iBassoの新作DAP DX270を試聴してみたので感想を書いておきます。
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| iBasso DX270 |
2026年3月発売、約21万円のポータブルDAPです。独自の「R2R Ultra」ディスクリートDACを搭載することで、前作DX260 MK2から大幅なグレードアップを遂げています。
iBasso DAP
iBasso DX200シリーズは2017年の初代DX200から始まり、直近では2024年のDX260、2025年のDX260 MK2、そして2026年の今作DX270と、ほぼ毎年のペースで更新されている主力モデルです。
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| DX270 |
今回の新作DX270は5.5インチ画面、265gアルミシャーシ、4400mAhバッテリー、Android 13 OS搭載と、近頃のポータブルDAPとしては標準的なスペックとサイズ感です。
この手のAndroid DAPフォームファクターはだいぶ前から代わり映えしないので、数世代前のモデルを使っている人にとって、よっぽどのことが無いかぎり、なかなか新型に買い替えるモチベーションが湧かないジャンルです。私もバッテリーの劣化やAndroidバージョンが古くなってアプリ対応が厳しくなるくらいしか買い替える決心がつきません。そのあたりは近頃のスマホとよく似ています。
そのため各メーカーとも中身重視のアイデア勝負で競い合っており、iBassoも前作DX260 MK2ではシーラスロジックCS43198 D/Aチップを8枚も詰め込むという破格の物量投入で勝負していたのに対して、今回DX270では最近のトレンドに沿った「R2R Ultra」という独自のディスクリートDACを搭載することで差別化を図っています。
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| 最近はDAPよりドングルDACが人気です |
DX200シリーズよりも安いDX100シリーズのような十万円以下の価格帯になると、最近ではスマホ + USBドングルDACというスタイルの方が主流になっており、iBasso自身もドングルDACにかなり力を入れています。
つまりカジュアルユーザーにとって低価格DAPの必要性や存在意義が薄れており、そうなると、音質やパワーでドングルDACを大幅に上回る、熱心なオーディオマニアを満足させるDAPとして、DX270あたりの価格帯が主力になっている様子です。
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| DX270 & DX340 |
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| これくらいのサイズ差です |
ところで、iBassoのDAPラインナップは他社と比べてそこまで価格が高騰しておらず、最上位のDX340も28万円くらいと、意外とDX270との価格差が狭いのですが、本体サイズはだいぶ重く大きくなるので(アルミシャーシのDX270に対してDX340はステンレスです)、ポータブル用としては、あえて軽快なDX200シリーズの方を好んで使う人も多いようです。
また、DX340はアンプモジュール交換で様々なサウンドが楽しめるというのがセールスポイントになっており、D/A変換もディスクリートR-2Rではなく1-bit デルタシグマ系ということで、DX270とは音質面でもだいぶ方向性が異なります。
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| DX260 MK2 & DX270 |
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| 裏面 |
前作DX260 MK2と比較してみると、そちらが5インチ 229gだったところ、DX270は5.5インチ 265gに肥大化したので、気軽に扱えるDAPを求めている人にとってはマイナスかもしれません。
新たなディスクリートDACのせいか、それとも画面サイズが大きくなったからか、再生時間スペックはDX260 MK2の14時間から13.5時間へとわずかに減っています。もちろん実際の再生時間は画面を使う頻度やアンプへの負荷に大きく左右されます。
デザイン
iBassoのDAPはデザインの統一感があって良いのですが、角が尖っていてケースに入れていないと怖くて扱いづらいモデルが多いのが難点です。
ただし今回DX270はアルミなので、ステンレスのDX340やチタンのDC Eliteと比べればそこまで凶器になるほど尖っておらず、これくらいなら問題なく使えそうです。
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| シャープでクセの無いデザイン |
