2024年5月4日土曜日

MADOO Typ821 イヤホンの試聴レビュー

 MADOOの平面型イヤホンTyp821を聴いてみたので、感想を書いておきます。

MADOO Typ821

2023年発売で22万円という比較的高価なモデルですが、Acoustuneの兄弟ブランドという事もあり、個人的に楽しみにしていました。

MADOO

価格コムなどを見るとメーカー名がAcoustuneに分類されているなど、MADOOとAcoustuneは密接な関係にあり、オーディオイベントでも同じブースで展示されている事が多いです。

2013年に発足したAcoustuneがダイナミック型ドライバーを中心の製品を出しているのに対して、MADOOは2021年に生まれた新しいブランドで、平面型ドライバーに特化した企画のようです。

私自身も以前からAcoustuneが好きでイベントブースに新作を聴きにいったところ、そこにあったMADOOのサウンドに興味をひかれてしまった一人です。

MADOOとAcoustuneの比較

こうやってMADOOとAcoustuneを並べてみても、平面ドライバーのMADOOは一回り大きいものの、メカっぽい金属デザインやケーブルなど共通点が多いです。

2021年の発足からこれまでにTyp512とTyp711という二つのモデルが出ており、価格もそれぞれ約10万、14万円といったところに、今回の新作Typ821はさらなる上級機として22万円ということです。

以前紹介したMoondrop Stellarisのように、最近は平面型イヤホンで1万円台のモデルも出てきているので、平面型といえどシングルドライバーでここまで高価である必要はあるのかという疑問も浮かびますが、その一方で、ハイブリッドマルチドライバー型では50万円を超えるようなハイエンドイヤホンも続々登場していることを踏まえると、現在のイヤホン市場では22万円は中堅価格帯だと感じる人も多いのかもしれません。

八角形の窓

あらためて外観を確認してみると、イヤホンらしからぬ八角形の窓枠のようなデザインは、好き嫌いは別として、一目でMADOOだとわかるアイコニックなデザインです。ちなみに旧作Typ512とTyp711は窓枠が四角だったので、八角形のTyp821と区別できるのも良いです。

ガラスパネルの奥にMADOOのロゴが見えるので複雑な立体構造を演出していますし、ネジがまるで潜水艦の高圧フランジのように力強い無骨な印象を与えます。ケーブルコネクター部分の張り出したガードもかっこいいです。ロボットのようなモダンなイメージと、船舶や重機のようなレトロな雰囲気を融合した面白いデザインだと思います。

ハウジングはチタン削り出しで、窓はサファイアガラスだそうですので、相当コストがかかっています。そう考えると、八角形の窓枠もなんとなく高級腕時計のロイヤルオークっぽいイメージもあるかもしれません。

実際に装着すると、このガラスパネル部分を頻繁に指で触ることになるので、指紋がかなり目立つのが難点です。

ノズル

他社製イヤピースも問題ありません

出音ノズルが扁平なのもユニークです。平面ドライバーの利点を最大限に活かすための大口径と耳穴へのフィット感の妥協点なのかもしれません。

一般的なシリコンイヤピースは問題なくフィットしますし、装着後は全然気になりません。上の写真では、中心が硬めのイヤピースの例としてAzla Sednaを装着してみました。Typ821付属のものと比べると出音穴がそこそこ広くなるので、サウンドももうちょっと激しさというかダイレクト感が増します。私は付属イヤピースで十分良いと思ったので、今回は主にそちらを使いました。

サイズ感は似ています

メタリックな質感や大きなサイズ感などはiBassoのダイナミック型イヤホン3T-154と似ています。しかし装着してみると結構違い、Typ821は耳周りにピッタリ張り付いている感じがして、3T-154は重心が耳から離れてケーブルのイヤーフックで釣っている感覚です。どちらにせよ普段使いに不具合はありません。

Typ821はハウジングやノズルの形状など、全体的に意外なほどに装着感が良いので、入念な設計と試行錯誤を繰り返したことが伺えます。Acoustuneを使ったことがある人なら共感してもらえると思いますが、角張ったメカっぽいデザインのわりに耳穴にピッタリとフィットして安定してくれます。

