内蔵128GBメモリ、バランスヘッドホン出力搭載、PCM192kHz・DSD256ネイティブ再生対応の、ハイエンドDAPです。
日本での発売は2016年3月、現在の売値は20万円くらいです。最近Astell & Kernの高級DAPを試聴してきたりして、金銭感覚がマヒしてしまいそうですが、20万円というのはDAPの中でも高価な部類です。
Cowon Plenue S |
このPlenue Sは発売当時にこのブログで簡単に紹介したことがあるのですが、(→ http://sandalaudio.blogspot.com/2016/02/cowon-plenue-s.html)それから色々と考えた末に、最近ついに買ってしまいました。
ということで、追記というか、実際買って使ってみた感想なんかを書き留めておこうと思いました。
Cowon
Cowon社は、同じく韓国のiRiver社(Astell & Kern)とはライバル的な関係の、小型電子機器メーカーです。iRiverがプレミアムオーディオ向けに「Astell & Kern」というブランドネームを立ち上げたように、Cowonも高音質DAP向けに「Plenue」というブランドがあります。
現時点でPlenueシリーズは
- Plenue D (~30,000円)
- Plenue M (~90,000円)
- Plenue 1 (~130,000円)
- Plenue S (~200,000円)
といったラインナップになっており、全体的にAKよりも低めの価格設定になっています。DAPの価格帯で見ると、FiioとAKの中間くらいの位置づけでしょうか。
ところで、このCowonという会社ですが、韓国の公式ウェブサイト(http://product.cowon.com/)を見るかぎりでは、主力製品はPlenueではなくタブレットや車載用ドライブレコーダーとかみたいです。
公式サイトはドラレコをプッシュしてます |
あとはMP3プレイヤーやタブレットなど |
イヤホンラインナップはどうもオーディオマニア向けではありません |
オーディオ製品においては、低価格なDAP(いわゆる「MP3プレイヤー」)のラインナップが充実しているみたいなのですが、最近はほとんどの人がスマホで音楽を聴いていると思うので、実際MP3プレイヤーの売れ行きは好調なのかどうか不明です。また、同じくサイト上に載っているイヤホンなんかも、明らかにOEMっぽいチープなモデルばかりです。
日本の公式サイト(コウォンジャパン)ではPlenueシリーズが全面的にフィーチャーされていますが、なんとなく日本語が面白いというか、自社スタッフによる直訳っぽくて、コピーライターを雇わなかったと思われる、意味は伝わるけどイマイチなフレーズが満載です。(たとえばPlenue Sのキャッチフレーズは「最高それ以上のサウンド」、とか・・・)。
個人的にPlenueシリーズDAP以外でCowon製品を目にすることは少ないわけですが、それでも、なんとなくこういうメーカーが作っているんだな、と思いを馳せると、頑張ってるんだなと関心してしまいます。
Plenueシリーズ
AKとPlenueはどちらも韓国のメーカーですし、「Linux(アンドロイド)ベースのカスタムOSを搭載したタッチスクリーンDAP」、ということで、比較しやすいライバル関係です。とは言っても、両者のDAPには大きな違いがあります。
AKのDAPといえば、Bluetoothや無線LANなどを搭載して、家庭内ロスレスストリーミング、据え置き型オーディオシステムとの連携や、CDリッピング、そしてベイヤーやJHなど大手ヘッドホンメーカーとのコラボレーションモデルといった感じに、ユーザーを取り巻くリスニング環境全体を積極的にプロデュースする方向性なのに対して、Plenueというと、単独の音楽再生用ポータブルプレイヤーのみ、という孤独な立ち位置を、かたくなに維持しています。
AKのDAPにおける無線ストリーミング機能や周辺機器対応などに関わるコストは、少なからずAKのプレミア価格の一部として反映されていると思うので、AKとPlenueの価格差はそのまま音質差であるとは言いきれないと思います。
