2026年5月13日水曜日

Fiio K17 ヘッドホンアンプのレビュー

Fiio K17 DACヘッドホンアンプについて感想を書いておきます。発売からちょっと時間が経っていますが、そういえばブログで取り上げていませんでした。

Fiio K17

2025年発売で価格は約16万円、コンセント電源の据え置きDACヘッドホンアンプです。豊富な入出力と多機能インターフェースで、パソコンの傍らに置くデスクトップ機器として最適です。

Fiio K17

K17は2025年のベストセラーとして注目されていたので、ご存知の人も多いと思いますし、すでに多くのレビューが存在しています。

私は購入後ずっと自宅のメインシステムではなく仕事机の雑用に使っていたので、なんとなく真面目に評価するタイミングを逃してしまいました。他にもレビューしわすれていた製品がいくつかあり、まだ現役なうちに感想を書き留めておこうと思った中の一つです。

K17のレビューをしなかった理由はもう一つあって、中華系メーカーによくあるパターンですが、発売当時はインターフェースの挙動が不安定だったので、その状態で評価すべきか迷っていました。

何度かファームウェアアップデートを経てようやく落ち着いてきたというか、今後これ以上大きく変化することは無いだろうというところに収まってきたので、現時点(2026年5月)での感想を書き留めることにしたわけです。それでもインターフェースに関しては細かい不満も多いので、そのあたりも今回指摘したいです。

気合の入ったデザイン

そんなわけでFiio K17ですが、デザインは個人的にかなりカッコいいと思っています。私が買ったのは黒ですが、銀色も選べて、どちらも無駄なラグジュアリー装飾が無くプロっぽいスタイリングに仕上がっています。

シャーシ全体がアルミ削り出しなら銀色も良いのですが、K17は天板が鉄板なので、銀塗装はちょっと安っぽく見えると思って黒を選びました。

液晶画面やノブ、スイッチ類、そして出力端子がフロントパネルに格子状に切り分けられた四角いスペースに整然と配列されているので、堂々とした力強い印象を受けます。

とくに画面はタッチスクリーンなのに過度に主張しないのも良いですね。電源スイッチも堅牢で「カチッ」と確かな感触があり、インターフェース起動も十秒以内に完了します。

この中に入ってそうなデザインです

そのサイズ感やラック組み込み風のデザインから、オーディオというよりも、なんとなく1990年代のアマチュア無線機器とかを彷彿とさせるレトロかつ精悍なデザインです。

電源スイッチや起動時の待ち時間など、毎日必ず触れる部分の配慮が行き届いていると機器全体のイメージが良くなります。K17はそういった体験の満足感が高い製品だと思います。

縦置きもできるK19

同世代の上位にはFiio K19というモデルがあり、そちらは25万円とだいぶ値段が上がります。単純な上位機種というよりは、開発チームが違うと思えるくらい別路線の製品なので、好みが分かれそうです。

私の勝手な解釈としては、K17は前作K9と同じ方向性で、音楽メインの据え置きDACアンプとして作業用デスクに置くイメージです。シンプルなK9と比べてK17では液晶画面やネットワーク対応など機能が増えましたが、根本的にはパソコンで音楽を楽しむための製品だと思います。

一方K19の方はQ7やQ15と同じ画面インターフェースやサイバーなデザインなど、どちらかというとゲーミングやハイテクガジェット系を意識した印象を受けます。D/Aチップが異なり、K17は旭化成AK4499EX、K19はESS ES9039S PROを採用しており、わかりやすい差別化として、K17は有線LAN端子、K19はHDMI入力端子を搭載しているあたりも含めて、K19はゲームや映画鑑賞に向いているようです。

K17とそっくりのK15

さらにK17と同じシャーシデザインでK15という廉価版も登場しています。D/A回路や電源を簡略化して、機能面はほぼ同じで10万円以下に抑えられています。大人気だった前作K9と同じ価格帯での後継機として用意された印象を受けます。

デザイン

あらためてK17の機能を見ておきます。245 × 213 × 67mmというサイズはK9とほとんど同じで、デスクトップで使うには奥行きが若干長いかなという感じです。

重量もK9とほぼ同じ2.75kgと、大きなトランス電源を内蔵しているだけあって、ACアダプター式の機器と比べると重いです。実は上位モデルK19の方が37mmで1.8kgとだいぶ薄く軽いです。

K17 & SPL Phonitor

K17はデスクトップとしては大きいと言っても、たとえば私がオーディオラックに入れているSPL Phonitor Xヘッドホンアンプと比べてみると、だいぶコンパクトなのがわかります。

公式写真で見ただけだと同じようなスタイルに思えても、とくに奥行きはだいぶ差があるので要注意です。デスクの都合でK17よりもさらに奥行きが短いDACアンプが必要なら、RME ADI-2など外部ACアダプター式のものを選ぶのが妥当です。

フロントパネル

電源スイッチの隣にヘッドホン・ライン出力を切り替えるスイッチ、そしてヘッドホンアンプのゲインを五段階で切り替えるスイッチがあります。どちらもカチカチと確実な感触があって快適です。

右上にはMENU(入力切り替え)とVOLUMEノブがあり、どちらもクリック感のあるロータリーエンコーダーです。ちょっとグラグラしており、特にボリュームノブは高速で回すと数値がジャンプすることもあるので、頻繁に振れる部分だからこそ、もうちょっと高品質に仕上げてもらいたかったです。

全体的な設計思想として、それぞれのノブに単一機能を割り当ててあり、この手の製品にありがちな長押しメニューや隠しコマンドなどを排除する意図が感じられます。とくにMENUノブに自由に機能を割り当てられないのはちょっともったいない気もしますが、ガジェットオタクではない一般ユーザーに使ってもらうには、この方が単純明快で助かります。