もちろん個人差はあると思いますが、見た目の大きさとは裏腹に、普通のIEMイヤホンとして問題なく活用できますし、昔のJHとか最近試聴したUE PremierやEmpire Ravenと比べても、装着時は小さく感じます。軽量なチタンなのも貢献していると思います。

Typ821、HS1697Ti、HS1750Cu

デザイン比較

あらためてAcoustuneと比較してみると、ノズル周りのデザインは結構違います。ちなみにHS197Tiは私物で、HS1750Cuは友人のものを借りました。

どれも金属削り出しでありながらフィット感を追求するために複雑な形状になっており、重心が耳穴に比較的近いためグラグラせず安定してくれます。

Pentaconn Earコネクター

非常に優秀です

AcoustuneとMADOOはどちらもPentaconn Earコネクターを採用しており互換性があります。

フィット感の良さにも貢献する優秀なコネクターだと思うのですが、ゼンハイザーIE500PROなど一部のモデルでたまに見るくらいで、なかなか普及していないのが残念です。オーテクのA2DCと似ていますが別物です。

Pentaconnというと4.4mmバランス端子の名称でもあり、同じ会社が開発したのでPentaconn Earというそうですが、そのあたりが混乱させている気がします。Pentaはギリシア語で五の意味で、4.4mmは五極端子なので納得できますが、Pentaconn Earは普通の二極端子です。

それはさておき、MMCXのようにコネクターが回転するので、一般的な2PINと比べてケーブルが耳周りに沿ってフィットしやすいですし、しかもMMCXよりもしっかりしており不用意にクルクル回転しないため、上の写真を見てもわかるように、耳掛けが定位置なので装着が楽で、摩耗による接触不良も起こりにくいです。

Effect Audio ConXが使えます

アップグレードケーブルの選択肢が限られているのが難点ですが、Effect AudioのConXなど端子のみを手軽に交換できるケーブルメーカーが増えてきたのは嬉しいです。

付属ケーブル

比較

付属ケーブルは黒の編み込みタイプで、一見硬そうでも、そこそこ柔軟なので、意外と快適に使えました。

ちなみに手元のAcoustuneのと比べてみたところ、それぞれ微妙に違うことに気が付きました。Typ821のは線材の本数が少なく、Y分岐以降はツイストです。Acoustuneはどちらも分岐以降も鎖編みで、HS1697Tiは硬く、HS1750Cuのほうが柔らかいです。

一番高価なTyp821のケーブルがなぜか一番ショボく見えるので、HS1697Tiの太いケーブルに交換したらもっと音が良くなるだろうと期待して試してみたところ、低音が無駄に太くなってバランスが悪くなってしまいました。やはりケーブルは見た目よりも相性が肝心なようです。

パッケージ

付属品

今回は新品一式を友人から借りたので、パッケージ写真も撮っておきました。二段重ねの紙箱は高級感があるものの、そこまで過剰包装でないのがありがたいです。ケーブルは3.5mmと4.4mmの両方が付属しているのは嬉しいです。

ところで、個人的な余談になりますが、今回の試聴に至るまでずいぶんと紆余曲折があって時間がかかってしまいました。

私自身、2022年のオーディオイベントで試作品を聴いた時点から気になっており、2023年8月の発売直後に製品版を借りることができ、その素晴らしさを再確認したのですが、詳細な感想を書いたり写真を撮る直前に、不具合で返送することになってしまいました。窓枠部分のネジが外れてしまうのと、ケーブル接続端子がグラグラして接触不良になるといったトラブルです。ネットでも似たような組付け関連の不具合を散見しましたが、最初期ロットのみのようで、後日しっかり対策されたようです。

そんなわけで、ずいぶん時間が経ってしまいましたが、今回あらためてじっくり試聴する機会が周ってきたのは嬉しいです。

インピーダンス

再生周波数に対するインピーダンス変動を測ってみました。


平面ドライバーなだけあって、最低音から最高音までインピーダンスが横一直線なのは、AudezeやHifimanなど平面型ヘッドホンと同様です。つまり電気的な位相も一直線で、アンプ側から見ると周波数に依存しない純粋な抵抗のようなものです。

