2026年5月22日金曜日

TAGO STUDIO x MOONDROP Harmon-SP イヤホンのレビュー

TAGO STUDIO x MOONDROP Harmon-SP というイヤホンを買ったので感想を書いておきます。

TAGO STUDIO x MOONDROP Harmon-SP

2025年発売、約5万円のダイナミック型イヤホンで、トリプルダイナミックドライバーというユニークな構成です。日本のTAGO STUDIOと中国MOONDROP 水月雨のコラボということで、どちらも支持している私としては気になって買ってみました。

TAGO STUDIO & MOONDROP

近頃の高音質有線イヤホン市場の中で、5万円という価格はそこそこ安い部類に入ります。ワイヤレスイヤホンの上級機がそれくらいなので、それでもあえて有線を好んで使うマニア向けとなると十万円超の価格帯に注目が集まる様子です。

私もそういったエリート思想に毒されてしまった一員なので、5万円のイヤホンと聞くと「きっとクセの強い一発芸サウンドなのでは」と半信半疑になってしまいがちです。

Harmon-SP

とくに今作Harmon-SPはトリプルダイナミックドライバーという奇抜なコンセプトなので、想像しただけで低音盛り盛りのドンシャリ音圧モンスターが思い浮かび、不安が増します。

それでもあえて興味を持った理由は、シンプルにTAGO StudioとMoondrop水月雨のどちらも私のサウンドの好みに合うモデルが多く、この二社のタッグであれば、そう悪いものにはならないだろうという信頼感があります。もし低音が強烈でも5万円ならEDM専用機として割り切れるという考えで、いざ試聴してみたところ、当初の想像を裏切り、かなりバランスの取れた筋の良いサウンドだったので、購入することになりました。

中身が透けて見えます

公式サイトのイラスト

そんなわけでHarmon-SPですが、スモーククリアの本体を覗き込んでみると、確かに三つのダイナミックドライバーが一列に並んでいる、なかなか他で見ないユニークな構成が確認できます。

公式では「同軸型4チャンバー3DDカナル型イヤホン」と呼んでおり、Moondropラインナップの中ではXTM Seriesというユニークなアイデア重視のシリーズに入るようです。

水月雨 和鳴Harmon

すでにMoondrop単独で和鳴Harmonというモデルをほぼ同価格で出しており、今回私が買ったHarmon‐SPはそちらをベースにTAGO Studioとのコラボで外観デザインやサウンドチューニングを大きく変更したスペシャルモデルということになります。

SPという名前からも、短期間の限定リリースかと思ったら意外と長く販売しているので、ショップのカートに入れっぱなしでずっと悩んだ末、そろそろ買っておかないと後で後悔すると思って購入しました。

TAGO Studio T3-01

つまりHarmon-SPの企画製造はMoondropが主体で、サウンドやデザインに関してTAGO Studioと合同で開発したような流れでしょうか。

TAGO Studioは群馬県高崎市にて同名のレコーディングスタジオと、ヘッドホンOEM開発製造実績のある地元メーカーがタッグを組んで発足したローカルな精鋭ブランドです。少量ロット生産なので手に入りにくいタイミングもありますが、とくにT3-01は音質と製造品質に対して価格設定がバグっている素晴らしいモデルで、密閉型の最高峰候補の一つです。

私自身もT3-01のサウンドに惚れ込んでおり、世紀の傑作だと思っているので、今回そのエッセンスを受け継いだサウンドとウッドデザインを継承しているというだけでも興味が湧いてきます。

そしてMoondrop水月雨といえば高コスパ中華系IEMイヤホンブームの火付け役として代表的なメーカーです。日本では2022年に五千円のChuというイヤホンが注目され、最近ではイヤホンの枠を超えて大型ヘッドホンからスマホまで手広く展開しています。私自身もChaconne、Stellaris、S8といったモデルを買ってきました。

他の中華系メーカーとの大きな違いは、搭載ドライバーや測定グラフだけのスペック競争に陥らず、それぞれのモデルごとに独創的なデザインやサウンドコンセプトを設定しており、大量生産のコスパだけではない感性的な聴かせ方に定評があります。

