストロック式ケーブルなのですが、メーカーごとに端子の柄の部分の太さが微妙に違い、太くて入らないか、グラグラして安定しないなど、互換性が保証できないのが困ります。私としてはベイヤーやAudezeの採用しているMini XLRが頑丈で修理もしやすくて一番良いと思います。

KOSS PortaPro

ハイテクとは別の意味で、2022年に話題になったメーカーというと、KOSSが意外なヒットを見せてくれました。

売上の七割以上が米国の国内市場ということで、日本ではあまり注目されませんでしたが、2022年の年明けからTikTokを中心に「レトロでファッショナブルなアクセサリー」としてPortaProがヒットしはじめ、6月頃には英語圏Youtubeやネットニュースでレビューが続々増えはじめ、といった具合に、現代のバズり方の手本のような事例が発生しました。

そんな中でKOSSの2022年の1四半期決算を見ると、本業のヘッドホン売上を凌ぐ莫大な営業外収益があり、なんだろうと思ったら、ワイヤレスイヤホン関連の特許でアップルから大層な和解金を得たとニュースになっていたのが面白いです。KOSSといえば、2021年も、Reddit投資家のショートスクイズ対象になって、株価が一晩で30倍に跳ね上がり、主要株主のKoss一家が早々に売り抜けて、実際の会社の資産価値を上回るお金を手に入れたとニュースになってました。近年の経営学のケーススタディに使えそうな、波乱万丈な会社です。

Ashidavox

PortaProが注目を浴びたように、2022年は日本でもアシダ音響のヘッドホンが話題になりました。こちらもレトロなデザインで長年作り続けてきたおかげで、ファッション界隈で注目され、そこから音質面でもネットニュースなどで再評価されるような流れでした。最新のハイテク機種も結構ですが、印象に残るクラシックなデザインに注目している人は多いようです。もちろんKOSSもアシダ音響も、単なるプロップでなく、音質面でもかなり真面目に作られています。

ワイヤレスヘッドホン

Bluetoothワイヤレスヘッドホン、とくにアクティブNCを搭載しているタイプは、2022年はB&W Px8やFocal Bathysなどの登場で、ついにメインストリームが10万円の大台に乗ってしまいました。

Focal Bathys & B&W Px8

これまで、良くも悪くもソニーWH1000やBose QCシリーズが業界のレファレンスとして、ほとんどのメーカーが4万円あたりを上限に戦ってきたわけですが、さらに上の戦場が生まれたわけです。

その一方で、BluetoothコーデックからアクティブNCまで、この手のヘッドホンの内部に必要な機能の全てがQualcomm社による統合チップの一人勝ち状態になったことで、経験の浅いメーカーや低価格帯でも十分健闘できるモデルが手に入るようになりました。

数年前だったら、風切り音や歩行の衝撃でNCが誤動作したり、音楽がブツブツ切れたり、スマホの機種によってペアリングできなかったりなど、基本的な動作すら怪しい製品が多かったので、その頃と比べると、業界全体が底上げされたことは確かです。

WH1000XM5 & Momentum 4 Wireless

ソニーの最新作のWH1000XM5を見ても、ユーザーの要望を反映していることが伺えます。折りたたみヒンジが壊れやすいポイントだからと廃止したり、不要なデザイン要素は排除して軽量化を徹底するなど、従来機と同じ4万円という価格帯でも、高級感や質感の高さという点では、むしろ退化している印象すらあります。

同様に、ゼンハイザーも新作Momentum 4 Wirelessは5万円という価格相応とは思えない薄っぺらいプラスチック製で、まるでイケアにおいてあるダミープロップみたいな印象なのですが、いざ装着してみると、その軽さと扱いやすさに納得せざるをえません。

どちらもコストダウンで暴利を貪っていると考えるか、ユーザーの要望から軽量化を徹底していると考えるか、意見が分かれるところですが、これは数年前だったら3万円以上のヘッドホンなんて「マニア向けの高級機」という感覚だったのに、今では生活の必需品として誰もが持っているような状況になり、旧型を使ってきたユーザーの買い替え需要が高まったせいで、純粋に実用的なツールとして評価される側面が強まったからだと思います。つまりユーザーの目が肥えて、見掛け倒しの高級感は不要になった、という事でしょう。

