2026年2月7日土曜日

Questyle SIGMA Pro ポータブルDACヘッドホンアンプのレビュー

Questyle SIGMA Proというヘッドホンアンプを買ったので、感想を書いておきます。

Questyle SIGMA Pro

2025年11月発売、価格は約14万円で、比較的大きいサイズはデスクトップでも活用できそうです。Questyleといえば以前から独自の高音質アンプ回路に自信を持っているメーカーなので、この最新作もどうしても気になってしまいました。

Questyle

Questyleというのは他の中華系メーカーと同じく2012年頃に深セン発展の波に乗って誕生した比較的新しいブランドです。

創業社長のJason Wang氏が中心となりアナログオーディオ回路設計に重点を置いている体制なので、他の深セン系の大手メーカーFiioやiBassoなどと比べると、もう少し古風で地に足のついた印象があり、製品ラインナップもそこまで多くありません。

基板が見えるようになっています

もうひとつQuestyleのユニークな点として、現在でもそうなのかは不明ですが、台湾のFoxconn(鴻海精密)との長期的なパートナーシップを結んでおり、製品の製造に同社の最新設備を活用していました。FoxconnといえばアップルからNvidiaまで最先端メーカーの委託製造を行っている世界的企業ですから、大きなアドバンテージになっています。高級PCマザーボードのような黒い基板に整然と実装された美しいレイアウトだったり、一部の限定モデルでは白いセラミック基板を採用するなど、製造品質を大きな魅力として掲げているのは中華系メーカーとしては珍しいです。

CMA400iとCMA12

デビュー作のCMA800や2020年の人気モデルCMA400iなど、Questyleといえばコンセント電源の据え置き機がメインで、そこからCMA12、CMA15、CMA18と現在まで続いています。比較的コンパクトなデスクトップ型でありながら、質実剛健な削り出しアルミシャーシの重厚感や高品質な組付けなど、所有感を満たしてくれるのも人気の理由です。

それらと並行してDAPやUSBドングルDACなども不定期に出しており、私自身も2017年のQP2RというDAPを買って使っていました。

2024年に大きな動きがあり、据え置き機CMA18の名前を冠したCMA18 Portableというモデルが登場、そして2025年末には発展型のSIGMAとSIGMA Proが出たことで、スマホと連携するポータブル機という最近流行りのジャンルに本腰を入れてきた様子です。

M15iやM18iといったドングルDACシリーズも充実してきましたし、iPhoneでLDACやaptX Adaptive/Losslessを使えるようにするQCC Dongle Proという超小型のBluetooth送信機も話題になりました。

Questyle M18i、SIGMA、SIGMA Pro

10万円のSIGMAは前年のCMA18 Portableと同じ筐体で内部のアンプ回路設計を変えた実質的な後継機のようで、14万円のSIGMA Proは一回り大きい上位モデルという位置づけです。

両者の価格差は意外と大きくないのですが、サイズ感としてはSIGMAの方はChord MojoやiFi xDSD Gryphonなどで、SIGMA ProはChord Hugo 2やiFi micro iDSDシリーズに近いです。

内部の回路基板が確認できます

バランス接続だと赤色LEDが四つ点灯します

上の写真でもわかるように、最近のQuestyleは透明の天板で中身の基板が見えて、回路上のLEDもユニークなデザインアクセントになっており、アンプの回路設計と製造品質への自信が伺えます。

余談になりますが、数年前のCMA12というモデルで店頭ディスプレイ用にアクリルパネルを装着したモデルを展示したところ、それが欲しいという人が多かったことで、それ以降の製品デザインに取り込んだように記憶しています。

デザイン

そんなわけでSIGMA Proになりますが、バッテリー搭載のポータブルDACヘッドホンアンプという、よくあるフォーマットで、USBやS/PDIF入力以外にも、最近の流行にあわせてBluetooth受信機能も搭載しています。

銀と黒の二色

Fiio Q15と比較

Chord Hugo 2と比較

シャーシは黒と銀が選べて、私は黒を買いましたが、試聴機は銀だったので両方の写真を使っています。

実際に使ってみると、ポータブルとしてはやはり大きいものの、アルミなので330gとそこそこ軽いです(Chord Hugo 2が365gなので同じくらいです)。

デザインと製造品質は良好です

シャーシはスッキリした長方形で、天板のはめ込みは段差無くスムーズに仕上がっており、自動車の窓ガラスのような黒いグラデーションや、各コーナーのアールにも統一感があるおかげで、かなりセンスの良いデザインだと思います。画面に対するQuestyleロゴと四連ボタンの配置も上手いです。

このあいだのiBasso D17・PB6のように、最近はラック機器のようにハンドルを付けるのが流行っているようで、SIGMA Proということでプロっぽく見せるには効果的だと思いますし、ボリュームノブや端子の保護としての実用性もあります。

下面は地味な一枚板なので、デスクトップで使うなら百均でゴム足を買って付けた方が良さそうです。私は別売のレザーケースというのを買いました。

別売レザーケース

カバーを閉じた状態

なぜか下面にロゴがあります

こんな感じに乗せると良さそうです

レザーケースは専用設計で、ブックカバーのように上面がマグネットでパカッと開くデザインになっています。上面は無地で、Questyleのロゴが下面にエンボスされているのは謎です。

開いたカバーが邪魔になるのですが、その上にスマホやDAPを置くとちょうどよいかもしれません。できればタブレットのカバーみたいにスタンドに変形するとかのギミックが欲しかったです。

D/AチップはESSの2ch用最先端ES9069をデュアルで搭載しており(Sigmaの方はAK4493)、ヘッドホンアンプはQuestyle独自のCurrent Mode Amplifier回路、4300mAhバッテリーで最長12時間駆動できるそうです。Qualcomm Snapdragon Soundチップを搭載しておりBluetooh 5.4でaptX Adaptive、aptX HD、LE Audio、LDACに対応しています。とくにaptXがAdaptiveとHDに両対応しているというのは珍しいです。