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| 裏面 |
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| DX340と同じケースデザイン |
まさに中華系DAPメーカーを代表するような王道デザインで、無駄を省いたシャープなデザインは万人受けすると思います。私も大昔のDX90やDX80の頃からiBassoのデザインセンスを結構気に入っています。
実機を触れてみると、シャーシ切削の表面やエッジ処理など機械工作の配慮はAK DAPなどと比べて若干甘い感じがするので、今後そのあたりの品質向上を目指してもらいたいです。
付属ケースがDX340と同じデザインに変更されたのは嬉しいです。前作DX260 MK2では低価格DAPにありがちな透明ゴムカバーでだいぶチープな感じでした。
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| ボリュームエンコーダー |
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| トランスポートボタン |
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| ボタンの向きが逆です |
シャーシ側面のファセットで光の明暗が強調されてカッコいいです。ボリュームエンコーダーは押し込むと電源ボタンを兼ねており、その下にトランスポートボタンが並んでいます。ボタンのデザインはDX340と同じなのですが、向きが逆になっているのが謎です。
最近のiBasso DAPに共通するデザイン要素として、背面にネジ留めブラケットがあり、これを外すことで背面のパネルを外すことができるようです。
通常触る必要は無いと思いますが、将来的に修理やバッテリー交換の際に便利です。他社のDAPだと背面パネルが粘着テープで固定されて、開けるために加熱したり吸盤や爪で無理矢理こじ開けたりなど苦労した人もいると思いますので、こういう利便性をデザイン要素として取り込む試みはありがたいです。
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| 上面 |
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| 下面 |
上面にUSB C、マイクロUSB、S/PDIF出力端子があり、下面にヘッドホン出力端子と、さらにDX340ゆずりの12V DC電源ジャックが新たに追加されています。ACアダプターを接続することでアンプ回路の電源が強化されてスーパーゲインモードが選択できるようになります。ACアダプターではDX270のバッテリーは充電されないようなので要注意です。
さらにライン出力専用の4.4mm端子も新たに追加されました。ヘッドホン出力端子の真横にあるので、挿し間違えが心配です。
ちなみに3.5mmのライン出力端子が無いので、ソフト上でヘッドホン端子をライン出力モードに切り替えられるのかと思ったのですが、いくら探しても見つかりません。
インターフェース
Android 13でGoogle Playストア対応です。最近はどのメーカーのDAPを使っても一般的なAndroid OSなので、あまり変わり映えしませんね。
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Android 13 |
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| Mango OS |
iBasso DAPのユニークな点として、Android OSとは別に、再起動でMango OSという簡易OSに切り替えることができるのが嬉しいです。
このMango OS状態ではAndroidアプリなどは一切使えず、純粋な音楽ファイル再生DAPとしての機能に限定される、かなりピュア思想のインターフェースになります。私も含めて、micro SDカード内の楽曲ファイルを再生するのみの人なら、Mango OSの方が使いやすいと思います。
個人的な要望を挙げるなら、Mango OSのインターフェースデザインはだいぶ古くなってきたので、せっかくの大画面と高速SoCに沿うように、そろそろ刷新を期待したい時期かもしれません。
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| 設定 |
Mango OSでもオーディオ関連の設定は全て行えます。「DC-IN Super Gain」というボタンは12VDC電源を接続すると有効にできるようになります。
その下にDAC GainとAMP Gainが別々にあるのは珍しいですね。「DC-IN Super Gain」を有効にするとAMP Gainが上書きされて無効になります。
