2024年7月24日水曜日

HiBy R4 DAP の試聴レビュー

 HiByの新作DAP R4を試聴してみたので、感想を書いておきます。

HiBy R4

2024年6月発売、フルサイズのAndroid搭載機でありながら約45,000円という低価格なモデルです。他社製品と比べてもここまで安いのは珍しいです。

HiBy DAP

中国HiByのDAPラインナップはこれまでにR3、R5、R6、R6PRO、R8という5グレードが用意されており、最初期からあるR6においては、すでに第三世代のR6 III (Gen 3) まで進化しています。R3、R5、R8もGen 2に更新された中で、今回新たなグレードとしてR4が登場しました。

価格的には3万円台のR3 IIと6万円のR5 IIのちょうど中間に位置する45,000円という値段になるわけですが、なぜわざわざ発売する意義があるのかというと、R3はコンパクトな独自OSのDAPになってしまうため、Android OSとGoogle Playアプリに対応するDAPとしてはR5 IIがこれまでの最低モデルだったところ、今回さらに安い選択肢としてR4が登場したくれたわけです。

Android OSとGoogle PlayということはTidalやQobuzなど任意のストリーミングアプリをインストールして利用できるので、近頃のDAPユーザーはこれが最低ラインだと考える人も多いと思います。

古典的なSDカードからのファイル再生に特化するなら、R3の方が低価格でポケットに収まるコンパクトさが有利なのですが、アプリ対応となると画面表示や操作性の観点からあまり小さくできないというジレンマがあります。

M300とR4

ちなみにHiByには通常のラインナップ以外にもいくつかの特殊なDAPがあり、実はAndroid搭載の最低価格としては2万円弱のHiBy Digital M300というモデルがすでに存在しています。

しかしこちらは4インチ画面でスピーカーやマイク搭載、3.5mm出力のみといった具合に、どちらかというとウォークマンAシリーズのようなカジュアルなモデルなので、本格的なDAPを求めている人はR4の方に注目するだろうと思います。

サイズ感は私のRS6とほとんど同じです

さらにRシリーズとは別にRSシリーズのRS3、RS6、RS8というモデルもあり、これらは同じ番号のRシリーズよりも高価でディスクリートDACを搭載する独自色の強いモデルです。

私自身、2021年からHiBy RS6を愛用しており、音質や操作性についても十分満足できているため、今回R4がどの程度健闘しているのか興味があります。もちろん世の中には30万円以上するような高級DAPもたくさんあるわけですが、高価なモデルほどシャーシサイズや重量も増大する傾向にあるので、日頃から気軽に持ち歩くDAPとなると、R4からR6あたりのグレードがちょうどよいサイズだと思います。

デザイン

R4のシャーシデザインは上面のベルトループや派手なプラスチック部品のおかげでカジュアルな印象があります。

今回借りた試聴機は銀色のシャーシに緑色のプラスチックという組み合わせですが、他にもプラスチック部分はオレンジとホワイトが選べて、さらにシャーシ全体が黒いバージョンもあります。

今回の試聴機はグリーンです

背面

ケースとベルトストラップ

Android DAPはスマホのような全面タッチスクリーンという基本フォーマットが定まっているため、R4のカジュアルなデザインは差別化という意味では良いアイデアだと思いますし、低価格だからこそ、下手なメッキなどで高級っぽさを演出するのではなく、あえて外観を親しみやすいデザインにすることでコストパフォーマンス感も生み出せていると思います。

付属ケース

付属ケース

付属しているケースは安価なDAPでよくある柔らかい透明プラスチックのやつです。試聴するにあたって、側面マイクロSDカードスロットの穴が無いので毎回ケースを外すことになり、しかもベルトストラップがケースを通してあるのでそれも外さなければいけないのが面倒です。

R6 IIIと比較

出力端子

ボリューム調節

DX180と比較

R5 IIは手元に無かったので、その上のR6 IIIと並べて比べてみると、画面サイズは4.7インチと5インチで微妙な差がありますが、どちらも1280×720ですし、バッテリーは4500mAh、重量もR4が231gでR6 IIIが250gとほぼ同じです。

画面については、R4単体で使っているとそこまで気にならなかったものの、R6 IIIやiBasso DX180などと並べて比べてみると、最大輝度でも暗くて発色が悪いように見えます。このあたりも安さのためでしょうか。

機能面では低価格なりにR6 IIIと比べて削られたものが多いです。まず出力端子は3.5mm・4.4mmヘッドホン出力のみで、ラインレベル端子は不在です。ボリュームもエンコーダーノブではなく側面のボタンで上下するタイプに変更されています。その一方で、上面に昔ながらのホールドスイッチがあるのはありがたいです。

