2022年12月31日土曜日

Final ZE8000 ワイヤレスイヤホンのレビュー

FinalのワイヤレスイヤホンZE8000を買ったので、感想とかを書いておきます。

2022年12月発売、価格は36,800円と、最近流行りのワイヤレスイヤホンの中ではそこそこ高価な部類です。もともとFinalの音が好きなので、アクティブNC搭載のトゥルーワイヤレス最上級モデルということで気になって買ってみました。

ZE8000

Finalは日本のイヤホン専門メーカーの中でも近頃かなり存在感を出しており、国内外でずいぶん目にする機会が増えてきました。

大昔のFinal Audio Designブランドを知っている人であれば、あんな奇抜な変態的イヤホンばかりを出していたマニアックなメーカーが・・・、と意外に思うかもしれませんが、現在は会社自体が大きく変わり、カジュアルで低価格な「ag」ブランドから、40万円もするような大型ヘッドホンD8000まで幅広いモデルを展開する一大勢力になっています。

今回のZE8000というモデルは、近頃流行りのアクティブノイズキャンセリング搭載のトゥルーワイヤレスイヤホンという事で、他社からも新製品が続々登場しているジャンルです。とくに36,800円という発売価格はAppleのAir Pods Pro 2と競合する事になり、他にもゼンハイザーMomentum TW3やソニーWF-1000XM4などの定番高級機や、日本のイヤホンメーカーからもオーテク ATH-TWX9やJVC HA-FW1000Tなどライバルが多いです。

高級感があるわりに、意外と軽いです

そんなZE8000のスペックを見ると、Bluetooth 5.2でコーデックはSBC・AAC・aptX・aptX Adaptive対応、再生時間はイヤホン本体が5時間、ケース込みで15時間、急速充電は5分で45分再生といった感じで、最近のモデルとしてはごく一般的です。

Finalはこれまでに20万円のイヤホンA8000と、40万円のヘッドホンD8000を出しており、8000というモデルナンバーは同社フラッグシップというイメージがあるため、今回ZE8000公式サイトの紹介でも、音質に関してかなり力を入れている事が伺えます。我々みたいなイヤホンマニアからすると、よくトゥルーワイヤレスイヤホン商品にフラッグシップ相当のモデルナンバーを付けたな、なんて思ってしまいがちですが、それだけ渾身の力作だと自負しているのでしょう。

他社と比較

こんな感じです

私自身は未だにDAPと有線イヤホンを愛用している古典的なイヤホンユーザーなのですが、それでもワイヤレスイヤホンは新作が出るたびに試聴しています。日進月歩の技術革新があり、とても活気のあるジャンルだと思います。しかし自分が満足できるモデルとなると、なかなか見つからず、今のところテクニクスのAZ60というやつだけは気に入っていますが、それ以外では購入意欲が湧きません。

そんな中で、今回個人的にFinal ZE8000に興味を持った理由が二つ挙げられます。まず発売前からメディアでかなり大きく取り上げられており、特にモデルナンバーの8000にちなんで「8Kサウンド」といったパワーワードで、なんだか凄いイヤホンだという風にずいぶんと持ち上げられていたので、「本当にそうなのか?」という冷やかし目線で、まんまとマーケティングに釣られてしまったのが一点、そして二点目は、上で述べたように8000という番号への期待によるものです。

ZE8000近日登場のニュースを見て「8000というくらいだから、10万円か?20万円か?」とマニアの間で結構話題になってました。そして実際に発売されてみると、意外と現実的な価格だったので、それなら買ってみるか、という事になるわけです。

単純に8000という番号に踊らされているというよりは、BMWやベンツのモデルクラスのようなもので、8000は最高クラスだから、もうこれ以上のモデルは当分出ないだろう、という安心感みたいなものがあります。すでにZE3000が出ており、もし今作がZE4000とかだったら、今後ZE5000やZE8000が出るような予感がしてインパクトが薄れていたでしょう。

そんなわけで、ZE8000を店頭で試聴してみたところ、確かに他のワイヤレスイヤホンとは一味違う興味深いサウンドで、これは店頭で聴いただけでは計り知れないモデルだと思ったので、発売日に買ってしまったわけです。

肝心の8Kサウンドについては、技術的な事はイマイチよくわからないのですが、公式サイトやメディアのインタビューなどを読む限り、「情報量でクオリティを上げ、演出を不要にする」というあたりが、映像の8Kとの共通点として挙げているようです。

私自身もこれは以前から思っていた事なのですが、他社の製品を見ると、優れた有線イヤホンを作っているメーカーであっても、ワイヤレスイヤホンとなると、カジュアルなユーザーを想定して、低音や高音にインパクトのある演出を重視しており、私みたいなマニアは納得できないサウンドである事が多いです。実際ワイヤレスイヤホンとなるとオーディオマニアよりもガジェット系レビューが主体になるので、仕方がないという側面もあるのでしょう。

