2026年1月26日月曜日

Final UX5000 ワイヤレスヘッドホンのレビュー

FinalのBluetoothワイヤレスヘッドホンUX5000を買ったので、感想を書いておきます。2025年11月発売で、価格は32,800円でした。

Final UX5000

どこにでもあるような見た目のBluetoothヘッドホンですが、Finalが真面目に作ったフラッグシップモデルということで、値段もそこまで高くなかったので気になって買ってみました。

Final

年末に実家に帰省するとなると、たいした長旅でもないのに、どうしてもこういったトラベル系ガジェットに目が行ってしまいます。帰省中はわりと暇にしているので、その間にじっくり使って評価できるという思惑もあります。

付属の収納ケース

街中を見ると、こういった黒いワイヤレスヘッドホンを着用している人はまだ結構多いようですが、私自身はテクニクスのイヤホンタイプで音質もNC効果も十分満足できているので、わざわざ大掛かりなヘッドホンを持ち歩く機会はほぼ無くなってしまいました。(FinalもTonaliteという新型イヤホンを出しましたが、残念ながらそちらはまだ試せていません)。

それでもあえてヘッドホンを使っている人の意見を聞くと、やはりイヤホンはフィット感が悪いとか耳穴が痛くなるというのもあるみたいですが、それとは別に、職場のデスクワークでずっと装着しているため、着脱が容易で紛失リスクが低いヘッドホンタイプの方が良いそうです。空調完備のオフィスなら耳が蒸れる事もありませんし、逆にエアコンで室内が寒いから保温代わりに使っているとか、作業に集中しているから話しかけるなオーラを出すためなんて意見もありました。

そういうわけで、音楽鑑賞用途だけに限らず、NC効果で外部騒音を遮断するとか、勉強や単純作業中の集中力を高めるためにイージーリスニングやアンビエント系を延々と流したり、通勤の電車内ではYoutubeでポッドキャストを聴くなど、ワイヤレスヘッドホンというのは、誰もが最高音質を求めているわけではありません。

そのため量販店の売れ筋ヘッドホンをもってして、ハイレゾクラシックのヴァイオリンの質感がイマイチとか不満を言うのも筋違いだと思いますし、いくら私がオーディオマニアだからといって、職場の一般人にオススメを聞かれたら、変にマニアックなものよりも、売上ランキング上位の王道モデルを薦めるよう心掛けています。

オーディオマニア以外にも薦めやすいデザインです

そんな中で、Finalというのはだいぶ特殊なブランドです。我々オーディオマニアにとってはD8000など数十万円の高級有線ヘッドホンのイメージが強いですが、家電量販店で数千円の売れ筋イヤホンも販売しているため、一般人でも名前はなんとなく聞いたことがある謎のメーカーという印象があると思います。

今回紹介するUX5000も三万円台ということで、定番のソニーやBoseと比べてもそこまで高価というわけでもなく、そこまで良いなら買ってみようかと説得できる価格です。

デザインも遠目で見ればソニーとかと区別がつかないですし、軽量でバッテリーなどの基本性能も十分まともです。

現在ワイヤレスヘッドホンの最高級を見ると、B&W Px8やFocal Bathysなど7~15万円のモデルも存在するわけで、もちろん音質はそれなりに優秀ですが、実際に手にしてみるとわかるとおり、重厚な金属部品や本革などラグジュアリー嗜好品としてのジャンルに入ってくるため、実はオーディオマニアはそこまで積極的に選んでいない印象です。

つまりUX5000のような三万円台くらいのモデルでも、10万円クラスと比べて必ずしも音質が劣るというわけではありませんし、普段気軽に使うならこれくらいがちょうどよいです。

UX1000・UX2000・UX3000・VR3000EX

Finalのワイヤレスヘッドホンは現時点でUX1000、2000、3000、5000の四ランクあり、一番安いUX1000は8千円くらいから手に入ります。単純に上位ほど音質が良くなるというだけでなく、ゲーミングヘッドセットのVR3000EXや、声の質感に重点を置いたUX3000SVなど、いくつかコンセプトの異なるモデルが用意されています。

