Sonoma Model One |
静電式ヘッドホンと専用USB DACアンプがセットになったシステムで、価格はおよそ75万円と、とてつもなく高価です。
おいそれと手が出せる値段ではありませんが、DSD録音の功労者Sonomaという名前だけでも個人的に興味を惹いたので、その名にふさわしいサウンドなのかどうか聴いてみたくなりました。
Sonoma Model One
このSonoma Model Oneは、2017年版ヘッドホンブックの表紙を飾ったモデルとしても記憶に新しいです。それにしても、2016年の表紙はパイオニアSE-MASTER1でしたし、この雑誌は毎年選ぶヘッドホンが個性的で良いですね。
このヘッドホンを作ったSonoma Acoustics社はアメリカのコロラド州にあるオーディオメーカーで、今回Model Oneが初めての商品になります。
名前の由来であるSonomaワークステーションについては個人的に思い入れがあるのですが、それはひとまず置いておいて、肝心のヘッドホンについて紹介します。
オレンジの全面積が静電振動板です |
Model Oneは、世間のヘッドホンの中でも珍しい「静電型ドライバー」、しかもその中でもさらに珍しい、片面バイアス型を採用しています。同社はこれを「HPELドライバー」と呼んでいます。
静電型ヘッドホンといえば日本のSTAXが有名ですが、それらを含めたほとんどの静電型ドライバーは、振動膜を二枚の電極板で挟んだ両面バイアス型が主流です。その場合、振動膜を前後から電圧で押し引きすることで、正確で歪みの少ない駆動が得られるメリットがあります。
中を覗くと振動板が見えます |
注意して見ると、網戸のような細かい電極メッシュがあります |
一方、Model Oneの片面バイアスの場合、振動板の片面(裏側)のみの電極板(グリッドメッシュ)で駆動することで、振動版と耳とのあいだに障害物が無いため、音が耳に直接届くというメリットがあります。このタイプは、古くはKOSSなどが採用していましたが、最近では珍しいです。
「片面か両面か」というトピックは、静電型だけではなく、近頃人気がある「平面駆動型ドライバー」でも注目されているポイントです。たとえばAudeze SINE・iSINEは片面駆動ですがAudeze LCDやHifimanなどは両面駆動タイプで、振動板を前後の磁石板で挟んでいるため、音を通すために板に無数の穴を空ける必要があります。それらによって空気の流れや音質が乱れてしまうということが指摘されており、たとえばMrSpeakersのFlowやAudezeのFazorといったスムーズな整流版を挟むことで乱れを抑えるなど、各メーカーごとに様々な試行錯誤が行われています。
ちなみにAudezeなど平面駆動型ドライバーと、Sonoma Model OneやSTAXなどの静電型ドライバーの一番大きな違いは、振動板に音楽信号を流すか、流さないかです。
平面駆動型というのは、振動板に音楽の電気信号を流して、前後の永久磁石に反発させることで音を出します。
一方静電型ドライバーは、金属板や金網に高電圧と音楽信号を与えることで、サランラップみたいな薄い振動膜を静電気でプルプルと震わせるという仕組みです。つまり平面駆動型と比べて、振動膜そのものに電気回路を必要としないため、とても薄くレスポンスの良い素材が投入できます。また、強力な永久磁石が不要なため、ヘッドホン本体の重量も軽くできます。
そんな静電型ドライバーの問題点は、ドライバーを震わせるほどの静電気を発生させるには数百から数千ボルトの電圧を使うので、それ専用のアンプ(ドライブユニット)が必要になることです。
また、静電型でもEnigma AcousticsやMitchell & Johnsonのように、普通のヘッドホンアンプの電圧で静電膜を震わせるヘッドホンもありますが、その場合エネルギー不足で十分な低音が出せないため、低音用ダイナミックドライバーとのハイブリッドであることが多いです。古くは1970年代にAKG K340という静電+ダイナミック型ハイブリッドヘッドホンがありました。
実際のところ、どの方式がベストかというのは色々と論議されていますが、オーディオというのは測定では計り知れない空気感や雰囲気みたいなものなど、セオリーのみでなく感性の世界なので、明確な答えは現れていません。
耳と振動膜のあいだに隔たりが無いということが、今回Model Oneに搭載されているHPEL静電ドライバーのメリットなわけですが、逆にデメリットとしては、片面電極で十分な駆動力(音量)を得るためには相当高いバイアス電圧が必要になるため、STAXの580Vとくらべても異常に高い1350Vというバイアス電圧を採用しています。また、前後から押し引き(プッシュプル)するのではなく、片側から駆動するので、原理的に正確な振動制御が難しく、特定の周波数で乱れやすいというデメリットもあります。
今回Sonoma Model Oneは、そういった不利な部分に対して、専用アンプユニットの高度な設計と、DSP処理によって対策するといった方針を取っています。あえてそこまでやるだけのメリットがあるという算段なのでしょう。
特殊なヘッドホン出力コネクターです |