その点についてZE8000のサイトでも似たようなことを言及しているため、なんとなく親近感が湧くというか、説得力があると思いました。ようするに、8Kサウンドというのは具体的になにか特別なチップとかドライバー技術というよりも、ワイヤレスイヤホンの音作りに欠かせないDSP処理を開発する段階で、一般的なカジュアルユースのチューニングとは異なるアプローチを取った、という意思表示みたいなものだと思います。FinalはこれまでもVRや学習用など心理的な音響設計に関して自社内でそうとう研究しているようなので、そのあたりにも関わっているのかもしれません。

ユニークなデザイン

割り箸よりちょっと太いくらいです

ZE8000の棒状デザインは、高級イヤホンというよりも、まるでコンサート会場スタッフやトラックの運転手とかが使っている通信機みたいな只者ではないプロっぽさがあり、そのため充電ケースもかなり大きいです。ただし、今量ってみたらイヤホン片方が6.7g、ケースとイヤホン全体で63gということで、他社と比べても結構軽い部類なので、持ち運びには苦労しません。

パッケージ

中身

中身

付属品

付属品のイヤピースはトレイに入っていて、上の保護フィルムは再度貼り直せるので、簡易的なケースとして使えて便利です。

本体は白と黒が選べて、私は黒の方を買ったのですが、Finalはパッケージも含めて和風テイストな独自の世界観が良いですね。マットな黒いプラスチックの上にザラッとした表面処理と、銀色のfinalロゴプリントで一気に高級感が上がります。

ケースも和風で美しいです

この表面処理は漆のたたき塗りみたいな立体的な仕上がりで、ハイテクガジェットなのに伝統工芸の漆器や武具とかを連想させる落ち着いた美しさがあり、海外でもウケが良いようです。年配の人なら印鑑入れを連想するかもしれません。

スライドするタイプです

ケースの蓋は横からスライドして開けるタイプで、スプリングでシャコっと開き、イヤホンも出し入れしやすいため結構気に入っているのですが、一つ注意点としては、蓋が上に開くタイプだと勘違いする人が多く、他人に貸す際はバキッと壊されそうで心配になります。

ケース側面にバッテリー残量表示LEDとUSB C充電端子があり、さらに蓋を開けて右上のボタンを二回押すとペアリングモードになります。各社ワイヤレスイヤホンを色々と使ってみると、モデルごとにペアリングの方法が違って混乱させられるので、このZE8000のようにペアリング専用ボタンがあるのは確実で嬉しいです。ただし事前にそれを知らないと気が付きにくいボタンです。

蓋の正確な嵌合が良いですね

底面に印刷物が無いのも良いです

蓋の裏に貼ってあります

ケースに関して、個人的にもう一つ良かった点として、上蓋の嵌合がピッタリ正確に合っているのと、底面に印刷物が無いあたりがデザイン的に美しいです。せっかくの和風な表面処理なのに、底面にバーコードや安全マークとかが色々と記載されていたら興冷めなのですが、これらが蓋の裏側に貼ってあるため、実用上目にすることがなく、手に馴染むスッキリしたデザインに仕上がっています。

高級機になってくると、金属メッキとかのゴージャスな演出で重くなってしまいがちなところ、ZE8000は軽量なプラスチック製でありながら、高級感のある上質な仕上がりを両立できているあたりに好感が持てました。

使用感とか

最近の他社モデルと比較すると確かに耳から飛び出てる感はありますが、無駄に派手ではないため、そこまで目立ちません。逆に他のメーカーにはない形状なので、遠目で見ても印象に残るという意味では良いデザインだと思います。

装着感は悪くないです。本体重量のほとんどがイヤピース付近にあるため、棒部分の自重で垂れ下がったりはしません。棒の下部を掴んで装着したり微調整できるので、意外と使いやすいです。

ただしイヤピースが専用設計である点は賛否両論あると思います。ワイヤレスイヤホンが流行りだしてから、家電店で様々なメーカーのシリコンイヤピースが販売されるようになったわけですが、ZE8000はそれらとは互換性が無いわけです。

ノズル径は普通のイヤピースと同じなので、一応社外品も装着はできますが、引っ掛かりが無いので外れやすいだろうと思います。

専用イヤピース

Finalの通常のMサイズと比較

一応装着はできますが外れやすいです

サイズは五種類付属しており、そもそもFinalはイヤピース単品販売でも品質に定評があるメーカーですから、悪いものではないと思うので、私自身はそこまで気にしていません。イヤホンはイヤピースの穴径や長さでかなり音が変わってしまうので、それを嫌って専用設計にしたのかもしれません。

さらに、ネット記事によると、今後FinalはZE8000用にユーザー個人の耳型に合わせてカスタムイヤピースを作る事も視野に入れているそうで、そうなると一般的なイヤピースではなく、今回のように耳の外周まで覆うようなデザインにしたのも納得できます。

