JH Audio Astell&Kern Rosie |
JH (Jerry Harvey) Audioというと、RoxanneやLaylaなどの超高級イヤホンメーカーとして有名です。自分専用の耳型に合わせて作る「カスタムIEM」がメインですが、ユニバーサル型のイヤホンも作っており、中でも2014年に発売されたRoxanne Universal Fitは、17万円という高価なモデルでありながら、愛用者が多い人気商品です。
Rosieはその中でも低価格モデルとして2016年に登場したニューモデルで、これまでのようなプラスチック製ボディではなく、新開発メタルボディになったことが注目を浴びています。
広く知られている話ですが、JH Audioというのは、過去にUltimate Ears名義で高音質イヤホンを展開していたJerry Harvey氏が、2008年に独立して立ち上げたメーカーです。Ultimate Ears社は現在は米Logitech(Logicool)の傘下なので、実際のところ往年のUltimate Earsサウンドを継承しているのがJH Audioだということです。なんかロックバンドのメンバー移籍騒動みたいなストーリーですね。
公式サイトを見ると、アーティスト向けのプロモデルがメインです |
怪しさ満点のLaylaカスタムIEM |
Siren Series Roxanneユニバーサル |
もちろんカスタム業界では他にも色々なメーカーが頑張っていますが、デビュー当時の話題性という意味ではJH Audioに勝るものはありません。「たかがイヤホンが、ここまで高価でも許されるんだ」というゴーサインを出したブランドと言えるかもしれません。
ちなみに、JH Audioのメイン商品はプロミュージシャン用のカスタムモニターであって、音楽鑑賞用(いわゆるイヤホンマニア向け)の商品は、Layla、Roxanne、Angieといった「Siren Series」というシリーズで販売しています。
今回紹介する、2016年に新たに登場した「Rosie」は、JH Audioユニバーサル型イヤホンの低価格モデルとして米国で$899(約10万円)で販売されています。このRosieの登場と同時に、過去のモデルも従来のプラスチック型から、新たな削り出しメタルボディで新規設計され、バージョン2としてリフレッシュされました。その中でRosieのみが全くの新作になります。
Layla II、Roxanne II、Angie II、Rosie |
RosieはJH Audioのラインナップでは最低価格ながら、高・中・低域に各2ドライバづつの、合計6ドライバを搭載した本格派マルチBAイヤホンなので、そのコストパフォーマンスに期待が募ります。
現行のJH Audioユニバーサルモデルは、Roxanne IIとLayla IIが4+4+4の12ドライバ仕様で、その下のAngie IIが2+2+4(高域)の8ドライバです。つまり、今回のRosieは純粋にドライバの数を減らしたのみで、設計上一切の手抜きや廉価版といった印象を与えません。
実際ドライバ数をむやみに増やすだけで高音質になるとは言い切れないため、値段の差はドライバ数の差だと割り切れば、決して音質面で不利な選択というわけではありません。
米国での定価は、Layla IIが$2799、Roxanne IIは$1899、Angie IIが$1299、そしてRosieが$899です。こう見ると、Rosieがかなり戦略的にお買い得感のある価格設定だという印象を与えます。
ちなみに、今回発売された「バージョンII」シリーズは、全てメタル削り出しボディなので、残念ながらカスタムIEM仕様は今のところありません。(各人の耳型ごとに金属を削り出しするのは手間がかかりすぎますので・・)。
カスタムモデルは従来機が継続して販売されており、これまではユニバーサルよりもカスタムのほうが数万円割高でしたが、現在はメタルボディのバージョンIIと、プラスチックボディのカスタムでほぼ同等の価格になっているようです(米国では)。
これらのモデルはAstell & Kernとのコラボレーションモデルとして流通されているため、ショップなどではJH Audio Rosieではなく、「Astell & Kern Rosie」という名称で販売されているケースが多いため、注意が必要です。
