2017年11月23日木曜日

Questyle QP2R のレビュー

QuestyleのポータブルDAP「QP2R」を買ったので、紹介しようと思います。

Questyle QP2R

2017年9月発売で、見かけによらず価格は約16万円と非常に高価です。以前イベントで試聴した際に音質がとても良かったので、長らく欲しいと思っていたのですが、写真を見れば想像できるように音質以外の面ではあまりにもベーシックすぎるDAPです。散々悩んだあげく、思いきって手を出してしまいました。


Questyle

Questyle Audio Engineeringという会社は、中国・深セン市にて2012年に設立された新参メーカーです。

ちなみに呼び方は「キュー・スタイル」と間違えられる事が多いのですが、「クエスト」と「スタイル」を重ね合わせた造語で「クエスタイル」と呼ぶそうです。

QuestとstyleでQuestyle

実はメーカーロゴをよく見ると、「Quest」と「style」それぞれの単語に横線を引いてあり、名前の由来を密かにアピールしていることがわかります。さらにQP2Rの起動画面では、Questとstyleが左右から登場してじわーっと融合するというアニメーション演出まで作られています。よっぽど気にしているんでしょうかね。

現行モデルのCMA800i

デビュー第一号機がCMA800というデスクトップヘッドホンアンプで、現在もその発展型CMA800i・CMA800Rを頂点に置いた、ヘッドホンオーディオのみに特化したラインナップを展開しています。

マランツやラックスマンなど高級オーディオブランドがシステムの一環として家庭用ヘッドホンアンプを作っている事はよくありますが、Questyleのようにヘッドホンリスニングのためだけに重厚なオーディオシステムを提供している例は極めて珍しいです。

今回買った「QP2R」は、そんな据え置き型ヘッドホンアンプシステムの技術を応用して2016年に登場した、同社初のポータブルDAP「QP1R」の上位モデルとして開発された、二代目のDAPです。外観のデザインはQP1Rをそのまま継承して、中身のオーディオ回路のみを大幅に作り直したそうです。QP1RからQP2Rが出るまで一年ほどしか経っていないので、QP1Rオーナーはさぞかし悔しいでしょう。私も今後いつQP3R(?)が出るのかとヒヤヒヤしています。

圧倒的な存在感を放つGOLDEN REFERENCE

このQuestyle社は私も最近になって注目するようになったのですが、そのきっかけは、Focal Utopiaというフランス製高級ヘッドホンの試聴デモにて、海外代理店のイベントでQuestyleのヘッドホンアンプシステム「GOLDEN REFERENCE」で鳴らす構成になっていたことです。これはCAS192DACからCMA800Pプリアンプを経て、CMA800Rステレオヘッドホンアンプを左右個別にデュアルモノラル・バランスパワーアンプとして配置した豪華な四段重ねシステムで、総額200万円と言われています。

50万円もするFocal Utopiaヘッドホンを披露するイベントで使うなんて、さぞかし自信があるんだな、なんて思って聴いてみたら、ヘッドホンはもちろんのこと、それを駆動するQuestyleもかなり凄いポテンシャルがあると感心しました。それ以来、機会があるたびに同社のラインナップを試聴してきました。

これまで色々試聴しているのですが

なかなか紹介しづらい商品です

日本国内では、ファイナルオーディオデザインの親会社であるS'Next社が輸入代理店として最近取り扱いをはじめたので、日本語公式サイトの情報も充実していますし、広報活動も一気に積極的になりました。オーディオイベントなどでも、同社が扱うファイナルオーディオやヤマハなどと同列ブースにて試聴コーナーを設けて精力的に頑張っています。最近になって名前を知ったという人も多いかと思います。