44.1kHz/16bit パルス応答

D/Aチップのデジタルフィルターは変更できず、他社モデルで最近流行っているFPGAアップスケーラーなども実装していないようです。パルスで確認してみたところ、ESSでデフォルトのMinimum Phase Fast Roll-offでしょうか。

前面パネル

フロントパネルのボリュームエンコーダーは押し込むとミュートスイッチになり、ヘッドホン出力は4.4mmバランス、3.5mmシングルエンド、そして珍しく6.35mmシングルエンドも用意されているのが嬉しいです。

昔から高級ヘッドホンでは6.35mmタイプが案外多く、3.5mm変換アダプターは煩わしいので、直挿しできるのは重宝します。これでどうにか4ピンXLRもあれば完璧なのにと期待するのは贅沢でしょうか。

液晶画面とボタン

フロントパネル上面には液晶画面があり、再生サンプルレートやゲインモードなどが表示されます。その隣のボタンはそれぞれ単機能で、OUTPUTモード、ゲイン、入力切替、電源ボタンとなっています。

OUTPUTモードについては、ちょっとややこしいので後で解説します。

背面パネル

背面のUSB C端子は充電用とデータ用に分かれています。パソコンと接続するなら一本のUSBケーブルで充電しながら音楽が聴けたほうが便利だとは思うのですが、こうやって分けることでスマホのバッテリーを消費しないのはありがたいです。

できればFiio Q15のように分離と兼用が切り替えられたら便利でしたが、回路的に給電とデータを分離するのは音質面でのメリットも考慮しているのかもしれません。

再生中に充電器を挿すとチリチリノイズが聴こえます

ちなみに充電しながら使う場合は、充電器の品質によって音楽にノイズが乗ることもあるので注意が必要です。私が普段使っているAnkerのUSB充電器だとチリチリといったノイズやブーンというハムノイズが乗るものもあり、一方モバイルバッテリーから受電すればノイズは聴こえませんでした。

背面フル接続

最近のDACアンプでは珍しく、S/PDIFのRCA入力と角形TOSLINK光入力も用意されています。

さらに4.4mmと3.5mmのライン入力もあるのですが、これについては面白い仕様になっているので、あとで解説します。

二つのUSB C端子の間隔はちょっと狭いので、写真のような並びであればOKですが、両方ともコネクターが太いとぶつかります。

ケーブル太さ

S/PDIF RCAはシャーシ穴の直径が12.7mmくらいなので、あまり太いコネクターだと入りません。写真のAudioquestのやつくらいでがギリギリで、WBTだと入りません。(S/PDIFでWBTを使うのも変ですが)。

4.4mm入力周りも直径11mmの段差ががあり、いつもテストに使っているiFiの極太のやつは無理でした。

インターフェース

他のメーカーなら液晶画面に多階層の設定メニュー項目が用意されていたりするのですが、SIGMA Proのボタンは基本的に単機能で、たとえばGAINボタンを押せばハイとローゲインが切り替わるといったシンプルな動作です。

液晶画面とボタン

ボリュームノブはエンコーダーなのですが、メニューのページを巡回するとかではなく、ボリューム調整のみにしか使えません。こういった潔い操作性もQuestyleの人気のひとつだと思います。逆にガジェット好きな人だと、DACのフィルター設定やイコライザーなどの不在に困惑するかもしれません。

OUTPUTボタンだけは特殊なので、ちょっと解説が必要になります。これを押すと画面上でHP OUT・LINEと切り替わるのですが、LINEといってもレベル固定のライン出力モードではなく、ヘッドホンアンプを通した出力で、ボリュームも可変できるので、実質的にはHP OUTヘッドホン出力と同じです。

OUTPUTボタンでHP OUT・LINEを切り替えることで、それぞれ個別にボリューム位置を記憶できるという単なる便利機能のようです。

設計者の想定としては、普段はHP OUTを使い、LINEの方は特定のボリュームに合わせておくことで、擬似的にレベル固定のライン出力モードとして呼び出せるといった使い方でしょうか。

OUTPUTボタンはGAINボタンの隣にあるため、間違えて押してLINEモードに切り替わってしまうといきなり大音量になる不安があるため、私はLINEモードはボリュームをゼロに合わせておくクセがついてしまいました。つまり有効活用できていません。

いきなり大音量になるリスクを考慮してか、OUTPUTボタンを長押しすると画面表示がHP OUTからIEM MODEに切り替わり、この状態だと、再度長押しでHP OUTに戻らないとLINEモードに移行できないようになります。

隣のGAINボタンはIEMモードだとHIGHとLOWのみ選べて、HP OUT/LINEモードだとさらにSTUDIOという最高ゲインモードが呼び出せるという仕組みになっています。

なんだかこうやって説明するだけでも回りくどいというか、開発者にとっては自明の判断なのかもしれませんが、使う側からしたら無駄に難解になっており、慣れるまで使いづらいですし、そのメリットも感じられません。

最大ボリューム

ボリュームノブの挙動もちょっと風変わりです。調整範囲の表示は0~64なのですが、エンコーダーをカチカチと2クリック動かすごとにボリューム数値が1変わります。内部では0.5刻みで変わっているとかではなく、1クリックでは音量は変化しません。慣れれば問題ないのですが直感に合わない不思議な設計です。誤動作防止とかの配慮でしょうか。

できればスムーズな128ステップにして、複雑なHP・IEMモードやゲイン設定をもっと簡潔なHIGH・LOWの二択くらいシンプルにしてもらいたかったです。例えばAK SP3000はゲイン設定が無く0-150のボリューム数値だけで音量を調整しますが、使いづらいと感じたこともありません(あちらはタッチスクリーンで一気に上下できるメリットはありますが)。