1350Vという高い電圧を使って安全上大丈夫なのか、と心配になるかもしれませんが、流れる電流は微々たるものなので、感電したとしても静電気のようなものです。(たとえば衣服が擦れて生まれる静電気は、数万ボルトです)。
そうは言っても、ケーブルがショートしたりして内部の電子回路が故障する可能性はあるので、ケーブルや基板は普通のヘッドホン以上に入念に保護されており、接続端子も6.35mmやXLRなどではなく、専用の特殊コネクターを採用しています。つまり、このアンプユニットは他社のヘッドホンでは一切活用できません。
STAXヘッドホン |
ちなみに、バイアス電圧や音楽信号電圧はSTAXの仕様と異なるため、アンプユニットに互換性はありません。
その昔、ブラウン管テレビや真空管が現役だった頃は高圧電源が必須だったため、当時の半導体や電子部品も500V以上の高圧対応のものが多かったのですが(そのためSTAXは構造的に真空管との親和性が高いというメリットがあります)、しかし最近では我々の身の回りの家電環境が「低電圧・小型化・省エネ」といった流れで、1000V超の高圧対応部品の選択肢が少なくなってきています。(むしろ電気自動車やパソコンのために、1V~50Vくらいの低電圧で、もの凄い高電流を一気に流す電気回路が主流になっています)。
また、最近のDAPやIEMブームを見ても、スマホのバッテリーアンプでも優れた音質が得られるということが実証されているわけで、そんな中であえて高圧の静電型ドライバーを選択するという事自体、素材選びや音響設計から駆動ユニットの高圧回路設計まで、全てをトータルパッケージとして開発しなければならず、参入の敷居が高い世界です。
2015年にShureが静電型イヤホンKSE1500をコスト度外視で開発したことにも見られるように、オーディオ業界に長年関わってきたエンジニアとしては、やはり高電圧で薄い振動膜を動かす「静電型」というのは、機会があれば挑戦したい、エベレストのような存在なのかもしれません。
開発
公式サイトの情報を読むと、このModel Oneヘッドホンは「Warwick Audio Technologies」という会社との共同開発だそうです。このWarwick社というのは、イギリスの名門ウォーリック大学からスピンオフしたベンチャー企業で、同大学の研究グループが開発したHPEL静電型ドライバーの特許を商品化するために設立されました。
つまり、振動板と駆動アンプの技術はWarwick社が主導し、音響設計と製品化を実現したのがSonoma Acousticsということです。提携の経緯はよくわからないのですが、Sonoma Acoustics公式サイトによると、英国での連絡先はWarwick社との連名になっています。
実際このModel Oneに関わった各スタッフの経歴を見ると、大学の科学者や、ソニーやフィリップスなどでキャリアを積んだ「デジタルオーディオ全盛期」のベテランばかりです。つまり、単純にOEMとして買い付けたのではなく、商品化のための色々な人の努力が感じられる、夢のある話です。
コンシューマーとして気になるのは、今後このヘッドホン技術はSonoma Acoustics専用のものになるのか、それともWarwick社として他のオーディオメーカーと様々なバリエーションを発展させていくのか、ということでしょう。
実際、Warwick社の公式サイトを見ると、振動板のスペックなどについてはSonoma以上に詳しい情報が掲載されていますし(それを売る商売です)、また、Model Oneのアンプ以外にも、コンパクトポータブル用駆動アンプユニットの写真も載っています。
ともかく、輝かしい第一号として、両社ともに気合が入ったモデルであることはヒシヒシと伝わってきます。
デザイン
Sonoma Model Oneのデザインは、一見してゼンハイザーHD600・HD650によく似ていますが、実際に手にとってみることで、それをより一層強く感じます。アンプユニットが意外とコンパクトなため、写真で並べてみるとヘッドホンが巨大に見えますが、たとえば平面駆動のAudeze LCDやMr Speakers Etherなどと比べるとかなり小さいです。重量も303gということで、HD600の254gとHD800の370gのちょうど中間くらいで、想像以上に軽いです。
大きく見えますが、サイズ感はごく一般的です |
カチカチ調整する部分はまるでHD600です |
楕円形のハウジングフォルムはもちろんのこと、とくにヘッドバンドのカチカチ調整機構や、ハウジングが前後にちょっとだけ回転する部分など、ほぼHD600と同じ感触です。
プラスチックとレザークッションのヘッドバンド |
ハウジング本体は振動対策や剛性のためにマグネシウム合金製ですが、ヘッドバンドは弾力性と軽量化のために強化プラスチックでできているため、75万円という価格を考えると、拍子抜けしてしまうほど簡素で軽量です。
他社の高級ヘッドホンというと、クロムメッキや高級木材、彫金細工などをあしらった「価格相応」感を演出したがるのですが、Sonoma Model Oneはその真逆です。ただし、全体的なデザインの完成度は高いので、いわゆる中身優先で外見は適当にでっちあげたような、スタジオ機器っぽいチープさはありません。
