2018年1月5日金曜日

2017年 個人的に気に入った最新イヤホン・ヘッドホン・アンプとかのまとめ(前半)

例年のごとく正月休みはヒマなので、2017年に登場した新作イヤホン・ヘッドホンで、個人的に気になったモデルとかを振り返ってみようと思いました。

今年もいろいろ試聴しました

一年を通して様々な新製品を試聴しましたが、2017年はワイヤレス式がメインストリームに台頭したことで、オーディオマニアが好む有線タイプのヘッドホンはむしろ少数で先鋭化され、高価なハイエンドモデルが続々登場した印象があります。

それでも多くのメーカーが新技術を導入して、数千円の安いものから数十万円の高級機まで、素晴らしいサウンドのニューモデルが豊富で、満足な一年でした。


ワイヤレス

2017年はとくにBluetoothワイヤレスイヤホンが活発な一年でした。iPhoneの3.5mm端子廃止からはじまり、純正イヤホンAirPodsが定着し、そこから怒涛のごとく新たなマーケットが展開された流れです。

完成度が高く、音も意外と良いApple AirPods

とくに、AirPodsのように左右のケーブルを排除した完全ワイヤレス型のイヤホンが続々登場し、世間一般のスマホユーザーにとって新たな物欲のトレンドになりました。ワイヤレスと言えばこれまでスポーツや通信用に特化したような地味なモデルばかりだったところ、価格も下がり、ファッショナブルで魅力的なデザインのものが増えてきました。

初代カセットウォークマンの時代から、四半世紀ケーブルに束縛されていたポータブルイヤホンにとって、完全ワイヤレスというのは画期的なブレイクスルーです。まだまだ過渡期なので再生時間やペアリングの安定具合、左右間の通信ドロップアウトなど、コンパクトならではの課題が多いですが、もう十分実用的な部類だと思います。

ハードケースが充電池を兼ねるというアイデアも、これまで「断線・故障・紛失が怖いから、高価なイヤホンは買いたくない」という一般ユーザーの懸念を一気に解消出来る、よく考えてみると凄いアイデアです。

ソニーWF-1000X

中でもソニーはさすがにこういうのが得意なので、小さなサイズの中にアクティブノイズキャンセリングを搭載したWF-1000Xを8月に発売し、他社の目指すべき指標になっています。値段も23,000円とオーディオマニアでなくても納得できるリーズナブルさです。正直値段を聞いて「想像より全然安いな」と思いました。発売当初は通信の不安定さなどが指摘されましたが、ファームウェアアップデートで対策が進んでいるのも好感度が持てます。

B&O E8

B&O Beoplay 「E8」はノイズキャンセルは非搭載ですが、カッコいいデザインと中域重視の力強いサウンドで、個人的にとくに気に入ったモデルです。値段はソニーよりも1万円高いので、その差を音質とデザインで許容できるかで意見は分かれると思います。

JBL Free

他にも2万円を切るJBL 「Free」など、同様のデザインで安いモデルは続々登場しています。完全ワイヤレスの基礎技術もどんどん安くなり、安定性や再生時間も進化していくのは必然でしょう。今は、どれだけ経験を積んで、メーカーとしての信頼性と、定番になるような死角のないモデルを開発できるかという努力を見せる時期です。

Shure SE215 Wireless

完全ワイヤレス以外でもBluetoothイヤホンは充実しており、とくにShure 「SE215 Wireless」など、ケーブル着脱可能な既存のイヤホンにBluetoothケーブルを同梱したパッケージも好評を得ています。元々サウンドに定評があるベストセラーなので、これを機に購入するきっかけになった人も多いと思います。

標準ケーブル版が1万円で、ワイヤレス版が17,000円とそれなりの差はありますが、Bluetoothケーブルを他のMMCXイヤホンにも流用できるためお買い得感があります。Bluetoothケーブルのみを単品販売して、既存のイヤホンをBluetooth化するという方式も豊富に登場しています。

ゼンハイザーMomentum In-Ear Wireless / Free

ゼンハイザーの場合は交換ケーブルではなく、主力モデルであるMomentum In-Earイヤホンのワイヤレスバージョンを発売しました。7月にはネックバンド式で10時間の長時間再生&NFC搭載の「Momentum In-Ear Wireless」、11月には左右連結リモコンケーブルのみで6時間再生の「Momentum Free」と続けてリリースしています。

どちらも2万円台なので、とりわけスマホやタブレットなど、カジュアルになんでも使えるワイヤレスイヤホンとして手堅いモデルです。

BOSE QC35 II

Bluetoothワイヤレスの人気具合を現すもうひとつのジャンルが大型ヘッドホンです。これは2016年にBOSEが発売したQC35の貢献がとても大きいと思います。軽量快適な装着感・20時間再生・NFCペアリング・専用アプリによるコントロール・圧倒的なノイズキャンセル性能など、このジャンルのお手本ともいうべき先駆者で、4万円近い値段でありながら口コミで売れ続けている傑作です。2017年はGoogleアシスタントに対応した「QC35 II」にアップデートされました。

一時期、通勤電車や空港でどこを見てもヘッドホンといえばQC35、という感じだったのですが、それが最近になって他のメーカーも見るようになってきました。QC35のヒットのおかげでネットニュースレビューなどが増えたことで、ジャンル全体が牽引され、選択肢の視野が広がってきたように思えます。

ソニーWH-1000XM2

とくに2016年発売のソニーMDR-1000Xは、2017年に「WH-1000XM2」に改名され、スマホユーザーを中心に好調な売れ行きを見せています。価格はBOSEよりも若干安く、よりハイレゾ感のある音楽重視のチューニングなので、どちらを買うか悩んでいる人も多いでしょう。

これまでのソニーNCヘッドホンと比べると、NC ONの状態でも圧迫感や息苦しさが軽減され、デジタルNCもここまで来たかと感心しました。イヤホンWF-1000Xとの二段構えのラインナップも、どちらか買えばもう片方も欲しくなるような、上手な戦略だと思います。

B&W PX

もうひとつ、アクティブノイズキャンセリング搭載Bluetoothヘッドホンで良かったのはBowers & Wilkins 「PX」です。機能的にはソニーやBOSEと似ていますが、価格は5万円台とひときわ高価で、それに見合った高級デザインや、NCヘッドホンでは珍しい、しっかりした骨太のサウンドが素晴らしいです。

これらはのモデルは専用アプリによるカスタマイズや音質調整が豊富なことでスマホとの親和性を強調していますが、逆に使いこなすのがちょっと難しく、スマホが無いと変更できない設定なども多いので、たとえば店頭試聴などでは評価しにくい部分もあります。