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| AndroidモードDX270・DX340 |
AndroidモードでもiBassoプレーヤーアプリからオーディオ関連の設定が呼び出せます。参考までにDX340と比較してみましたが、画面サイズが違うだけで機能的にはほとんど同じようです。(色が違うのはAndroidのナイトモードのせいです)。
| フィルター |
| NOSとそれ以外 |
デジタルフィルターは五種類用意されており、D1がNOSでD2~D5がオーバーサンプリングタイプです。
44.1kHz/16bitのパルス波形を再生してみると、たしかにD1は綺麗なNOSパルスで、それ以外も想定通りの挙動です。44.1kHz/16bitのフルスケール1kHzサイン波で見ても、NOSははっきり階段波形で、オーバーサンプリングだとスムーズになるのが確認できます。
ひとつ問題点を挙げるとすれば、パルス波形を見てわかるとおり、D1 (NOS)の電圧振幅が一番高く、続いてD2/D3、そしてD4/D5は一番低いです。一般的にフィルターを設計する際は電圧振幅(つまり音量)が同じになるよう補正すべきなのですが、それが行われていません。サイン波の画像でもNOSの方が振幅が大きいことがわかります。
これは実際に音量や最大出力数値に影響するので、純粋にフィルターの違いだけを聴き比べるのが難しくなります。フィルター設計の配慮不足と言えばそれまでですが、そういうのを知らない人が音を聴いて「さすがNOSはパワフルで音が良いな」と変な迷信に惑わされてしまう心配があります。
ディスクリートDAC
DX270は新たに独自のディスクリートDACを搭載しているわけですが、これまでiBassoはD16 Taipanでは1-bit PWM(デルタシグマ)、DX340もPWM、D17 AtherisはPWM+R‐2Rといった具合に、開発の道筋があまり定まっておらず、今回はR-2Rを選んでいます。
本体に「ULTRA R2R」書いてあるものの、実際はもうちょっと手の込んだ事をやっており、24ビットデータの上位4ビットを抵抗分圧のストリングで電圧変換して、下位20ビットをR-2Rラダーで変換するという複合構成だそうです。
ストリングDACは個々の抵抗値のばらつきの影響を一番受けやすいため量産設計では敬遠されがちですが、最近の高精度な表面実装部品のおかげで、グリッチが少ないなどメリットの方が上回ってきたのかもしれません。
全体のシステム構成としては、FPGAでオーバーサンプリングした(もしくはNOS状態の)データをディスクリートDACに送り、続いてデジタル制御アナログ抵抗ICでボリューム調整を行ってからアンプに送られるようです。
ところで、iBasso公式サイトの情報を見ていて気になったのですが、FPGAやディスクリートDAC周りの解説ばかりに力を入れすぎていて、肝心のヘッドホンアンプ回路についてはほとんど言及されていないのが、意識が偏りすぎというか竜頭蛇尾というか、こういうところがiBassoらしくて面白いです。
個人的にはD/A変換で試行錯誤するよりも、アンプの作り込みの方がメーカーの個性が出せる要点だと思っているので、とくに最近の中華系DAPはディスクリートDACや真空管プリ回路などラインソース側に注目しすぎて、肝心のアンプ回路の発展が疎かになっている印象を受けるのがちょっと残念です。逆に考えると、Android DAPという限られた電源設計の中でアンプ回路の作り込みは限界を迎えているのかもしれません。もちろんアンプの聴き比べをしたいならDX340のアンプモジュール交換という選択肢もあります。
出力
いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて、歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧を測ってみました。
赤色がバランス、青色がシングルエンド出力で、ちょっとややこしいですが、ゲインモードは上から順番に[DAC High/AMP Super]、[DAC High/AMP High]、[DAC Low/AMP High]、[DAC High/AMP Low]、[DAC Low/AMP Low]の順番です。緑色はバランスライン出力です。
低インピーダンス側のクリッピング限界が揃っていることからわかるとおり、12V AMP Superを含む各種ゲインモードやバランス・シングルエンド接続でアンプの特性自体はそこまで大きく変わらないようです。
先程パルス波形で見た通り、NOSモードだけ波形が25%ほど高いです。どのゲインモードでもそうなるのですが、グラフが混雑するので[DAC High/AMP Super]のみ掲載しました。
変な話ですが、12V AMP SuperモードはAMP Higから電圧が25%ほど上昇するので、つまりフィルターD1(NOS)でAMP Highと、フィルターD2でAMP Superがほぼ同じ出力になってしまいます。