Astell & Kernとのコラボレーションというと、私自身はベイヤーダイナミックとのコラボモデルBeyerdynamic AK T8iEを購入しています。実はこのイヤホンは最近片チャンネルの音が出なくなってしまったので、返品修理に出したのですが、その際ベイヤーダイナミック製造元のドイツではなく、Astell & Kernの韓国に送り返されました。結局修理ではなく、新品が送られてきました。つまり、JH Audioのようなガレージメーカーにとって、コラボレーションモデルというのは、流通やカスタマーサービス面でもメリットがあるのかもしれません。
パッケージ
さすが高級IEMイヤホンということで、パッケージもそこそこ豪華です。いろんな情報満載のスリップケース |
マット調の内箱はかっこいいですが、指紋が目立ちますね |
JH Audioのアメリカンっぽいガヤガヤしたスリップケースの中には、Astell & Kernの刻印があるスタイリッシュな質感のボックスが入っています。この手法は、ベイヤーダイナミックAK T8iEと似たようなデザインです。
アクセサリーはこんな感じで、まあ普通です |
アルミケースが付属しています |
ボックスを開けると、上部にイヤホンと交換イヤーチップなど、そしてその下に、アルミ製の豪華な収納ケースが入っています。このオレンジ色のケースはとても質感が高く、実用性も十分にあるのですが、実際に使うとなると傷がつきそうで心配になります。こういうのをボコボコになるまで無造作に使い込めるような人であればカッコいいですね。「あとで中古で売るかもしれないし・・」なんてセコい考えでは、どうしてももったいなくて使えません。
アルミケースと、交換用2.5mmバランスケーブル |
ちなみに、Astell & Kernとのコラボレーションということで、同社プレイヤーと合わせて使える2.5mm 4極バランスケーブルが付属しているのも嬉しいです。というのも、JH Audioのケーブルは特殊なタイプなので、社外品でケーブルを買い足すのが困難だからです。
3.5mm、2.5mmどちらのケーブルも、Moon Audioというメーカーの高品質ケーブルだそうです。
本体デザイン
Rosieのイヤホン本体は、これまでのJH Audioユニバーサルタイプとは全く異なる、メタル削り出しです。同社はこれを「フルメタル・ジャケット」と呼んでいますが、ひんやりとした手触りは、まさにそんな感じです。外面デザインはカーボンファイバーにJHとAstell & Kernのロゴがオパール調の虹色素材で描かれており、外周は磨いた銅と金の合間のような眩しいオレンジ色です。JH Audioらしいデザインを継承しながら、メタルボディになりました |
サウンドは三つの金属チューブを通って出音されます |
イヤピースを接続するダクト部分はとても長く、先端には三つの銀色のチューブが確認できます。この音導管デザインがJH Audioのユニークなポイントで、ステンレス製の「Steel Tube Waveguide」という技術だそうです。BAドライバの先端からチューブの長さを微調整することで、各ドライバからの音の到達時間を管理して位相乱れを防止する「FreqPhaseテクノロジー」という技法です。
イヤピースはごく一般的なソニーサイズが入るので、色々なチップを試すことができました。付属でSMLのシリコンと、コンプライ的な低反発スポンジが同梱されています。個人的に、同梱シリコンのMでは小さすぎて、Lでは大きすぎたのですが、普段使っているJVCのスパイラルドットイヤピースのMLサイズがぴったりでした。
この手のイヤホンは低音の量感がイヤピースの密着度で極端に変わるため、自分にピッタリ合うサイズを見つけるまでは、真面目な試聴は無意味です。
高音質なのに、フィットに苦労するLayla Universal Fit |
ところで、従来型のJH Audioは、RoxanneやLaylaなどのユニバーサルタイプを試聴する機会はこれまで何度もあったのですが、毎回フィット感が悪すぎて、全然まともな試聴ができませんでした。なんというか、耳に入れて手で押さえつけていればそこそこ高音質に感じるのですが、ちょっとでも油断すると耳からポロッと落ちたり、または左右の角度が微妙にズレて、ステレオイメージが台無しになってしまったり、本当に残念なデザインでした。