自分の耳型で作るカスタムIEMイヤホンというのは、イヤホンマニアであれば誰もが一度は作ってみたい憧れの存在なのですが、納期が何ヶ月もかかったり、高価な商品なので完成して自分の耳に合わなかったらという心配から、なかなか思い切りがつきません。その点Finalが構想しているようなサービスであれば、待っている間は普通のイヤピースで使っていられますし、イヤピース部分のみなら安価でしょうからリスクも少ないです。現時点でも一般的なイヤホンに使えるカスタムイヤピースを製造販売しているメーカーもありますが、Finalの場合、ZE8000の音響設計にもとづくイヤピース形状を熟知しているわけですから、サウンド面でも期待が持てます。

無駄に高品質な棒

さらにノズルの交換フィルターが5ペア付属しているのも良心的です。テープで貼り付けるタイプなのですが、新しいフィルターを押し付けるための「アコースティック治具」というツールも同梱しており、これが綺麗なFinalロゴ入りのステンレス製でカッコいいです。

イヤピースの穴が本体の通気孔と揃っているか確認

本体の装着感について注意点として二つ挙げたいのは、まず説明書にも書いてありますが、イヤピースに通気孔のようなものがあり、これが本体の穴とピッタリ合っていないと変な音になってしまうため、定期的にチェックする必要があります。

二つ目は、イヤピースが耳穴と外耳の二段階でフィットするようなデザインになっており、そのせいで、どちらか一方が正しく密着していない状況に陥りやすいです。

私自身も、購入直後は標準のMサイズを使って聴いていたのですが、よくよく確認してみると、外耳部分でフィットしていて、肝心の耳穴内のイヤピースはそこまでピッタリ密着していませんでした。それでも脱落せずフィットは良好なのですが、音質面ではずいぶんフワフワした鳴り方だなと思っていました。何気なく一つ上のMLサイズに交換してみたところ、耳穴の外と中の両方でピッタリ密着するようになり、サウンドもタイトでクッキリした鳴り方に変化しました。もう一つ上のLサイズだと、今度は耳穴にしっかり入り込めず、外耳のシリコンが浮いてしまう状態になります。

これについては試聴時には気が付きにくいため、購入後に色々試してみる価値があります。そして、色々とサイズを付け替えて音の変化を実感してしまうと、カスタムイヤピースの必要性も説得力が増してきます。

タッチセンサーは棒状の中央にあります

本体タッチ操作は個人的にそこまで好きではありません。たとえば、左側タップでアクティブNC ONと「ながら聴きモード」を巡回するのですが、棒状の部分が細いため、ケースから取り出す時など押してしまう事があります。しかもボリューム調整は同じ場所をダブルタップなので、ボリュームを変えようとしてNCが切り替えってしまう事が何度もありました。

個人的に、とっさに押す機能や頻繁に微調整する機能(一時停止やボリューム)はシングルタップで、NCオンオフなどの、押してから待たされるようなモード変更は長押しの方が良いと思うので、今のところアプリでアサイン変更できないのは残念です。

NCはボイススルーと風切り音低減モードもあり、それぞれ左右長押しで切り替える事ができ、このあたりはひとまず専用アプリを使ったほうがわかりやすいです。

アプリにペアリング後

説明書など

アプリは最低限の機能のみですが、よくできていると思います。購入後ファームウェアアップデートもありました。他のメーカーなら、ここでバーチャル3Dモードとか色々な機能があるところですが、ZE8000は音楽鑑賞に全振りしているのが面白いです。

イコライザー

たとえば、イコライザーがあるものの、調整範囲が±3dBというのは、あまりにもストイック過ぎて思わず笑ってしまいました。調整帯域もプレゼンスやシビランスなど特定帯域を追い込む事を想定している事がよくわかります。

ボリュームステップ最適化

ボリュームステップ最適化というのは、自分が普段聴く音量に合わせて登録すると、ボリューム操作がその範囲付近での変化が細かくなるという機能です。最初に一旦合わせてしまうと、あとは触らなくてもいいので、イマイチ恩恵に気づきにくいですが、確かに他のイヤホンではボリュームをワンステップ上げるだけで大音量になったりで困るのにZE8000では微調整できている感じがあるので、良いアイデアだと思います。

8K SOUND+モード

さらに8Kサウンド+モードのON/OFFというのがあり、ONにすることでサウンドのDSP演算がより高度になり、その分バッテリー消費も多くなるという注意書きがあります。ONにすると、なんとなくクリア感が増して、綺麗に聴こえるような気もするのですが、プラセボ効果かもしれません。なんにせよ、ONでもバッテリーの持ちはほとんど変わらなかったので(聴いている音楽にもよるかもしれません)、私は常時ONで使っています。

アクティブNC設定

アクティブNCに関しては、ソニーなどとは考え方が根本的に違うので、そういうのを期待しているとがっかりするかもしれません。

今回も電車や飛行機で使ってみたのですが、そういう場面でのNC効果はかなり悪いです。騒音下では、同じFinalでも一万円のag Uzuraの方が良かったので、むしろそっちを使う機会が多いですし(音質も緩めなのでBGMに最適ですし)、私自身テクニクスAZ60というやつを使っていて、そちらはNC効果と音質のバランスがとても良く、断然おすすめです。

