2018年5月16日水曜日

Campfire Audio Comet イヤホンの試聴レビュー

Campfire Audioからの新作イヤホン「Comet」を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。

Campfire Audio 「Comet」

米国では2018年5月発売のシングルBA型イヤホンで、価格はUS$199とかなり安いのですが、ステンレス削り出しハウジングに新開発「Vented BA」ドライバーとTuned Acoustic Expansion Chamberを採用した本格的な意欲作です。

ちなみに上位モデルで$1,299のダイナミックドライバー型イヤホン「Atlas」も同時に発売されましたが、今回試聴できたのはCometのみでした。


Comet

米国オレゴン州ポートランドのCampfire Audioは、2015年に発足された、まだ新しいメーカーですが、AndromedaやVegaといったヒット作で一躍ハイエンドイヤホンの代名詞になりました。エントリーからハイエンドまで、モデルごとにBA型とダイナミック型ドライバー(もしくはハイブリッド)を使い分けて開発を続けているところが、他社と比べてユニークなところです。

AndromedaとJupiter

これまでOrion、Jupiter、AndromedaなどBAドライバー搭載モデルでは、アルミ削り出しハウジングの鮮やかな色合いとメカメカしい角ばったフォルムが印象に残る魅力的なデザインでした。

Lyra、Vega、Dorado

一方ダイナミックドライバー登載モデルには丸みをおびたセラミックや金属ガラスといった特殊素材を採用することで、音響設計をそのまま外観にも反映したような、派手でありながら、無駄な装飾はしない、率直なデザインに好感が持てました。

Atlas と Comet

今回登場した新作「Comet」と「Atlas」でも素材を活かしたデザインを踏襲していますが、新たにステンレスCNC削り出し鏡面研磨という仕上がりになっています。

しかも、CometはシングルBAドライバー、Atlasはダイナミックドライバーと、同じシリーズでもドライバー技術を使い分けているところが興味深いです。

今回試聴したCometは、US$199ということで、Campfire Audioイヤホンラインナップの中でも一番安いモデルになります。これまでのシングルBA型イヤホン「Orion」がUS$349なので、それよりも大幅に価格帯を下げてきました。最近は他社からも低価格で優れたイヤホンが続々現れているので、Campfire Audioとしても、いつまでもプレミア感にあぐらをかいてはいられないのかもしれません。

ちなみに上位モデル「Atlas」の米国公式価格は$1,299ということで、これまで同社の最上位モデルでダイナミック型の「Vega」と同じ価格設定になっています。ところがAtlas発売時にVegaの方が$1,099に値下げされたので、Atlasが最上位という事を示しているようです。(ちなみにBA型の最上位Andromedaは$1,099です)。

というわけで、今回登場したのは、最低価格でBA型のCometと、最高価格でダイナミック型のAtlasと、意表を突くような奇抜な組みわせになっています。

どちらも新シリーズの初回モデルということで、米国オレゴン州Campfire Audio本社工場で作られています。これまでのモデルでも、初期ロットは米国製で、ある程度安定してきたら中国製に移行したものもあったので、これらも将来的にそうなるのでしょうか。

中国といえば、近頃Campfire Audioのデザインに酷似した恥ずかしげもない模造品が色々と出てきたので、今回新作であえてデザイン変更を決行したのは、心機一転で陳腐化を避けるという意図もあるのかもしれません。また一年もしたら、Cometソックリの鏡面仕上げコピーイヤホンが登場することでしょう。

ステンレス

コンパクトですがクオリティが高いです

Cometのハウジングはツヤツヤに磨き上げられたステンレス製で、ゴミやホコリが目立つので写真を撮るのが厄介です。

$199という価格だけを見ると、どうせプラスチックにクロムメッキ処理したもの(自動車のパーツや児童玩具でよくあるやつ)くらいが相場だろうなんて思っていたところ、本物のステンレス削り出しなので驚きました。より高価なOrionなどのアルミハウジングと比べてもCometの方が高価なように思えます。

