Hibyの新作DAP RS8を試聴してみたので、感想とかを書いておきます。
Hiby RS8 |
海外では2022年12月発売で価格は約55万円、独自の「DARWIN」R2R DACを搭載する、RS2やRS6に続くRSシリーズの上位機種として登場しました。RS6の方は私も普段から愛用しているので、今回RS8のサウンドはとても気になります。
Hiby RSシリーズ
つい最近Astell&Kernの最新DAP SP3000を試聴したばかりなのに、今回はHibyから同じクラスの高級DAP「RS8」を試聴してみることができました。50万円台のDAPを立て続けに聴けるなんて機会はめったにないので、大変嬉しいです。
しかも、個人的にHibyのサウンドやデザインを結構気に入っており、2019年のR6PRO、2021年のRS6と購入していて、普段使いのメインDAPとして愛用しています。
Hiby RS8 |
Hibyは中国DAPメーカーの中でも比較的新しいメーカーなのですが、もともと他社製DAPのインターフェースOSを開発するODMだったこともあり、いわゆる高級オーディオブランド的なハッタリが少なく、比較的真面目で使いやすいデザインなのも気に入っているポイントの一つです。
難点としては、英語公式サイトが怪しかったり(海外でRS8が発売したのに英語公式ページがまだ無かったり)、ファームウェアが不完全な状態で見切り発売したり、など中国メーカーによくありがちな点が挙げられます。また、日本国内のHiby輸入代理店が最近変更されたとのことで、日本でのRS8の発売が遅れていたり、各モデルの在庫が不安定だったりしているようですが、そのあたりも今後軌道修正してくれると願っています。
そんなHibyですが、主力のDAP「Rシリーズ」とは別に、近頃は「RSシリーズ」という別ラインに力を入れています。
RシリーズはESS社など既製品D/Aチップを搭載する標準的なDAPで、コストパフォーマンスがそこそこ高く、サウンドやデザインのクセも少ないため、万人にオススメしやすいシリーズです。1万円台の「R2」から、「R3」「R5」「R6」と続き、ハイスペックな最上位モデル「R8」でも20万円台に収まるため、他社の高級DAPと比べると割安感があります。ただしR8になるとサイズも巨大になるので、私としてはR6(現行モデルは「New R6」)くらいが狙い所だと思います。
そんなRシリーズとは異なり、自社製のR2RディスクリートDACを搭載するのがRSシリーズで、RS6、RS2と続き、今回登場したのが最上位のRS8です。
R2とRS2では約1万円と6万円、R6とRS6では約10万円と20万円といった具合に、同じモデルナンバーで機能やサイズ感は共通していても、価格はRSシリーズのほうがずいぶん高いです。
RS8とR8 |
今回R8とRS8を並べてみても、一見ただの色違いかと思えてしまうくらい似ているので、値段が二倍も違うとは誰も想像しないでしょう。
しかも、R8の方が安いからといって音質が劣るというわけでもなく、ちゃんと最高クラスのD/Aチップやアンプ回路を搭載していますし、画面やOSインターフェースなどの使用感もほとんど同じですから、実際に音を聴いてみてRS8特有のサウンドに共感した人以外なら、R8を選んだ方が断然お買い得です。
RS6とRS8 |
私が使っているRS6というのはRS8よりも一回り小さいプレーヤーなのですが、こちらも半額程度で買えるNew R6と比べて音質が圧倒的に優れているというわけではなく、むしろ好き嫌いが分かれる個性的なサウンドです。
つまり、もしどんなDAPを買うべきか聞かれたら、10万円のNew R6(もしくは6万円のR5 Gen 2)はかなりオススメできても、RS6の方はよっぽど音質を気に入った人以外にはメリットが少ないモデルだと思います。
とはいえHibyとしても中身のD/A変換の違いだけでここまで大きな価格差を正当化するのは忍びないのか、R6、R8ともにハウジングがアルミなのに対して、RS6は銅、RS8はチタンと、それぞれ高級素材を採用しています。
ただし、これもまた、軽快なポータブルDAPを求めている人にとってはむしろ逆効果で、R6とRS6では235gと315g、R8とRS8では426gと584gといった具合に、どちらもそこそこ重くなっているため、やはり音質に説得力を感じる人以外はR6やR8を選んだほうが良さそうです。
DARWIN II
RS8に搭載されるD/A変換回路にHibyは「DARWIN II」という名前をつけています。RS6に搭載されていたのが初代DARWINで、今回はそれを発展させたものだそうです。
具体的には、デジタルデータを汎用プロセッサーでオーバーサンプリングした上で、回路基板上に並べられた固定抵抗のラダー(R2R)でアナログ波形に変換するという仕組みです。つまりICチップに任せるのではなく、16ビットなら16経路、基板上にビットごとの抵抗回路を組んで、そこで電圧を発生させて合成するという、極めて原始的な手法です。公式サイトにカッコいいCGイラストが色々載っているので参考にしてください。
さらにユニークな点としては、オーバーサンプリングをバイパスすることで、オリジナルのサンプルレート(いわゆる階段状の波形)をそのまま抵抗ラダーで出力する「ノンオーバーサンプリング(NOS)」モードも用意されています。