ほとんどのイヤホンメーカーが広東省深センのIT産業都市に集中しているのに対して、内陸でパンダと三国志と回鍋肉の四川省成都に本社を構えているのも趣があって良いです。発足当初からパッケージに美少女イラストがあるのが買いづらくさせているものの、もうメーカーの味として定着したので気にならなくなりました。

あいかわらずのパッケージ

ケースと本体

付属品

Moondrop水月雨らしく、モデルごとにパッケージのイメージイラストが凝ってます。中身は至ってシンプルで、付属ケースもコルク風で高級感があります。それ以外にはベーシックなイヤピースと説明書類だけですが、5万円の製品としてはかなり高品質にまとめてある印象で、安っぽさは感じません。10-20万円のモデルと比べても遜色ないプレゼンテーションです。

ケーブル

かなり良い感じです

付属ケーブルの品質の高さには驚きました。イヤホン側のコネクターは一般的な2ピンタイプですが、アンプ側は独自機構で3.5mmシングルエンドと4.4mmバランス端子を交換できるようになっています。

ケーブル線材はそこそこ太いものの、柔軟でサラッとした布巻きなので、絡まらずクセも付きにくく、タッチノイズも低いです。一般的なビニール線と比べると、装着時にケーブルがロープのように垂れ下がってくれるおかげで、イヤホンが外側に引っ張られる感覚もなく、フィット感の良さに貢献します。

多くのイヤホンメーカーは自社でケーブルを製造する技術が無いため、アリエクで適当に調達したようなものを同梱しており、もっと高価なモデルでも、どうせマニアは自主的に高級ケーブルに買い替えるだろうと割り切ってか、かなりショボいケーブルが同梱されている事がよくあります。

ケーブルによる音質変化については賛否両論ありますが、少なくとも装着感やタッチノイズなどの実用的なレベルで、せっかく高級イヤホンを買ったのに別途ケーブルを買い足して想定外の出費ということがよくあります。その点Harmon-SPの価格でここまで優れたケーブルが付属しているというのは珍しく、購入の後押しになってくれます。

余談になりますが、このタイプのケーブルの唯一の弱点は、Y分岐より上が緩いツイストペアなので、正しい巻取り方を実践しないと次第にほどけてきます。(イヤホンに限らず、ケーブルがほどける、ねじれる、内部で断線するといった問題が起こりやすいのは、正しい巻き方を知らずグルグル巻いてしまう初心者に多いです。知らないなら「逆相巻き」とかで検索してみてください)。

本体デザイン

3×DD

肝心のドライバー構成は三つのダイナミックドライバーが直列配置されているのが透明シェルから透けて見えます。

三つとも10mm口径の振動板で、一番手前にある中高音域用ユニットはアルミ・マグネシウム合金振動板、N52ネオジムマグネット、CCAWボイスコイルというモダンな構成です。

その後ろにある二つの10mmドライバーは低音用で、振動板が向かい合う対向配置になっており、ボイスコイルもCCAWではなくパワフルな駆動に適したOFC製を採用するなど、単純に同じドライバーを三つ並べるのではなく用途ごとに仕様を変えています。

ドライバーを対向配置にするのはイヤホンではオーテクがATH-CKR100などで採用していましたが、スピーカーの世界でもPush-Pull Isobaric Driverなどの名称で低音ウーファーに稀に見られます。

対向配置するメリットとして、チャンバーを上手く設計することでドライバー背圧を打ち消し合い、余計なハウジング反響を低減することができるのと、振動板の前後の動きの違いによって発生する非線形な歪みを平均化することで正確な動作が保証できます。

これらのメリットはどちらも大振幅の低音用ドライバーで効果を発揮しますが、高音に求められる高速で繊細な動きには不利な側面もあるので、Harmon-SPが高音専用のドライバーを追加しているのに納得できます。3×DDなんて本当に必要なのかと懐疑的でも、こういった側面から見ると合理的な構成のように思えてきます。

