2025年2月9日日曜日

オーディオテクニカ ATH-R70xa ATH-R50xのレビュー

オーディオテクニカの新作ヘッドホンATH-R70xaを買ったので感想を書いておきます。同時に発売したATH-R50xの方も試聴してみました。それぞれ約55,000円と28,000円くらいです。

ATH-R70xa

2015年に出た旧作ATH-R70xはオーテクの中でも一番好きなモデルだったので、今回はそれの後継機ということで非常に気になります。

ATH-R70xa

今回登場したATH-R70xaは開放型スタジオモニターヘッドホンという位置づけで、オーテクのラインナップの中でもかなりプロフェッショナル寄りの製品です。

デザインを見てのとおり完全な開放型で、公式スペックのインピーダンスも470Ωということで、静かな環境でしっかりした駆動を前提としたモデルになります。

ATH-R70x・ATH-R70xa

2015年発売のATH-R70xというモデルから、およそ十年ぶりの後継機ということで、R70xの方は私も発売当時に購入して以来、音質の素晴らしさを絶賛してきたモデルですので、新作R70xaも迷わず速攻で購入しました。

サウンドやデザインがどれくらい変わったのか気になるのもありますが、さらに「そこそこ安価で本格的な開放型ヘッドホン」として、多くの人にR70xを勧めてきたので、新作R70xaも同じように推奨できるモデルなのか確認したいという理由も大きいです。

これまで多くのメーカーを見てきた中で、初代モデルは良かったのに、そこからカジュアル層の意見を反映しすぎて、遮音性を高めたり駆動能率を上げたりインピーダンスを下げたりなど、音質よりも利便性ばかりに注目して中途半端に改悪されてしまった後継機を何度も経験しています。初代R70xがかなり本格派なヘッドホンだったので、今回そのあたりが薄まっていないか不安があります。

ATH-R70x・ATH-R70xa・ATH-R50x

幸いオーテクは今回ATH-R70xaの発売と同時にATH-R50xという別モデルも用意しており、こちらは低価格でも単なる廉価版というわけではなく、ほぼ同列のクオリティで、インピーダンスを50Ωに下げ、ケーブルを両側から片側出しに変更した、別バージョンの兄弟機みたいなものです。つまりR70xaの仕様に不都合がある人はR50xを購入すればよいわけで、R70xaの方のカジュアル化は回避できたようです。

実際に使ってみると両者の音質は結構違ったので、今回はR70xaとR50xの両方をじっくり試聴してみました。

ちなみにATH-R30xというのも発表されたのですが、そちらは今回試聴できませんでした。

R70xaはMADE IN JAPANだそうです

R50xはハンガーにMADE IN TAIWANとあります

価格差については、R70xaは日本製で、R50xは台湾製というのも関わっているかもしれません。製品自体のクオリティに明らかな品質差は感じられないので、もし同価格で売り出していても問題なかったと思います。

気合の入ったパッケージ

付属品

普段はパッケージはあまり気にしていないのですが、今作は意外と面白かったので紹介したいです。

オーテクといえば、何重もの段ボールに発泡スチロールにビニールにジュラルミンケースといった具合の過剰包装が有名でしたが、今回はその真逆で、非常にシンプルな一枚の段ボールのみを使っており、その組み立て方が複雑な立体パズルのようで、開封が楽しめました。

冷静に観察すれば、取っ手や矢印など開封手順を明確に誘導しており、あらためて全体の仕組みを理解してから梱包しなおしてみると、よくここまで作り込んだなと関心します。

ケーブル以外の付属品は収納袋のみというのも潔いです。ハウジング接触部分に傷がつかないよう青いテープが貼ってあるのは日本メーカーらしい配慮です。

真の開放型を目指したそうです

オーテクの広報発表を見ると、ATH-R70xaの設計コンセプトは「真の開放型」ということらしく、これは旧モデルATH-R70xの時点で私も実感した魅力だったので、「まさにそのとおり」と完全に同意できます。

開放型ヘッドホンだったら他のメーカーからもたくさん出ているだろうと不思議に思うかもしれませんが、意外と多くの開放型ヘッドホンはオーテクの言うところの「真の開放型」にあてはまらない設計です。

ドライバー単体を鳴らすだけで理想的な周波数特性や過渡特性を実現するのは困難なので、多くのメーカーはドライバーを補うためにハウジング反響などを駆使してチューニングを行います。ドライバーがシャリシャリした高音寄りのサウンドだから、ハウジング外周に木材を使って低音を反射させて盛るといった手法はスピーカーとよく似ています。しかも、多くのヘッドホンブランドは自社でドライバーを製造しておらず、それこそオーテクなどの大手供給元からOEMで買って組み付けているため、ドライバーや振動板の設計開発によるチューニングがそもそもできないという事情もあります。

また、たとえばAudezeなどの平面駆動型モデルによく見られるデザインでは、いかにも開放型っぽく見えるものの、振動板とイヤーパッドが耳周りにピッタリとした密閉空間を作って、その空間容量をチューニングに利用しているモデルも多いです。つまり装着してハウジングを押すとポンプのように鼓膜に空気圧が感じられ、メガネなどでパッドが浮いて隙間ができてしまうと音響が台無しになるデザインのことです。