もちろんフィットに関しては、個人差はあると思いますが、私の友人も二人、初代Roxanneユニバーサルを購入して、全くフィットすることができずにすぐに手放してしまった人がいます。まあそれだけ人を選ぶ形状だということです。
今回のフルメタル・ジャケットシリーズは、従来型と比べると雲泥の差と言えるくらい、フィット感が良好になっています。見た目は巨大で、どうにもフィットが悪そうに思えるのですが、いざ耳に入れてみると、「これはカスタムIEMか!」と思うくらい、すんなりと耳に入っていきます。やはり個人差はあると思いますが、ピッタリと合うイヤーチップさえ見つかれば、かなり良好なフィット感が得られると思います。
いくつか問題として感じたのは、まずJVCのイヤーチップは、ソニー(細い)とゼンハイザー(太い)の中間くらいのサイズなので、Rosieに使うと若干ゆるめです。携帯時、装着時には問題無いのですが、Rosieのダクトはストレートなチューブで、なんの凹凸も無いので、リスニング後にイヤホンを外そうとすると、イヤピースが耳孔に残ったままで、ダクトがスッと抜けてしまいます。
イヤピースによっては、ダクトが露出してしまいます |
また、このダクトが非常に長いため、短めのシリコンイヤピースだと、音導管の先端が飛び出しています。純正シリコンチップであれば、先端が若干細くなっているため、露出することは無いのですが、それ以外では結構飛び出します。もちろん音質に影響しますし、特に気になったのは、イヤピースをグッと耳奥まで押し込むと、銀色の音導管が耳中にあたってヒンヤリとした感覚があります。耳垢が付着したりするのは怖いので、音質を犠牲にしてでもコンプライのフィルター系を使うべきか、悩ましいです。
ユニークなケーブル
Rosieのケーブルは取り外し交換可能なのですが、一般的なMMCXコネクタや、カスタムIEMで主流の2ピンコネクタではなく、独自形状を採用しています。ケーブルのコネクタは4ピンのねじ込み式です |
このケーブルは各イヤホンごとに4本のケーブルがあり、イヤホン側の端子も4ピンになっています。ねじ込み式なので、着脱はソニーのMDR-EX1000なんかと似たようなシステムです。
なぜ4ピンが必要なのかというと、ケーブルの根本側に二つのネジが付いているモジュールがあり、これを回すことで、左右ドライバの低音を調整することが可能になっています。中高域と低域用で二系統のケーブルがあり、そのうちの低域を調整するので、そのために4ピンケーブルが必要なわけです。
低音調整にはマイナスドライバーが必要です |
ケーブルは高品質なのかよくわかりません |
これは、たとえば家庭用スピーカーのバイワイヤリングや、業務用アクティブモニターのチャンネルデバイダー的な機能と一緒ですね。
低音調整機構というと、ゼンハイザーIE80の調整ネジがありますが、あれは機械的にバスレフポートの穴を開けたり締めたりするシステムですし、AKG K3003やShure SE846のノズル交換も、空気の流れを抑制するフィルターでの調整です。JH Audioのシステムはそれらと異なり、電気信号レベルでの調整です。
この低音調整には小さなマイナスドライバーが必要なため、リスニング中に頻繁に調整するというよりは、自分の好みの位置に合わせておくという使い方が正しいと思います。左右のネジが別々なので、微妙にズレていないか、ちょっと心配になります。
低音調整の効き具合はかなり体感出来るレベルで、ブラインドで自分が「フラットだ」と感じるレベルは、ほぼ中間位置でした。あまり極端に低音を上げると、結構下品な鳴り方になるので、オススメできません。高域カットではなく、低域ブーストなので、それ以外の周波数帯への影響は少ないです。
音質について
まず、3.5mmアンバランスケーブルで試聴してみました。せっかくのAstell & Kernとのコラボレーションということで、ソースにはAK240を使いました。AK240と合わせてみました |
低域調整システムのおかげで、低音の量感が好みに合わせられるのは楽しいです。実際、イヤホンにおける低域の適正量というのは、人それぞれの好みで、本当に意見が別れます。メーカーがどんなに高音質のイヤホンを作ったとしても、リスナーごとの主観で「これは低域不足、あれは低域過多」というコメントが帰ってきます。それらの不満が調整ネジで一掃できるというのはありがたいことです。