フロントパネルのUSB C端子は背面のUSB INと同じで、パソコンやスマホを接続してK17をUSB DACとして使うためのものです。背面のはパソコンと常時接続しておいて、必要な時だけ前面にスマホやDAPを接続する利便性のためでしょうか。両方接続すると背面のが切断されて前面が優先されます。

リアパネル

リアパネルは入出力がかなり充実しており、色々と使い道が思い浮かびますが、細かい注意点としては、スペースの都合上バランスライン入力がXLRではなく4.4mmを採用しているのと、USB IN端子は据え置きDACで一般的なUSB BではなくUSB Cです。

USB A端子の方はUSBドライブを接続してファイル再生に使います。USB Cの方にドライブを接続してもデバイスとして認識されません。

あとは12Vトリガーやグラウンド端子、グランドリフトスイッチなど、システムに組み込む際の配慮も伺えるのはありがたいです。Bluetoothと無線LANのアンテナが左右に隠されているのもスッキリしていて良いです。

リモコン

上面

底面

リモコンも付属しているので、DACプリとしてアクティブスピーカーを鳴らすような場面で重宝しそうです。

本体の物理スイッチはリモコンからは操作できませんが、ヘッドホン関連なので遠方からは使わない機能ですし、電源スイッチは本体側でオンになっていてもリモコンでスタンバイ状態にできるあたりも上手く考えられています。

上面のグリルにゴミ落下防止のメッシュが貼られているのも良い配慮です。底面をみると大きなトランスを固定するネジがあります。トランス電源なので、電源接続前に底面スイッチでコンセント電圧の設定が必要です。とくに中国は220Vなので中古や並行輸入品は要確認です。

電源

デジタル基板

中身は上下二階建てで、かなり詰め込まれています。大きな電源トランスと高そうなニチコン電解コンが目立ちます。

上側の基板はXMOSなどデジタル信号処理とインターフェース系が集中しています。エンコーダーノブへ最短距離のフレックス配線や、背面シャーシへの接地バネなど、かなり手慣れたハイテク設計が伺えます。フラックス洗浄が不十分で汚いのが気になりますが、この値段でここまで詰め込まれているので文句は言えません。

オーディオ回路

肝心のオーディオ回路は下側の基板にまとまっており、D/Aチップ、オペアンプから出力段のトランジスターまで整然と配列しています。

全体的に見て、シャーシデザインはもちろんのこと、内部の電源や基板の構成からコンポーネント選択に至るまで、約16万円でここまで詰め込んでいるのは驚異的なコストパフォーマンスです。

もちろん物量投入だけで音質は計り知れませんが、熟達したレイアウトと製造技術が伺えますし、原価コスパを気にする人でも、ここまでやられたら文句も出ないだろうと思います。

なんというか、1980年代オーディオブームの頃に、日本のメーカー勢が中身勝負で競い合っていた価格帯で、現在は中華系メーカーが同じような思考で頑張っているのを見ると嬉しくなります。

K17のオーディオ回路スペックは、D/Aチップに旭化成AK4191EX + AK4499EQを二枚搭載、I/VとローパスにOPA1612、ボリュームはNJW1195Aデジタル制御アナログボリュームICといった王道構成です。

ヘッドホンアンプは上の写真でヒートシンクに整然と並んでいるTO-225サイズのバイポーラトランジスタのディスクリート構成です。OnSemi MJE243G/253Gペアは100V/4Aで15W流せるオーディオに最適なトランジスターなので、よくあるTPA6120などチップアンプICで済ませるよりも上を目指す意欲が伺えます。

SoCはIngenic X2000というパソコン並みの高性能なものを搭載しており、オーディオ演算用DSPも別途用意、USBはXMOS XU316、BluetoothはQualcomm QCC5125でSBC/AAC/aptX/aptX LL/aptX HD/atpX Adaptive/LDACと幅広く対応するなど、インターフェース部分も快適さを目指していることが伺えます。

正直、変に凝ったディスクリートDACとか真空管回路に迷走して予算をつぎ込むよりも、こういった実績のある鉄板ICを中心に組んだデザインの方が安心できますし、まさに現時点の集大成といった合理主義を感じさせてくれます。

ちなみに廉価版K15はD/AチップがAK4497Sになり、プリ回路もそれに合わせて再構成され、さらにトランスのリニア電源からスイッチング電源に変更することで価格を抑えています。

インターフェース

K17の液晶画面は視認性や発色も良く、表示デザインもシンプルに上手くまとめられていると思います。ストリーマーなどでよく見るAndroidスマホ画面を張り付けただけのような安直なスタイリングではなく、横長の窓は一見タッチスクリーンとは思えません。

ちなみにデフォルトのオレンジ色が印象的ですが、テーマ設定で黒と青などにも変更できます。設定に合わせてノブの発光も変化するので、さり気なくFiioのゲーミング系デザインが活かされています。

メイン画面

ボリューム操作

ファイル再生中

メインの画面は再生中の音源フォーマットやイコライザーのオンオフなど遠目でも判別できる簡潔な表示です。

ボリューム操作すると0~100の数値が大きく表示されますし、さらに後述するネットワークもしくはUSBファイル再生時にはジャケット絵とトランスポート画面も表示されるなど、どれも綺麗で直感的です。

入力切替

設定画面

テーマ変更

日本語表示

画面を右からスワイプで入力一覧、左からスワイプで各種設定メニューが呼び出せます。複雑なテキスト階層構造ではなくアイコンの一覧から一発で飛べるのは嬉しいです。画面の解像度が高いので日本語表示でもフォントが潰れず見やすいです。