Questyleの個人的な印象というと、新鋭ブランドらしく、とにかくアンプの音は良いのに、それ以外の部分ではまだ若干「詰めが甘い」メーカーだと思います。

自慢のアナログアンプ回路には相当の努力を費やしているようなのですが、その反面、デジタル系などの配慮がまだ弱いイメージがあります。

GOLDEN REFERENCEシリーズを使ってみた時も、音質面ではDACがボトルネックのように感じましたし、いくつか不具合もありました。たとえばS/PDIFのアース周りが不安定で、同軸ケーブルを抜いたらアース変動のせいでDACシステム全体がフリーズしたり、充電中のノートパソコンだとブーンというアースループが聴こえたり、その辺のノウハウが足りておらず荒削りな部分が目立ちます。

こういうのはQuestyleに限った事ではなく、似たようなトラブル を抱えるメーカーは多いようです。自作マニアから起業した場合なんかはとくに、トランジスターや真空管などのアナログアンプ工作ができたとしても、USBインターフェースIC周辺のインピーダンス受け渡しやノイズ管理まで扱えることは稀です。それらしく高級な電解コンデンサーやトロイダルトランスなんかを投入しても解決しないので、実は設計者の腕の見せ所でもあります。いざハイレゾUSBとなると、XMOSインターフェース基板をOEMで買い付けて「ポン付け」しているメーカーが非常に多いです。

実はこのへんが弱いオーディオ機器ほど、「USBケーブルを変えたら音が変わった」とか、「オーディオ用パソコンを組んだら音が変わった」「電源タップを変えたら・・」なんていうマニアックな泥沼に繋がりやすいです。本来オーディオ機器の設計がちゃんとしていればいるほど、アクセサリー効果は薄くなるという逆説的なロジックです。

エントリーモデルCMA400iも上出来です

冒頭でも言ったとおり、それでもなお、Questyleのアナログヘッドホンアンプの音質は素晴らしいと思います。だからこそ私にとって無視できない存在です。いざ音を聴いてみると、GOLDEN REFERENCEのCMA800P+CMA800A×2のデュアルモノ構成は圧倒的でしたし、CMA800A単体もサウンドの完成度が高いです。

QP2R

前置きが長くなってしまいましたが、今回購入したのは据置き型アンプではなく、ポータブルDAPの「QP2R」です。

公式サイトから、QP2Rの基板

D/A変換チップは最近ポピュラーな旭化成AK4490を採用しており、PCM 384kHz・DSD256 (11.2MHz)までネイティブで対応しています。この辺りはあまり奇抜なことはしておらず、これ以上の高スペックを望むメリットも薄いです。

ヘッドホンアンプが、クラスA領域を十分に確保したフルバランス・ディスクリート構成だということが一番のセールスポイントです。そのため、本体基板の約70%がオーディオ回路に費やされているそうです。QP1Rの基板をベースとして大幅に改良を加えたということで、写真を見ても丁寧なレイアウトでしっかり作り込まれていると思います。

派手な電解コンや高分子コン、太い銘柄銅線とかのパーツを見せびらかさず、全体が黒く地味なシリコンなのが好感度が高いです。

Current Mode Amplification Technology

Questyleのヘッドホンアンプは「Current Mode Amplification Technology」という独自技術を搭載していることが高音質につながっているということで、広告などでも全面的にプッシュしています。QP2Rも起動画面でまず「Current Mode Amplification Technology」のロゴが表示されるので、気合の入りようが感じられます。

公式サイトの資料によると、DACからの電圧出力を一旦V/I変換して、電流アンプで増幅してからI/V変換で電圧に戻して、出力トランジスターでヘッドホンを駆動する、という仕組みだそうです。なんだかソニーの昔のカレントパルスDACとかに似てますね。

どのヘッドホンアンプでも、ヘッドホンを駆動するためのエネルギーを増やす「電流バッファー」は必ずあるのですが、QP2Rの場合、それだけでなく電圧ゲインまでも電流ドメインで行うという事です。電流アンプというコンセプト自体は珍しいことではありませんし、オペアンプでも内部的にはそうなっているものが多いですが、Questyleの場合、ディスクリートでヘッドホン駆動に特化した自己流の設計を見出したということなのでしょう。