ただし、イヤーパッドの質感などは低価格モデルはそれなりにチープですし、8千円のUX1000から1万円のUX2000では、低遅延ゲーミングモードや高性能マイクといった機能面での差も強調されています。

今回紹介するUX5000は現行最上級ということで基本スペックも充実しており、QCC3095チップを搭載、ハイブリッドノイズキャンセリング、低反発イヤーパッド、Bluetooth 5.4でaptX Adaptive & LDAC対応、アクティブNC ONで45時間、OFFで65時間、2時間急速充電、310g、セミハードケース付属といった具合に、他社の上位モデルと遜色なく、死角のないスペックです。

ユニークでカッコいい凹凸加工

デザインは一見普通の王道スタイルですが、間近で見ると、まるで漆器の石目塗りのような凹凸があり、マットな地肌の黒とグロス塗装の斑点のコントラストが美しく、手触りもベタベタせず良好です。ハイテクとオーガニックな和風テイストの見事な融合だと思いますし、クロムメッキとかロゴがLEDで発光する他社モデルと比べると過度に主張しないので、センスが良いと思います。

快適なヘッドバンドとイヤーパッド

装着感に関しては、流石に熟成した製品ジャンルなだけあって、これといって問題はありません。ソニーとかを使い慣れている人なら違和感無く移行できます。

ヘッドバンドの伸長は帽子をかぶっていても十分な余裕がありますし、イヤーパッドは柔軟な低反発なのでメガネをつけていてもしっかりと密着してくれます。やはりこのあたりは安いモデルだとパツパツの硬いビニール合皮とかで不快ですし、隙間ができて遮音性や音質も悪くなるので、音質にそこまでこだわらない人でもUX5000くらいの上級モデルを選ぶメリットになります。

アクティブNCも十分強く、ホワイトノイズや変なうねりのような圧迫感も少ないので、屋内でも屋外でも不満無く使えると思います。

ただし本体の向きによっては屋外で風切り音が目立つ場面もあるので、できればNCのチューニングで対策するモードも欲しかったです。普段使いでは十分優秀ですし、歩行時や電車内の衝撃でもそこまでNCの誤動作を起こさないので、このあたりは最新Qualcomm ICの恩恵が実感できます。

操作スティックとNCボタン

充電用USB Cと有線接続用3.5mm

デザインに関して、個人的に気に入ったユニークな点がいくつかあります。まず操作系が右ハウジング側面のスティックとNCボタンの二点のみに集約されており、とくにスティック操作がかなり快適です。

他社がよく採用しているハウジング表面のタッチジェスチャー操作はあまり好きではないので、物理ボタンというだけでも嬉しいですし、似たようなボタンが並んでいないので押し間違えもありません。

スティックはカチカチという押し心地が気持ち良いです。押し込みで再生停止、長押しで電源、上下でボリューム、左右で曲送りというわかりやすい操作で、しっかりした硬さがあるので誤入力も少ないですし、とくに頻繁に使うボリューム操作に関しては、ハウジング側面の段差に指をすべらせるような感覚でスティックを上下に動かせるので、かなり直感的で無意識に操作できます。

他社のモデルや、以前使ったFinal ZE8000イヤホンなどでは、側面を二回タップするとボリューム調整で、三回だと曲送りとか、操作ミスで意図せぬ入力をしてイライラさせられる事が多かったのですが、このUX5000のスティックは一切不満がありません。

さらに、余計な着脱センサーとかAIアシスタントモードやDSPエフェクトといったギミックも皆無で、側面のボタンはNC効果のオンとアンビエントモード切り替えのみです。つまり間違えて変なモードに入って戻すことができないといったトラブルもなく、安心して使えます。

ちなみにBluetoothペアリングはボタン長押しではなく、ボタンを五回押すという方法なので、それだけは知らないと困惑します。

イヤーパッド

イヤーパッドがマグネット式で手軽に着脱交換できるのも嬉しいです。パッド裏には厚いスポンジが配置されており、ドライバーとの距離も結構離れているので、他社モデルでよくある、耳の先端がドライバーグリルにぶつかって痛いということはたぶん無いと思います。ハウジング内には40mm大口径ダイナミックドライバーがあり、その前にNC用小型マイクが確認できます。