そういえば、ワイヤレスNCが主流になったことで、有線ノイズキャンセリングイヤホンの新作を見なくなったのがちょっと悲しいです。私は未だにソニーMDR-EX750NCを使っているので、もうちょっと高くてもいいので、さらに優れた有線NCイヤホンが欲しいです。

Skullcandy Crusher Wireless

ノイズキャンセリングは非搭載ですが、ネタ的に一番面白かったのがSkullcandy 「Crusher Wireless」です。メリハリのあるエネルギッシュなサウンドはともかくとして、アクティブ低音ブースト機構が「ものすごい」です。専用の低音ドライバーが設けてある2WAY設計なので、他社の低音重視ヘッドホンとは次元が違います。

普段使うようなものでもありませんが、映画鑑賞とかで使っては衝撃を受けています。このあいだオーディオイベントに私が持参して一番好評だったのがこのCrusher Wirelessでした。みんなで使い回してトランスミュージックを聴いて、ゲラゲラ笑って良い体験になりました。笑みの生まれるヘッドホンというのは良いもので、つられてネタで買った友人も数人います。

ちなみにSkullcandyはGrind Wirelessなど数千円台の安価なワイヤレスヘッドホンが結構良いので、オーディオマニアじゃない家族や友人へのプレゼントとか、あまりオタクっぽく無いものとしてオススメです。


2017年のイヤホン・ヘッドホン全体の売上で、有線とBluetoothワイヤレスの比率はどれくらいになったのでしょうか。価格差もほとんどなくなりましたし、ワイヤレスの方が売れてるのかもしれません。

やはりiPhoneのもたらす経済効果というのは凄いものがあり、音楽やオーディオにこれまで縁が無かった人も、iPhone 7以降は(AirPodsでさえ2万円くらいするので)、3-5万円のプレミアワイヤレスヘッドホンに興味津々ということになり、ネットニュースやガジェットブログにおけるヘッドホンオーディオの割合がずいぶん増えました。

スマホユーザーの多くがワイヤレス化目的で新調することで、これまでの1,000円イヤホンを卒業して、「良いヘッドホンはやっぱり音質が良い」という事を実感してもらえる絶好の機会だと思います。

そして本格的なハイエンドヘッドホンに買い換えるべき、という事ではなく、ストリーミングでもなんでも、良い音で音楽を鑑賞するという娯楽(つまりBGMではなく、アルバムを通して聴くとか)を実践してくれればと思っています。


Bluetoothはイヤホン受信機内のDACアンプ回路でドライバーを鳴らすという仕組みのため、原理的に音作りの幅が広いというメリットがあります。単体では音質にクセがあるイヤホンであっても、Bluetooth回路内のDSPで(ユーザーが意識することなく)それらを補正する事が可能ですし、スマホアプリからアップデートで音を変えることも可能です。無限の可能性を秘めていますが、ユーザー側から見ると、まだまだ市場が熟れていないミステリアスなハイテクガジェットの世界です。

この機に一攫千金を狙うスタートアップ企業も増えて、ネットニュースのステマレビューとかも圧倒的に増えたように思います。イヤホンに限らず、純粋に開発能力が不足して破綻するケースや、デザインコンセプトのみで投資家の出資を募り雲隠れするベンチャー企業なんかも、世界的な社会問題になってきています。悪意があるとは限らず、現実が見えておらず技術的に問題あり、というケースが多いようです。

定評のある名門ブランドが必ずしも優れているとは限りませんが、これまで以上に互換性テストや不具合対策などを徹底して、ユーザーが安心して使えるような信頼性と使いやすさを兼ね備えていることが期待されます。

            

平面駆動型

2017年のオーディオマニア向け新製品を振り返ってみると、とくに平面駆動型ヘッドホンの新作が多かった印象があります。なにか革新的な技術進歩があったというわけでもないのですが、各方面から良さげなモデルが続々登場した一年でした。

平面駆動ではない、つまり通常のダイナミック型ヘッドホンの新製品数とくらべてみると、その数の多さに驚かされます。

値段の相場は、大型ヘッドホンともなると20万円以上が当たり前という感覚なので、これまでそこそこ良いダイナミック型ヘッドホンを買って愛用してきた人が、そろそろアップグレードの時期だなという頃に、そこに平面駆動型があてはまるという流れかもしれません。

また、このタイプのヘッドホンは海外メーカーが多いのですが、好調なヘッドホン市場のおかげで、日本でも輸入代理店が積極的にとりあげるようになってきた、ということもあります。高い買い物ですし、品質管理が乏しいガレージメーカーも少なくないので、並行輸入ではなく国内保証や日本語のサポートが受けられることは大事です。

技術面では、平面駆動といってもメーカーごとに片面か両面駆動か(振動膜を磁石やバイアス版で前後を挟むか、片面のみか)それぞれの利点についてマニアが罵り合っているようですが、私はどっちでもあまり気にしていません。

Audeze iSINE20

まず私自身が買ったものというと、1月発売のAudeze 「iSINE」があります。米国Audezeのヘッドホン技術を小型軽量なイヤホンサイズに仕上げたモデルで、その一つ前のAudeze 「SINE」コンパクトヘッドホンの技術をさらに突き進めた感じです。7万円のiSINE10と、より高性能な(とくに高域が出る)10万円のiSINE20を同時発売しましたが、私は後者を買いました。

装着感や実用性といった点で人を選ぶモデルですが、開放的で繊細なリニアーサウンドは特に空間表現が上手です。iPhone用Lightningケーブルも付属していますが、私は普通のアナログケーブルでDAPで鳴らしています。ちなみにケーブルは2ピン端子なので社外品に交換しました。数日の出張とかで、大きなヘッドホンを持っていく余裕もない、という時とかに重宝しています。

Audeze LCDi4

7月には上位機種でドライバーやハウジングをさらに高性能化させた「LCDi4」が登場しましたが、30万円近い価格と、中低域重視の厚いサウンドは私には合いませんでした。iSINE同様ケーブルの個性が強い感じだったので、購入を検討している人はケーブルを変えてみることもお薦めします。

Audeze LCD-MX4

さらに12月には、Audeze大型ヘッドホンLCD4の新作「LCD-MX4」が登場しました。日本での価格は42万円くらいだと思います。LCD4は56万円ですが、この新型はスタジオモニターっぽくアレンジしたということで、豪華なウッドハウジングやクロムハーツなどを排除して軽量化を果たし、駆動能率も上げたそうです。軽量化といっても660gが440gになったので、まだまだ重いです。