また、ワイヤレスヘッドホンが普及したせいで、音質に関して過度な幻想を持つ人が減ったような気もします。つまり数年前なら一般人からすると「3万円のヘッドホンは凄い高音質モデルにちがいない」というイメージがあったところ、そういう一般人が全員3万円のヘッドホンを持つ時代になったことで、「高音質を求めるなら、もっと高価な有線ヘッドホンとアンプとかが必要らしい」というイメージが芽生えたようです。

実際に家電店などでも、ワイヤレスヘッドホンとは別腹で、有線ヘッドホンと、Fiioとかの据え置きDACアンプを求める人が増え、Youtubeでもその手のオススメやランキング動画がずいぶん増えました。

そんなわけで、ワイヤレスヘッドホンが一般ツール化する中で、やはり音質やデザインの高級感にもうちょっとお金を出せる人もいるわけで、そういったニーズに応える形で、B&W Px8とFocal Bathysという10万円超えのモデルが登場しました。

2020年にアップルからAirpods Maxが8万円という超高額で登場して、アップルファンを中心にそこそこ売れた事で、それを見たメーカーにとっては「こんなに高くても売れるんだ」という免罪符になったような気もします。

もちろんAirpods Maxはピュアオーディオというよりは、空間オーディオなどの新しい技術やアップルミュージックのロスレス化を一般人にもわかりやすく宣伝するためのプロモーションの側面が強かったわけですが、それでも8万円という価格設定が通用するという新しい常識を植え付けるだけの存在感はありました。

私自身、アクティブNCは飛行機で使う事が多いため、ソニーWH1000やBose QCシリーズは頻繁に買ったり借りたりで多用していたわけですが、今回B&W Px8とFocal Bathysは、どちらもヘッドホンメーカーとして一流で、デザインも美しいので、何度も試聴してみたものの、流石に10万円というのは躊躇してしまい購入できていません。

こういうトラベルヘッドホンは手荒に扱って壊してしまいがちなので、あまり高価な物を買いたくないのと、頻繁にモデルチェンジするため付加価値が見いだせないこと、そして、やはり軽量であるべきなので、ゴージャスなデザインで重くなってしまっては本末転倒というデメリットも思い浮かびます。

テクニクスのを買いました

私の場合、ソニーWH1000XM3を知り合いにあげて行方不明になってしまったので、2022年の新作ではテクニクスA800というのを買いました。海外で買ったもので、なぜか日本では未発売のようです。

これは後述するテクニクスAZ60というワイヤレスイヤホンを買ってとても気に入ったので、同じテクニクスというだけで衝動買いしたので、しっかり吟味比較して買ったわけではありません。LDAC対応というのがユニークな利点で、音質面でもそこそこ悪くないのですが、aptX LLに対応していないため動画鑑賞やゲームなどで使いにくいのが難点です。

どのヘッドホンもここが弱いです

それでも、このテクニクスを数ヶ月はそこそこ満足して使っていたのですが、案の定、手荷物から出してみたら、回転ヒンジ部分がポキっと折れていて、早々の引退となりました。海外で買うとこういう時に保証が効かず困りますね。どちらにせよ故意の破損として保証対象外の予感がしますが。

ag WHP01K

そんなわけで、出先で急遽新しいワイヤレスヘッドホンが必要になり、ag WHP01Kという1万円くらいの安いやつを買ってとりあえず使っています。ちなみに兄弟機UX3000とも比べてみたのですが、agの緩い凡庸なサウンドの方がBGM用途に最適で、あえてこっちを選びました。じっくり音楽鑑賞するならUX3000の方がシャープで良いと思います。

もちろんこれが自分にとって最高というわけではなく、もっと高価なやつを買おうとも考えているのですが、流石に10万円は払う気になれず、ヘッドホンマニアとしてソニーやBoseばかりを買うのも面白みが無く、なんだかんだで、私の使う用途ではベーシックなもので十分満足できています。