デザインはピストル型というか、ヘアドライヤーっぽい形状で、MMCX端子が斜め後ろに突き出しており、Etymotic ER4SRを一回り大ぶりにしたような印象です。しかしEtymoticやShureのような細いイヤピースではなく、ソニーやゼンハイザータイプのイヤピースなので、どちらかというとFinalのイヤホンとかに近いかもしれません。

ステンレスですが、写真で見てもわかるように、ハウジング自体はコンパクトで短いので、重くて外れやすいといった事はありませんでした。手軽なイヤホンとしてフィット感は良好です。

耳穴奥深くにグイグイ挿入するというよりも、一般的なイヤホンのようにシリコンイヤピースでパッと装着するような気軽さがあり、私の場合は耳穴に対して水平というよりは、だらんと斜め下に垂れて、ちょうどMMCXケーブルが頬に沿うような感じでした。各自の耳穴の奥深さに合わせて、正しいイヤピースを選ぶことが重要です。今回Cometの付属品に、フィット感で定評のあるSpinFitイヤピースを同梱してくれているので、これは結構ありがたいです。

Finalのイヤピースを使いました

個人的にはCometの場合SpinFitよりもFinalのイヤピースの方がフィットが良かったので、今回の試聴ではそれを使いました。

その理由は、SpinFitの方が若干長いので、イヤホンが外に飛び出て、ケーブルが頬に沿わずブラブラする感じがしたからです。もちろん個人差があります。どちらにせよ、Cometの遮音性はとても良く、気軽にポケットから出して耳栓代わりに使えるイヤホンとして最適な候補だと思います。

ちなみに、上下逆さでケーブルを耳に掛けて装着する事も可能ですが、ケーブルに耳掛け用ワイヤーが入っていませんし、私の耳形状だと上手くフィットしませんでした。

グリルが特徴的です

CometはシングルBA型なので、その点はOrionと同じなのですが、公式サイトによるとCometではあえて「Vented BA」ドライバーと呼んでおり、さらにハウジングには「Tuned Acoustic Expansion Chamber」(T.A.E.C.)という技術を導入していると書いてあります。

Ventedと言っても、ハウジングデザインを見ても背面に通気孔みたいなものは見えないので、具体的にどのように「Vented」なのかはわかりにくいのですが、音導管グリルの形状を見ると納得できるというか、いわゆる一般的なBA型イヤホンとは音響設計が異なるということがわかります。

一般的なBAドライバーイヤホンというと、BAユニットの出音ノズルからプラスチックホースや金属管などを繋げて、密閉状態で直接音導管の先端まで音を届けるという仕組みです。いわば医者の聴診器みたいな感じですね。つまりそれらのハウジングはBAユニットを詰め込むだけの物で、極端な例ではEtymotic ER-4Sのようにただの筒であったり、もしくはカスタムIEMのようにドライバーをプラスチック樹脂に埋め込んで固めるだけというものも多いです。一方Cometの場合、たぶんハウジング内部に音響チャンバーを設けており、その中でBAドライバーを鳴らして大きな音導管グリルから出音する仕組みのようです。BAドライバー1基のみだと、どうしても可聴帯域全体をフラットにカバーすることは不可能なので、そこで不足している帯域を補うために高度なチャンバー設計が必要になってきます。

このT.A.E.C.というチャンバー技術は、昨年登場した「Polaris」でも採用されており、あちらはBA+ダイナミックのハイブリッド型でしたが、それをCometでシングルBA型にも応用したのでしょう。とくにPolarisでは、ハイブリッド型にありがちな「BAとダイナミックドライバーが別々に鳴っているように聴こえる」問題が大幅に改善され、音作りの統一感が印象的だったので、T.A.E.C.のおかげなのかもしれません。

付属品

Cometの付属品は黒いジッパーケースとイヤピース各種です。SpinFitイヤピースも付属しているのも見えます。ケースは「Black Textured Earphone Case」と書いてあるので、レザーではないようです。