飛行機には向いてないようです

NCに全振りしたいならソニーWF-1000XM4が凄いので、素直にそれを買った方が良いです。ただし私の場合、あのソニーのレベルになると流石にNC効果が強すぎて、耳が圧迫される不快感が気になってしまうため、音楽鑑賞には到底使えません。

散歩で使う場合、ZE8000は形状からも想像できるように、風切り音がかなり気になるのですが、ウィンドカットモードというのが不気味なほどに良く効くので、そこそこ実用的です。ただし、この場合は自動車とかの低音はカットしてくれないため、ケースバイケースで外に出たらウィンドカットモード、建物内に入ったらNCモードと、頻繁に切り替える事になります。

ZE8000のアクティブNCは役に立たないというわけではなく、ソニーなど他社と比べるとNC特有の「水中に潜ったような」うねりや圧迫感が非常に少ないので、実際そのあたりをかなり追求している事が伺えます。耳が敏感なオーディオマニアほど、アクティブNCは不快でダメだという人が結構多く、私の身の回りでも、そのせいであえてNC非搭載のZE3000を選んだ人がいるので、そういう人こそZE8000のアクティブNCを試してもらいたいです。

ZE8000は自宅のそこそこ静かな環境で、もう一段階騒音をカットして音楽に没頭したいという用途では大変優秀です。そもそも、そういう使い方を想定しているのだろうと思います。

自宅での音楽鑑賞というと、大きな完全開放型ヘッドホンを使う人が多いと思いますが、実際のところ、近くの道路の音や、エアコン、キッチン、洗濯機など、意外と環境騒音があり、無響室や専用リスニングルームほどの完全に静かな環境を実現できる人は少ないと思います。

ZE8000のアクティブNCはONにしてもバックグラウンドのホワイトノイズも少ないですし、音のプレゼンテーションもNCのONとOFFであまり大きく変わりません。NC ONの状態の方が低音が若干前に出て主張が強くなりますが、私としてはバッググラウンドノイズを一段階下げるという方にメリットを感じるため、常時NC ONで使っています。

音質とか

店頭で試聴した時からZE8000はずいぶん特殊な鳴り方だと思ったのですが、実際に二週間ほど使ってみても、その感想は変わりません。この二週間、バッテリーの残量が少ないと言われては充電してを繰り返して、毎日かなり使い倒しています。接続は主にHiby RS6 DAPのaptXか、パソコンのaptX Adaptiveです。

Hiby RS6から

まずZE8000の全体的なサウンドの印象ですが、かなり厚みがあり、中域に力がある傾向です。低域はしっかり鳴ってくれますが、高音はもうちょっとスカッと抜ける方が好みかもしれません。ワイヤレスイヤホンだと圧縮のせいか高音の再現性はどうしても厳しいですね。他のメーカーみたいに偽物のキンキンした高音成分を再構築していないだけマシかもしれません。NC OFFの方が高音が出ている気もするのですが、これは実は周囲の環境騒音のざわめきが聴こえているだけなので、実際の楽曲の高音の情報量や臨場感という点では、NC ONとOFFでさほど変わりません。

8Kサウンドなんていうと、いわゆる高解像っぽさを強調するシャリシャリ刺さる薄いサウンドを想像していたところ、全く真逆の表情豊かな厚い鳴り方なのは意外でした。かなり玄人好みの渋いサウンドで、じっくり聴くほどポテンシャルの高さに驚かされます。ワイヤレスイヤホンだけでなく、ハイエンドな有線イヤホンと比較しても十分健闘しており、それらですら体験できない特殊な魅力があることは確かです。

最近のモデルと比較

現時点で売れ筋のワイヤレスイヤホンは一通り聴いていますが、個人的に気に入っているのはテクニクスAZ60のみで、それ以外はどうも納得できません。ゼンハイザーやB&Oのように低音がとんでもなく遅れて鳴るものや、ソニーやオーテクなど比較的クリアでも高音が昔のMP3みたいにひょろひょろして楽器本来の倍音が失われており、それとは別の美音っぽさを上乗せしている印象のものも多く、どれもいかに「クリア」で「パワフル」に聴かせるかという錯覚を利用している印象が強いです。そういうのは時間軸のズレや表現の欠落の問題なので、イコライザーとかでどうにかなる物ではありません。その点AZ60は有線イヤホンに近い鳴り方だと思いますが、結構大味でドライブ感重視なので、じっくり聴き込むというよりは、騒音下でも満足に楽しめるという点で、ZE8000とは根本的に異なる印象です。

ZE8000のサウンドが他のイヤホンと比べて優れている点は二つあり、まず音場空間が前方上下左右と非常に広範囲かつ立体的に表現できていて、各パートの分離が明確な事と、細かな弱音から大迫力の場面まで、ダイナミクスの広さが実感できる事です。

イヤホンのレビューでは、どうしても高音低音の周波数特性や、表層的な解像感ばかりが語られがちですが、実際のところ空間とダイナミクスの方が音楽再生の根幹にある大事な要素です。そのあたりに焦点を当てたZE8000は、意欲的ではあるものの、カジュアルから一歩進んだオーディオマニア的な聴き方も求められるため、なかなか評価が難しいとも思います。