このLCD-MX4は試聴してみたらかなり良くて、LCDシリーズで初めてといっていいくらい気に入ったのですが、たぶんモニター系ということで、私好みのダイナミック型ヘッドホンに寄せたチューニングだからだと思います。つまりLCDファンは敬遠すべきで、LCDに興味が無かった人ほど聴くべきだと思います。もちろん高価すぎて買ってません。

Unique Melody ME1

平面駆動イヤホンはAudeze iSINE一択かと思っていたところ、12月にはUnique Melodyから「ME1」というモデルが12万円で登場しました。iSINEは「イヤホン」というには無理があるサイズでしたが、ME1はマルチBA型IEMイヤホンと同じくらいです。残念ながらまだ試聴していないのでなんとも言えないのですが、Unique Melodyは好きなメーカーなので気になっています。

HIFIMAN SUSVARA

平面駆動といえばHIFIMANですが、今年は5月に「SUSVARA」という凄いモデルを投入してきました。フルサイズヘッドホンで、価格はなんと70万円です。HIFIMANはそれ以上に高価な「Shangri-La」という600万円のモデルもありますが、あれはDACアンプとセットの、いわゆる「ステートメントモデル」というイメージなので、SUSVARAが実質的なトップモデルのように思います。

何度か試聴した事があるのですが、ちょっと高価すぎてブログで紹介する気になりませんでした。サウンドは凄いことは確かです。好評だった旧モデルHE-6の系統を汲むということで、まろやかでツヤツヤした芳醇なサウンドです。これまでのトップモデルHE1000よりも私自身はこっちのほうが断然好きです。

私は現在HiFiMANのミドルクラスモデルHE-560を気にって使っているのですが、もうちょっとHE-6やSUSVARAにあるようなツヤや厚みが欲しいので、今後このSUSVARAの廉価版とか出してくれたら興味を持ちそうです。

Sonoma Model One

同じく5月には、厳密には静電型ですが、平面ドライバーのSonoma Acoustics 「Model One」が登場しました。奇しくもSUSVARAと同様に70万円クラスですが、こちらは静電型ということで専用の昇圧アンプとセットで、USB DACも内蔵なので、お買い得に思えてしまいます。HD800をさらに突き詰めたような、かなりストイックでモニター調に寄せたプロフェッショナルなサウンドですが、こういうのを求めていたという人も多いと思います。ニアフィールドのアクティブモニタースピーカーとかが好きな人はハマるかもしれません。

STAX SRM-T8000

静電型の代名詞STAXは今年は新作ヘッドホンは無かったのですが、その代わりに、ようやく待望のフラッグシップアンプ「SRM-T8000」が60万円くらいで登場しました。それまでSTAX SR-007や009など上級ヘッドホンに合わせるアンプとなると、純正品よりも海外ガレージメーカーなどの超弩級モデルに王座を明け渡していたので、今回の純正フラッグシップアンプには意義があります。とは言ってもすんなり認められるわけではなく、口うるさいSTAXファンの激しい論争が起こることは確実だと思います。

MrSpeakers AEON FLOW

平面駆動型に話を戻すと、MrSpeakersからは低価格モデル「AEON FLOW」が登場しました。同じモデルで7月に密閉型、11月に開放型と二種類が発売されたのがユニークです。サウンドはそれぞれ異なりますが、ドライなモニター調の中にふわっとした暖かさがある独特のチューニングです。知る人ぞ知るみたいな風貌も良いです。低価格と言っても10万円ですが、昨年登場した同社主力モデルETHER FLOWが26万円なので、平面駆動の中では安いということでしょう。10万となると多方面でライバルが多い価格帯ですが、よく健闘していると思います。

Fostex T60rp

平面駆動型の元祖火付け役と言える日本のフォステクスは、2017年はあまり大きな動きはありませんでしたが、年末にはT50rpのウッドハウジング版「T60rp」が34,000円で登場しました。残念ながらまだ聴いていませんが、好評なようです。

平面駆動だと数年前のTH500RPは現在の上級モデルと肩を並べるには中途半端な存在なので、そろそろTH900を凌駕するような凄い平面駆動ヘッドホンを出してくれませんかね。

Final D8000

12月にはFinalから「D8000」が登場しました。国産メーカーFinalはダイナミック型のSonorousシリーズで定評がありますが、今回初の平面駆動型で40万円のフラッグシップということで気合が入っています。残念ながらまだ製品版は試聴しておらず、はやく聴いてみたいのですが、以前イベントなどで聴いた試作機はかなりバランスがとれた丁寧な音色でした。


平面駆動型についてちょっとコメントさせてもらうと、あくまで個人的な感想ですが、このタイプのヘッドホンというのは、総じて超低音から超高音まで周波数帯域のカバー率は圧倒的で、歪み無くすべての音を再生するという基本的な部分は凄いのですが、楽器の音色や芳醇さ、ダイナミクスの押し出しの力強さといった抽象的な要素がまだ不十分だと感じることが多いです。

20万円以上するような高級モデルで、しかもポータブルでは鳴らせないくらい低能率な設計で、ようやくそういった音色の美しさが実現するような感じです。つまり低価格もしくはスマホで鳴らせるような高効率を目指すと(導通パターンが重く厚くなる、口径が小さくなる、など)妥協される部分が多く、それをどうにかハウジング音響のモコモコでカバーしているモデルになりがちです。

それだったら、あえて平面駆動じゃなくても、たとえばソニーのように70mm超大型ダイナミックドライバーで十分「平面的」に音が出せるという判断もあります。つまり2017年はおよそ20万円くらいが境界線だというのが私の感想です。

ダイナミック型ヘッドホンで20万円以上だと、平面駆動と対抗するようなサウンドを要求される困難がありますし、20万円以下で平面駆動型ヘッドホンだと、妥協せざるえない部分をどう隠すかでクセが生まれてしまうようです。もちろん20万円以上なら平面駆動が絶対に良いという意味ではありません。

      

大型ヘッドホン

ダイナミック型の大型ヘッドホンは、2017年は新製品の数でいうと不作の一年でした。しかし出てきたモデルの中には良いものが多かったです。

過去の銘機がすでにユーザーの支持を得ているため、それらを凌駕するようなリニューアルはなかなか難しいのでしょうか。大手メーカー勢はどこも現状維持で、ラインナップにあまり目立った変化はありませんでした。

