2025年2月21日金曜日

テクニクス EAH-AZ100イヤホンのレビュー

 テクニクスの新作イヤホンEAH-AZ100を買ったので感想を書いておきます。アクティブノイズキャンセリングのワイヤレスイヤホンです。

Technics EAH-AZ100

2025年1月発売で4万円弱です。私はこれまでEAH-A60、EAH-AZ80と新作が出るたびに買ってきた生粋のファンなので、今作は音質面でどれくらい変わったのか気になります。

テクニクス

私はそこそこ良い有線イヤホンもいくつか所有しているのですが、近頃は通勤などのカジュアル用途でアクティブNCのワイヤレスイヤホンを使うことが多くなりました。

ワイヤレスへ乗り換えるきっかけになったのが2021年のテクニクスEAH-AZ60だったので、個人的に長らく信頼を置いているシリーズです。他社の売れ筋モデルをあれこれ買ったり試聴してみても音質面で満足できなかったところ、初めて「これなら不満なく常用できるな」と思えたモデルでした。

それ以来、目移りもせずに使い続けて、2023年に上位モデルEAH-AZ80が登場した時は真っ先に買いましたし、2025年の今作EAH-AZ100も発売時にすぐ購入しました。

EAH-AZ60・AZ80・AZ100

写真のAZ100だけ銀色なのは、単純に、買いに行った量販店で黒が売り切れだったからです。

黒にそこまでこだわっていたわけでもありませんし、テクニクスなら銀のイメージもあるので満足しています。プラの部分は白というよりは無印とかで売ってそうな薄い茶色っぽいグレーです。

個人的に、テクニクスのレコードプレーヤーみたいな銀と黒の組み合わせが無いのが残念です。

テクニクスといえば銀と黒のイメージです

はじめに断っておきますが、最近のワイヤレスイヤホンはだいぶ音質が良くなったと言っても、最高級の有線イヤホンと比べてしまうと音質面ではまだまだ敵いません。

ただし、アクティブNC非搭載の有線イヤホンでは、騒音下では本来のポテンシャルが発揮できませんし、有線イヤホンにこだわると、ポータブルDAPやケーブルなどアップグレード沼で数十万円が簡単に飛んでいく世界なので、そこまで趣味にお金や労力をかけたくない人は、今回のようなワイヤレスイヤホンを断然勧めたいです。

その一方で、EAH-AZ40やEAH-AZ60くらいを最低ラインとして、もっと低予算で、純粋に高音質だけを求めるなら有線イヤホンを選ぶメリットもあります。最近は中華系ブランドで数千円から素晴らしい有線イヤホンやUSBドングルDACが手に入ります。逆にワイヤレスモデルはバッテリーやBluetooth通信チップなど基本的な部品にコストがかかるため、低価格すぎると厳しくなってきます。

ちなみに、オーバーイヤー型のNCワイヤレスヘッドホンというのも、私はここ数年使うことがなくなりました。

アクティブNCタイプの普及当初は、演算チップやバッテリーなどの部品が大きかったため、大型ヘッドホンを選んだほうが有利でしたが、最近では省電力化や高性能チップの登場で、イヤホンサイズでも同じくらいの性能が得られる時代になりました。今回のAZ100はAAC・NC ONで本体バッテリーだけで10時間再生というのだから、技術の進歩とは凄いものです。

大型ヘッドホンも、自宅や職場の騒音環境で使うなら良いですが、収納するときのサイズがデカいので外出時に持ち歩くのは面倒です。ポケットに入れられるイヤホンに慣れてしまうと、自分が数年前までヘッドホンを当たり前のようにバッグに入れていたのが信じられません。

ケース比較

そこまで差はありません

感覚としてはAZ80が一番大きいです

そんなわけで、EAH-AZ100ですが、今作の位置づけはちょっと謎です。これまでのラインナップは:

  • EAH-AZ80 (37,000円)
  • EAH-AZ60m2 (28,000円)
  • EAH-AZ40m2 (15,000円)

といった国産メーカーらしい王道の「松竹梅」ラインナップだったわけですが、EAH-AZ100の発売価格が40,000円ということでAZ80の値段とだいぶ近いため、後継機なのが上位モデルなのかよくわかりません。

このままAZ80が値下がりして、1万円くらいの差がつくのでしょうか。スペック面ではAZ100の方が進化しているものの、音質やデザインではAZ80の方が好きな人もいると思うので、今後のAZ80の存在意義が気になります。