同じFinalでも、ZE3000の方は有線イヤホンAシリーズとの共通点が伺えますが、ZE8000はAシリーズとEシリーズのどちらとも異なる、そもそもイヤホンとしては珍しい表現のように感じます。私としては、まずZE8000がイヤホンであることを一旦忘れて、大型の平面駆動型ヘッドホン、FinalならD8000とかの鳴り方を想像してもらえれば理解が早まると思います。ZE8000がD8000と同じ音だという意味ではなく、そのように頭を切り替えた方が違和感が少なく、正当な評価ができるという意味です。

まず音場空間の展開についてですが、これは優れたスタジオ録音作品を聴いてみるとわかりやすいです。

Ella Fitzgerald 「Like Someone in Love」は1957年の古い作品ですが、録音技術が優れているため、個人的にレファレンス盤として頻繁に使っているアルバムです。公式ハイレゾPCMや、Analogue ProductionsとエソテリックからもSACD盤がでており、どれも良い音で鳴ってくれます。

オケ入りのジャズボーカルということで、なかなか上手に鳴らすのが難しいアルバムなので、第一印象でZE8000のどこが凄いのか理解できない人も、これを聴けば納得するかもしれません。

一曲目の冒頭、木管から始まって、ストリングスが左から入ってくる時点で、空間の奥行きが感じられ、しかもイヤホンではキンキンうるさくなりがちなストリングスが、とても豊かに遠くからの空気感たっぷりに鳴ってくれます。次にボーカルが入ってくると、音像が大きく、柔らかく自然な鳴り方ではあるものの、先程のオケとは全く別のレイヤーで、浮かび上がってくる感覚があります。続いて右手にジャズトリオ、特にベースの弾むような鳴り方も彫りが深く、しっかりした音色と重さが感じられます。

特にベースは量だけを盛ると位相とタイミングが遅れてしまいがちなのですが、ZE8000は十分な重さを持ちながら他の楽器とのタイミングがピッタリと揃っているのが凄いです。これがノリやリズム感に必要不可欠なのですが、意外と多くのイヤホンがそれを忘れて、ルーズで遅れた低音を盛るような音作りになっています。そういう鳴り方に慣れてしまうと、スウィング感というものが理解できず、ただメロディと歌詞を追うだけの聴き方になってしまいがちです。

ZE8000では、全体的に厚みがある一方で、時間と空間が濁っておらず、各パートのミックスの位置関係がしっかり把握できます。鳴り方が一見ソフトであっても、音の立ち上がりや残響がスッキリしており、次に来る音を余計な響きで覆ってしまわないからだと思います。つまり「厚く柔らかいのに分離が良い」という、一見矛盾している表現であると一旦理解してしまえば、ZE8000の魅力が一気に高まります。

ジャズであれ、歌謡曲であれ、優れたボーカル作品の魅力というのは、ただ歌手の声だけを聴いているわけではなく、その人の背景にあるスタジオ空間の響きを含めて、優れたマイクに収録する事で、歌声の魅力が引き立つわけです。

多くのイヤホンの場合、女性ボーカルというと「歌手が自分の耳元にいるような」錯覚を与える音作り、つまり声の滑舌と輪郭を強調して、伴奏は中域の邪魔にならないようアタックのみに留める仕上げ方をしており、それは歌手の声と歌詞だけを追っている人なら満足できても、アンサンブルが欠けており、音楽の半分も楽しめません。その点ZE8000は、各セクションが中域を中心にフルな厚みで鳴っていて、それらが重なり濁るのではなく、まるでマルチトラックが個別に浮き上がってくるように、立ち位置や響きの奥行きがつぶさに観察できるため、音楽の魅力を引き立ててくれます。

もうひとつ、ダイナミクスに関しても、ZE8000は他のイヤホンでは味わえない独特の魅力があります。むしろこちらのほうが大型ヘッドホンの鳴り方に近いポイントかもしれません。

クラシック録音の金字塔、ショルティの指環のハイレゾリマスターが今年行われており、12月にはワルキューレが出ました。四部作の中でも最後の1965年に録音されたことで、音質が一番良いと思います。

ゾフィエンサールを借り切った大迫力のスタジオセッションということで、当時のデッカの録音技術の高さを物語る傑作でもあるわけですが、ZE8000は凄いサウンドを発揮してくれます。

第二幕の冒頭(13曲目)から聴いてみると、まず開幕トランペットが力強く鳴る一方で、左側のヴァイオリン、そして右側にはホルンと木管の咆哮と、それぞれが大きいスケールで描かれながら、前後の異なるレイヤーで存在しているため、ウィーンフィルの音色を各セクションごとに堪能でき、続いて1:00あたりで一旦静かになる場面でも、響きが残留せずスッと消えて、そこからクレッシェンドしていく楽器の下にあるティンパニの静かなロールもクッキリと聴き取れます。

