EversoloというメーカーのDMP-A8 ストリーマーを借りたので、ちょっと試してみました。
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Eversolo DMP-A8 |
据え置き型のネットワークDACで、公式ではStreamerと呼んでいます。2024年3月発売で36万円、最近流行っているので個人的に興味があり、実際に使ってみたかったメーカーです。
Eversolo DMP
Eversolo DMPシリーズはUSB DACとしても使えるのですが、ネットワークDACとして購入する人が多いと思います。
兄弟機にDMP-A6とDMP-A10があり、今回のDMP-A8はそれらの中間にあたるモデルになります。
どのモデルもAndroidベースのタッチスクリーンOSでApple MusicやTidalなどストリーミングが利用でき、内蔵ストレージも追加できるため、全体的なコンセプトとしては、古典的オーディオよりも、むしろポータブルDAPを使っている人の方が親近感がわくと思います。
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豊富な入出力 |
背面の入出力は極めて豊富で、まさに現代のオーディオレシーバーといった感覚です。デジタルとアナログ入出力のどちらも柔軟に切り替えられるため、オーディオラックに眠っている古い機器もあれこれ接続したくなってしまいます。
ただしヘッドホンアンプやスピーカーアンプは内蔵されていない純粋なラインレベル機器なので、別途アンプが必要になるわけですが、むしろ中途半端なオールインワン感が無いあたりはオーディオマニアとして好感が持てます。
ユニークな点ではHDMI ARCでテレビの音声を引き出したり、別売USBマイクでDSPルーム補正を活用できたり、12Vトリガーも用意されているなど、2chステレオでありながらシアター系ユーザーの要望も取り込んでいることが伺えます。
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シャーシの作りが良いです |
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ボリュームエンコーダー |
シャーシデザインはピュアオーディオというよりはAV機器っぽいですが、アルミパネル同士や画面ガラスとの嵌め合いの処理など、かなり高精度に作られており、価格相応の高級感があります。
電源ボタンを兼ねたボリュームエンコーダーのみで、あとは6インチタッチスクリーンで操作するあたりもスッキリしていて良いです。公式スマホアプリもしっかり作られており、モード設定などもそちらでできるが便利です。
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DMP-A8 & DAC-Z8 |
別シリーズでDAC-Z6やDAC-Z8というモデルもあり、見た目は似ていて値段も安いのですが、ネットワーク機能やUSBトランスポート出力が無い、純粋なUSB DACなので注意してください。そちらはヘッドホンアンプを搭載しています。
ちなみに各モデルの値段に関しては、中華製品にありがちな、正規輸入品以外にも直販や並行輸入なども入り混じっているので、為替の関係もあり、かなりのばらつきがあります。価格コムで調べた最安値ではもう手に入らなかったり、発送や保証が怪しかったり、法外な高値で売っているショップもあるので注意してください。私もDMP-A6が気になってチェックするたびに12万円~20万円あたりで変動していて悩みます。
ストリーマー
私の自宅オーディオ環境では、ちょっと前からネットワークストリーマーを導入して日常的に使っています。
単純にUSB DACへの中継機器としての役目なので、そこまで高価なものは使っておらず、最初はラズパイの無料Volumioを試してみて、それからちょっと多機能化したiFi Audio Zen Streamにアップグレードするなど、必要最低限で済ませてきました。
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iFi Audio Zen Streamも活躍してくれました |
少し前にオーディオマニアの友人がEversolo DMP-A6を導入したため、彼がそれまで使っていたDELA (MELCO) N1Aを譲ってもらい、そちらに移行しました。
DELAも音質メリットというよりも、Zen Streamには無かったストレージを内蔵しているため、そこに最近の新譜をコピーしておいて、パソコンを起動せずに音楽が聴けるという利便性がメインでした。
そんなわけでDELAでしばし満足していたものの、最近はネット記事などでEversoloを見る機会が多く、一番安いDMP-A6は10万円台と、競合他社と比べてずいぶん安く思えたので、乗り換えるべきかと気になっていたところ、奇遇にも今度は別の友人が上位モデルDMP-A8を買ったけど忙しくて使うヒマがないと放置していたため、数週間だけ拝借することができました。
この手の多機能ネットワーク機器は、音質がどうこうという以前に、そもそも自分のネットワーク環境にて想定している用途で確実に使えるのかテストする必要があるので、オーディオショップのデモだけで判断するわけにもいかず、導入へのハードルが結構高いです。
一例として、このDMP-A8を買った友人も、普段はもっと高価なAuralicストリーマーを使っており、Roonを導入したいもののネットワーク検出がどうにも不安定で上手くいかないため、ためしに安価で最新のEversoloを買ってみたということです。つまり個々の機器よりもネットワーク環境の相性次第で上手くいかないケースが多いのが難点です。
ネット掲示板で検索しても、この手の製品はメーカーを問わず接続トラブルにあふれており、「出力を一旦USBからS/PDIFに変えて、またUSBに戻すと動くよ」とか「古いデバイスはポート開放を9200から9300台に変更すると動くよ」など謎のテクニックが共有されていたり、後日ファームウェアアップデートで挙動が変わってしまうなど、ユーザーはもちろんのこと、オーディオショップ泣かせの製品ジャンルでもあります。
ネットワークオーディオ機器はここ数年で韓国・中国系メーカーが続々参入することで機能性や使いやすさがグングン向上しており、一昔前の常識が覆されています。私みたいにLINNネットワークの時代から四苦八苦してきた人にとって、最近のストリーマーの「繋げたら動く」手軽さは魔法のようです。
日本や米国の老舗オーディオメーカーはこの手のIT機器の開発力が弱いようで、未だに古風なモデルを作り続けているあいだに、中華系メーカーに一気に先を越されてしまいました。十年前までは、中国深センのメーカーもまだOEMが中心で、日本や欧米ブランド名義で色々と開発製造の代行をしていたわけですが、近頃は中国で自社ブランドを確立できるようになり、立場が逆転したような感じです。