高価なモデルが続々登場しています

Focal Bathysは他社の4万円台のモデルと比べると明らかに高級感があるため、価格相応の価説得力はあります。側面のFocalロゴがLEDで光る自己主張の強いデザインなので、恥ずかしくて使えないと思ったところ、アプリで消灯できたので一安心しました。

Px8は約半額でPx7 S2が買えるのが悩ましいです。高級感はPx8の方が明らかに上なのですが、サウンド面ではどちらも一長一短で、まだ考えが定まっていません。Px7のほうがメリハリがあるので、騒音下ではそっちの方が良いかと思えてしまいます。その点Focalは常にFocalらしさが一貫しているので良いです。

他にも、マークレビンソン no.5909というのも出ました。こちらも15万円と高価で、何度か試聴する機会がありました。サムスン傘下に入ってから色々と奇抜な事をやっている印象ですが、往年の権威を知っているファンとしては複雑な気分です。同じサムスン配下のJBLヘッドホンの流れを踏襲しており、それらと同じくハーマンカーブに忠実であることが米国では人気なようです。

他にもオーディオファン向けに良い感じのアクティブNCヘッドホンをご存知の方がいましたら、ぜひ教えてください。

ワイヤレスイヤホン

Bluetoothのトゥルーワイヤレスイヤホン、とくにアクティブNC搭載モデルは過去前例を見ないペースで一気に普及しましたね。

意外と音が良いAirPods Pro 2

2022年の新作といえば、やはりAirPods Pro 第2世代が好評なようです。アクティブNCの進化から空間オーディオまで、まさに最先端の技術を見せつけており、35,000円という価格設定でも売れていることからも、ユーザーの満足度が高い事を物語っています。

オーディオマニアはアップルを毛嫌いする傾向があり、たしかに余計なハッタリが多いメーカーだとは思いますが、AirPods Proに関しては、サウンドは意外と悪くなく、むしろこれまで百均のイヤホンで満足していたような一般人が、ここまで上質なイヤホンを購入する前例を作ってくれたことには感謝すべきだと思います。

つまり、iPhoneと合わせてAirPods Pro 2を買った人が、そこからBluetoothコーデックの違いでaptX AdaptiveやLDACを試してみたくなったり、有線ヘッドホンや外部DACを知るきっかけになってくれるかもしれません。音楽を単なる雰囲気づくりやBGMとしてではなく、じっくり聴き込む価値がある娯楽としての側面を発見するという点での貢献は大きいと思います。

ソニーは2021年のWF-1000XM4が続投、ライバルBoseはQuietComfort Earbuds IIが登場、やはり売れ筋となると、これら二社とアップル、そしてゼンハイザーからMomentum True Wireless 3あたりが強いのではないでしょうか。

オーテク ATH-TWX9 & Campfire Audio Orbit

オーテクからはATH-TWX9が3万円で登場、ビクターは2021年のWOOD HA-FW1000Tに続いて、ビクタースタジオ監修というHA-FX150Tを出すなど、これまで有線イヤホンで高級機を出してきた国内メーカーもこぞって参入しており、米国Campfire Audioも、有線モデルとそっくりのデザインでOrbitというモデルを出すなど、トゥルーワイヤレスでも、同じメーカーの有線モデルと互角に戦えるレベルの商品に仕上がってきたという意気込みが感じられます。

他にも星の数ほど多数のメーカーが登場、家電店の大きな一角を占拠するほどになり、付随してシリコンイヤピースなどのアクセサリーへの認識も高まりました。特に中華系の謎のメーカーがものすごく増えましたね。しかも数千円台でもスペックはそこそこ優秀なので侮れません。

Freebuds Pro 2

中華系でも、高価な部類では、たとえば先日ファーウェイのFreebuds Pro 2というのを聴いてみましたが、24,000円で、あのDevialetとの共同開発とのことで、この値段でDevialetのロゴがケースに刻印されているのは面白い時代になったなと思いました。