バッテリー交換パネル

イヤーパッドを外すと右側ハウジング内にアクセスパネルがあり、それを外すとバッテリーが取り出せるようになっています。

近頃はITガジェットのリサイクルや環境負荷について問題になっていますし、バッテリーの経年劣化が不安で高価なモデルを買いたくないという人も多いようなので、こうやって後日交換できるようになっているのは良いアイデアです。

謎の分離ギミック

さらにUX5000はハウジングとヘッドバンドが分離できるユニークな仕組みになっています。コネクターはUSB Cタイプですが、たぶんUSB信号ではなく信頼性と入手性の高さから選んだのでしょう。

普段は分離する必要はありませんし、プラスチックのクリップでカチッと固定される仕組みなので、あまり頻繁に分離したらヘタってくる不安があります。

わざわざ分離できるようにした理由としては、将来的にヘッドバンドの交換を可能にすることと、万が一故障した際に原因の切り分けを容易にするためでしょう。返送せずヘッドバンドだけ保守部品として購入できるようになれば理想的です。

ヘッドバンドの合皮は直射日光の紫外線やヘアープロダクトとの化学変化で劣化しやすく、他社モデルで数年使っている人のを見るとボロボロに崩壊していることがあります。

イヤーパッド、バッテリー、ヘッドバンドを実際に交換するかどうかは別として、こうやって交換可能な設計を心掛けているのは、設計者の配慮や、末永く使ってほしいという意図が伝わってきますし、買う側としては安心して購入できる後押しになってくれます。

不満点とか

UX5000を実際に数カ月間使ってみて、概ね満足できていますが、実用上いくつか要望や不満点もありましたので、ここでまとめておきたいと思います。

まず、機能面でのマイナス点として、USB接続で音楽を聴けないのは残念でした。他社の上級モデルではよくある機能ですが、UX5000もせっかく高音質を謳っているのだから、パソコンやスマホにUSBケーブルで接続したら充電を兼ねてハイレゾDACとして出音できるような設計だったらなお良かったと思います。

付属ケーブル

一応3.5mmアナログケーブルで有線接続でき、こちらもNC機能を含めた内部DSPアンプを通るので、Bluetoothと同じサウンドで楽しめるというメリットがあるのですが、私はそれよりもUSBケーブル接続の方が欲しかったです。

アプリがないとNC OFFにできません

二つ目の不満点はもっとシンプルなもので、UX5000はアクティブNCのオンオフで音質が多少変わる印象があるのですが、本体のNCボタンではNCオンとアンビエントモード(外部音取り込みモード)が交互に切り替わるだけで、NCをオフにはできず、そのためには専用アプリが必要になるのが面倒です。

これはファームウェアでどうにかなる部分だと思うので、できればオン、オフ、アンビエントを巡回できるようにしたり、ボタン長押しでNCオフにできるように仕様変更してもらいたいです。

UX5000専用アプリ

アプリに関しては、これまでの「final CONNECT」アプリではなく、UX5000専用アプリが必要なのも謎です。

このアプリ自体は非常にシンプルなもので、上述のNC切り替え以外では10バンドEQとマルチポイント接続のオンオフ、ファームウェアアップデートのみです。

ちなみに新品の初期状態ではマルチポイント接続がオフになっていたので、オンにするためにはどうしてもアプリが必要になります。注意点として、Androidバージョンが古いとインストール出来ないようで、Android 9のスマホやDAPではダメでした。

アプリに余計な3Dエフェクトやアシストサービス系の機能が無いのはシンプルで好印象ですが、あまりにも殺風景なので、できればBluetoothボイス変更とか、もうちょっと機能が欲しいという人もいるかもしれません。

Bluetooth接続

私自身は普段AndroidスマホのLDAC接続で使っており、移動中でもプチプチ切断するなどの不具合は一切ありません。

このあたりは最新のヘッドホンはどれも優秀ですが、それよりもスマホ側のBluetoothチップの性能に大きく依存するので、古いもしくは安いスマホを使っている人は、高価なヘッドホンを買うよりも、最新のハイスペックなスマホに乗り換えた方がメリットは大きいです。

