2023年5月26日金曜日

ソニーMDR-MV1ヘッドホンの試聴レビュー

ソニーの新作ヘッドホンMDR-MV1を聴いてみたので、感想とかを書いておきます。

SONY MDR-MV1

2023年5月発売、価格は約6万円弱のプロ用モニターヘッドホンで、ソニーとしては久々の本格的な開放型ヘッドホンということで注目されています。

MDR-MV1

数ヶ月前にこのヘッドホンが発表されてから、この手の製品としては珍しくガジェットニュースなどでずいぶん話題になり、盛り上がっていました。

私自身も発売前のイベントや店頭試聴機などで数ヶ月前から聴き込んできたのですが、こういうのは先行デモ機と実際の製品版のデザインやサウンドが結構違っていることがたまにあるので、発売されるまで感想は控えていたところ、その辺はさすがソニーらしく、実際の製品版も全く遜色ない仕上がりのようです。

MDR-MV1とMDR-M1ST

このMDR-MV1が注目されている理由として、まず由緒正しいソニーの「プロ機」であること、そして同社としては久々の本格的な開放型ヘッドホンであることが挙げられます。

プロ機という点については、デジカメとかと同じで、大衆向けのコンシューマー機と比べて具体的な設計やサウンドの違いというよりも、ターゲット層や売り方の側面が強いと思いますが、今作はちょっとユニークな存在です。

これまでソニーのプロ機というと、代表的なMDR-CD900STやMDR-M1STなど、あくまで業務用のBtoB製品という扱いで、家電量販店のオーディオ部門ではなく楽器店で販売するなど、開発から販売路線に至るまで「コンシューマー向けのソニーブランドとは別物」というイメージを貫いていました。他にもMDR-EX1000やMDR-Z1000なんかが挙げられます。

たとえば直近のMDR-M1ST(2019年発売)を見ると、当時ソニーのコンシューマー向け主力だったMDR-1Aシリーズヘッドホンと価格帯や基礎設計は似ているものの、あえてプロとコンシューマーという二つのジャンルを分けて展開していました。その点、今回のMDR-MV1と同等のコンシューマー機は今のところ見当たりませんし、販売もコンシューマーと統合されているのが面白いです。

昔ならコンシューマーというと消費するだけの存在ということで、商品の売り方も職人芸や手作り感、木材や貴金属など、いわゆるラグジュアリー的な所有欲を満たす商品が求められていたと思うのですが、近頃は多くの人が情報に敏感になり、「自分はコンテンツクリエーター側だ」という心理状況にあるため、それに合った製品が求めらているように思います。

そういった意味では、あくまで私の感覚として、MDR-MV1はなんとなくソニーのデジタルカメラにおけるVLOGCAM ZV-Eシリーズと似たようなコンセプトの印象を受けます。つまりプロ用と言っても、本格的なレコーディングセッションのためのニッチな製品というよりは、動画コンテンツクリエーターなど幅広いジャンルで活用できる最先端モデルというイメージです。

意外と高いです

値段を見ても、従来のMDR-1AやMDR-M1STの3万円という価格帯は、一昔前なら高級ヘッドホンと呼べる部類でしたが、今やBluetoothワイヤレスヘッドホンに完全に淘汰されてしまい、ソニー自身もワイヤレスWH-1000Xシリーズを主力に置いているため、そうなるとわざわざ有線を選んでまでワンランク上のリスニング体験を味わいたい人にとって、今回の6万円という価格設定は妥当だと思います。

また、最近流行りの「空間オーディオ」というキーワードを強調しているあたりも、最先端のトレンドを最高の技術力で体験できるという、ソニーというメーカーの強みを再認識できる、まさにソニーらしい製品だと思います。

近頃あれだけ大企業が空間オーディオを「ステレオに代わる次世代フォーマット」としてゴリ押ししているのに対して、一般大衆はそこまで興味を持っていない印象があります。自宅の天井や床に9.1.6chスピーカーを配置できる人なんてそうそういませんし、大多数の人にとって空間オーディオを初体感するのがショボいワイヤレスイヤホンとかで「まあこんなもんか」という程度で終わってしまっている現状があるわけで、そこへ来て今作MDR-MV1は空間オーディオをまともに体験させるための待望の製品だったと思います。

MDR-MV1は開放型ヘッドホンという点でも注目されています。10年前のセオリーでは、音質最優先なら開放型のほうが優れていて、密閉型ヘッドホンというのは遮音性のために仕方なく選ぶ妥協の産物というイメージがありました。

しかし、各メーカーから近頃の最高級ヘッドホンを見ると密閉型である比率が高く、ソニー自身もフラッグシップ機のMDR-Z1Rやその弟分であるMDR-Z7M2は密閉型です。

従来の密閉型の問題点だった、空気が詰まるような圧迫感や、耳にお椀をかぶせたような濁った響きといったあたりが最新の音響設計によって改善され、逆に開放型のドライバー振動板の特性だけでは足りない部分を補うために密閉ハウジングを活用する設計ができるようになったことで、ここ十年で開放型と密閉型の立場が逆転したような印象すらあります。