ラインアウト専用端子は全員が必要でもないので、むしろ省くことで少しでも価格を下げた方が嬉しい人も多いと思いますし、ボリューム調整もノブの方がコストはかかりますが、ボタンは微調整ができて有利という人もいます。そんなわけで、R4は基本の実用性を損なわずにコストダウンを徹底したことが伺えます。

Androidのスキン

英語モードでもロック画面の表示が中国語なのが謎です

Androidオーディオ設定

Androidオーディオ設定

SoCはSnapdragon 665でOSはAndroid 12、無線LANやBluetooth 5.0も搭載しています。ホーム画面に奇抜なスキンを採用していますが、実際に触ってみると極めて標準的なAndroid DAPです。

Androidのオーディオ設定は見慣れた項目が並んでおり、DACのフィルター設定やアンプのゲインなどの他に、HiBy独自のMSEBイコライザーやパラメトリックEQも用意されています。

私が使っているRS6よりもAndroid OSのバージョンが新しいためか、USB Digital Volume LockでボリュームロックがAndroid全体で一括設定できるのもありがたいです。(私のRS6だと新しいUSB DACを接続するたびに毎回アプリで個別に設定しないといけないのが面倒です)。

HiBy Musicアプリ

アルバムブラウザー

アプリ内設定

Tidalアプリ

HiBy Musicアプリもシンプルながら使い勝手が良いので、私も普段RS6で使っていて満足できています。このアプリはUSB OTGトランスポートとして使う時などの詳細な設定項目が用意されているので重宝しています。

SoCの処理は極端に遅いということもなく、SDカードスキャンもR6 IIIと同じくらいのスピードで完了しましたし、Tidalアプリで交互に比較しても遜色ありませんでした。

肝心のオーディオ回路は、D/AチップはESS ES9018C2M、アンプはOPA1652→OPA1612という定番のIC構成なので、このあたりも妥協はありません。もっと高価なDAPになるとディスクリート回路を採用するメーカーも増えてきますが、それらは音質スペック的に有利というよりは、メーカー独自のサウンドを作り込むための手段として導入しているケースが多いため、必ずしもコストに比例して音質が向上するとは限りません。

もちろん音質は搭載チップだけで決まるものではないので、高価なDAPの方が電源回路の余裕やノイズの低さなど、全体的な回路設計にコストをかけることで音質向上を目指しています。

その一方で、R4よりも安いモデルを見ると、R3ではES9219C、M300はCS43131といった、DACとヘッドホンアンプが一体化されたオールインワンチップを採用しています。これらはUSBドングルDACに内蔵されているものと同じです。音が悪いというわけではありませんが、音質の作り込みや差別化という点では限界があります。

つまり下位モデルと比べると、R4はD/A変換とアンプ回路の構成など正統派のDAP設計を導入した最低価格のDAPというわけです。FiioやiBassoなどライバルを見ても、ここまで低価格で本格的なDAPというのはなかなかありません。

出力

0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら負荷を与えて、歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧(Vpp)を測ってみました。

いつもどおりに計測を始めようとしたら、R4の出力信号にちょっとおかしな傾向が伺えました。0dBFS(デジタルでのフルスケール最大信号)を再生すると、上下に必ずクリッピングが発生するのです。

負荷の有無やボリュームの上下、ゲインモード設定に関わらず歪んでいるので、たぶんD/A出力からボリューム回路に行くまでの時点ですでに歪んでいるのだと思います。

念のためイコライザー(EQ、PEQ)やエフェクトプラグインなどがONになっていないか確認してみましたが、それらに原因は見つかりません。さらに念のため同じ条件でR6 IIIをテストしてみると歪んでおらず綺麗なサイン波形なので、音源ファイルや測定機器の不具合というわけでもありません。

上のグラフは0dBFSサイン波を再生してボリュームを1Vppに合わせた状態でのオシロ表示です。

そのままの状態では青線のように上下がクリッピングしています。R4のイコライザー機能をONにして全体のレベルを-1.5dBまで下げると、オレンジ線のようにクリッピングが解消され綺麗な波形になります。

実際のところ、聴いている音楽にもよりますが、ほとんどの楽曲(とくに高音質な作品)はフルスケールのギリギリまでレベルを上げておらず、ダイナミックレンジに十分なマージン(ヘッドルーム)をとっているため、問題になることは少ないと思います。ただし、もし音圧を限界まで上げたポップス楽曲などで歪みっぽさやチリチリとノイズが目立つようでしたら、イコライザーで-1.5dB下げてみるのも良いかもしれません。