MMCXでワイヤー無しです

リモコン付きです

ケーブルはMMCX着脱式の黒いCopper Litz Cableというやつで、素材はPolarisに使われたものと同じだと思いますが、Cometのは耳掛けワイヤー無しで、3ボタンリモコンがついています。個人的にリモコンは無い方が良いのですが、エントリー価格のイヤホンということで、スマホユーザーの利便性を考えての事でしょう。

他のCampfire Audioイヤホンに付属している銀色のケーブルはSilver Plated Litz Cableというやつで、後述しますが音が結構違います。

AtlasはPure Silverケーブルだそうです

さらに、Atlasの方は、一見Silver Plated Litzケーブルのように見えますが、新設計の「Campfire Pure Silver」純銀ケーブルを付属しているということです。

音質とか

今回の試聴では、普段から愛用しているQuestyle QP2R DAPを使いました。インターフェースはショボいですが、音は良いので、まだ頑張って使っています。

Questyle QP2R

Cometの公式スペックは48Ω・97dB/mWと書いてあるので、同じくシングルBA型イヤホンのOrionが13.9Ω・114dB/mWだったのと比べると、BA型としては鳴らしにくい部類のようです。実際使ってみると、DAPはもちろんのこと、スマホなどでもそこまで音量には苦労しませんでした。たとえばEtymotic ER4SRは45Ω・98dB/mWなので、それと同じくらいでしょうか。

これまでのCampfire Audioイヤホンというと、AndromedaやJupiterなど、あまりにもインピーダンスが低すぎ、感度が高すぎて(12.5Ω・115dB/mWとか)、ちょっとボリュームを上げただけで爆音になり、しかもアンプのバックグラウンドノイズを拾いやすいという問題がありました。

しかし近頃はiPhoneやiPod直挿しというユーザーも少なくなってきたので、あえてイヤホンが低インピーダンス&高能率である意味も薄れてきました。iPhoneも3.5mm端子を廃止して、Lightning DACケーブル(そこそこパワフルだけれどノイズが多い)が必須になったことで、実用上はCometくらいインピーダンスが高い方がスマホでもDAPでも扱いやすいと思います。


ドイツ・グラモフォンからカラヤン指揮スカラ座の「カヴァレリア・ルスティカーナ&パリアッチ」を聴きました。有名盤で待望の96kHzハイレゾリマスターが登場です。これまでCDでは二作がバラ売りでしたが、今回はセコいことはせず兄弟作がセットなのは嬉しいです。

ちなみに、このハイレゾ版は、既出CD(The Originals)よりも圧倒的に空間が広く音抜けが良くなっています。すでにEsoteric SACDでも出ていますが、あちらは高価で手に入りにくいので、こちらは気軽にダウンロード購入できるのは良いことです。Esoteric SACDの方が肉厚でレコードっぽい暖かみと奥行きのある整えられた鳴り方で、一方こちらのハイレゾダウンロード版はマスターテープっぽい爽快感とクリアさがあります。

カラヤンのオペラはまだハイレゾリマスター復刻されていない名盤が多いので、今後も勢いに乗ってリリースしてくれる事を願っています。DECCAウィーンフィルのオテロ、サロメ、ボリス・ゴドゥノフや、EMIドレスデンとのマイスタージンガーとか、どれもCD版の音質がイマイチでLPの方が音が良いので、こういうのこそハイレゾリマスターすべきです。


Cometイヤホンの話に戻りますが、まず音を聴いての第一印象は、BA型イヤホンとは思えない、むしろダイナミック型に近いサウンドだと感じました。

中低域にかけてドッシリと構えて、派手にシャラシャラせず、楽器音が太くしっかり出てきてくれるサウンドです。とくにステンレスということでカンカン響く硬い音だと思っていたところ、意外にもマイルドで温厚なので驚きました。

空間展開はあまり遠く広くはないですが、不自然な乱れ方をせず、勢いだけではなく、しっかりと作り込んでいる事が感じ取れます。目先の解像感や分離の良さを強調するのではなく、土台がしっかりした豊かな音色で、アーティストのサウンドを充実させるような音作りです。