AZ80と比較

AZ100の基本スペックは、10mmダイナミックドライバー、片側5.9g、ケース42g、Bluetooth 5.3でSBC, AAC, LDAC, LC3コーデック、3デバイスのマルチポイントペアリング、Dolby Atmosヘッドトラッキング対応といった具合に、最近のトレンドをしっかり押さえています。

aptX系に非対応なのは要注意です。私はLDACの方が好きなので構いませんが、ゲームとかで低遅延を求めている人はLC3が使える環境か確認すべきです(私のスマホは古いのでLC3はダメでした)。

バッテリーは本体のみでAAC・NC ONで10時間、LDAC・NC ONで7時間というのは、私にとって大きな購入ポイントです。ケースには一回半くらいフル充電できるバッテリーが入ってます。Qi充電にも対応しているそうです。

AZ80の方はAACで7時間、LDACで4.5時間というスペックで、実際に使ってもピッタリそれくらいで電池切れになったので、飛行機に乗る時などはちょっと足らず、食事が出るタイミングでケースに入れて充電するというルーチンになっていました。それがAZ100でLDACが7時間になるとだいぶ余裕が持てます。

実際のところ、イヤホンは再生時間が短いという不満のみで、30時間くらい持つヘッドホンタイプの方を選んでいる人も多いと思いますし、私ももっと長時間使いたい場合は有線のカスタムIEMを使っています。(そもそも10時間以上もイヤホンを使うなんて健康に悪いと言われそうです)。

ちなみに飛行機ではカスタムIEM (UE Live)とAZ80でどちらが良いか比べてみたのですが、消音効果はほぼ同程度で満足しています。耳への圧迫感や不快感はさすがにカスタムの方が少ないです。

カスタムIEMはケーブルが煩わしいという大問題がありますが、一方ワイヤレスイヤホンは落として紛失する心配があります。そうなるとネックバンド式のワイヤレスイヤホンとかが確実だと思うのですが、もう誰も作ってませんね。

新型ドライバー

EAH-AZ100の最大のセールスポイントとして「磁性流体ドライバー」というのを宣伝しており、公式サイトの画像や動画などでも黒い液体を積極的に押し出しています。

公式画像でも黒い液体がテーマになってます

振動板ボイスコイルとマグネットのトッププレートのあいだのギャップ、つまり振動板が前後に動く隙間に磁性流体という特殊素材を導入することで、振動板の動きを正確に制御できるそうです。

振動板自体はAZ80と同じく10mmアルミ製です。ちなみにAZ60は8mmバイオセルロース、AZ40は8mm PEEKプラスチックなので、ちゃんと音質に最重要な部分でモデルごとの差別化を行っているのはテクニクスらしいです。(同じドライバーを使いまわして、モデルごとに機能やDSPだけを変えているメーカーも多いので)。

磁性流体というと、結構昔にソニーがプッシュしていたのを思い出します。あの頃はまだソニーがスピーカーオーディオに熱心だったのが懐かしいです。たしか四角い振動板などマグネットとのギャップ保障が難しいため磁性流体を使っていた記憶があります。

適当なイラストですが、赤矢印の部分が磁性流体です

磁性流体というのは柔らかいジェルみたいな素材で、コイルとマグネットプレートのギャップに均一に封入でき、前後の動きは妨げずに、左右の捻じれや傾きに反発してくれるため、振動板の動きが理想的な前後運動になるというメリットがあります。

もっと大きなコンサートPA用スピーカーとかの場合は、運動による発熱で動作が鈍ったりコイルが焼け切れるというトラブルに対して磁性流体が冷却を助けてくれて、しかも温度が上がると粘性が高くなるため自然なブレーキの役割もあるという面白い素材です。

今回AZ100のような小型ドライバーでは、コイル冷却や保護の役割というよりも、通常の空気ギャップだと暴れてしまうような大振幅でも、磁性流体を使うことで動作が安定するため、低音などダイナミクスの部分でのメリットが大きいと想像できます。

余談になりますが、私も仕事で磁性流体を使うことがあり(高真空ベアリングガスケットなど)、そのメーカーFerrotec社の人が「うちの流体はスピーカーにも使われてる」と言っていたのを思い出します。全く異なる業界をまたいで活躍する材料メーカーというのは面白いです。

テクニクスがどのメーカーの磁性流体を使っているかは知りませんが、ただ流体を買って入れるで済む話ではなく、設計から組み立てまでかなり扱いが難しいらしいので、優れた技術力を持つ大手だからこそ実現できるアイデアだと思います。

デザイン

AZ60・AZ80と並べて比べてみると、AZ100は上級モデルなのにサイズが小さくなっていることに驚きました。AZ80の時は、AZ60と比べてわずかに本体とケースが大きくなったのですが、今回はその逆です。