古いスマホだと手動でLDACオンにする必要があります

スマホ初期設定でLDACやaptX HDがオフになっている事もあります

しかも、最近のAndroidバージョンだとLDACが自動で有効になるモデルが多いですが、ちょっと前のスマホだと手動で有効にする必要があったり、そもそも開発者向けオプションの初期設定がSBC優先になっていることもあります。

高価なヘッドホンを買ったのにずっと知らずにSBCで聴いていたという人が意外と多いと思います。iPhoneの場合は未だにSBC/AACのみに限定されるので、どうしようもありません。

スマホのLDACモード選択

音質面ではLDACも意外と厄介です。Androidだと開発者向けオプションでLDACの接続優先・音質優先もしくはオート切り替えが選べたりしますが、UX5000はサウンドが比較的素直なこともあってか、これで音質がだいぶ変わります。

理想的には音質優先を維持したいのですが、スマホ機種によっては切断が頻発するものもあるので、各自の電波環境で色々と実験するしかありません。aptX HDの方がそのあたりはマシだった印象がありますが、最新のaptX AdaptiveはLDACと同じくらいばらつきが大きいです。

Bluetoothワイヤレスヘッドホンの音質評価が難しい最大の理由は、各ユーザーの接続環境や周囲の電波状況によって音楽データの圧縮が大きく左右されるため、必ずしも全員が同じ音質で聴けていないという不透明さがあります。

まるでYoutube観賞中に通信が不安定になって、1080pから480pに切り替わって画質がガビガビになるのと同じようなものです。

音質とか

室内の静かな環境で、スマホのLDAC音質優先モードでUX5000を聴いてみました。ワイヤレスヘッドホンはどのアンプで駆動すべきかの悩みが無いので気が楽です。

ひとまずB&W Px7 S3とSennheiser Momentum 4を傍らに置いて、交互に聴き比べてみたのですが、UX5000の鳴り方はこれらとは方向性がだいぶ異なるため、細かな違いを指摘するのが無駄に思えてしまいました。

相変わらずFinalらしいというか、独自の世界観で音を仕上げているため、再生ボタンを押して最初の数分間はだいぶ違和感があります。もっと言うなら、音の派手さや広がりのインパクトが弱く、凡庸で退屈に思えるのですが、それも数分我慢して聴いていると、ようやくFinalの狙いが理解できるようになり、その魅力に引き込まれていきます。

ただし誤解のないように言っておくと、UX5000のサウンドが完璧で、他社を遥かに凌駕するというわけではなく、あくまで特定の鳴り方に全振りしたような仕上がりなので、上手くいけば他では味わえない凄い高音質を発揮してくれますし、逆に上手くいかない場合もあります。

ひとまず特徴を理解すると、自分のライブラリーを観覧して、UX5000で聴きたいアルバムを探して選抜プレイリストを作りたくなります。

こういった、自分から積極的に魅力を引き出して価値を見出す行為というのは、毎回決まったテスト曲でベンチマーク的な正解を求めているオーディオ・ガジェットマニアよりも、「こういう鳴り方なら、このアルバムに合うかも」という引き出しの多い、音楽を聴くのが趣味の人の方が相性が良いと思います。

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UX5000のサウンドの特徴や強みが実感できるアルバムを紹介します。

ACTレーベルからの新譜「Trinity」はIiro Rantala、Kaisa Mäensivu、Morten Lundのピアノトリオによるジャズアルバムで、スタンダード主体のオーソドックスな選曲ながら、北欧アーティストの感性から面白い展開を見せてくれます。かといって奇抜なフリーやフュージョン系ではなく、純粋にストレートなジャズ演奏が楽しめます。


UX5000はベースやドラムも含めて生楽器の出音がとてもリアルで、演奏の強弱のニュアンスであったり、楽器の音色の美しさを厚く丁寧に描いてくれます。

音像のフォーカスもしっかりと安定して、どの帯域もタイミングが揃っているため、ジャズに求められるリズム感も爽快です。

空間の広さや残響の広がりはだいぶ狭く、全体的に間近で音が鳴っている感覚がありますが、ピアノトリオというシンプルな構成であれば、そこまでの分散を必要とせず、UX5000の表現の美しさをダイレクトに楽しむことができます。