表示がおかしくなることがあります

SIGMA Proは他にもUI周りの挙動が怪しいことがあり、こちらも慣れれば実用上困ることも無いのですが、なんとなくロジック処理設計が甘いと思えることが多々あります。

たとえば、たまに電源投入時にUSBケーブルやヘッドホンを認識しておらず(画面や基板上のLEDが点灯していないのでわかります)一旦抜き差しが必要だったり、電源ボタン長押しでも電源が入らず、一旦離して再度長押しすると電源が入るとか、DSD256再生時のみボリュームノブを回すと表示が見切れるといった具合に、細かい点を挙げると色々あります。幸いランダム性や致命的な誤作動は無いので、一旦音楽を聴き始めればこれらは無視できます。

バッテリー

スペックでは最長12時間ということで、実際に普段使っている分には問題ないくらい長く持ってくれるのですが、いくつか注意点もあります。

まず当然ながら実際の再生時間はアンプの駆動負荷に左右されるので、たとえばフォステクスT60RP MK2ヘッドホンをバランス接続で適正音量で延々と鳴らし続けてみたところ、6時間20分で電池切れになりました。充電は5V2Aの10Wが上限なので3時間弱で完了します。

待機中オートパワーオフも一応備わっているのですが、これにはいくつかの条件があるので、気をつけないと翌日バッテリーがゼロになっているというのを何度も経験しました。

基本的に10分間放置状態でオートオフする仕組みなのですが、まずUSBで接続では、再生が停止した(液晶画面でNO DATA表示)状態でもUSBケーブルとヘッドホンケーブルが両方接続されているとオートオフされません。この状態でUSBとヘッドホンケーブルのどちらかを抜くと10分後にオートオフされます。充電用USBケーブルが接続されているかは影響しません。

たぶんパソコンでサウンドカード的に使用するのを想定して、音を再生していなくてもデバイスのリンクが確立している状態で勝手に電源が切れる事を回避する狙いがあるのでしょう。しかしバスパワー給電ではないので、別途USBケーブルからの充電はノイズ対策が必須なので、意外と手がかかります。

S/PDIF入力では、一度でも音楽を再生した後はNO DATA状態でもヘッドホンケーブルが接続されている間はオートオフされません。ヘッドホンケーブルを抜くと10分でオートオフされます。つまりUSB入力と同じく、ヘッドホンが接続されているかどうかがフラグになるようです。

ようするに、音楽を聴いてから停止してそのまま放置するという、実用上で一番ありふれた使い方でオートオフしてくれないので、このあたりに結構気を使います。

アナログライン入力

SIGMA Proの背面ライン入力端子は極めて特殊で、アナログヘッドホンアンプとしてだけでなく、実はUSBオーディオ入力にも使えます。

つまりパソコンに接続するとオーディオ入力デバイスとして認識され、そのままDAWでレコーディングに活用できます。

◎REC表示

INPUTボタンでUSBではなくバランスもしくはシングルエンドのANALOG INPUTを選択した状態でUSBケーブルでパソコンに接続することで、液晶画面上に◎RECと表示され、パソコン上でもオーディオ入力デバイスとして検知されます。

つまりUSB接続でオーディオ出力と入力を同時に行うのは不可能で、どちらか一つのデバイスとして認識されます。

出力と入力デバイスとしては両方同時に使えません

DAWで録音に使えます

オーディオ入力モードは48kHz・24bitに限定されて、Windows用ASIOドライバーも供給されていないので、極めてカジュアルな用途に限定されますが、たとえばアナログレコードをデジタル化するなどを想定しているのでしょうか。

ちなみに私のWindows 11パソコンだと、オーディオ出力のUSB DACとしては問題なく使えるものの、オーディオ入力ドライバーの方はどうも上手く動作せず(デバイスマネージャーで標準デバイスとして検知されるもののエラー10で停止します)、上のスクリーンショットのとおりMacでは正常に使えました。Windowsはこの手の標準デバイスの競合問題がよくあるので、できれば固有のデバイスID向けの専用ドライバーを提供してもらいたいです。標準ドライバーでも動く機器にわざわざ専用ドライバーを提供しているメーカーが多いのは、このあたりのユーザー環境に由来する不具合を回避するためです。

それにしてもSIGMA Proのオーディオ入力モードはコンシューマーUSB DACアンプとしては極めて珍しい機能ですし、重宝する人もいるかもしれませんが、こういったところの謎のこだわりがQuestyleの面白さでもあり、その分コストがかかっていると考えると微妙な気持ちです。

もちろん単体でアナログ入力のヘッドホンアンプとしても活用できますが、USB入力デバイスとして使えるということはADCを通していると思います。

ライン入力レベルが高すぎるとヘッドホン出力がクリッピングします

USB ADCとしても同じ条件でクリッピングします

ちなみにSIGMA Proの背面アナログライン入力に関しては、大きな注意点があります。

入力レベルはバランスで2.2Vrms(6.2Vpp)、シングルエンドで1.1Vrms(3.1Vpp)あたりが上限で、それ以上の信号を入力するとSIGMA Proのゲイン設定やボリュームレベルに関わらず信号がクリッピングします。

これは最近のデバイスとしてはだいぶ低い上限値なので、普通の使い方をしてもトラブルに遭遇する人が多いと思います。

今回私の隣でSIGMA Proを試聴していた人が、アナログヘッドホンアンプとして使うと音が悪いと文句を言っており、よく見たらUSBドングルDACをボリューム全開でラインソースとして接続していました。

近頃ポータブルユーザーのラインソースとしてUSBドングルDACは定番になっていますし(それらをブーストするためのアナログポタアンの需要があります)、ドングルDACはバランスで最大4Vrms(12Vpp)くらい出せるモデルが多く、最近のアナログポタアンはそれらに許容できるよう設計してあるモデルが一般的になっているのですが、SIGMA Proはそれよりもだいぶ低いので要注意です。