デザイン変遷

本体デザインも、ツルッとしたAZ60から、AZ80はゴツく張り出したハイテクなオーディオファイルユーザー向けという印象があったところ、AZ100はずいぶんエレガントな真円デザインです。

オーテクやB&Wは段差があります

取り出しにくさといえばDENONには敵いません

AZ100のデザインの見た目は悪くないのですが、ひとつだけ残念な点があるとするなら、AZ80と比べてケースから取り出しにくいです。

ケースから露出している部分がツルツルの球面なので、ガラス玉の上をつまんで持ち上げるような感覚で、指の引っかかりが無くてツルツル滑ります。お年寄りや手に不自由がある人は難しいでしょうし、取り出す時に落として紛失する心配もあります。

ケースから取り出しにくさの王者DENONと比べればそこまで悪くはありませんが、たとえばオーテクやB&Wなどを見ると、本体に段差を設けて指でつまみやすい設計にしており、その点AZ100は使いづらいです。メーカーには、たとえば「毛糸の手袋をつけて取り出せるか」のテストを行ってもらいたいです。

ロゴ

上位機種の方が小さいのは珍しいです

裏面もけっこう違います

本体を並べて比較してみると、ロゴのフェイスプレートに切削跡のような同心円があるのはAZ80と共通しています。耳に入る部分のエルゴノミクス形状もモデルごとに変化しています。

AZ60とAZ80がどちらもスペック7gなのに対してAZ100は5.9gと軽量化されているらしいですが、実際に装着してしまえばフィット感はどれも良好なので、そこまで重さの違いは感じられません。

AZ100だけ特殊イヤピース

イヤピースが独自の長方形に変更されたのは賛否両論あると思いますが、一般的なイヤピースでも問題なく装着できます。ノズル部分にNCマイクを導入したことで縦長になったのが理由でしょうか。ケースは十分な奥行きがあるので、大抵のイヤピースなら収納できます。

一般的なイヤピースも装着できケースに入ります

最近は量販店でも色々なメーカーのイヤピースが選べて、自分の耳にピッタリ合うものが見つかりやすいのが嬉しいです。直径や長さだけでなく、硬さや素材の違いで、耳穴に保持するフィット感や肌への相性もだいぶ変わります。

耳穴内でしっかりと密着しながら、本体が耳から浮かないサイズを選ぶ事が肝心です。イヤピースが小さすぎると隙間ができてNCや音質に悪影響がありますし、逆に大きすぎると本体が浮いた状態で自重で傾いてしまい、音がまっすぐ耳穴に届きません。

5サイズ用意されています

私自身はAZ60の頃から色々試した結果、純正付属のイヤピースが優秀だという結論に至り、今回AZ100でも純正を使っています。本体に装着されているのを含めて5サイズが同梱されているのは嬉しいです。

中にスポンジがあるのもサウンド設計の一部として効果があるのかもしれません。スポンジが汚れてくるので、定期的にイヤピースとスポンジを分解洗浄しています。

公式アプリは単純明快でわかりやすいです

テクニクスファンなのがバレます

設定をいじるにはスマホにテクニクスのアプリをインストールする必要があります。アプリはテクニクスらしく、というかパナソニックらしく白物家電っぽい明快な使いやすさがあります。

初回接続時にファームウェアアップデートがありましたが、数分で完了しました。(先日B&Oのイヤホンを同じくアップデートしたら45分もかかりました・・・)。

こういうアカウント作成を強制するのが大嫌いです

ちなみに、最近はどのメーカーも公式アプリがあるわけですが、店頭試聴する場合でも、前に使った人の変なEQモードとかを解除するなどで、インストールは必須のようなものです。

幸いテクニクスはアカウント作成とログインを強制しないのが嬉しいです。B&W・DENONなどログインしないと使えないメーカーは、店頭で試聴する気も失せる人も多いだろうと思います。

Androidのこういうところが嫌いです

LDAC再生中はアプリ左上に表示されます

設定に関して、というかAndroid全般について、ひとつだけ不満を挙げたい点があります。

AZ100は高音質を売りにしているイヤホンだと思うのですが、購入時のデフォルト設定がSBC/AACに固定されています。これをLDACに変更するには、まずテクニクスのアプリ側でLDACを有効にして、さらにAndroidのBluetooth「ペアリングしたデバイス」設定で「高音質オーディオを使用」をONにする必要があります。これを知らずにSBCのままで聴いている人は結構多いのではないかと心配になります。