とくに試聴に使ったオペラアルバムは1966年のスタジオ録音なので、ハイレゾリマスターで高音質になったとはいえ、モニター調のヘッドホンで聴くと、マイクや録音機材の限界(とくに高音でヴァイオリンの音が詰まる感じとか)が目立ってしまい、ギスギスしがちです。以前のCD版だとデジタルエコーやディレイフィルターをふんだんに使ってその辺をカバーしていたのですが、近年のハイレゾリマスターはマスターテープにより忠実になったことによる弊害です。

しかしCometで聴くと、高音域は十分出ているものの、そのような録音限界による不快感をイヤホンの音色がカバーしてくれて、ずいぶん聴きやすくなります。ステンレスハウジングによるほんの僅かな響きが、ちょっとした色付けをしてくれるのかもしれません。それでもキンキン響くような事は全く無いのが優秀です。

全体の周波数バランスとしては、女性、男性ともにボーカルが目立ち、低音もしっかり出ます。とくに優れていると思えるのは、この価格帯のイヤホンにありがちな、「低音が別の空間から鳴っている」ような違和感が無く、ちゃんと中域と繋がっていることです。とくに男性ボーカルでその長所が活かされ、腹から声が出ているような太い芯を作り出してくれます。これがたぶん、Campfire Audioが言うところの、Vented BAドライバーとT.A.E.C.ハウジング構造のメリットなのかもしれません。

とくに一般的なBA型(たとえばOrion)とは違うと感じたのが、Cometはアタックが刺激的ではなく、とても丸く聴きやすいサウンドだという点です。とくに60年代のアナログ録音だと、Orionのような鋭い金属的なアタックはむしろマイナスで聴き辛く感じることもあるのですが、Cometは上手いこと自然に丸く納めてくれます。まるで真空管アンプを通したかのように、音楽とそれ以外のノイズを魔法のように分離してくれます。そのあたりは、同じくCampfire Audio(ALO)のContinentalヘッドホンアンプを連想させてくれました。同じメーカーだけあって、音作りの目指すところが似ているのかもしれません。


ブルーノートからの新譜で、ケニー・バロン「Concentric Circles」を聴きました。

今年で74歳になるバロンは、現役レジェンド級ピアニストとして多方面からひっぱりだこで、(良い意味で)年甲斐もなくアルバムリリースの数が尋常でないです。ジャズファンも「またいつものケニー・バロンと若手をカップリングした企画盤か・・」なんて飽食気味かもしれませんが、今回のアルバムはトランペットとサックスを含むオーソドックスなクインテットで、かなりスイングしているストレート・アヘッドな60年代ブルーノート風です。作風やメンバー構成や音質が、個人的に贔屓にしているCriss Crossレーベルの作品っぽいなと思ったら、セッションスタジオもエンジニアも同じだったので、Criss Crossの出張録音と言ってもよいかもしれません。

Cometは古い録音のみでなく、こういった最新アルバムでも十分に実力を発揮してくれて、よく安いイヤホンにありがちな、イヤホンのクセや弱点に足を引っ張られるような感じは一切しませんでした。

変な例えになりますが、Cometの音を聴いていて真っ先に思ったのが、なんだかハンバーグみたいな音だ、というイメージでした。抽象的すぎて説明が難しいのですが、ジューシーで肉厚で、誰もが気に入るような、失敗のない、手軽で、しかもチープではないサウンドというのでしょうか。変に誇張された渋みやスパイスが無いため、音楽を聴くことの充実感がとても強く感じられます。

とりわけ汎用性の高いイヤホンだとは思うのですが、好き嫌いが分かれる点としては、ちょっと重心が低く温厚だというところです。朗々と歌うというよりは、内声の表現が丁寧なので、ジャズアルバムだと、トランペットがフリューゲルホルンっぽく聴こえるというか、若干丸め込まれた傾向で煮え切らない感じもあります。歌手だったら実年齢よりもちょっと大人びた哀愁が生まれるようなイメージでしょうか。ただし響きはしっかり制御されているので、フワフワとフォーカスが定まらないという事はありません。