RS6の初代DARWINでは92個の抵抗を6つの高速スイッチICで駆動していたところ、DARWIN IIではその倍の184個の抵抗を12個のスイッチで動かしているそうです。公式サイトによると+15dB dynamic improvementと書いてあり、スペック数値を見てもRS6に対してダイナミックレンジが11dB向上しているようです。
R2R回路はその名の通り1ビットに対して三つの抵抗(R-2R)が必要なので、純粋なR-2Rであれば、左右合わせて92個なら16ビット相当になるのでしょうか。ただしRS8は184個だから32ビットというわけではなく、プラスマイナスのバイポーラー出力にして、DCオフセットをサーボかなにかで補正する方式に変更したそうです。
オーバーサンプリングに関しては、RS6では16倍(768kHz)でタップ数(前後に参照するデータ数)は256ポイントとありましたが、RS8はPCM 1536MHz対応だそうなので32倍になったのかと思ったら、公式サイトのブロック図を見ると16倍と書いてあります。
それはさておき、R2R式の根本的な問題として、184個の抵抗それぞれの製造誤差や温度変化によって歪が生じるため、DARWINではデータをそのままR2Rに送るのではなく、ハーモニクス制御とリニアリティ補正という二つの信号処理を通す事で問題に対処しているようです。具体的にどのような事をやっているのかは公式サイトには書いていないので、よくわかりません。(ソフト上でHarmonicsというスライダーが調整できるようになっているのですが、私が聴いた限りでは音の変化がわかりませんでした)。
なんにせよ、純粋なR2Rで16bit以上の性能を出すのは不可能に近いので(16bit = 1/256 = 0.0039で、回路全体の誤差が0.39%以内に収まらないといけないので)、1990年代にレコーディング側が20bitに、2000年代には24bitになってきた頃には、1bit パルス密度変調(PDM)のデルタシグマ変換を主体とした新たなD/A変換技術に世代交代しているため、現在ではR2Rというのはスペックよりも特定の音質重視のノスタルジックな「古き良き」デザインという印象があります。
R2R DAC ICで有名だったバーブラウンも、20bit世代には二つのR2Rをカスケードしたアドバンスド・サインマグニチュード式になり、24bit世代になると上位ビットはカレントセグメント、下位ビット(微小信号)はデルタシグマというハイブリッドのアドバンスド・カレントセグメント式になるなど、時代とともに音質と性能におけるベストの回答が変わっています。
デルタシグマも、昔の1bit 2.8MHzの時代と比べて近頃はスイッチングが圧倒的に高速になった事で、アナログとデジタルの境界線が薄れ、90年代に言われていたようなデジタルフィルターの問題点が解消されつつあります。ここ数年のESSや旭化成などのD/Aチップや、最近増えてきたFPGAを活用したディスクリートDACなどを見ても、たとえば有名なdCSは5bit 6MHzだったり、ほとんどが1bitではなく多ビットの高速オーバーサンプリングによるスイッチングで行われています。
しかしR2Rであれデルタシグマであれ、元データをオーバーサンプリングするアルゴリズム自体はChordなど一部を除いてはそこまで進化しておらず、タップ数も復元アルゴリズムも古典的なものが多いため、未だにR2RをNOSで鳴らす事のメリットを掲げているオーディオマニアも多いです。
将来的に、AIの機械学習による復元フィルターなどがリアルタイムで実用できるようになるまで、R2R対デルタシグマ、オーバーサンプリング対NOSといった論争は続くように思います。
そんな中でHibyはR8に対するRS8という形でこの論争に対する選択肢を提案しているわけで、RS8の方が高価だからR8よりも高音質だという保証はなく、単純にR2R回路を実装するのが高コストだから価格差が生じていると考えた方が良さそうです。
ヘッドホンアンプ
RS8のセールスポイントというとR2R DACのみに注目しがちですが、DAC以降のアンプ回路も大幅に進化しています。
ローパスはMUSES8920、ラインバッファーはOPA1612オペアンプ、ボリューム調整はNJW1195デジタル制御アナログ抵抗ボリュームというのはRS6と共通しているのですが、RS6やR8ではヘッドホンアンプ(つまりヘッドホンを駆動するのに必要なパワーを与える回路)にOPA1622オペアンプを採用していたのに対して、今回RS8ではディスクリートトランジスターのアンプ回路を搭載しています。
スピーカーアンプと違って、ポータブルDAPはそこまで高出力が必要でないため、わざわざディスクリートで組むよりも高精度なオペアンプを使った方が性能が出しやすいという考えもありますが、そこをあえてディスクリートで組む事で、メーカーの技術力をアピールでき、音質面でも設計者の理想に近づける事が可能になります。
もうひとつRS6と異なる点として、ライン出力にOPA1612オペアンプが専用バッファーとして追加されています。ちなみにR8にも同じくライン専用バッファーがあったので、上位クラスとして大きな筐体を生かして差をつけているのでしょう。
デザイン