他にも中国のAliExpressとかでは日本では目にしないようなモデルが山ほどあるので、その中にはそこそこ良い音でなってくれるものも少なくないでしょう。

これらトゥルーワイヤレスイヤホンのメーカーが爆発的に増えたのも、QualcommのSnapdragonチップがハイブリッドNCからボイスコマンドまで全機能を提供してくれているおかげです。

これではメーカーごとの独自性が薄れてしまうと懸念する人もいるかもしれませんが、私はむしろ逆に面倒な部分をQualcommが御膳立てしてくれることで、オーディオメーカーはハウジングや振動板など音質の部分に専念できるようになったのは良い傾向だと思います。

そして、今のところワイヤレスヘッドホンのような高級化インフレは起こっておらず、1~4万円の相場に落ち着いているのがありがたいです。耳穴に収まるサイズでは、コストのかけようがないのかもしれません。一番カジュアルなAppleのAir Pods Pro 2が一番の高額商品だというあたりも面白いです。

もちろん今後ハイブリッドマルチドライバー、木材、貴金属ハウジングなどで付加価値を高めた高級トゥルーワイヤレスイヤホンも出てきそうな気もしますが、今のところ手頃な価格で多種多様なモデルから選べるのが魅力になっています。

これはどんな趣味でも言える事だと思いますが、店頭に並ぶ色々なモデルを聴き比べて、あれこれ音の違いを体験している頃が一番楽しいです。駄菓子屋さんみたいなものでしょうか。

しかし、どんな趣味でも、ある程度やっていると自分なりにベストと思った高級機を買ってしまい、そうなると、それに匹敵するレベルの別商品へと買い替えや買い足しもなかなか難しくなり、身動きがとれなくなってしまうのがよくあるパターンです。

そうなると手持ち無沙汰で、ケーブルなどのアクセサリーに熱中する人もいますし、数千円の中華イヤホンを集めはじめる人も多いです。それらと同じように、ワイヤレスイヤホンというのも、一見イヤホンマニアからは敬遠されるかと思えても、いわゆる別腹という立ち位置で、意外な人気を誇っています。

EAH-AZ60

私の場合は2021年末に登場したテクニクスEAH-AZ60の音質を気に入って購入したことで、ようやく満足に使えるモデルが見つかりました。それまでは各社から新作が出るたびに一通り借りて使っても、音に納得できずギブアップしていたのが、AZ60は購入から半年以上経った今聴いても良い製品だと思えます。

ただしこれは例外的な存在で、未だに大半のモデルが低音の位相タイミングが大幅にズレていて、高音も圧縮で失われた部分を再現しようと変な響きを加えるせいでヒョロヒョロした鳴り方になっていたりなど不満が多いです。その点AZ60は、アクティブNCのメリットも合わせると、同じ2~3万円台の有線イヤホンを使うよりも断然良いと思えました。

なぜ他社製ベストセラーでは不満なのに、AZ60にここまで満足できるのかと考えると、テクニクスはパナソニックの技術力がある一方で、据え置きスピーカーオーディオの専門メーカーなので、この手のポータブルガジェットにおいては部外者として、たぶん純粋に開発者が納得がいく音質設計が出来ているのだろうと思います。

Final ZE8000

似たような理由から、2022年末に出たFinalのZE8000というモデルも音が良いと思ったので、こちらも購入しました。一般的にワイヤレスイヤホンに求められているパンチの効いたサウンドとは正反対の奥深い音作りで、とくにハイエンドなヘッドホンユーザーにこそ聴いてもらいたい傑作だと思っています。ただし、これは騒音下でカジュアルに使えるものではなく、むしろ静かな環境でじっくり聴き込む、据え置き機と同じような使い方に適していると思うので、その点では評価が分かれそうなモデルです。

多くのメーカーが、自社の高級有線イヤホンのサウンドにどうにか近づけるために努力している一方で、このZE8000では、DSPアンプとドライバーがパッケージ化されているという制約を活かして、これまで有線では実現不可能だった新たなサウンドの方向性に挑戦していることがうかがえます。