高級そうなレザーイヤーパッド |
そんな中でも唯一明らかに高級そうに感じるのは、シープスキン製イヤーパッドです。キャブレッタ革といって、革手袋や革靴に使われる、しなやかで光沢のある羊革で、一般的なレザー製パッドよりもランクが高い、肌にしっとりと吸い付くようなフィット感です。
装着感
実はこのModel Oneヘッドホンは、装着してみると側圧がかなり強めなので驚きました。見た目同様、HD600のように、そこそこのテンションで左右のハウジングがカポッと挟み込むような感触です。近頃の緩めなヘッドホンに慣れていると新鮮です。75万円もするような高級品なので、富裕層のおじさん達に媚びた緩めの設計かと想像していたのですが、あくまでプロ目線で妥協を許さない仕様です。
側圧は強いものの、とても快適です |
まず第一に、音質のためにピッタリとした装着を最優先とし、そこから快適さを両立させることに努力したのだろうと想像できるデザインです。
ヘッドホンケーブル
一般的なヘッドホンが「低電圧・高電流」で駆動するところを、静電型のModel Oneは逆に「高電圧・低電流」で駆動するため、要求されるケーブルの特性も全く異なります。水道のホースに例えるなら、同じ水量を流すとしても、家庭のゴムホースと高圧洗浄機ホースの違いのようなものです。
ヘッドホンケーブル |
専用のガッチリしたコネクターです |
高圧を扱うため接続にはガッチリとした確実性が求められるので、コネクターも特殊形状になっています。削り出しの明らかに高級そうな産業用コネクターです。
ところで、多くのオーディオ用ケーブルは1000Vの高圧を許容できる素材ではないので、(被覆ゴム素材の耐圧が十分でないため、電流漏れなどを起こします)、よくわからずに社外品ケーブルなどに改造してしまうと、最悪、漏電の過負荷でアンプが故障してしまう心配があります。
ケーブル側コネクター |
HD700とよく似たケーブルです |
ケーブル自体は太めで取り回しにくい硬さですが、家庭用の据え置きシステムとしては、まあこんなもんかという実用範囲内です。
フラットな布巻きケーブルに、Y分岐のプラスチック部品、そして分岐後の左右ケーブルはゴム被覆、といった感じに、デザイン全体がゼンハイザーHD700のケーブルとよく似ています。私はあのHD700のケーブルが大嫌いなのですが、今回は静電型ヘッドホンということで、しょうがないかなと我慢できます。
ちなみに、このケーブルはアメリカのStraight Wire社とのコラボレーションだということで、さらにModel Oneには同社のUSBケーブルも付属しています。
ちなみにこのStraight Wire USBケーブルは地味ながら音が良いらしく、アメリカでは他の高級オーディオブランドにOEM品として供給されていたりもします。
アンプユニット
同梱の駆動アンプユニットは小柄なデスクトップ型ですが、USB DAC機能も内蔵していることが、アナログ入力のみのSTAXアンプとの大きな違いです。つまり、あとはパソコンさえあれば、音楽を楽しむのに他に何も要らない、悩まなくていい、というのが大きなメリットです。アンプユニット |
雑誌に載っていた内部写真を見た限りでは、昇圧回路は音楽信号用に450VのフライバックIC回路と、バイアス用の古典的なカスケード増倍回路の組み合わせのようで、既製品の寄せ集めではなく、このヘッドホン専用に設計されています。
フロントパネル |
フロントパネルは入力切り替えスイッチとボリュームノブのみのシンプルさですが、さすが高級なだけあって丁寧に作り込まれた素晴らしいデザインです。
研磨処理の重厚な光沢が美しいですし、ボリュームノブは回しやすく指紋が目立たないようなザラザラ加工、スイッチはまるでコックピットで使うような産業用タイプです。ヘッドホンジャックの面取りや、角の曲線も、どこから見ても上質な仕上がりです
トップパネルとSonomaロゴ |
トップパネルの放熱孔が単なるドリル加工やパンチングではなく、立体的にえぐり取られたような複雑な形状をしているとか、トップ・サイド・フロントパネルの正確な嵌め合いのライン、表面処理の違いによる銀色のコントラスト、あえてフロントパネル前面に置いていないSONOMAロゴなど、本当に魅力的なデザインだと思います。
高価な静電型だけあって、しっかりとした信頼性が要求されますので、このModel Oneアンプユニットのデザインはまさにそんな安心感を与えてくれます。
アンプユニットの背面 |
ACアダプター |
これで電源も別途専用削り出しシャーシにでも詰め込んでいれば、よくある「強化外部電源モジュール」とか言ってマニアに喜ばれたのでしょうけど、あえてゴロンとしたACアダプターのままなのが潔いです。
USB DAC
同軸S/PDIF入力は192kHz 24bit、USB入力はPCM384kHz 32bitとDSD128 (5.6MHz)まで対応しています。USBインターフェースファームウェアはこれを書いている時点で最新のVer. 1.1.2を使いました。パソコンとの接続は良好です |
念のためファームウェアをアップデートしました |
Audirvanaで正しく認識しています |