R8とRS8は外観がほとんど一緒だと言いましたが、実際に手にとって比べてみると、R8は軽くてなんとなくテカテカしており、RS8の方がカチッと精巧に作られているように感じます。
それもそのはずで、R8のアルミシャーシに対して、RS8はポータブルDAPとしては珍しいチタンを採用しており、ブロックからNCで削り出したモノコックだそうです。表面処理はチタンの腕時計とかでよくあるサラッとしたマットな質感です。
RS8の方が質感が良いです |
裏蓋もネジがアクセントになってカッコいいです |
ボリュームノブとボタン類 |
マイクロSDカードスロット |
ボリュームノブやボタンの色合いもシャーシとピッタリ合っており、エッジの面取り具合も統一感があります。ボリュームノブのローレットも綺麗ですね。チタンということもあり、全体的にハイテクな宇宙開発とか医療用ロボットのプロトタイプのようなイメージが思い浮かびます。
背面がとても綺麗です |
特に背面の幾何学模様が非常に綺麗です。RSロゴだけ光を反射することで浮かび上がり、それ以外はマットグレーにマットホワイトという組み合わせがハイテク感を強調します。R2R DACなんていうと、80~90年代風のレトロイメージを強調しそうですが、あえて最先端っぽいデザインを選んだのは好感が持てます。
ただし、この背面のザラッとした質感は指紋などの油分が結構目立ってしまい、ガラスパネルのように拭き取る事ができないため、使っていると汚れが気になるかもしれません。
RS8とR8のケース |
装着した状態 |
このカッコいい背面パネルを強調するためか、それとも放熱の必要があるのか、青色の付属ケースは背面が大きく開いており、上下面も開いているため、ほぼ枠だけで、本当にケースと呼んで良いのか不安になるデザインです。
R8のケースはしっかり上面も背面も保護するタイプだったので、わざわざRS8のためにこういうデザインにしたとなると、どういう理由なのか気になります。
RS6のケースと比較 |
RS8の付属ケースは青色です。RS6は標準の付属ケースは茶色で、私は別売の緑色のやつを買って使っています。このRS6のキルティングみたいなパターンが結構好きなので、RS8も同じようなデザインの方が良かった、なんて思ったりもします。
SP3000と比較 |
画面は5.5インチの1920×1080フルHDということで、最近の上級DAPでよくあるサイズです。やはりAndroidアプリを使うとなると、これくらいの大型高解像が必要になるのでしょう。
先日試聴したAK SP3000も同じ画面サイズなので、並べて比べてみたところ、上面のボリュームノブを除けば面積も厚さもほとんど一緒です。SP3000が493gで重いと思ったのに、RS8は584gということで、さらにズシリと来ます。
私が使っているRS6が312g、R8は426gなので、RS8の584gを扱うにはそれなりの覚悟が必要なようです。
底面 |
底面にはヘッドホン出力とは別にライン出力も用意されており、しかも4.4mmバランスのライン出力もあるのが嬉しいです。
つまりRS8自慢のR2R DACを出た時点で、ボリュームやヘッドホンアンプ回路に送られる前の、一番ピュアーなアナログ信号を出力する事ができます。
個人的にRS6をライン出力DACとして使うのをかなり気に入っており、据え置きシステムのソースとして使っても十分引けを取らないと思うので、RS8もそういった活用が考えられます。
まだ4.4mm→XLR変換ラインケーブルを作っているケーブルメーカーが少ないため、今後もっと増えてくれる事を期待しています。iFi Audioが作っていますが、4.4mmの取手が大きすぎてケースを付けた状態だと入らないので不便です。
RS6と左右逆なので注意してください |
R8の時にも文句を言ったと思うのですが、底面のヘッドホン出力とライン出力端子の場所がRS6とRS8/R8では左右逆になっているので、特に買い替えを検討しているなら間違えないように注意してください。
私の場合、未だにどちらか間違えるので、普段使わないライン出力の方はゴムプラグを挿してあります。
システムバージョン |
アップデートがありました |
OSはAndroid 12でGoogle Play対応、SoCはSnapdragon 665にメモリーは8GB搭載しているので、ストリーミングアプリなども快適に使えると思います。ちなみにR8の方は2019年発売なのでAndroid 9にSoCが660、6GBという一世代前の構成なのですが、実用上はさほど変わらないだろうと思います。
RS8のファームウェアは私が借りた時点でアップデートがあり、1.04というバージョンになりました。
使い慣れたアプリです |
Google Playで任意のアプリをインストールするのも良いですが、私はHibyの標準プレーヤーアプリを使っています。
シンプルなよくあるデザインのプレーヤーアプリなので、可もなく不可もなくといった感じで使っています。SoCやシステムが高スペックなので、カードスキャンなどが高速なのが嬉しいですが、先日AK SP3000の最新プレーヤーOSを体験したばっかりなので、こちらのHibyプレーヤーアプリは古典的というか、汎用Androidアプリらしさが目立ちます。AKの方が多機能というわけでもないのですが、デザインとブランドイメージの統一感という点ではあちらの方が一枚上手です。