ネットワーク接続は有線と無線LANが選べて、どちらも問題なく自宅のネットワークに接続することができました。USBもUAC 1.0と2.0が選べるのもゲーム機に接続したい場合に助かります。

Fiio Controlアプリ

基本的に本体タッチスクリーンで完結するように作られていますが、ネットワークに接続してあればスマホアプリFiio Controlからも各種設定を操作できるようになっています。

ただし出力とゲイン切り替えのみ本体の物理スイッチなのでアプリからは変更できません。

ファームウェア

ファームウェアもネットワーク経由で自動的に拾ってきてくれて、これを書いている時点ではV249が最新でした。

メインのファームウェアとは別にMCU、XMOS、Bluetoothチップも個別にアップデートする必要があり、これらはネットワーク経由ではなく、それぞれ公式の手順書通りに異なる方法で行います。今のところMCUのみV92へアップデートがありました。

VUメーター風画面

テーマ変更

部屋が暗いとなお良いです

K17といえばVUメーター風の画面が印象的で、特に暗闇だと窓っぽい横長の画面とうまくマッチしていて綺麗です。アニメーションも比較的スムーズで、遠目で見れば本物のメーターのようです。

メイン画面で下からスワイプすると表示されるのですが、リモコン操作では呼び出せません。それと、テーマ変更での青と黒の組み合わせもカッコいいですが、テーマを変更するたびにシステムが再起動するので面倒です。こういう遊びギミックこそ手軽にリモコンで表示したりスキンを切り替えたりできるようにしてもらいたかったです。

もうひとつ残念なところは、左が白針で右が赤針というのは本物のメーターを見たことがない人の余計な一手間といった感じで、現実味が損なわれているのが惜しいです。できれば実物の有名なスタジオVUメーターを参照して、フォントや針太さ、豆電球の証明といったリアルなディテールでバリエーションを用意してくれれば本格派オーディオマニアの興味を惹くと思いますし、せっかく高速SoCを積んでいるのだから、VUメーターだけでなく、他にもFFTスペアナ波形とか80年代風LEDスペアナなんてあったらなお嬉しかったです。

ちなみにK17は初期ファームウェアではVUメーターはファイル再生時のみ表示可能で、USB DACモードでは表示できないという致命的な問題がありました。発売当時の広告でVUメーターをセールスポイントとしてアピールしていたのに、これは残念という意見が初期レビューで散見されます。後日アップデートでUSB DACモードでも表示できるようになりました。

アナログ入力

公式サイトによると、背面アナログ入力はES9821Q A/Dコンバーターを通して一旦デジタル化しているようです。

つまり純粋なアナログアンプ主義者には向いていませんが、セールスポイントのDSPイコライザーをアナログ入力でも活用できるように一旦デジタル化しているのは納得できます。

アナログ入力

このES9821QというA/Dチップは768kHz 32bit処理で200kHz・THD+N -112dBを実現しているので、上のグラフでは実際に384KHzのホワイトノイズを入力してヘッドホン出力をオシロのFFTで見たところ、ナイキスト周波数までほぼフラットに出力されており、実用上デジタル化による影響を感知するのは難しいと思います。

シングルエンドで3Vrms、バランスで6Vrmsあたりの入力電圧でデジタル入力のフルスケールとほぼ一致します。それ以上入力すると高ゲインでの出力が潰れてくるので、これが上限の目安になりそうです。

電圧ゲインはシングルエンド入出力でゲインスイッチ順に‐14.7 / -8.7 / -5.7 / +6.1 / +9.2dBといった具合に、HighからSuper Highに切り替わる段階で一気にゲインが跳ね上がるので注意が必要です。

ネットワークストリーミング

K17はDLNAに非対応という点だけ要注意です。ネットワーク端子があるならてっきりDLNAが使えると勘違いして買ってしまう心配があります。

実は私もDLNA接続ができず不思議に思って説明書を見てから非対応だと気がついた一人です。かなり珍しい判断なので意外です。Fiio S15ストリーマーとの差別化でしょうか。

AirPlayで検出されます

RoonとAirPlayのみ対応しているそうで、無線か有線で自宅のルーターに接続してパソコンのiTunesを開いてみると再生先として表示されます。

AirPlayは手軽で便利ですが、対応プレーヤーやビットパーフェクト再生に難がありますし、Roonは逆にライセンス料金が高すぎるので私は使っていません。

Roonのライブラリー管理やアーティストの関連情報などの付加価値にメリットを感じる人には良いと思うのですが、私みたいにJRiverなどからネットワークDACへビットパーフェクトで送りたいだけの人には無用の長物です。個人的にK17には概ね満足していますが、もし今後MK2とかでDLNA対応になったらだいぶショックを受けそうです。

ファイル再生

背面のUSB A端子にUSBドライブを接続すると、その中の音楽ファイルを再生できます。FiioといえばDAPの大手メーカーなので、この機能に私もそこそこ期待していたのですが、実際に使ってみると極めて限定的なので残念でした。

K9には無かった新機能ということで、これを目当てに購入を考えている人も多いと思いますが、要注意です。

ちなみにUSBドライブを挿せるのは背面のUSB A端子のみです。(フロントパネルのUSB C端子はパソコンやスマホなどホストデバイス接続用のみです)。USBドライブを挿すと、その旨が表示され、設定メニューでファイルスキャンが行えます。

USBファイル再生

さすが最新の高速SoCチップを搭載しているだけあって、スキャンや選曲は高級DAP並にサクサク進みますし、一旦再生が始まれば不具合もありません。

しかし、やはりFiioらしいのは、問題はハードウェアではなくソフトウェアの作り込みの甘さにあります。かろうじて使えるレベルで終わっており、開発者自身もきっと使わないから本腰を入れていない機能なのだろうと容易に想像できます。