同軸のメリット

3×DDだからこそ起こりうる問題としては、チャンバー内の空間音響設計が不十分だと、ドライバー同士の出音タイミングの整合性の悪い、濁ったサウンドになりがちです。

これは3×DDに限らず、音響設計が未熟なまま大量のドライバーを詰め込んだだけの高級マルチドライバーイヤホンでよくある問題です。複数のドライバーが帯域を埋め尽くすため周波数測定上ではフラットに見えても、時間軸で見るとそれぞれ立ち上がりや残響のタイミングや3D空間配置がバラバラで、統一感の無いサウンドになってしまいます。たとえば女性ボーカルだけが耳の上の方で延々と響いているといった感じです。

その点、MoondropとTAGO Studioのどちらも音響設計の技術力の高さに定評があるので、ハウジング内部でかなり高度な微調整が行われていることが想像できますし、三つのドライバーが出音ノズルから見て一直線の同軸配置になっていることも無駄な空間のズレを回避するために貢献していると思います。

同軸のデメリット

この3×DDというアイデアは今作のデメリットでもあり、横から見るとハウジングがとても長いです。フェイスプレートはコンパクトに見えるのに、いざ装着してみると耳穴からずいぶん張り出します。

幸い出音ノズルやケーブル位置の設計は優秀なので、耳穴を起点に軸線が定まらないといった不具合も無く、フィットの安定具合は良好です。ただしソファで横になるとかで耳が側面から押される場合、本体がかなり飛び出しているため、ゼンハイザーなどの薄型イヤホンと比べると扱いづらいです。

透明シェルから見えるとおり、3×DDを詰め込むにはこれくらいの長さが必要で、むしろ音響設計も含めて、よくここまでコンパクトに仕上げたと感心できるのですが、厚さはやっぱり気になります。

Sennheiser・64Audio・Harmon-SP・UE

ケーブル装着時

参考までに、IEMイヤホンの典型的な形状と並べて比べてみました。ゼンハイザーIE900と比べれば確かに厚いですが、64Audioなどのシェルデザインに慣れている人なら問題なさそうです。

ケーブルとイヤピースを装着した状態で見ると、むしろハウジング側面がコンパクト過ぎるため、まるで長い棒のように見えることで厚さが強調されるデザインです。

木材パネル

T3-01と

側面のウッドパネルがTAGO Studioとのコラボの証です。木材の質感やロゴの刻印もT3-01と共通しており、コラボとして親しみが持てます。

実際この木材がサウンドに影響するのか、それともただのデザイン要素なのかは不明ですが、通常版Harmonのサイバーなメタルデザインとは対照的に、大人っぽい落ち着いた雰囲気を演出してくれます。ウッドというとJVCを連想しますが、あちらはもうちょっと豪華な宝飾品をイメージするのに対して、今作は無印とかを連想するシンプルな感じが良いです。ケーブルの2ピンコネクターのみガンメタルなので、Fiioとかのゲーミングっぽいイメージでミスマッチなのが少し残念です。

インピーダンス

再生周波数に対するインピーダンスの変化を確認してみました。

公式サイトでインピーダンスの情報が見当たらなかったのですが、Amazonでは7.5Ωと書いてあり、実測でもそのくらいです。コラボではない通常版Harmonは19Ωらしいので、そのあたりの設計はだいぶ変更が加えられているようです。

それにしても、3×DDという構成でありながら、クロスオーバーに変な捻じれもなくスムーズに繋がっており、これならシングルダイナミックと言われても信じてしまいます。参考までにシングルダイナミックのゼンハイザーIE900も掲載してみました。

同じくらいのインピーダンスのハイブリッドマルチドライバー型の例としてUE-LiveとForte Ears Macbethも載せてみましたが、公称インピーダンスがなんであれ、ドライバー間クロスオーバーの影響でアップダウンが激しいです。だからといって音がフラットでないという意味ではありませんが、インピーダンスの変動は坂道のアップダウンのようなもので、自動車が一定の速度を維持するのが難しいように、安定駆動するためには優れたアンプが求められます。

同じグラフを電気の位相変動で見るとわかりやすいです。Harmon-SPはIE900ほど平坦な純抵抗負荷ではありませんが、それでもそこそこ安心して駆動できます。

7.5Ωというのはイヤホンとしても低い方なので、アンプの出力インピーダンスには注意が必要ですが、そこそこ安定しているので大抵のドングルDACやDAPなら問題ありません。5万円という比較的低価格なイヤホンだからこそ、ソースにそこまでこだわらずに駆動できそうなのは嬉しいです。