Hibyアプリ |
バージョン |
豊富な設定項目 |
USB出力設定 |
Hibyプレーヤーアプリが優れている点として、設定メニューにかなり細かい項目があり、特にUSB OTGトランスポートとして使う時の設定が豊富なのが嬉しいです。
せっかくの高級DAPをデジタルトランスポートして使うのももったいない気がしますが、出先でそういう場面も多いので重宝しています。
DARWIN設定 |
ちなみにDARWIN DAC関連の設定はAndroidシステム設定に集約されているため、他のアプリでも有効です。
R2R回路がアップグレードされたといっても、システム上での扱いはRS6の時とほぼ同じなので、私もずいぶん見慣れた画面です。フィルターやAtmosphere Enhanced、Harmonic Controllerなど、様々な項目があり、リスニング中に切り替えることができるのですが、それぞれの効果の説明が一切無いため、いまいち何が起こっているのかよくわかりません。
カスタムプリセット |
さらに特定のイヤホンに合わせて推奨セッティングに自動的に合わせてくれるカスタムプリセットモードも用意されています。主に中国のイヤホンメーカーを中心に、RS6ではもっと多くのイヤホンがリストアップされていたのですが、現在RS8ではたったの4種類のみでした。今後アップデートでもっと増えてくれると面白いです。
フィルター選択 |
ところで、RS6では、これまで何度かファームウェアアップデートがあったにも関わらず、なぜかショートディレイ系のFilter 10が前後逆という変な状況が続いているのですが、RS8の方はFilter 10がちゃんと正しい方向なので不思議です。ぜひRS6のやつも修正してもらいたいです。
フィルター1~10とNOS |
フィルターは十種類あるので、好みで色々と試してみるのも面白いでしょう。とはいえ、ほとんど同じような形のフィルターばかりなので、そこまで違いが感じられないかもしれません。変化が一番大きいのは前後非対称の10番でしょうか。四角形のNOSモードだけは一目瞭然ですね。
せっかくDARWIN DACで独自のフィルターを導入できるのだから、もうちょっと普通じゃない奇抜なアイデアも入れてくれたら良かったと思います。
フィルターとNOSの違い |
ノンオーバーサンプリング(NOS)モードだけは個別のトグルスイッチになっています。
フィルター設定は再生中に切り替えても反映されますし、NOSモードもしっかり動いています。RS6はこのあたりの初期バグが結構多かったのですが、それらの経験を経て、RS8は発売時からそこそこまともに動いてくれそうです。上の画像は44.1kHz/16bitの1kHzサイン波で、フィルターモードとNOSモードの違いです。
現状でファームウェア1.04ではDSDモードスイッチのみ挙動がおかしいようなので、それについては後述します。
オーディオ設定 |
MSEB |
DARWIN以外の設定はAudio Settingsにあり、今回はアンプがディスクリートになったということで、クラスAとABが選べたり、ターボモードもここで選べます。
他にもHiby特有のMSEBイコライザーや外部プラグインなど、見慣れた設定項目が並んでいます。
出力とか
いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波を再生しながら、負荷を与えていって歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧を測ってみました。
RS8はモードが多いのでグラフがごちゃごちゃしているのですが、内訳がわかれば傾向が見えてくると思います。
まず実線がバランスで破線がシングルエンド、一番わかりやすいのは黒線のライン出力モードで、これは明らかにヘッドホンアンプを通っていない、高インピーダンスな出力です。バランス、シングルエンドがそれぞれ4V・2Vrmsで、出力インピーダンスは170Ω・90Ωくらいのようです。
赤線はTurboモードON、青線はOFFの状態で、それぞれゲインが上からHIGH・MED・LOWの三段階あります。ちなみにクラスA・ABモード切り替えは出力特性には影響は無いようです。
グラフ全体の傾向として、TurboモードをONにすることで、最大電圧(グラフの上方向)と電流(左方向)の両方でパワーアップしている事が確認できます。つまり単純に最大電圧のリミッターではなく、実際にブースター効果が望めるので、たとえば鳴らしやすいマルチBA型IEMとかを使う時でも、あえてTurboモードでLOWゲインを選んでみるのも面白いかもしれません。
公式スペックによると、バランスのTurboモードで無負荷時に5Vrmsと書いてあるので、グラフの14Vppでピッタリ合っています。最大出力の780mWというのも20Ω付近で実測と大体合います。
同じテスト波形で無負荷時にボリュームノブを1Vppに合わせて負荷を与えていったグラフです。
バランスとシングルエンド、TurboモードのON/OFFに関わらず、出力インピーダンスがほとんど変わらず極めて低いので、さすがディスクリート設計の高級DAPです。計算してみるとどちらも0.6Ωくらいのようです。