ちなみにLDACで無事再生できていれば、テクニクスアプリの左上がAACからLDACロゴに切り替わります。

Atmos ONボタンがどれだけあるやら

同じような問題で、せっかくだからDolby Atmosを体験したいと思ったら、ずいぶん複雑で混乱しました。

テクニクスのアプリでAtmosをON(LDACは無効になります)、Androidのサウンド設定でAtmosをON、そしてTidalなど再生アプリ側でAtmosをONといった具合に、それぞれが連動していないため、極めてわかりづらいですし、結局どのボタンが効果があるのかもイマイチよくわかりません。

Tidal再生中 DOLBY ATMOSロゴが表示されました

ヘッドトラッキングもあります

余談になりますが、Dolby Atmosというのは単なるブランドネームであって、特定の技術の事を指しているわけではないので、現時点ではレコーディングスタジオが使っているAtmosと、ホームシアターのAtmosと、ワイヤレスイヤホンのAtmosは全くの別物と考えたほうが良いです。ラーメンの本店とフードコート支店と監修カップ麺くらいの違いがあります。

レコーディングエンジニアがAtmosのメリットを嬉々として語る宣伝記事など多く見ますが、それで話している内容と、再生側のAtmosは技術的に関連性はほぼありません。

クリエイター側にとってのAtmosは参入障壁やコストの問題で賛否両論ありますが、簡単に言えば、音源ごとに位置や距離を保存できるオブジェクト的なフォーマットです。従来の5.1chサラウンドなど、各スピーカーチャンネルに対してトラックを割り振るのではなく、たとえばボーカルの位置、ギタリストの位置、といった具合に音源ことに方向や高さ情報を伴った多チャンネルデータとして保存することで、そのマスターファイルをもとに2chや5.1ch、7.2.4chなど再生側の条件に合わせて自動的に演算して出力できるので、たとえばゲーム開発や映画館サウンドトラックなどに絶大なメリットがあります。

家庭用ホームシアターでのAtmosは、Dolby TrueHDというロスレスサラウンドフォーマット(ブルーレイだと最大7.1ch)に位置情報メタデータを組み込んだものです。ただしストリーミング動画サービスの場合はロスレスだと帯域が厳しいのでE-AC3という圧縮データで送っています。

そして今回のようなイヤホンの場合も似たような手法で、たとえばTidalのAtmos機能だと、E-AC3圧縮の5.1chサラウンド音源です。つまりイヤホンにおけるAtmosというのは昔のDVDの5.1chドルビーデジタルと同じようなもので、それがS/PDIFケーブルではなくワイヤレスで飛ばせるというのが画期的なわけです。

映画とかなら有用ですし、音楽の場合はサラウンドに特化したアンビエントな電子音楽とかを聴くのも楽しいですが、生演奏ではそこまで自分の後ろで鳴っている音を聴きたいという場面も無いので、そのあたりの使い分けは必要です。ホール音響の空間を味わうとか、ヘッドドラッキングと連動させるなどのメリットはあります。

肝心なのは、Atmosだから高音質という絶対的なものではなく、2chロスレスと同じくらいのデータ通信レート(768kbpsとか)で5.1chを圧縮して送っているわけですから、ピュアオーディオ志向の人には敬遠されがちです。(どちらにせよBluetoothでアダプティブ圧縮されるのですが)。

使用感

ペアリングやタッチボタン操作に関しては極めて王道で、他社モデルと比べてもこれといって不満も浮かびません。

ところで、どうでもいい話なのですが、Bluetoothの音声ガイダンス、各国語でかなり格差があるので、あれはどうにかできませんかね。幸いテクニクスは日本語だと落ち着いた女性の声で良いのですが、英語はかなり粗く尖った鼻声のアメリカンな声で気になります。

他社のイヤホンでも、頻繁に遭遇する中国語訛りの女性だとOEM感がバレバレだったりなど、試聴時のイメージに結構影響する部分だと思うので、各メーカーとも、もうちょっと気配りが見たいです。

EAH-AZ100に話を戻すと、Bluetoothの通信レンジや音切れ耐性など、一昔前と比べて最近のイヤホンはどれも優秀なので特筆すべき点もありませんし、逆に言うと初代AZ60の時点で不満は無かったので、AZ100で大きく進化した感じもありません。

ただし、Bluetoothについては、ペアリングしたスマホの通信チップセットの世代やアンテナ強度に大きく依存するため、どれだけ最新のイヤホンでも、古いスマホとペアリングしていると性能に支障がでてくるので注意が必要です。

今回の試聴はすべてアクティブNCをONにした状態で行いました。OFFにするとサウンドが劇的に変わってしまうイヤホンも結構多いですが、テクニクスはこれまでのモデルも含めてそこまで印象が変化しないのは良いです。それでもDSPのチューニングなどはNC ONを前提に設計していると思いますし、私も常時NC ONで使っています。