音質とか

ごく一般的な鳴らしやすいIEMイヤホンなので、音量に関しては普通のUSBドングルDACでも全然余裕です。

今回の試聴では普段から聴き慣れているHiby RS6 DAPを使いました。イヤピースは色々試した結果AzlaのMaxです。

Hiby RS6 DAP

まずサウンドの第一印象から、冒頭でも述べたとおり、3×DDといって想像していたような強烈な低音ブーストのドンシャリではなく、かなりバランスよくスムーズで、心地よく聴きやすい、だれでも良い音だと納得できるような仕上がりです。

厚みがあるものの膨らまず、力強い美しさが感じられ、この域に到達するためには経験豊富な耳でかなり調整を重ねたのだろうと想像できます。

3xDDという限られた素材をもとにサウンドの造形を丁寧に仕上げてきたのは、まさに私がTAGO StudioとMoondropに期待していたものです。数十万円の高級イヤホンでもここまで音響チューニングを上手に整えているモデルは稀です。

Amazon

ヴォーン・ウィリアムズ専門のAlbion RecordsというマイナーレーベルからRoderick Williamsが歌う「Rise, Heart」を聴いてみました。

このアルバムは内容も音質もとにかく良いので、オーディオファイル試聴盤としても優れていますし、Harmon-SPとの相性も抜群に良いです。アルバム冒頭の数秒を聴いただけでポテンシャルと表現力の高さに感銘を受けます。

Williamsの力強いバリトン歌唱をピアノと弦楽四重奏団がサポートする歌曲集で、冒頭のドラマチックな讃美歌集から始まり、後半は小気味よく陽気な民謡に移行する、選曲のバリエーションも豊かです。Williamsの歌声は本当に素晴らしく、うっとりするような美声の虜になりますので、普段クラシックの歌曲に馴染みの無い人でもぜひ聴いてみてください。


Harmon-SPの空間展開は左右に広く、上下は狭く、奥行きや音像定位はそこまで遠くない、二次元パノラマ的な表現です。低音は期待通りに豊かですが、それ以上に中低域のつながりが優秀で、男性の発声がしっかり腹の方から出ており、高音の滑舌や倍音が不自然に目立つこともありません。

朗々とした歌声を中心にピアノ伴奏との質感の描き分けも上手で、弦楽器が生み出す情景もキーキーうるさくない暖かみがあります。この時代の歌曲は伴奏が単純にメロディをなぞったりコードで補強するのではなく、歌詞とは裏腹の内面や心情を映し出す鏡のような役割があり、そういった魅力を最大限に引き出してくれるイヤホンです。クラシックでなくともボーカル中心の楽曲が得意で、じんわり心の奥まで染み渡るサウンドが味わえます。

歌声が得意な美音系イヤホンというと、チタンや真鍮を響かせるなどで特定の帯域だけ鮮やかに仕立てるモデルが多く、そのため女性ボーカル向け、男性ボーカル向けといった偏りが生まれてしまいがちですが、Harmon-SPはスイートスポットが広く、明確な山や谷がありません。しかし退屈なスタジオモニターヘッドホン系というわけでもなく、そこにスムーズな厚みという要素が加わって親しみやすいサウンドに仕上がっています。

この「モニターらしくもスムーズで親しみやすい」というのはTAGO Studioらしい特徴なので、コラボレーション企画として納得できる仕上がりです。

とくにダイナミックドライバーにウッドとプラスチックハウジングという構成から想像すると、絶対どこかの帯域で余計な反響が邪魔をするという不安がありますし、高級なチタンやアルミハウジングと比べてプラスチックの軽い響きのせいで腰高で安っぽく聴こえるイヤホンがよくありますが、Harmon-SPはハウジングの響きが特定の帯域だけに強調されないように上手く分散させている感じがして、それが全体的なスムーズさや厚さに貢献しているようです。

逆に弱点としては、全体的にフォーカスが甘いため、音像の細部まで解像しようと頑張ると、もどかしく感じます。音像の太さで隙間を埋めるような描き方なので、歌手や楽器の充実感がありますが、ちょっとピントが合っていないような緩さもあります。もっとスカッとした空間の音抜けや透明感を味わいたいのなら、同じ価格帯のダイナミック型でもゼンハイザーIE600などの方が有利です。