もちろんピュアオーディオ的なジャンルではまだ日本や欧米メーカーの方が知識や経験が豊かなのですが、薄利多売ボリュームゾーンでは敵わなくなってきており、逆に老舗メーカーはどこも100万円クラスに高額化しています。日本のメーカーを昔と同じ感覚で買おうと思ったら、50万円、100万円とかで驚いた人も多いと思いますし、そのかわりとしてEversoloのような中華ブランドが台頭してきているわけです。
DMP-A8
Eversoloというのは中国深センのZidoo深智電科技有限公司というメーカーの傘下にあるオーディオ向けのサブブランドで、ストリーマー以外にもパワーアンプやUSB DACなども作っているようです。
中華ブランドの中でも据え置きメインで、シャーシデザインやUIが欧米向けに結構洗練されて作り込まれており、世界展開を積極的に目指しているようで、英語圏の代理店やオーディオ雑誌やネットレビューなどで一斉に目にするようになりました。
一昔前の中華系オーディオというと、文字化けしたZIPフォルダーをDropboxからダウンロードして未署名のドライバーを強制インストールするみたいなイメージが強い人も多いと思いますが、ここ数年でだいぶ進化しています。
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謎の日本語 |
そんな事を言っていた矢先、DMP-A8を英語ではなく日本語モードに切り替えてみたところ、残念ながら中華風味は健在のようです。
上の写真では「さいせい」がひらがなだったり、左メニューのフォントが大きすぎて見切れていたり、リプレイゲインモードの「OFF」が「閉じる」と翻訳されていたりなど、残念な点が多いです。
こういうのはファームウェアでいくらでも修正できますし、フォントのチョイスやカーニングなんかは悪くないと思うので、今後日本の代理店などを通しての改善を期待しています。
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DMP-A8・DELA N1A |
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裏面 |
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充実した入出力 |
私が使っているDELA N1Aと比べるとだいぶコンパクトでありながら、巨大なタッチスクリーンが印象的です。
背面I/Oも充実しており、ネットワークトランスポートとしてもUSBだけでなくS/PDIFやHDMI出力が用意されているのは嬉しいです。
古いS/PDIF DACが眠っているオーディオマニアは、この機会に再来してみるのも面白いかと思います。私もだいぶ古いApogee Rosetta 200の音が好きで保管していたので、久々にS/PDIFで音を鳴らしました。(他にも、初期のUSB DACはUSBインターフェース回路が未熟だったので、S/PDIFで入れた方が音が良いモデルも多かったです)。
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古いS/PDIF DACを鳴らすのも面白いです |
さらに、今回は試しませんでしたが、一般的なUSB CDドライブを認識してトランスポートとして活用できたりなど、色々できるようです。
ちなみにこれを書いている時点でラインナップはDMP-A6・DMP-A8・DMP-A10の三兄弟で、さらにA6にはオーディオ回路をグレードアップしたA6 Master Editionというのも出しています。ちなみにA6・A6 Master Editionは先日Gen 2にアップデートされました。
A6 Gen 2ではスイッチング電源から上位モデルと同様のリニア電源に変更されたことで電源ノイズが大幅に減ったそうです。初代A6の処分品が格安で販売している場合は、そのあたりも考慮した上で検討してください。
A6とMaster Editionについては、米アマゾンでA6 Gen 2が$860、A6 Master Edition Gen 2が$1399と1.5倍以上の価格差があります。トランスポートとして外部DACに接続して使いたいユーザーにとって内蔵DACはどうでもいいので、そのあたりをコストダウンしたモデルが用意されているのは嬉しいです。
A6・A8・A10の三兄弟はコアとなるタッチスクリーンOSの基本機能は共通しており、オーディオ回路の高品位化と、入出力の充実によって差別化されています。
違いを全部挙げるとキリがないですが、たとえばA6にはアナログ入力が無いとか、A10ではUSBがアイソレーションされるなどです。ようするにシンプルなストリーマー用途としては一番安いA6でも画面や操作性がハンディキャップされていないのは嬉しいです。
個人的に、上位モデルのA10にあるSFP+端子だけはA6・A8にも欲しかったです。自宅パソコン周りのスイッチやNASなど全部OM3の10GbEでまとめているので、これもLCファイバーにできればスマートです。
ファイバーの方が音が良いかは懐疑的ですが(PoEを遮断するメリットはありますし、10GbE以上だとCAT6バンドルの発熱や放射ノイズも結構バカになりませんが、トランシーバーの電磁波は新たな問題になるので、どっちもどっちです)、単純に長距離の取り回しの利便性でファイバーの方が便利です。
インターフェース
電源を入れてネットワークに接続して、そのままネット経由で最新ファームウェア(v.1.4.32)にアップデートしました。
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スクリーンセーバー |
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About画面 |
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Audio設定 |
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Playback設定 |
設定項目も豊富でわかりやすく、S/PDIF出力のサンプルレート上限やDoP/PCM変換を選べたり、CD自動再生、リプレイゲインや入力自動切り替えなど、細かい点も見落とさないよう配慮されており、やはりこのあたりが旧世代のオーディオメーカー製品と比べてUIのジェネレーションギャップを感じます。
ドライブ増設
標準の内蔵ストレージはOSが入っている64GBだけなのですが、底面にM.2 NVMeの拡張ベイがあり、自前のドライブを追加できるようになっています。
私のようなPC自作勢はそろそろ古いM.2ドライブが溜まってきて使い道に困っていると思うので、こういう方針は非常にありがたいです。
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底面 |