唯一DSD256に対応していないのが残念です。音質メリットというよりも、最近DSD256で販売しているアルバムが増えてきたので、それらを無変換で聴くためにも、できれば対応させてほしかったです。DSDはASIOダイレクトではなくDoPモードを使っているので、PCM 384kHzではDSD128が上限になってしまうのが原因でしょう。
それはさておき、色々なソースを試してみたところ、Windows/Macパソコン(JRiverとAudirvana)では問題なく使えましたし、iOSのOnkyo HF PlayerでDSD128・PCM352.8kHzもちゃんと再生できました。
iOS接続も大丈夫でした |
DSP処理
ところで、Model Oneのアンプユニットは、全ての入力信号がデジタル信号処理(いわゆるDSP)を介してD/Aチップに送られる、という点がユニークです。業務用スタジオ機器ではよくある方式ですが(モニタースピーカーとか)、家庭用ハイエンドオーディオでは、ごく最近まであまり見なかった方式です。DSDを含む全てのデジタル入力は384kHz PCMデータに一旦変換され、アナログ入力も内部のA/Dコンバーターで384kHz PCM信号に変換されます。
それらデジタル信号を64 bit DSPにて処理したものを、384kHz/32bitでESS社のD/Aチップにてアナログ変換する構成です。ちなみにESS社のどのD/Aチップを使っているかは公表されていません。
つまり、アナログ入力はA/D変換という一手間があるため、信号経路としてはUSB・同軸デジタル入力のほうがピュアだと言えるかもしれません。
ESS DACの場合、DSDもPCMも一旦チップ内で6bit SDMデータに変換された上でアナログ変換されるので、そもそもPCM・DSDネイティブ変換という概念は曖昧です。つまり、どの段階でデジタルフィルターや非同期変換を通すかで音質の優劣を語るのは難しいものがあります。(極論を言ってしまえば、可聴帯域外の話なわけですし ・・・)。
SonomaといえばDSDと縁が深いとして取り上げられているので、旭化成などのDSDダイレクト変換に固執しなかったことは不思議に思えますし、ここであえてスタジオ機器として合理的な音質優先の設計を行ったことは、オーディオマニアとして意見が別れるところかもしれません。
マニア的には「DSDを直接アナログ変換」という方が感覚的に気分が良いのですが、ではどちらが音質が優れているかとなると評価は難しいので、できるだけ「PCM変換だから(きっと)音が悪い(であろう)」というような思い込みで、手段と目的を履き違えることは避けたいです。
DSPとヘッドホン
こういった試みは、ヘッドホンとDACアンプのセットで設計しないと実現できないため、それができるSonoma Model Oneならではのメリットとも言えます。
ヘッドホンマニアの中には、お気に入りのヘッドホンに合わせて再生ソフトのイコライザーを微調整している人も多いので、それをメーカーが極限まで仕上げてくれたような感じです。また逆に、ピュアーアナログ至上主義で、そのようなDSP補正を毛嫌いする人もいます。
結局のところ、ヘッドホン本体の物理特性のみで完璧なサウンドを目指そうとしても、どのメーカーも現実ではそれを達成できていません。
たとえば、低音が足りないからとハウジング反響で補えば、その低音は確実にドライバーよりも遅れてしまう、など、フラットに近づけようと手を加えるたびに、どんどんレスポンスが鈍って新鮮さを失ってしまいます。「一切響かない、邪魔をしない」が理想なので、そうなると手の施しようがありません。(もちろんドライバーが完璧であれば、それに越したことは無いのですが)。
デジカメに例えれば、撮影した写真を大判ポスター印刷してから絵の具で修正するのではなく、デジタルのままフォトショップで色や明暗の補正をするような感覚です。やりすぎればわざとらしくなる一方で、プロでも日常的に行っている作業です。
たとえばAudeze SINE/iSINEのLightning接続でも同様の仕組みが搭載されていましたし、多くのBluetoothヘッドホンなどでも内蔵されています。
このように、アンプとヘッドホンをセットとしてサウンドを仕上げる、というのは、ヘッドホン業界における次世代の流れなのかもしれません。
Sonoma
Sonomaについての余談です。Model Oneヘッドホンとは関係ないので興味が無い人は飛ばしてください。雑誌などでは既に多く語られている内容ですが、なぜこんな高価な新参ヘッドホンメーカーがここまで注目されているのかというと、Sonomaという名前にはものすごい歴史があるからです。
そもそもCD・SACDというデジタルメディアは、日本+米国のソニーと、オランダのフィリップスによる共同開発だったことは有名ですが、それは形だけの連盟ではなく、当時まさに両社トップエンジニア達のチームワークによって製品化が実現されました。
2000年以降、不況の煽りでソニー・フィリップスともに高音質オーディオから撤退した後も、当時のエンジニアたちはオーディオ業界の多方面に散らばり、近年のデジタル・オーディオの進化に大いに貢献しています。