絶対的なノイズ除去の静音性はソニーの方が優秀だと思うのですが、最近のソニーXM5あたりになると、ちょっと効きすぎて、うねるような圧迫感というか不快感があり、結局NCの効き具合を落として使うことになりました。その点テクニクスはどちらかというとBoseに近く、消音効果はそこそこ強くても結構自然な部類です。

AZ80と比べて、AZ100ではランブル音など低音の除去が良くなり、道路でトラックが通り過ぎる時などの空気圧がうねるような感じが減ったようです。外音取り込み(アンビエント)モードにすると、AZ80ではシューッというノイズが強かったのに比べて、AZ100は声だけが増幅される感じが強くなった気がします。

NCの効き具合は個人差があるので、実際に試してみるべきなのですが、ひとつ有意義な確認方法として、とても静かな部屋で音楽を再生せず無音状態で、NC ONとOFFで比べてみると、不快感の度合いがわかりやすいです。AZ60の頃から、そのような無音での圧迫感やホワイトノイズが少ないのが好きで、AZ100でもそれは変わりません。

さらに、音楽の音質を評価するにあたり、NCワイヤレスイヤホンでも、できるだけ動き回らず静かな環境で行うことが肝心です。

騒音下だと、アクティブNCの働き具合で音楽再生の音質にも影響を及ぼしますし、Bluetoothの信号強度と接続環境(周囲の混線具合とか)によってLDACの転送ビットレートも可変します。

あくまで私の感想になりますが、AZ100を買うくらい音質にこだわっている人なら、LDACは必須だと思います。AZ100に限らず、Bluetoothで音楽を聴いていて「なんだか普段より音が変だな」と思って確認したら、何らかの拍子にSBC/AACに設定が戻っていたという事を何度も体験しています。

実は今回も、Dolby Atmosモードを試してからAtmosをOFFにして聴いていて、どうも音が悪いと不思議に思っていたら、Atmos ON時に強制的にLDACがOFFになって、AtmosをOFFにしてもLDACがOFFのままになっていたことに後で気が付きました。

余談になりますが、AZ80購入時にAZ60が不要になったので、身近な友達にあげたのですが、後日連絡があり、スマホでLDACモードをONにするとなんだか音が良くなる、と親切にも教えてくれました。その人はオーディオマニアでもなんでもないので、偶然それを発見して効果を実感してくれたのが面白かったです。

AZ100はaptX非対応ですが、最近のaptX Adaptiveは初期のaptXと比べるとかなり良くなっていると思います。それでもLDACと比べるとあたりはずれの差が大きいというか、断然良いと思える機種もあれば、SBC/AACに戻したほうが良いと感じたモデルもあったので、LDACよりも作り込みが難しいのかもしれません。

LE Audioは注意書きが多いです

LDACの最大の弱点は遅延が大きい事なので、その点ではLDAC陣営にもLE Audio機能が導入されたのは嬉しいです。(私のスマホはLE Audio非対応なので、ONにしてもSBCのままでした)。

ちなみにAZ100はマルチポイントペアリングの仕様がSBC/AACでは同時接続が3デバイス、LDAC ONだと2デバイス、LE Audioだと1デバイスのみになる制限があります。

テクニクスのアプリでLE Audioの項目に行くと、かなり詳細な情報や赤字の注意書きなど明記してあり、こういうところが白物家電のパナソニックっぽくてありがたいです。これが海外のメーカーだと、謎のモードをONにしたら最後、二度とペアリングできなくなってしまい、強制初期化のための謎のボタン長押しコマンドをネットで探すとか、よくあります。

ところで、BluetoothコーデックについてはiPhoneだけ島流しというか、一人負け状態が続いていますが、ユーザーもさすがにしびれを切らしたのか、iPhone用にQuestyle QCC Dongle Proなど超小型LDAC/aptXトランスミッターなんてのも出てきました。カジュアルに使う分にはSBC/AACでも十分だと思いますが、せっかく高級イヤホンを買ったなら、LDAC/aptX Adaptiveを一度は試してみる価値はあると思います。

音質とか

まずAZ60・AZ80・AZ100を交互に聴き比べてみたところ、第一印象からAZ100のサウンドはAZ80とだいぶ違うので驚きます。AZ60からAZ80へは順当な進化という感じだったのですが、AZ100は全く別クラスのシリーズといった感じです。

どちらが高音質か(というかハイエンドオーディオっぽい鳴り方か)というと、断然AZ100の方なのですが、騒音下で使うNCワイヤレスイヤホンとしてはAZ80も悪くないと思うので、そのあたりは後述します。