オーディオアンプは、たしかに低インピーダンスの電流ゲイン回路の方が、外部ノイズに耐性があり有利な点が多いため、コンセント電源のアンプで、電流供給が潤沢な場面では有効かもしれませんが、バッテリー駆動のポータブルDAPでは無駄な電流を常時消費するのは好ましくないのでポピュラーではありません。

そのためQP2Rでは大型タッチスクリーンとかBluetoothや無線LANなどの余計な機能は一切排除して省電力を徹底することで、電力の大部分をアンプ回路に使っているそうです。大部分をAndroidアプリを動かすために費やしている他社のDAPとは正反対ということです。

Cowon Plenue Sと比較

私がQP2Rを購入したきっかけは非常にシンプルで、以前イベントにて興味本位でちょっと試聴してみたところ想像以上に音が良かったため、もっとじっくりと聴いてみたいと思ったからです。

普段からDAPはCowon Plenue Sを愛用しており、それもあいかわらず好きなのですが、もうずいぶん長く使っていると、趣味としては変化が欲しかったので、目移りしてしまいました。

Fiio X5-IIは大好きなDAPです

さらにQP2Rのデザインや操作性が2014-15年頃に愛用していたFiio X5・X5-IIを思わせるノスタルジー感覚もありました。私も多くのイヤホン入門者と同じ流れで、Fiio X3・X5から入り、中級タッチスクリーンのソニーNW-ZX1・iBasso DX80などを経て、AK240に続く高級DAPの泥沼に入っていきました。それまではずっと据え置きのCDやLPレコードとスピーカーばかり聴いていたので、目新しいポータブルオーディオの進化と共に歩むのが新鮮で面白かったこともあり、今に続いています。

タッチスクリーンとか、DAPはずいぶん進化したと思いますが、その反面、多機能化が進み、近頃は音質と機能性の価格配分がずいぶん後者寄りになってきたように思います。

そこで仮説として、もし初代Fiio X5が、あのままの簡素な機能性で、オーディオ回路のみが超進化したら一体どうなっていただろうと空想すると、その結果がQuestyle QP2Rのように思えてしまいます。

パッケージ

せっかく新品を購入したので、パッケージの写真も撮っておきました。

シンプルで丁寧なパッケージです

本体

アクセサリー類

白いスリップケースの中に黒い紙箱が入っています。本体以外の付属品は、ベーシックなUSBケーブルと、角型光ケーブル用アダプターのみです。

付属ポーチ

USBケーブルと、ホイール用シール

中国のオーディオメーカーといえば定番のベルベット巾着袋も付属しています。あとは、金色のホイール部分に貼る黒いゴムシールがあります。写真には写っていませんが、中心のボタン用のシールもあります。ホイールはアクリル板のような手触りで、結構ツルツルするので、これを貼ってグリップ力を上げるのでしょう。

貼ってしまうとフロント全体が黒になってしまいカッコ悪いので、あえて使いませんでした。

残念ながら、液晶スクリーン用の保護フィルムは付属していなかったのですが、ソニーなんかのコンパクトデジカメ用3インチサイズ(6×4.5cm)でちょうどよかったです。

プレゼントで貰ったケース

そこそこちゃんとしたケースです

裏面はこんな感じで、ロゴ無しです

QP2Rは高価なくせにレザーケースは付属していないのが残念なのですが、今回某ショップで購入したところ、初回ボーナスということでケースをプレゼントしてくれました。

レザーケースといえばDignis社製かと思って喜んだのですが、よくよく見たら「Spyker Audio」というメーカーだそうです。パクリみたいにそっくりなデザインですが、eBayで見たら、Dignisは1万円くらいですが、こちらは5,000円くらいで売っていました。