タブレットサイズのアプリがありません

タグのジャンルやアートワークは認識せず

トラック順ではなくアルファベット順に再生されてしまいます

ファイル名を工夫して再生することになりました

選曲と再生は本体画面からもできますが、ネットワーク接続しているならスマホアプリ「FiiO Control」からも操作できるため、てっきりEversoloなどのような据え置きNAS-DAPとして使えると期待していたものの、現実はそう上手くいきません。

上のスクリーンショットを見てわかるように、まず据え置き機なのにタブレット用アプリが用意されておらず、拡大表示してもフォントが巨大になるだけで、一画面に表示される情報量が非常に少ないです。

メタデータ(タグ)周りの作り込みが甘く、たとえば音楽ジャンルが認識されないとか、アートワークが一覧表示されないなど色々ありますが、一番困ったのが、アルバムを選択するとタグの曲順ではなく曲名アルファベット順で再生されてしまいます。結局ファイル名の先頭にトラック番号を付けるという原始的な方法に頼ることになりました。

大容量USB SSDドライブに自分の音楽ライブラリーを全部入れてDAPのようにK17を活用したいと考えている人は、実際使ってみると落胆すると思います。K17のハードウェア部分は高速で快適に動作しているのに、中身のUIアプリ開発が粗末すぎて、せっかくの高速SoCが無駄になっているのは惜しいので、DAPメーカーとしてのFiioのプライドを見せてもらいたいです。

イコライザー

K17の目玉機能として、柔軟にカスタマイズできるパラメトリックイコライザーというのがあり、そのDSP演算のために高速プロセッサーを搭載しているということです。

実際に使ってみると結構ややこしいので、この機能を目当てに購入するなら事前確認は必須です。

まず、フロントパネルのタッチスクリーンでは、ポップやロックなどのプリセットと、事前に保存したカスタム1~10を選択できるのみで、イコライザーカーブの調整はできません。

Fiio ControlアプリのPEQ

手動調整も可能です

Fiio独自のAuto EQ

ネットワーク接続した状態だと先程のFiiO Controlスマホアプリで調整できます。

手動でパラメトリックEQのゲインやセンター周波数などを調整して、本体のプリセットに保存することも可能ですが、Fiioアプリの面白いセールスポイントとして、多くのヘッドホンの周波数測定データと、ハーマンなどの補正ターゲットデータが登録されており、それらを読み込んで適用することができるオートEQというのがあります。

ヘッドホンと補正カーブ一覧が登録されており

組み合わせで自動補正EQが適応されます

たとえば上の例のようにGrado SR325XをDF補正にとか、オーテクATH-ESW9をハーマン補正に近づけるといった感じにリストから選んで使います。ヘッドホンのリストは主に古いモデルを中心に、そこそこ豊富な種類が用意されています。

こういうのができるソフトは他にも色々ありますが、メーカー製アプリに組み込んであるのは面白い試みだと思います。このオートEQで作ったデータを自己流で微調整もできますし、K17のカスタムパッチに保存することで、以降はK17単体で呼び出せます。

オーディオに詳しい人なら、そもそも聴感上フラットな補正という定義が曖昧なので、熱心にイコライザー調整を追求するのも無駄なように思うかもしれませんが、たとえば今使っているヘッドホンの鳴り方に満足していないなら、無駄に買い足すよりもイコライザーで補正するなら無料で済むという考え方もあります。

私の場合はCOM 10にアサインされました

ここまではスマホアプリでの話でしたが、パソコン上でイコライザーを操作したいとなると、ちょっと厄介です。

USBもしくはネットワーク経由で調整できたら便利なのですが、K17の場合はシリアル通信で行うというずいぶん古臭い方式です。

本体背面にオーディオDAC用とは別に「RS232」と書いてあるUSB C端子があり、これをパソコンに接続すると仮想シリアルデバイスとして表示され(デバイスマネージャー上でCOMポート番号が確認できます)、それと通信するという仕組みです。近頃シリアル通信を使うなんてArduinoくらいしかないので、懐かしい気分です。さすがに通信レートやパリティ指定とかはデフォルトで通るので詰まることはなさそうです。

ここからがちょっと分かりづらいのですが、接続方法は二通りあります。

Fiio K19 DSPプログラム

まず公式で「Fiio K19 DSP」というWindows用プログラムがあり、これがK17にも対応しているので、それを開いてCOMポート番号を指定すればK17を検知してEQが活用できるようです。

ただし、ご覧のとおり高解像画面用のスケーリングも無い古臭いプログラムなので、あまり積極的に使いたくはありませんし、開発もV1.0.0で放置されている様子です。

パソコンのWebブラウザ上のFiio Control

もうひとつ、ブラウザ上でfiiocontrol.fiio.com/というサイトに行き、そこでUSBではなくシリアル接続を選択して通信許可すると、COMポート一覧が表示され、ブラウザ上でFiio Controlが使えるようになります。

こちらもブラウザ上とはいえPCからK17への通信はシリアルなので、本体背面RS-232用のUSB Cケーブルをパソコンに接続してCOMポートがアサインされている必要があります。

ウィンドウを縮めると・・・

ブラウザにシリアルCOM通信の権限を与えるのは気持ち悪さもありますが、結局このブラウザ上のFiio Controlが大画面で一番使いやすいかもしれません。

ただしこちらもUIの描画構成がショボく、ブラウザのウィンドウをリサイズするとレイアウトがガタガタになってしまう素人設計なので、ノートパソコンとかだとボタンやフェーダーが重なり合ってまともに使えないかもしれません。