だからといって音が良いとは限りませんが、アンプの出力インピーダンスの影響を受けにくいため、とくにマルチドライバー型イヤホンと比べると、アンプによる音質差は起こりにくいです。

音質

数ヶ月前にTyp821を初めて聴いた時点でも、かなり凄いサウンドのイヤホンだと感じたのですが、今回あらためて聴いてみたところ、その印象はむしろ強調されるばかりです。

解像力がとても高く、全ての音域をリニアに描写するようなイヤホンです。音源やアンプなどの不具合も容赦無く露見するので、油断するとシビアになりがちな、気難しいイヤホンでもあります。

私も今回どんな曲やDAPを使って試聴すべきか、ずいぶん悩まされました。

かなり難しいです

たとえば、普段から使い慣れているHiby RS6を使って聴いていて「高音はシャープで高解像だけど、中域は丸くて、そこまで高解像とは言えないな」なんて感想を書いていたところ、実はそれはHiby RS6の方の特徴だった、みたいな感じです。


高解像でフラットな鳴り方ということで、美音系のウォークマンやヤマハのアンプなどで鳴らしてみると、それぞれの中高域を滑らかに仕立てる効果が目立ってしまい、どちらもTyp821を聴いているというよりも、ソニーやヤマハの特徴を聴いているという感想になってしまいます。

他にも、AK SP1000では、空間の広さが圧倒的だけど、細くて物足りないと思えたり、iFi Audio micro iDSD Signatureでは、ゲインモードECOだと音が痩せすぎて、Normalの方が音質が断然良いのに、ボリュームノブが絞られすぎてステレオギャングエラーが目立つといった具合に、上流機器それぞれの性質が明らかに現れすぎて、Typ821そのものの素の特性が影に隠れてしまいます。

結局、色々と鳴らしてみた中では、解像感や空間のスケールを最大限に引き出すにはAK SP3000が最善で、逆に普段の音楽鑑賞ではHiby RS6のライン出力からAK PA10アンプを通すのが良かったので、ようするに私が普段からベストだと思っている構成そのままで、格別ユニークな組み合わせを模索する必要は無かったわけですが、それらソースごとの音質差が通常の十倍くらい明確に現れます。

つまり、それだけTyp821がストレートに音を届けてくれているという事なのでしょう。自分が普段から気に入っているアンプで鳴らせば、そのまま良い音だと感じますし、逆に、不満に思っている点があれば、それを過剰に強調してしまいます。これまでDAPは適当でいいやと思っていた人は痛い目を見ると思います。

一般的に、電気信号を音波に変換するスピーカーやヘッドホン・イヤホンは、オーディオシステムの中でも一番クセや個性が強いため、それ以外の機器、たとえばアンプやDACとなると、私を含めて、あえて汎用性の高い無個性なものを選んで、そう頻繁には入れ替えない、という人が多いと思います。数値的にも、DACやアンプの電気的な性能は-100dB以上のダイナミックレンジや100kHz超を再生できたとしても、スピーカーやイヤホンがそこまで至らずボトルネックになるという考え方が主流だと思います。

ところがTyp821で聴いてみると、むしろ逆に上流機器の方がボトルネックになっており、Typ821のポテンシャルを最大限に引き出せていないように思えてしまいます。これはとくにイヤホンにおいては異例の事です。

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せっかく超高解像の最先端イヤホンということで、それに見合うくらい超高解像な最新DXD音源を聴いてみました。

Channel ClassicsからIván Fischer指揮ブダペスト祝祭管弦楽団のエロイカです。マーラーと並列して2008年からのんびり進行している全集で、今のところ1,3,4,5,6,7が出ているので、近いうちに完成が望めるでしょうか。超ハイレゾ録音の先駆者Channel Classicsと世界最高峰クラスのオケという理想的な組み合わせで、しかも演奏解釈も極めてオーソドックスなので万人に勧められます。