公式サイトによると、12V ACアダプターのSuperゲインモードにて32Ωで1575mWが得られるそうです。どの程度の歪みまで許容するかにもよりますが、私のグラフではD1(NOS)では1280mW、D2だと1000mWくらいでした。
ライン出力はアンプ回路を通さない高インピーダンス信号だとわかります。そのためAMPゲインモードによる変化はありませんが、こちらも破線のNOSモードだと出力電圧が上がるので、無負荷時D1 (NOS) DAC Highで3.6Vrms、D2 DAC Highで2.9Vrms、D2 DAC Lowで2.4Vrmsくらいになります。
最近のiBasso DAPと最大出力電圧を比較してみました。まずDX340は最上級だけあってアンプもかなりパワフルなわけですが、アンプモジュール交換ギミックがあるため、たとえばAMP17という別売アンプモジュールを装着することで、さらに高出力が望めることになります。
DX270はNOSモードだとDX260 MK2の上限とピッタリ重なりますが、実用上で重要な30Ω以下の低インピーダンス負荷ではだいぶパワーアップしており、最新ポタアンD17と同世代のアンプ設計であることが伺えます。
USBドングルDACの一例としてDC-Eliteも比較してみたところ、無負荷時の最大電圧はDAP並みに高くても、やはりバスパワー駆動の限界から50Ω以下くらいから出力が落ち込みます。
音質とか
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| Madoo Typ821 |
ひととおり音楽を聴いてみた第一印象から、さすが長年のノウハウを蓄積してきたDAPシリーズだけあって、完成度の高いサウンドの仕上がりで、前作DX260 MK2からも明らかな進化を実感できます。
ディスクリートR-2R DACらしさを主張するために作り上げた個性派という感じではなく、DX260の弱点を補うような形で一歩進んだサウンドに発展させたモデルなので、自社製DACだからと身構えずに普段通りに使えそうです。
| Amazon |
ベースがリーダーのピアノトリオで、空気の余裕を意識した澄んだ音色が楽しめます。同バンドが数年前に出した赤色と青色の二枚もだいぶ良かったので、久々の新作は嬉しいです。
このバンドというかEdition Recordsレーベル自体がアンビエントな雰囲気重視のコンセプトが多く、フリーというほど聴きづらくはないのですが、油断しているとアルバムの最後まで聴き終えて、結局何だったのかよくわからないまま、ということがあります。
DX270はこういった音楽において前作DX260 MK2からの明確な進化が実感できます。DX260 MK2ゆずりの高解像な粒立ちの細かさはそのままに、演奏の勢いやメリハリが増強されることで、音楽に引き込まれる感覚が生まれます。
集中して比較試聴する際にはそこまで重要ではないかもしれませんが、たとえば作業中や通勤通学の移動中など、DX260 MK2やドングルDACのDC07PROなどでは、ついスマホを見るなど他の事に気を取られて、音楽を聴き流しがちなところ、DX270だとピアノソロの広がりやベースラインのリズム感などに耳が奪われて、他の作業を忘れて音楽に集中してしまいます。
音楽が鮮やかに聴こえるという表現が一番近いと思います。単純に高音や低音の刺激が増強されたV字特性で派手さを演出するのではなく、楽器の一音ごとの自己主張が強く、背景から浮かび上がって前に出てくる効果があります。そんなDX270と比べると、従来のDX200系やドングルDACなどはだいぶ穏便で、変化に乏しい聴こえ方に思えてしまいます。
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| Fir Audio Redux 6 |
さすがポータブルヘッドホンアンプの経験が深いiBassoだけあって、こういった難しいイヤホンでも難なく鳴らしてくれます。優れたアンプというのは単純に音量が大きいだけではなく、瞬間的な電流供給のレスポンスが速く、それを低歪み低ノイズで行えるので、駆動の難しさに関わらず一貫したサウンドシグネチャーを提供してくれます。
DX270はFir AudioのようなマルチドライバーIEMでも低音が暴れず、しっかりとコントロールしてくれるという点において、たとえばUSBドングルDACと比べて明らかなメリットが感じられます。IEMイヤホン程度なら高出力は不要なので、USBドングルDACでも十分だという考えも一理あるのですが、やはりDX270クラスのDAPで鳴らすことによるメリットは存在します。
高音の解像感やノイズの低さといった部分では、iBasso DC07PROやDC-Eliteのような優れたドングルDACと比べてDX270に大幅なメリットがあるとは言い難いのですが、音楽の土台となる低音側の安定感で大きな差があります。腰が据わっているというか、曲の始めから終わりまで一貫した床のような基準点みたいなものが感じられ、ステレオ空間に広く分散した音像でも相対的に把握できて、演奏の流れに乗りやすくなります。