それでも、長時間の作業などで耳に負担をかけず快適に使うなら開放型のメリットも十分にあり、たとえば普段はスピーカーだけど、夜間は近所迷惑にならないようヘッドホンに移行するような人は開放型を選ぶケースが多いようです。

ソニーのヘッドホンというと、MDR-CD900STを筆頭に、高級路線でもMDR-Z1RやMDR-R10など密閉型モデルが多く、密閉ハウジングの設計を存分に活用しているメーカーというイメージがありますが、過去のモデルを見ると開放型の傑作も意外と多いです。伝説的なヘッドホンとして歴史に残る2004年のQualia 010や、その廉価版のMDR-SA5000がありましたし、私みたいに古くからヘッドホンを趣味としている人なら、むしろMDR-F1とMDR-MA900の方が隠れた名機として印象深いのではないでしょうか。

MDR-F1 MDR-MA900

特に私の身の回りでは、今作MDR-MV1を見て「ようやくMA900の再来か」と期待を寄せている人が結構多かったです。MDR-MAというのは10年ほど前に出ていたソニーの開放型ヘッドホンシリーズで、その中でもMA900はフルオープンヘッドホンとして、まるでドライバーが宙に浮いているかのような設計になっており、その快適な装着感からゲームやテレビ用に愛用している人が多かったです。MDR-MV1はMA900ほどの完全開放ではありませんが、音楽以外にもゲームや動画鑑賞用ヘッドホンを探している人にとっては有力な候補になりそうです。

デザイン

今回使ったのは店頭試聴機だったので、ケーブルに「Not for sale」の青いステッカーが貼ってありますが、それ以外は市販モデルと同じです。

本体重量は223gということで、近頃の400g級の高級ヘッドホンに慣れている人にとっては、こんなに軽くて大丈夫なのかと心配になるくらい軽く感じます。

デザイン

回転ヒンジ

十分な調節幅

MDR-MV1とMDR-M1ST

密閉型モニターヘッドホンMDR-M1STと並べて比べてみると、ヘッドバンド部品はほぼ共通していることがわかります。

青と赤の左右ラベルはMDR-CD900STの頃からソニーのプロ機の伝統を象徴していますし、軽量かつ柔らかいヘッドバンドクッションや、目盛り付きでカチカチと確実に調整できるスライダーなど、MDR-M1STで好印象だった要素を全部引き継いでいます。ヘッドバンドに回転ヒンジがあるため顔の側面に沿ってピッタリとフィットしますし、フラットに収納できるのも便利です。

MDR-M1ST自体がコンシューマー向けの普及機MDR-1Aシリーズからアイデアを継承したリフレッシュ版みたいなイメージなので、ソニーは他のメーカーでよく見られるような手当たり次第奇抜なモデルを乱発するのではなく、設計開発やユーザー体験のノウハウを着実に蓄積して新機種に活かしていることが伺えるのが嬉しいです。

開放ハウジング

ハウジングは外面のみでなく外周にも開放グリルが設けてあり、明らかに通気性が良さそうです。このグリル部品はあまりにも軽量なので、一見プラスチックかと思えるのですが、指をグッと押し当ててみると冷たいので、金属製だとわかります。マグネシウム合金鋳造とかでしょうか。

グリルの奥を見ると細かいメッシュ素材があるので、単純にドライバーだけの完全開放というわけではなく、ハウジング内部でかなり入念な音響調整をしているようです。

厚手で快適なイヤーパッド

イヤーパッドは密閉モデルのような合皮ではなく、フカフカした低反発のマイクロファイバー素材で、厚さも結構あるので装着感は非常に快適です。遮音性を確保する必要がないため、側圧は緩く、圧迫するような不快感が一切ありません。

個人的にMDR-M1ST・MDR-1AやCD900STが苦手だった理由として、イヤーパッドが薄いため耳の先端がドライバー出音面にぶつかってしまい、数時間使っているとヒリヒリと痛くなってくるという問題があったので、MDR-MV1はそれが起こらないだけでも十分嬉しいです。

それならMDR-M1STやCD900STにもっと厚手の社外品パッドを装着すればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、ドライバーと耳との距離や、その間の空間容積によって音の響き方が変わってしまいます。メーカー側が意図した音質を得るために最善のパッドを選んでいると思うと、勝手に自己流でパッドを変えるのはあまり好きではありません。

ドライバー

イヤーパッドを外してみると、40mmダイナミックドライバーと、その周囲の通気バッフル面が見えます。中心の振動板は透明なので金属コーティングなどは今回していないようで、それを保護する部分が白い別部品になっているのは面白いです。

今作は空間オーディオをテーマにしているということで、ドライバー配置がそこまで傾斜しておらず、耳穴に対してほぼ直角になる位置になっています。

音楽鑑賞用ヘッドホンというと、耳に対してドライバーを前方から耳に向かって傾斜配置しておくことで、あたかも目の前のスピーカーから鳴っているからのような奥行きや距離感を演出する設計が一般的です。特にステレオスピーカーに慣れている人ほどヘッドホンでは自分の耳の真横から音が鳴っているように聴こえるのに違和感があるものです。