Plenue 1とM |
Plenue M・1・Sはどれもアルミシャーシに3.7インチ液晶画面を搭載、OSインターフェイスも同じものを使っているため、ぱっと見では各モデルの違いはあまりよくわかりません。(低価格のPlenue Dのみ、異色というか、なんとなくCowon MP3プレイヤーの系統なように思えます)。
重量とシャーシ厚さはPlenue Mと1が約170g・13.4mmなのと比べて、Plenue Sが204g・17.8mmという感じなので、重く厚くなっています。
パッケージ
前回試聴した際には本体のみでパッケージは手元に無かったので、今回はせっかく買ったことですし、箱とかの写真を載せようと思います。紙の帯付きパッケージ |
そのまま本体が入っています |
パッケージはプレミアム価格なくせにコンパクトで、ブルーレイケースを何枚か重ねたくらいのサイズ感です。
紙の帯を外して、ボンネット式に開けるとそのまま本体が入っています。本体のスポンジを外すと、下の層にケースやアクセサリが入っています。
ケースの中にアクセサリ箱が入っています |
説明書類 |
アクセサリはUSBケーブルのみでした・・・ |
レザーケースの中に紙箱があり、そこに様々な豪華プレミアムアクセサリ類が入っているのかと期待していたのですが、中身は説明書と、マイクロUSBケーブルのみでした。なんかショボいですね。
ちょっと意外というか、予期していなくて焦ったのは、画面の保護フィルムが同梱されていませんでした。これまで数多くのDAPを買ってきて、必ず保護フィルムが入っていたので、いや絶対入ってるだろう、と探しまわったのですが、入っていません。
既存ユーザーに聞いてみたところ、やはり同梱されていないため、よくショップがオマケで付けてくれるそうです。Plenueを買う人は、これをチェックするのを忘れないようにしてください。
また英語が怪しいCowon公式保護フィルム |
ショップに尋ねたところ、Cowon謹製のPlenue 1用保護フィルムを買わされました。Plenue Sでもピッタリ合います。この公式フィルムはごく普通のテカテカしたシリコンのやつなので、もしこのサイズでもっと高品質な、指紋がつきにくいやつとかご存知の方がいましたら是非教えて下さい。
付属のレザーケース |
ステッチが綺麗です |
ケースはレザーケースなのですが、以前試聴した時にはそこそこ高級だと思っていたものの、やはりAKのやつと比べると、なんかちょっと風合いが薄い、無個性な感じがします。ベタッとした茶色一色で、二ヶ月使ってもエージングっぽくなってないです。
もうちょっとビンテージレザーっぽさを全面的に出すような質感の方が喜ばれると思います。スカイブルーのステッチはポップなイメージで、結構好きです。
本体
あらためて本体の写真を撮ったので、とりあえず載せておきます。地味なデザイン |
Fiio X5-IIと比較。意外と大差無いです |
厚さもX5-IIといい勝負です |
まあ特徴の無い長方形の物体ですね。デザインが好きで買うようなものではありません。スマホが厚くなったという感じです。知らない人が見たら、古代のスマホかと思って驚くと思います。
ドック接続用端子 |
Plenue S専用ドック |
本体下部にはマイクロUSB端子と、専用ドックと連携するためのライン出力端子があります。このドック、買うかどうかは別として、バカっぽくて気になっているのですが、なかなか試す機会がありません。背面にはXLR出力のみ搭載しているようなので、充電+ライン出力用なのでしょうかね。
ダミーのSDカードが入っていました |
マイクロSDカードスロットは一つだけです。実は今回Plenue Sに乗り換える際に、一番困ったのが、ストレージです。これまで使っていたAK240は内蔵256GB+マイクロSDだったのですが、Plenue Sは内蔵128GBしか無いので、転送する音楽ライブラリをかなり削るはめになりました。