もちろん最大4Vrmsといっても実際の音楽信号が常に4Vrmsというわけではなく、たとえば静かなクラシック音楽なら平均レベルが低いため問題に気が付かなくても、最大レベルに常時張り付いているようなEDMを聴くと音が割れまくるといった不具合に遭遇します。

また、USB入力デバイスとしてアナログレコードをデジタル化するといった用途でも、フォノアンプはレベル調整ができないものが多いですから、組み合わせによってはクリッピングして使い物にならない事もありそうです。

注意すれば対策できる問題なのですが、カタログスペックで明確にされていないので、ここで指摘しておきたいです。

ヘッドホン出力比較

ちなみにSIGMA Proのヘッドホン出力波形を確認してみたところ、やはり背面アナログ入力は48kHz ADCを通しているのか、24KHzでロールオフされているようなので、純粋なアナログポタアンが欲しいのならiBasso PB6やAK PA10などを選んだ方が良さそうです。

上のスクリーンショットでは、192kHz・24bitの1kHz矩形波を再生したものをRME Babyfaceで-10dBにレベル調整して192kHz・24bitで受けたものです。一番上がHiby RS6 DAPのヘッドホン出力、二段目がRS6からSIGMA ProへUSB接続で信号を送りSIGMA Proのヘッドホン出力、どちらも歪みが極めて低く、R-2R DAC搭載のRS6よりもSIGMA Proの方が可聴帯域外までしっかり伸びているのがわかります。

最下段がRS6からSIGMA Proへアナログ接続して、SIGMA Proのヘッドホン出力を見たもので、つまりSIGMA Proをアナログポタアンとして使ったわけですが、24KHzでカットオフされ、その上は歪み成分しか残っておらず、しかも可聴帯域内の歪みもだいぶ増えています。

出力とか

肝心のヘッドホンアンプの出力について、ちょっと不可解な結果になったので、一応ここに掲載しておきますが、以後Questyleから説明があれば修正したいと思います。

いつもどおりUSB入力で0dBFSの1kHzサイン波信号を再生しながら負荷を与えて、歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧を測ってみました。


赤がバランス、青がシングルエンド接続で、それぞれHP/LINEモードでのSTUDIO・HIGH・LOWゲイン、さらに破線がIEMモードでのHIGH・LOWのゲインです。(IEMモードではSTUDIOゲインは選べません)。HPとLINEモードの違いはありません。

ゲイン切替については想定通りで、HPからIEMモードに切り替えるとレベルが下がりますし、シングルエンドだとバランス接続の半分の振幅になります。ちなみにFiioなどと違ってUSB給電しても出力ブーストモードなどはありません。

HPモードのSTUDIOゲインが一番高出力で、グラフ右端で見切れていますが無負荷時20.4Vppが得られました。バランス接続での最大出力は38Ω付近で355mWくらいだったので、これは結構低い部類です。

ここがちょっと不可解で、パッケージや説明書のスペックでは32Ωで1200mWと書いてあるのですが、これがどうやっても出せません。さらに公式サイトの情報では最大25Vpp、5A、8Wと書いてあり、これらは説明書とも合いません。

パッケージと説明書のスペック

公式サイトのスペック

流石に8Wというのは飛躍しすぎですが、1200mW(1.2W)程度ならFiio Q15が大体それくらいなので現実的な数値です。32Ωで1200mWを出すなら電圧は17.5Vppの計算になりますが、上のグラフで見ても32Ωあたりだと10Vpp以下なので届いていません。

解釈違いや測定方法が間違っているというのは考えにくく、これまで見てきた他社のDAPやアンプでは公式スペックにほぼ合うのが当然で、ここまで合わない例は珍しいです。

Questyleが独自のCurrent Mode Amplifier回路が関係しているのかはわかりませんが、最終的にどれだけの負荷を与えると歪むのか、他社アンプとの公平な比較として、測定方法の解釈の違いは理由にはなりません。

他の製品の最大出力電圧と比較してみました。どれもバランス接続での最高ゲイン設定のみのデータです。

まず同時に試聴していたQuloos MUB5というモデルが非常に高出力でした。これもまた後日じっくり使えれば紹介したいと思います。

Questyle SIGMAとSIGMA Proの出力特性はほとんど同じで、グラフが重なっています。アンプの基礎設計は同じで、D/Aチップや電源周りなどを高級化したのがSIGMA Proだとしたら納得できます。さらに同じくQuestyleのドングルDAC M18iを見ると、最大出力は低いですが、負荷に対する出力曲線がSIGMAとよく似ているので、アンプの基本設計が共通していることが伝わってきます。

ドングルDACのiBasso DC07PROはバッテリー非搭載のUSBバスパワー駆動でありながら40Ω以下ならSIGMA Proよりも高出力なので、IEMイヤホン用として十分実用的です。

Fiio Q15とiBasso D17は同じような曲線で、先程言っていた32Ωで1200mWというと、だいたいこれくらいの電圧が必要になるので、SIGMA Proがそこに届いていないことがわかります。

そんなわけで、SIGMA Proの出力特性はこれといって不自然ではなく、Questyleらしいアンプ特性と思えるのですが、公式スペック数値との差だけがどうにも気になります。一応説明書には目を通したのですが、私が何か見落としているスーパーターボモードとかがあるのでしょうか。

SIGMA Proのみで、1kHzテスト波形を無負荷時に1Vppに合わせて負荷を与えていったグラフです。IEMモードやローゲインを選んでもアッテネーターが挿入されることはなく、どれも横一直線の優秀な特性に重なります。出力インピーダンスはバランスで0.5Ω、シングルエンドで0.3Ω程度と非常に低いので、低インピーダンスのIEMイヤホンを鳴らす用途でも断然優秀です。