音色に関しては、高音に余分な金属的な響きやキラキラ感は付与されていないので、楽曲によっては物足りなく感じるものの、鳴り方自体は素直に上まで伸びているため、録音に収められた生楽器の高音の美しさが引き出せます。

このACTのアルバムは録音が優秀なおかげで、ピアノ本来の艷やかさや、打鍵と残響が一本の線で繋がっていくような優雅な流れがしっかりと収録されており、UX5000で聴くことでそれらが綺麗に引き出せます。とくにヘッドホン由来の余計な響きが少ないおかげで、ジャズに重要なリズム感や明暗のコントラストが上手に再現できており、息を呑むような美しい体験が味わえます。

ただし、楽曲自体の音質が良くなかったり、高音がシュワシュワと潰されている非可逆圧縮音源との相性は悪いですし、Bluetoothのコーデックや転送レートに影響を受けてしまうのも、この辺りが絡んでくると思います。

B&Wやソニーとかは、Spotifyなどの圧縮ストリーミングをSBCコーデックで聴くようなシナリオをを前提としているからか、ヘッドホン側で高域の空気やキラキラを補完する意図が感じられ、それはそれで多くのユーザーにとって正解だと思いますし、その一方で、UX5000はそのあたりが弱いため、再生環境に注意しないと高音が詰まっているような限界が目立ってしまいます。

他にもいくつかアルバムを聴いてみたところ、UX5000で気になる点としては、歌唱では女性と男性の声域で描き方が変わります。

これが先程NCのオンとオフで若干鳴り方が変わるというのが原因で、女性ボーカルについてはどちらでも良いのですが、男性ボーカルはNCオンだと一歩退いたように控えめになるため、NCオフで聴いた方がメリハリや迫力が増します。たとえばオペラなど女性と男性が交互に歌う場面では、NCオンでは男女のバランスが悪く感じるので、できればNCオフで聴きたいです。そのため本体ボタンでNCをオフに出来ないのが惜しいです。

低音の鳴り方にも多少のクセがあります。アップライトベースを弾く音はフォーカスが効いていて、音色の質感、強弱のニュアンス、リズムキープのテンポ感がとてもリアルに伝わってくる一方で、60Hz以下くらいの帯域からはブワッと緩く拡散して場を埋める感覚が生まれます。

冒頭のピアノトリオアルバム一曲目Hymne à l'amourの冒頭でも、ベースの演奏しているポジションによって量感やフォーカス具合が変わりますし、他のアルバムでそこまで低い帯域までカバーしていない場合は軽く感じることもあります。

低音を盛りすぎてチェロとかまで不自然に太く鳴ってしまうヘッドホンがよくありますが、UX5000はそういった違和感が起こるのを回避しつつ、EDMの打ち込みキックドラムの重低音がパワフルに体感できるようなギリギリのラインで調整しているようで、楽曲ごとに、その境界線のどのへんに当たるかで重量感が変わってくるようです。

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さらにもう一枚、UX5000で聴くと本当に美しいアルバムを紹介します。

ECMから2025年にリリースされたAnouar Brahem「After the Last Sky」は、リーダーが中東の弦楽器ウードの奏者で、そこにAnja Lechnerのチェロ、Django Batesのピアノ、Dave Hollandのベースが参加しているドラムレスのカルテットです。

チュニジア出身のリーダーに、Lechnerはドイツのクラシック出身、Batesはイギリスのマルチな作曲家、そしてご存知Hollandはジャズの大御所というカラフルな多国籍バンドのおかげで、ウード中心で中東風味の作風でありながら、一流の演奏家がそれぞれ自由で巧みなソロやアンサンブルを繰り広げていく素晴らしいアルバムです。


このアルバムはドラムが無いことからも、あまりハイペースな激しい演奏ではなく、楽器の一音のあいだの静寂や残響の交わりを大事にするような作品です。

先程のピアノトリオと同様に、UX5000はこういった静謐な演奏セッションを描くのが得意です。アクティブNCのバックグラウンドが静かなおかげで、中域の細やかな質感描写が素晴らしく、最小音の表現や弦が静かに減衰していく感覚、たとえばHollandのベースソロだけでも奥深いニュアンスの世界に引き込まれてしまいます。