ただしIE600ではHarmon-SPのような豊かな音色は味わえず、もっと素朴で軽い描き方なので、Harmon-SPの充実感に慣れてしまうとIE600では物足りなく感じます。

Amazon

Blue NoteレーベルからWalter Smith III「TWIO Vol.2」を聴いてみました。SmithのサックスにJoe Sandersのベース、Kendrick Scottのドラムのピアノレストリオです。

近頃のBlue Noteレーベルというと、ライト層やR&B寄りで、スウィング感の乏しいリリースが多く、ジャズファンとしては興味が失せていたのですが、今作は本物です。ピアノレストリオはピアノのコード伴奏がお膳立てしてくれないため、有名なロリンズなどのように、サックス奏者の真価が試されるイメージがあり、ベースとドラムも伴奏ではなく対等な立場で勝負を挑む攻撃的な演奏になりがちで、今作も例外ではありません。Walter Smith IIIは個人的にFresh Sounds「Casually Introducing...」やCriss Cross「III」の頃からファンなので、こういった純粋な演奏中心のアルバムは大歓迎です。

Questyle Sigma Pro

こういった激しいジャズ演奏でHarmon-SPのサウンドをもうちょっと注意して観察すると、気になるポイントが二つあります。

まず、色々なアンプで聴き比べてみたところ、アンプごとに高音の感触が大きく変わるようです。たとえばHiby RS6からQuestyle Sigma Proに変えてると、ザラッとした金属の質感が目立つようになります。もうちょっとサックスの音色のコアの部分を味わいたいのに、サックスとハイハットのどちらもアンプ次第で高音の金属っぽさが気になってきます。

高音用ドライバーがアルミ合金振動板ということで、そちらの影響でしょうか、金属製ハウジングのイヤホンようなキンキン反響する感じではありません。ソニーやFocalのようなタイプの金属っぽさというか、ドンシャリの「シャリ」の部分というと伝わるでしょうか。

これが常にそういう鳴り方ならわかりやすいのですが、Harmon-SPの場合はアンプによって見えたり隠れたり、かなり差があるので、試聴時の評価にも影響しそうです。たとえばiBasso DC07PROのような高解像で低音が軽めなドングルDACと合わせると、この金属っぽいシャリが目立ってしまい、期待するほど高音の爽快感や空気感は得られません。イヤホンのチューニングが高音よりという意味ではなく、高音を強調する傾向のアンプとの相性に注意が必要という話です。

私の場合は温厚寄りなHiby RS6 DAPとの相性が最善でしたが、どのみち解像力を重視するイヤホンではないので、DSP-EQで調整するとか、真空管プリ系のDACアンプと組み合わせて高音を抑え気味に調整してみると面白いです。たとえばiBassoドングルDACでもDC07PROやDC EliteよりNunchakuの方が良かったです。

二つ目のポイントは低音側で、こちらも結構面白い描き方です。量感でいうと十分パワフルに出ているものの、アタックは比較的ゆっくりめで、鼓膜を圧迫するような鋭い音圧のインパクトは少なく、しかし引き際がとても速く、余計に響かずにスッと消えて無くなります。

特定の重低音域だけブーストしている感じではないので、とくにジャズのウッドベースのような生楽器の音色や質感の描き方が上手いです。先ほど男声歌手が得意だったのも同じ理由でしょう。逆にEDMの打ち込みキックドラムで強烈なパンチを期待していると肩透かしを食らうかもしれません。

とくに引き際が速いという点がユニークで、これはたぶん対向配置の低音ドライバーと音響チャンバーに由来しているのだと思いますが、イヤホンでは他にあまり類を見ない鳴り方です。

単純に二つのドライバーの押し引きで打ち消し合うといった機械的な現象に由来しているのか不明ですが、立ち上がりが遅ければ減衰も遅いという普段の想定が覆されるので、どうにも不思議です。ズンッとアタックが鳴った直後に、まるで真空に吸い込まれるようにピタッと止まるため、このHarmon-SP特有の低音に慣れてから普段のイヤホンに戻ってみると、キックドラムがズゥーーンと響き続けていることに驚かされます。