Bluetooth

一応Bluetooth接続も試してみたところ、どうしても送信側との通信環境によって音質が変わってしまうため、あまり具体的な評価ができません。

LDACやaptX HDなど接続中ロゴが出るのは助かります

これは前回レビューしたFinal UX5000ワイヤレスヘッドホンでの話と同じになってしまうのですが、最近のBluetoothは可変ビットレートで電波環境に応じてアダプティブに圧縮率を変化させているので、常に同じ音質で聴けている保証がありません。

本来であれば転送コーデックとビットレートをリアルタイムで表示するような仕組みがあっても良いと思うのですが、送受信は全てQualcomm IC任せですし、Qualcommとしてもそのあたりを積極的に公表するメリットは無いのでしょう。

たとえば今回SIGMA Proでも、スマホから接続したら音楽が潰れたような気持ち悪い音になったのに、AK DAPから接続したらだいぶ良い音だったので、不思議に思って原因を調べたら、どちらもLDACですが、スマホは通信有線の低ビットレートで、AK DAPは音質有線の高ビットレートに設定されていました。スマホを音質有線に切り替えたらだいぶ音が良くなりました。

こういうことがあるから「BluetoothであってもスマホよりもDAPを使った方が音が良い」といった逸話が生まれるのでしょう。

aptX Adaptiveでも同様の問題が起こりそうです。その点aptX HDは固定ビットレートなので、確実性を求めるならこれが一番良いかもしれません。

高ビットレートにこだわると、電波環境やスマホの送信強度によってプツプツと音が途切れることが多くなりますが、SIGMA Proのようなポータブルアンプはスマホと重ねて使うことが多いので、ワイヤレスヘッドホンとかと比べてそこまで距離が問題になりません。

ところが、これがSIGMA Pro最大の問題になるので、次に解説します。

電波ノイズ

SIGMA Proを含めて最近のQuestyle製品は天板に透明パネルを採用しており、内部の基板が見えるのがカッコいいわけですが、これは電磁波遮蔽においては弱点になるようです。

実際SIGMA Proを使っている時にスマホを近づけると、スマホがキャリア通信をするたびに音楽にチリチリとノイズが混入します。オーディオ回路にノイズが飛び込んでいるので、ボリュームノブや入力端子は無関係です。パソコンと接続して音楽を聴いている時でもスマホを隣接するだけでノイズが聴こえます。

スマホを近づけるとノイズが乗ります

見た目で透明パネルを選びたい人へのオプションは用意しても良いですが、せっかく高音質を謳っている上級モデルなのだから、しっかり電磁波をシールドしてくれる金属の天板も提供してほしいです。

前作CMA18 Portableを購入した友人が、スマホを重ねるとノイズが出て使えないと文句を言っていたので、間に挟むための電磁シールド板を作ってあげたの思い出します。しかし遮蔽しすぎるとBluetoothが通らなくなるので、そのバランスが難しいです。

多くのメーカーでは、アンテナ部分のみ黒いアクリルなどで解放して、肝心のオーディオ基板は金属シールドでガチガチに固めて隔離するのが定石なのですが、Questyleの場合はなまじ基板を見せたいばかりに遮蔽が危ういです。

SIGMAの公式MagSafeケース

ちなみにQuestyle SIGMAの方は専用ケースにMagSafe磁石が搭載されており、そちら側(つまり透明パネルとは反対側)の面でスマホに貼り付ければノイズはほぼ問題にならないようです。もちろんスマホは機種によってアンテナの位置や電波強度が違いますので、実際に無音を聴きながらスマホで4G電波を発生させて試してみるのが最善です。

SIGMA Proもスマホを本体横や下面に置けばチリチリノイズはほぼ無くなりますが、それでも耳で感知できない微妙なレベルで音質に悪影響を与えている不安が残ります。

変な話ですが、Questyleに限らずこういうことはよくあるので、「貼るだけで音が良くなる」とかのオーディオのオカルトグッズも笑って見過ごせないわけです。

別売レザーケースの上蓋にシールド板を貼っておけば一応の対策になります。気になる人はアルミホイルでも挟んで実験してみると良いです。電源トランス由来の低周波磁場とかではなくMHz~GHzの高周波電磁波なので、昔のオーディオのような高価なフェライト系やパーマロイとかの磁気シールドは不要です。同様にNFCスキミング防止用シールドとかもあまり役に立ちません。NFCは14MHz付近の非常に狭い帯域を活用しているので、そこだけピンポイントで遮蔽して700MHz~3.5GHzのキャリア電波は通すような素材を使っているからです。アルミホイルでダメなら色々な厚さの金属板を試すのが良いです。

音質

今回の試聴では、普段から聴き慣れているMADOO Typ821、QDC V14、Sennheiser IE900などのイヤホンと、Fostex T60RPmk2やBeyerdynamic DT1770 PRO MK2ヘッドホンを使いました。ソースはスマホやDAPからのUSB接続です。

Madoo Typ821

まず最初に、個人的に一番心配していた点ですが、感度の高いIEMイヤホンでもアンプ由来のバックグランドノイズは気になりません。個人差はあると思いますが、他社のDAPやポタアンと比べても低い方だと思います。

ただし、上で紹介したようにスマホなど隣接したデバイスからの電波と、充電ケーブル由来のノイズにだけは注意してください。

Dan Clark Audio Noire X

最大音量については、ほとんどのヘッドホンでも問題なく使えそうです。一例として、平面型で鳴らしにくいDan Clark Audio Noire Xを使ってみたところ、録音レベルが低いクラシック音楽で、HPモードのSTUDIOゲイン(つまり最大設定)でボリュームが40/64で適正音量が得られました。