テクニクスのイヤホンに共通する特徴として、サウンドの聴こえ方がイヤホン的な正しさというよりも、スピーカーの聴こえ方を参考に仕上げている感覚があります。(あくまで私の勝手な感想です)。AZ60の頃からそんな感じがして気に入ったわけですが、それがAZ100でさらに強調されたように感じます。

AZ100には際立った特徴が二つあり、まず音色の艶っぽさと響きの厚さが両立しており、音楽と情景が一体になった、流れるような美しさが楽しめます。空気感が豊かでありながら、楽器音そのものに艶があるので、刺激や尖りを感じさせずクリアな音色を実現できています。

もう一点は、耳よりも前にイメージが浮かび上がる、いわゆる前方定位の感覚があります。音響全体が自分より前方に浮かび上がっている感覚があり、しかも奥行き方向での距離感も出せているため、イヤホンが耳元で鳴っている感覚がほとんどしません。

音像が遠いというわけではなく、向こうからこちらに向かって音が発せられて、自分の顔の手前で結像している感覚があります。優れたクロスフィードエフェクトに近いかもしれません。クロスフィードはスピーカー的な鳴り方を目指しているわけですから、AZ100がスピーカーっぽいというのも納得できます。

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Criss CrossレーベルからOz Noy 「Fun One」を聴いてみました。ギターがリーダーで、David Kikoski、James Genus、Clarence Pennという最高級のピアノ・トリオとのシンプルなカルテット作品です。

ジャケ写真ではジャズなのにテレキャスなのが意外ですが、メンバー構成を見てもわかるとおり、変なフュージョンロックとかではなく、スタンダードを中心にスウィング感のある演奏で、アコースティックに持ち変えるなどバリエーションも豊かで痛快に楽しめるアルバムです。


このアルバムの一曲目、とくに低音に注目してみると、AZ100のスピーカーらしさが理解しやすいです。

開幕冒頭では、至近距離でベースがズシンと鳴るのですが、そこからウォーキングベースラインに突入すると、ギターにかぶらないよう、かなり遠方に移動しており、またズシンと鳴るパートに戻ると、ベースドラムと連動する近距離でといった具合に、ミックスエンジニアが狙ったリズムパートの演出が手に取るように伝わってきます。

さらに二曲目の開幕ギターソロでは、ピアノが左奥の遠いところで鳴っていて、次にピアノソロの出番ではぐっと前に出てくるといった具合に、ただ単純に全ての音が耳に飛び込んでくるのではなく、作品の意図したとおりに、前後の距離感で音楽の展開が楽しめます。

「磁性流体」というキーワードの先入観からか、流れるような感覚はたしかに「流体」っぽいイメージが湧いてきます。もっと具体的に表現するなら、NCイヤホンにありがちなオンオフの過剰なメリハリやギラギラ感が強調されず、演奏の背景に、常に情景の空気感が流れている臨場感みたいなものが実感できます。

ピアノはかなり広帯域な楽器ですが、輝かしい高音のタッチから、厚い和音の箱鳴り感までとてもリアルに再現してくれますし、主役のギターも曲ごとにアコースティックやエレキギターを分けており、ギタリストなら惚れぼれするような素晴らしい音色です。アーティストの上手さはもちろんのこと、過剰に編集していないジャズアルバムだからこその自然な録音と、AZ100の優れた再現性が相乗効果を発揮してくれます。

スネアやトムにも注目してみると、それらシンプルな打撃音でなく、周囲の空気も見事に再現してくれるため、実在感や彫りの深さがリアルに表現されます。

他のアルバムでDAW打ち込みのドラムパターンを聴いても不満はありませんが、それらがいかに生の臨場感に乏しく味気無いかと実感できるあたり、ハイエンドオーディオに相応しいイヤホンだと思います。

このような、綺麗な音色と臨場感豊かな前方定位のおかげで、耳元の音圧がほとんど感じられず、情景全体が目前に浮かびあがってくるあたりが、スピーカー的な感覚、たとえば部屋の大きなフロアスピーカーを聴いている感覚につながるようです。

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AlphaレーベルからBenjamin Appl 「Lines of Life」を聴いてみました。

バリトン歌手Applによる歌曲集で、シューベルトとクルターグの曲を交互に歌うという奇妙なな構成です。ジャケ写真のとおり、来年100歳になるクルターグと個人的に交流があるそうで、熟考して練られたプログラムのようです。

挑戦的な前衛絵画のようなクルターグの曲に翻弄されて、ちょっと辛いなと思った頃に、聴き馴染みのあるシューベルトのメロディが現れ、ホームベースに戻ったような安心感が繰り返されます。ありきたりにシューベルトだけを延々と並べるよりもコントラストの緊張感があって良いです。