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M.2拡張 |
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フォーマット |
ためしに余っていた500GBのサムスン980PROを入れてみました。パネルはプラスネジですが、M.2スロット自体はネジ不要で留められるようになっているのも良い配慮です(シャーシ内にネジを落としたら悲惨なので)。
電源投入後にドライブがそのまま認識されますが、設定画面でフォーマットでき、exFATとNTFSのどちらか選べるのも気が利いています。
ネットワーク
設定画面でSMB Serverをオンにするだけで、パソコン側で問題なく接続できました。ちなみに設定画面にマウント用のアドレスやDNSホスト名も表示されているのはありがたいです。
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Network設定 |
ルーターやNAS設定に慣れている人ならありがたみを感じないかもしれませんが、「パソコンに詳しくない老人に電話サポートしなければならないオーディオショップ店員」のことを想像してみてください。さきほどのAbout画面もそうですが、現在の接続状況に関する一覧画面があるのは本当に助かります。
SMBマウント |
ここからは普段DAPでやっているのと同様に、ExplorerやJRiverなどを経由して楽曲ファイルを転送できます。
ちなみに逆方向でDMP-A8の方から自宅のNASもマウントでき、そちらのフォルダーもライブラリーに追加できます。
再生
ホーム画面もわかりやすく、ライブラリーに追加した楽曲はMusicから、ストリーミングサービスはStreamingからという風に分離されており、背面の入出力端子はSourceで選択します。
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ホーム画面 |
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Apps |
画面の右側に常時トランスポートバーがあり、再生停止以外にも、右上のCDっぽいアイコンを押せば再生画面に、下から二番目の家みたいなアイコンを押すとホーム画面に飛べます。戻るボタンが右下に常駐しているのもAndroidっぽくてありがたいです。
AppsというメニューではイコライザーやCDプレーヤー、別売USBマイクでのルーム補正など各種アプリがプリインストールされています。このあたりはQNAPなど家庭用NASのインターフェースと同じ感覚です。
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ローカルファイルのブラウザー |
ローカルファイルの再生はポータブルDAPと同程度のシンプルなものです。私は毎週金曜日に新譜を追加するのが習慣なので、アルバムを追加順にソートする機能があるのはとても便利です。
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Streaming |
ストリーミングメニューでは主要サービスが選べるようになっています。Google Playは非対応ながら、外部APKのサイドローディングにも一応対応しているようですが、大抵の人はここにあるサービス一覧で事足りると思います。
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Tidalとローカル |
Eversoloのコンセプトとして「ローカルファイルとストリーミングサービスのユーザーエクスペリエンスを統一させる」という意図が感じられます。
上の写真のように、同じアルバムをTidalロスレスハイレゾストリーミングしたものと、ローカルのALACファイルを再生したもので、画面左上のTidalロゴ以外は違いがわかりません。
現在多くのオーディオマニアがローカルライブラリーからストリーミングサービスへの移行中、もしくは共存方法を模索している状況だと思うので、Eversoloのようにシームレスで交互に切り替えられる製品というのはユーザーの裾野が広く、人気が出るのも納得できます。
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ReplayGainは要注意です |
唯一の注意点として挙げられるのは、ストリーミング音源はリプレイゲインが埋め込まれているため、EversoloのPlayback設定でそちらをオフにしておかないと音量が揃いません。
「ローカルの方が音が良いな」なんて思って、実はストリーミングは自動で音量が低減されていたなんて後で気がついたら恥ずかしいです。
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DLNAでJRiverから再生できました |
DLNAもオンにしておけばレンダラーとして機能するので、同じサブネット上にあるJRiverなど再生プログラムにて自動検知され、再生先として選べます。
ためしにDSD256ファイルを再生してみたら、ちゃんとJRiver→DMP-A8→Chord Qutest DACでDOP256が通ったのは嬉しいです。こういうのを事前にテストしないと、買ってから思わぬ制限が発覚したりするものです。
こちらもEversolo本体はローカルファイル再生時と同じようなトランスポート画面になるので、やはりソースを問わずシームレスな体験というのを目指しているようです。
ただしEversoloに限らずDLNAは不安定な部分もあり、JRiverを閉じても再生が止まらないとか、Eversoloから再生停止を押してもJRiverが無反応で止まらないなど、そのあたりを改善したRoonネットワークと比べるとトラブルは多いです。
出力
ライン出力はバランス・シングルエンドそれぞれ0dBフルスケールで4.4 Vrms・2.2 Vrmsという一般的な仕様で、設定画面でどちらかもしくは両方同時に出力できます。
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ライン入出力 |
メインシステムから引退したあとでも、たとえばアクティブスピーカーと合わせてベッドサイドのジュークボックスに使うなど、色々と使い道が思い浮かぶのは購入の後押しになりそうです。唯一フォノアンプを搭載していないのが残念です。
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USB DAC接続 |
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ボリューム |
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サンプルレート切り替え |