ところが、前方傾斜配置してしまうと背後からの音などを擬似的に生み出すことが困難になってしまうため、空間オーディオのためには今回のようなオーソドックスな並行配置が理想的になります。逆に言うと、ステレオ的な音楽鑑賞に特化したMDR-Z1Rなどと比べると、MDR-MV1はあまりステレオスピーカーっぽい鳴り方は期待できないかもしれません。

付属ケーブル

付属ケーブルは2.5mで、プロ機を意識してか6.35mmステレオ標準プラグなのが最近では珍しいです。さらに3.5mmへの変換ケーブルも付属しています。普通に3.5mmでネジ込み式の6.35mmアダプターを付属すればいいのに、あえて逆にしているのは何らかのポリシーを感じます。

ケーブルに関してはMDR-M1STのと同じものだと思います。プラグは高級感がありますし、ケーブル外皮に縦の細い溝があり、これのおかげでベタベタせず絡まりにくくなっており、かなり扱いやすい優秀なケーブルです。

片出しでもバランス対応

ヘッドホン側のコネクターは3.5mmの左側片出しなのですが、左右グラウンド分離の四極端子になっているためバランス接続にも対応しているのが嬉しいです。

今のところソニー純正でバランスケーブルは出ていないようですが、社外品メーカーからはすでに数種類手に入るようですし、自作も容易です。他のメーカーでよくある奥まったジャックではなく、周囲に十分な余裕を設けてくれているのは嬉しいです。

一般的なTRS三極シングルエンド接続の場合は先端からL、R、GNDの順番ですが、四極バランスで使う場合はTRRSで上からL+、R+、R-、L-の順番になります。

このヘッドホンは特に空間オーディオに特化した設計ということなので、バランス接続を活用する事によるクロストーク低減、つまりステレオセパレーションの向上は空間描写におけるメリットになりそうです。

インピーダンス

周波数に対するインピーダンスの変動を確認してみました。参考までにMDR-M1ST、MDR-CD900STとも比較してみます。

MDR-MV1の公式スペックでは1kHzで24Ωということで、グラフを見ても大体合っています。

ちなみに破線は装着した状態で測ったもので、とくに低音65Hz付近を見ると装着具合で駆動負荷が若干変わるようです。MDR-M1STと比べると、5.5kHzあたりに微妙なねじれがあるのはドライバーの違いによるものでしょうか。

それらと比べると、MDR-CD900STは低音はもちろんのこと3.3kHz付近の大きな山が目立ちます。これは周波数特性ではなくインピーダンスの山ですから、少ないエネルギーで勝手に振動してくれる共振点とかなので、音のクセにつながり、特にCD900STはこのあたり(声の滑舌とか)を強調するような鳴り方という点がプロに重宝されています。

一方MDR-MV1はMDR-M1STと同様に近代的なデザインだけあって、インピーダンスがそこそこ安定していて、100dB/mWというスペックのおかげでポータブルから据え置きまで、どんなアンプ環境でも容易に鳴らせるだろうと思います。

ただし個人的には、せっかくのプロ機ということで、CD900STのように全体的なインピーダンスはもうちょっと高くても良かったと思います。というのも、我々オーディオマニアが当たり前のように使っているポータブルDAPやヘッドホンアンプであれば、最近は出力インピーダンスが0Ωに近い完璧な定電圧駆動のアンプがあたりまえになっていますが、レコーディング用に使われるオーディオインターフェースなどでは、ヘッドホン出力は未だに20Ω以上と高めな製品が多いです。

ここ数年の間に、RMEを筆頭にFocusriteやMotuなどのインターフェースメーカーが内蔵ヘッドホンアンプに注力して出力インピーダンスを下げる努力をしていますが、100Ω以上のヘッドホンを想定して出力インピーダンスは50Ω以上なんていうメーカーもまだ多いです。

スピーカーにおけるダンピングファクターと同じで、ヘッドホンのインピーダンスに対してアンプの出力インピーダンスが高いと定電圧が破綻して再生周波数特性に変化が生じるため、一般論として10対1つまり24Ωヘッドホンなら2.4Ω以下の出力インピーダンスくらいあれば十分だなんて言われています。

具体的には、一部のAVアンプやオーディオインターフェースなど、出力インピーダンスが高いアンプでMDR-MV1を鳴らすと、負荷のアップダウンを制御しきれず、モコモコした重い鳴り方になってしまいます。一方、最近のスマホ用ドングルDACとかなら出力インピーダンスが非常に低いモデルが大半なので、違いを確認するために聴き比べてみるのも面白いと思います。