さらに上げすぎると歪んでくるので、これくらいが限界のようです。ヘッドホンを手軽に良い音で楽しむ分にはSIGMA Proで十分ですが、どのような過酷な負荷でも対応できるレファレンス環境を整えたいのなら、あいかわらずコンセント電源の据え置きヘッドホンアンプを持っておくメリットがあります。

Amazon

Alphaレーベルから新譜で、ソプラノ歌手Julie RosetとピアノSusan Manoffの「M'a dit amour」を聴いてみました。

Manoffの力強くスケールの大きいピアノと連携して、歌唱はコロラトゥーラソプラノでも自己主張や焦りは感じさせず、滑らかで優雅な美声でだいぶ気に入りました。Alphaはベテランだけでなくこういう新人の起用力も凄いですね。

新人デビューアルバムだそうで、それにしては演目も腕前もだいぶ完成度が高いです。よくあるフランス歌曲集なのですが、ありきたりなドビュッシーやアーンなどの有名曲ばかりでなく、しかも本人の持ち歌でバラバラの寄せ集めといった感じでもなく、楽しく統一感のある選曲です。


ひとまずSIGMA Proでじっくりと聴いてみた第一印象としては、私がこれまで試聴してきたDACアンプの中でもかなり高水準に良い音だと断言できます。

全体的なバランスは明るめで、中高域を過剰にブーストせずに、質感の良さで魅力的に仕上げているため、ピアノと女性歌手の両方が喧嘩せずに美しく描き分けられています。

とりわけ滑舌と発声の伸びのバランスが絶妙に良いです。ギラギラと刺さるとか、逆に丸すぎて口にマスクをしているようなもどかしさもなく、聴き疲れせず、明るく軽快でスムーズ、上級モデルにふさわしい解像力を持ちながら、カッチリとした描画にこだわらず、時間軸の流れを重視しているような鳴り方です。

出音の立ち上がりと減衰が余計な響きで上塗りされないため、声や打鍵のアタックから残響が背景に消えるまでの時間経過を精細に描いてくれます。それらを頭で意識するかは別として、美しく自然な歌声やピアノの音色が実感できると思いますし、できるだけ脚色の少ない優れたイヤホンで聴きたいと思えてきます。

とくにTyp821やIE900のような繊細描写が得意なイヤホンとの相性が抜群に良いです。これらを真面目なオーディオインターフェースなどで鳴らしても淡々としすぎて面白みが無いのですが、SIGMA Proは若干の甘さでオーディオ的に「聴かせる」サウンドに仕上がっています。さらにUE Liveや64Audio Nioなど暴れやすいイヤホンでも丁寧にコントロールしてくれるので、アンプの基礎性能が優れているという実感が持てます。

これ以上美音効果が強いタイプのアンプになってしまうと、たとえボーカルだけが主役として伴奏バンドの前に立つような楽曲であれば問題ないのですが、歌手とピアノが対等な立場で交差する今作では、両方に同じような響きが加わることで分離が悪くなってしまいます。

SIGMA Proはそういった一辺倒の脚色が少ないですし、音の繋がりが流れるように描かれるので、瞬間を切り出した音質だけに注目せず、一連のフレーズ単位で受け止めている感覚があります。おかげで歌手とピアノだけであっても同じ音を延々と聴いているような退屈さが無く、まるで物語を読んでいるかのようにアルバムを通して没頭することができます。

ヘッドホンアンプに限らず、あまり良くないオーディオ機器だと、瞬間を切り取れば高音質に思えても、ずっと聴いていると単調で面白くなくなり、音楽に没頭して聴き込むような趣味には繋がってくれません。もちろん食卓や勉強中に没頭して引き込まれても困るので、Bluetoothスピーカーなどの方が向いている場面もあるわけですが、SIGMA Proはその真逆で、これまでは適当に聴き流していたり、難解で敬遠していたような楽曲でも、あらためて引き込んでくれる実力があります。

単純に好みに合うという以上に、色々なイヤホンで様々なジャンルの楽曲を鳴らしても、これといって相性の悪い条件も無く、期待通りの高音質を保ってくれますし、その上で、どの組み合わせでも共通したSIGMA Proらしいサウンドの魅力が存在します。その点では個性的なサウンドと言えるのかもしれませんが、イヤホンや楽曲との相性ごとにアンプのモード切替で風味を変えて使うタイプの製品とは違う、本質的な音質設計の高さを実感します。

さらにDXDや高レートDSDなど音源フォーマットを問わず良好に鳴ってくれるのも優秀です。とくに最近流行りのディスクリートDAC系はノイズシェーピングの処理が下手でDSD音源の再生が上手くいかないことが多いのに対して、SIGMA Proは余計な事をせずESSの最新D/Aチップをストレートに活用しているあたりが利点になっているようです。

ストリーミングサービスが主流な現在において、低ビットレートな圧縮音源を良い音で聴かせる濃い味付けが求められるのは理解できますが、それよりも、高音質録音の良さを余すこと無く引き出せることの方が私にとっては重要です。

Amazon

ノルウェーLosenレーベルから、Frode Kjekstad「Stars Aligned」を聴いてみました。最近では非常に珍しいギターとオルガンのトリオで、ゲストにEric Alexanderのサックスも入っています。

ウェスモンゴメリーとかグラントグリーン初期の雰囲気を踏襲しており、Roy Powellの激しいオルガンに牽引されてKjekstadのギターとAlexanderのテナーが自由自在のソロを繰り広げます。

オルガンというのはペダルベースのおかげでアップライトベースとは根本的に違うグルーヴ感を発揮してくれるので、もっと注目されてもいいジャンルです。最近はなかなかここまでハードに踏めるオルガン奏者がいないのかもしれません。