私はアナログ入出力よりもUSB DAC接続の方に興味があるのですが、こちらも目立った問題もなく快適に使えました。
ビットパーフェクトでDACへ送りたい場合は単純にボリュームノブを全開にすることで0dBFSのVolume direct modeと表示されます。
DAC側のサンプルレート上限を判別して、それを超えるファイルは自動的にダウンサンプリングしてくれるなど、実にスマートです。
たとえば上の写真でDSD256 (11.2MHz)ファイルを再生する場合、私のdCS DACはPCM 384KHzのDoP 5.6MHzが上限なので、DMP-A8が勝手にPCM 352.8kHzに変換してくれて、Chord Qutest DACはDoPで11.2MHz対応なので、何も設定をいじらずともネイティブDSDで再生できています。こういうのに詳しくない人は、接続したのに音が鳴らないなどのトラブルがありがちなので、全自動に行ってくれるのが非常に助かります。
不満点
DMP-Z8はユーザー目線で実用的に作られている製品だと思いますが、実際に使ってみて、いくつか不満点もありました。
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付属リモコン |
まず第一に、付属リモコンがあまり多機能ではありません。画面のナビゲーションや選曲には一切使えず、十字キーもただのトランスポートボタン(再生停止や曲送り)なので、ようするに単なるCDプレーヤーのリモコンの域を超えません。
そもそもAndroidベースのUIがリモコンでナビゲーションできるように作られていないのが問題なのですが、テレビやAVレシーバーのような多機能リモコンを期待しているとガッカリします。
本体画面をタッチ操作するかスマホアプリに依存することになるので、ちょっと離れたソファーで選曲して聴く時もスマホやiPadが必須になり、結局DELAを使うのとたいして変わりません。
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SMBでNASもマウントできますが |
次に、私が一番確認したかった点になりますが、NAS上にある自分の音楽フォルダーをSMBマウントしてライブラリーに登録するのが、完全に成功とはなりませんでした。
NASはQNAPのHDD RAID1で、DMP-A8の有線1GbEにて640Mbps程度は出せています。
上の写真では、約20,000曲が入っているDSDというフォルダーは30分ほどでスキャンが終わり、観覧・再生ができるのですが、さらに大きいPCMフォルダーは大きすぎたようで、5時間ほど待っても終わらず断念しました。(なぜか最初から30.49%のままです)。
しかも、最初に取り込んだDSDフォルダーの差分更新スキャンが初回と同じくらい時間がかかったので、もっと大きなフォルダーを登録できたとして、新曲追加するたびにスキャンするのは現実的ではありません。
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謎の四角 |
さらに、アルバムブラウザーの見た目は良いのですが、スクロールバーやA~Zアルファベット頭文字のジャンプができないため、数万アルバム取り込みに成功したところで、実際に観覧しようとなると悲惨なことになります。
たとえば「レーベルDGG→作曲家ブルックナー→交響曲8番→カラヤン '75→2018年リマスター」みたいなクラシックファンがよくやりがちなタグ絞り込み操作はできません。
上の写真は「ジャズ」というジャンルを選んだ画面ですが、左側に大きな四角が表示されて消せません。再生中ここにジャケット絵が表示されるわけですが、選曲中は狭くなるだけで邪魔です。
さらに、実際にスクロールしてみると、ローカルM.2ドライブのファイルのみであればスムーズなのですが、SMB経由のファイルも混在していると、アルバムジャケットデータのプリロードが10行くらいで止まり、次の10行を読み込んだら、もう一度スクロールして、といった作業になってしまいます。
ひとまず取り込んだDSDフォルダーだけでも、検索バーを使わないかぎりLやMといった頭文字のアルバムまで到達するのに5分以上かかりました。本体画面ではなくスマホアプリを使っても同様です。
そんなわけで、SMBアクセスとデータベース周りの処理が弱いです。画面に現在表示されている部分の見栄えは綺麗に作られているのですが、キャッシュ最適化などネットワーク機器としてバックエンド部分のノウハウが不足しているようで、見た目から期待して実際に色々試してみると、意外と限界の低さに気が付かされます。
無理難題を言っているわけではなく、パソコン上のiTunesとJRiverであれば問題なく扱えています。最近のARM SoCは速いので、処理速度の問題というよりも、XMLやSQLなどデータベース構築の最適化が未熟で、SMB経由で100,000単位の参照を処理するプログラムを組めていないのでしょう。その点iTunesはさすがアップルだけあって完璧に持ちこたえていますし、JRiverはNAS上の100,000曲以上の差分スキャンが一分以内で終わるという驚異的なパフォーマンスなので、理不尽や不可能ではないことは実証済みです。
Eversoloだけが貧弱というわけでもなく、パソコン上でもAudirvanaやRoonなどでは駄目で、据え置きのAurenderやAuralicなどでも厳しかったので、最新のEversoloではどうかと期待したものの、やはり失敗でした。
ストリーミング世代の若い人には信じられないかもしれませんが、私と同じように、CD全盛期の頃からずっと音源を取り込んできて、現在でも毎週新譜を買っていて、NASに膨大なFLACライブラリーがある人は意外と多いです。ストリーミングに移行すれば済む人もいれば、ストリーミングサービスでは聴けない音源が大量にあるためどうしようもないという難民も多いです。
それらを観覧再生する手段としてEversoloのようなオーディオNASストリーマーが有用なはずが、データベース処理が貧弱なため、結局JRiverなどパソコンに依存している現状が打破できません。SoCの進化でゴリ押しでどうにかなると思っても、プログラミングの問題なので、十年待っても改善せず停滞しています。
これらの問題は、あくまで私の特殊用途においての話なので、普通にローカル数千曲とストリーミングを少々といったカジュアルな使用条件であれば快適に使えるだろうと思います。
実際に開発チームもそのあたりを想定して設計しているのだろうと思いますが、私としては、ファイルのメタデータ編集作業はこのままJRiverやiTunesを使うとしても、せめてリードオンリーの観覧再生だけはパソコン無しで行えるストリーマーを求めて久しく、最新のEversoloでもそれが達成できなかったのが残念です。
DELA N1Aとの比較
私自身、VolumioやZen StreamからDELA N1Aに乗り換えた際に、音質以前にDLNA再生のレスポンスの速さに驚きました。そして今回DMP-A8でもDELAと同じくらい高速で安定したDLNA体験が得られたので、まずは一安心です。