せっかくの開放型ということで、最近プロ用としてよく使われている開放型ヘッドホンと比べてみました。

インピーダンスで見ると、ATH-R70x、HD660S2、DT1990PROは似たような高インピーダンス設計です。それ以外のモデルのみで縦軸を拡大してみると、T60RPはグラフ上で唯一の平面駆動型だけあってピッタリ横一直線です。これは電気的な位相変動グラフで見ても同じなので、さすがRPの名前(Regular Phase)通りです。だからといって周波数特性がフラットである保証はありませんが、周波数に依存しない純抵抗としてどんなアンプでも同じような鳴り方が保証できるあたりはやはり平面駆動型にメリットがあります。MDR-MV1は全体的なインピーダンスは低いものの、帯域の変動は他のダイナミック型と同じ傾向にある、極めて普通な特性であることがわかります。

音質とか

今回の試聴では、普段から使い慣れているHiby RS6 DAPと、据え置きアンプではChord DAVE、iFi Audio Pro iCAN Signatureなどで鳴らしてみました。

Hiby RS6

Chord DAVE

まずサウンドの第一印象ですが、このヘッドホンはいわゆる開放型モニター系モデルの中でもかなりユニークな鳴り方です。

真っ先に「いつものソニーの音だ」と感じたので、昨今のソニー製イヤホン・ヘッドホンを聴き慣れている人なら、すんなり移行できるような音作りだと思います。

音楽鑑賞に使う場合、DACやアンプなど上流ソースの僅かな違いを上塗りするほどヘッドホン自体の個性がかなり強いので、アンプ選びはそこまで気を使う必要はなさそうです。たとえば開放型では最近主流のAudezeやHIFIMANなどの平面駆動型は、それぞれモデルやメーカーごとにサウンドの個性が違うわけですが、それらですらMDR-MV1と比べたら全部同じような鳴り方だと思えてしまうくらい、MDR-MV1だけが異色の存在です。

モニターヘッドホンというと大抵は味気無いドライな鳴り方なので、アンプで色艶を加えるといった手法をとっている人が多いと思いますが、このヘッドホンはむしろ厚みや輝きを強調する鳴り方なので、変にこだわった美音系アンプよりも、どちらかというとRMEのようなプロ系のスッキリしたアンプを使った方が相性が良いです。

空間オーディオの件は一旦置いておいて、ステレオ音楽鑑賞における音色や周波数特性だけに注目すると、MDR-MV1は中低音の特定の帯域だけピーキーに強調されるのを嫌ってか、かなり広範囲にわたり厚く緩やかに盛り上がっていて、ベースラインやハーモニーの豊かな音色に包み込まれる感じがあり、決して開放型と言われて想像するような薄味の軽い鳴り方ではありません。中域の派手さは控えめな、いわゆるV字の特性で、中高域にはメリハリのある刺激的なアクセントが感じられる一方で、それよりも上の高音はそこまで目立たない、といった部分はまさにソニーらしい仕上がりです。

このような「ソニーっぽい音」というのは、2010年くらいからソニーが打ち出してきた独特の音作りの事で、それ以前のモデル(例えばMDR-CD900STやMDR-EX1000など)と比べると根本的に毛色が違うというか、明確な境界線が存在するように思います。モデルでいうと、XBAシリーズとかMDR-1Aあたりからでしょうか。ハイレゾウォークマンやMoraとかを打ち出してきたのと同じくらいのタイミングです。

しかも近年のソニーというと密閉型ばかりですので、MDR-MV1の鳴り方がそれらと似ているということは、密閉型っぽさが感じられるわけで、他社の一般的な開放型ヘッドホンとは印象がずいぶん異なります。

ドライバーの振動板は前後に同じくらいの音波を出しているので、ハウジングの外側(つまりドライバーの裏側)に耳をあててみると、たとえばHIFIMANみたいな完全開放型ヘッドホンでは表側と同じくらいの音量で音楽が聴こえるわけですが、MDR-MV1の場合は外側で聴こえる音はかなり静かです。つまり音波の多くがハウジング内部で反射している事になります。

これは音漏れの少なさという点ではメリットにもなるものの、開放型という点のみを期待していた人にとってはちょっと調子が狂うというか、「結局いつものソニーじゃないか」と思えてしまうわけです。

それではMDR-MV1は無意味なのか、開放型らしさが薄いのならMDR-M1STを買った方が良いのかというと、そうでもありません。このヘッドホン特有のメリットというのが確実に存在します。

MDR-MV1最大のメリットは、ヘッドホンにありがちな空間描写の違和感や乱れが極めて少ない、前後左右の三次元空間の描写が上手い、という点が挙げられます。これについては素直に素晴らしいと思えました。

MDR-M1STを筆頭に、CD900STもそうですが、多くのヘッドホンでは、周波数特性とは別問題として、耳穴を取り巻く部品ごとに特定の帯域だけの吸収・反射が行われているせいで、低音は耳の後ろ、プレゼンスは耳の上といった具合に、不自然な空間表現を生み出してしまいがちです。