出力

いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて歪み始める(THD > 1%)最大出力電圧を測ってみました。

赤線がバランス、青線がシングルエンド接続で、それぞれ四段階のゲイン切り替えがあります。K17は他のアンプでよくあるClass Aモードとかの味変ギミックが無い潔い設計なので、グラフも見やすいですし、あれこれ悩まずに使える安心感があります。

さすがコンセント電源の据え置きアンプだけあって、バランス接続Ultra Highゲインでの最大電圧は無負荷で48Vpp(17Vrms)と極めて強力です。公式スペックでもピッタリ同じ48Vppと書いてあります。

かなり低いインピーダンス負荷まで粘ってくれるため、40Ωで5Wくらい出せています。公式スペックによると32Ωで4,000mWと書いてあり、こちらもFiioはハッタリが無く信頼が置けます。

ちなみにK17はアンプが過負荷になると強制的にシステムがシャットダウンして回路を保護する機能がついており、今回の測定では何度もシャットダウンして面倒くさかったですが、実用上ではアンプを守ってくれる安心感があります。そこまで大音量で使わないとしても、たとえばヘッドホンプラグが半差しでショートするなどのアクシデントを防げます。

同じテスト信号で無負荷時にボリュームを1Vppに合わせてから負荷を与えていったグラフです。こちらも赤がバランスで青がシングルエンド接続で、バランスの方が若干落ち込みがあり、出力インピーダンスはシングルエンドで約1.5Ω、バランスで2.6Ω程度でした。こちらも公式スペックので1.5Ωとか書いてあるとおりです。

バランス接続Ultra Highゲインのみで、最大出力電圧を他のヘッドホンアンプと比べてみました。

まず前作K9と比較してみると、全体的にパワーアップしていることが伺えます。同じようなアンプ設計でも電源周りなどもうちょっと余裕を持たせて強化しているのかもしれません。

Ferrum ERCO G2もK17と同じコンセント電源のDACアンプ複合機で、若干強力なのは納得できますが、L&P EA4はポータブルアンプなのに驚異的ですね。

私が最近よく使っているAustrian Audio Full Score Oneはシングルエンド入出力ですがそこそこ強力で、とくに低インピーダンス側での出力が優秀です。最近は大型ヘッドホンでも40Ω以下のモデルが増えてきたので、こういった特性の方が現代っぽいかもしれません。

DAPの例としてFiio M15S (USB給電のUltra Highモード)、さらにUSBドングルDACのiBasso DC07PROも掲載してみました。どちらも据え置き機と比べて非力なことがわかりますが、逆に考えると、これらでも十分な音量と音質が得られるのであれば、そもそもヘッドホンアンプで5W・50Vppに迫るような高出力が必要なのかという疑問も湧きます。もちろん余裕があるに越したことはありませんが、ただパワフルなだけでなく、イヤホンなど微細な駆動でもノイズが目立たないような設計が求められます。

USBケーブル

ちょっと余談になりますが、最近はポータブル機器に限らず、今回K17のように据え置きDACでもUSB C端子を採用するモデルが増えてきました。

私としては従来のUSB Bの方ががっしりとした信頼性があって好きなのですが、時代の流れなので仕方がありません。

ところで、USB A/B/Cというのは端子形状の規格で、USB 1/2/3/4は通信つまりケーブル配線の規格です。USB C端子は内部に24ピンあるのですが、USB 3ケーブルだと最低でも12本、USB 4ケーブルだと最高24本の配線が使われます。オーディオDACは今でもUSB 2通信を使っているので、電源とデータの4本線で済みます。

つまりオーディオDAC用にUSB Cケーブルを買うのなら、USB 4対応とかの最先端ケーブルで24本の極細線材が詰め込まれているものよりも、USB 2用の信号線と電源線がしっかり隔離されているタイプを選んだほうが良さそうです。

Wireworld公式から

たとえばオーディオケーブルメーカーWireworldのUSB Cケーブルを見ても、データ通信用の16本線USB 3.1タイプとは別に、USB DAC用に4本線のUSB 2.0タイプも売っており、そちらは線材が太く、多層シールドでガッチリ覆っており、信号線と電源線を物理的に距離を置いているのがわかります。

K17はコンセント電源なのでUSBバスパワー電源線への依存は少ないですが、それでもパソコンからのノイズが電源線を通って信号線へクロストークするのを避けるために物理的な隔離が重要です。これはケーブルだけでなくパソコンのマザーボードや電源設計にもよるので、たとえばノートパソコンの充電中や、デスクトップでもグラボやSSDに負荷がかかるとプチプチと音が聴こえるなど、微細なノイズが音楽の空間表現や背景の静けさの邪魔をすることがあります。

逆に言うと、DAC機器の設計が優秀であれば外来ノイズ対策がちゃんとしているため、パソコンやUSBケーブルによる音質差が少ないはずです。音質アップのためのノイズフィルターアクセサリーや高級ケーブルを抱き合わせで提案するようなメーカーは、DAC本体のノイズ対策が不十分だと自白しているようなものです。

ちなみにオーディオケーブルメーカーの多くは、USB Cタイプではあまり高価なケーブルを作っていません。これはUSB C端子のハンダ接点が極めて小さいため、高価なケーブルの極太線材が使えないという事情があります。

USBケーブルに関しては、よほど長尺で電圧降下が心配でもないかぎり、線材が太いほど音が良いというわけでもありません。肝心なのはホイルなど多重シールドでしっかりとノイズを遮断して、ビニールではなく高性能ポリマーで高周波までしっかり絶縁してくれるケーブルが良いです。そのためケーブルの外径が太くなるとしても、必ずしも銅線材が太いわけではありません。