そんな不況時代に突入する前に考案された、DSDというフォーマットの当初の目的はSACDのためではなく、ソニー(コロムビア・レコード・RCAなど)とフィリップス(ポリグラム、デッカ、モータウンなど)が貯蓄しているアナログマスターテープが経年劣化してきたため、朽ち果てる前に、現在の技術で可能な限り「アナログに一番近い原音忠実」にてデジタル化する必要がある、という名目がありました。
アーカイブ用だけでなく、高音質ディスクとしてオーディオマニアに売れるかも、ということでSACDというメディアが企画され、そうなると、多方面のレーベルやスタジオにDSD録音を売り込む必要が出てきます。
まず、音楽スタジオがDSDで録音できるようにする機材を提供するところから始まらなければなりません。それまでずっと44.1kHz・48kHz PCMレコーダーを使い慣れているスタジオを説得するのは容易では無かったと思います。
CD初期の頃は、ほとんどのスタジオが高価なソニー製PCMレコーダーを使っていたので、SACDも同じように、DSD機材は全部ソニー自社製で固めようという思惑だったのですが、開発が遅れ、使い勝手が悪いと現場での不満が多かったので、米ソニーからの提案で、現場のスタジオ目線での開発に方向転換しました。
DSD用A/Dコンバーターはオランダ・フィリップスとスイスStuder・Revox社の流れを含むMeitner・EMMLabs社製が標準機として量産され、一方、DSD録音後のマスタリング・編集は、米ソニーからSonomaワークステーションというPCソフト・システムが開発されました。当時のそのへんの情景についてはImpressの記事が詳しいです。
この「A/DコンバーターとPCワークステーションのパッケージ」を世界各地の一流スタジオに販売・貸し出しすることで、「DSD録音」ワークフローを提供したわけです。
そして、Sonomaワークステーションで仕上がったDSD生ファイルを編集して、SACDに仕上げる「オーサリング」という作業を一括して任されていたのが、当時米ソニーから独立したSuper Audio Center社です。
ソニー・フィリップスのSACDアルバム以外にも、たとえばSACD初期を知っている人なら懐かしいTelarcやRCA Living Stereoなどから、Analogue Productionsなど現在まで続く最新録音に至るまで、多くのタイトルがSuper Audio Centerのノウハウを通してSACDとして店頭に並びました。それらは今でも高音質の推薦盤として広く愛されています。
SACD登場の1999年から2003年頃までは、Sonoma+Meitner EMMLabsというコンビネーションの独占状態だったのですが、その後イギリスのSADiEやヨーロッパのMerging Pyramixなど、DSDファイルを扱えるワークステーションソフトが現れ、dCSやPrism SoundなどからDSD録音ができるA/Dコンバーターも続々登場しました。また、PCMも384kHzなど超高レートで録音できるようになったので、そこからDSD変換しても音質劣化はほぼ無い、というレベルになってきました。
そんな中で、DSDを普及させるという役目を終えて、一段落付いたSuper Audio Centerだったのですが、最近「ハイレゾダウンロード」や「DSD対応DAC」登場のおかげでDSDブームが再燃しはじめました。
Sonoma Model One |
ところで、そんなスタジオでのSonomaの歴史と、今回のModel Oneヘッドホンにどんな関係があるのか、ただ単にSonomaというブランド名を借りているだけではないのか、と疑ってしまうかもしれませんが、そこで雑誌などで毎回名前が出てくるのがGus Skinas氏です。
ガス氏は、1980年代デジタル録音初期からソニーと共にデジタル化ワークフロー普及に尽力した人物で、その後DSDフォーマットの立ち上げに起用され、Sonomaワークステーションの第一人者となり、自らSuper Audio Centerとして独立してから現在に至るまで、時代ごとの高音質録音をリアルタイムで先導してきました。
Sonoma AcousticsのModel Oneヘッドホンにおいて、ガス氏がプロ・オーディオ部門の主任としてスタジオの経験と耳を活かしたサウンドチューニングの追い込みを担当しており、発売後はSonoma Acousticsの顔として世界中のイベントを飛び回り、ユーザーの意見に耳を傾けています。
私自身もつい最近イベントにてガス氏と直接お話させてもらうことができたのですが、Model Oneについては、自分達が慣れ親しんだスタジオモニター(スピーカー)環境を完璧に再現することを第一に置いたということです。特定のデモソングなどではなく、過去に何百何千という音楽に関わってきた耳だからこそ、その感覚には信頼がおけます。
また、冗談を交えて、Model Oneの次のロードマップは決まっているのか、と聞いたところ、やはりスタジオ機器の次世代化も頑張りたいそうです。つまり、ガス氏自身はあくまでクリエーター側の目線で、今回Model Oneヘッドホンを通じて、業界全体に高音質録音の理解を広めたいというように思えました。