そんなわけで、昨今のトゥルーワイヤレスイヤホンは、有線のハイエンド機とは異なる、独自の進化を遂げている面白いジャンルだと思うのですが、Bluetoothの根本的なボトルネックである圧縮コーデックに関しては未だに不満が残ります。2021年にあれだけ騒いでいたAndroid LE Audio / LC3は一体どうなったのでしょう。全く音沙汰がありません。

AndroidのARM Snapdragon SoCを作っているQualcommはaptX Adaptiveへの一本化を望んでいるようで、一世代前のaptX HD/LL対応チップを搭載しているモデルとの互換性が取れないのも悩ましいです。たとえばスマホはHD/LL対応なのに、新たに買ったヘッドホンはAdaptiveだったり、現状でちゃんとAdaptiveで使えている人はかなり少数派だと思います。iPhoneユーザーはそもそも蚊帳の外でお手上げ状態です。

aptXを生み出したCSR社をQualcommが買収するまでは、aptXとLDACの共存も可能でしたが、Qualcomm Snapdragonチップに名前が変わってからは、LDAC対応だとaptXが使えなくなってしまうなど、ソニーとかもそのあたりの事情で混沌としています。私も含めて低遅延はゲームをする時に重要なので、必ずしもLDACが最善というわけでもありません。

とはいえ、Bluetoothの遅延はコーデックよりもスマホ機種による差の方が大きいという報告もあるので、(スマホメーカーによっては、オーディオ経路に余計な処理を挟んでいたりするので)、どうしても遅延が気になる人はスマホを選ぶ時点でそのあたりに注目する必要もありそうです。

aptXの音質に関しては、Adaptive登場後はaptX HDは原則非対応になってしまいましたし、今のところaptX Lossless/LE Audio対応のチップ(QCC3071)もまだ全然普及していないようで効果の程も不明ですから、今後当面のあいだワイヤレスはQualcommの独擅場で振り回される時代が続きそうです。それでも一昔前と比べて音質や接続安定性は飛躍的に進化しているので、文句が言える筋合いは無いのですが。

有線イヤホン

これほどトゥルーワイヤレスイヤホンがヒットしている中でも、有線イヤホンは低価格から最高級まで好調なようで、2022年も魅力的な新作がたくさん登場しました。

売れ筋のワイヤレスイヤホンで得た利益をハイエンドな有線イヤホン開発に還元しているメーカーも多いようですし、ワイヤレスイヤホンを牽引している中華イヤホン市場ですら、有線イヤホンに積極的なのが興味深いです。

たとえばShenzenaudioやLinsoulなど、中華系オーディオを海外向けに販売している大手オンラインショップを見ても、意外とトゥルーワイヤレスイヤホンには消極的で、まだまだ有線イヤホンをメインで取り扱っています。有線市場が縮小しているのであれば早々にワイヤレスに方向転換していると思うので、つまり有線に根強い人気があるのでしょう。

ただし、特に日本では、こういうのは実際に店頭に出向いてあれこれ試聴して購入する人が多いので、その点ではコロナ中は専門店や家電店の売上が打撃を受けただろうと思います。2023年はもっと多くの人に店頭試聴に行ってもらいたいです。

Dita Perpetua

個人的に、2022年で一番印象に残ったイヤホンといえば、やはりシンガポールのDita Perpetuaになります。これは文句なしに一級品の驚異的なサウンドで、これまで他のイヤホンでは一度も体験したことがない、イヤホンらしからぬ広大なサウンドステージに圧倒されました。空気感や音響を存分に含んでいながらディテールの解像感は犠牲になっておらず、相当ハイレベルな仕上がりです。

43万円は高価すぎて購入は断念したのですが、たかがシングルダイナミックドライバーのイヤホンでありながら、まだこれほどのサウンドを引き出せるポテンシャルを秘めているという事に驚かされたと同時に、なぜDitaという小さな工房だけがそれを実現できるのか、イヤホン市場の面白さを再認識させてくれた傑作です。