一見厚く緩く思えるZE8000なのに、このダイナミクスの迫力と分離の良さは一体何なのかと考えてみたところ、肝心なのは、帯域全体が揃っていて、ドライバーやハウジング由来の余計な響きのギミックが無く、オケでいういわゆるアインザッツの瞬間が感じ取れるからだと思います。

ZE8000の鳴り方に慣れたあとで他のイヤホンで聴くと、意外なほど響きが長引いて、低音のタイミングが遅れており、明暗や強弱のメリハリが流れてしまい、ドラマ性が薄れています。そういった響き過多な鳴り方の上で高音をギラギラと強調させることで解像感を高く見せたとしても、音楽の爆発的な推進力が失われて、上辺だけをなぞるような聴き方になってしまいます。

大迫力の第二幕導入部が終わり、14曲目でヴォータンの低い歌声と、続くブリュンヒルデの掛け声のどちらも、ZE8000は滑舌でクリア感を出すのではなく、腹から喉を通って「発声」している感覚があり、しかも、歌手だけに注目すると、壇上で歌手専用マイクで録っていて、オケとは異なる、余裕を持った空間音響が背後にあることが確認できます。一般的なボーカルのようにブースでドライに収録したのではなく、ホールに響きわたる音響(しかもそれに負けない強靭な歌声)を的確に収録できるエンジニアの腕前があってこそ、まさに金字塔と呼ばれるような作品が生まれたのだと思います。

こうやって集中して聴いてみると、ZE8000はまるでコンソールを操作しているかのように、各チャンネルの分離が凄く良いです。他のイヤホンを聴いてみると、たとえば私が好きなテクニクスAZ60なども、全体のドライブ感は良いのですが、全てのパートの響きが重なりあって、演奏が一連の流れとして聴くような感じにとどまり、ZE8000ほど複雑な成分を分解してくれません。

つまりZE8000は良い意味でモニター系のサウンドなのですが、テープの繋ぎ目などの不具合を目立たせるわけではなく、録音チームが意図した演奏の迫力を忠実に再現してくれるため、ポケットスコアを片手に楽しんでいるようなクラシックファンにもオススメできます。

ZE8000は古い録音だけが得意というわけではなく、最新の高音質録音でも良く鳴ってくれます。

EratoレーベルからJohn Nelson指揮ストラスブール管弦楽団のベルリオーズです。前半はMichael Spyresが歌う「夏の夜」、後半はTimothy Ridoutのヴィオラを迎えて「イタリアのハロルド」と、一枚で二度楽しめます。

このアルバムでは、私が普段からよく使っているFinal E5000やゼンハイザーIE600と聴き比べてみようと思ったわけですが、ZE8000が特殊な鳴り方だという事を改めて認識できました。

ヴィオラソロの弦と弓のこすれる質感や、高音がきらびやかに伸びていく感覚は、やはりIE600などの方が一枚上手です。音色が軽やかに流れるように展開していき、ゼンハイザーらしい真面目な鳴り方や、Final E5000の淡い粒立ちの良さなど、イヤホンそれぞれの魅力が光ります。

そんなイヤホンを体験してからZE8000に替えてみると、これまであれだけZE8000が凄いと言ってきたのに、装着してから最初の10分ぐらいは良い音だとは到底思えず、「こんなフワフワ厚くて不明瞭なサウンドを、なんで凄いと思ったんだろう」と困惑してしまいます。IE600やE5000の方が断然クリアで繊細な、まさに高音質イヤホンといった、イヤホンマニアが慣れ親しんできたサウンドです。

しかしZE8000をそのまま聴き続けていると、段々と音が良くなっていくように感じるのが面白いです。三曲目くらいになると疑念もなく「凄い鳴り方だ」と実感できてしまいます。

そして、そこからまたIE600に替えてみると、ZE8000ほどのオケやソリストの分離が無く、まとまった雰囲気の中で音楽が流れていくような印象を受けます。解像感の高さは逆に不利なケースもあり、たとえば4曲目では歌手の声量が上がるとマイクがビビっており、IE600ではそれが目立ってしまい聴きづらくなるのに対して(IE900はもっと目立ちます)、ZE8000は発声の力強さの方が強調されるため、そこまで気になりません。

特にベルリオーズの作品において、有名な幻想交響曲もそうですが、細かに入り乱れた成分が徐々に盛り上がっていって、最後にドカンと来るドラマチックな展開、つまりダイナミクスの強弱というのが非常に大事で、それを満足に再現できるイヤホンというのは少ないです。

この「ドラマチックな展開」という点で、ZE8000の本質というか、最大の得意性が実感できるように思います。

特にこちらは最新のハイレゾ録音ということもあり、静かな場面の描写が大事なのですが、普段ZE8000以外のワイヤレスイヤホンでは、クラシック録音における小音量の部分は壊滅的です。コンプレッサーのように不自然に持ち上がっているか、そもそも粗すぎて聴き取れない事が大半です。クリア感を出すためにノイズとして処理しているのかと思えるくらいです。

一方IE600やE5000のような有線のイヤホンはそういった部分を綺麗に描写してくれるのですが(もちろんDAPなどのソースにもよりますが)、しかし逆に大音量の場面になってしまうと、どうしてもイヤホン本体が飽和して、クラシック本来の音の衝撃というのが再現しきれません。