特にPlenue SはDSD256のネイティブ再生ができると浮き足立っていたのですが、あれはアルバム一枚で10GB以上するものが多いので、128GBでは結構辛いです。
結局いろんな曲を聴きたいので、96kHzやCD音源ばかり選んでしまい、せっかく超ハイレゾ音源とか盛り上がっていたのに、容量の関係で断念することになりました。
マイクロSDカードは200GBのものがありますが、書き込みがメチャクチャ遅いので(200GB書き込むのに半日かかります・・)、高速な64GBを何枚か持っています。Plenue Sはカードの読み込みが速いので、入れ替えるのも楽ですが、その際にはわざわざレザーケースを外さないといけないのが面倒です。
ちゃんと対応するか心配ですが、DAPユーザーには朗報です |
ちなみに、今これを書いている時点で、ちょうどSandiskがようやく高速書き込み対応(Sandisk Extreme)の256GBマイクロSDカードを発表しましたので、喜んでいます。でも当分のうちは値段が高すぎて手が出せないでしょう。
カッコいい電源スイッチ |
Plenue Sを裏面から見ると、結構かっこいいデザインですね。電源スイッチがオシャレです。通常のヘッドホン出力とバランス出力はどちらも3.5mm端子なので、挿し間違えに注意が必要です。
再生中は白色LEDがゆっくり点滅します |
充電中は赤色です |
ところで、この電源スイッチなのですが、ちょっと悩みの種です。実は多色LEDが内蔵されており、音楽再生中はボーッと白いLEDが呼吸しているように点いたり消えたりします。結構カッコいいエフェクトなのですが、このLEDがそこそこ明るいので、周囲が暗い時だとかなり眩しいです。設定画面でこの点灯をOFFにすることもできるのですが、それでは味気ないので、どうしようか悩んでいます。
ちなみにUSBケーブルを接続して充電中は赤色、充電が終わると緑色になるので、わかりやすいです。
印象的なリアパネル |
裏面は縦に入ったグリル状のデザインが特徴的です。ヒートシンクっぽいですが、実際本体はそんなに発熱しません。この手触りはどこかで見たことがあると以前から思っていたのですが、今「グリル状」と書いていて気がついたのは、なんとなくテフロンのグリル板とかに質感が似ています。
こんなイメージです |
ところで、嫌な話題ですが、実は先日友人のFiio X7と私のPlenue Sを比較試聴していた時、偶然両者が正面衝突して、シャーシの角に傷がついてしまいました。
もうすでに傷が・・。 |
両者が同じような角度で衝突したのですが、何故かX7はほんのかすり傷程度だったのに、Plenue Sはグサッとえぐったような深い傷跡が残っています。つまりアルミの硬度が弱いんですかね。よくDAPメーカーのセールストークで「航空機用ジュラルミン製」とか言ってて、「そんなのどうでもいいだろ」と思っていたのですが、もしPlenue Sが高強度なシャーシだったら逆にX7を粉砕していたのに、と今となっては悔やんでいます。
USB接続
MSC(マスストレージ接続)なのが嬉しいです。つまりパソコンに接続すると、そのまま外付けUSBメモリのように振る舞います。MSC接続は嬉しいです |
内蔵メモリ、マイクロSDともに、Windows上で外付けドライブとして表示されます |
これは当たり前のようですが、たとえばアンドロイド系では意外とそうでないDAPが多いので、ありがたいです。とくにAKのDAPはMSCではなくMTP(メディア転送モード)なので、一般的な外付けUSBハードディスクのようには扱えないのが難点です。
MTPモード自体は悪くないのですが、これまでの経験上、パソコンによって正常に認識されなかったり、転送が途中で止まったりなど、予期不能なことがあります。256GBを一晩かけて転送しようと思って仕込んだのに、翌朝起きて見たら、途中でエラーで止まっていたことなどが何度かありました。Plenue SのMSC接続では、他の外付けHDDと同様に、そのようなコピー時の不具合は経験していません。
USBケーブル接続時に、どちらか選択できます |