JRiverなどからDLNAレンダラーとして使った場合、VolumioやZen Streamでは再生を押してから音が流れるまで10秒くらい謎の待機時間があったり、たまにWindows上から消えたりなど、予測不能な挙動にしばしば悩まされていたのですが、DELAやEversoloでは再生を押せば瞬時に音楽が流れて、今のところ目立った接続トラブルもありません。
そんなわけで、さすが高価なストリーマーは違うなと関心しているものの、DELAはNASとして使いづらいため一軍から外そうと思っていたところでした。
具体的には、DELA N1Aの発売当初はユーザーが内蔵SATAドライブを入れ替えることができたのですが、その後ファームウェアアップデートでその機能が削除され、メーカーに送り返さないとドライブ交換ができないよう改変されたようです。
さらに、内蔵ドライブベイが二つあるのに、二つ目のHDDを追加してもフォーマット後にエラーが出る、つまり最初から2×HDDモデルを買わないといけないようです。I/Fバスが物理的に実装されていないわけではなく、左右のどちらも使えるのに両方だと弾かれます。
パソコン用のNASを使い慣れている人なら、このような話は信じがたいかもしれませんが、たぶんITリテラシーが低い人向けの製品形態にしているのでしょう。
私の場合、譲り受けたDELAのHDDが相当古くなっているので、フォーマットして使い続けるよりもSSDに換装しようと思い、想定外に苦労しました。ちなみに基板バージョンが新しいと、そもそもファームロールバックできないそうです。
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DELAのディスク交換した時の写真 |
「メーカーが選定したドライブを使うべき」という主張も一理あると思いますが、エンタープライズ用SASドライブとか、なにかオーディオ風の銅テープや量子力学ハーモナイザーステッカーとかが貼ってあるわけでもなく、付属品は普通のWD Blueでした。
消耗品であるドライブの交換や冗長性構築を制限するのはNASとしての本質を逸脱していますので、私の用途には合わない製品だと思いました。
もう一点DELAで厄介に思ったのが、専用アプリの不在です。中身は基本的に汎用NASにTwonkyMedia Serverをプリインストールしたものなので、ファイル再生には汎用OpenHome/DLNAアプリ(I-O DataのFidataなど)を使うことになり、製品設定はウェブブラウザーからIPアドレスで設定画面に行く、古典的なNASやルーターと同じ手法です。
もちろんそれでも問題なく使えるのですが、高価な製品にしては、育児放棄というか、所有感を満たすユーザーエクスペリエンスの肝心な部分が欠落している印象を受けますし、最新モデルを見ても根本的な変化は見られません。
たぶんデビュー当時は多くのユーザーがCDプレーヤーから移行して、生涯初めてのネットワークオーディオとして満足できていたのだと思いますが、コアシステム部分に大きな進展が見られず、最新バージョンでは100万円超になってきているので恐ろしいです。
スマホアプリ
Eversoloの方は専用スマホアプリがだいぶ作り込まれており、かなり満足できています。今回のスクリーンショットはスマホ画面ですが、iPadなど大画面ならなお良いです。
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デバイス検出 |
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ホーム画面 |
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ローカルブラウザー |
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トランスポート |
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Settings |
アプリ起動時に同じサブネット上のDMP-A8を自動検出して、それを選択すると本体画面と同じようなホーム画面に飛びます。
アルバムブラウザーやトランスポートも本体画面と同じ感覚で操作できますし、アルバムジャケット表示もローカルM.2ドライブからであればラグがありません。本体がAndroid OSなのでアプリ開発や連動が容易なのでしょう。
本体の各種設定もアプリ側でできるのには驚きました。こういった細かい部分がなおざりになっているメーカーが多いのですが、Eversoloは本体でできることはすべてアプリ上でできそうです。しかも設定を変更しても再起動が不要なのも、スマホなら当然の事かもしれませんが、VolumioやDELAから移行すると新鮮に感じます。
USB・S/PDIFトランスポートとして
そもそも私が数年前にストリーマーを導入した当初の理由が、USB DACの音質がPCやUSBケーブルに影響されやすいと感じたので、PCデスクからオーディオラックまで長尺USBケーブルでつなぐよりも、一旦ストリーマーを挟み1m以下の短いUSBケーブルでDACに繋いだ方が利便性と音質の両方でメリットがあると思ったからです。
とりわけ古めなUSB DACは入力のアイソレーションが未熟な製品が多く、当時のPCのHDDやビデオカード負荷が高まるとDACの音にプチプチとノイズが入ったり、ノートPCに充電器を挿すとチリチリノイズが聴こえるといったトラブルが多かったです。
ストリーマーというのは、高効率SoC、クリーン電源、高負荷GPUの排除、回転系の排除といった低ノイズのオーディオ用PCと捉えることができます。
逆に考えると、ストリーマーが多機能になりすぎて、USBやS/PDIF出力品質が普通のパソコンと変わらないのなら、音質向上メリットは期待できず、あくまで機能性や操作性だけで選ぶことになります。
Eversoloの場合、上位モデルDMP-A10ではUSB出力端子のアイソレーションを向上させていると書いてありますが、今回のDMP-A8に関しては、そのあたりに配慮しているのか不明です。
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TIE |
S/PDIFは埋込クロック同期なので、信号ジッターの性質が重要になります。オシロの75Ω受けで身近にある同軸S/PDIFソースと比較してみました。上のグラフは主要なサンプルレートでのTIE(タイムインターバルエラー)で、低い方が良いです。
比較したAは業務用のS/PDIF変換器、Bは安いASUS Xonarサウンドカード、CはHiBy RS6 DAPです。これらの中で、DMP-A8は44.1と48kのどちらの系統も最高レートまで安定しているのは良いですが、Aと比べるとそこまでパッとしません。