Beyerdynamic AMIRON HOME

とくに個人的に支持しているドイツのベイヤーダイナミックは、1月に「AMIRON HOME」を出して以来、音沙汰がありませんでした。私は2016年に買ったDT1770・DT1990に満足していますし、そんな毎年新作を出す必要もないですが、常になにか大きなサプライズを期待しています。

AMIRONは7万円で伝統的なDT880を現代に進化させたようなスムーズで破綻の少ないサウンドで、両出しケーブルでバランス化なども検討できる柔軟性もあります。ただ、すでにトップモデルT1 2nd GenとT5p 2nd Genがそこまで遠くない値段で買えるので、それらに対してAMIRONの位置づけがいまいち把握できませんでした。DT880とT1の中間という意味で7万円は妥当なのかもしれません。

一方同じくドイツのゼンハイザーは2016年にHD800Sを出したので2017年は静かな一年でした。

例外として、700万円という途方もない値段の「HE1」が話題になりました。バカっぽい企画ですが、これを出すことで「世界最高のヘッドホンメーカー」としてブランドを一般人の脳裏に植え付ける事ができたことは、広告塔として大きな役割を果たしたと思います。ヘッドホンに興味のない友人でさえも「あの超高いヘッドホン」としてネットニュース記事を読んでますし、「おまえ買わなかったのか?」なんて冷やかしを言われたりもします。

Sennheiser HD660S IE800S IE80S

年末になって、そろそろ古くなってきたHD650・IE800・IE80イヤホンの後継機「HD660S」「IE800S」「IE80S」が一挙に登場しました。それだけなら順当なフェイスリフトっぽいリリースだったのですが、このタイミングで、ソニーが最近プッシュしている4.4mmバランス端子(通称Pentaconn)を正式採用することになり、大きな話題になりました。同時に出たHDV820アンプも4.4mmを搭載しています。

サウンド自体も旧モデルから若干のアップグレードが図られ、IE80Sはよりクリアに、IE800Sはおとなしめになり(HD660Sは未聴です)、全体的にロングセラーの良さを引き継ぎながら不満点を堅実に修正したという印象です。残念ながら新製品ということで値段は定価の振り出しに戻ってしまいましたので、旧型処分在庫がまだある今なら新旧どちらを買うか悩むタイミングです。

Ultrasone Edition 15 & Signature Studio

ドイツメーカーで、忘れがちで忘れてはならないのがUltrasoneですが、2017年は久々にEditionシリーズの新型「Edition 15」が年末に登場しました。それよりも個人的に興味があるのが、2011年モデルSignature Pro・Signature DJの廉価版「Signature Studio」「Signature DXP」です。どちらも7万円くらいで、12万円の上位モデルから高級レザーやガラスパネルなどのデラックス素材を一般的なものにすることで価格を抑えたそうです。

私自身はSignature Proが大好きで結構頻繁に使っています。SignatureはEditionとは全く違い普通に使えるヘッドホンですし、DJタイプデザインでラフに扱えるくせに高級サウンドというギャップも好きです。個性的なEditionだけ聴いてUltrasoneを敬遠している人はぜひSignatureを試聴してみてください。

過去にはドイツメーカー勢と競合していた隣国オーストリアのAKGですが、2016年に母国工場閉鎖のニュースは悲しかったですが、2017にはさらに親会社ハーマン(つまりAKG、JBL、マークレビンソンなど)まるごと韓国のサムスンに買収されたというニュースがありました。サムスンとしてはオーディオよりもハーマンの持つ車載テクノロジー部門に旨味があったそうです。

今のところAKG上位機種の動きは2016年のK872以降は何もない状態です。ブランド自体が無くなったわけではないですが、録音マイクなどを含めて歴史ある開発拠点とチームを失ったのは大きいので、今後の動きが気になります。サムスンの別チームが開発したイヤホンにAKGのバッジが付くのかもしれません。

余談になりますが、解雇されたAKGオーストリアの管理職や技術者の多くが集結し、Austrian Audioというブランドを立ち上げました。まだ資金集めに奔走しており具体的なプランは見えてきませんが、Redditでこれまでの経緯などをインタビュー形式で話しており、蓄積された伝統と技術を活かしたオーディオブランドを目指すそうです。STAXみたいにどこかのオーディオマニアの大富豪が「口は出さずに金を」出して救済してくれませんかね。

Focal Clear

ヨーロッパ続きでフランスの大手Focalは、2016年に56万円ヘッドホン「Utopia」で度肝を抜かれましたが、同時に出た普及モデル「Elear」の別バージョン「Clear」が10月に登場しました。Elearがちょっと暗く重苦しいサウンドだったため、より高域寄りのクリアなサウンドにしたモデルです。今のところ並行輸入で値段が安定しておらず、日本での代理店が11月に活動を開始したばかりなので、2018年の活躍を期待したいです。価格設定やサウンドチューニング面でも、まだ駆け出しで右往左往している印象があるので、現状でダークホースというか、どう転ぶかよくわからないメーカーです。

Grado PS2000e

ブログでは紹介していませんが、個人的に今とても興味があるのがアメリカGradoの新作「PS2000e」です。34万円(バランス端子版は37万円)とGradoとしても前代未聞の最上級価格なので、まだ私のまわりで買った人がいません。イベントなどで製品版を何度か聴く機会はあったのですが、過去のGradoとは根本的に違う、広大なサウンドステージと繊細な情報量があり(とくにPS1000eで気になった低音のクセが改善され)、「これは本当にGradoなのか」と驚かされる凄い音でした。ハイレゾで交響曲を聴くと素晴らしかったです。

とくにこれまでGradoの大型モデルはGS1000eがちょっと良いかなと思うくらいで、PS1000e、GS2000eとも強調されるクセが強すぎて敬遠していたので、PS2000eのサウンドは、自分ですらにわか信じがたいという変な状況です。

Grado GH2

Gradoの通常モデルは他に変化はありませんが、限定モデルGrado Heritageシリーズの新作「GH2」が出ました。小型モデルのトップRS2e・RS1eをベースに、ハウジングをココボロという美しい材木で仕上げています。5月に試聴して良かったので、その後、年末近くに値段がちょっと安くなったのを見計らって買ってしまいました。


海外メーカーばかりですが、私がとくに海外贔屓というわけでなく、国産メーカーは大型ヘッドホンが本当に静かな一年でした。

Pioneer SE-MONITOR5

5月にはパイオニアからSE-MONITOR5が登場したのはそこそこ興味を惹きました。2016年登場の26万円フラッグシップSE-MASTER1のデザインを継承し、開放型から密閉型になり、よりスタジオユースに適した11万円のモデルです。