これは密閉型に限った話ではなく、開放型でもドライバー性能が不十分で低音が足りないから、低音だけを反射して増強するようなギミックを加えたヘッドホンというのも意外と多く、度が過ぎると、特定の低音だけが変な方角から鳴っているような不自然な空間表現になってしまいます。

20万円のソニーMDR-Z1Rぐらいの高級機になってくると、響きの特性や時間差を有効に活用して、前方のスピーカーから鳴っているような立体的なイメージを生み出してくれるわけですが、それには巨大なハウジングはもちろんのこと、材料選びから機械加工までかなりコストがかかるため、プラスチックや板金を多用する低価格なヘッドホンとなると、どうしても不自然な響きが管理しきれません。そのため、周波数特性のフラットさは犠牲にしてでも、響きの問題が少ない開放型ヘッドホンを選ぶという人が少なからずいるわけです。

MDR-MV1はそれらの中間のちょうど良いところを狙っており、開放型、密閉型という枠組みを一旦忘れて、ソニーらしい音作りを実現しながら、ヘッドホン由来の空間表現の乱れを徹底的に修正するような意図が感じられます。また、遮音性や音漏れは妥協することで、より音質面での理想に近づけたのだろうと思います。

注意点としては、ピュアオーディオマニアが求めているような、音像が前方のみに形成される、スピーカー的な奥行きのある鳴り方ではないので、そういうのを求めている人は、素直に2chステレオ音楽鑑賞に特化したMDR-Z7M2やMDR-Z1Rを買うべきです。

ATH-R70x

MM-500

MDR-MV1とは対照的に、いわゆる古典的な「開放型らしさ」が存分に味わえるモニターヘッドホンを一つ選ぶとなると、昔ならAKGとかが有名でしたが、私ならオーテクATH-R70xを推したいです。

他には定番のゼンハイザーの最新機HD660S2とかも思い浮かびますし、もうちょっと高価なクラスではAudeze LCD-XやMM-500も良さげです。しかし3万円台で買えるATH-R70xはヌケの良い開放型らしさを象徴するようなモデルなので、価格の枠を超えて、ぜひ体験してもらいたい傑作ヘッドホンです。

そんなR70xや平面駆動型のMM-500などと比べると、やはりMDR-MV1が異色なヘッドホンである事が実感できます。まずいちばん目立つのはMV1の低音の豊かさです。サブウーファーのようにピンポイントでドスドスと鼓膜を刺激するわけではなく、中域から最低域にかけて緩くフワッとした表現で、常に温厚な音色に周囲を包まれているような感覚があります。

残響が濁っているというよりは、低音のスケールが大きく、アタックが遠く、耳元から離れたところから空間を満たすように鳴っている感覚があり、たとえば映画館の低音のイメージに近いかもしれません。箱鳴りで響いている感じではないのに、低音用スピーカーがどこにあるのか把握できず、シアター全体を包み込むような臨場感のある鳴り方という意味です。その点R70xなどでは、録音されている信号そのままに振動板が動いているだけのように感じるので、歌手や楽器の帯域バランスを分析するには優秀かもしれませんが、最終的な空間の仕上がりを確認する際に、シアターでの鳴り方を再現するのは無理がありますし、音楽鑑賞用途としても真面目すぎてインパクトに欠けます。

次に、これはMDR-MV1のみでなく、近年のソニー全般に言えることだと思いますが、第一印象では高音が結構派手に鳴っているように感じるものの、じっくり聴いてみると、最高音までリニアに伸びているというよりは、5kHz付近の特定の帯域だけグッと持ち上がって、その上はストンと落ちるような感覚があります。

個人的にこれが他社と比べていわゆる「ソニーらしさ」を決定づける要因だと思っており、キラキラした輝きや、クリア感、滑舌や質感といった魅力的な要素を強調する一方で、それよりも上の高域の空気のざわめきやバックグラウンドノイズといった環境音がそこまで目立ちません。つまり凡庸なヘッドホン比べると、歌声や楽器のツルッとしたクリア感であったり、これまで聴こえなかった質感が浮かび上がってくる一方で、そこまで優秀ではない録音であっても、不要なノイズが目立たないため、解像感がグッと上がったように感じます。

これについては、普段聴く音楽によって良し悪しの印象がかなり変わってくると思います。ホールの空気感をたっぷり含んだアコースティックやクラシック系録音だと、MDR-MV1だとどうしても楽器の音だけが目立ってしまい、空気のざわめきがほとんど感じ取れないので、なんだかデッドなスタジオとか、真空状態で聴いている感じがします。ATH-R70xの方が空気感までスッキリと正確に描いている感覚があり、あたかも自分が自然な音響空間に包まれているような広大なサウンドステージが体験できます。つまりクラシックなどの音楽鑑賞では、その現場の空気の再現が重要であって、演奏者はあくまでそれを構成する要素の一つにすぎないというATH-R70xの描き方が好ましいです。