96kHz/24bitのデータのみ、もうちょっと細かく確認してみると、DMP-A8はPJ(BUJ)とDDJがどちらも高いのでトータルジッターがかなり大きいです。CのHiBy RS6 DAPはバッテリー駆動ということもあってかDCD(上がりと下がりの差)が大きいです。
ジッターについてもっと詳しく知りたい人はこういう資料を参考にしてください。
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DMP-A8 |
もちろん優れたDACであればPLLリカバリー処理もしっかり行ってくれるので、デジタル信号品質が音質に直結するわけではありませんし、少なくとも昔のCDプレーヤーのS/PDIF出力みたいにフラフラ揺れ動くこともなく問題なく使えます。
DMP-A8ではなくスマホからDACに繋げた場合 |
USB接続の方はデータバス自体はDAC側で非同期でバッファーされますから、そちらのジッターとかよりも、むしろバスパワーとグラウンド線に乗るノイズが意外と悪影響になりがちです。
この手の高周波スパイクノイズはUSBケーブルの容量によっても伝達が変わるので、意外と古いUSB 2.0の長いケーブルの方がフィルター的なメリットがあったり、逆に高級っぽいUSBケーブルはノイズが素通りしたり、USBケーブルは奥が深いです。電源線とデータ線を分離するのが鉄則なのに、カッコいいからという理由で編み込みにしているタイプはクロストークの観点からは最悪です。
もちろんUSB DAC側のフィルターがしっかりしていれば悪影響は低減できますが、ドングルDACのようなバスパワー機器や古いUSB DACは電源ノイズがアナログ回路の方に飛び移ってしまいがちです。
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Vbusノイズ比較 |
こうやって見ると、EversoloとDELAのどちらもノイズが比較的低いことがわかるので一安心です。ちなみにどちらもDAC用と書いてある端子とそれ以外のUSB端子で大差ありませんでした(あくまでVbusノイズのみ見た場合)。
せっかくなので他のも見てみると、ポータブルDAPがかなり悪いのは意外に思うかもしれません。よく「バッテリー駆動の方が音が良い」なんて話がありますが、大昔の鉛電池とアナログ回路とかなら一理あるとしても、最近のリチウムポリマー電池は電流制御ICを通しているため、レギュレーションは最低限で、近隣回路から膨大なスイッチングノイズが混入します。
Anker・Apple 2A・Macbook Pro |
似たような話で、アップルの2A充電器は音が良いとされており、確かにRMSノイズはそこそこ低いのですが、スパイクノイズが頻発するのが上のスコープ波形を見てもわかります。
自宅録音するミュージシャンはMacbook Proを使った方が音が良いと昔から言われていますが、こちらは実際にノイズが低く作られています。安価なUSBオーディオインターフェースはノイズ対策も最小限なものが多く、格安ノートパソコンだとマイクプリのノイズ増すことがあります。アップル以外のメーカーでも、高価なパソコンはこのあたりの対策にコストをかけているので、CPUとかのスペックだけ見てコスパを追求すると意外な盲点になります。
どちらにせよ、USBケーブルとUSB DACが優れていればノイズはしっかりフィルターしてくれるはずなので、USB出力の品質はS/PDIFと比べるとそこまで大きな影響は無いと思いたいです。(実際に音を聴くと、なんだか違うように感じるのが面白いのですが)。
むしろ、本当に優秀なUSB DACであれば上流ノイズはしっかり対策できているはずなので、高級ケーブルとかフィルターアクセサリーなどを推奨するメーカーは、自社の機器がしっかり作られていないと公言しているようなものです。
音質とか
個人的にトランスポートとしてUSB DACに接続する方に興味があるのですが、DMP-A8が高価な理由として高品質なD/A変換のライン出力を備えているので、そちらを試聴してみようと思います。
デジタルトランスポートとしてはケーブルや送り先のDACに大きく依存するため、「DMP-A8に変えたら音質が劇的に良くなった」なんて言ってもあまり参考にならないと思います。
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ヘッドホンアンプ |
このブログはヘッドホン中心なので、今回の試聴もヘッドホンアンプに接続してみました。
ちなみに今回DMP-A8を貸してくれた人はマッキンC12000+MC901から801D4という王道な上級システムを鳴らしており、そちらも聴いてみたところ、セッティングの追い込みを含めて変数が多すぎるので参考にならず、結局私の聴き慣れたViolectric V281からFostex TH909ヘッドホンシステムをメインに活用しました。
Amazon |
個人的に好きな作曲家なので新譜が出るたびに買っており、ブラジル民族音楽風や近代作曲家風など幅広い解釈をされがちな中で、今作はクラシックでアカデミックな丁寧な演奏です。聴くだけならなんとでも言えるので、この際言いますが、ピアノと比べるとギターのアルバムは演奏技術がイマイチなインディーアーティストが結構多く(宅録が容易というのもあると思いますが)、その点Halászはさすが長年BISレーベルの看板だけあって完全無欠の素晴らしい演奏です。
まずDMP-A8の第一印象から、最初の数秒を聴いた時点で「ああ、いつものやつだ」という親近感が湧きました。だいぶ聴き慣れたタイプのサウンドです。
全体的に雑味や粗っぽさが無く、サラッとした絹のような質感で、S/Nがとても高く、クリーンで丁寧な印象です。ギターのアタックや指が擦れる音などの最高音も上手に管理されており、硬さや刺激を感じさせず、息詰まりやもどかしさもありません。過度な自己主張をせず、音色と空気感がブレンドするような、かなり上質な仕上がりだと思います。
ジャズやクラシックのように生楽器のリアリズムや空間情景を大迫力で堪能するというよりは、たとえばメインボーカルが電子音に包まれているような非現実の楽曲の方が相性が良いと思います。低ノイズのおかげでスムーズな細やかさがあり、風景に馴染んでくれるため、本を読みながらリラックスした音楽鑑賞とか、食事中のBGMなどの良い雰囲気を作り出すのに向いています。個人的にはもうちょっと突き抜けた個性や持ち味が欲しいところです。
RCAとXLRライン出力に関しては、私のシステムではRCAの方が聴きやすいと思いました。XLRだと混雑して不明瞭になる感じがあります。両方入力があるアンプなら交互に切り替えて比較するのは容易です。どちらが良いかはアンプにもよりますが、たとえば私が普段使っているdCS Debussy DACの場合はRCAとXLRのどちらで出してもそこまで音の印象が変わらないのに対して、DMP-A8は結構変わります。