Campfire Audio Trifecta & Noble Audio Ragnar

Fir Audio Xenon 6

他にも高級機の新作を見るとCampfire Audio Trifectaが43万円、Fir Audio Xenon-6が55万円といった具合に、40万円以上の相場が充実しているようで、66万円のNoble Audio Ragnarというようなモデルもあります。

近頃はシングルダイナミックやマルチBA型の垣根を超えたハイブリッド・マルチドライバー型が多いですが、メーカーごとに、静電ドライバーや骨伝導など、各帯域を任せる様々なアイデアが登場しており、これまでのダイナミック対BAという図式から離れた独創的な構成が増えてきたように思います。

どれも試聴してみましたが、イヤホンというのは高価になるほど完璧に近づくわけではなく、むしろ逆に、無難で汎用性のあるイヤホンを求めているなら10万円くらいを狙った方がよく、それ以上高価になると、特定のサウンド傾向や音楽ジャンルの好みを強調するような趣味性の強いモデルが多くなるようです。

Trifectaは奇抜なデザインとは裏腹に意外と大人しめで、同社ダイナミック型の延長線上にある、マルチドライバーのスピーカーのような厚いサウンドが楽しめます。Xenon-6などFir Audio新作シリーズは爽快な高音と体に響く重低音で、打ち込みのEDMなどで絶大な効果を発揮してくれます。Ragnarは低音と高音で前後感を強調するような鳴り方で、平面的になりがちな古いポップスなどで立体的な奥行きを出すのが得意です。

そんな具合に、どれも実直なイヤホンでは味わえない特別なサウンドを生み出してくれるあたり、万人にはオススメできませんが、もっと安い価格帯のモデルで同じ音が出せないという事は、高価である理由としては十分です。

HIFIMAN Svanar

20万円台に移ると、HIFIMANから久々の上級機Svanarが23万円で登場しました。こちらもちょっと聴いてみただけですが、シングルダイナミック型で、HIFIMANらしい軽快で伸びやかなサウンドが良い感じでした。

HIFIMANというと、昔のRE2000というイヤホンはシェル形状が私の耳には全然フィットしてくれず断念したのですが、このSvanarは意外と悪くないです。ただしケーブルがショボいので交換しようかと思ったら、私の持っているEffect Audioなど社外品だとピン接点が緩すぎて固定できませんでした。2PINはこういうトラブルがありがちなので、もうそろそろ廃止してもらいたいです。

Maven ProとHiby RS8の組み合わせが良かったです

Unique Melodyも新作を一通り試聴する機会があったのですが、こちらも面白い経験になりました。28万円で青いシェルが印象的なMaven Proは見た目通りシャープで金属的な鳴り方だったので、第一印象ではそこまで好みに合わず、むしろ15万円のMEXTという骨伝導搭載モデルの方がバランスの良いマイルドな鳴り方で気に入りました。

ところが先日Hiby RS8というDAPを試聴した際に、普段好んで使っているイヤホンはどれを使ってもパッとせず、思いつきでMaven Proを試してみたところ、かなり良い感じに鳴ってくれたので、やはりこういうのは単純に優劣ではなく、ソースとの相性というのが重要なのだと身にしみて実感しました。先程言ったように、高級機になるほど平凡ではなくなり、趣味性が強くなるという事なのかもしれません。

Unique Melodyといえば、数年前に平面振動板のイヤホンを出していたのを思い出します。AudezeのiSINEやEuclidとかもそうですが、平面型イヤホンはどのメーカーもかなり惜しいところまで行っているのに、それらをリファインして一大ジャンルに成長するまで続かないですね。

水月雨 Stellaris

ところが2022年は水月雨のStellarisという新作が一万円台で平面振動板を採用しており、デザインも芸術的で面白いです。

平面型はダイナミック型やBAとくらべて能率が悪いのが難点ですが、近頃はDAPもずいぶんパワフルなので、新たな第三勢力として今後の発展を期待したいです。水月雨は音作りのセンスが良いので、数ある中華系メーカーの中でも気に入っています。