それにしてもApplの歌声は重さと輝かしさがあり、上品でカッコいいです。男性のバリトンというのは、広い帯域にて統一感が出せないといけないので、オーディオでの再生が特に難しいジャンルなのですが、AZ100は見事に表現してくれます。

AZ100の前方定位が抜群の効果を発揮してくれて、声の一部だけ切り出すのでなく、一人の歌手として実在感のある音像が目前に浮かび上がってくれます。伴奏のピアノが力強く鳴っても、歌手とピアノのそれぞれが発する空気があり(それが実在感なのでしょう)、どちらも太く明瞭なのに喧嘩せずに、しっかり分離してくれます。

このような、空気も含めて厚い臨場感を出しているのに、演奏が混雑しないという感覚は、たとえばライブステージっぽい遠さを擬似的に演出するヘッドホンや、マイクの音を直接聴くスタジオモニター的なダイレクト感とはちょっと違い、優れた大型スピーカーのシステムで鳴らしている時の感覚に一番近いです。

このスピーカー的という表現には、ちょっと面白い問題点もあります。音楽がVRヘッドセット的に浮かび上がるというか、変なたとえですが、ドラマやアニメで回想シーンに入るときのフワフワしたエフェクトのような感じといえば伝わるでしょうか。

AZ100で音楽を聴きながら道を歩いている時など、つい音楽側の臨場感に引き込まれてボーッとして、不注意につながりそうなことが何度かありました。音楽が注意を引き、没頭できるトリップ感という点では素晴らしいのですが、作業用BGM的に使うと気が散ってしまうので向いていません。同じ通勤ルートを毎日歩いても、これまでAZ60やAZ80では一切そのようなトリップ感は無かったので、AZ100は確かに違うのだということを自覚しました。

その点では、AZ60やAZ80の方がもうちょっと地に足のついたパンチのあるサウンドで、あくまで現実の上でメリハリのある音楽が鳴っているため、移動中や作業中に使うイヤホンとしては向いているかもしれません。

スピーカー的という例えに戻ると、AZ60はベーシックなブックシェルフ型のように、主要な帯域が良い感じに鳴ってくれて、AZ80は同じブックシェルフ型でも上級機種にアップグレードしたように、ダイナミクスの迫力や高音と低音の限界が力強く拡張されます。色々なスピーカーを使い慣れている人なら伝わると思いますが、これらは空間全体を音で満たすというよりは、普段の生活空間の中で、音楽が鳴っている場所があるという感覚です。鳴り方自体は優秀ですが、それこそLS3/5aのように自分から集中して聴きに行くタイプです。

それがAZ100になると、5WAYくらいの大きなフロアスピーカーをリビングで鳴らしている時のような、音が部屋を埋め尽くして逃げ場が無い感覚があり、歌手の音像が目の前にフォーカスして、伴奏の低音などが遠くで鳴っているイメージを連想させてくれます。自宅では無理でも、オーディオショップの試聴室とかで体感した人もいると思います。

それぞれ方向性が違います

スピーカー的なんていうと、他のメーカーもスピーカーっぽいサウンドを目指しているのではと疑問に思うかもしれませんが、他社のワイヤレスイヤホンと聴き比べてみると、メーカーごとにコンセプトが結構違うことに気がつきます。

アンプからの音楽信号でドライバーを動かすだけの有線イヤホンと比べて、ワイヤレスイヤホンはDSPという強力な武器を内蔵しているため、本来イヤホンでは実現できないサウンドも柔軟に提案でき、メーカーごとのポリシーや方向性の違いが強調されやすいです。

ただし、レスポンスや歪みなどイヤホン自体の物理的な限界を超えることはできないので、粗悪なイヤホンにDSPのイコライザーなどを駆使して高音質イヤホンに変身するわけではありません。

自動車におけるエンジンコンピューターのようなもので、丁寧にチューニングすることで理想的なフィーリングに調整することは可能ですが、しょぼいエンジンがスーパーカーに変身することはないのと一緒です。

今回は同じような価格帯で性格が異なるモデルとして、オーテクATH-TWX9とB&W PI8を聴いてみました。どちらも非常に優秀なので、あくまで好みが分かれるという話です。

これらの中で、もっとも「イヤホンらしい」サウンドだと思えたのは、意外にもB&W PI8でした。スピーカーの大手メーカーなのに不思議に思えるかもしれませんが、最近はむしろ量販店でイヤホン・ヘッドホンの方が売れ筋の人気ブランドなので、スピーカーとは別ジャンルとして割り切っているのかもしれません。