本体の設定で、MSCか、USB DACか選べるようになっているのですが、後者を選択すると、毎回USBケーブルを接続した際に、選択画面が出てきてくれるのは非常に嬉しいです。
他のDAPだと、毎回設定を切り替え忘れて、データ転送したいのにDACモードになったり、逆もあったりでイライラさせられました。
DAC
肝心のオーディオ回路については、とくにD/A変換チップにおいて、他社のDAPがこぞってESS Sabre ES9018などを搭載している中、Plenueシリーズは未だに旧世代のバーブラウン社製DACを選んで使っていることがユニークです。PCM1792A |
最下位のPlenue MがバーブラウンPCM1795、Plenue 1とSがPCM1792Aを搭載しています。
PCM1795と1792Aはほとんど同じチップで、1792Aの方がチップ単価が高くてダイナミックレンジなどのスペックが若干良い程度です。2003年登場のチップなので、かなりのロングセラーで、数多くの据え置き型CDプレイヤーやDACなどに搭載されてきました。
PCM1792Aが旧世代のD/Aチップと言っても、最近のものと比べてサウンドが古臭いとか低スペックというわけではなく、その逆で、効率が悪く、回路の実装に手間がかかる分だけ、音作りの自由度がある、というメリットがあります。
とくに、最近では稀な電流出力型DACなので、チップ後に電流/電圧(I/V)変換用オペアンプが必要になり、余計なコストと電力を使います。
最近大人気のAKM AK4490EQ |
ちなみにAK第三世代が採用しているAK4490EQはバルク購入で一枚300円、PCM1792Aは900円くらいなので、さらに後続するI/V変換回路のことも考えると、古いPCM1792Aにあえてしがみついているのは、コスト的にも不利です。
消費電力の差もポータブル機では結構厳しいレベルなので、バッテリー再生時間とかを考えると、できれば最新の高効率D/Aチップに乗り換えたいところでしょうけど、音質面やこれまで培ってきた「Plenueらしい」サウンドシグネチャーを失いたくないという意味で、PCM1792Aから離れられないのでしょう。
具体的には、PCM1792Aはチップを駆動する消費電力は最大340mWにもなります。旭化成AK4490EQは145mW、ESS ES9018Sは100mW程度で、さらに下位チップを使えば消費電力は下がり、たとえば旭化成AK4452は50mW、最近よくポータブルDACで見るESS ES9018K2Mでは40mWといった感じです。(同じ9018でも、フルスペックな9018Sと簡素な9018K2Mでは結構違いますね)。
PCM1792Aの消費電力は、再生サンプルレートで結構変わります |
必要なときに必要な分だけ電流を消費するヘッドホンアンプ回路と違って、DACチップというのは音楽再生中は常時電力を消費するものなので、このチップ効率の差は結構大きく効いてきます。とくに旧世代のDACは、ハイレゾやDSDを再生するときには通常より何倍もの電力を使うチップが多いです。
DACチップだけで音が決まるわけではないですが、後続するアンプ回路の設計にも少なからず影響を与えるため、全体的な音作りの要であることは確かです。
そういった意味でPlenue Sは旧世代的な思想でコスト度外視な贅沢設計を行ったという、ユニークな存在です。最近多くの自動車がハイブリッドや電気に頼った次世代設計に向かっている中で、最後までガソリンエンジンの高級車にこだわっているメーカーみたいな印象です。
使用感について
Plenue Sの音質については、以前試聴した時に書いたとおりの印象です。なにも感想を変えたいことは思い当たりません。(→ http://sandalaudio.blogspot.com/2016/02/cowon-plenue-s.html)非常に音楽性が高く(退屈しない?)親しみやすいサウンドです。シビアなモニター調でも、マッタリとした重厚感でもなく、リズム感とスムーズさ、そして新鮮さを両立している、自然体な良い音です。通常、どんなオーディオ機器でも、何度も試聴を繰り返すと、そのうち段々と問題点や粗が目立ってくるものなのですが、Plenue Sは例外的に、聴くたびにサウンドに関心してしまうような個性的で印象深いサウンドです。