参考までに、最近使ってみたDAPのグラフと重ねてみました。どれもバランス接続で最大出力が得られるモードのみの数値です。
RS6はオペアンプ、RS8はディスクリートにもかかわらず、似たようなパワーを狙って設計しているようです。その点R8の方が高電圧が得られるので、大型ヘッドホンには良いかもしれません。
Cayin N8iiは音質が色濃いだけでなく、低インピーダンスでの粘りも凄いですね。一方AK SP3000はこれらと比べるとかなり非力に見えますが、それでも凄い音質なので、やはりアンプのパワースペックというのはあくまで自分の適正音量に必要十分かという目安として、音質とは分けて考えるべきだと思います。
1Vppに合わせたグラフを見ると、どれも横一直線の定電圧で優秀ですが、ここでもR8が一枚上手なので、RS8よりも安いからといって侮れない存在です。
DSD再生
ところで、試聴しはじめて気になった事があります。DSDファイルの再生がどうもおかしいようです。
DSDフィルター |
DARWINメニューでDSDフィルターという項目があり、「Darwin Default」と「Darwin 1」の二種類から選べるようになっています。
これについては、RS6でも悩まされたのですが、今回RS8ではもっと変な事になっています。
RS6の発売時にはフィルターの選択肢が無く、現在のDarwin 1と同じフィルターのみに固定されていました。この状態でDSDファイルを聴くと、楽曲によっては音楽の静かな場面でキュルキュルと変なノイズが発生するというトラブルが発生しました。
その後RS6のファームウェアアップデートでDarwin Defaultフィルターが追加され、これだとノイズは聴こえないものの、迫力が無い、おとなしめのサウンドになってしまい、私としては、ノイズを我慢してでもDarwin 1フィルターで聴いたほうが良いと思えるくらいでした。このジレンマは未だに解決していません。
そして今回のRS8ですが、Darwin 1を選ぶとRS6と同じくキュルキュルとノイズが発生して、しかもRS6の時よりもノイズの音量が大きく、無視できないレベルになってしまいました。そしてDarwin Defaultを選ぶと迫力が無いサウンドというだけでなく、なぜか音量が大幅に下がってしまいます。
設定メニューでDSD再生のレベル補正ができるのですが(RS6では+3dBに設定しています)、それでは対応できないくらい小音量です。それならボリュームを上げればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、そうすると、続いてPCMファイルを再生するとものすごい大音量になってしまうため、あまり実用的ではありません。
DARWIN IIでDAC回路が二倍になったのに、DSDは片方しか使われていないとか、そういう問題なのでしょうか、なんにせよノイズと音量の両方を今後ファームウェアアップデートで改善してくれることを期待して、ひとまずDSD再生については保留にしておく事にします。
音質とか
今回の試聴でも、AK SP3000の時と同じように、普段から使い慣れているUE Liveや64Audio Nioなどのイヤホンを主に使ってみました。
64Audio Nio |
まずRS8の第一印象としては、期待通り、そのままRS6の進化系という感触がピッタリ当てはまります。個人的にRS6を毎日使ってきただけあって、流石に共通点や微妙な違いなどが瞬時に伝わってきます。
筐体が大きくなった事で、もっと荒っぽいパワフルさを強調したサウンドになるかと心配していたところ、意外と綺麗にまとまっており、目立った不満や疑問点などは思い当たりません。
Onyxレーベルから、Andrew Manze指揮リバプールフィルのヴォーン・ウィリアムズ「ヨブ」を聴いてみました。一応EPという扱いですが48分もある大作です。
ManzeのRVWシリーズは交響曲全集と管弦楽集が一枚出て終わりかと思っていたら、ここへ来て仮面劇ヨブもリリースしてくれたのは嬉しいです。一曲目の宇宙的な鳴り響き方や六曲目の悪魔のテーマなど、Onyxのサウンドは相変わらず圧倒的に素晴らしいですね。96kHz・24bitハイレゾ録音の真価を体験したいなら、絶対に欠かせないレーベルだと思います。
RS6と共通する、RS8の魅力を一言であらわすなら、リラックスした鳴り方、といった感じです。他の高級機と比べて特段解像感が高いとか、空間展開が広いというようなハイスペックさを強調した鳴り方ではありませんし、逆にR2RやNOSと言われて想像するような古臭く荒っぽい音作りでもありません。
全体的に太い音色が混雑しない程度に広く分散していて、急な飛び出しや、不明瞭に隠れる帯域も無い、堂々とした鳴り方で、とくに私みたいに往年の国産CDプレーヤー名機のサウンドが好きな人は共感が持てると思います。
RS6とRS8では、主に低音側に違いを感じます。RS8の方が量が増すというよりは、中域と同じような充実した鳴り方が、もっと低い帯域まで維持できているようで、いわゆるスイートスポットが拡張されたような印象です。
普段RS6を聴いていて不満は無くとも、RS8を聴いた後にRS6に戻ると、なんだか物足りない気がしてしまいます。RS6に装飾をしてRS8になったというよりは、RS8が完成形で、RS6は音楽の一部が描ききれていないような感じすらあります。自動車に例えるなら、同じ車種だけどエンジンが違うグレードの差みたいなものです。