サウンドはどの角度から見ても丁寧に仕上げており、密閉型っぽい変な強調のしかたも皆無なので、良いヘッドホンだと思います。逆に言うと地味でインパクトに欠けるので、私としてはすでに持っているフォステクスTH610と被る部分が多く購入していません。大型ヘッドホンを何も持っていないところから何か買うのであれば、SE-MONITOR5はかなり汎用性の高いモデルだと思います。

パイオニアは他にも35,000円のHDJ-X10とかDJヘッドホンでそこそこ良いモデルを出しているので、上手くやればオーディオテクニカATH-M50x並の世界的ベストセラーになりうるポテンシャルはあるのですが、いまいち地味で、売り方が下手なイメージがあります。

Audio Technica ATH-ADX5000

2017年で私が一番凄いと思ったヘッドホンは、オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」です。26万円と高価なので、試聴のみで購入はしていないのですが、今後考え直すかもしれません。

開放型ヘッドホンとしてゼンハイザーHD800などと同じようなサウンドスタイルですが、それ以上に音色が美しくクッキリして、低域を含む全帯域がしっかりしており、とにかく安定感と完成度の高さが尋常ではありません。さらに軽量化を徹底して、たったの270gということで、長時間使用の装着感の良さも素晴らしいです。

ここまで何十万円もするようなヘッドホンばかりでしたが、私が高価なヘッドホンしか興味が無いというわけではなく、単純に2017年に目立った新作が少なかったです。たとえばオーディオテクニカも、2016年末のATH-SR9など以降、目にとまるのはADX5000と限定版ATH-MSR7SEのみでした(これも凄く良い仕上がりでした)。他のメーカーもそんな感じです。

         

イヤホン

ヘッドホンの静けさとは打って変わって、イヤホンの方は新作が大漁な一年でした。

ただし、やはりフットワークの軽い海外モデルがとても多く、国産メーカーから話題になるようなイヤホンは少なかったです。

Dita Dream

私の個人的な2017年ナンバーワンは確実にDita 「Dream」でした。これは本当に凄いイヤホンだと思います。

高域の再現性が非常に高く、不自然な録音は不自然に聴こえてしまいますが、ワンポイントマイク録音とかだと圧倒的にリアルな空気の響きを作り上げます。オーボエやフルートとかの音が圧巻ですし、フルオーケストラの一斉演奏でもダイナミクスが潰れません。20万円近くする高価なイヤホンですが、試聴したら気に入ってしまい悩まず買いました。購入して5ヶ月ほど毎日使っていますが、未だに聴くたびに「凄いイヤホンだ」と感激してしまう、特別な逸品です。

ふと思うのは、Ditaというシンガポールにある小さなプライベートブランドが生み出した、ほとんど手作りのシンプルなイヤホンが、こんなに凄いサウンドなのだから、日本の大手家電メーカーの技術力や製造技術をもってして、どうしてその域に達していないのか、という疑問がわいてきます。

全く同じ音を真似すべきという意味ではなく、過去ダイナミックドライバー単発でここまでのポテンシャルを引き出せたモデルは記憶にありません。Dreamは大企業の大量生産なら半額で作れてもおかしくないと思えるくらい簡素なデザインなので、それだけDitaの芸術的感性が凄いのでしょうか。

残念なのはDreamがハウジングの製造難とかで数百個の限定ロットが完売した後、日本国内ではなかなか手に入りにくくなってしまったことです。幸い廉価版らしき新作イヤホンを開発しているということで、イベントに試作機がありました。Dreamを作った素晴らしいチューニング技術を駆使して、限りなく近いサウンドを低価格で実現してくれることを願っています。

Dita Dreamは凄いですが、突然変異的な(2016年で言うところのCampfire Andromeda的な)存在で、装着感やケーブル取り回しなどは荒削りで完成度が低く、サウンドの衝撃以外では、完璧なデザインとはいえません。

Unique Melody Mavis II

私にとってIEMイヤホンの理想に一番近いのは(五角形グラフでオール5が獲れそうなのは)Unique MelodyのMavisで、2017年は後継機「Mavis II」が登場したので、それに買い換えました。

Mavis II以外にも、Unique Melodyは2016年末のMason IIに続き、2017年はMaverick II、Macbeth II Classicと、ユニバーサルモデルのラインナップをリニューアルし、音質がさらに進化しました。とくに新型は音導管にプラチナメッキ金属管を採用することで、初代モデルよりもアタックの質感やドライバー間のタイミングが正確になっています。

私自身は2BA+2ダイナミックという変則コンビネーションで中低域が豊かなMavis IIが一番好みですが、一般的には上位モデルで4BA+1ダイナミックのMaverick IIの方が高域もよく伸びていて優秀だと思います。

ユニバーサルIEMの中でもひときわ装着感や遮音性が優れており、シェルに音響ベント孔を設けることで開放的で圧迫感の少ないサウンドを実現している、本当にここまで全てが理想に近いイヤホンを設計できるセンスに脱帽します。

JH Audio Roxanne Universal

米国JH Audioからは、2016年にAK Roxanne IIなどAstell & KernコラボモデルThe Siren Seriesの第二世代が一通り出揃ったため、2017年はコラボではないJH Audio独自の新作が多数登場しました。

2月にはマルチBA型の新作「Performance Series」JH13V2・JH16V2・Roxanneの3モデルが登場し、それぞれ8・10・12BAドライバーで13・17・21万円くらいと王道の価格設定です。どれもカスタムIEMに近いプラスチックシェルなので、AKコラボの金属ハウジングよりも高域の硬い響きが少なく、プロフェッショナルモニターとしての確実性が感じられました。もうちょっと響きの派手なサウンドを求めるならAKコラボが魅力的ですが、たとえばShureのようなIEMの系統からアップグレードするなら無印JHがベストな選択肢かもしれません。

JH Audio Lola Hybrid

さらに7月にはハイブリッド型の「Lola Hybrid」が21万円で登場しました。これもハイブリッドと言ってもJHらしいプロBAモニターらしさを主体に、低音をダイナミックドライバーで補うような実直な作り方です。

Campfire Audio Polaris

Campfire Audioは相変わらず5BA型のAndromedaが人気ですが、2016年登場のダイナミック型Vega・Lyra IIも完成度が高く好評です。次世代材料を積極的に取り入れる実験的なデザインがマニアックですし、カラフルでメカっぽいデザインも魅力的です。