こういった部分はオーディオにおいて電源の余裕が影響するというのが通説なので、USBバスパワーのドングルDACに対するDAPのメリットとして説得力があります。逆に電源が貧弱だと、たとえ高解像でも演奏がふらふらと宙に浮いて翻弄され、落ち着きがなく聴き疲れしやすいです。
しかし最近は各メーカーともドングルDAC製品の進化が著しく、先程挙げた高音の解像感やノイズの低さといった音質向上においてDAPを追い抜いている印象もあります。
もっと具体的に言うなら、DAPに必要なバッテリー、画面、SoC、メモリー、OSといった部品にかかるコストを取り除いたら、肝心のオーディオ回路部分はドングルDACとさほど変わらないのでは、という話です。
その点において、たとえば十万円以下のDX180はもちろんのこと、前作DX260も微妙なラインにありました。DX180はDC07PROと同じような系統のサウンドだったので、コスパの面では三万円台のDC07PROを買った方が良いと思いましたし、DX260 MK2はそこからさらに高解像路線に進めた繊細な鳴り方だったので、勢いが弱く控えめな存在でした。
ここへきてDX270でようやくDAPとしての存在意義を確立できたような実感が湧きます。優れたドングルDACに劣らない解像力や繊細さを維持しながら、DAP特有の腰の据わった安定感が得られます。
とくに最近はドングルDACの繊細で非力なイメージを払拭するために、豆粒真空管を通すなどで音に厚みを加える試みがよく見られますが(その点ではiBasso NunchakuやPB6も良いです)、ただしそれは歪みを加えて解像力をあえてデチューンすることで豊かさを生み出す側面もあり、もちろん有用な場面もありますが、それと比べるとDX270はワンランク上へアップグレードする感覚があります。
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| Abyss Diana MR |
大型ヘッドホンの駆動はやはりドングルDACだと厳しいので、そのあたりも視野に入れるとDX270クラスのDAPを導入するメリットが強まります。
たとえば平面駆動型ヘッドホンのAbyss Dianaは開放感が心地良いサウンドなので、イヤホンがメインの人でも、自宅でリラックスしたい時にはこういうヘッドホンで音楽を聴くのもいいものです。(Dianaはバリエーションが多いですが、その中でもMRが個人的に一番好きです)。
そんな時、デスクやオーディオラックの据え置きヘッドホンアンプに張り付いて使うよりも、DAPであれば居間のソファーとかに持ち運んで気軽に使うことができます。とりわけ平面駆動型ヘッドホンは中域の線が細くて退屈になりがちなので、DX270特有の鮮やかな勢いが活躍してくれますし、高性能ヘッドホンのポテンシャルを制限するような不安もありません。
こういう高性能な平面駆動型ヘッドホンの場合、必要以上に楽曲の音の悪さを露見させてしまう場合もあり、真空管アンプなどで音を丸めて不具合を隠した方が良い事もあるので、普段はDX270で鳴らして、必要に応じてPB6など真空管バッファーアンプを連結するのも良さそうです。
せっかくなのでDX270の12V ACアダプターSuper AMPゲインモードも試してみたところ、ヘッドホンであってもバッテリー駆動で十分で、Superモードで飛躍的にヘッドルームやスケール感が拡張されるという印象はありません。ACアダプターでは本体充電されないので、私なら自宅でもわざわざACアダプターを挿して使わないだろうと思います。それならUSBのPDプロファイルで充電を兼ねてパワーアップできる仕組みとかの方が良かったかもしれません。もちろんUSB PDだと膨大なノイズが流入するのでクリーン化が難しいのだと思います。
パワーでいうとDX340の方が上ですが、DX270でもよほどの事がないかぎりヘッドホンも余裕を持って駆動できます。ためしにDX340 + AMP17でAbyss Dianaを聴いてみたところ、かなり硬派で鋭角な鳴り方で、まるでRMEとかのプロオーディオインターフェースで聴いているかのような風格なので、必ずしもDX270の上位互換というわけではなく、結構人を選ぶと思います。DX340のアンプモジュール交換というギミックは、聴き比べに励むマニア向けの趣味性の強いモデルなので、DX270の方が悩まずに良い音が楽しめます。
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| Hiby RS6 & DX270 |
せっかくなので、同じく独自ディスクリートR-2R DAC搭載で価格帯も近いHiby RS6と聴き比べてみました。本当ならここにFiio M33 R2Rも加えるべきですが、残念ながら身近に試聴機がありません。
DX270とRS6のどちらもR-2Rといっても、実装や回路設計は大幅に異なるので、サウンドの印象もだいぶ違います。