フルオーケストラの広大な音場展開を聴いてみると、Typ821はいわゆるバーチャルサラウンド的な立体感というよりは、むしろ録音が整然と頭に入ってくるような表現方法です。ステレオの左右が横一直線にビシッと揃っている感覚があり、上下は比較的狭いです。

一般的に、空間が広いイヤホンというと、高音は目線よりも上に広がり、低音は体を震わせるような上下の分散があり、とくに高音の空気感が頭上へと拡散するあたりが音抜けの良さなどにつながるわけですが、Typ821は低音も高音も同じ平面上で、左右のステレオ配置と、響きの時間差による前後の奥行きが明確に現れる感じです。

これはつまり、最低音から最高音まで、全ての帯域がイヤホンの中で別け隔てなく同じように発せられているというふうに聴こえるので、平面型らしいと言えるかもしれません。薄味ですが高音寄りの軽いサウンドというわけではなく、EDM打ち込みとかを聴けば、かなりパワフルな低音が体感できます。しかし、その低音がハウジング反響によるものではなく、中高域と同じようにドライバーから鳴っている実感があります。

高解像イヤホンの最先端というと、ゼンハイザーIE900が思い浮かびますが、両者は性格がまるで違うのが面白いです。録音の解像力だけならIE900も同レベルに優秀なのですが、周波数帯域が均一に鳴っているかというと、そうではなく、中低域に差し掛かると若干前に浮き上がってくるような感覚があります。これはダイナミックドライバーとハウジングの音響チャンバーによる効果なのかもしれません。このせいで解像力が落ちるとか、音が濁るといった不具合が起こるわけではなく、むしろ中低域が前に出てくるのはダイナミック型のスピーカーや密閉型ヘッドホンで普段聴き慣れた感覚として、音楽に迫力や立体感を与えてくれます。それに慣れた耳でTyp821を聴いてみると、その中低域の部分を含めて、まるで定規で線を引いたようにピッタリ整列しており、これまで他のイヤホンがどれだけ空間表現の個性が強かったのかと驚いてしまいます。この横一直線に整列する感じはゼンハイザーIE900よりもむしろDT1990PROやDT880などベイヤーダイナミックのモニターヘッドホンの鳴り方を連想します。

それにしても、ここ数年の平面型イヤホンの進歩は目に見張るものがあります。現在ポータブルオーディオで一番面白いジャンルではないでしょうか。ヘッドホンでは、平面ドライバーはダイナミックドライバーと比べて小ロット手作業での製造が容易ということでハイエンドで一気に普及したわけですが、今後イヤホンでも同様のトレンドが生まれるのでしょうか。

Typ821、Stellaris、ME-1

2017年のUnique Melody ME-1や2022年の水月雨Stellarisなど、これまでの平面型イヤホンを聴いてきた印象としては、高レスポンスで余計な響きが少ないというメリットは実感できるけれど、平面ドライバーだけでは可聴帯域をカバーしきれず、ME-1は中域だけのモコモコ、Stellarisは高音だけのキラキラと、どうしても一発芸の域を超えられないという感じでした。

これまでのMADOOも、Typ512は未聴ですが、Typ711はそこまで強烈なクセは無いものの、音が軽くて硬質すぎて、ポテンシャルは感じられるものの、メインのイヤホンとして常用するには今一歩といった印象でした。今回Typ821にてようやく平面型イヤホンが主役を張れる立ち位置に登ってきたように思います。

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超ハイレゾのクラシックだけでなく、Typ821の性能を引き出せるジャズのアルバムを探してみたところ、こちらも先ほどのアンプ選びと同様に悩まされることになりました。

まずはCellarレーベルから、テナー入りのオーソドックスなカルテットでSean Fyfe 「Stepping Stones」を聴いてみました。最近の新譜の中ではとりわけ気に入っており、何度も繰り返し聴いているアルバムです。ところが、いざTyp821で聴いてみると、二曲目ではブラシがうるさい、三曲目ではトムが逆相で気持ち悪いなど、他のイヤホンではそこまで気にならかなった細かい点が、Typ821では悪目立ちしてしまいます。