一方、ミックスが下手な作品をATH-R70xで聴くと、個々のマイク、トラックごとの空間情報が混在していて気持ち悪い感覚になってしまうのですが(そのためミックスの良し悪しを判断をするには大変優秀なヘッドホンなのですが)、MDR-MV1では高音の各トラックの位相差などが目立たず、低音を中心に良い感じにフワッとした臨場感としてブレンドして繋ぎ合わせてくれます。

つまりMDR-MV1はスタジオポップスとの相性が良く、とりわけEDMなど膨大なトラック数をDAW上で空間に分散している作風で極めて聴き応えがあります。特に打ち込みのキックドラムは開放型としては意外なほど力強く鳴ってくれる一方で、鼓膜への音圧の圧迫感は少ないので、長時間延々と打ち込み音楽を聴いている人や、DAWや動画編集での作業が多い人に向いています。

バランスケーブル

ケーブルに関しては、以前MDR-M1ST用にバランスケーブルを作ってあったので、同じコネクターを採用しているMDR-MV1に使ってみたところ、かなり良い方向に明らかな変化が感じられました。

バランスケーブル

付属ケーブルから変えたほうがいいと思います

付属ケーブルと比べて音のクッキリ感というか見通しが断然良くなったので、こればかりは、もしMDR-MV1の購入を真剣に検討しているなら、とりあえずなんでもいいので別のケーブルに交換して聴き比べてみることをお勧めします。私が使ったのは安い切り売りの銀メッキOFC線なので、そこまで高級品にこだわっているわけではありません。

線材の違いとバランス化のどちらが重要なのか気になったので、同じ線材でシングルエンドのケーブルも作って聴いてみたところ、付属ケーブルと比べて中域の不明瞭なフワフワした感じが払拭されるようで、さらにバランス化することで中高域のステレオイメージがカッチリして、距離感や奥行きが明確になる印象です。

付属ケーブルは扱いやすくコネクターも高級っぽいので、決して悪い線材ではないと思うのですが、なんだか、それを含めてサウンドをソニー風にチューニングしているのかもしれません。個人的にいまいちピンとこなかったです。

空間オーディオ

MDR-MV1の宣伝を見ると「空間オーディオ」というキーワードをかなり強調しているので、避けて通るわけにはいきません。

今のところDolby Atmosに対してソニーは360 Realityという全く別のフォーマットをプッシュしている、いわゆるフォーマット戦争の状態にあるので、MDR-MV1を空間オーディオ用として売り出す理由も重々理解できます。

意外と勘違いや混同している人が多いのですが、プロの制作現場で使われているAtmosなどの空間オーディオ(つまり100チャンネル以上の、それぞれ三次元空間座標を持ったオブジェクトベースのトラックを、音声、BGM、環境音といった各ステムに振り分けて保存しておくことで、後日、映画館、イベント会場、家庭用、ヘッドホンなど、様々な用途に向けて容易にミックスダウンできるという、ワークフローの利便性のためのフォーマット)がある一方で、現在家庭用向けに宣伝されている空間オーディオというのは、たとえば9.1.6chなど、スピーカー位置が固定されている古典的なサラウンドフォーマットの延長線上なので、根本的に別物として考えるべきです。

今のところ私自身の空間オーディオについての印象はあまり良くありません。一昔前にハイレゾをゴリ押ししていた時と同じで、制作現場でのメリットという点では画期的だと思うのですが、一般消費者(特にスマホユーザー)へ普及させるために主張しているメリットはどうも怪しいというか、手段と目的が逆転しているような気がします。

ハイレゾの時も、新たなリマスターを施した楽曲を提供することで、以前のCD音源と比べて「96kHz/24bitだから音が良い」と錯覚させる手法をとっていましたが、空間オーディオでも、古い楽曲をAtmosステムBWFに再構築して、そこから新たにリミックスする事でコンプレッサーからEQに至るまで全てやり直すともなれば、純粋なフォーマットの違いによる音質メリットと言うのはミスリードだと思います。

ネットニュースで空間オーディオの話題になると、Apple Musicストリーミングサービスにて、設定画面でDolby Atmos空間オーディオをONにした状態の事を指している事が多いです。制作現場では100チャンネルの複雑なワークフローを使っていたとしても、最終的にヘッドホンに届けられるのはストリーミングのために2chステレオに落とし込んだミックスなので(そもそもヘッドホンもヘッドホンアンプも2chステレオですし、Bluetoothも2ch規格なので)、つまり大昔からあるバーチャルサラウンドとの差別化がイマイチわかりません。

なんにせよ、根本的な話は一旦忘れて、実際にApple Musicの空間オーディオ「お試しプレイリスト」みたいなのをMDR-MV1で聴いてみると、冒頭で述べた通りヘッドホン由来の空間の響きの乱れが少なく、まるでサラウンドスピーカーのように豊かに包み込む鳴り方のおかげで、確かに空間オーディオミックスを体験するのには理想的なヘッドホンだという実感が湧きます。