それにしても毎度のことながらLosenレーベルは音質が素晴らしいです。オスロ近郊Sandvikaのビッグバンドで活躍しているリーダーを中心に集まったセッションなのですが、メインストリームなジャズとは一味違うクラシック気質の開放的な空気感とホットなジャズ演奏が見事に両立できており、欧州ジャズの中でも一番注目したいレーベルです。


ここではSIGMA Proと他のポータブルDACアンプとの比較に注目してみした。まだSPGMA Proを購入すると決める前の話です。

まず、試聴時にはAK SP3000をUSBトランスポートとして使っていたので、SP3000から直接とSIGMA Proを通した音で聴き比てみたところ、表面的には両者はだいぶ近いように感じました。とくにヘッドホンだと、たまにどちらで聴いているのか忘れてしまうことすらあります。

解像力や空間のプレゼンテーションといった部分は、私が普段よく使っているHiby RS6やFiio Q15、もしくは据え置きヘッドホンアンプなどと比べても、やはりSP3000と似ています。逆に言うと、SP3000とSIGMA Proの違いについて入念に聴き比べることで、SIGMA Proの特徴が一層理解することができます。

先程のクラシック歌曲集では、SIGMA Proでは瞬間を切り出した音質よりもフレーズ単位で聴くことができると言いましたが、ジャズバンドのアルバムでもまったく同じで、たとえばSP3000とSIGMA Proでは自分自身のリズムの取り方が明らかに変わることに気が付きます。

SP3000ではベースやドラムのビートのタイミングで小節分割しているのに対して、SIGMA Proでは4小節や8小節といったギターやサックスのフレージング単位で体が反応しています。バーを跨いだ時間の押し引きといった柔軟な伸縮がジャズの大きな魅力なわけで、メンバー同士のテンポの追従や微妙なズレの掛け合いで緊張と解放のストーリーが生み出されるのも、シーケンサー打ち込みとは違うジャズセッションの面白さです。

SP3000はどちらかというと静的な石膏像のような表現で、どの瞬間を切り出しても正確な高解像スナップショットを見てるような感覚があるため、録音の最深部までしっかり立体的に見通すレファレンス的存在です。一方SIGMA Proの方はもっと動的な庭園の小川のような表現で、複数の長いフレーズが同時進行でどこに向かっているのか容易に掴み取れて、オルガンベースのグルーヴ感といった流れに乗って、盛り上がりや着地点に同調しやすいです。

このあたりがオーディオ的に「聴かせる」部分であって、Questyle独自のCurrent Mode Amplifierの強みなのかもしれません。これまでのQuestyleアンプを思い返してみると、CMA12やCMA15など、それぞれ音色の風味は異なるものの、どのモデルでもSIGMA Proと同じような、流れるような時間軸の魅力がありました。

Current Mode Amplifier、つまり信号を電圧振幅ではなく電流振幅で扱う電流モジュレーションアンプというのは昔からある考え方ですが、オーディオ用よりも高周波RF電波用アンプによく使われています。一般的な電圧アンプと比べて高速な信号を扱えるというメリットがあるわけですが、電流帰還の都合上、負荷が一定でないと動作が安定せず、多種多様なスピーカーやヘッドホンにそのまま接続して駆動するのには向いていません。

そのため、最終的には電圧振幅に変換しないといけないためメリットが少ないと言われており、昔だとKRELLなどがプリ回路に一部導入するなど限定的に使われていました。

そんなKRELLのような古典的なオーディオシステムというと、CDプレイヤーなどのラインソースから、プリアンプ、パワーアンプとそれぞれセパレートで買い揃えて、しかも異なるメーカーの製品を接続する都合上インターコネクトは電圧振幅が基本なので、各機器の内部で電流アンプ回路を採用する意義は薄かったです。

ところがQuestyleが得意とするのはDACヘッドホンアンプの複合ユニットです。デジタル入力をD/A変換してそのまま電流振幅で最終段のバイポーラトランジスタまで届ける、一枚の基板上でのオールインワンの設計だからこそCurrent Mode Ampliferの利点が最大限に引き出せると考えられます。

このトータル設計はたとえばChord Hugo 2と似ている部分もあります。あちらはD/A変換の段階から独自設計で、それを見据えてのアンプ回路に仕立てるという、さらに理想主義に迫っているわけですが、Hugo 2の水のように滑らかな鳴り方はQuestyleと共通しています。

ただしQuestyleの方がもうちょっとアナログアンプ回路に重点を置いており、必ずしも理想主義を貫くのではなく、Chordと比べると楽器のスムーズさやベース低音の豊かさなど音楽の感性の部分で開発者が納得いくまで手を加えて作り込んでいる感じです。

SIGMA & SIGMA Pro

このような私が勝手に想像しているCurrent Mode Amplifierの特徴というのは、SIGMA Proの弟分のSIGMAの方でも実感できます。基本的な機能面やアンプの出力はそこまで大きく変わらないので、もし購入するならどちらを選ぶべきか私も結構迷いました。

アンプの安定感やスムーズに流れる表現はどちらも優秀でも、音色の魅力や美しさの部分ではSIGMA Proの方が大幅に優れていると感じます。主な違いはD/A変換まわりなので、やはりそのあたりが効いているのでしょうか。SIGMAはもっと地味で淡々としており、むしろこちらの方がProという名前にすべきという感じです。すでに持っているFiio Q15と似たような実直な鳴り方なので、私は買い足すメリットは感じませんでした。

Quloos MUB5と比較

他には、ちょうど同時期に発売したQuloos MUB5が手元にあったので、もし買うならどちらを選ぶべきか結構真面目に悩みました。

MUB5の方がディスクリートR-2R DACや高価なOPA627オペアンプを搭載しているなどあって値段は上ですが、結局は音質の好みが一番大事です。

結論から言うと私はSIGMA Proを気に入って購入することを決めたわけですが、MUB5の方が音質が劣るというわけではなく、両者のサウンドはまるで正反対に違うため、かなり悩んだわけです。