サックスでは、バリバリ吹いているエキサイティングなパッセージでも、Cometだと刺激に威圧されず、ソフトで優しいメロディがじっくり堪能できる、温泉に浸かるような雰囲気でした。コルトレーンに例えるなら、どのアルバムを聴いても、なんだか「バラード」アルバムみたいなほんわかした吹き方に聴こえてしまい、それはそれで良いのですが、もうちょっとワイルド感も引き出して欲しいと思うこともあります。

低音域では、ウッドベースがボンボン弾け飛ぶような圧迫感ではなく、一定距離の位置からフォンフォンとスムーズに聴こえてきます。この圧迫感の少なさが、Vented BA技術のメリットだと思いますし、このおかげで土台がしっかりして、長時間でも聴き疲れしないサウンドを実現出来ているのだと思います。

SE215SPE、E3000、Rocket、Comet

Cometは手軽にカジュアル用途で使えるイヤホンだと思うので、いくつかそれに近いイヤホンと聴き比べてみました。

まずFinal E3000はCometとよく似ていると思いました。やはりCometはダイナミック型に近いサウンドだということでしょうか。どちらも刺激の少ない温厚で丸いサウンドだということは共通しているのですが、Cometの方が一枚上手で、価格差のメリットは十分感じられました。Cometの方が楽器音の「彫りが深い」というか、しっかりそこにあって動かない実在感が強いです。それと比べるとE3000の方がアバウトにフラフラ動き回り、イマイチ明確に定まらない感じです。

名前だけでもCometのライバルっぽいAurisonics Rocketは、会社自体が無くなってしまいましたが、未だにファンの多いイヤホンだと思います。(ちなみに実質的な後継機と言える「Fender PureSonic Wireless」はどんな音なのか気になってます)。こちらも聴き比べるとCometの方が好みでした。Rocketは中域だけがグッと前面に浮かび上がり、ものすごく強調されるのですが、それ以外の高音や低音は遠くの奥のほうでシャラシャラと鳴っているだけで、空間が明らかに不自然です。周波数帯域に限界があり、それを上手いことボーカル域に持ってきたといった感じです。その点Cometはずいぶん広帯域で破綻が少ないです。

Shure SE215SPEもダイナミック型イヤホンとしては大定番で、今聴いても実に良いサウンドだと思います。おとなしくサラッとした丁寧なサウンドで、優しく聴きやすいという点はCometと似ているのですが、SE215SPEの方が全体的に音像が遠く、とくにボーカルとかがあまり立体的に飛び出してこないので、あくまでShureらしいモニター調の無難さは面白味に欠けるかもしれません。同じ音楽でも、Cometで聴いたほうがずいぶん充実感があります。

Campfire Audio Lyra II

実は、Cometと聴き比べて一番判断が難しかったのが、同じくCampfire AudioのLyra IIでした。Cometとは三倍以上の価格差がありますが、チューニングのバランス感なんかは非常によく似て作られており、まるで兄弟機のようでした。

Lyra2のほうが高価なだけあって優れている部分も多いのですが、聴くアルバムによって、一概にどちらが良いとは言い切れませんでした。

たとえばLyra IIの方が高音はよく鳴り、決してギラギラ刺さるというわけではないものの、引き際が長引くので、アルバムによっては、常にシャンシャンうるさく感じる事もあります。

また、Cometには無いような空気感の表現力がLyra IIにはあるので、ライブ録音の臨場感とかはLyra IIの圧勝なのですが、たとえば今回聴いたジャズのスタジオアルバムだと、サックスのまわりのスタジオエコーがハッキリと聴こえてしまい、他のバンドメンバーとの空間配置のミスマッチが見えてしまったり、ミキシング・エンジニアのサジ加減でイコライザーで穴を開けたり調整した部分があからさまに気になってしまいます。Cometではそういったモニターっぽい分析力と引き換えに、あえて肩の力を抜いたようなリスニング体験が得られます。つまりLyra IIはモニター性能的に見れば高価であって然り、Cometは価格を超えたリスニングの充実感があります。