このあたりをしっかり理解していれば、ハッタリ高級オーディオUSBケーブルに盲目的に騙されず、逆に高級USBケーブルなんてボッタクリだと断言せず、ケースバイケースで用途に応じた選択ができます。

音質とか

据え置きDACアンプということで、本格的な大型ヘッドホンを鳴らしてみたいところですが、ひとまずIEMイヤホンQDC V14で聴いてみます。

QDC V14

実は私がK17を欲しくなった最大の理由が、作業デスクで大型ヘッドホンから高感度IEMイヤホンまで過不足なく鳴らせるオールマイティなデバイスが欲しかったからです。

パワー不足で大型ヘッドホンが音痩せしたり、電源やグラウンドの不備でIEMイヤホンにノイズが乗るのも嫌です。さらに、どれだけ機能が豊富でも、肝心の音質が中途半端だと結局使わなくなってしまいます。

Amazon

The Side Doorという新しいジャズレーベルから、Nat Reeves 「Now In Time」を聴いてみました。ニューヨークから車で2時間コネチカットの片田舎にある隠れ家的な同名のジャズクラブからの企画盤で、音質は極上に良いので今後もこのクオリティで続いてくれると嬉しいです。

ベースのリーダーにSteve Davis, Eddie Henderson, Eric Alexander, Orrin Evans, Jeff Tain Wattsという業界最高峰の豪華なメンバーで、内容も伴っています。ReevesのベースとWattsのドラムが激しいドライブで牽引する中で、全員気合が入った白熱したセッションを繰り広げており、まさに現在のジャズクラブでのシーンを肌で体験できるアルバムです。


K17はさすがFiioの売れ筋モデルだけあって、感度が高いIEMイヤホンでもアンプのノイズが目立つこともなく、DAPと同じくらい静かな背景が得られます。私の適正音量はローゲインモードでボリューム25/100あたりなので、ボリュームノブをちょっと回しただけで大音量になるということもなく、十分な調整範囲があります。古風なボリュームポットと比べてデジタル制御アナログボリュームの便利さを実感できます。

細かい点ですが、ゲインの切り替えでバチッと大きなノイズが発生しないのもありがたいです。おかげで異なるイヤホンやヘッドホンで毎回ボリュームをグルグル回すのではなく、ゲイン切り替えで瞬時におおよその音量に合わせることができて便利です。高価な機器でもこのあたりの配慮が足りないとハイエンドと呼ぶには相応しくありません。

肝心の音質はというと、まったりと厚みのある音色でもしっかりした解像感があり、落ち着いた聴き応えのある音作りです。

トランペットやサックスの金属的な刺激は控えめで、質感を伸びやかに描いてくれるため、そこそこ音量を上げても疲労せずに聴いていられます。メリハリはしっかりしているので、トロンボーンの柔らかい音色でも眠くならない絶妙な塩梅です。

楽器が前に飛び出して主張するのではなく、アンサンブルが中央付近にまとまっており、ピアノのコードが左右に広く響いて全体を包み込んでいる感覚です。

高音のドラムパーカッションは控えめで、このあたりは好き嫌いが分かれるかもしれません。たとえばAK SP3000 DAPと比較すると、K17はだいぶ空間展開が狭く、上空に拡散していかないので、演奏空間全体がセンター付近に凝縮しているような詰まりも感じます。ただし2-3分も聴いていれば慣れてきて、K17特有の鳴り方の利点が理解できるようになります。

それぞれの楽器の音色が厚いので混雑するかとおもいきや、ピアノならここ、サックスならここといった明確な定位が定まっており、それ以外の空間に余計にはみ出ないため、分離が良く、インタープレイがはっきりして、演奏の流れに身を任せられます。

たとえばピアノに注目してみると、コード伴奏とソロのどちらも同じ定位置とサイズ感で、ソロパートでいきなり前に飛び出してくるわけではありません。ソロに入ると他の楽器がスッと捌けてくれて、空間に余裕ができて、ピアノの響きの全体像が聴こえやすく、実在感や充実感が増すといった感じです。

楽器そのものの音色の質感がしっかり描かれているおかげで、たとえばトランペットの高音だけ上の方に拡散するといった周波数特性による分割が無く、トランペットとサックスという別々の音像がバトルを繰り広げている、そこにドラムがフィルで鼓舞する、ベースが下からタイトにまとめる、ピアノのコードが背景を彩るといった時間軸の描き方が上手いため、一曲のエピソード展開が楽しめます。

ベースラインも最低音から中高域の倍音成分までピッタリ揃っており、楽器として現実味のある実在感が得られます。減衰も余計に長引かないあたり、アンプが振幅をしっかりとコントロールできているようです。

コントロールが不十分なアンプだと、低音の音圧だけがズンズンと耳を刺激しても、そこから音色を持続させるエネルギーが足りなかったり、ドライバーの自由振動を抑え込めず響きが長引いてしまい、現実味のある生楽器の音が描ききれません。K17はそのあたりをしっかりコントロールしてくれるため、録音を忠実に再現しているという安心感があります。

ほんの数ミリワットしか使わないIEMイヤホンでもK17の余裕や安定感が実感できるのは不思議ですが、私がメインシステムで使っているAustrian Audio Full Score OneでもIEMで同じような感覚が得られるので、やはりコンセント電源の据え置きアンプ特有のメリットでもあるのでしょうか。

Beyerdynamic DT1770 PRO MK2

K17はなんでもこなせる完璧なシステムかというと、用途によってはあまりお勧めできない場面も思い当たります。

たとえば、私は普段の作業用に密閉型ベイヤーダイナミックDT1770 PROを使っており、そのサウンドにはだいぶ慣れ親しんだものですが、K17で鳴らすと、やはりどうしても「K17の音」になってしまいます。