前者がスピーカーのドライバーとキャビネットの関係性のようなもので、後者はスピーカーを狭い部屋で鳴らすような感じです。

これはオーテクが言っているわけではなく、私の勝手な感想になりますが、「真の開放型」というのは、ハウジングやパッドの影響が極力少なく、簡単に確認できる方法として、パッドを浮かせて耳からちょっと離しても、ヘッドホンからのサウンドがほとんど変わらないような設計が理想的だと思います。パッドは振動板を耳から適切な距離に離すためだけの存在です。ソニーMDR-F1やAKG K1000なんかが好例です。

よくヘッドホンのレビューでも、パッドがピッタリと密着フィットしないことをマイナス点として挙げているのを見ますが、それを必要とする設計のヘッドホンと、そうでないものは分けて考えるべきです。

ATH-R70xa・ATH-ADX3000

そんなわけで、ATH-R70xaのデザインを見ていきます。

同じくオーテクが最近発売した14万円の開放型ヘッドホンATH-ADX3000と並べてみると、サイズ感の違いはあれど、デザインは同世代の兄弟機という印象を受けます。

R70xaもそこまで小さくないので、ヘッドバンドの調整幅は十分にあり、頭が大きい人でも問題ないと思いますが、イヤーパッドの内径はADX3000など上位機種と比べると狭く感じます。私の耳では普通にアラウンドイヤーとして装着でき、むしろ前後左右の遊びが少ないのでフィットやステレオイメージの安定感は優秀です。

ATH-WP900と比較

ベイヤーと比較

オーテクのモデルではATH-WP900と同じか若干大きめな感じです。WP900は密閉型なのでしっかり密着する必要があるので、その点R70xaの方が余裕があります。ベイヤーとかと比べても小さいという感じはしません。

本体重量が199gと軽く、特にハウジングが想像以上に軽いため、簡単に動かない程度に側圧はあるものの、長時間装着しても負担には感じません。HD600シリーズのような左右から押さえつける感覚は無く、ベイヤーやAKGと同じくらいの側圧です。

ハウジングはドライバー部品を保持するための外枠だけのような感じで、折りたたみ機構などの余計なギミックも無いため、手にとってすぐに装着できるあたりもベイヤーなどと同様にプロ用スタジオモニターらしいです。

ATH-R70xa・ATH-R70x

ATH-R70xaの新型ヘッドバンド

旧モデルATH-R70xと並べてみると、ヘッドバンド調整機構に大きな変更が加えられています。R70xの方はオーテクが昔から使ってきたウイングサポート式で、バネ式の二つのパッドで上下の調整を行うシステムです。

オーテクといえばウイングサポートというくらい伝統的なデザインなのですが、2017年のATH-ADX5000あたりから一般的な調整スライダー式に移行しています。ウッド密閉型モデルでも、2018年のATH-L5000までがウイングサポートで、2019年のATH-AWKTからはスライダー式です。

ウイングサポートは悪いわけではないのですが、フィットする頭の形状が限定的という問題がありました。幅広で耳の位置が低い日本人骨格だと問題なく長年愛用されてきたわけですが、特に欧米の白人には全然フィットしないことでも有名でした。

オーディオイベントなどでも、白人が装着して耳の下までズルっと落ちてしまうというのがネタになっていたくらいです。顔の横幅が狭く、耳の位置が高く、頭頂部が尖っている人だと、ウイングサポートの先端が押されてテコの原理でバネの反発が負けてしまい、一番下まで落ちてしまうという感じです。

AKGのゴム紐なども含めて、バネやゴムの反発力でヘッドバンドを調整するのは、対応できる頭形状が限定されるのでしょう。オーテクも海外市場に展開していく中でオーソドックスながら対応の幅が広いデザインに変わっていったのだと思います。

逆に言うと、典型的なアジア人頭でR70xのウイングサポートがフィットしていた人にとって、R70xaは凡庸な退化と感じられるかもしれません。私の頭ではどちらも問題なくフィットしますが、R70xaは他の一般的なヘッドホンと同様に調整スライダーを正しい位置に合わせるという一手間が増えました。

高級感が増しました

マグネットに驚きました

ヘッドバンドの金属アーチ部品は、R70xのマットブラックから光沢のあるセミグロスに変わっており、若干高級感が増しています。テカテカではないので指紋が目立つほどではありません。

さらに注目すべきは頭に接触するパッド部品で、よく観察してみると根本の部分が折り返しのマグネットで取り付けてあり、工具無しで手軽に着脱できるようになっています。使用中に外れるほど弱くはありません。

家電量販店の試聴機を見てわかると思いますが、ヘッドホンはヘッドバンドが劣化する傾向にあるので、このように手軽に着脱交換できる仕組みはありがたいです。R70xのように十年売るつもりなら、このあたりの保守部品サポートも重要です。