ただし、増強しすぎた低音はボワボワした反響が強く、質感は悪いので、EDM用の低音モンスターのようなエフェクトは期待できません。低音の力強さは、イヤピースの選択で調整するほうが効果的かもしれません。
密閉感の悪いイヤピースであれば質感重視になりますし、コンプライなどの低反発ウレタンを使えば、低音の音圧が強烈になりますが、その反面で伸びやかな残響が抑えこまれてドライな傾向になってしまいます。
低音調整ネジを、個人的にベストだと思った中間位置に合わせて試聴を始めました。
試聴には、まずオーソドックスなジャズ演奏の「Sullivan Fortner: Aria」96kHzハイレゾPCMを聴いてみました。インパルスレーベルから期待の新人ピアニストで、トリオ演奏と、ゲストでテナー、ソプラノサックスのTivon Penticottが参加しています。スタイルはごく一般的なメインストリームといった感じで、ナイスなバラードから過激なソロまで、盛りだくさんのアルバムです。
Rosieの第一印象は、歯切れのよいクリアなサウンドです。音像の前方距離感は近いのですが、左右のステレオがワイドに広がるため、各楽器のイメージが固まらずに見通しが良いです。
実はこのアルバムは、最新録音にしてはサウンドがこもり気味で、なんか歯切れが悪いな、なんて感じてました。そのため、Rosie特有のクリアな演出が爽快で、音楽の緩急がとてもエキサイティングになります。とくにピアノのアタックを感じ取れることで、演奏自体のリズムが体感しやすくなります。
各楽器の音像は脳内に点在するような感じですが、それら一つ一つが美しく端正なので、分析的なモニター調サウンドというよりは、色々なサウンドがキラキラと輝く、楽しめるサウンドです。
高域はとても刺激的で、アタックの金属音が耳につくケースがあるので、そういったサウンドを求めている人には快感ですし、もっとまったりしたサウンドが好きだという人もいると思います。なんというか、開放型のGradoに近い印象があります。たとえばシンバルのクラッシュや、スネアのリムなどはちょっと硬質に感じることがあります。Gradoで言うと、低音の調整具合でSR325とPS500を行き来する感じでしょうか。
次に、バロックオペラでパーセルの「ディドとエネアス」コリン・デイヴィス指揮のアルバムを聴いてみました。フィリップス1970年の録音ですが、最近PentatoneレーベルからSACDリマスター版が発売されて、高音質で蘇りました。
オペラのようなアンサンブルが複雑に入り組んだ録音を聴くと、Rosieの見通しの良さが発揮されます。とくに、ヴァイオリンのアンサンブルは感動的な美しさなので、これだけのためにも一聴の価値があります。オケの生演奏感覚というよりは、弦楽器群の一つ一つのアクションがダイレクトに脳内に伝わってくるような、ベールの無いサウンドと直結する体験です。
ただし、Rosieのサウンドは、刺激的な高音と比べて、中域、とくにボーカル域がちょっと薄いため、ドンシャリ傾向のサウンドです。このあたりはJH Audioのラインナップでも、より高価なモデルのほうが表現力が一枚上手なところです。
Rosieは高音がクリアだということで、女性ソプラノなんかもさぞかし美しいのだろうと期待しますが、実際はボーカル帯域の上のほうだけが強調されるため、エネルギー感が薄く、サラサラと流れてしまいます。
たとえばバロック歌曲でありがちな、ヴァイオリン伴奏の上で歌っているシーンなどでは、ヴァイオリンとソプラノ歌手の歌声が同じ高音の帯域に被さってしまうため、一体感がありすぎて流れてしまいます。もうちょっと低い方まで質感が保てていれば、歌手のボディ部分が浮き出て実在感が引き立つと思います。
このプレゼンテーションは、サウンドの一体感という方向性ではとても綺麗でスムーズな仕上げ方なので、好き嫌いが別れます。
注意が必要なのは、低音調整ネジは、あくまで低音の強弱であって、これ以上中域を持ち上げることは不可能だということです。つまり、「ドンシャリ」サウンドから「ドン」を押さえて、「シャリ」にすることが出来る、といった程度です。
続いて、フランスのAmbronayレーベルから、メゾソプラノ歌手Stéphanie d’Oustrac とピアノ伴奏Pascal Jourdanのフランス歌曲集「Invitation au voyage」を聴いてみました。96kHzのPCM音源です。