それが悪いというわけではなく、かなりドライで中域が控えめなDT1770 PROでも、K17の厚めな鳴り方との相乗効果で充実した音色を奏でてくれるので、DT1770 PROの他にも、たとえばオーテクやゼンハイザーの開放型など、空間や空気感の表現を気に入っていても、もうちょっと落ち着いた地に足がついた感じが欲しい人にK17は最適です。

パソコンで動画を見るなどの娯楽でも、シビアなモニターヘッドホンだと声の滑舌とか音源の圧縮が耳障りなところ、K17で鳴らせば不快感の少ない落ち着いた出音に仕上げてくれます。

つまりK17は受動的なエンターテインメントとして音を聴くことに重点を置いた音作りを目指しており、それを極めて高水準で実現できています。その反面、モニターヘッドホンで音楽や動画の編集をするクリエーターの立場としては、K17の鳴り方が邪魔になります。

それでもK17は全体のバランス感覚は優秀で、真空管アンプのような極端な響きの味付けを加えるほど過剰ではないので、たとえばマスタリングの最終評価で音楽全体を俯瞰で見るような用途には適していると思います。

K17はマイク収録の鼻息や服擦れをピンポイントで拾って修正したり、声をEQで整える、ミックス内で楽器の残響の長さや方角を合わせるなど、いわゆるクリティカルな粗探しのための虫眼鏡のような使い方に向いていません。K17で聴くと、なんとなく「これで良いんじゃないか」と気が緩んでしまいます。

似たようなケースで、ゲームの効果音などリアルな状況把握や没入感のためには、むしろ不快に感じるシビアさも求められ、そういった用途とも相性が悪いです。音楽鑑賞とは別の文脈でヘッドホンアンプを使いたい人には、K17よりもK19の方が向いているかもしれません。

実は私もK17を購入する際に、K19とどちらを買うか迷って、上位モデルで高価なK19を買った方が後々後悔しないだろうと思っていたのですが、実際に店頭で聴き比べてK17を選びました。

K19はパリッとした高解像サウンドなのですが、エッジの効いた情報量の多い描き方は、なんとなくRME FirefaceやMOTU Ultraliteなどオーディオインターフェースを使うのとあまり変わらないような印象でした。それはそれで原音忠実という意味で良い事なので、そういう系統のサウンドを求めているならK19の方が良いです。もちろん実際の制作環境ならK19ではなくASIO低レイテンシー対応のオーディオインターフェースを使うべきです。

オーディオインターフェース的なサウンドでありながら、DSDのネイティブ再生やバランスヘッドホン対応などオーディオマニア的な機能が充実しているという点で、K19はニッチな立ち位置にあると思います。

そんなわけで、私にとってK17とK19のどちらを買うかは試聴時にすぐ決まったのですが、廉価版K15の方はK17をすでに買った後に出たので、迷うことはありませんでした。あくまで店頭で聴き比べた感想としては、K15の方が全体的にダイナミクスの抑揚が狭く、なんとなく軽くて無難なイージーリスニング的な印象を受けました。トランスとスイッチング電源の差とか、そう単純に理由付けできる話ではないと思いますが、それでも私は十分に価格相応の差があると感じます。

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AlphaレーベルからSimon Pierre Bestion指揮La Tempête「Bomba Flamenca」を聴いてみました。

こういった謎の企画盤は手に取るきっかけがないと見過ごされがちですが、音楽的、オーディオ的にも本当に素晴らしいアルバムなので、ぜひ聴いてみてください。

スペイン視点で1558年カール5世の葬儀音楽を再現するという、世界史好きなら興味が湧くテーマで、選曲や演奏スタイルの時代性は史実に基づいているものの、遊び心のある破天荒な解釈で飽きさせません。パリの教会で録音された音質も極上の響きです。

東西を交えた荘厳なファンファーレから始まり、テオルボの美しいソロから、定型ミサ合唱、当時の詩のマドリガル、12世紀三声合唱、レコンキスタ以前のアル・アンダルス風といった曲が入り乱れ、フラマン爆弾というアルバムタイトルからも、神聖ローマ皇帝がもたらした北方音楽のインパクトとスペイン文化の融合が見事に表現されています。

Austrian Audio The Composer

ダイナミック開放型ヘッドホンのAustrian Audio The Composerを鳴らしてみました。個人的なお気に入りで、Austrian Audio Full Score Oneアンプと合わせてよく使っています。

平面駆動型と比べるとそこまで鳴らしにくいヘッドホンというわけでもありませんが、ハウジング反射の影響も少なく素直な性格なので、アンプの特徴を探るのに最適です。ちなみにボリュームはMediumゲインで50/100くらいです。

先ほどイヤホンで聴いた時と同じように、K17は厚く落ち着いた鳴り方で、低音の土台の上で歌唱や管弦楽器が中央に集まり、それぞれ主張しあうのではなく、アンサンブルとして息の合う演奏を表現してくれます。

イヤホン・ヘッドホンのどちらでもK17の鳴り方の特徴が一貫しているということは、それだけアンプのドライブやコントロールがしっかりしているのでしょう。

DAPが軽自動車ならK17は重厚な高級車のように、高速道路でも風に煽られて翻弄されるような素振りも見せず、路面や勾配を意識せず、ゆったり快適で落ち着いた体験が得られます。

反応が鈍いともどかしく感じますし、逆にピーキーすぎて、ちょっと踏んだだけで意図せずスピードが出すぎてしまうのも困ります。どんな状況でも快適かつ想定通りに動いてくれることが信頼と高級感につながります。