冒頭で言った親近感というか、既視感と言った方がいいかもしれまんが、DMP-A8のサウンドは、最近流行っているToppingやSMSLなど中華系ハイスペック据え置きDACのサウンドと似た傾向の延長線上にあると感じます。中身が同じという話ではなく、基板設計やコンポーネント選択にて共通する部分が多いのでしょう。それらベーシックな卓上DACをすでに使っていて、もうちょっと多機能でしっかりしたDACにアップグレードしたいのであれば、音質的にすんなりと移行できると思います。DMP-A8はソースや環境に左右されにくく、極めて安定した高S/Nサウンドが実感できるので、オーディオ回路はもちろんのこと、シャーシや電源周りも余裕を持って作られている事が伝わってきます。
サウンドの既視感、あえて「音作り」という単語を使わなかった理由でもあるのですが、これらメーカーの共通点として、THD+Nやリニアリティなど、測定スペックを重要視して作り込んでいる傾向が感じられます。
最近の電子回路、特にアンプではなくラインレベル機器は、歪みやノイズが測定機器で観測できる限界に迫っており、実際に聴感上メリットがあるのか議論されがちです。それでも測定上0.01%でも突き詰めていくことで、最終的に高音質につながるというアプローチは納得できますが、ひとまずハイスペックを実現した上で、そこから測定値をある程度妥協してでも、メーカーの狙ったサウンドに仕上げていくというのが音作りの面白さでもあります。予算内で狙った方向に持っていくのが一番難しく、膨大な経験と試行錯誤が求められます。
極端な例として真空管を通すとかNOS演算にするなど個性的な歪みを加えることで独自路線を極めるメーカーもありますが、そうではなく、測定スペックとリスニング評価の双方を妥協しながら高め合っていくようなオーディオ設計が理想的です。
老舗ハイエンドメーカーは「電流バッファー回路の吟味のために試作と試聴を繰り返し三年費やす」みたいな話をよく聞くので、ハイテク製品開発の真逆にあります。たとえば最新の超高性能ICチップが出たとして、それを真っ先に実装して業界最先端のノイズの低さを披露するのか、それとも周辺回路もアレンジした試作品を五種類組んで、ショップや評論家の意見を求めて五年後に総合的に判断するか、といったアプローチの違いです。同じICを積んでいるのに、後者が百万円になってしまう理由もわかると思います。
どちらのアプローチが音が良いのかという話ではなく、測定スペックのセオリーを押し出すメーカーはどうしても「最近よく聴くタイプのサウンド」に収束してしまうようで、それが私がDMP-A8で感じた既視感の理由というわけです。
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ピアニストChestnut久々の新譜で、オーソドックスなトリオにStacy Dillardのサックスを加えたカルテットです。Chestnutのピアノは難解な速弾きとかではなく、厚いブロックコードやアクセントで歌心のあるムードを組み上げていくタイプで、爽快感のあるアルバムに仕上がっています。
私が普段使っているDACと比べると、DMP-A8はクオリティとしては十分健闘しているものの、もうちょっと先鋭化してほしいという意味を考えてみます。ちなみにヘッドホンアンプViolectric V281はこれらの違いがかなり明確に現れるため長年愛用しています。もっと味付けの濃いアンプを使っているなら、DACの音質差は塗りつぶされてしまいます。
まず、DMP-A8と同価格帯で長年愛用しているChord Qutest DACは、誰が聴いてもわかるくらいの違いがあります。Qutestは生楽器の実在感を出すのが得意で、雑味が無くスッキリとして、各バンドメンバーのイメージが綺麗にくっきりと浮かび上がり、一つの楽器に集中して演奏のニュアンスを感じ取ったり、採譜するのがだいぶやりやすくなります。
音場空間の広がりはDMP-A8と同程度ですが、ピアノやベースに注目してみると、Qutestでは楽器がリアルに浮き上がるところ、DMP-A8は背景との境界線がギリギリのところでフォーカスが甘いです。なんというか、疲れていて力が入らない、瓶の蓋が開かないもどかしさがあり、楽曲に集中して聴き込むには物足りないです。
たとえば三曲目のソプラノサックスのソロでは、Qutestの方が観客席の距離から生楽器を聴いた時の艷やかな発音やサイズが再現できており、背後に拡散する残響音との描き分けも上手いです。DMP-A8はサックスの高音部や低音部そして残響音などそれぞれのコンポーネントが音楽全体に溶け込んで分散しているような感じがあり、音楽の大きな流れの一部として存在しており、生楽器のソプラノサックスっぽさはそこまで再現されません。
逆にDMP-A8を聴き慣れた人がQutestに切り替えてみると、これまで聴こえていた情報の多くがカットされたような、そして音像だけが宙に浮いているような表現に違和感があると思います。
つづいてdCS Debussy DACはQutestとは正反対の性格です。音像の色艶や実在感は強調せず、DMP-A8と同じくらいフラットで安定した表現なのですが、前後左右の空間展開が広く拡張され、しかも音像の間がスカスカに空いたり、音像自体が膨れ上がったりするのではなく、いい感じにリアルな情景で空間を埋めてくれるのがdCSの強みです。
こちらもDMP-A8から切り替えると、それまでコンパクトに視界に収まっていた情報が四方八方に展開されてしまうため、掴みどころがなく翻弄されてしまいます。とくにBGM用途だとフワフワしすぎて退屈に感じるかもしれません。
ようするに、Qutestは音色の描き分けや引き立てが上手く、Debussyは情報量の多さを空間の広さで対応させています。DMP-A8はそれらの中間に位置するのですが、両方のメリットを兼ね備えているというよりは、描き分けや広さがどちらも普通なので、スムーズかつフォーカスが甘いサウンドだと感じるようです。
冒頭の既視感の話に戻すと、最近の中華系メーカーのDACを試聴すると、このDMP-A8のようなスタイルのサウンドがとても多いです。高スペックであることは確かなので、これが原音忠実ということでレファレンスとして一台持っておくのも良いかもしれません。
私の場合はもうちょっと音楽や楽器の魅力を引き出したくてQutestとDebussyを好んで使い分けています。スピーカーを鳴らす場合でも、重く鈍い場合はQutestの方が艶と新鮮さを足してくれますし、指向性が強くシビアな場合はDebussyの方がスケール感を出してくれます。もっとハイエンドなDACなら双方の良さの両立も可能かもしれませんし、両極端を交互にグレードアップしていくのか、バランスのとれたモデルを追求していくのか、そのあたりもオーディオの面白さです。
肝心なのは、内部のチップ銘柄や測定スペックだけ見ても、私がQutestやDebussyを好んで使っている理由は伝わりませんし、ランキングやスコアをつける事もできません。両極端ということは好き嫌いも分かれるので、Eversoloのように幅広いターゲットを想定しているメーカーがそこまで先鋭化するのはマイナスになる可能性もあります。