こういう部分の設計が素晴らしいです

スッキリした回転機構もさすがオーテクです

細かい点ですが、実際に手にとって細部を観察することで、オーテクの設計と製造技術の凄さを実感します。

例えばハウジングとハンガー部品の接触部分にストッパー突起を設けていたり、外枠とドライバーフレームを接合する余白のスポンジだったり、さらに回転ヒンジの真鍮軸受を目立たないようエレガントにまとめるなど、さりげない部分で妥協せず、手触りや使用感が素晴らしいです。

こういった部分を、とくにアメリカなどの新興メーカーにも見習ってもらいたいのですが、そもそも高級志向なわりに一流企業での設計開発の経験の無い素人がガレージメーカーを立ち上げているケースが多く、理解が追いついていないのが残念です。ユーザー側もそのあたりを観察せず、高価な方が優れていると錯覚しがちなのも困ります。

イヤーパッド

ATH-R70xa・ATH-R70x

イヤーパッドはATH-R70xと全く同じだと思います。薄手でも通気性と肌触りのよい繊維素材で、私のR70xは十年近く経っているものの、まだ経年劣化でボロボロになったりしていません。

パッドを外してみると、ATH-R70xとR70xaの違いが確認できます。ドライバー自体に目立った変更は見られませんが、R70xでは全体がスポンジで覆われていたのに対して、R70xaはスポンジが細い外周リングのみになっています。白いバッフル的なフイルムは、R70xもスポンジの下にはほぼ同じものがあります。

もし新旧モデルの変更点がスポンジだけだったら、それはそれで面白いのですが(冒頭の写真で見えるように、裏面にも金属のリングが追加されていたり、他にも細かく調整しているようですが)、実際に音を鳴らして聴き比べてみるまでわかりません。

2.5mmTRSツイストロック

付属ケーブルは長いです

ケーブルは左右両側出しで、R70xとまったく同じタイプです。オーテクの上級モデルはA2DCコネクターなのですが、こちらはプロ用ということもあってか、ATH-M50xなどと同じ2.5mmツイストロック式です。

R70xと同様に、左右ともTRS 2.5mmで、どちらもTRSが「L・R・GND」で左右信号が通っているという風変わりな配線をしているため、自作ケーブルを考えているなら要注意です。ヘッドホン側のソケットで左側はLとGND、右側はRとGNDのみ接続しています。

つまりケーブルの左右を気にせず接続できるというメリットがあるのですが、実際それで困ったことはありませんし、左右のY分岐後に使用されていない配線が通っているというのはもったいない気がします。もしかすると、ATH-M50x用など片側出しステレオケーブルを二本合わせて再利用しているだけなのかもしれません。

自作する場合は左右それぞれの配線のみで済むので、単純にTRS接点のみ注意するだけです。

自作バランスケーブル

プロ機というのは理解できますが、ヘッドホンマニア向けに2mくらいのXLRバランスケーブルや、デスクトップ用の1.3mの4.4mmバランスケーブルとかも別売してほしいです。

オーテクはA2DCや今回の2.5mm左右ツイストロックなど独自規格が多いため、自作できない人は手頃な社外品ケーブルの選択肢が限られているのが難点です。最高級でなくとも、たとえば5000円くらいでそこそこ質の良い線材の純正アップグレードケーブルなら、欲しい人も多いと思います。

大手メーカーの生産力を活かして、もうちょっとヘッドホン用のアップグレードアクセサリー系を充実してもらいたいです。

ATH-R70xa・ATH-R50x

次にATH-R50xと比べてみます。インピーダンス以外では、ケーブルが片側出しになっただけのように見えますが、他にも細かい違いがあります。

まずグリル中央にオーテクのロゴバッジが追加されています。小さいので音響への影響は少なそうです。カジュアルユーザー向けにブランドのアピールでしょうか。

片側出しケーブル

左右の配線

ヘッドバンドのクッション

上からネジで固定されています

ハンガー部品も微妙に違います

ヘッドバンドもR70xaのような釣りハンモック式ではなく、金属アーチに直接二つのクッションブロックが固定されており、ケーブルが片側出しなので左から右への信号配線が通っています。

双方を交互に見比べてみると、他にも細かい点での違いが多いです。コスト的な理由というよりも、それぞれの製造拠点で作りやすいように設計を変えているのでしょうか。

ATH-R50x・ATH-R70xa

ATH-R50x・ATH-R70xa

ハウジングのドライバー周りはR70xaと同じようなデザインなのですが、よく見るとドライバーの突き出し具合、周辺のリング部品、バッフル面の貼り付けなどが微妙に違うのと、イヤーパッドの感触も違うのが意外でした。

R50xaのパッドは外周が厚手のビニール素材でできており、R70x・R70xaと比べてしっかりした手触りです。単純に製造ラインが違うからか、それとも遮音性やチューニングのためなのかは不明です。