三曲目「Endless Wandering」ではベースソロからピアノがキラキラと広がり、そこにチェロの弦の厚い音色が加わってくる展開が息を呑むように感動的で、しかも色艶を誇張せず生楽器の自然なままの美しさを描いてくれています。

八曲目「The Sweet Oranges of Jaffa」ではチェロのうねるような滑らかさや背後のピアノの音がスムーズに繋がっていき、音符の一音一音ではなく一連の響きの流れに身を任せるような、不思議なトリップ感が得られます。続いて「Never Foget」の冒頭で黒い背景から楽器や声が浮かび上がってくるところも、弱音の描写が非常に上手いと感じます。

他のワイヤレスヘッドホンの多くは、NCがオンになっていると、最小音がカットされて、フェードインの邪魔になる違和感がありますし、実は有線ヘッドホンでもエアコンや外の車道などの騒音がある環境ではここまで黒い背景が味わえるのは稀なので、UX5000のNCオンで得られる静寂が効果を発揮してくれる好例です。

UX5000の鳴り方はFinalの他のモデルではA5000というイヤホンに近い印象があります。その上のA6000というモデルは内部にステンレスハウジングを採用することで解像感やシャープさは一段上なのですが、A5000の方が落ち着いていて自然な感じがしますし、長時間聴いていても疲れないあたりもUX5000と共通しています。

Finalとは全く関係ない話ですが、UX5000を聴いていると、なんとなく90年代のヤマハのオーディオ機器のサウンドを思い起こしました。CDプレーヤーのCDXシリーズやアンプのAXシリーズなどを何台か使ってきましたが、UX5000と同じように、派手さよりも楽器単体の描き方のリアルさを得意としており、さすが楽器を作っているメーカーだと当時関心した覚えがあります。

音楽を聴くといっても、歌詞の内容や作曲アレンジの展開ばかりを追っているのでは、魅力の半分も引き出せていないと思いますし、DAW打ち込みでよければ優れたオーディオ機器を求める意味も薄いです。演奏の技巧や表現力の高さ、楽器の質感や響きの美しさといった、根本的な部分で音楽の魅力を味わうには、それなりの再生装置が必要だということでしょう。

UX5000はそういった長所が素晴らしいのですが、出音が近く、楽器とその残響が同じ距離で鳴っているため、有線の開放型ヘッドホンで味わえるような奥行きの遠さや前後の分離といった感覚が希薄なあたりが弱点です。

近いといっても、鼓膜を刺激したり頭内に入り乱れるような雑な描き方ではなく、丁寧で安定しているのですが、それにしても近すぎるため、上で紹介した作品よりも演奏の人数構成が大きくなり、録音そのものにコンサートホールなど収録現場の音響が強くなってくると、UX5000ではどうしても対処できなくなってきます。

このあたりは他社モデルの方がDSPで上手に演出していると思います。ゼンハイザーやB&Wなんかは中域の質感を意図的に抑えることでドンシャリのキラキラ感で空間の広さを表現してくれますし、BOSEなどそもそも響かせないで声の帯域だけクリアに聞かせるといった具合に、各メーカーの脚色が伺えます。

その点UX5000は単一楽器の質感やニュアンスに特化した自然な美音を目指しているため、その許容範囲を超えると厳しくなってきます。もちろんメーカー側がどれだけ配慮しても、ユーザーがEQであれこれ調整したりすると、このあたりの自然さが簡単に破壊されてしまいます。

そんなわけで、UX5000はフルオーケストラの交響曲とかは苦手ですし、室内楽もトリオや弦楽四重奏くらいなら大丈夫ですが、ピアノカルテットとかクインテットあたりになってくると至近距離で色々と起こりすぎて混雑しはじめます。

ただしオペラ収録の多くは、オンマイクの歌手陣とピットのオケを編集で明確に分離していることが多いので、その場合はそこまで混雑せず楽しめます。

同じようなり理由から、たとえばクラシック以外で、ボーカルを含めた各パートを別録りでクリーンに仕上げているスタジオミックスであれば、響きの干渉が起きないため、UX5000でもクリアなサウンドが楽しめます。