先ほどのバロック歌曲とは異なり、メゾとピアノのコンビということで、Rosieの魅力が引き出せるアルバムでした。落ち着いたピアノ伴奏は高域の刺激音が目立たないですし、メゾはRosieくらい軽快なほうが、重苦しく感じさせず、美音に聴こえます。
クリアな高域というと、たとえば私の持っているイヤホンの中では、AKG K3003が近いかなと思い、比較してみました。たしかにK3003も高域が強調されたサウンドなのですが、その表現の方法が異なります。Rosieは、多少高音のアタック部分がカキンと鳴るような刺激があり、それ以降の残響は、意外とすぐに消え去ります。つまり、ハウジング自体の共振は上手に制御されているのかもしれません。あまりキンキンと響くといった感じではなく、クリアで透明感のあるサウンドステージの中で、アタックのエッジがキツく、緩急がエキサイティングだという程度です。
一方で、AKG K3003の場合は、高音のアタックそのものは比較的穏やかなのですが、鳴り響くサウンドに金属的な輪郭があり、強調されます。つまり、楽器や演奏によって、それが「美しい響き」と感じられるか、または「無駄な金属質感」と感じられるか意見が別れます。クラシックなどの自然録音でヴァイオリンやピアノの金属弦が響き渡る演出は得意ですが、擬似的な電子音は不快感が増します。そういった楽曲による「合う、合わない」が少ないのはRosieの方だと思います。
また、同じAstell & Kernコラボレーションモデルということで、ベイヤーダイナミックAK T8iEも比較してみましたが、もうサウンドが根本的に異なるので、似ている部分は一切ありませんでした。T8iEはRosieと違い、前方定位感がものすごく、遠くまで伸びる距離感があります。一方で、各楽器パートなどが混じりあってしまい、Rosieのようなクリア感は皆無です。
T8iEはなんというか、繊細なのにヌルヌルしたメリハリの乏しい質感があり、嫌いな人には最悪なサウンドだと思います。個人的には、コンサートホールの生演奏に近いのがAK T8iEで、録音スタジオでバンドの各パートをミックスしている状態がRosieだと思います。私は個人的にRosieよりもAK T8iEのサウンドのほうが好みです。
バランスケーブルと、音割れトラブル
3.5mmケーブルで満足な試聴ができたので、同じくAK240にて2.5mmバランスケーブルを試してみようと思いました。2.5mmバランスケーブルを使ってみたのですが・・ |
ここで、トラブルが発生しました。先ほどと同じ楽曲を、同じ音量にて聴いてみたのですが、バランスケーブルだとバリバリと派手な音割れが発生します。とくに大音量のパッセージで、カラオケマイクの音割れみたいな酷いノイズが入ります。
3.5mmアンバランス接続では、このような問題は全く感じられなかったので、もしかしたらAK240の2.5mmバランス端子の問題かと思って、ひとまずベイヤーダイナミックAK T8iEを2.5mmバランス接続で試してみたところ、Rosieと同じ音量でも音割れは一切確認できません。
再度Rosieの2.5mmバランス接続に戻して、色々とテストしてみると、小音量ではノイズが発生しません。また、3.5mmアンバランス接続においても、これまでのリスニング以上に大音量の爆音にすると、同じような音割れノイズが発生することがわかりました。
結局、AK240のパワー不足が原因でした。実はRosieでリスニングを始めた時点で、意外と能率が悪くて、普段使っている時よりも結構ボリュームを上げないといけないな、なんて思っていました。
AK240は最大ボリューム表示が「150」なのですが、普段AK T8iEでは90から100くらいが自分にとっての適正音量なのに、Rosieでは100から115くらいで同等の音量になります。最大の150までにはまだ余裕があるため、頭打ちの心配は無いと思ったのですが、バランス駆動においては110くらい、アンバランス駆動では120くらいからバリバリとノイズが発生します。
ちなみに、AK T8iEで、爆音を覚悟して120まで音量を上げても、気になるノイズは一切発生しません。つまり、低インピーダンスによる電流不足ですかね。バランスとアンバランスではノイズが発生する音量が異なるということは、BAドライバ自体の飽和では無さそうです。
ちなみにRosieの公称インピーダンスは17Ω、AK T8iEは16Ωで、どちらも117dB/mWということでほぼ違いは無いのですが、シングルダイナミックドライバ型でフラットなインピーダンスを持つAK T8iEと比較して、Rosieの場合はマルチドライバBA型なので、インピーダンスは激しく上下することが予測されます。