ケーブルも、R70xaは3mケーブルのみだったところ、R50xは3mと1.2mの二種類が付属しています。

色々と細かい点で違いの多いR50xですが、単純に廉価版というわけではなく、ヘッドバンドやイヤーパッドががっしりした作りになり、短いケーブルが付属するなど、ターゲットユーザー層を変えている印象があり、R70xaのような専用スタジオでの静かなマスタリング作業というよりも、R50xはパソコンの傍らに置いて卓上ヘッドホンアンプで手軽に使えるような配慮が伺えます。

インピーダンス

再生周波数に対するインピーダンスの変動を確認してみました。

グラフで見ると、R70xとR70xaの電気的な特性は誤差の範囲でピッタリ同じであることがわかります。ただし写真で見たとおりドライバー周辺のデザインは変更されているので、聴こえ方は変わってくると思います。

公式スペックでは470Ωということで、1kHz付近では確かにそのとおりですが、低音100Hz付近では1300Ωまで上昇しています。つまりアンプにとっては無負荷状態に近いため、電圧さえ確保できればアンプの出力はそこまで要求されないのは、据え置きのプロ用モデルとしてありがたいです。

R50xは公式スペックで50Ωなので、同じグラフだと分かりづらいため、R50xのみ右側の縦軸に移してみました。こうすることで、インピーダンスは違ってもヘッドホンの基礎設計自体は似ていることが確認できます。

電気的な位相変動で見ると、R70xとR70xaはほぼ一致して、R50xは傾斜が若干緩やかです。20kHz以上の差は測定機器由来なので無視してください。

インピーダンスと音量について

余談になるので飛ばしてもらって結構ですが、ATH-R70xaは470Ωということで、手元のアンプで十分に鳴らせるか心配の人もいると思います。

適正音量に関しては個人差が大きいですし、外部の騒音にも依存するので一概には言えませんが、一例として、私の場合だと、比較的録音レベルが低いクラシックのオーケストラ録音を聴いた時のボリューム位置で、0dBフルスケールの1kHzサイン波を再生すると0.8Vrmsつまり2.3Vppくらいでした。

R70xaの公式スペックは97dB/mWなので、470Ωで計算すると、0.8Vrmsは98.5dBSPLになります。もちろん私が実際に98.5dBSPLで聴いていたわけではなく、クラシック楽曲を聴いていたボリューム位置でフルスケールのサイン波を再生すると、これくらいの音量になるという意味です。肝心なのは、私ならR70xaには最低でも電圧振り幅が2.3Vppくらい出せるアンプが必要だということです。

R50xの方は、スペックによると50Ωの98dB/mWということで、単純計算でR70xaと同じ98.5dBSPLの音量を得るためには0.67Vppの電圧振り幅が必要になり、実際に聴いた感じでボリュームを合わせても、ほぼそのとおりになりました。

ちなみに電圧に対する音量やボリューム位置はリニアに比例しないので、ボリュームノブを半分に下げたら音量が半分になるわけではありません(そもそも耳で聴いて半分の音量という定義が難しいです)。

あまり正確なグラフではありませんが、私の身近にあるヘッドホンアンプのシングルエンド接続での最大出力電圧と比較してみました。

R70xaは470Ωで2.3Vpp、R50xは50Ωで0.67Vppの適正音量付近を赤く表示してみると、アップルのLightningドングルくらい非力だと不安になりますが、ドングルDACのiBasso DC07PROやDAPのHiby RS6ならそこそこのマージンがあります。実際にDC07PROで試してみると、ボリュームを最大にすると、まあまあうるさすぎるくらいで、耳が痛いほどの爆音ではありません。

ようするに、ノートパソコンやスマホドングル直挿し、もしくは一昔前の貧弱なヘッドホン出力を使っている人は苦労すると思いますが、最近のソースであれば問題無いと思います。近頃は中華系メーカーを中心にアンプの高出力競争が加熱していますが、実際そこまでの電圧が必要なことは稀です。

もちろんボリューム最大付近だと潰れて歪む可能性もあるので、強力な据え置きアンプなどヘッドルームの余裕があると安心できます。どれくらいマージンが必要なのかというのは感覚的な議論になるのでなんとも言えませんが、据え置きのFiio K9ならおよそ10倍は確保できています。

ここでもう一点考えなければいけないのは、インピーダンスが低い方が「鳴らしやすい」のなら、そもそもなぜR70xaは470Ωで設計しているのか、50Ωではダメなのか、極端な話、4Ωとかで作れば良いのでは、と疑問に思う人もいると思います。

その点では、まずインピーダンスが低すぎるとアンプの電流限界に差しかかり、定電圧が維持できなくなるというのは上のグラフの左側を見ればわかります。ただし50Ω程度ならそれで困ることはほぼありません。

それよりも、ヘッドホンのインピーダンスが低いと、アンプの出力インピーダンスとの兼ね合いで周波数特性に影響が出てきます。これはプロ用途には致命的な問題です。

FiioやiBassoといったヘッドホン系の専門メーカーしか知らないと、最近はどのアンプも出力インピーダンスが1Ω付近なのが当たり前になっていると思いがちですが、プロオーディオ機器、とくにUSBオーディオインターフェースのヘッドホン端子では、FocusriteやSteinbergなどを中心に、未だに50Ωくらいの現行モデルが多いです。