このあたりのグレードの差というのは、先程言ったように、往年のCDプレーヤーとかを知っている人なら、なんとなく意味が伝わると思います。最近のDAPなどはモデルごとにICチップや設計思想が全然違っていたりして、同じメーカーのグレード順列みたいなものが伝わりにくいと思うのですが、CDプレーヤーの頃はメーカー独自のサウンドの上下関係みたいなものが強かったように思います。
サウンドの傾向から、私の勝手なイメージでは、RS6がデンオンのDCD-1650シリーズだったら、RS8はDCD-S10やS1みたいな感じといえば、昔のオーディオマニアには伝わるでしょうか。どっしりと安定した鳴り方で、なにか特出した派手さや艶やかさは無いものの、どんなシステムや音楽ジャンルでも安心して導入できるような傾向です。
普段から大型ヘッドホンを据え置きアンプのシステムで鳴らしていて、それと比べるとIEMイヤホンは派手すぎて聴いていられない、と思っているような人におすすめできるDAPだと思います。単なる無難なサウンドというわけではなく、他社のハイエンドDAP勢と比較しても十分健闘できる描写の完成度を持ち合わせていながら、自己主張が強くないため、長時間音楽を聴いていても飽きが来ないあたりが良いです。しかし、逆に言うと、他の鮮烈なDAPを知ってしまうと、ついそちらに浮気したくなるような、主張の弱いサウンドでもあります。
RS8はフィルターやゲインなど、音質に関するセッティング項目が多いため、色々と試してみたところ、上で紹介したようなRS8のサウンドを根本的に変えてしまうようなモードは無く、かなり微妙な変化のようです。私の耳では、楽曲によっては多少違いがわかるかな、というレベルで、ブラインドだったら判別できる自信がありません。
特にクラスA・AB切り替えは、これまで同様の機能があるDAPだと、クラスABの方が良くて、クラスAは暑苦しくて嫌いという事が多かったのですが、RS8の場合はどちらかで長時間聴いていても、どっちだったか忘れてしまうくらい気になりませんでした。自慢のR2Rとディスクリートアンプがサウンドを決定づけていて、それ以外の細かい点はそこまで影響しないのかもしれません。結局一通り試した後は、フィルター1・クラスABで満足して使い続ける事になりました。
RS8とのRS6の比較 |
今回RS8を試聴するにあたり、個人的に一番気になっていたのは、実際のところRS6と比べて圧倒的に優れているのか、買い替えを検討すべきなのか、という点でした。
何度かじっくりと聴き比べてみたところ、確かにRS6よりも全ての面において優秀だと思えるのですが、進化の方向がどちらかというと丸くリラックスした感じに向かっているため、ちょっと判断が難しいと思えました。
同じ高級DAPでも、AK SP3000のような立体的な奥行きや、Cayin N8iiのような艶やかなゴージャス感とは違い、RS8はまとまりが良すぎて「なんとなく良い雰囲気」に落ち着いてしまいます。先程のCDプレーヤーの例に戻ると、エソやマランツと比べてDENONの上級機はどうなのか、というような感じです。
もっと言うなら、RS8の鳴り方は「ポータブルDAPとして」どうなのか、という悩みです。私みたいに外出先の騒音下でイヤホンを聴くために活用するなら、RS6ですらマイルドすぎるのに、RS8ではなおさら、他社のDAPで感じられるようなスカッとしたエッジやインパクトが欲しくなってきます。大きなシャーシサイズも含めて、自宅でまったり聴く用途には良いと思うのですが、RS6を手放して乗り換えるというには、いまいち使いづらいです。
そんなわけで、若干煮え切らない気分で試聴していたところ、ふと思ったのですが、私が使っているイヤホン(NioやUE Liveなど)は、RS6など自分が普段使うDAPで良い感じに(不快感が少なく)鳴るモデルばかりを選んでいるわけで、それが駄目なのかもしれない、という発想が浮かびました。
そして実際に、RS6ではあまり好んで使わないようなイヤホンをあえて選んでみたところ、これがバッチリ合うようで、やはり新製品の試聴というのは一筋縄ではいかない事を思い知らされました。
UM Maven Pro |
後日MEST MkIIでも |
具体的には、Unique MelodyのMaven ProやMEST MkIIは、RS8との相性が抜群に良いです。
これら最近のUnique Melodyイヤホンは、音のクオリティは非常に高いものの、音作りの特性がちょっとピーキーで、特に高音が派手な感じがして、個人的には敬遠しがちでした。Campfire Audioとかと同様に、ツボにはまる人にはオンリーワンになるイヤホンなのですが、私では使い所が難しく、新作が出るたびに試聴してはいるのですが、なかなか特徴が掴めず評価が難しいと思っていました。特に、比較的安いグレードのMEXTというモデルが個人的に結構好きなので、それよりも上位のMaven ProやMEST MkIIのメリットをどう評価するかという点で悩んでいたわけです。
そんなわけで、今回RS8であえてMaven ProとMEST MkIIを鳴らしてみたところ、どちらもMEXT以上に絶好調の凄い鳴り方をしてくれました。Unique Melody以外のイヤホンでも、ハイブリッド型などでコントロールが難しい派手めなタイプはRS8との相性が良いと思います。