どういった意図でこのような設計になっているのか不明ですが、単純にファームウェアのバグという可能性もあるので、その場合は今後アップデートで対策されるかもしれません。今回私が使ったのは先行試聴機とかではなくて普通に流通している製品で、開封後にアップデートを確認した以外は設定をいじったりしていないので、出荷時にこのような挙動をしているのは極めて謎です。(テスト時のファームウェアは1.11でした)。

それはさておき、ヘッドホン負荷を与えた時の最大出力電圧(Vpp)は上のグラフのようになります。

赤線がバランス、青線がシングルエンドで、それぞれにHigh、Mid、Lowの三段階のゲイン設定があります。

公式スペックではバランスで最大4.1Vrmsと書いてあり、実測でも11.7Vpp = 4.1Vrmsピッタリです。最大出力スペックは525mWとありますが、上のグラフだと20Ω付近で770mWくらい出せています。(どの程度の歪み率まで許容できるかにもよります)。

無負荷時にボリュームを1Vppに合わせて負荷を与えていったグラフです。バランスとシングルエンドの両方がピッタリ重なっており、バランスでも出力インピーダンスは約0.5Ωと極めて優秀です。

低価格モデルでありながら、肝心のアンプ性能に関しては一切の妥協が無いのは素晴らしいです。

いくつか他の低価格帯DAPと比べてみました。HiBy Digital M300はシングルエンドのみですが、それ以外はすべてバランス出力で最大ゲイン設定でのグラフです。

高インピーダンスのヘッドホンを鳴らすならiBasso DX180やFiio M11Sの方が有利ですが、20Ω以下のIEMイヤホンならどのDAPも似たような傾向です。同じHiByのR6 IIIよりもR4の方が高出力なのが面白いです。参考までにUSBドングルDACの一例としてiBasso DC07PROもグラフに乗せてみましたが、最近のドングルDACはDAPと比べて遜色ないくらいパワフルだということがわかります。

HiBy M300は3.5mmシングルエンド出力のみなので、他のモデルのバランス出力ほどの高電圧は出せません。余談になりますが、M300はDC07PROと同じチップアンプを採用しているので、シングルエンドの最大電圧がDC07PROのバランス出力の半分なのも面白いです。

無負荷時に1Vppにボリュームを合わせてから負荷を与えてみたグラフです。

このグラフを見ることで、DAPに対してDC07PROのようなドングルDACの弱点が見えてきます。出力電圧はDAP並みにパワフルでも、出力インピーダンスは高めで(約3Ω)、低インピーダンス負荷で低電圧が維持できなくなっています。

ちなみにHiByのM300・R4・R6 IIIが同じような曲線なのに対して、Fiio M11S・iBasso DX180の特性(つまりアンプ設計)が似ているのも面白いですね。

音質とか

今回の試聴では、普段から聴き慣れているゼンハイザーIE900、UE Live、64 Audio Nioなどのイヤホンを使いました。安価なDAPでも、先程のグラフでも見たとおり、ヘッドホンアンプのパワーは上級モデルと比べても遜色ありません。

UE Live

まずR4のサウンドの第一印象は、太く温厚で中低域もしっかりと存在感がある、まるで古典的なアナログポタアンのような鳴り方です。私の予想とは違っていてちょっと意外でした。

HiBy DAPラインナップの中では、R6 IIIなどよりもむしろRS6に近い雰囲気のように感じます。

シャープな刺激を避けて、かなり親しみやすく仕上げてあり、メリハリも十分に出せているため、とりわけ歌手やソロ楽器などは聴き応えがあります。エントリーレベルのマルチBAなどエッジやドンシャリ傾向がきついイヤホンはR4と組み合わせることで上手に調和がとれると思います。

このようなサウンドが意外だと感じた理由は、近頃の低価格DAPやDACアンプ、とくにUSBドングルDACなどは高解像路線の鳴り方であることが多く、R4のようなしっかりとした骨太なサウンドは案外珍しいからです。

クリア感やディテールの拾いやすさはドングルDACの方が有利かもしれませんが、演奏のエネルギー、特に屋外の騒音下でも楽しめるサウンドという点で、ポータブルDAPに適したチューニングです。派手めなイヤホンで音量を上げていっても、刺さるような不快感ばかりが目立つようなこともありません。

ところで、オーディオ機器は高価になるにつれて歪み率やノイズなどの測定スペックが向上していくだけだと想像する人も多いと思いますが、実際はそうとも限りません。

絶対的な数値よりも、音質が悪いアルバムでも悪い部分をあまり目立たせず、自分の好きな音楽をもっと良い音で体験できる方が、オーディオとして優れているという側面もあります。しかも、それを作為的に感じさせず、どんな音楽ジャンルでも自然に聴こえるよう実現するのは意外と難しく、高価なモデルになってしまいがちです。