先程の90年代ヤマハの例でも、当時全く同じ感覚がありました。チェロとかピアノなど、ソロ楽器に集中して聴いているのなら極上に素晴らしいのですが、もっと複雑な演目になってくると、立体的なスケール感の分離が不足して不透明になってきます。

そのため、ソロ楽器の演奏者であるとか、シンプルなラウンジ、サロン風のオーディオ環境を組みたい人には最適なのですが、もっと堂々としたオーディオシステムを組む段階になると、ヤマハからマランツやアキュフェーズとかに移行するというのがよくありました。

その点ではUX5000はサロン的なサウンドに特化したヘッドホンと言えるかもしれませんし、実際に得意とする音楽ジャンルも、ホールよりもサロンを意識すると選びやすいです。

おわりに

Final UX5000は3万円台のワイヤレスヘッドホンとして他社モデルと比較してもスペックや装着感などは遜色なく優秀ですし、サウンドもFinalらしく独自の手法で自然な音の美しさを引き出している、納得の仕上がりでした。

とくに生楽器中心のシンプルな録音での美しさが際立ちますし、低音のレスポンスが速いので、クリアなスタジオ録音の打ち込み系も得意です。

ただしサラウンド的な大きいスケール感を描くのは不得意なので、映画鑑賞メインで使いたい人はソニーとかを選んだ方が良いと思います。

ところで、ひとつ面白い考察として、オーケストラ録音などのリアルなホール空間の奥行きや広さについては、ワイヤレスモデルにおいてはヘッドホンよりもイヤホンの方が得意なようなので、なんだか不思議に思います。

たとえばオーケストラの交響曲とかを聴くなら、UX5000や他社のヘッドホン(たとえばソニーWH-1000XやB&W Px、Sennheiser Momentumシリーズなど)よりも、断然テクニクスEAH-AZシリーズイヤホンの方が良いと思いますし、FinalのラインナップでもZE8000イヤホンはとくにその手のジャンルが得意でした。むしろ逆に空間重視すぎて個々の楽器のメリハリが物足りなかったほどです。

有線モデルであれば、それこそFinal D8000のような大型ヘッドホンの方が断然有利なので、なぜワイヤレスだと逆転現象が起きているのか、そして今後その傾向は変わっていくのかといったあたりが気になります。

一つ考えられるポイントとしては、有線ヘッドホンであれば、ハウジングの素材や内部空間の規模を立体的に設計できることで、ドライバーからの反射を活用した三次元音響を生み出せるメリットがあります。前方上は金属メッシュを配置して高音の空気感を演出して、後方下方はダクトや吸音スポンジを駆使して低音がゆったり響くことでホール床面積を意識させるといった具合です。

ワイヤレスの場合だとハウジング内はバッテリーやIC基板が詰め込まれているため不可能ですし、どれだけDSPで補正したとしても、それはドライバーからの出音に限るので、耳周りの立体反射を制御することはできません。一方ワイヤレスイヤホンの場合、外耳(耳介)の形状を無視して耳穴内部だけのシミュレーションで済むため、DSPで立体空間を錯覚させるのが上手くいくのかもしれません。

そうなると、今後ワイヤレスヘッドホンがさらに進化するためには、BAやESTドライバーを前方頭上に配置して、耳周りに骨伝導ユニットを接触させるなど、それこそDSP演算の強みを活かしたマルチウェイでの立体演出が有効になってくるのかもしれません。

なんにせよ、現状ワイヤレスヘッドホンには限界が感じられるのですが、その中でもUX5000は下手にサラウンド感を追求せず、ワイヤレスの得意分野を活かした、生の音色の描写を最大限に引き出せているところに好感が持てます。

他社のワイヤレスモデルの鳴り方に慣れている人にUX5000を薦めるのは難しいかもしれませんが、むしろそれなりの有線ヘッドホンの良い音に慣れていて、他社のワイヤレスヘッドホンに不満を持っている人なら、UX5000は有線ヘッドホンとは別の音楽の魅力を引き出してくれるポテンシャルがあるので、ぜひお薦めしたいです。


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