現在Eversoloなど中華系メーカーの多くはネットレビューやソーシャルメディアを中心にマーケティングしているわけですが、ある程度高価格帯になると、この手法は逆に首を絞める印象もあります。
つまり、DMP-A6の時点ですでに高スペックなのに、さらに上級モデルとして測定が大差ない、もしくは劣っていたりしたら、音が悪いと信じて買わない人も出てくるとなると、どうしても設計自体が凡庸になってしまいがちです。ある程度スペックを超えたオーディオの世界になると、やはり実店舗の試聴デモや、ただ聴くだけの雑誌評論家とかの方が、(その人と同じものを気に入るかは別として)、自分の目指しているサウンドにたどり着く手助けになってくれます。そして今回DMP-A8を聴いていて、そのレベルに足を踏み入れる一歩手前の製品だと感じました。
おわりに
今回Eversolo DMP-A8を長期間使ってみて、時代の進歩を痛感しました。ストリーミングアプリやM.2 NVMeドライブなど、近頃スマホやパソコンでは当たり前になって久しい技術が、ようやく据え置きオーディオ機器にも到来したようです。
正直ここまで多機能だと、CDやLPレコードに愛着がある古風なオーディオマニアでは混乱してしまいそうです。その点ではスマホアプリやAndroid DAPを使い慣れたポータブルオーディオユーザーの方がすんなり移行できそうです。
とりわけローカルファイルとストリーミングサービスの体験をできるだけ近づけて、シームレスに切り替えられる配慮を強く感じました。つまり自前のライブラリーはそのまま使い続けながら、ストリーミングサービスに移行する橋渡しになってくれそうです。
たとえば手持ちのベストアルバムを数枚ローテーションで繰り返し聴いているような人は、この機会にストリーミングサービスを併用して新しいアーティストやジャンルを開拓するきっかけになってくれたら嬉しいです。
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最終的にこうなりました |
そんなわけで、個人的にDMP-A8を買うべきかどうか考えてみたわけですが、私の利用環境だと、一番ベーシックなDMP-A6 Gen2で必要十分のようなので、そちらを検討してみたいと思います。
DMP-A8の豊富な入出力は、最初はあれこれ接続して遊びましたが、一週間ほど使っていて、最終的には上の写真のように、LANケーブルとUSB DAC接続だけしか使っていないことに気がつきました。つまりDMP-A6 Gen 2でも同じことができます。
内蔵DACは価格相応に優秀だと思います。ただし、すでに自分が気に入っている音のDACを愛用しているのなら、それを使い続けるに越したことはありません。今回20年前のApogee Rosetta 200でもすごく良い音で鳴ってくれたので、DACというのは音の作り込みが大事で、意外とみんなが思うほど最新チップで音質が飛躍的に進化するというわけでもなさそうです。
考えうるシナリオとしては、たとえばヘッドホン趣味からSMSLやFiioなどのベーシックなDACを使っていて、もうちょっとしっかりした上級システムにアップグレードしたいと検討しているのなら、DMP-A8はコストパフォーマンスの面でも優秀な選択肢だと思います。
それではDMP-A6 Gen2を今すぐ導入するかとなると、なにかきっかけがあれば買うかもしれませんが、今回DMP-A8を実際に使ってみたところ、内蔵ドライブに直近の新譜アルバムを転送するか、JRiverからDLNA経由で再生するというハイブリッドな使い方になり、つまり、これまでのDELA N1Aと全く同じ使い方に落ち着いてしまい、自分の音楽体験に革命的な変化はありませんでした。単純にタッチスクリーンOSが綺麗で使いやすいというだけです。
なにか最後の決め手になるセールスポイントはと考えてみたところ、私の場合、DELAから買い替えるなら、もうちょっとネットワークトランスポートに特化した商品を求めたくなります。たとえば最上級のDMP-A10に採用されているSFP+やUSBアイソレーションなんかは魅力的ですが、そのためだけに82万円のDMP-A10を買うわけにもいきません。値段の大部分はDACやアナログ回路に注力しているだろうと思います。
それならDACは排除してトランスポート性能に特化したモデルがあれば、もっと安くなるのではとも期待するのですが、残念ながらメーカー製品開発というのはそう簡単にいかないのも重々承知しています。
DMP-A6があれだけ安く販売できるのは、主力モデルとして大量生産することで多売薄利を実現できるからならので、もしDAC非搭載のトランスポートモデルを作ったとしても、需要はだいぶニッチなので、開発製造コストを回収するために値段はだいぶ上がってしまいます。
つまり逆説的に思えるかもしれませんが「機能を削ってもっと安くしろ」といっても難しく、多機能だからこそ市場需要のスケールメリットで大量生産で安くできるというわけです。
バブル期に日本のメーカーから10~20万円でハイスペックなモデルが続々出ていたのも、その市場需要があったからで、今はそれが無くなったことで、100万円クラスを細々と作る方向にシフトしています。
その点ではDMP-A6がそこに当てはまる現代のスイートスポットで、そこからDMP-A8、DMP-A10と上位モデルへと先鋭化するにつれ製造台数も減り、価格も飛躍的に上昇します。
そうなると、もはや機能や性能で比較できるものではなく、それこそ自宅やオーディオショップでじっくり比較試聴して決めるスタイルになります。
そんなわけで、Eversolo DMP-A8はオーディオとITガジェットの交差点として、自分のオーディオシステム構成や今後の方向性について、あらためて色々と考えさせられる製品でした。
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Eversolo DMP-A8 |
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Eversolo DMP-A6 Gen2 |
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Eversolo DMP-A6 Master Edition Gen 2 |
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Zidoo Z9X PRO |
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Audioquest Cinnamon 0.75m |
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CANARE BCJ-RCAP |
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CANARE BCP-RCAJ |