有線イヤホンでは、音のエネルギーが多い中低音を盛りすぎるとハウジングの物理的な響きが多くなりすぎて管理できなくなりますし、小音量での解像感を上げると、大音量の場面では高音のエッジが刺さってしまうため、IE600やE5000のようなイヤホンは、そのあたりのやりくりを上手に仕上げるため、全体的に迫力は控えめに、ダイナミクスが抑えられた、サラッとした鳴り方になってしまいがちです。これらは個人的に「寝る時にリラックスできるイヤホン」として長らく愛用しているのも、このあたりに理由がありそうです。

ようするに、有線イヤホン、つまりDSPが使えない素の状態のダイナミックドライバーとシェルハウジングの物理設計だけでは、解像感と迫力を両立するのは難しいのかもしれません。大型ヘッドホンでは可能だとしても、たかが10mm程度の振動板を豆粒みたいな空間に入れただけで、オーケストラを描く事には無理があります。

これまで散々ZE8000の鳴り方が特殊だと言ってきたのは、このあたりに答えがありそうです。音質面で色々と問題が多いワイヤレスイヤホンですが、DSPとアンプとドライバーがセットで開発できるというのは大きなメリットであり、ZE8000では、それらを駆使して、ハイエンドな有線イヤホンのサウンドを再現するのではなく、そもそも同社のA8000やE5000など有線イヤホンの開発において難しく感じた課題に焦点を当てているように思えます。もちろんDSPの無い有線イヤホンの素のサウンドが好きなら、A8000やE5000を聴けば良いわけで、ZE8000はそれらの無線劣化版ではなく、無線だからできる音作りを目指していると感じました。

不満点など

今回ZE8000を一通り聴いてみた上で、個人的に不満点のようなものが二つ思い浮かびました。ZE8000のメリットを覆すほどではありませんが、ある種の問題定義として書き留めておきたいです。

まず、ZE8000が得意とする厚く分離の良い鳴り方ですが、これが上手くいく楽曲と、そうでない曲の差が大きいです。どちらかというと派手で混雑しがちなスタジオ録音では凄い効果が発揮できます。打ち込みのポップスから歌謡曲まで、ほとんどの楽曲がそういうスタイルなので、上手くいくケースの方が多いと思います。生録でもソロピアノなど単独の作品は良い感じです。

その一方で、ZE8000が不得意だと思えたのは、ステレオのワンポイントマイクで収録した大編成オーケストラ作品などです。上で試聴に使ったようなスタジオで入念にミックスされたオーケストラ作品なら良いのですが、最近クラシックのハイレゾ録音で多い、作品自体にホール音響を全て含んでいる「録って出し」の作品では、ZE8000だと緩すぎて個々の楽器音が際立たず退屈に聴こえます。

これはつまり、制作側もHD800Sなどのようにエッジがカチッと強調されるモニターヘッドホンやスピーカーを使っているからかもしれませんし(実際に収録現場を見ると、そのようです)、また聴く側の我々も、そういう鳴り方に慣れているからだと思います。

似たような事例で、ZE8000でYoutube動画とかを見ていると、ナレーションの声のエッジが丸すぎて、滑舌が聞き取りづらい事があります。そんなものにZE8000を使うなとFinalに怒られそうですが、そのあたりがZE8000を万人に勧められない理由の一つになってしまいます。なんというか、ナレーションの言葉を聞くよりも、収録に使ったマイクの中域の音色の良し悪しが目立ってしまい、そっちに注目が行ってしまうような感じです。

ZE8000はDSPを積極的に駆使しているわけですから、DSPモード変更で全くの別バージョン、たとえばD8000とD8000 PROの違いのように、なにかもうちょっとエッジや響きに寄せたスカッとしたチューニングもできたかもしれません。もちろんせっかくZE8000を作った意図が薄れてしまうので余計なオプションは与えないほうが良いというのも一理あります。

ZE8000の、もう一つの不満点は、Bluetooth接続コーデックによる音質の変化でした。これはZE8000に限った問題ではないのですが、他のイヤホンでは「まあBluetoothイヤホンだから」と、そこまで気にしなくとも、ZE8000の音作りはそのあたりをかなり意識させられます。

試聴時にどんなBluetooth環境で聴いたかで音質の評価もそこそこ変わってしまうため、せっかくのDSP信号処理もポテンシャルを完全に引き出せているかわからず、もったいない気もします。

ZE8000の対応コーデックはSBC・AAC・aptX・aptX Adaptiveなのですが、現状でAdaptiveが使えるスマホなどを持っている人はどれくらいいるのでしょうか。私の場合、DAPやスマホからSBC・AACで接続すると、低音がこもったようなモコモコした鳴り方になってしまい、ZE8000の第一印象はそこまで良くありませんでした。

aptXでは、他のイヤホンだと高音がうねるような違和感があり、あまり好んで使わないのですが、ZE8000ではそこまで悪くなく、高音と低音の両方がソフトになりマイルドなサウンドのように感じます。このあたりはQualcommチップの世代にもよるのかもしれません。