Madoo Typ711

平面振動板のポテンシャルという点では、BAぽい形状のマイクロ平面ドライバーというのも見かけるようになりました。

2021年にはAstell&KernからAK ZERO1というモデルで採用していましたし、2022年はMadoo Typ711という14万円のイヤホンも、2xBAに3xマイクロ平面ドライバーという構成になっており、四角いサファイアパネルが印象的なデザインです。MadooはAcoustuneの別ブランドということで、以前AKの日本代理店がAcoustuneを取り扱っていましたし、マイクロ平面ドライバーについても両社に関係があるのでしょうか。

HS1790Ti & HS1750Cu

Acoustune自体は2022年に日本での販売元が変わりましたが、Madooと合わせて新作を精力的に出しているようです。私もちょっと前にHS1697Tiというダイナミック型イヤホンを気に入って購入しており、その後継機でもある最新作でも精巧なメカメカしいデザインやケーブルも含めた品質の高さは健在です。

私が買ったHS1697Tiは耳への挿入が浅く、ホールド感がイマイチでしたが、新作HS1790Ti・HS1750Cuは新型ドライバーと合わせてシェル構造も改良され、フィットがだいぶ良くなりました。金属が良い効果を発揮している、艶っぽい美音を求めている人はぜひ聴いてみるべきです。

HS2000MX SHO & ACT03

また、Accoustuneが2021年に出した20万円のHS2000MX SHOは、高音がキツすぎて個人的にあまり興味が沸かなかったのですが、内部モジュールをまるごと交換できるというメリットを活かして、2022年に登場したACT03という真鍮+ウッドのモジュールであらためて聴いてみたところ、かなり落ち着いた美しい鳴り方で、急に欲しくなってしまいました。しかしモジュールといってもドライバーを含めたユニット全交換なので、決して安くはないため(10万円くらい)、購入するには至っていません。

Beyerdynamic Xelento 2

他にもダイナミック型ではベイヤーダイナミックからXelentoの後継機Xelento 2が出ました。旧型のサウンドを継承しつつ、昔のベイヤー特有の尖りが軽減され、リラックスした親しみやすいサウンドに進化しています。

コンパクトで圧迫感も少ないため、寝る時などのカジュアル用に良いかとも思ったのですが、同じ系統のT8iEを未だに持っているので、そこまで目新しく感じられず購入しませんでした。最近では珍しいネックバンド式のBluetoothワイヤレス版も出ており、デザインも綺麗なので、気軽に高音質を楽しみたいなら良いパッケージだと思います。

Shure SE846 Gen 2

そんなダイナミック型とくらべて、マルチBA型は以前ほどメジャーな存在ではなくなりましたが、それでも新作はちらほら出ているようです。しかしShure SE846がGen 2に更新されたのは、なんとなくマルチBA型の限界を感じさせる、象徴的な出来事のように思いました。

SE846自体の音が悪いという意味ではなく、むしろ逆に、それが今でも現役で十分通用するということは、他のメーカーも開発の余地が無いというか、あまり伸びしろが無いと思えてしまいます。

SE846自体は2013年発売なので、もう10年前のデザインになりますが、今回Gen 2では、本体には手を付けず、ノズル部分の交換フィルターにあらたなチューニングのものを同梱したのみということで、今更感があったものの、いざ試聴してみると未だにマルチBAではトップクラスのサウンドを誇っているのには驚きました。しかも10万円という価格も今では割安感があります。

Westone Machシリーズ

マルチBA型で他に印象に残ったモデルとしては、WestoneのMachシリーズは地味なデザインのせいであまり注目されなかったものの、サウンドはかなり良いと思います。

昔はShureと互角に争っていたWestoneですが、本業の補聴器メーカー業務に専念するため、コンシューマーイヤホン部門は2020年にはEtymoticなどを持っているLucid Audio傘下に入り、そこから生まれたのがMachシリーズです。4万円台のMach10から23万円のMach80まで全8種類のラインナップで、どれも地味なグレーで派手さが一切ありません。IPXコネクターを採用しているのは好印象です。