オーディオインターフェースの出力インピーダンスに関しては彼のレビュー動画などが参考になります(8:50あたりに過去製品が一覧表示されてます)。

先程測ったR50xのインピーダンスグラフでは、100Hz付近が88Ω、1kHzが50Ωくらいでした。つまり出力インピーダンスが50Ωのアンプに接続して、1Vにボリュームを合わせたら、1kHzだとアンプとR50xのどちらも50Ωなので、単純な分圧計算で、R50xには0.5V送られます。ところが100Hzではアンプが50ΩでR50xが88Ωなので、0.64Vが送られ、1kHzと比べて信号が+2dBほど大きくなり、低音が増します。

一方R70xaであれば、出力インピーダンスが50Ωのアンプでも、1kHzで50Ω対470Ωで0.9V、100Hzでは50Ω対1340Ωで0.96Vと、信号差が+0.5dBしかありませんので、周波数特性におけるアンプの影響が少なくて済みます。

理想的にはヘッドホンアンプの出力インピーダンスがゼロに近いほど信号差が無視できる程度に小さくなるわけですが、現実問題として、意外と多くのプロ製品が50Ω付近の出力インピーダンスで作られているため、プロ用ヘッドホンは470Ωなど高インピーダンスが好まれます。

逆に考えると、そもそも昔からプロ用ヘッドホンは100Ω以上が多かったのに、スマホで鳴らしたいなどのカジュアル需要に対応するためヘッドホンメーカーがインピーダンスを下げてきたせいで、プロ機器が想定する仕様との整合性がとれなくなっているわけです。そのためプロ用オーディオインターフェースでも最近は出力インピーダンスを1Ω以下で設計しているメーカーも増えてきています。

音質について

ATH-R70xaは据え置きヘッドホンアンプで鳴らしたいヘッドホンなので、今回の試聴では主にFerrumのERCO+OORを使いました。普段は自宅のViolectric V281で駆動することが多いですが、サウンドの感想は概ね同じです。

Ferrum Audioシステム

まず第一印象から、ATH-R70xaは開放型ヘッドホンとして理想的な、オーテクが「真の開放型」と主張するにふさわしいサウンド特性を誇っています。ハウジングの存在感が消えて、音が空中で鳴っている感覚があります。

言葉で説明するのは難しいのですが、たとえば一般的なヘッドホンは手をカップ状にして耳を覆った状態だとすれば、R70xaは手を離して自然な開放感が実感できるような感じです。

完全開放型のヘッドホンというと、高音ばかりで低音が全然出ないというイメージがありますが、R70xaは全体の周波数バランスが極めてニュートラルで、高音は刺さらず、中低域も豊かに鳴ってくれます。つまりR70xaは完全開放ということ自体が珍しいのではなく、ドライバー単体のチューニングでここまでバランスの良い鳴り方を実現しており、しかも5万円台というのが凄いわけです。

ドライバーが耳と隣接しているため、スピーカーのような距離の遠さを演出することはできないので、音像はあくまで至近距離で鳴っています。しかし左右ハウジングの反響が邪魔しないため、音楽が周囲の自然環境にブレンドしたような感覚になり、ヘッドホン特有の違和感がだいぶ低減されます。

とりわけ最低音から最高音までハウジングに依存せず、ドライバーという単一のソースから鳴っているおかげで、空間定位の描写が非常に上手く、クラシック音楽など空間音響を正しく収録している楽曲では、とてもリアルな情景が体感できます。

つまり空間位相の作り込みが下手な楽曲ではR70xaのメリットが実感しにくいかもしれません。逆に言うと、音楽クリエイターにとって、感動的な空間音響を実現するためにR70xaが最高のモニターツールになってくれそうです。

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Chandosレーベルからの新譜で、Edward Gardner指揮ベルゲンフィルのドイツレクイエムを聴いてみました。北欧ノルウェーといえば合唱文化が有名なので、今作のような大規模で荘厳な楽曲はまさに理想的な演目です。

R70xaのポテンシャルを披露するのに最適なアルバムで、冒頭からオーケストラと合唱の凄い空間音響が体感できます。

空間音響について、あらためて私の意見を解説したいです。ヘッドホンにおける空間音響というのは二通りあり、混同されがちですが、方向性が明確に違います。

まず、そもそも空間音響が乏しい録音を聴くのであれば、ウッドや金属部品などの響きや反射を駆使して派手な三次元の立体演出を加えるタイプのヘッドホンがあります。それが間違っているというわけではありませんが、今作R70xaはそのタイプではありません。

R70xaで体感できるのは録音に含まれた空間描写のみなので、試聴に使ったオーケストラ合唱曲のように優れた録音にて、収録現場の空間に包みこまれるような没入感があります。