ちょっと古めのアルバムですが、上の写真で聴いているHarmonia Mundiのパンドルフィのヴァイオリン・ソナタ集は、Unique MelodyとRS8の相性の良さが存分に体験できるアルバムです。
ハイレゾではなく44.1kHz・16bitのCD音源なので、DARWIN IIのポテンシャルが引き出されているのでしょうか。ちなみにヴァイオリンを演奏しているのは上で紹介したOnyxのヴォーン・ウィリアムズを指揮していたManzeです。
Uniuq MelodyをRS8で聴くと、ヴァイオリンやチェンバロの音色がまさに「美音」と呼べる素晴らしい響きをしており、聴き慣れない楽曲であっても、純粋に音色の美しさだけで延々と聴いていられます。
RS8はアンプのアナログ回路で過度に響きだけを強調させるような鳴り方ではなく、楽器の基調音そのものが上の方まで太く安定して鳴ってくれるおかげで、Unique Melodyの高音の音作りの技工が本領発揮するようです。そして低音側もRS8がしっかりサポートしてくれるおかげで、高音だけがギラギラ目立つような事にならず、豊かな雰囲気の情景を生み出してくれます。
Maven Proとバロックのヴァイオリンの組み合わせは、他の一般的なDAPで聴くと高音が目立ちすぎて聴きづらいと思えてしまうところ、RS8がもう一歩上の音楽体験へと引き上げてくれるようです。
また、同じ組み合わせを今度はRS6で聴いてみると、RS8と比べて低音付近の描き方が足りないというだけでなく、意外と高音側もRS8ほど伸びやかに描かれていないということに気がつきます。つまり、RS6とRS8は全体的な雰囲気は同じだけれど、RS6は雰囲気を引き出せているレンジが狭いという風に思えてしまいます。たとえば、イラストや漫画で、情景の書き込みが足りないような感じでしょうか。
ただし、ここでちょっと困るのは、全ての楽曲やイヤホンとの組み合わせで、このように上手く行くとは限らないという点です。そのあたりがRS8の弱点になるかもしれません。
たとえば、私のUE Liveや64Audio Nioは、これまでRS6以外の色々なDAPや据え置きアンプで聴いてきて、そこそこ良い感じのイヤホンだと思っていたので、RS8はイレギュラーという事になります。他にも、個人的に凄いと思っているゼンハイザーIE900などのダイナミック型イヤホンも、RS8だとどうも落ち着きすぎて、もうちょっとキラキラ感を求めたくなってしまいます。
たぶん、RS6の時は「さすがR2Rは一味違うな」という純朴な感覚で楽しめていたものが、RS8のレベルになると、全体的なポテンシャルが引き上げられたため、もっといろいろな事を考えるようになったのだと思います。そのあたり、RS8はどのような条件でも使えるレファレンス的なDAPという感じではなく、逆にRS8の魅力を最大限に引き出せるイヤホンを探すような使い方になってしまいそうです。そして、もしそれが実現できたら、他のDAPでは体験できない凄いサウンドが得られます。
ライン出力DACとして
個人的に、これまで長らくHiby RS6を使ってきたわけですが、このDAPのライン出力が意外と音が良くて重宝しています。出先の友人宅やショップなどで、3.5mm→RCA変換ケーブルで凄いハイエンドシステムに接続するような機会が何度もありました。
もちろん他のDAPにもライン出力が用意されているモデルは多いのですが、RS6のは格別音が良い感じで、据え置きシステムに導入しても、自分なりにそこそこ満足できる仕上がりだと思っています。
これまた、昔からオーディオマニアをやっていた人なら共感してもらえると思うのですが、長年CDプレーヤーを使ってきて、USB DACに乗り換えてから、それはそれで凄い高音質だとは思うものの、やはり昔のCDプレーヤーと同じサウンドは得られないと思っていたところで、RS6は多少なりともそんな往年のサウンドを実現してくれます。
そんなわけで、RS8も、せっかくのディスクリート・ヘッドホンアンプ回路はバイパスされてしまいますが、R2R DACがDARWIN IIに進化したことで、RS6よりも優れたライン出力である事を期待しています。
据え置きアンプへのラインソースとして |
ライン出力端子から据え置きヘッドホンアンプに接続して聴き比べてみたところ(写真はPass Labs HPA-1)、RS8はRS6よりも確かに優れていると思います。
DSDは相変わらずダメですが、PCMであれば素晴らしいサウンドを奏でてくれます。ここでもまた冒頭で言ったDENONのCDプレーヤーのグレード違いという例えがピッタリ当てはまったので、つまりヘッドホンアンプ回路ではなく、DARWIN DAC周辺の違いが現れているという事になるのでしょう。
音像のプレゼンテーションは比較的遠く分散しているものの、音が太く芯があり、低音のどっしりした安定具合が大幅に向上しています。これはRS8特有のラインバッファーや、大型バッテリー電源による貢献でしょうか。低音は安定しても膨らまず、しっかりしたタワーの土台のように音楽の基礎になってくれるため、その上の演奏が堂々としています。