CDを超える高音質メディアの生みの親とも言うべきSonomaから、今ここであえて、その名を関した再生システムが登場するというのも、なんだか時代がようやく一周して追いついたかのような気持ちです。
音質とか
今回の試聴には、Macbook AirのJRiverとAudirvanaソフトからUSB接続で行いました。
アナログ入力よりもUSBのほうがメーカーが意図しているサウンドに近づけると思います。
RCA Victor Living Stereoから1955年のハイフェッツによるブラームス・ヴァイオリン協奏曲を聴いてみました。2017年Analogue ProductionsによるDSDダウンロード版です。
Living Stereoといえば2005年頃にはSterling Soundによる一連のSACDシリーズがあり、それらも素晴らしいのですが、今回Analogue Productions版は時代の進歩もあり、より聴きやすいアナログ風な仕上がりになっています。
アナログ入力よりもUSBのほうがメーカーが意図しているサウンドに近づけると思います。
RCA Victor Living Stereoから1955年のハイフェッツによるブラームス・ヴァイオリン協奏曲を聴いてみました。2017年Analogue ProductionsによるDSDダウンロード版です。
Living Stereoといえば2005年頃にはSterling Soundによる一連のSACDシリーズがあり、それらも素晴らしいのですが、今回Analogue Productions版は時代の進歩もあり、より聴きやすいアナログ風な仕上がりになっています。
Model Oneを装着して音を出した瞬間の第一印象は、「すごく普通で地味なサウンドだな」でした。いわゆる開放型ヘッドホンらしい繊細で音抜けの良いサウンドです。
直感で「地味だ」と思ったのですが、そのイメージは何時間聴き続けても変わらず、そのうち、「ヘッドホンを聴いている」といった感覚すら無くなり、音楽の情報そのものをヘッドホンを介さず直接目の当たりにしているような気分でした。
このModel Oneのサウンドを表現するには、「無個性」とか「シンプル」とか、色々な言葉が思い浮かびますが、ただし「退屈」とか「つまらない」は全く当てはまりません。
近頃、たくさんの高級ヘッドホンを聴き慣れた耳からすると、Model Oneはようやく原点に戻ったような、着飾らない正しさみたいなものが感じとれます。カッチリした装着感もそういう気持ちにさせるのかもしれませんが、ひさびさに聴いた、真面目なヘッドホンだな、という印象を受けました。
他のヘッドホンが不真面目だというつもりは無いのですが、どのメーカーであっても、値段を問わず、なんとか独自の個性を見出そうと努力しているようには思えます。一方Model Oneはそんな素振りすら見せず、意図的にヘッドホンのクセを排除し、どのようなジャンルの、どのような録音でも必ず的確に再現できる、究極の無個性さを目指しているかのようです。
これはまさにスタジオモニタースピーカーに要求される特性だと思います。完全開放型で遮音性が全く無いことも、マスタリングスタジオっぽさを強調しています。
試聴したブラームスでは、導入部のオーケストラの定位はリスナーの前方数メートル先にビシッと横一直線に整然と展開されており、作為的な奥行きや立体音響の演出は一切ありません。スーパーマーケットの商品棚のように、必要な情報がすべて前方一面ズラッと陳列して、必要であればすぐに手が届くような、明快な分析力があります。
特定の楽器が過度に目立ったり、グッと迫ってくることが無いので、付かず離れずの距離感がずっと続きます。
オケの導入が一段落ついて、主役のハイフェッツが登場すると、今度こそはヴァイオリンの高音が堂々披露されるかと思いきや、これも同じような距離感と整然さで演奏されます。
これがもし並大抵のヘッドホンであれば、サウンド全体がベタッと平面的になってしまい退屈に感じるのですが、Model Oneはそうならないところが凄いです。ハイフェッツのヴァイオリンはたとえ遠くてもオーケストラの渦に飲み込まれず、立ち位置にピタッと定まり、あとは自分の耳をそこに向けるだけで、彼のヴァイオリンだけに確実に集中できます。
「ヘッドホンが何を聴かせたいか」ではなく「リスナーが何を聴きたいか」で、それをちゃんと聴き分けられるような性能を秘めています。なんだか高性能カメラのオートフォーカスのように、複雑な構図の中でも狙ったポイントをしっかり捉えてくれます。逆に言えば、とくに何も意識して聴こうとしなければ、ただ平凡で個性の無い地味なサウンドのように思えてしまいます。
STAXセットと比較してみました |
せっかくの静電型ヘッドホンなので、STAX SRS-5100(SR-L500とSRM-353Xのセット)と聴き比べてみました。このセットは15万円くらいなので、さらにUSB DACを追加したとしても、Sonoma Model Oneの75万円とは大きな差があります。
STAX最上位のSR-009とSRM-T8000のセットでおよそ100万円なので、そっちと比較してみるべきかもしれませんが、近場に試聴機が無かったのと、現行STAXらしい定番サウンドということでSRS-5100セットを選んでみました。