アルバムのバランスエンジニアの腕前によると言えばそれまでなのですが、せっかくの優れた演奏を楽しむのを阻害してしまうのは困ります。

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Criss CrossレーベルからGregory Groover Jr「Lovabye」はテナーがリーダーで、ピアノ、ギター、ヴィブラフォンと和声楽器がやたら多いアルバムです。Criss Crossらしく往年のアナログセッション的な雰囲気の良盤だと思います。こちらもTyp821で聴くと、ステレオイメージのバランスがセンター寄りにコンパクトにまとまりすぎて、そこまでパッとしません。解像感は十分にあるので、混雑しているというわけではないのですが、目前に整列した演奏者が細かく何層にも重なり合って、それらを観察するように聴き分けるといった聴き方になってしまいます。

他のイヤホンであれば、ハイハットの打撃が頭上に発散したり、テナーのブロウが顔面を直撃するなど、楽器ごとに空間の演出が加わり、大型スピーカーで浴びるように聴く迫力がジャズの醍醐味であったりするので、Typ821はそれとは真逆の、整然としすぎている感覚です。

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高解像で薄味なイヤホンなので、逆に響きが厚いECMサウンドとの相性が良いだろうと思い、Shai Maestroの2021年盤「Human」を聴いてみました。リーダーのピアノトリオにトランペットをゲストで迎えたアルバムで、昨今のECMの中では親しみやすい作風です。バラード系ではありますが、ベタなロマンチックに浸らず、たびたび現れるオリエンタルな雰囲気が独自の世界観を生み出しています。

このアルバムも、他のイヤホンでは相当良いサウンドで楽しめていたので、Typ821ならどれほど凄いかと期待して聴いてみたところ、意外とうまくいきませんでした。ECMらしい重い空気に包まれる感覚が希薄で、ピアノやベースなど個々の楽器の音色が最小単位まで観察できるのは凄いのですが、そうやって聴いていると、実は録音された音色にそこまでの面白みが無く、意外と単調であることに気がつき、そのため、音楽が心に響く感覚が薄れてしまい、BGMのように聴き流せてしまいます。

これら三枚のジャズアルバムを聴いた感想は、どれもTyp821自体の弱点や不具合ではありません。普段は隠れているような楽曲の弱点を晒してしまうのが問題です。つまりレファレンスモニターとしての性能は飛び抜けて優れていますし、本当に高音質なアルバムに巡り会えた時は素晴らしいのだろうと思います。しかし日々の音楽鑑賞用としては付き合いづらいイヤホンであることは確かです。

たとえば上のECMのアルバムはTyp821よりもAcoustune HS1697Tiで聴いたほうが、ECMらしい濃い霧のようなディープな響きに周囲が覆われて、その霧の中からぼんやりと演奏が浮かび上がってくるような情景が、感覚的に美しく、つい没頭してしまいます。

考えてみると、このMADOOとAcoustuneのような棲み分けは、スピーカーやヘッドホンにおいてはすでに定着している概念です。たとえばプロ用のモニタースピーカーと家庭での音楽鑑賞用スピーカーは全くの別物ですし、ヘッドホンでも、DT1990PRO・HD600・R70xなどのモニターヘッドホンはリニア感や解像感において申し分ないのですが、それとは別に音楽鑑賞用の高級ヘッドホンが続々登場しています。

このような棲み分けがイヤホンではまだ珍しいため、リニアで高解像なのに扱いづらいという感覚が異色に感じられるのかもしれません。

おわりに

MADOO Typ821はカジュアルな普段使いには厳しすぎるかもしれませんが、現時点で唯一無二の存在として、個人的にかなり欲しいイヤホンです。とくに録音の評価やDAPなど機器の聴き比べにおいては別次元の存在です。

さきほど、ヘッドホンではHD600、DT1990PRO、R70xなどと同類と言いましたが、単純に音質傾向だけでなく、イヤホン市場における立ち位置としても、その例があてはまります。

たとえばMADOOとAcoustuneを比べると、22万円のTyp821に対して、Acoustuneは40万円のHS2000MX SHO MKIIIがあり、しかもこちらは別売の音響チャンバーユニットに交換して音質を変える事もできます。