まず最初に、個人的に気になっていた点を確認してみました。私が普段Hiby RS6を使っている中で、唯一DSD再生に不満を感じています。
これまで中華系メーカーの自社製ディスクリートDACを色々と聴いてきましたが、どれも「DSDファイル再生が不得意」という不満点があり、今回DX270も例に漏れずパッとしない結果になりました。
Hiby RS6もカジュアルに使うぶんにはPCM再生の音の良さのメリットが上回るため長年愛用してきたわけですが、レファレンスとしてDSD再生も含めると、どうしても旭化成やESSの高性能D/Aチップ搭載機の方が有利なようです。
最近はDSP処理が飛躍的に進歩しているので、DSDだからといってR-2Rは相性が悪いとか、必ずしも1-bitデルタシグマDACが必須なわけではありません。どちらかというとDSP処理の段階でDSDデータの扱いが上手くできておらず、せっかくのディスクリートDACを最大限に活用できていないような気がします。
具体的には、最新DSDアルバムを聴いた時に体感できるはずの広大な空間の奥行きやリアルな空気感が十分に引き出せず、メリハリの無いフワフワした鳴り方になってしまいます。そんなHiby RS6での不満点が今回DX270でも感じられました。
実際のところ、私も普段聴く楽曲のほとんどがPCMで、DSDに関してはそこまで致命的ではないので、むしろPCM再生にてHiby RS6との比較が気になります。
| Amazon |
Fuga Liberaレーベルから新譜でGaëlle Solal with Roberto Beltrán & Orchestre Royal De Chambre De Wallonie 「Rio」を96kHz/24bitハイレゾPCMで聴いてみました。
タイトルどおりブラジルをテーマにギターとオーケストラの協奏曲アルバムです。フランスのギタリスト、ベルギーのオケで、指揮者はメキシコ出身という国際的な組み合わせで少々不安がありましたが、いざ聴いてみると心配無用の素晴らしい演奏が楽しめました。ブラジルの演奏者じゃないと本場の雰囲気は出せないというよくある偏見を覆してくれます。
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| DX270 & Hiby RS6 |
Hiby RS6とDX270で聴き比べてみると、多くの人がR-2Rと言われて想像する古いCDプレーヤーらしいノスタルジーはHiby RS6の方が近いです。ダイナミクスや帯域レンジが狭く素朴な鳴り方は、CDよりも古いカセットテープなどのアナログソースっぽさすら感じます。おかげで録音全体のまとまりがあり、楽器の芯の部分に集中でるため、私も古い1960年代とかのアルバムを聴く時に重宝しています。
その一方で、DX270の方がもっと現代的な表現で、とくにFuga Liberaのような高音質レーベルの最新クラシックアルバムはこちらで聴いたほうが魅力が引き出せます。三曲目ヴィラロボス協奏曲第三楽章では、ギターの音色がキラキラと水辺の光の輝きのように美しく、鮮やかに描いてくれます。クラシックギターは音量が小さいためオーケストラとのバランスが難しく、最新の高音質録音でようやく魅力が引き出せるようになってきたと思いますが、DX270では過剰にマイクでブーストしたような不自然な感じもなく、まさにオケの背景からソリストのギターが浮かび上がってくる、まるで飛び出す絵本のような迫力が楽しめます。
このようにDX270とHiby RS6のサウンドはだいぶ異なるのですが、どちらもR-2R DACということはNOSモードが使えるので、次はそちらを試してみました。
私が普段聴いているアルバムのほとんどが24bitハイレゾ音源なので、オーバーサンプリングとNOSの違いはほぼ感じられません。NOSモードの効果を実感するために44.1kHz/16bit音源で聴き比べてみたところ、面白い結果が得られました。
鳴り方の性格が異なるDX270とRS6でも、NOSモードについてはメリットとデメリットが共通しています。
まずデメリットの方から、クラシックの弦楽四重奏曲などを聴いてみると、NOSモードでは演奏者を取り巻く高音の空気感が無くなり、部屋の天井が低くなる、もしくは無響室に入れられたようにデッドで弦楽器が響かなくなり、音楽が空間を満たす楽しみが損なわれてしまい、あまり好ましくありません。
一方NOSモードのメリットは、ボーカル中心のスタジオミックスのポップスなど、録音由来の空気のうねりやざわめきをスッキリ排除してくれて、相対的に歌唱や楽器演奏の荒っぽさや激しさといったエキサイティングな部分が際立ちます。ロックを聴く人がNOSを好んでいるのも納得できます。
たとえば80年代のCD音源など、最新DACで聴くと高音のエッジがキンキンして聴き疲れする場合、R-2RのNOSモードで聴くことで当時に近いサウンドが体験できると思います。DAPをラインソースとして真空管ヘッドホンアンプなどを追加する際にも、NOSモードで出した方が演奏の勢いみたいなものを維持することができて有用です。