よくよく考えてみると、これはかなりユニークな特徴だと思います。ハイエンドヘッドホンでは、前方のステレオスピーカーの音場や奥行きを再現する思想のモデルはたくさんありますが、サラウンドスピーカーやシアタールームの音場体験を再現するヘッドホンというのは意外と思い当たりません。ゲーミング用で3Dエフェクトとの相性が良いヘッドホンはありますが、コアなホームシアターマニアが満足できる鳴り方の高級ヘッドホンという新路線として、MDR-MV1は有意義な第一歩だと思います。

ではMDR-MV1を音楽鑑賞用に使う場合、ステレオ版よりも空間オーディオ版の楽曲を聴いた方が良いのかというと、それが結構悩ましいです。

まず、レビュー記事で空間オーディオの凄さを披露するデモ曲として、Marvin Gayeの「What's Going On」Atmosミックスがよく取り上げられています。(ハイレゾ初期に評論家がDaft Punk「Get Lucky」ばかり使っていたのを思い起こされます)。

実際にWhat's Going Onを空間オーディオ版で聴いてみると、ステレオ版と比べて右手前奥のコーラス、頭上のパーカッションなど、立体的で時間差の距離感が実感できる素晴らしい音楽体験が得られます。他のヘッドホンではMDR-MV1ほどの三次元っぽい感覚は得られないので、その点やはり優秀だと思います。

ここで肝心なのは、What's Going Onはかなりドライなスタジオ作品であり、Atmosミックスもまるでレゴブロックでジオラマを作るように、独立した演奏パートを任意の空間座標に点在させてサラウンドミックスを構築できるため、最終的な仕上がりも上出来です。

つまり、マルチトラックで録られた往年の歌謡曲の空間オーディオ版や、新譜でもドライなトラックパートを自在に配置できる作風なら、MDR-MV1と空間オーディオONで聴くメリットは十分にありますし、従来のステレオミックスでは味わえなかった面白い体験ができると思います。

一方、クラシックなどの生楽器録音では、どうもうまくいきませんでした。NaiveレーベルからJean-Paul Gasparianのドビュッシー・ピアノ楽曲集が空間オーディオで出ていたので試しにMDR-MV1で聴き比べてみたところ、ステレオ版で聴くと素晴らしいのに、空間オーディオをONにすると、音が極端に濁って、アーティキュレーションが埋もれてしまい、流石にこれは駄目だと思いました。

本来のステレオ録音の中にはステージの床や奥の壁の響きなどが全て正確に収録されているのに、それを空間ミックスが新たな音響チャンネルで上塗りしてしまうせいで、帯域によってはピアノが二台、別々の方向から鳴っているような変な響きが加わっています。

例えるなら、スタジオで録音したピアノの上に、擬似的なリバーブというか、カーステレオによくある「ホール」とか「ディスコ」と選べるバーチャルサラウンドプロセッサーを通したような変な鳴り方です。クラシックファンは、そういうピアノが背後頭上から鳴っている特殊効果ではなく、リサイタルホールの特等席で前方の生楽器を聴いている情景を期待していると思うので、それに関しては正しいステレオ録音で聴いたほうが断然有利です。(左右マイクで収録した音波を、左右の耳で聴いているだけなので)。

大規模な交響曲でも同じ現象が起こります。K.ペトレンコ指揮ベルリンフィルのショスタコーヴィチ8, 9, 10番が空間オーディオで出ていたので聴き比べてみたところ、やはり普通のステレオミックスの方が観客席で体感するホール音響が正確に描写されています。

これも先程のピアノと同じように、空間オーディオをONにすると、マイクで正しく収録された空間音響が時間差で多重に上塗りされてしまうため、全体的に風呂場で鳴っているような過剰な響きがあるのと同時に、トランペットが急に右上から聴こえたりなど、本来のオーケストラ配置を無視したスペクタクル効果が発揮されて、生演奏に慣れている人ほど違和感があります。

もしかすると、ちゃんとした9.1.6chスピーカー環境で聴いたら空間オーディオ版の方が優れているのかもしれませんが、どんなにあがいてもヘッドホンは2chステレオ再生装置でしかないので、そのあたりに無理があるようです。そんなわけで、空間オーディオのメリットに関してはジャンルや楽曲ごとに実際に試して評価する必要があるわけですが、MDR-MV1はその用途にふさわしいヘッドホンであることは確かです。

おわりに

ソニーから久々の本格的な開放型ヘッドホンということで大きな期待とともに登場したMDR-MV1ですが、実際に使ってみると、確かに良いヘッドホンだと思えました。ソニーらしく入念に設計された軽量で快適な装着感はもちろんのこと、サウンドも2023年のトレンドに合わせた画期的なヘッドホンという印象を受けました。

あくまで普通の2chステレオヘッドホンとして扱うなら、どのへんが画期的と言えるのか伝わりにくいかもしれませんが、私の勝手な解釈としては、空間オーディオに最適なヘッドホンという主張はあながち嘘やハッタリではないという点を高く評価したいです。どうせソニーの宣伝文句だろうと疑っていたわけですが、いざ聴いてみると、その設計コンセプトが十分に伝わってきます。