値段相応なのか、Model Oneの方が明らかに情報量が多く、演奏の細かなディテールもこぼさず聴き分けられることに感心しましたが、それ以上に、同じ静電型というジャンルでも音色の表現にここまで大きな差があることに驚きました。
STAXというと、繊細でサラサラした軽いヘッドホンといったイメージがあったのですが、Model Oneと比べてみると、STAXはむしろ一般的なダイナミック型ヘッドホンにかなり寄せた暖かいサウンドのように聴こえます。「あれ?これって普通に良い開放型ヘッドホンじゃないか」という親近感とガッカリ感(もっと奇抜なサウンドを期待していたので)でした。とくに昔のSTAXと比べると、現行STAX L300・L500・L700世代はかなり万人受けするような、たとえばHD800とかに近いチューニングになっています。
そんなSTAXの音色と比較すると、Model Oneは実直でカッチリした無駄のないサウンドです。どちらも同じくらい高音は出ていますが、STAXのほうが艶っぽく綺麗に滲むような「美音」で、Model Oneは弓の掠れから録音マイクの揺れまで聴こえそうな分析系の表現です。
どちらも静電型らしい繊細なサウンドを披露してくれるのですが、音像のプレゼンテーションを比べてみても、STAXの方がリスナー前方にコンサートホールが浮かび上がるような奥行き、距離感、臨場感を再現してくれるので、世界観の作り込みが上手です。逆にModel Oneはまるで1955年当時のスタジオブースで、窓ガラス越しにハイフェッツを見ながら、テープレコーダーが回っている現場をそのまま再現しているかのようです。
ジャズの新譜で、Wadada Leo Smith「America's National Parks」を44.1kHz/16bitで聴いてみました。CD二枚組の大作で、あまり名の知れていないベテラントランペット奏者による自作品集です。
普段はあまり聴かないジャンルなのですが、米ダウンビート誌で2017年度の「最優秀アーティスト」「最優秀トランペット奏者」「最優秀アルバム」を同時受賞したので、そこまで言うなら、と気になって買ってみたら、なかなか良かったです。
バンド構成はジャズのくくりですが、アメリカの自然や社会を写実的に描いた風景描写のような作品で、ECMっぽい音数の少ないアンビエントっぽさもあります。国立公園の意義や神秘性を楽器の力で表現しており、メシアンの「渓谷から星たちへ」とかを連想するような、スケールの大きいテーマを、オーケストラなどではなく、シンプルなジャズバンドで体現しきっています。
そんなアルバムを聴きながら、そもそもModel Oneが「静電型」であるメリットはなんなのか、と考えてみたのですが、やはり様々な観点からダイナミック型や平面駆動型ヘッドホンでは真似出来ない特徴が思い浮かびます。
「静電型らしい」と一番強く感じたのは、まず、音量の強弱に関わらず、音色や定位の表現にバラつきが無いという点です。この「バラつき」がヘッドホン特有のクセや個性と認識されるので、逆にModel Oneは無個性だと思えてしまいます。
一般的なダイナミックドライバーの場合、音圧や帯域を充実させるためにドライバーをゴツくすればするほど、微小信号での動きが怪しくなり、音量の大小によって、音色の豊かさ、倍音の乗り方が変わってしまったりします。逆に高レスポンスで軽快なドライバーでは十分な空気の押し出しが得られず、いくら音量を上げても軽薄で歪みやすくなります。
Model Oneでは、小さな音から大きな音まで、全てが同じ平面上で鳴っており、そこから刻一刻と音の粒が生まれているかのような感覚です。つまり、音楽を聴いていると、「次にどの楽器の音が、どこから鳴るのか」という脳内予測にピッタリ追従してくれるので、細部の情報を分析しやすく、内容がじっくり把握できます。単なる解像度だけでなく、これが「見通しが良い」ということなのでしょう。
試聴で使ったジャズのアルバムは、無音状態からシャラシャラとせせらぎのような小さな音が鳴ったり、いきなりドシャンと大音量が発せられたり、表現の幅が広いです。普段のヘッドホンであれば、それらの全貌を掴みきれず、ある程度聴いていると疲れて「もういいや」となってしまうのですが、Model Oneで聴けば、音楽の展開が手に取るようにわかり、「なるほどそういうことか」とじっくり噛み締めながら味わえます。逆にもうちょっと過激なパンチや派手さが欲しい時もあり、その場合は他のヘッドホンを使ったほうが良いです。
このアルバムでは要所にウッドベースのソロがあるため、低音の表現力が重要です。とくに静電型ドライバーというと「低音が薄っぺらい」という先入観を持っている人が多いかもしれませんが、Model Oneは予想以上に力強く鳴ってくれました。しかも、低音がモコモコと膨れ上がるのではなく、大きな振動膜から直接鳴っている感覚がはっきりとわかります。
もしかすると片面バイアスの「HPELドライバー」だからこそ実現できる芸当なのかもしれません。それと比べると、一般的なダイナミック型では、まず音が鳴って、響いて、それが耳に届く、という三段階を経ているような冗長さすらあります。なかなか拙い言葉では表現できないので、ぜひ聴き比べて納得してもらいたいです。