合唱とオケ演奏の厚いホール音響が周囲を埋め尽くすのに対して、ヘッドホン由来の余計な演出が干渉しないため、音楽の世界に100%没頭できます。第一印象では響きが多くで不明瞭に聴こえるかもしれませんが、それが単なる乱雑な響きではなく、空間定位に正しく、自然に鳴っているため、ソロ歌唱も意外とクリアに通ります。つまりR70xaは「空間を聴く」ためのヘッドホンであり、そもそも空間音響に魅力が無い楽曲を聴いても凡庸なヘッドホンだと思えてしまいます。

試聴アルバムで個人的に好きな4曲目(万軍の主よ)を聴いてみると、前方を埋め尽くすように混声合唱の厚い層があり、また別のレイヤーから弦楽器の美しいメロディが流れてきて、低音のズンズンというリズムもさらに別のレイヤーからと、何層も覆い重なっているのに、それぞれが濁らずに全体の情景を構築しており、続いて5曲目では女性歌手のソロが主役になり、6曲目で全員が最高潮の爆発を見せる、多様な表現の移り変わりの中でも、ヘッドホンの存在や主張が消えて、常に同じホールの音響に包まれている感覚があります。派手なドンシャリ系ヘッドホンと比べるとキレがなく不明瞭に聴こえるかもしれませんが、実際に収録されたベルゲンのグリーグホールで生演奏を体験したら、たぶんこんな感じだろうなと想像できます。

ここでR70xaの最大の弱点が露呈するのですが、このように優れた音響体験を実現するには、リスニング環境の外部騒音がかなり邪魔になります。静かな部屋が用意できる人なら良いのですが、私の場合だと、別室の洗濯機や換気扇でさえ気になってしまい、外の道路が赤信号になって車が止まるのが感じられるくらい気を使います。

さらに音漏れも強烈なので、周りにいる人はかなり不快だと思います。リスニング音量のまま置いてみると、5m離れてもシャカシャカうるさいと感じます。ATH-ADX3000を試聴した時も同じでしたが、完全開放型ヘッドホンのポテンシャルを引き出すには、それ相応の環境が求められます。

ATH-R70xa・ATH-ADX3000

オーテクの上位モデルATH-ADX3000は14万円なので、5万円台のATH-R70xaからは相当のステップアップになりますが、その価値はあるのか気になります。

両者の鳴り方は結構違うので、用途に応じて好みが分かれると思います。R70xaの方が安いから劣っているというわけでもなく、もし同価格で売っていても私ならどちらを買うべきか悩むだろうと思います。

そもそもADX3000は高価といっても他社のハイエンドモデルと比べるとだいぶお買い得感があり、個人的に2024年新作の中でもトップクラスに推奨できるヘッドホンです。脚色が少なく、レファレンスモニターとしても十分に通用する素直さはR70xaと共通しています。

R70xaの方がドライバーやバッフルがコンパクトなためか、音像の展開もコンパクトにまとまっており、演奏が至近距離で鳴っていて、その背後に開放型らしい爽快な空間が広がっている感じです。

一方ADX3000は演奏者自体に奥行き方向の距離感があり、音像の分離が優れており、オーケストラのような大編成では、奏者が広い空間に分散して、それぞれが勢いよく演奏している感じが得られます。その点ではADX3000の方がリスニング向けのスピーカー体験に近く、R70xaはニアフィールドで音響全体に包まれるような体験になります。録音の穴や捻じれなど不具合の目立ち具合はR70xaの方が強調されやすいため、分析的に使うには有利です。

ATH-R70xa・ATH-R70x

次に、旧モデルATH-R70xと比較してみると、意外なほど違いが感じられました。

インピーダンス測定で見た通り、ドライバー自体に変更は見られないため、周波数特性や帯域レンジの広さなどの特徴はほとんど一致しています。しかしバッフル構造の変更からも想像できるとおり、響きの部分が変化しています。個人的にはそこそこ大きな改善だと感じましたが、R70xに慣れている人は違和感があるかもしれません。

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IBS ClassicalからDuo del Valleのモーツァルトとプーランクのピアノ2台の協奏曲を聴いてみました。先程の重厚なブラームスとは正反対に、こちらは弾け飛ぶような新鮮な演目で、スピード感のあるピアノとスカッと抜けのよいオケの高解像録音です。

とくにプーランクの方が音が良いので注目したいのですが、R70xaではピアノの粒立ちや軽快さみたいな表現が改善しています。あいかわらず過度に色艶を強調してはいないものの、一音ごとの立ち上がりと、無音への減衰レスポンスが向上している感覚があります。

R70xaを聴いた上でR70xに戻ると、主役であるべきの2台のピアノがオーケストラと同じレイヤーに混じっていて、全体のまとまりは良いのですが、もうちょっと派手に鳴ってくれと言いたくなります。R70xの弱点として「眠くなる」というのは、こういう部分にあると思います。

具体的には、R70xaの方が出音にもうちょっと主張があり、特に中高域の音抜けが向上しています。シャープになったというよりは立体的で造形が深くなったような印象で、背景とのコントラストが増しています。これくらい高音までリニアに鳴ってくれるとアタックの刺激が心配になるところ、出音面よりも前に浴びせるような鳴り方ではないため、鼓膜への負担はだいぶ低いです。