では、Typ821と比べてHS2000MX MKIIIは二倍の価格差で二倍の高音質なのかというと、そういうものではなく、ましてや、現時点で選べる八種類の音響チャンバーユニットで、どれが一番高音質なのかとランク付けするものでもありません。あくまで主観で好みのチャンバーユニットを選べるようになっているだけです。

ここでスピーカーやヘッドホンの例に戻ると、レファレンスモニター的な最高音質が必ずしも最高級で最高価格のモデルというわけではありません。600万円のB&W 801D4をモニタースピーカーとして使っているレコーディングスタジオは多いですが、家庭用では1000万円を超えるスピーカーもたくさんありますし、それらが801D4よりも高性能とは限りません。

あくまで私の感覚の話になりますが、現在のハイエンドイヤホン市場で、そのようなレファレンスモニターとしての最善の回答がTyp821で、それが22万円であって、趣味の音楽鑑賞を追求するなら、もっと高価で独創的なイヤホンが存在するのは当然です。たとえば以前試聴したQED Anole V14やEmpire Ears Ravenはどちらも60万円もしますが、それぞれに個性的な魅力があります。もちろん、それらが個人的に買える価格帯かどうかは別問題です。

Typ821とVE10

私自身、最近はVision Ears VE10という46万円のイヤホンが結構気に入って何度も試聴しているのですが(もちろん高くて買えません)、Typ821と交互に聴き比べると、音がぼやけてフワフワしており、どう考えても高音質とは言い難いです。それでも普段使いでソースや録音品質を問わず楽しめそうなのはVE10の方です。では頑張って購入するかとなると、Typ821の強烈な高解像を体験してしまうと、VE10をただ「普段使いで良い感じ」という直感だけで買うべきなのか、もっと安くて似たようなサウンドのモデルがあるのではないか、などオーディオマニアならよくある悩みだと思います。

モジュール交換は泥沼です

Acoustune HS2000MXも、イベントで試聴した際にとんでもなく艷やかな音色に感動して、いつかは購入したいと思ったのですが、音響チャンバーモジュールを交換したところ「トランペットは真鍮と木材のが良いけど、ピアノはジャーマンシルバーと石材のも捨てがたい・・」と本体を買ってもモジュールで10万円単位で買い足すのは流石に厳しいため断念しました。変なオカルトギミックではなくドライバー全体が入れ替わるので値段が高いのも十分納得できますし、Typ821とは別方向で、主観的な趣味の究極としては非常に魅力的です。

似たような話で、私が所有しているHS1697Tiですが、以前から面識があったガチなイヤホンマニアの人が最近よく使っているのを見て、話を聞いたところ、これまで超高級カスタムIEMを何十種類も集めていたものの、もう聴き比べをするのに飽きて、純粋に音楽を楽しむためだけに一本だけに絞ろうと決めてHS1697Tiに落ち着いたそうです(カスタムイヤピースをつけていました)。もちろんHS197Tiが完璧なイヤホンというわけではありませんが、私を含めて、音色が好きだからというだけで選んだ理由も理解できます。

そんなわけでAcoustuneとMadoo、ここまで表裏一体に、ハイエンドイヤホンの異なる方向を示してくれるメーカーは他にはありません。また、デザインに関連性はあったとしても、安易に価格だけで優劣や上下関係を示唆したりされないように、全く別のメーカーとして存在しているのも納得できます。

今回のTyp821は、イヤホンの進化という観点からも、平面型イヤホンもついにここまで来たかという、新たな時代を示してくれました。平面型はモニター系というわけでなく、今後は他のメーカーからも平面型でダイナミック型を超えるような美音系に特化したモデルも続々登場するかもしれません。そして、静電や骨伝導などありとあらゆる可能性を詰め込んで高額化したマルチドライバーハイブリッド型によって一気に上昇したハイエンドイヤホン相場も、もっと現実的なシングルドライバーで10-20万円の価格帯に落ち着いてくれることを期待しています。


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