手触りもザラザラしていてあまり品質は良くないのですが、とりあえず保護のためには十分です。

Dignisを買いました

やはり満足感が違います

数週間使っていて、やっぱりケースがショボいなとモヤモヤしていたので、思い切ってDignisのケースを買ってしまいました。デザインはほぼ一緒なのですが、DignisはマイクロSDカードスロットにアクセスできるようになっています。

レザーの色合いとか手触りとか、満足感がかなり違います。これで音質UPというわけではないので、明らかに無駄な出費なのですが、スマホケースを選ぶのと同じで、普段手で触る部分なので必要以上に気合が入ってしまいます。

本体デザイン

ほぼiPod Classicもしくは初代Fiio X5です

見ればわかるとおり、大昔のApple iPod Classicをオマージュしたレトロな風貌です。

小さな液晶画面に、グリグリと回転する物理ホイール、そしてそれを囲む四隅のボタンなど、DAPファンとしては初期のFiio X3やX5を連想します。

それもそのはずで、インターフェースは、Fiioのソフトを開発しているHiby Music社に委託していると書いてありました。つまりボタンや画面操作のソフトウェアはほとんど旧Fiio X5用を流用しているので、元X5オーナーとしてはスイスイ操作できました。

Questyleはあくまでアナログヘッドホンアンプのメーカーであって、不慣れなソフトウェアインターフェースの部分は堅実にFiioっぽいのを移植したのでしょう。下手な自社開発で中途半端なソフトを導入するよりはよっぽど賢明です。

ホイール中心のボタンはクリック式ですが、四隅のボタンはタッチセンサー式です。バイブレーション機能があるので、押したときの感触は確実です。

AK240SSと比較

シャーシのデザインは、シンプルながら複雑な曲線が結構カッコいいと思います。私が買ったのはゴールドですが、シルバーも売っています。

一般的なDAPと比べると縦方向に長いのですが、厚さは14.5mm、重量は214gと、ソニーNW-WM1ZやAK SP1000なんかを見慣れていると、これでも薄く軽量に思えますし、胸ポケットに入れても大丈夫なくらいです。アルミ削り出しシャーシで、画面の面積も少ないことが軽量化に貢献しています。

再生と曲戻し・曲送りボタン

裏面はシンプルに黒いガラスです

ボリュームノブはカッコいいです

ボリュームノブと、その周辺を囲むアルミ削り出しバンパーがユニークです。AK DAPと同様にカリカリ回すエンコーダータイプで、ボリューム以外の機能はありません。AKだとタッチスクリーンなのでスワイプ操作でも音量調整ができるのですが、QP2Rはノブだけなので、頻繁に回すことになります。

GradoもぶつからずOKでした

バランス接続

ヘッドホン端子は3.5mmアンバランスと2.5mmバランスを装備しています。シャーシの端子周辺が直径12mmほど凹んでいるので、太めの端子だと入らないかもしれません。一番心配だったGradoを試してみたところ、そこそこ余裕がありました。2.5mmバランス端子はボリュームノブ付近にあるので、写真のようにL字プラグだと向きが限定されます。

光デジタル出力

3.5mm端子は光デジタル出力も兼用しており、挿せば自動認識します。Fiioは同軸デジタル出力だったので、こっちは光なのは意外でした。一応192kHzまで送れるみたいですが、試してみたところ96kHz以上ではプチプチとノイズが出ました。ケーブルと受け側DACの耐ジッター性能次第かもしれません。

ちなみにFiioは同軸デジタルなのでDoP方式のDSDが送れるモデルもあるのですが、QP2RではDSDの光出力はPCM変換されます。DSD64のDoPは176.4kHzなので、光では厳しいのでしょう。動作保証無しでもいいので、もし光DoPに対応してくれたら面白そうなのですが。