そんなわけで、44.1kHz/16bit音源ならオーバーサンプリングとNOSモードを使い分けることで活用の幅が広がるのがR-2R DACの魅力のひとつになるわけですが、Hiby RS6はメインストリームなR6シリーズとの差別化としてR-2Rらしさを強調するの古風な音作りなのに対して、DX270はメインストリームなDX260の後継機としてモダンな音作りを維持するという違いがあり、好みが分かれそうです。
ただしレファレンスDAPという観点から見るとDX270も完璧というわけではなく、いくつか弱点も挙げられます。これらはディスクリートR-2R DACに由来するかは不明ですが、RS6とDX270の両方に共通する課題です。
とくに個人的に気になる点として、オーケストラ録音でコンサートホール空間のリアルな奥行きを再現するのが不得意です。そういった音響描写が上手い開放型ヘッドホンやMadoo Typ821イヤホンを使っても、前方視野の距離感、たとえばステージ上の楽器配置や壁や天井までの相対距離といった感覚が掴みにくいです。メインの楽器が鮮やかに飛び出してくる立体感は魅力的でも、その背景がだいぶ平面的です。
たとえばAK SP3000などで聴いてみると、楽器の線は細くなりますが、スケールの大きな空間がとてもリアルに体感できるので、生演奏の録音に含まれる微細な音響情報を脳が錯覚するほど正確に復元できている実感があり、そういった点で忠実なレファレンスとしての説得力を感じます。
ただし、DSD再生の不満点も含めて、実際のところ常に精神統一して細部まで聴き取ろうとしているわけではなくて、DAPというのは毎日の移動中などにカジュアルに音楽を聴くために使っており、そういう場面でも良い音で耳を惹きつけてくれるような音作りが求められ、その点ではDX270は理想的な仕上がりだと思います。
おわりに
近頃のiBassoは新作リリースが多すぎて面倒に思っていたころ、冷やかし程度に聴いてみたら想像以上に良い音だったので、今回ブログで紹介しようという気にさせてくれました。
DX100シリーズや5年前のDX240あたりを使っている人ならそろそろ買い替えるタイミングになると思いますし、ドングルDACから本格的なDAPへのアップグレードにも最適です。画面やバッテリーなど全体の製造コストを考えると、ドングルDACを明らかに上回るサウンドを目指すのなら、やはりこれくらいの価格帯になってくるのでしょう。
私自身も普段使いのDAPを購入するならDX270は有力候補になりそうです。とくに私はSDカードのファイル再生しか使わないため、Mango OSの存在は意外と大きいですし、ごく稀にAndroidアプリを試す機会もあるので、その時だけAndroid OSに変更できるのも心強いです。
音質面では、今回新たに導入された自社製ディスクリートR-2R DAC回路の貢献が大きいと思います。近頃よくある真空管プリやDSPエフェクトのギミックに頼らず真面目に仕上げてあるあたりに好感が持てます。
逆に言うと、サウンドのバリエーションは限られているので、あれこれエフェクトやモードを切り替えて聴き比べるのが好きなタイプの人にとっては、そこまで面白いモデルではありません。
たとえば直近のiBasso D17はディスクリートR-2Rと1-bit DACの両方を搭載しており、任意で回路を切り替えて使えるわけですが、そういうのを積極的に活用したい人なら楽しいですが、使っていない方の回路コストも払っているもったいなさも感じます。
最後になりますが、前作DX260のシーラスロジックや、旭化成やESSの最先端D/Aチップと比べて、わざわざディスクリートR2R DACを導入するメリットはあるのかという話題は奥が深いですし、長所にも短所にもなるので、そこは割り切って検討する必要がありそうです。
たとえばAstell&Kernを見ても、中堅モデルのSE300ではディスクリートR‐2R DACを導入しているものの、フラッグシップのSP3000やSP4000はあいかわらず市販D/Aチップを採用していますし、自社製DACでChordやdCSのようなメーカーも存在しますが、それらはR-2Rではなく別の手法で圧倒的な性能とサウンドを引き出しています。
その一方で、もっと安いモデルになると、どれだけ高級なDACを搭載したところで、それ以外の部分、たとえば電源やアンプ回路の作り込みが不十分であれば意味がありませんので、DX270くらいの価格帯で初めてメリットが引き出せるレベルになると思います。
そんなわけでDX270はディスクリートR-2R DACのポテンシャルを体験したい人、そして普段使いに適している万能ポータブルDAPを探している人、その両側面から気兼ねなくおすすめできる優秀なモデルだと思います。
ちなみに同時期に同じくディスクリートDAC搭載で60万円のHiby RS8 IIも試聴したので、次回はそちらも紹介します。
アマゾンアフィリンク
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