2017年はハイブリッド型の新作「Polaris」が登場し、これがかなり良かったです。すでにDoradoというハイブリッド型がありますが、そちらはダイナミックドライバー主体のゆったりとしたサウンドで、一方PolarisはシャープなBAドライバーにしっかりダイナミックドライバーが追従しているような目覚ましいクリアなサウンドです。価格も7万円台と手頃な部類ですが、ハイブリッドとして完成度の高さはこの価格のダイナミックやBA型を選ぶよりも汎用性があり優れた選択肢だと思います。

AZLA

ハイブリッド型では、さらに安価な3万円台で登場したAZLAも凄いイヤホンです。この安さなので思わず買ってしまいました。ダイナミック振動板の中心にBAトライバーを詰め込んだ同軸ドライバーと、二重構造でスピーカーキャビネットのようなハウジングといったユニークな技術を盛り込んでおり、そのサウンドもまさにスピーカー的な立体感溢れる低音が圧巻です。付属ケーブルやケースも上出来で、お買い得感もあります。ただしベストな装着感を得るのが難しく、サウンドが左右されやすいのが唯一の欠点でした。

Beyerdynamic Xelento Remote

ダイナミック型で2017年とくに人気だったのが、ベイヤーダイナミック「Xelento」です。2015年のAstell & KernとのコラボAK T8iEのベイヤー版モデルで、中低音が豊かなT8iEと比べてこちらのほうがベイヤーらしく高域がしっかり伸びて綺麗なサウンドです。ベイヤー自慢の強力なテスラドライバーを搭載しているとは想像できないくらい軽量コンパクトなデザインなので、装着感も安価なイヤホンなみに手軽です。

さらに、本体のサウンドが素直でクセが少ないためか、気になる部分があったとしてもケーブルやイヤーチップを交換することでフィットや音質を色々調整できるため、万能でオススメできるイヤホンです。

私はすでにT8iEを持っているので買いませんでしたが、今どちらかを買うとなると、かなり悩むと思います。

Fender FXA9 & FXA11

マルチBA型で個人的に気になっているのにまだじっくり試聴できていないのがFender 「FXA」シリーズ各種です。2016年に米国ギター名門Fenderが同じく米国Aurisonics社を買収して新設計したラインナップで、音の鳴り方にうるさいミュージシャン達と、オーディオマニアに定評のあった旧Aurisonicsファンの両方を上手に吸収した良い例だと思います。

中でも2017年末にはトップモデルで15万円の「FXA9」と17万円の「FXA11」が登場し、前者は6BA、後者は4BA+14.2mm大口径ダイナミックドライバーという異色のハイブリッドデザインです。特定の手法にこだわらず、モデルごとにダイナミック・マルチBA・ハイブリッドを混在させている技術力の高さや、低音ポートありの3Dプリンターシェルや2ピンケーブルなど、私の好きなUnique Melodyと通じる部分も多く、気になる存在です。FXA11は12月に発売したはずなのに、これを買いている時点で日米公式サイトでまだ情報が無いという変な状況です。

64 AUDIO U18 Tzar & tia Fourte

2017年、とんでもなく高価なイヤホンで注目を集めたのが64 AUDIOの新作「U18 Tzar」と「tia Fourte」の二機種です。前者はマルチBAシリーズのトップとして18BAドライバーという圧倒的な数を搭載しており、価格も同じく圧倒的な37万円です。よくここまで詰め込んだなと驚かされますが、サウンドも納得の超ディテール系です。

一方さらにユニークなのがtia Fourteの方で、たったの4ドライバーですが、メインBAを中心に、音導管内部の極小BA、別チャンバー内に配置した新設計オープンBA、ダイナミックドライバーと、かなり高度な音響設計を行っています。値段も44万円と最高クラスですが、今までのイヤホンの常識を覆すような濃厚で力強いサウンドです。さすがに限られた人しか購入できないと思いますが、現時点で最新のイヤホン設計を体感するためにもぜひ試聴してもらいたいモデルです。

下位モデルもこれからこのtiaシステムを積極的に取り入れた新たなデザインを検討中ということで、2018年以降が楽しみなメーカーです。

Westone UM Pro 30 (2017)

高価過ぎるイヤホンが続く中、7月にはマルチBA型の定番Westone UM Proシリーズが新型シェルにデザイン変更されました。2万円弱のUM Pro 10から6万円のUM Pro 50まで一気に更新され、とくにこれまで使えなかった一部MMCXケーブルも接続出来るようになったのが嬉しいです。サウンドを変更する意図は無いということですが、感覚的には旧タイプよりも整っているように聴こえます。とくにUM Pro 30は不朽の名作だと思うので、この機会に興味を持つ人が出てくれると嬉しいです。


ブログでは紹介しませんでしたが、さらに値段が安いイヤホンでは、2017年でとくに良かったと思えるモデルが二つありました。

Pioneer Rayz Plus

まずはパイオニアのRayzです。一万円台で、アップル用Lightning接続、豊富なアプリ連動機能に、アクティブノイズキャンセリング搭載と、どうにもオーディオマニアには不向きな仕様なのですが、想像以上に音がよく出来ています。決して10万円相当のサウンドとか言うつもりはありませんし、ピュアオーディオ的に欲を出せば、もっと高域が伸びて、低域にメリハリがあって、なんて色々指摘できます。

しかしRayzが良かったのは、スマホ接続の手軽さでありながら、とにかく不満が出ない、これといって悪いところも思い当たらない、というチューニングの素晴らしさです。オーディオマニアな友人がなぜか絶賛していたので、「そんなはずは無いだろう」と疑って、欠点を探そうと思いながら聴いてみたのですが、「なんか普通に良い」「これはこれで十分」という変な満足感があり、長時間ずっと聴いていられるような良い音でした。iPhone用の手軽なイヤホンを探しているならこれは候補に入れるべきです。

Final E3000

もうひとつオススメな新作は、Final E2000とE3000です。それぞれ4500円と5500円(リモコン付きは500円増)と、オーディオマニアならゴミのように見下す価格帯ですが、雑誌など多方面で評判が良いとのことで試聴してみたら、とても気に入ってしまいました。

Finalで金属チューブとなると、スカスカキンキンなサウンドを想像しますが、中身はBAではなくダイナミック型で、圧迫感の無い自然なサウンドです。耳孔にそっと置くだけの手軽な装着感ですし、サウンドはゼンハイザーIE80とかに近い豊かで厚みのある系統です。いろいろ聴いて雰囲気が近かったのはB&W C5 Series 2でした。この値段でリラックスして音楽鑑賞が楽しめるイヤホンというのはなかなか珍しいので、人気が出るのも理解できます。E3000の方が高域が響き立体感がありますが、E2000も無難で良いです(私はE3000を買いました)。