これまでのヘッドホンは、イヤホンのように左右の耳穴にストレートに音波を届けるタイプか、それともドライバーを傾斜配置して前方にあるステレオスピーカーから鳴っているように錯覚させるタイプか、この二通りしか存在しなかったわけです。そこへ来てMDR-MV1は、空間オーディオ、昔風に言うならホームシアター・サラウンドスピーカー環境の鳴り方を錯覚させる音作りという意味で極めてユニークなアプローチですし、他にライバルや選択肢が思い浮かびません。

クリエーターにとって、マイク越しの生の楽器の質感とかにこだわるなら他にも良いヘッドホンの選択肢はありますが、サラウンドミックスの良し悪しを判断するのであればMDR-MV1を使うメリットがあると思います。

一般ユーザーでも、ピュアオーディオマニアで、ステレオスピーカーしか聴き慣れていない人にはピンとこないコンセプトで「なんでこんなに緩くフワフワしてるんだ」と疑問に思えるかもしれませんが、ホームシアターのサラウンド構成でBDとかゲームを楽しんでいる人にとって、その鳴り方に一番寄せているのがMDR-MV1だと思います。私自身もPCでゲームを結構やるので、最近メジャータイトルはAtmos対応とかが増えていますし、ちゃんとそれらを体験できるヘッドホンというのは魅力的に感じます。

ただし、ヘッドホンマニア目線で近頃の空間オーディオについて考えると、まだ中途半端な印象があります。

制作現場がDolby AtmosであれSony 360 Realityであれ、今のところ一般家庭での再生プラットフォームはクリエーターが扱うオブジェクト志向フォーマットではなく、9.1.6chなど昔ながらのスピーカー固定配置が使われています。

本来ならオブジェクトデータのステムのまま届けられ、ユーザーのリスニング環境に合わせて各スピーカーへの出力を割り振るリアルタイムDSPみたいなものが理想ですが、まだ実現するのは難しいのでしょう。

それはそれで良いとして、MDR-MV1自体は十分優れていると思うのですが、ヘッドホンでの体験を最大限に引き出すための、16chサラウンドデータを扱えるヘッドホン向けのプロセッサーDACというのが存在していません。

ここでソニーがMDR-MV1に最適化したサラウンドプロセッサーDAC・ヘッドホンアンプを用意して、PS5やPCゲームなりストリーミング音楽なりで、16ch(9.1.6ch)ロスレスサラウンドデータを的確にMDR-MV1用に仕上げてくれる環境を構築してくれたら、ようやく次世代の到来という気持ちになれると思います。

とくに最近は各自の耳形状を3Dスキャンして、そのデータで音響を最適化するなどの技術も生まれていますし、それらを駆使したリアルタイムの高速DSPとか、低遅延のマルチチャンネルUSB・HDMI・ネットワーク(Dante/AES67)インターコネクトなど、ソニーこそ実現できる技術力があると思っています。

空間サラウンド対応のゲームをやっている大多数のプレーヤーが、まだ3.5mmステレオジャックやBluetoothヘッドセットでプレイしているのを見ると、実にもったいないと思います。

たとえば数年前ヘッドホンイベントでヤマハがサラウンドプロセッサーヘッドホンの試作機を出していましたが製品化されていないようです。Audeze Mobiusもかなり良い線まで行っていたのに単発でした。特にMobiusはヘッドホンケーブルの代わりにUSBケーブルを使いマルチチャンネルDAC内蔵、ヘッドトラッキング連動といった具合に、かなり画期的なアイデアでした。ソニーからもHDMI入力のワイヤレスシアターヘッドホンはHW700DS以来長らく出てません。空間オーディオを押し出したい今こそHDMI2.1 eARC対応・PS5互換のロスレスサラウンドヘッドホンシステムを出すべきだと思います。

ソニー以外のコンシューマー向けUSB DACも、もはや2chステレオだけでは目新しさが無いので、そろそろプロ用標準の16chマルチチャンネルも模索してもらいたいですし、オーディオインターフェースもUniversal AudioやAntelopeなどDSP内蔵のモデルなら、入力側のビンテージコンプレッサーやEQモデリングだけで儲けようとするのでなく、ヘッドホン出力側のリアルタイムなサラウンドプロセッサーを導入できそうですが、誰もやっていないのがもったいないです。

やはりコンシューマー向けとなると、Windows・Macネイティブ対応、USBクラスコンプライアントから逸脱するのがネックになっている部分もあると思いますが、メディア媒体が空間オーディオをあれこれ宣伝していても、結局オーディオファイル向けのデジタルオーディオ機器は、USBであれDLNAであれ、ここ10年ほどずいぶん停滞している印象があります。

もちろん、それで十分と思っている人が大多数だから、不満も生まれないのだと思いますが、もしメディアや大企業が言うほど空間オーディオがそんなに凄いのなら、MDR-MV1のようなヘッドホンを叩き台として、デジタル入力の段階から、これまでとは全く異なる新世代の空間オーディオ体験を提案してもらいたいです。