個人的に、たとえばプーランクの一楽章の後半(5:10あたり)で急に静かになる部分や、三楽章の終盤(5:00)でコーダ的な新しいメロディが導入されるあたりなど、ヘッドホンの存在感が消えているため、完全無音の部屋で聴くことで、ものすごい緊迫感や感情の揺さぶりによって、まさに息を呑むような体験ができます。

これ以上にピアノの色艶を引き立てる効果を求めるなら、ADX3000も飛び越えてADX5000を試してみる価値があります。高価になりますが、いざ聴いてみると艶っぽい音色に魅了される人は多いです。

ATH-R70xaとHD600

R70xaと似たようなバッフル設計のヘッドホンというと、ゼンハイザーHD600シリーズが思い浮かびます。こちらも優れたモニターヘッドホンなのですが、個人的には断然R70xaの方が好みです。

単純に見て、HD600シリーズの方がドライバー振動板に対してバッフル面積が大きいためか、古くはHD600やHD650から最新のHD660S2に至るまで、小さなドライバーから発せられるコア音域の周囲から他の帯域が覆い被さるような、まるで2WAYスピーカー的な感覚があります。それ自体が悪いことではありませんが、たとえば装着位置を動かしてみるとドライバーの軸線からずれることで聴こえ方がだいぶ変わってくるのが実感できます。

平面駆動型であれば、このような軸線の問題は解消されるので、たとえばフォステクスT60RPを聴くと、確かにRP平面振動板のおかげでR70xaと同じくらい安定した出音が得られます。

ただし、RPドライバーだけでフラットな鳴り方を実現するのは難しいようで、ハウジングによる音響設計というのが欠かせないようです。それも含めて個人的にフォステクスの音作りが好きなのですが(特にT60RPは傑作です)、オーテクの言うような完全開放という感覚ではありません。

Hifimanなどの大きな平面駆動型になると、広い平面振動膜のわりに意外と装着位置や角度によって左右の特性に差が出てしまい、ピッタリ合わせるのが難しいです。それを克服するために振動膜の素材や組付けなどに金をかけているようで、結局かなり高価な製品になってしまいますし、構造上大電流を必要とするためアンプによるサウンドの影響も大きいなど、趣味性が強くなり、音楽を聴くというより、機材を聴く趣味になってしまいます。

こうやって色々なタイプのヘッドホンを試してみて、あらためて「空間音響の再現」という点で考えてみると、R70xaは比較的大きなダイナミックドライバーの周辺に適度なバッフルを配置して、コンパクトなイヤーパッドで耳穴に対してピッタリと軸合わせを行うという、理想的な構造のように思えてきます。

自作のバランスケーブル

ケーブルに関しても触れておきたいです。ヘッドホンのインピーダンスが高いということは、ケーブルのインピーダンスにあまり影響されないため(1Ωのケーブルでも、470Ωが471Ωになるだけなので)、比較的長い安価なケーブルが使えるというのもプロ用としての利点になります。

しかし個人的な感想として、ケーブル交換を試してみる価値はあると思います。R70xで使っていた自作バランスケーブルを流用してみたところ、高音側はそこまで変化は感じられませんでしたが、低音側の解像感や音抜けがだいぶ良くなったようです。R70x/R70xaの弱点である「響きが豊かなための眠さ」みたいなものがそこそこ払拭されます。バランス駆動というのも貢献しているかもしれません。

全体的な影響力は、ゼンハイザーHD600・HD800シリーズのケーブル交換と似たような効果のように感じるので、高インピーダンスなダイナミックヘッドホン特有の共通点かもしれません。

ATH-R50x

最後に、ATH-R50xと聴き比べてみました。これはATH-R70xとR70xaの比較以上に「好みが分かれる」という感じがします。

ケーブルが片側出しだからなのか、イヤーパッドが違うためか、色々と考察できますが、私の予想ではインピーダンスの差が鳴り方の違いに現れているように思います。

その理由は、ベイヤーダイナミックDT770やゼンハイザーHD25など、同じモデルでインピーダンスの違うバリエーションを出しているヘッドホンでの感覚的な傾向が、今回R70xaとR50xでも同様に感じられたからです。

R50xの方が出音に勢いがあり、ドライバーの出音面から耳の方向へ音が飛び出してくる感覚があります。迫力やインパクトのメリハリが強調され、聴き応えがあると言えますが、この押し出し感は録音本来の音響とは別の効果なので、R70xaほど定位置で安定した音場は得られません。

同じ曲で交互に聴き比べてみると、R50xの方が普段聴き慣れた一般的なヘッドホンの鳴り方に近く、R70xaはほぼ同じ構造なのに、振動板の出音面から前に浴びせるような音圧が全く感じられないのが、まるで魔法のようで不思議です。

私自身DT880やHD25でも、低インピーダンス版よりも業務用600Ω版のサウンドを好んで使っており、今回もR50xよりもR70xaの方が自分の好みに合う鳴り方でした。