あと、定評のあるFinalのシリコンイヤピース各種サイズが入ってこの値段なので、イヤピースを買うくらいならイヤホンごと買おう、なんてくらいの気分です。私もこれといって用途も思い当たらないのに、試聴して「これは・・今すぐ買わなくては・・」と謎の使命感に掻き立てられて購入してしまいました。とくに耳掛け式が苦手な人へのプレゼントとかでも重宝します。


色々と新作イヤホンを思い出して書いていましたが、2017年のイヤホンはとくに多様性と斬新な音響設計が目立つ一年でした。

マルチBAドライバー数で優劣を競うのは、もう過去のものになってしまいましたが、それに変わってハイブリッド型の完成度がどんどん良くなっています。

その中でもUnique Melodyは私も愛用していますが、それ以外のメーカーでも、それぞれハウジング音響設計に多重構造など独自技術を取り入れ、めまぐるしい変化を遂げています。最終的には64 Audio tia Fourteのように、ドライバー数を減らしてでもハウジング音響を重視するほうが圧倒的な高音質が望めることが実証されつつあります。AZLAやCampfire Polarisなど、各価格帯で大きな変化が見られました。

小規模なイヤホンメーカーにとって、このような斬新なアイデアを導入するには開発時間と設備投資の回収が急務なので、出来るだけ短期間に高価で売り切る事が望まれます。そのため、2017年に何十万円もするようなイヤホンが続々登場したこと自体が、次世代ラインナップへの過渡期を象徴しているかのように思えます。

今後、それらメーカーの量産モデルや、大手メーカーの参入により、数万円の価格帯にて、より高度なバトルが繰り広げられることを期待したいです。


さらに、中国から「格安ハイエンド」イヤホンが増えてきたのも2017年の特色だと思います。

これまでもネット掲示板を中心にアンダーグラウンドなシーンがありましたが、最近になっていくつか日本での輸入代理店ができたりして、家電店でもよく見るようになりました。音が良いものも少なくないのですが、長期的な入手性が危ういのでブログで紹介することは控えています(ある日突然コストダウン仕様変更というのもよくあります)。

一部の新興メーカーは圧倒的なダンピングと無料視聴機配布の競争でシェアを獲得しようとしのぎを削っています。予算の限られた苦学生とかなら、ネットで一筆書くだけでマルチBAのIEMが無料で貰えるとなると願ったり叶ったりでしょう。また、その逆で、「私はこんなに影響力があります。だから無料試聴機を提供してくさい」という、俗に言う「ネット乞食」も年々増えてきたそうです。

アマゾンでも新興ブランドのイヤホンが膨大に増えてきました。実際に売れて上位に来ているものもあれば、「スポンサープロダクト」も多いです。どの業界もステマの多さに悩まされているので、今年はアマゾンが従来のレビュー星点数とは別に「アマゾンでの購入者のみ」に限定した星点数も表示できるようになったのが話題になりました。実際の購入者の意見というのはやはり説得力があります。そういえばアマゾンといえば、9月には「0円イヤホン」が話題になりましたね。

中国メーカーといっても、もちろんブランドも工場も無数にあるので、それら全体を総括することは不可能なのですが、私がたどり着いた核心は、「良い工場で、良いイヤホンは、そこまで安く作れない」、という現実です。つまりいくら中国の工場直送でさえ、数千円ではハイエンド相当のサウンドは実現できず、もしそれらメーカーが気合を入れて良いものを作ろうとすれば、結局数万円になってしまい、そこまで割安感は出ない、ということです。

「一流ブランドなら○○万円相当の・・」価格破壊イヤホンを買い集めて優越感に浸るのも楽しいですが、結局使わなくお蔵入りになってしまうので、段々と興味が薄れてきました。それでもたまに中国の友人が謎のイヤホンを持参して、「これ聴いてみて、一体いくらのイヤホンだと思う?」なんて謎掛けをするのは楽しんでいます。

個人的に現在のイヤホン業界の一番悪い所は、これら中国の新興OEM企業をダシにして、それらに豪華金メッキ黒檀仕上げにすることで、あたかも超高級老舗ブランドを装って富豪に売り付けているボッタクリメーカーが最近増えている事です。

キラキラ輝くジュエリーのような百万円アップグレードケーブルや、中身はSansa並なのに金の延べ棒のようなDAPなど、イヤホンオーディオはここまで来たかと驚かされます。「なぜ?」という疑問は「だって売れるから」という答えが帰ってきます。

背景にあるのは、中国という広大な市場があり、日本のように実店舗でじっくり試聴できるような環境がなかなか無いため、ネットレビューや掲示板で影響力のある有名投稿者の一声で、100万円のクレジットカード購入を躊躇なく出来る人が増えているようです。

イヤホンブームが過ぎたら、これら高級ブランドの多くは淘汰されるのでしょうか、それともピュアオーディオと同様に、大富豪マニアのためのホビーとして、嘲笑の対象として生き続けるのでしょうか。

             

おわりに

2017年も色々ありましたが、一年を通して私が普段のリスニングで使っていたヘッドホン・イヤホンをまとめると:

  • 密閉型ヘッドホン:フォステクス TH610
  • 開放型ヘッドホン:AKG K812 PRO → HiFiMAN HE-560
  • マルチBAイヤホン:Campfire Audio Andromeda
  • ダイナミックイヤホン:Beyerdynamic AK T8iE → Dita Dream
  • ハイブリッドイヤホン:Unique Melody Mavis → Mavis II

・・・といった感じに入れ替わりました。

自分の趣向に偏っているので、もちろん全部がベストというわけではなく、まだまだ試聴していないモデルも多いですし、予算の都合もあります。

密閉型ヘッドホンはフォステクスTH610の完成度の高さにとても満足しており、買い換える気は起きていません。何の変哲もない普通のヘッドホンですが、音楽鑑賞を邪魔しない事に関しては実に優秀です。末永く使えるヘッドホンというのはこういうものです。

開放型は相変わらずK812の音色が好きなのですが、今やAKGを手荒に扱うのがもったいない気がして、なにか代用になるようなヘッドホンを探していて見つけたのがHIFIMAN HE-560です。TH610同様、地味ですが優秀なヘッドホンです。私にとって初めての平面駆動型になりました。