Silver Plated とCopper Litz Cable

耳掛け用ワイヤーが邪魔になります

ケーブルについてですが、Cometに付属しているのはCopper Litz Cableなので、Lyra IIなど上位機種のSilver Plated Litz Cableに交換して聴き比べてみました。

個人的な好みとしては、Cometとの相性は付属のCopperケーブルの方が良くて、Silver Platedにするとバランスが崩れるようでした。これはPolarisイヤホンでも感じたことなのですが、メーカーとしてはCopperケーブルでチューニングを仕上げてあるので、Silverがいくら上位だからといって、必ずしも音質が向上するというわけではないようです。

具体的には、Silver Platedにすると、中高域の音色に艶っぽさが乗って、キラキラ感とか、女性ボーカルだったら若々しさみたいなものが増すのですが、その一方で中低音の土台になる部分が不明瞭になり、まるで腰砕けになったように、フカフカと浮足立った安定感に欠けるサウンドになってしまいます。つまりCometのサウンドはケーブルに依存する部分が強いと思うので、ケーブルを交換するつもりなら注意が必要です。

それと、耳掛けワイヤーがあれば装着にも有利かと期待したのですが、残念ながら私の耳ではワイヤーを駆使しても耳掛け装着はうまくいきませんでした。

おわりに

Campfire Audio Cometは「低価格なシングルBA型」といった上での想像を遥かに上回る、良いイヤホンです。これを書いている時点で日本での価格は不明ですが、US$199でこれを凌駕するライバルというのはそうそう見つからないと思います。

サウンドはBAというよりもダイナミック型のLyra IIなどに近く、それよりも音源の良し悪しにこだわらない汎用性という意味では優れている面もあります。マイルドな中域重視でありながら、重厚な低音やクリアな高音まで、破綻せず統一感のある鳴り方なので、どんな音楽でも不快感や違和感を意識させない、非常に聴きやすい音作りです。

とくに古い録音やカリカリに音圧を上げたポピュラー曲なんかでも、ゆったり長時間聴き込めるイヤホンとしてCometは最有力候補です。この価格帯だと、ダイナミック型だとモコモコした位相乱れや、BA型だとアタックがキツすぎるなど、クセの強いイヤホンが多いので、もっと上を見ないとCometを超えるのは難しいと思いました。

個人的に、Cometを聴いていてとくに感じたのは、わざわざハイエンドなDAPなどを用意せずとも、たとえスマホ直挿しでも音の良さが十分に堪能できるようなイヤホンを目指したようでした。

こういうブログとかを読んでいる人は、すでに高性能なポタアンやDAPを所有しているだろうと思いますが、たとえば最近、自分の愛用しているイヤホンを、パソコンのイヤホンジャックに直挿しで音楽を聴いてみたことはあるでしょうか?普段から良いアンプで聴き慣れている人ほど、あまりの音質の格差に驚かされると思います。スカスカで抑揚の無い、気が抜けたサウンドで、これでは「音楽で感動を受ける」とか無縁の世界だな、なんて思います。

特にヘッドホンが硬派なモニター系モデルであるほどに、性能を引き出すためにアンプへの依存性が高くなると思います。

もしヘッドホンに興味を持った人が、雑誌ランキングとかを読んで、DT770が良いらしい、SE535が良いらしいといって、いざ買ってパソコンのYoutubeで愛聴曲を聴いてみたらスカスカキンキンな音だったら悲しいです。そこで次は高音質盤だポタアンやDAPだと意気込んでくれれば良いですが、それっきりで「高級ヘッドホンなんて言って、全然大したことない」なんて離れていってしまったら非常に残念です。

そんな時に、もしCometを買っていれば、きっと環境を問わずに満足できると思いますし、そこからはさらに尋常ではないほどに高価なイヤホン(未聴ですが、それこそ上位モデルのAtlasとか?)でないと、アップグレードする必要性は感じさせないと思います。

もしCometからアップグレードを検討するとなれば、高音質音源や上等なアンプなど、しっかり対応できる環境を揃えた上での事だと思うので、Cometはそんなマニア道に踏み込む一歩手前で味わえる、最上級の贅沢サウンドだと思いました。