ようするに、測定スペックだけなら安価なモデルでも十分に実現可能なのですが、感覚的な音の良さというところでオーディオメーカーが頭を悩ませて試行錯誤しているわけです。そのような観点から、R4は本格的オーディオに一歩足を踏み入れているDAPだと言えます。

RS6 & R4

ただし完璧というわけではありません。冒頭でRS6の雰囲気に近いと言いましたが、別の視点からは決定的な違いもあります。

音色に関しては似たような力強さを持たせているものの、RS6と比べると、R4は空間の立体感が平面的で、奥行きがありません。空間の奥行きはUSBドングルDACなどの方が上手く表現できているので、その点ではRS4は異色の存在です。最近のDAPでここまで二次元的に、すべての音がまるで間近のテレビ画面のような平面で鳴っている感覚というのは珍しいです。このような平面的な鳴り方は一昔前のポタアンに多かったので、なんとなく懐かしくも思えてきます。

そんなR4と比較すると、RS6は前方遠くに何層ものレイヤーが実感でき、たとえばピアノのソロリサイタルなら、リスナーの着席位置からピアノまでの距離、ステージの奥行き、床と天井までの高低差といった空間情報がリアルに伝わってきます。つまり高性能マイクで収録された三次元の音響情報が正確に再現できているわけです。

RS6では、オーケストラなどの大規模な楽曲はもちろんのこと、バンド音楽でも歌手やギターなどに対してドラムやベースが前後の奥行きで分離できているので、気になった演奏者だけに集中して聴くことができ、制作者の意図したミックスの世界観が体験できます。そのあたりがR4では平面的に圧縮されてしまうため、残響が多かったり複雑な楽曲になってくると聴き取りづらくなってきます。

同じメーカーのDAPでもここまで違いが明確だと、単純にサウンドの好みの差というわけではなく、価格による格差というものが実感できます。

FC6、M300、R4、R6 III

続いて、HiByラインナップの中から低価格モデルと聴き比べてみると、やはりR4だけが特出して異色です。

HiBy FC6というUSBドングルDACはRS6などと同類のR2R DACを採用しているので、イメージとしてはRS6のような鳴り方が期待されるわけですが、いざ音楽を鳴らしてみると、いわゆるドングルDAC的な鳴り方に近いです。同じくR2RドングルDACのCayin RU6もそのような印象だったので、やはりD/A変換の方式にこだわる以前に、ヘッドホンアンプとしての駆動力や電源周りの余裕といった観点で限界があるのでしょう。もちろんFC6やRU6をラインソースとして使うなら話は変わってきます。

そして、M300もそんな傾向から脱却できていません。線が細くてシュワシュワした弱い鳴り方なので、それこそラインソースとしてやカジュアルな使い方なら良いですが、IEMイヤホンで音楽をがっつり聴こうという場面には向いていません。iBasso DC07PROなどの鳴り方に近いのですが、そちらの方が芯があり安定しており優れていると思います。M300はアイデアとしては悪くないのですが、近頃はドングルDACの方が音が良いモデルも増えてきましたし、4.4mmバランス非対応なのも不便です。

それでは、同じ価格帯でUSBドングルDACとR4のどちらを買うべきかという話になると、ちょっと悩ましいです。

判断するためには、自分が現在使っているイヤホン、そして将来的にどのように進みたいのかが関わってくると思います。

たとえば、近頃の低価格なマルチドライバーIEMは、情報量やクリア感を強調するような派手めなサウンドが多いため、そういうのと合わせるなら、ドングルDACよりもR4で鳴らした方が落ち着いて良い感じになると思います。

とくに、低価格なイヤホンは帯域全体の位相管理が行き届いていないモデルが多く、楽曲本来の音場や空間定位を乱してしまう傾向があります。つまり、R4の平面的な鳴り方の方が、安いイヤホン特有の空気感の変なうねりや、低音の逆相感みたいな不自然さを隠してくれるため、リラックスした音楽体験ができると思います。

ところが、もっと優れた上級イヤホンになると、周波数特性だけでなく立ち上がりや減衰の過渡特性や位相がしっかりと調整されて、定位の立体感や空間描写の再現性が高くなります。そうなると、R4ではポテンシャルが引き出せず物足りなくなってきます。