ちなみに格安セールとか中古品とかではなく、自腹でほぼ定価で買ってしまったので、個人的にかなり気に入ってたわけです。コスパは悪いですし、AKなどと比べて市場価格は下がる一方ですが、やはり音楽は聴くことが第一なので、ただ集めるだけのコレクターと違って、音楽鑑賞にはベストな環境でできるだけ長い時間音楽を聴くことが大事だ、と自己暗示しています。
インターフェース
Plenueシリーズの操作インターフェースは、2ヶ月以上ほぼ毎日使ってきた今でも、非常に満足しています。起動がとても速いです |
まず、電源ON/OFFが非常に速く、起動から実測11秒で音楽が聴けます。シャットダウンも7秒でした。
Fiioなどは起動時間が遅いため、できるかぎりシャットダウンしたくないので、スリープ状態でのバッテリー消費が気になるポイントでしたが(X5-IIではかなり改善されましたが)、Plenue Sの場合は使い終わったらスリープなどは気にせずに、完全にシャットダウンすることが苦にならないです。
使いやすく無駄の少ないインターフェース |
VUメーターのエフェクトは目を引きます |
スキンは何種類かあります |
主要な設定ショートカットがあるのはAKとかと似ています |
そして、マイクロSDカードの音楽ファイルを読み込むスキャニングの時間が非常に高速です。これは以前の試聴レビューでも絶賛しましたが、何度使っても感動は変わりません。
設定メニューからライブラリ構築のスキャンを行った場合、128GBカード目一杯でも20~30秒で読み込みが終わりますし、わざわざそうしなくても、とりあえずカードを挿入しておけば、知らない間にライブラリが自動的にメキメキと構築されていくのは本当に嬉しいです。他社のDAPでも、AKとかはそこそこ高速ですが、酷いメーカーだと10分以上かかるDAPもあります。
リストのスクロールは高速です |
また、選曲画面のスクロールのスムーズさはAKを凌駕しています。スイスイ快適です。
ところで、アーティスト名やアルバム名全てに [タイトル] ←こういう括弧が付いているのはなぜですかね。不要なので消せるようにして欲しいです。
設定画面の日本語表示は意外とまともです |
色々豊富な設定があります |
JetEffect
Cowonというと、JetEffectが搭載されているのが長年のセールスポイントになってます。個人的にあまり使ったことは無いのですが、MP3プレイヤーの時代からずっとCowonといえばJetEffectというくらい有名です。JetEffect 7 |
PlenueシリーズにおけるJetEffectとは何かというと、具体的には:
- イコライザー
- BBE+
- ステレオエフェクト
イコライザー |
サウンドエフェクト |
イコライザーは5バンドのパラメトリックEQ、ステレオエフェクトはコーラスやリバーブなどの音響効果です。
BBE+というやつは結構複雑なのですが、BBEという会社が開発した音響効果エフェクトを、Cowonがライセンス契約を結んで搭載しています。
ちなみに他にも多くのメーカーがBBE機能を採用しているのですが、バッファローのサイトに情報が書いてありました(音声補正技術「BBE」特集)。
英語の公式サイトにはさらに詳細な情報がありますが、このサイト右上の日本語サイト・リンクをクリックしたら、メチャクチャ怪しい海外投資ファンド斡旋みたいなページに飛ぶので、笑ってしまいました。(修正されているかもしれません)。
色々と遊べるBBE+機能 |
BBE+での設定画面を見ると、各項目がどれもスライダーで強弱が調整できます。
まず「BBE」というのは高域のタイミング修正とEQによる微調整を自動的に行なって、よりクリアなサウンドが得られるという効果です。つまり通常のイコライザーのみでは得られない複雑な音響処理エフェクトです。
「MACH3BASS」というのは、同様に低域側を修正してくれてより深い低音が出るようになるそうです。