マイクロSDカードスロットは一つのみ

本体下部にはマイクロSDカードスロットが一つと、USB C端子があります。ちなみに旧モデルQP1Rではカードスロットが二つあったのでシャーシに名残りが見えますが、QP2Rでは塞がれています。なんでも、QP2Rのオーディオ回路が予想以上に基板面積を使う事になってしまったため、カードスロットのスペースが無くなってしまったそうです。

個人的な話ですが、DSD256やDXDなど超ハイレゾファイルが容量を圧迫するので、カードスロットは二つあったほうが便利だと思っていたのですが、じつは最近になって心変わりしてきました。

AK KANNやDP-X1など、カードを二枚挿せるDAPを色々使ってみたところ、使い分けのルールを事前に決めておかないと、どっちのカードに何を入れたのか混乱してしまい(両方のカードに同じ曲を入れてしまったり)、結局自己管理ができず中途半端に面倒な事態になってしまいました。現在256GBのカード1枚でそこそこやりくりできているので、それだけを管理するほうが気が楽です。

64GB内蔵メモリー(左)とマイクロSD(右)

ちなみにQP2Rは最近のアップルやAndroidのトレンドに合わせて、マイクロUSBではなくUSB C端子になっています。充電中は1.2Aほど流せたので、急速充電器を使うメリットはありそうです。

ただし、USB C端子ではあってもデータ転送はUSB2.0相当なので(USB CだからといってUSB 3.1とは限りません)、ファイル書き込みはものすごく遅いです。しかもUSB2.0の標準的な30MB/sにすら到達できず、書き込み中4~5MB/s程度をフラフラしているので使い物になりません。ここまで書き込みが遅いと、せっかくの内蔵64GBメモリーも使う気になりません。256GBマイクロSDカードを埋めるには16時間以上かかる計算です。

しかも転送の途中で急に5分くらい止まって、また再開したり、なんだか挙動が怪しいです。別途SDカードリーダーを使うことをおすすめします。

もう一つダメな点は、内蔵メモリーがFATかなにかでラージファイル未対応なので、せっかくDXDやDSD256のような超ハイレゾ再生対応なのに、一曲2GB以上のファイルは書き込めませんでした。マイクロSDはexFAT対応なので、そっちなら問題ありません。

インターフェース

ほぼ旧Fiioと同じインターフェースなのですが、若干異なる部分もあります。色々使ってみた感想は、「いくつかの便利機能が無くなったFiio」という感じです。

日本語表示は優秀です

カテゴリー別ブラウザー

使い方は、メインメニューで「カテゴリー・プレイリスト・フォルダー」のどれかを選び、リストをスクロールして目当ての曲やアルバムを見つける、古典的な方式です。ちなみにちゃんと日本語表示ができますし、翻訳もしっかりしています。

楽曲のライブラリ読み込み時間もFiioとほぼ同じで、256GB・3000曲をだいたい2分でスキャンできました。

これを書いている時点では、ファームウェアを精力的に更新しているようで、アップデートごとに色々と修正が入っているようです。つまり、ここで紹介している機能や不満点などは、後日改善されている可能性もあります。

買った当時はVer. 1.0.1でした

購入時にはVer. 1.0.1が公開されており、まだいくつか不具合が残っていました。とくに、アルバム観覧モードについてはユーザーの不満が多かったようで、Ver. 1.0.2にて新たに仕様変更されました。(追記:2017年12月には1.0.3でさらに色々修正されました)。

この観覧モードは酷かったです

それまでは、アルバムモードを選ぶとジャケット絵が展覧会のように表示され、スクロールホイールで巡回できるようなデザインでした。

一見使いやすいように思えるのですが、まず画面がショボすぎて汚いというのと、CPU処理速度が遅すぎて、次のアルバムにスクロールするごとに一秒くらいかかりました。つまりSDカードに200枚のアルバムを入れたとすると、AからスタートしてMやLのアルバムに移動するまで2分近くグリグリ回さないといけないのです。しかも毎回この画面に戻るたびにAから始まってしまいます。