PI8は左右の耳を繋げた直線上、もしくはさらに後方に音像が生まれる、いわゆる頭内定位という感覚です。AZ100を聴いてからだと、イヤホンと音像の前後が逆転しているような違和感があるのですが、慣れてくれば我々が普段イヤホンで想像するサウンドそのもので、精密に描いてくれるあたりはIEMイヤホンの理想に一番近いです。中途半端なマルチBA型IEMとかを買うよりも、PI8の方がドライバー間クロスオーバーなどの不具合が無く、安定した解像感が得られます。美音という感じではありませんが、騒音下でも脳内で緻密なディテールに集中できるあたりは、意外とB&Wのモニタースピーカーとしての性格と共通しているのかもしれません。

オーテクTWX9はとてもシャキッとした鳴り方で、様々な音が鮮烈に飛び交うエキサイティングなサウンドです。既存のイヤホンやスピーカーに似せたチューニングを目指すのではなく、音源をできるだけクリアに、広い面積に投射することで、混雑せずに全部聴こえるサウンドを目指しているようです。

AZ100もクリアな高音が印象的ですが、そちらは空気感の範囲内で艶っぽい音色が発せられるという演出なのに対して、TWX9はもっと広範囲に、無音からいきなり派手な音が出現する感じがあり、特にドラムのパーカッションなど、四方から音の粒を浴びるような爽快感があります。

オーテクの高級ヘッドホンでも感じる傾向ですが、凡庸な周波数グラフなどの指標に合わせて抑え込むのではなく、モデルごとに可能なかぎり鮮やかな音の魅力を引き出す努力が伺えます。マイクやフォノカートリッジなど原音の扱いを熟知したメーカーだと実感します。

そんなPI8とTWX9と比べてみると、AZ100のようなスピーカー的な臨場感というのはかなり方向性が異なります。どれが正解というわけでなく、肝心なのは、これらは単純に周波数グラフとかで安易に評価できる話ではないので、もっと感覚的な聴き方が求められます。

おわりに

前作EAH-AZ80を長らく使ってきた私でも、EAH-AZ100は明らかな進化が実感できたので、買ってよかったです。

単純なブラッシュアップではなく、もっと高い指標を掲げて開発された印象があり、特に音色の美しさや、前方定位でのスピーカー的な実在感を求めている人はぜひ聴いてみるべきイヤホンです。単体ではわかりにくいかもしれませんが、他のイヤホンと比較してみると違いに納得してもらえると思います。

音質面だけでなく、本体が前作よりコンパクトになり、しかもバッテリー持続時間が伸びているあたりも、大手メーカーの技術力の高さが伺えます。私の場合、本体だけでLDAC 7時間再生というのが購入の決め手でした。

テクニクスらしさが音質面にあるとして、全体的に無難な王道デザインというパナソニックらしさの利点もあるので、死角のない優秀なシリーズだと思います。気軽に使うならAZ40やAZ60も良いですが、音楽鑑賞メインで使うならAZ80やAZ100を選ぶ価値は十分あると思います。

ただし、AZ80とAZ100のどちらを買うべきか、たとえば今後AZ80が値下がりして一万円以上の差が開いたり、AZ80m2みたいな後継機が出て、機能やバッテリー持続時間が向上したら悩ましいだろうと思います。どちらもaptX系に非対応なのがネックになる人もいると思うので、そのあたりは新たなLC3対応も含めて検討すべきです。

ところで、数年前と比べて、ワイヤレスイヤホンも新作リリースのペースがだいぶ落ち着いてきた印象です。コーデックや接続安定性、アクティブNCの効き具合、空間エフェクトなど、チップセット側の技術が熟成されてきたので、そうなると純粋な音質向上しか進展の道筋がありません。

自社の想定ユーザー層が、純粋な音質向上だけで新型に買い替えるような客かと考えると、実はそうでないメーカーが多いです。そのようなメーカーは、空間オーディオとかaptX Adaptiveのような次なるセールスポイントとなるギミックを待ち望んでおり、それまでは耳を塞がない開放型などの派生モデルに注力しています。(個人的には今後Qualcomm XPANが普及するのかどうか気になっています)。

そんな中で、パナソニック・テクニクスのような大手メーカーが、ギミックやカジュアル・ライフスタイル系に留まらず、EAH-AZ100のように「純粋な音質向上」のために力を入れたモデルを出してくれているのは、最近では意外と珍しいことで、素直に嬉しいです。

ワイヤレスイヤホンが今後どのように進化していくのか想像すらできませんが、EAH-AZ100を聴くかぎりでは、数年前の私では信じられないレベルに到達しており、もはやオーディオファイル的にも一大ジャンルに成長していることを実感しました。


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