ではどのくらいの値段のイヤホンからというのはメーカーごとに違いますが、たとえば最近流行っている3万円以下くらいの安価な中華系IEMイヤホン勢を色々と買い集めて、安価にオーディオ趣味を楽しみたい人なら、R4との相性が良いと思います。

もっと上級イヤホンのポテンシャルに対応できるDAPとなると、HiBy R6 IIIは格段に優れたモデルだと思います。約75,000円は結構な出費になってしまいますが、R4と比べても価格に見合ったアップグレードが実感でき、優秀なイヤホンで音を鳴らしてみると明らかな違いがあります。

簡単に言うと、音の太さや厚みはあるけど平面的なのがR4だとしたら、R6 IIIはそこまで太くないものの空間の広さや奥行きの描写が大幅に向上します。そしてそれらの両方を兼ね備えているのがRS6といった感じです。

R6 IIIはドングルDAC的な薄さや細さではなく、高音から低音までワイドレンジに高解像でカチッとした近代的なDAPサウンドです。iBasso DX180、Fiio M11SといったライバルDAPも似たような傾向なので、このあたりがDAPの激戦区なのでしょう。

R4だと演奏のノリは良いものの、どうしても「R4のサウンド」を聴いている感覚が拭えず、その上のR6 IIIの鳴り方を知ってしまうと「あと少し解像してくれれば」「空気感を出してくれれば」と望むようになってしまいます。

このあたりも、オーディオ機器においては一点集中で高級品を買うのではなく、システム全体のバランス感覚や相性が重要になってきます。

本格的に優れたイヤホンを購入する意欲があって、音楽も生楽器演奏や高音質楽曲にも多少は興味がある、という人であれば、R4だとボトルネックを感じてしまうと思うので、システム全体を考えると、やはりR6 IIIクラスのDAPが欲しくなります。

逆に、全体的に安価でまとめたい、そこまでマニアックにあれこれアップグレードする気はないという人なら、DAPはそこそこのR4にして、イヤホンに予算を多く使う方がバランスの良いシステムが組めると思います。

おわりに

本格的なAndroid DAPとしてはずいぶん安価なHiBy R4ですが、実際に使ってみたところ、基本的な機能やヘッドホンアンプの駆動力に妥協は感じられず、極めて完成度が高いDAPだと思いました。

入門機としてはもちろんのこと、HiBy RS8、Fiio M17、iBasso DX320など巨大な重量級ハイエンドDAPを買ってしまって持て余している人も、R4はポータブル用のサブ機として活躍してくれそうです。

4万円台というのは、他の大手メーカーの現行ラインナップと比較してもライバル不在の価格設定だと思います。

ただし、他のメーカーにはR4相当のモデルが作れないというわけではなく、FiioやiBassoもその気になれば作れるだろうと思いますが、実際のところ「4万円台のフルサイズDAP」というのは、そこまでの需要が無いのかもしれません。

現在のポータブルオーディオ市場を見ると、一昔前に低価格DAPが売れていた価格帯は「スマホ用USBドングルDAC」に完全に奪われてしまいました。(さらに高音質Bluetoothイヤホンの存在感も強まっています)。

根本的な話になりますが、そもそもAndroid DAPというのは、スマホのようなインターフェースに高音質DACとアンプを組み合わせたデバイスです。それなら自前のスマホを活用して、DACアンプのみ購入するほうが低コストで済むのは当然です。

そう考えると、予算が限られている人ならドングルDACを選ぶと思いますし、私を含めてマニアならR6 IIIなどの上級DAPを求めるでしょうから、4万円台でフルサイズDAPというのは意外と中途半端で、売り方がなかなか難しいです。

とはいえ、近頃は高価なBluetoothイヤホンを購入してから有線オーディオに興味を持ちはじめた新たな客層も生まれていますし、オンラインショップや量販店を見ると中国から謎ブランドの低価格・高音質イヤホンが続々登場しているので、とくに若手の学生など、それらをニッチなガジェット感覚で色々と買い集めたり貸し借りして論じているコミュニティをよく見ます。そのような界隈において、スマホとは別腹でDAPを持っておきたいという需要もあると思うので、R4がそのあたりに上手く刺さると良いと思っています。

ただし、DAPに関して辛辣な事を言ってしまうと、もうずいぶん昔からインターフェース面で一向に進化が見られないため、その点でもDAP離れが加速していると思います。つまり、アプリや機能において、スマホでは不可能な、DAPでしかできないようなことが思い浮かびません。操作感や通信面ではむしろスマホの方が有利ですらあります。

今後なにか技術もしくは音質面でDAPの新たな存在意義が生まれないかぎり、イヤホンオーディオにおいて、DAPはマニア向けの超高級機に特化する流れは続くと思います。


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