K17はDACヘッドホンアンプ複合機なわけですが、実際のところK17の音質はDACとアンプどちらに由来するのか調べてみるため、K17をラインDACとして他のヘッドホンアンプに接続して聴き比べてみました。

身近にあったViolectric V281、SPL Phonitor X、Austrian Audio Full Score Oneといった据え置きアナログヘッドホンアンプに接続してみたところ、結論から言うと、ステレオ空間の広さや奥行きといった要素はDACに依存して、音色の激しさや艶っぽさの部分はアンプに依存するようです。

たとえば私が普段メインで使っているChord Qutest DACの方が、K17と比べて上下左右の音響空間が広く、音像自体も広範囲に分散します。音像の間隔が空くことで背景を見通しやすくなり、新鮮さや爽快感も増しますが、音像が分散することで四方八方キョロキョロと注意を引かれてしまい、集中して聴かないと音楽全体を追うのが難しくなります。つまりK17と比べると聴くのに労力が求められ、カジュアルに楽しむには向いていません。

一方、K17をDACとして使うと、同じアンプでも音像展開がぐっとコンパクトにまとまり、上下や前後の散らばりも少なくなります。演奏の一体感が増し、親しみやすい視野角で音楽を聴くことができます。逆に言うと空間の広さや音抜け感は一歩劣ります。

さらに面白いのは、アンプを変更することで、K17の空間表現はそのままで、音色が大きく変化します。たとえばV281であればフルオーケストラの激しいダイナミクスを鋭く伝えてくれますし、Phonitor Xなら弦楽器の高揚感や緊迫感を鮮やかに描き、Full Score Oneなら複雑なオルガンや混声合唱の細かな線を解きほぐすような透明感があります。

どれもK17単体で鳴らす時よりも魅力が増していますが、アンプごとにそれぞれ固有の方向性が強まっており、どれも全方向で圧倒的に優れているというわけではありません。K17はオールラウンダーなスタート地点として極めて優秀です。

自分の好みに合う個性的なDACやアンプを組み合わせることができるのがセパレートシステムの利点なのですが、納得できる構成にたどり着くまでに沢山の組み合わせを試す労力がありますし、コストパフォーマンスも指数的に悪化します。私自身、それらとは別に一台で完結するシステムとしてK17に魅力を感じています。K17をスタート地点として、今後もっと高価なヘッドホンアンプを検討するとしても、全体的に高水準で満足できるシステムとしてK17を超えるのはなかなかハードルが高いと思います。

おわりに

Fiio K17はUSB DACヘッドホンアンプとしての音質は一級品で、イヤホンからヘッドホンまで幅広い用途に対応してくれる優れた製品です。リラックスした音楽鑑賞に向いている落ち着いた温厚なサウンドなので、もっとシャープで分析的なものを求めているならK19など別のモデルの方が良さそうです。

また、カタログスペックを見ると色々できる多機能ガジェットという印象を受けるかもしれませんが、あくまで前作K9の後継機として、パソコンデスクに置いて使う「USB DACヘッドホンアンプ」「高音質サウンドカード」として割り切って検討した方が良いです。

フロントパネルを見ても、ラインプリ・ヘッドホンアンプとして本質的な部分のみに洗練されており、DSPイコライザーやネットワーク機能などのギミックは使いたい人だけがアクセスするメニューに隠れているあたりに本格派としての自信が感じられます。

弱点を挙げるなら、ネットワークストリーミングやUSBドライブのファイル再生はだいぶ貧弱なオマケ程度なので、今後なにか大幅なシステムアップデートでもない限り、これらを目当てに購入すべきではありません。

ハードウェアの作り込みやSoCの演算速度は十分優れているのに、システムOSやスマホアプリなどソフト周りの開発力(開発意欲?)が弱いのがもったいなく感じます。そのあたりに過度な期待さえ持たなければ、純粋なDACヘッドホンアンプ複合機として極めて高水準です。

廉価版のK15とどちらを買うべきか、私だったら断然K17を選びます。これがパソコンや電子レンジのような生活家電だったらコストパフォーマンスは重要になりますが、正直な話、そもそも十万円のヘッドホンアンプを検討している時点で相当マニアックな世界なので、K15、K17、K19の価格差はスペック比較よりも音質の好みで決めるべきで、私の場合はK17の音を気に入って選びました。

K17を使ってみて思ったのは、良い意味でオーディオファイルを怠惰にする製品です。私のメインのオーディオラックには、スピーカーオーディオと同様に、ヘッドホンアンプにDACにストリーマーに、インターコネクトケーブルや電源タップに至るまで、あれこれ組み合わせの相性を試行錯誤して、その結果に一喜一憂する、そういった楽しみがあります。これは釣りでも盆栽でも、趣味というのはそうやって余暇を費やすものだと思います。

一方K17は入力から出力までオールインワンで、卓上に置いて電源を入れるだけですぐ使えるため、「十分音は良いし、まあこれでいいか」と説得されてしまう簡単さがオーディオファイル的に悔しい気持ちもあります。唯一こだわれる点といえば、USB Cケーブルとか、本体のゴム足が貧弱なので、適当なインシュレーターとかで嵩上げすると見栄えが良くなるくらいでしょうか。

もちろんもっとハイエンドな据え置きシステムを追求すれば、さらに凄いサウンドが引き出せますが、音楽を聴きながら常にシステム構成の疑念が脳裏にあり「やっぱり別のケーブルに変えてみよう」などと思わず腰を上げてしまうことが多々あります。そういったオーディオファイル病から意図的に距離を置くにもK17は良い選択肢だと思います。


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