Ver. 1.0.2からはこうなりました

これでは使い物にならないとメーカーも理解したのか、Ver 1.0.2ではFiioと同じ古典的なリスト表示に逆戻りしました。

それでもスクロールホイールをグリグリ回すと結構時間がかかるな、なんて思っていたら、左右のボタンでページ毎ジャンプができるようになりました。これはかなり快適です。

こうやって、バグ修正のみでなく、今後も細かな便利機能をどんどんファームウェアアップデートで追加してほしいです。

再生画面

情報画面

再生画面ではアルバムジャケットが画面いっぱいに表示されるのですが、下半分が見切れているのは残念です。アーティスト顔写真だと頭髪だけしか見えなかったりします。(追記:ファームウェアVer. 1.0.3でジャケットが縮小され全体が表示されるようになりました)。

ゲイン設定や、後述するバイアス設定切り替えはショートカットが無いので、毎回設定メニューに行く必要があるのが面倒です。右上ボタン長押しでメインメニューに戻るので、これを多用することになります。

標準設定

個々の設定項目を隠せます

設定メニューでは、見慣れない「標準設定」という項目があります。これは設定メニューに並んでいる不必要な項目を非表示にすことができる、という機能です。といっても、実際そこまで項目が豊富なわけでもないので、あまり意味がない気がします。

ゲイン設定

ゲイン設定は「L・M・H」の三段階が選べます。アナログではなくソフトリミットなので音質に影響は無いと思います。ボリュームノブは120ステップあるので、能率が高いイヤホンとかなら、「L」ゲインを選んだ方がボリュームの微調整ができる、という機能です。

Hi-Fi Hubとは

専用Dockのようです

あと、「Hi-Fi Hub」という項目がいくつかあり、これは別売Dock用の機能らしいです。先日Questyle公式サイトにそれらしき商品が追加されていました。RCAと同軸デジタル出力があるのは便利そうですが、AK DAP用ドック同様、レザーケースを外さないと入らないみたいなのは困ります。一万円くらいなら欲しいですが、なんだかもっと高そうですね。

BIASコントロールシステム

QP2Rのアピールポイントとして、BIASコントロールシステムというのがあります。

設定メニューにて「BIAS設定」が「標準」と「High」の二種類が選べます。「High」にすると本体側面のランプが赤く点灯するギミックまであるので、よっぽどフィーチャーしたい機能のようです。

BIAS設定

Highにすると赤いランプが点灯します

公式サイトの説明によると、「BIASモードを「High」に設定すると数秒後、ノイズフロアが一気に下がり、目の前のサウンドステージがさらに豊かに広がります。」と書いてあるのですが、いまいちピンと来ません。

もしそれで音質が良くなるのなら、最初からそうしておけばいいのに、なぜわざわざ選ばせるのかと疑問に思っていたのですが、取扱説明書を読むと、BIASモードを「High」にするとバッテリー消費が早くなる、との旨が書いてありました。

ようするに、出力トランジスターのバイアスを引き上げて、ほぼ常時クラスA駆動になるものの、アイドル電流も増えるので電力消費が悪化するということでしょう。

そういえば一昔前のスピーカー用パワーアンプでも、普段使い用のクラスA/Bから、「ここぞという時」のためのクラスAスイッチを搭載するのが流行っていたのを思い出しました。常時クラスAだと発熱が凄くて、電気代も馬鹿にならないから、という理由でした。

実際にQP2RのBIAS設定を「標準」と「High」で交互に切り替えて聴き比べてみたのですが、そこまで大きな差は感じませんでした。音量がグッと上がるとか、そういったわかりやすい変化もありません。標準モードでも十分音楽が楽しめますし、Highにすると世界が豹変するというわけでもないです。