よくDAPやバスパワーDACをラインソースとして使う場合、しっかりした据え置きDACと比べると、高解像ではありながら、どうしても宙に浮いたような不安定な鳴り方になってしまいがちなのですが、その点RS8は比較的しっかりした土台が感じられて、全体的に落ち着いたリラックス系のサウンドなので、ポータブルDACだと意識せずに使えるあたりを特に気に入っています。
私自身が一昔前のCDプレーヤー全盛期っぽいサウンドが好きだから良いと思っているだけであって、もっと近代的なS/N・SINAD至高主義なDACを好む人にとっては、RS8は緩くて歯切れが悪い古臭いサウンドのように感じるかもしれません。
ただし、そういった高解像ハイテク系サウンドのDACは、今では数万円でもそこそこ良いものが手に入るのに対して、音楽的に自分の好みに合って、しかもクセが少なく鳴ってくれるDACとなると、そこそこハイエンドな製品になってしまいがちなので、私としては、もしラインレベルDACとしても活用するのであれば、RS8はそこまで悪い買い物でないかも、なんて思えてしまいます。
RS8ドック |
余談ですが、RS8の発売と同時にRS8専用ドックというのも登場したようなのですが、こちらは現物を見たことがないので、なんとも言えません。
写真を見た限りでは、ただの充電スタンドのようにも見えますが、裏側にはXLRライン出力端子もあるので、一体どんなギミックが詰まっているのか気になります。巨大なファンやヒートシンク、そして回路基板みたいなものも見えるので、ブースターアンプでしょうか、それともFiio X17みたいな本体冷却用扇風機スタンドでしょうか。なんにせよ、55万円のDAP用ですから、このスタンドも決して安くはないだろうと思います。
おわりに
Hiby RS8の発表を見た時から、自分が使っているRS6が陳腐化してしまうのでは、買い替えを余儀なくされるのでは、なんて勝手に心配していたのですが、今回実際に使ってみた結果、意外としっかり棲み分けができているようで、安心しました。私自身はこれからも当面の間はRS6を使い続ける事になりそうです。
今のところ買い替えは断念しました |
私にとって、RS8はバッグに入れて出先で使うにはあまりにも大きく重すぎる、というのが最大の理由ですが、音質面でも、RS6の丸くカジュアルなサウンドの方がポータブル用途に適しているような気がします。
さらに、試聴した感想として、RS6からRS8に乗り換えたら、普段使っているイヤホンのコレクションも考え直す事になりそうです。20万円から55万円になった事で、単純に全てが良くなったというよりも、むしろソースやイヤホンの潜在能力を引き出す事になり、考える事が増えてしまったという意味では、玄人向けの製品だと言えそうです。
RS8の唯一の不満として、私みたいにジャズやクラシックを聴く人にとってDSDはまだ重要なので、DSDファイル再生周りの完成度が低いあたりが致命的です。今後ファームウェアアップデートで対応してくれることを願っています。
それにしても、近頃はRS8と同じくらい巨大なDAPが各社フラッグシップ級で続々登場しているわけですが、各メーカーごとにしっかりと用途の棲み分けができている事に関心します。特に最上級機ともなると、各メーカーが目指している方向性がはっきり提示され、昔と比べてポータブルDAPの垣根を超えたメーカーごとの特色が強調されてきたおかげで、我々消費者としても選びやすくなっています。
たとえば、Fiio M17は、平面駆動型などの大型ヘッドホンを大音量で鳴らせる強力なアンプを搭載することで、巨体になるのは当然だと思いますし、AK SP3000は、イヤホンに特化しているとはいえ、従来のSP2000を凌駕する凄いサウンドを実現するために回路を突き詰めたらあのサイズになってしまったと言われると、納得せざるを得ません。
そしてRS8も、今回試聴して感じたように、ちょっと前までは重量級のハイエンドCDプレーヤーでしか味わえなかったようなサウンドを、あの筐体に詰め込んだと考えると、むしろよくDAPサイズに凝縮できたと関心してしまうくらいです。R2Rといっても古臭い大味なサウンドではなく、往年のオーディオマニアでも十分納得できる上質なサウンドを実現しているあたりは、確かに凄いと思います。
RS8はポータブルDAPといっても、出先で気軽に使うというよりは、家庭での据え置きシステムに組み込む事も視野に入れた使い方に向いている製品だと思います。古いハイエンドCDプレーヤーを今でも使っているオーディオマニアはまだ結構多いようですが、長く使いたくてもレーザーの供給が無くなり修理できなくなりつつあり、しかし、最近主流のUSB入力対応のCDプレーヤーやストリーミングDACに移行しようとしても、イマイチしっくりこないとか、満足できるサウンドの機種は法外な値段になってしまい困っている人も多いだろうと思います。そんな時、ひとまずメインの据え置きDACとは別腹で、RS8のようなDAPがあると、ラインDACとして往年のしっかりしたサウンドが手軽に味わえて、一石二鳥のお買い得な製品のようにも思えてきます。
今回のHibyなど、中国を中心にバイタリティあふれるメーカーが積極的に高音質技術を追求してくれているおかげで、DAPというのが単なるポータブルガジェットにとどまらない新たなルネサンスを迎えているようで、オーディオマニアにとっては夢のような時代になったなと、つくづく関心させられます。