Harmon-SPの低音表現はTAGO Studioのスタジオモニター的な感覚に合っていると思いますが、PAや家庭用フロアスピーカーでバスレフ低音が部屋の壁に反射してズンズン響き渡る感覚に慣れていると、Harmon-SPのコントロールが効いた低音はジャズには良いものの、打ち込みのキックドラムには物足りなく感じるかもしれません。音量ではなく時間軸の話なのでイコライザーでは補正できません。

低音の好みは個人差がありますし、たとえば64Audioのように交換可能なフィルターポートで低音のレスポンスを調整できるモデルもあるように、絶対的な正解はありません。そんな中でもHarmon-SPは一般的なダイナミック型イヤホンとは一味違う独特の鳴り方なので、それも含めてユニークかつ有意義なサウンドです。

おわりに

TAGO STUDIO x MOONDROP Harmon-SPは完璧なレファレンス系サウンドというわけではないものの、歌手や楽器の厚くスムーズな描き方が魅力的なイヤホンです。高音と低音の両端に独特の特徴がありますが、全体的なチューニングのセンスの良さや丁寧な仕上げ方のおかげで不快感が少ないため、だいぶ評価が甘くなってしまいます。

とくにハイエンドな高解像イヤホンばかり使っている人こそ、Harmon-SPをコレクションに追加する意義は大きいと思います。その点では、なんでもこなすメインイヤホンというよりも、良い音色で音楽を聴く事を忘れないために手元に置いておくべきサブ機という存在かもしれません。

この内容で5万円という価格はだいぶ安いと思いますが、それでもダイナミック型であればゼンハイザーIE300/IE600やAcoustune HS1750Cu、Final A5000/A6000といった優秀なモデルが視野に入ってくる価格帯ですし、初心者がメインイヤホンを探しているのなら、ひとまずそれらを選ぶ方が王道ルートだと思います。

ただしAcoustuneならHS1900X→HS2000MX、FinalならA6000→A8000→A10000、ゼンハイザーならIE600→IE900といった具合に段階的な上位モデルの存在が脳裏をよぎるところ、Harmon-SPは今のところ同じ系統のサウンドの上位モデルが思い浮かばないオンリーワンの存在なので、コアなイヤホンユーザーほど魅力を感じるユニークさがあります。

最後に余談になりますが、私を含めた多くのイヤホンユーザーは高価なレファレンス級イヤホンを購入したあとでもネタ的に面白そうなイヤホンをついつい買い足してしまい、数回使っただけで御蔵入りということがよくあります。

面白そうだからと買ったものの、いざじっくり音楽を聴くとなると、結局は信頼が置けるハイスペックなメインイヤホンの方ばかり選んでしまいがちです。

Harmon-SPのトリプルダイナミックドライバーという奇抜な構成も、そんな一発芸イヤホンのカテゴリーに入ると思って懐疑的だったのですが、実際に購入してみたところ、数カ月経った今でも使う機会が多いことに自分でも驚いています。ボーカル中心の曲や、古いジャズやクラシックなど、音楽の旨味だけを抽出したい時に手が伸びるため、想像以上に活躍してくれています。

さらに、今作はTAGO Studioの名機ヘッドホンT3-01の良さを連想できるサウンドに仕上がっていることにも驚かされました。コラボといっても実は名前を借りているだけの企画が多いイメージがある中で、Harmon-SPの音を聴いてみるとMoondropとTAGO Studio両方の特徴や魅力がしっかりと反映されています。

幸い私は両社について事前に知っていたことが購入のきっかけになりましたが、逆にそうでない人にとって、ここからMoondrop水月雨とTAGO Studioの製品コンセプトやアプローチに共感を持ってもらえる、コラボレーションとして理想的な姿だと思います。


アマゾンアフィリンク

水月雨 MOONDROP x TAGO STUDIO Harmon-SP

TAGO STUDIO T3-01

TAGO STUDIO T3-CB43 4.4mm バランス 1.2M

TAGO STUDIO T3-02

水月雨 Moondrop 和鳴 - Harmon

水月雨 Moondrop 流星 - Meteor

Moondrop CDプレーヤー DISCDREAM 2