たとえば、静かな環境で、低音量でリスニングする場合には問題無いですし、平均音量の高いポピュラー音楽であれば、音割れの心配はありません。しかし、騒音下で普段よりボリュームを上げるような場合や、クラシックのピアノや歌曲リサイタルなど、平均音量がとても静かで、急激なダイナミクスの強弱があるような録音では、とくにバランス接続時には、これらのピークが潰れて、酷いバリバリノイズになってしまいました。
AK240のパワー不足だということを確認するために、AK240から光デジタル出力でChord Mojoに接続して、そこからリスニングしてみると、AK240よりもさらに爆音にしても、一切の音割れノイズは発生しませんでした。
Mojoの音量表示がグリーン→ブルーというのは、結構な高レベルです。貧弱なヘッドホンアンプではRosieの駆動に苦労すると思います。
Chord Mojoであれば音割れは皆無でした |
このトラブルはRosieの問題というよりDAPのせいなのですが、それでもちょっと困りますね。そもそもAKシリーズとのペアリングとしてコラボレーションしているイヤホンなわけですし、またAK240自体が、最大音量付近でボリュームが頭打ちになるのではなく、無理に駆動しようとして音割れするというのは、アンプの設計上あまりよろしくありません。
たとえばソニーとかは、低インピーダンスIEMを使っても、あえて音割れしないギリギリのレベル以上には音量が上げられないように設計されていますし、他社のアンプでは、バリバリノイズを出さないように、スムーズに潰れるような回路設計のものもあります。
AK240の場合は、普段のリスニング中に、派手な音割れが発生しない音量にボリュームを下げたとしても、もしかしたらシンバルなどの急激なアタック音では、瞬間レベルで音割れしているのかも、という不安感がつきまとうようになってしまいます。
ようするに、クラシック音楽など、過度なダイナミクスがある録音で、Rosieを十分な余裕を持って駆動させるためには、Chord Mojoなどの高出力アンプを使った方が良いということです。
追記
米国を中心に2016年2月ごろから販売されていたRosieですが、日本での発売は同年5月まで延期されました。サウンドについてなど色々と微調整があったようなので、私が試聴した海外流通版とどのくらい変わっているか不明ですが、上記の音割れ問題も低減されているようであれば嬉しいです。まとめ
JH Audio Rosieは、シリーズ中最低価格のモデルということを感じさせない、ハイクオリティな仕上がりのイヤホンです。新開発のメタルボディは美しいですし、ユニバーサルモデルながらフィット感は抜群です。とくに、これまでのJH Audioユニバーサルモデルをフィットの問題で敬遠していた人達に、ぜひ試してもらいたいです。
音質は、新鮮でクリア、ステレオイメージが広々とした、上手な音作りです。特に、一昔前のマルチBA型でありがちな、定位のバラバラ感や、拡声器のようなホーンサウンドは皆無で、とてもまとまりの良い仕上がりです。
金属的で刺激がある高域と、サラッとした開放感のある中域、そして低音調整ネジのおかげで自由度の高い低音表現が魅力的です。
また、サウンドの見通しがよく、IEM特有の耳が詰まったような不快感が少ない、たとえばGradoなどの開放型ヘッドホンを使っているような錯覚を覚えます。SR325などのハードコアサウンドが好きな人にオススメしたいです。
普段のリスニングにおいては、高音質な映画音楽やエレクトロなど、解像感が味わえる楽曲であったり、バロックオーケストラなど、弦楽器の繊細な表現を味わいたいシーンで大活躍します。個人的にはあまり聴きませんが、Rosieという名前の由来の通り、ハードロックなんかも刺激的で楽しいかも知れません。Rosieよりも上位クラスのモデルになると、もっとフラット系になり、中域に芯が出てくるので、ボーカルがさらに魅力的になります。この辺は単純に上下関係というよりも、好みが分かれるように思います。
フィット感や遮音性は良好、駆動するアンプにさえ注意すれば、非常にエキサイティングなクリアサウンドが味わえるユニークなイヤホンなので、機会があればぜひ試聴してみることをおすすめします。