「3D Surround」というのは文字通りステレオ感の拡張機能ですね
そして「MP Enhance」というのは、MP3などの圧縮音源をより原音に近く復元してくれるエフェクトです。
これらのBBE+エフェクトは、どれも似たような機能を他社製品でも見たことがあると思いますが(ソニーのClearAudioとかDSEE+とか)、BBE+はそれ専門で開発している会社で、古くから愛用されています。
昔のカセットプレーヤーのBBEエフェクト |
ひどく昔の話になりますが、1990年代のアイワ製カセットプレーヤーとかミニコンポとかに、BBEエフェクト機能が搭載されていて、当時は魅力的に感じたものです。「音がキラキラする」と驚いた記憶があります。最近はハイレゾ音源だなんだと言っても、今も昔も音楽の楽しみ方は変わらないですね。もちろんエフェクト自体は進化していると思います。
録音用のBBEエフェクトユニット |
スマホ用アプリも売ってます |
それと、録音業界では、バンドとかの生録音がしょっぱい場合にBBEエフェクトを通すことでより活気あふれたサウンドになるため、古くから活用しているエンジニアも多いです。
最近では、スマホ用音楽再生アプリでBBEエフェクトが使えるやつも売ってたりして、色々手広くやってるな~と関心してしまいます。
ユーザー4種と、プリセットが多数あります |
これらを自由に調整して、自分の好みに合ったプロファイルを4つまで保存できるのですが、それ以外でも、ごく一般的なJAZZやROCKなどのプリセットがありますし、あとはBBE ViVA(ステレオ拡張)やBBE MPなど、各BBE技術の効果を味わえる簡単プリセットも搭載されています。
私は通常「Normal」プリセット(全エフェクトをOFFにした状態)で聴いていますが、世の中の音源が全て完璧というわけではないので、食わず嫌いはせずに、こういったエフェクトを使って楽しむのも面白いかと思います。効き具合は結構強烈です。
ただし、他のDAPとの比較試聴をするときなどは、必ず「Normal」モードになっていることを事前に確認してください。
ちなみにDSD再生時には全てのエフェクトがOFFになります。ネイティブ再生なので仕方がありませんね。
長期間使ってみて
そこそこ完成度が高く、実用上あまり不便が無いPlenueのOSですが、他社製DAPとくらべてみると、インターフェース面でいくつか改善してもらいたい部分はあります。この辺をCowonに伝えたいのですが、どうにもコミュニケーション下手な会社みたいなので、この機会を借りてリストアップしてみます。DAP慣れしている方であれば、見てうなずいてもらえるポイントが幾つかあると思います。インターフェースで改善してもらいたいポイント:
スクロール中に画面端にスクロールバーを搭載して欲しいです。現状だとAからZに行くためには延々とフリックでスクロールしないといけないので辛いです。Onkyo HF Playerみたいに、画面右端のスクロールバーを指でなぞるとA、B、Cなどアルファベットで任意にジャンプできるようになれば、かなり快適になると思います。(実はできました。でも画面端の超ギリギリな部分のみなので、レザーケースを装着していると厳しいです)。- ボリューム操作をタッチスクリーンのスライダーなどでできるようにして欲しいです。現状だと本体側面の物理ボタン押しっぱなしか連打しか無いので、AKとかみたいに指でなぞって任意の音量に調整する手軽さに慣れていると、面倒です。とくに、下記の問題と関連しています。
- イヤホンを挿すとボリュームが初期位置(70/140)に自動的に戻ってしまう設定をOFFにしたいです。これは耳を守る安全面では良いアイデアかもしれませんが、色々なイヤホンを比較試聴したりするときにはイライラさせられます。また、バランス出力では適応されないとか、70以上だと70に戻るけど70以下だとそのままだとか、ヘッドホンモードだと60だとか、挙動がわかりづらいです。
思い当たるのはそれくらいで、普段使いではとても快適で満足しています。
バグとか