MUB5は音色の太さと色濃さが圧倒的です。まさに人々がディスクリートR-2Rに求めている音そのものですし、大昔からOPA627という高価なJFETオペアンプがマニアに珍重されてきた理由もここにあります。そういった伝統的なポタアンの芸術性みたいなものを求めている人には最適です。ただしSIGMA Proと比べるとジャズの低音側のタイミングが遅れて推進力が得られなかったり、ハイレゾクラシックの空間描写が足りなかったりといった、一昔前の芸術的ポタアンの懐かしさを連想しました。それはそれで魅力的ですが、懐古主義の感じもしたので、古い名盤を繰り返す聴くには良いかもしれませんが、もっと積極的に毎週の新譜で最先端の録音芸術を楽しむにはSIGMA Proの方が向いている気がしました。

SIGMA Proは私が昔ずっと愛用してきたiFi Audio micro iDSDシリーズのスタイルに近いかもしれません。あちらも高レートDSDなども鮮やかに描いてくれて、空間や時間軸の充実が魅力的な、オーディオ回路のこだわりの強いメーカーでした。ボリュームポットのギャングエラーやIEMatchアッテネーターなど、IEMイヤホンの音質影響への弱点が理由で離れてしまいましたが、ヘッドホンを鳴らすなら今でも十分凄いです。micro iDSD Diablo 2など最新版でも高出力に傾倒しすぎて、基礎設計の古さも目立つため、私の用途にはマッチしておらず、そのあたりSIGMA Proの方がだいぶ使いやすいです。

ここ数年は真空管やNOS R-2Rなどのトレンドに沿った多くの新製品を試聴してきた上で、内心は2012年のmicro iDSDや2017年のHugo 2のように洗練されて無駄を省いたトータル設計で得られるサウンドの技巧を求めており、今回SIGMA Proがそれに見事に当てはまったようです。

おわりに

今回Questyleの製品に久々に触れてみたのですが、以前と変わらずQuestyleらしい精巧なシャーシデザインと独自色の強さに懐かしさを感じて、その一貫した設計思想に好感が持てました。

ユーザーインターフェースの謎仕様や、自分はきっと使わないであろうA/Dコンバーター、透明天板の電波ノイズ干渉、公式スペックに届かないアンプ出力など、前半では色々と懸念点を指摘してきたので、大絶賛というわけではないのですが、それでも私がSIGMA Proを購入したのは、単純に音が良かったからです。

多くの人が忘れがちですが、機能やスペックのチェックリストばかり気にしていると、オーディオ機器として本来の目的である「音が良い」という点を見落としがちです。

実際のところ、私が普段使っているイヤホンやヘッドホンであれば、SIGMA Proで問題なく音楽が楽しめているので、それ以外の細かい点はたいして気になりません。

ただし、他人に勧めるとなると話が変わってきます。それぞれの用途ごとに注意すべき点はありますし(スマホと重ねた時のノイズなど)、14万円という値段が妥当かどうかは、あくまで音質を気に入るかで決まります。

たとえば、ほとんど同じタイプの製品でFiio Q15の方がパワフルで多機能なので、コストパフォーマンスではむしろそちらをおすすめしたいですし、最近は一万円くらいのドングルDACでさえ十分優秀です。Questyle自身もM15iなど色々と用意されています。

そんなわけで、SIGMA Proを選ぶ理由はQuestyle独自のCurrent Mode Amplifierヘッドホンアンプの魅力に尽きますし、Questyleもそれについては自信を持って作り込んでいることが実感できるあたり、古き良きオーディオブランドを連想させます。

SIGMA Proの魅力は、あらためてそういったオーディオ機器の原点を思い出させてくれることであり、たとえば高コスパなエントリーモデルからアップグレードするのなら、より高出力で、より多機能なモデルを求めるのではなく、とにかく音質が一番大事だというメッセージを伝えてくれます。

逆に、まだ何が必要なのかわからない初心者のためのエントリーモデルこそ、多機能で高出力であるべきですし、その次のステップの上級モデルこそ、むしろ尖った設計で良いと思います。

とりわけ私にとってポータブルDACアンプというジャンルは、ポータブルオーディオの真髄であり、各メーカーが最も注力すべき機器だと思っています。

これまで自分が気に入って使ってきたモデル、たとえばiBasso D14、Venturecraft Soundroid Vantam、Sony PHA-3、iFi Audio micro iDSD、JVC SU-AX01、Chord Hugo 2、Fiio Q15など、どれもメーカー独自のサウンド設計が印象に残りますし、入出力端子の古ささえ我慢できれば、現在でも十分通用する優秀なモデルばかりです。

DAPになると大画面やAndroid OSの方にも注意が向いてしまいますし、アナログポタアンだと上流ラインソースに大きく依存してしまうといった具合に、やはりポータブルDACアンプが一番メーカーの総合的なセンスと技術力を実感できます。

すでにお気に入りのポータブルDACアンプを持っている人は多いと思いますが、そろそろ新しいモデルに買い替えようと検討しているのなら、価格や性能スペックよりも、各メーカーが自信を持って作り上げたサウンドを第一に注目すべきですし、音が良い悪いという単一の評価軸に陥らず、これまで使ってきたモデルとは表現の方向性が違うものをあえて選んでみるのも、音楽鑑賞の幅が広がるので、趣味として有意義です。


アマゾンアフィリンク

N/A
Questyle SIGMA Pro

N/A
Questyle SIGMA Pro 専用ケース

N/A
Questyle SIGMA

N/A
Questyle SIGMA 専用ケース

N/A
Questyle QCC Dongle Pro

N/A
Questyle Qlink-C

N/A
Questyle M15i