もう一つ特徴的なポイントは、低音が特別扱いされず、中域や高域の音色と全く同じ定位と距離感を維持していることです。このアルバムではジャズには珍しくチェロが参加しており、重要な役割を演じているのですが、チェロというのは甘い中域から深い重低音まで広い帯域を持っているため、オーディオで上手に表現しづらい楽器です。
Model Oneで聴くと、チェロはしっかり一つの楽器として「メロディライン、激しい効果音、持続(ペダル)低音」という三つの役目を演じきっており、安定した音像のおかげで「チェロが今何をやっているのか」という情報を瞬時に把握できます。
そういえばModel Oneはデジタル信号処理(DSP)を使っていることを思い出しました。ハウジング音響に依存せず、DSPを駆使することで、素直な低音レスポンスを維持できているのかも、なんて勝手に想像します。
DSPと言えば、以前Devialetアンプとソナスファベール・スピーカーを聴いた時の事を思い出します。Devialetといえば、スピーカー・アクティブ・マッチング(SAM)といって、著名なスピーカーを社内で測定してアンプにそのデータを登録しておき、そのスピーカー特有のクセをDSPで修正してくれる、というシステムです。(現在進行形で700以上の有名スピーカーをデータベース化しています)。
そんなDevialetの場合、リスニング中にDSPをON・OFFで聴き比べることができるのですが、特に劇的に変化するのが、低音の安定感でした。DSP ONにすると、低音がスッと引き締まり、同じ量感でありながら定位がピタッと定まり、楽器としての実体感が増します。OFFにすると一気に緩んで部屋の四方八方に響き渡る、普段慣れ親しんだスピーカーっぽい低音に戻りました。
この手法については賛否両論あると思いますが、肝心なのは、たかがDSPを通すだけで、周波数バランスのみでなく、ここまで高級スピーカーの空間展開が変わってしまうのかと驚いたわけです。
DSPといってもやっている事はメーカーごとに多種多様ですし、Model Oneの場合DSPはOFFにできませんが、この低音の鳴り方はDSP込みでの設計だからこそ実現できたように思えました。
そんなModel Oneのサウンドをひとまとめに考えてみると、行き着くところは、冒頭で言ったような「すごく普通で地味なサウンド」という事です。「普通で地味」を突き詰めれば、ここまで録音と自分のあいだに隔たりが無い体験ができるのか、とつくづく感心しました。
もちろん完璧なサウンドというつもりはありませんし、マッタリ美音や派手な刺激を味わいたければ他に良いヘッドホン候補は思い浮かびますが、Model Oneはモニタースピーカーの代用として本来の姿に忠実であり、しかもかなり高い次元でそれを実現できていると思います。
おわりに
さすがにここまで高価な商品だと、購入はもちろんのこと、試聴ですら気分が遠のいてしまいます。しかし、メーカーいわく、近頃の高級ヘッドホン、ヘッドホンアンプ、USB DAC、さらにはケーブル類などをバラバラ個別で購入することを考えれば、Model Oneの75万円(現在の実売68万円くらい?)というのも、そこまで高くないのかもしれません。
さらに、オーディオマニアというのは、「あれを変えたら、これを変え」アップグレード・スパイラルに陥りやすいので、Sonoma Model Oneを買えば、悩む気苦労から解放される、ということも健全だと思います。
ただし、私のようなガジェットマニアの場合、そんな気苦労が好きで、様々な新製品を買って楽しむ事自体が趣味みたいなものなので、すでにあるシステムの一部を買い換えるならまだしも、それらを全てリセットして一本に絞る覚悟はできません。
そんな風に考えを巡らせていると、やはりSonoma Model Oneは、トレンドとは全く干渉しない、プロフェッショナル気質の存在なんだな、という説得力を感じました。
今でこそヘッドホンブームの最中ですが、長い目で見れば、銘機と言われて世代を超えて認められているオーディオ機器というのは、ほんの一握りでしかありません。
JBLスピーカー、EMTアナログプレーヤー、Studer CDプレーヤー、なんて、世界のビンテージオーディオマニアが血眼で探し回っているオーディオ機器というと、プロフェッショナル機の割合が非常に高いです。(マニアお宅訪問なんて雑誌企画があれば、大抵そんなのが堂々陳列されてます)。
プロ機の方が頑丈で修理しやすい、という点もあるのでしょうけれど、それとは別に、サウンドそのものにも、時代の流れに翻弄されず、常にファンを魅了する誠実さや正しさがあるのかもしれません。Model Oneが名を残す銘機かどうかはまだわかりませんが、今回試聴してみて、それらと共通するような丁寧で実直なサウンドを披露してくれました。
Sonoma Acoustics社には、もちろん今後さらに発展・進化してくれる事を望んでいますが、Model Oneヘッドホンに至っては、これ以上手を加えては絶妙なバランスが一気に崩壊してしまいそうな、まるで水晶の彫刻のような高い完成度を誇っています。