あまり致命的なバグにはまだ遭遇していませんが、いくつか確認できるものはありました。ファームウェアは現行Ver. 1.1です。バグ①:電源起動時に最初に選択した曲がDSDの時(たぶん?)、再生が始まっても無音なことが稀にあります。一旦再生をストップして、別のDSD曲を選んでも無音だけど、PCM曲を選ぶとちゃんと音が出ます。それからDSD曲を再度選べば音が聴こえるという、謎の不具合がたまに起きるので戸惑います。
バグ②:一曲のファイルサイズが2GBを超えるもの(たとえばDSD256の長い曲とかでたまにあります)では、曲のタグ情報を読み取ってくれず、どの曲も必ず「Unknown」というタイトルとして表示されてしまいます。
2GB以上の曲は「Unknown」というアルバムに全部まとめて入ってしまいます |
たとえば、あるアルバムが
- Track 1:1.8GB
- Track 2:2.3GB
- Track 3:1.2GB
バグ③:USB DACモードに積極的ではないのは理解できますが、MacからDoPでDSDを再生しようとすると爆音ノイズが出るのはどうにか対策して欲しいです。DSD対応DAPなので、DoPでも使えると想定して使おうと考える人は結構います。とくに最近XLRライン出力用の専用ドックが発売されたので、よりUSB DACとしての使い方を期待する人は増えるでしょう。
USB DACモード
試聴時のレビューでも、USB DACモードが不完全だということを書きましたが、発売から半年経った今、現行の最新ファームウェアVer. 1.1をインストールしても、その状態は変わっていません。というか、公式サイト上でWindows用DACドライバが手に入りません。ようするに、今のところWindowsではUSB Class 1標準オーディオドライバのみで、96kHzまでに制限されるようです。
WindowsではMicrosoftのクラス1標準ドライバになります |
ドライバが不要なMacの場合でも挙動が不安定で、何故か88.2kHzと172.6kHzが使えず、DSDも爆音ノイズが出るなど、何かと不便が多いです。要するにあまりUSB DACとしての用途は考えていないのでしょう。
MacのAudirvanaにて |
Windowsでも88.2kHzと172.6kHzは未対応のようです |
そもそも私のように、他にも色々とUSB DACを持っている人であれば、わざわざPlenue SをDACとして使う機会は稀だと思いますが、でも旅先でちょっとパソコンと接続したい時など、これではかなり不便ですね。
Mac上でも対応が限定されているとなると、単純にWindows用ドライバを提供するだけでは済まないようです。今後ファームウェア更新とかでどうにかなることを期待しています。
光デジタル出力
以前試聴時にテストした通り、DSDは光出力できず、無音になります。PCMの場合は192kHzまで問題なく出せるので、かなり重宝しています。色々な場面で活躍する光デジタル出力 |
光ケーブルを挿せば、そのまま自動認識してくれるので、余計な手間がかかりません。
AKと同じく3.5mmTOSLINK端子なので、これまでどおりトランスポートとして活用できるのは嬉しいです。それでもやはりFiio X5-IIのほうが同軸デジタル出力でDSD(DoP)出力ができるため、一枚上手です。
バランス出力
Plenue Sのバランス出力端子はAK 2.5mmではなく、3.5mmという珍しい規格なので、ケーブルを探すのに苦労しています。普段使っているベイヤーダイナミックAK T8iEイヤホンは、ALO Tinselケーブルが一本余っていたので、それを切断してバランスに改造しました。
ALOケーブルをPlenue S用バランスに改造しました |
ちなみにAK 2.5mmは先端からR-・R+・L+・L-なのですが、Plenue S 3.5mmは先端からL+・R+・L-・R-(つまり普通の3.5mm端子のグラウンドが分離した状態)なので、そのままピン互換のアダプタなどは使えません。