個人的に旧シリーズのUM-PRO30と50を気に入って使っていたので、今作も全種類を順番に試聴してみたところ、最上位のMach80の鳴り方が一番好みに合ってしまい、値段が高いため購入できませんでした。一番高いのが良いのは当然と思うかもしれませんが、これはちょっと意外な事で、旧作では最上位W80は派手すぎてそこまで好きではなく、むしろ中堅のUM-PRO50の方が好きでした。今回のMachシリーズで80を気に入ったということは、従来のWestoneとは異なる設計思想で生まれたのでしょう。以前のWestoneは好きではなかった人も試聴してみる価値はあると思います。

Sennheiser IE600

Final A5000

私が2022年に購入した新作イヤホンは、奇遇にもどちらもシングルダイナミック型の、ゼンハイザーIE600とFinal A5000でした。A5000の方は年末に買ったばかりなので、まだ慣らし中で感想がまとまっていません。今のところ好印象なので、そのうちブログで書きたいと思っています。

IE600は2021年に登場したフラッグシップIE900の廉価版のような9万円のイヤホンです。昔なら9万円のイヤホンなんて尋常でなく高価に思えたのに、散々高級イヤホンを見てきたせいで、これでも安く思えてしまうのが恐ろしいですが、実際に普段使いで汎用性が高い高音質イヤホンというのは、これくらいが狙い目だと思います。

IE900はたしかに凄い高解像の傑作だと思うのですが、私は普段そこまでシビアな聴き方をしないため、購入意欲が湧きませんでした。その点IE600の落ち着いた素朴な鳴り方を気に入って、ちょっと試聴するだけのつもりが、その場で買ってしまいました。堅牢なジルコニウム合金の3Dプリンターシェルはフィット感も良好ですし、夜寝るときのイヤホンとして重宝しています。

そんなIE600ですが、付属ケーブルが太く扱いづらいのに、MMCXコネクターに段差があるせいで大半の交換ケーブルが接続できないのが唯一の難点です。社外品ケーブルメーカーもそのあたりは把握しており、Brise AudioなどからIE900/IE600対応のケーブルがちらほら出始めているようです。私はもうちょっと気軽に使いたいので、そこまで高価なものではなく、もっと安価な細いケーブルを物色中です。


そんなわけで、安定の定番から奇抜な新作まで、有線イヤホンはまだまだ進化の過程にあり、魅力的な新作が続々登場しています。

ネットニュースなどでは超高級機ばかりが印象に残りますが、どの価格帯でも優れた新作イヤホンが出ているので、自分の気に入ったモデルが必ず見つかるだろうと思います。

余談になりますが、イヤホンというのは頻繁に買い替える人が多いため、フジヤエービックやeイヤホンなど中古品の市場も充実しています。数年前に欲しかった高級機が意外に安く売っていたりするのも見逃せません。

ただし、イヤホンは飛躍的に進化しているジャンルでもあるので、昔の高級機が必ずしも現在でも価格相応に通用する保証はありません。

実は私も先日、発売当時は高くて買えなかったNoble Audio K10やJH Roxanneが、型落ちの処分品として格安で売っていたので、買う気満々で試聴してみたところ、私が記憶していたような凄い鳴り方ではなく、「あれ?こんな音だったっけ?」と落胆してしまいました。

当時は20万円超の高級機で、確かに凄かったのかもしれませんが、今では製造技術や音響設計が発展したことで、数万円からでも、これらよりも優れていると思えるモデルが色々と思い浮かびます。もちろんNobleやJHも優れた後継機を出してます。

そんなわけで、往年の高級機は外観のクオリティなども考慮すれば価格相応と言えますが、音質に関しては、昔のレビューやインプレッションはあまり気にせず、価格帯のグレードは下でも、新しいモデルを積極的に聴いてみる価値があると思います。また、昔の高級機で、格別印象に残っているモデルがあるなら、専門店の店員に聞いてみれば、似たような系統のサウンドで、もっと安い最新機種を薦めてくれるかもしれません。


DAPやヘッドホンアンプなどは次回に続きます