同じ出力能率のドライバーなら、インピーダンスを低く設計する方がコイルが太く短くなるからとか、ダンピングファクターの観点でコイルの制動コントロールが甘くなるからなど、様々な解釈ができると思いますが、総じてインピーダンスが低い方が大雑把で躍動感が増すようなイメージがあります。ギターに詳しい人なら、ピックアップの巻線の太さや巻数によってワイルドさや繊細さのニュアンスに違いが出るというのと似ているのかもしれません。

おわりに

ATH-R70xaはATH-R70xから十年ぶりの後継機として進化を遂げており、長年愛用してきた私も、買い替えて良かったと思えた素晴らしいヘッドホンです。

5万円台という価格はR70xの時からお買い得だと思っていましたが、新型もあいかわらずコストパフォーマンスが抜群に良いです。R70xは古いモデルだからと敬遠していた人も、この機会に新型をぜひ試聴してみてください。

音響空間の自然な描写を得意とするヘッドホンなので、試聴の際には今回紹介したような優れた高音質録音を聴くことをお勧めします。さらに環境騒音が大敵なので、周囲は無音であるべきですし、音漏れが迷惑にならないよう配慮も必要です。

R70xに限らず、本格的な開放型ヘッドホンというのはリスニング環境を整えるのが大変なのですが、その分だけ見返りも大きいです。メロディやリズムを追って高音や低音といった周波数特性だけを評価するのではなく、録音された音響全体に没入して味わうというのは、なかなか他では味わえないハイエンドオーディオ的な世界です。

逆に言うと、店頭試聴など喧騒の中でちょっと聴いただけでは凡庸に思えてしまい、もっと派手で艶々したサウンドのヘッドホンに興味が向きがちです。しかし、実際に購入して静かな環境で聴くなら、R70xaの方が長く付き合えると思います。

私も色々な新作ヘッドホンを試していますが、第一印象が派手なモデルは、一曲聴く程度なら満足できるのですが、そのまま続けて聴くと疲れてきて「もういいや」という気持ちになってしまいがちです。その点R70xaはアルバムの3曲目、4曲目と続けても、その音響世界から離れたくなくて、続きが気になり、そろそろ止めなければいけないのに、結局アルバムの最後まで聴き通してしまうという体験が何度もありました。これは結構珍しいことです。

もうちょっと解像力や空間展開を求めたい人は、ATH-ADX3000にレベルアップするという手もありますが、私はR70xaのサウンドとデザインのパッケージもちょうど良いと思っています。

私の身の周りで前作R70xを活用しているのは、クラシックやジャズのオーディオマニアだけでなく、生粋のヘビーメタルマニアやインディーロックのミュージシャン、そしてピアノ練習用に使っている人などがいます。

その人達が共通して言うのは、生演奏で自分が慣れ親しんだサウンドが、その通り自然に聴こえるという点です。つまりヘッドホンに余計な脚色効果を求めていないということです。また電子ピアノやキーボードなどのヘッドホン端子は未だにプロ用ヘッドホンを想定して出力インピーダンスが高く、音量も大きい事が多いので、その点でもR70xaは相性が良いです。

普段はスピーカーで演奏していて、夜間の練習だけ迷惑にならないようヘッドホンに切り替えるというミュージシャンにもR70xaは理想的です。意外と知られていない事ですが、ワイヤレスの遅延は演奏に支障をきたすため、楽器演奏者には有線ヘッドホンの支持者が多く、しかもスピーカーや生演奏との違いを意識しない開放型が好まれます。

一方、R50xはどちらかというと力強く発声するタイプなので、演奏のニュアンスや俯瞰のマスタリング作業とかよりも、編集作業などでカッチリとパンチインとかアラインメントを行いたい場面に向いています。また、片側出しケーブルで、比較的コンパクトなシルエット(特に従来のウイングサポートと比べると)ということもあり、PortaPro的な、気軽に装着できる開放型ヘッドホンとして、特に2万円台という低価格なので、なんとなく買ってから使い道を考えたくなるような魅力があります。

最後に、オーテクについて改めて考えてみると、実に面白いメーカーだということに気付かされます。

高音質ヘッドホンを設計するにあたって二通りの道筋があり、まずひとつは、今作ATH-R70xaや上位モデルATH-ADX3000・ADX5000のように、ドライバー自体のポテンシャルを追求してハウジングを排除する開放型の究極系があり、さらにそれとは正反対に、遮音性を実現しながら高級木材などを活用して開放型では実現できない独自の音色を目指すATH-AWKGなど密閉型の究極系があります。

つまりオーテクは二つの道筋を徹底して、中途半端なものは作らない極端なメーカーだと実感します。近頃はものすごく高価な新興ヘッドホンメーカーが増えていますが、あれこれチューニングの味付けを変えていくだけで、本質的なポリシーが見えてこない事が多いです。高価なら高音質だと信じてしまいがちですが、もし今回のATH-R70xaと同じものを、新興メーカーが数人規模の中小ガレージ工房で作ったなら、一体何十万円で売るのだろうと思ったりもします。


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