可能であれば、開放型ヘッドホンはいつかオーディオテクニカATH-ADX5000に交代させたい気はあるのですが、値段が高いので我慢しています。

マルチBAイヤホンはAndromedaが続投です。これは万能というよりも高域の鳴り方が唯一無二の存在です。もっと汎用性のあるマルチBAがあれば良いなとも思ってるのですが、これだというものには巡り会えていません。

ダイナミックイヤホンはDita Dreamで、これは今年ナンバーワンの凄い買い物でした。

ハイブリッドイヤホンはあいかわらずUnique Melody Mavisに代わるものは見当たらず、後継機Mavis IIに買い換えました。初代の良さは健在で、さらに高域が綺麗になり、文句無しです。Maverick IIと悩んだのですが、Mavis IIの方が個性的で、しかもその個性を気に入ってしまった、良いめぐり合わせです。


むやみに買い集めたくないと思いながらも、やはり新作とあらば、つい試聴したくなってしまいますし、グルメとかと一緒で、購入する側として、あれこれ批評家っぽく気取りたくなります。

いざ買うとしても、自分の好きな傾向のサウンドに一辺倒な人もいますし、異なるサウンドを色々揃えるのが好きな人もいます。色々試聴してみて、単純な優劣ではなく、このメーカーは何を主張したいのか、なにが得意なのか、なんて考えてしまうと、どのメーカーにも独自の良さがあり、欲しいモデルがさらに増えてしまいます。


2018年はオーディオマニア向けヘッドホン・イヤホン製品にどんな進化があるのかわかりませんが、個人的にはもっと5-10万円くらいの価格帯で、とくに日本の大手メーカー勢に頑張ってもらいたいです。

どのメーカーもワイヤレスモデルの開発に足を引っ張られたのか、そこそこの値段の家庭で使えるリラックス系ヘッドホンに活気が無い一年だったと思います。ワイヤレスブームの最中に「実は、有線の方が音が良いよ」と声を大きく主張出来ないのも大手メーカーの難しいところだと思います。

既存のロングセラーも、たとえばケーブルやイヤーパッド、ハウジング形状など、デザイン面でのブラッシュアップが望まれるモデルは多いです(その点ゼンハイザーは上手くやってます)。

さらに近頃は高機能材料の進歩のおかげで、振動板やハウジングなどの素材が一気に次世代化しています。「金属より硬いのに、紙より軽い」とか、これまでアルミやナイロンなどでは到達不可能だった特性を目の当たりにしています。アモルファス金属やDLC薄膜など、例を挙げればキリがないですし、それら単体ではどうにもなりませんが、応用を追求することで何らかのブレイクスルーがあるかもしれません。



ヘッドホンブームなんて言ってもう5年くらい経ってしまいましたし、これを読んでいる人なら、すでにそこそこ良いイヤホン・ヘッドホンを持っているでしょう。

では、数年前のモデルと比べて、2017年の新製品は実際そこまで良くなっているのか、たとえば同じ価格帯の予算でも、買い換えるメリットはあるかが気になります。

私の個人的な感想としては、2017年は特に「低音の鳴り方」が進化した一年だったと思います。平面駆動型、ハイブリッドIEMなどはもちろんのこと、ダイナミック型ヘッドホンでも、進化が目覚ましいです。

今になって気付かされるのは、ちょっと昔の高級ヘッドホンでは、まだ低音の楽器音や臨場感をしっかり鳴らせるだけの技術が乏しく、しかたなく量を絞るか、耳障りな低音のどちらかになっていました。

つまり、コンサートホール並の低音の「質感」を出せているスピーカーオーディオシステムと比べると、当時の高級ヘッドホンから入ったヘッドホンマニアは、正しく良い低音は未体験で、それがヘッドホン世代のレファレンスになってしまった気がします。

低音以外の部分は、HD800とかで(それ以前のHD600やK701とかでも)十分すぎるほど優秀で、低音のみが波長と距離の関係で実現し難いという状態でした。

では、何が良い低音なのかというと、私が思うのは、まず中域と共通した感触であるべきということです。鳴り方や音像位置、拡散のばらつきが無く、一つの楽器としての実体感と響きが統一していることです。フルサイズのスピーカーオーディオでも、機器の組み合わせやセッティング次第でうまくいかず悩まされる部分です。

正解はあるのか、というと、良いリサイタルホールで、アンプ無しの楽器ライブやグランドピアノの演奏を聴いてみて、それらを基準とするのが手っ取り早いです。

よく「オーディオはどうせ生演奏には敵わない」「そんな高い金を払うなら生のコンサートに行け」なんて言う人もいますが、それらはほぼ実践していない人の嘘です。

たとえば今晩のコンサートをネットで検索したら、都内でカウフマンのリサイタルがS指定席で38,000円、A指定で32,000円でした。よほど好きなアーティストでないとなかなか毎週の娯楽としては難しい値段です。

まず生演奏のベストな鳴り方という基準があり、それをヘッドホンでもスピーカーでも追求することで、満員御礼トップアーティストのリサイタルを、S指定席相当のポジションで、毎日好きな時に楽しめるのがオーディオの本来の姿です。もしくは最新の心理音響を用いて生では味わえない不思議な脳内体験を実現することもできます。

そこで改めて低音に話を戻すと、2017年の新作は、大型ヘッドホンの最上級クラスでようやく、低音側を含む全帯域がハイエンドスピーカーや生演奏と同じレベルのリアリズムと感動に近づいてきたと思いました。

一方イヤホンの方はまだそこに至っていないものの、様々なアイデアで急速に進化しており、多くのメーカーの低音に対する努力が実感できる一年でした。イヤホン・ヘッドホンともに手が出しにくい高価なハイエンドモデルでその兆しが見えているため、近いうちに低価格帯にもどんどん反映されてきそうなのがとても楽しみです。

あえて「ハイエンド」と言う意図は、つまりカジュアルな使い方を想定しておらず、ちゃんとパワーと特性が優れたアンプやプレイヤーと合わせて使うことを前提としているからです。つまりユーザーへの要求も高いのがハイエンド製品です。

オーディオメーカーは、数百ミリワットしか出せないスマホでも満足な音色が出せるモデルの開発と、高性能ソース前提のハイエンドユーザー向けのモデルという二通りのルートがあり、とくに2017年は、前者ではBluetoothワイヤレス、後者では低音を含む帯域特性の充実という、二つの大きな進化が見られた一年でした。


そんなわけで、時間があれば後半は2017年の良かったアンプやDAPとかについてまとめようと思います。