ではAdaptiveとなると、これが意外とピンキリで、送信機を色々試したら音が良い物と悪い物があるようです。QualcommによるとAdaptiveは860kbps・96kHz/24bit対応らしいのですが、スマホだとSnapdragon 855や865あたりのAdaptive初期チップでは420kbps・48kHz/24bitに固定されていたりなど謎の部分が多いです。

BTD600が良い感じです

CreativeやNuraなど色々なAdaptive対応送信機を試した結果、私はゼンハイザーのBTD600というやつに落ち着きました。それでも、パソコンからだと確実にWASAPI 96kHz/24bitでAdaptive接続(LEDが紫)になるのですが、DAPやスマホからOTGでつなげると、アプリ次第でSBC固定だったり、曲を変えるとAdaptiveからSBCになったりなど、挙動が安定しません。

もちろん96kHz/24bitだから音が良いというわけではないでしょうけれど、これが一番ZE8000の鳴り方に制限が感じられず、スケールの大きなサウンドのようでした。肝心なのは、試聴の際にはBluetooth接続コーデックを色々試してみる価値があるという点です。そんなに高いものでもないので(ゼンハイザーので8000円弱)、試しに買ってみるのも良いかもしれません。

ようするに、ZE8000が凄いからといって、個人的なレファレンスイヤホンとして使えるかとなると、私みたいなクラシックファンで、DXDとかDSDネイティブ録音にメリットを感じているようなマニアにとっては、どれだけDSPが優秀でも、やはりBluetoothのデータの圧縮展開で損なわれる部分があるようで、その点では未だにUSB DACと有線ヘッドホンの組み合わせに頼る事になってしまいます。

おわりに

今回ZE8000を買ってみて、サウンドの凄さには関心しましたし、8Kサウンドというものにも、当初想像していた鳴り方とはずいぶん違いましたが、確かな説得力がありました。

肝心なのは、シャリシャリ、ギラギラな高解像イヤホンの先入観を捨てて、D8000のような平面駆動型ヘッドホンをイメージしてみると、サウンドの狙いが受け入れやすいと思います。

ではZE8000はどういう人におすすめできるかとなると、これはちょっと考えさせられます。

まず「3万円台の高級イヤホンを買うのは初めて」という初心者は、素直に王道のゼンハイザーとかを買った方が良いと思います。私が普段使っているテクニクスAZ60もかなりオススメです。それらのほうが騒音下でも力強いドライブ感のあるサウンドが楽しめるため、エントリークラスの凡庸なイヤホンと比べてアップグレード感が大きいです。

次に、熱心なオーディオ・ヘッドホンマニアで、出先で使うために「最近流行りのワイヤレスイヤホンでも買ってみようか」という人も、ZE8000ではなくソニーやアップルなどを買った方が良いです。どのみち真剣な音楽鑑賞をする気は無いでしょうし、高度なアクティブNCや空間オーディオなどの、ピュアオーディオとは別腹のギミックを体験したほうが有意義だと思います。

ZE8000を一番オススメしたいのは、すでにハイエンドな有線イヤホンも新作ワイヤレスイヤホンも散々使ってきた熱心な音楽ファンです。私の身の回りでも、そういうコアな人やショップ店員とかの反応が一番良かったです。

他社から出ているワイヤレスイヤホンの音作りがどれも似たような傾向にあるのは、「ワイヤレスイヤホンが使われる状況は」「ユーザーが求めているサウンドは」という固定概念の上で開発されているからだと思います。

それは聴く側も同じで、レビューで書かれている事が、低音のパンチとか、女性ボーカルの刺さりが、といったキーワードだけでしか語られていないのなら、それに合わせて設計すれば良いわけですし、ダミーヘッド測定にどれだけ忠実かという周波数特性だけが評価基準なのであれば、それに合わせれば高評価で売れる、という感じの作り方です。

端的に言うと、他のワイヤレスNCイヤホンメーカーは騒音下でもガンガン聴かせるように音を作っている印象がありますが、ZE8000はそうではなく、屋外で聴いていると、もっと奥深くに凄い音色が潜んでいて、それが周囲の騒音で聴き取れないのがもどかしく、逆に不満に感じてしまいます。

私がZE8000のメリットに気づいた大きな転換点は、屋外で音楽を聴きながら、そのまま静かな室内に入った瞬間に、これまで騒音に埋もれて聴こえていなかった様々な音色のニュアンスが一気に自分を包み込むような感覚を得た事でした。つまりZE8000の本来の使い方は、自宅の静かな環境でじっくりと音楽の奥底まで楽しむべきで、その用途にアクティブNCも最適化されているという事に気がついたわけです。

外出用に、他の売れ筋ワイヤレスイヤホンとどっちを買うか悩んでいる人は、素直にそっちの方を買うべきだと思いますが、有線イヤホンを含めた音楽鑑賞を突き詰めて、新たな側面を体験したい人は、ぜひZE8000を聴いてもらいたいです。