それと、AK同様に、コネクタのスリーブにもオーディオ信号が流れるので、本体のシャーシと接触してショートしないように注意が必要です。上記写真のように、薄手のスミチューブなどでスリーブ根本の金属が露出しないよう絶縁するのが楽です。
Plenue Sとバランス接続 |
バランス出力は、かなり良いです。AKでバランス出力にした時のメリットとほぼ近いですが、AKがより中低域のドッシリとした安定感が増して、スケールが大きくなる印象なのに対して、Plenue Sの場合はもっと中域の芯が太くなり、ボーカルなどが明確になる傾向だと思いました。音が厚くなるというよりは、ボーカル以外の要素が丁寧に空間を空けて、余裕を与えてくれるような、プレゼンテーションが一層クリアになる感じです。
AK、Plenue Sともに、バランスにすることで根本的なサウンドを覆すほどの音色の変化はありませんが、可能であればバランス出力の方を選びたい、といった程度です。
こんな感じにAKケーブル用変換アダプタがあると便利です |
Cowon純正のはこんなやつです |
ためしにAK2.5mm用と4ピンXLR用の変換アダプタを作ってみました。ちなみにCowon純正のPlenue S→AK 2.5mmケーブル用変換アダプタも売っており、見た目はとても高級で上質なケーブルを使っているらしいのですが、実際に店頭で使ってみたところ、2.5mm端子側の接触があまり良くなく、押さえつけてないと接触不良になってしまうので、買わずに自作しました。たぶん不良品っぽかったので、今後もう一度試してみたいです。
おわりに
以前から「音は良いけど値段が高すぎる」と気になっていたCowon Plenue Sですが、結局買ってしまいました。これまで使っていたAK240を買い取りたいという友人がいたので、そろそろ古くなってきて、良い買い替えチャンスだったことと、次期DAPとして狙っていたFiio X7が、音質はまあまあ良いものの、イマイチOSが安定しておらず、色々と不具合に遭遇したため、結局予算的にAK240の処分とX7用資金を合わせて、以前から欲しかったPlenue Sを購入することにしました。
購入からすでに2ヶ月ほど使っていますが、とても満足しています。
とくに、ハイレゾ音源などを含めた音楽プレイヤーとしての機能に特化しており、不具合や無駄が少ないデザインは好感が持てます。
無線LANやBluetoothなどは、あればきっと便利なのでしょうけれど、私自身はこれまでAK240を使っていて、それらの機能をほとんど活用してこなかったので、無くても別に困りません。
また、前回の試聴レビューで紹介したように、Plenue Sは出力がそこそこ高く、能率の悪いヘッドホンでも十分駆動できるため、出先でヘッドホンの試聴などをする際に、わざわざMojoやmicro iDSDなどの高出力ポータブルアンプを持ち歩く必要が無くなりました。
全体的に満足しているPlenue Sですが、今後Cowonに期待したいのは、もっとユーザーと一体感を持ったコミュニティづくりです。特に広報やサポートに関しては、日本のコウォンジャパンはそこそこ頑張っていると思いますが、韓国や米国のグローバルサイトの方はメールでのコンタクト方法ですら書いておらず、サポートページに行くとFAQ掲示板に飛ばされるという、よくある最悪なパターンです。
とくにPlenueシリーズは、Cowon製品の中でも特殊なプレミアムブランドで、そこまで大量に売れているものでもないでしょうから、もう少しマニアユーザーとの会話がちゃんとできていれば、さらに注目度が上がるように思えて残念でなりません。
商品自体は悪くないものの、情報が少なく、「盛り上がりに欠ける」という言葉が一番当てはまるメーカーだと思います。
今後どのような道を進むのか謎が多いCowon社ですが、最近どのメーカーも参入している多機能アンドロイドDAP路線には安易に追従せず、このまま独自路線で「高音質オーディオプレーヤー」としての本質の、さらなる進化を期待したいです。
とりあえず今のところ、私にとってはPlenue Sが暫定ベストなDAPとして、当分愛用することになりそうです。