錯覚かプラセボ効果かもしれないという程度の前提で、私が聴き比べた感想を言うと、Highでずっと聴いていると、なんとなく中域が厚く立体感が増して、彫りが深くなるようです。ただしの金管とかが若干ギラギラして「暑苦しい」感じもする気がします。「標準」モードに戻すと、軽めなサウンドでスッと息抜きできるようでした。Highの方が奥深く特別な感じはしますが、普段は標準モードで使っていても不満はありません。

それより、せっかくの特殊機能なのですから、もっとリスニング中に気軽に切り替えられるようなショートカットを儲けてもらいたかったです。現状ではリターンボタン長押しでメイン画面に行って、設定メニューを選んで、スクロールして、いちいち面倒くさいです。

電力消費はたしかに上昇しているようで、フル充電から44.1kHz CD音源をループ再生しておいたら、標準モードでは公式スペック通り10時間くらい持つのですが、Highモードだと約5時間くらいでバッテリーがゼロになってしまいました。

USB DACモード

設定メニューにて、USB接続は「DAC」「メモリ」モードのどちらか選べるようになっています。

事前にDACとメモリ(ストレージ)が選べます

Audirvanaの接続画面

USB DACとしてMacbook AirのAudirvanaに接続してみたところ、ちゃんと384kHzとDoP DSD128まで対応しています。

このUSB DACモードがちょっとクセモノで、普段使いでは問題ないものの、いくつかのUSB Cケーブルではパソコン側からの電源ノイズが混入するトラブルがありました。

QP2R付属ケーブルはノイズは少ないですが、BELKINやアップルなどのUSB 3.1の本格ケーブルだとノイズが多いようです。その場合、一昔前のサウンドカードみたいに、パソコンに触ると「ジーーーッ」、タッチパッドを操作すると「ジリジリジリ」なんて細かい音が聴こえるので困ります。

ノイズというのは、有無ではなく程度の差なので、どのケーブルを使っても、常に背後にノイズがあるかもと意識してしまいます。

Audioquest Jitterbug

こんな時にうってつけなのがAudioquest JitterbugのようなUSBノイズフィルターです。試しにノイズが最悪だったBELKIN USB CケーブルにてJitterbugを装着してみると、見事にQP2Rのノイズが消え去り、USB DACとして普通に使えるようになりました。もしこういうUSBフィルターは胡散臭いボッタクリだなんて思っている人がいるなら、ぜひこのQP2Rで試してみれば、その疑念も消えます。逆に、USBインターフェースの作り込みが優れているDACであれば、効果は薄いでしょう。

今回初めて、お蔵入りしていたJitterbugが役に立ちました。Audioquestは今後Jitterbug試聴会でQP2Rでデモをすれば、満場一致で効果に納得してもらえることでしょう。

不具合とか

色々と動作確認をしていたところ、不具合を二つ確認しました。

ファームウェアバージョンはVer. 1.0.1です。今後ファームウェアアップデートなどで修正してくれることを願っています。

・・・なんて書いている間に、Ver. 1.0.2 アップデートが公開されまして、二つの不具合のうちの一つが修正されました。素直に嬉しいです。

DSD256はバグってましたが、Ver. 1.0.2では修正されました

まず、修正された方ですが、Ver. 1.0.1ではDSD256のサウンドがモノラルでモコモコした変な音になってました。左右の信号が逆相で短絡しているような、たとえばイヤホンジャックを半挿しした時のあの感じです。これはVer. 1.0.2にて見事に修正され、DSD256もしっかり楽しめるようになりました。

DXDはまだ挙動がおかしいです

もう一つ、今のところVer 1.0.2でも修正されていない不具合は、DXD(PCM 352.8kHz)ファイルの挙動がちょっとおかしいです。全てではないものの、一部のアルバムでは再生中の音楽の後ろで「シャーーーッ」というホワイトノイズが常時鳴り続けるものがあります。

いくつかDXDファイルを聴いてみたところ、RCO LiveレーベルからGatti指揮マーラー2番では全くノイズが聴こえず快適に楽しめたのですが、Challenge Recordsレーベルからvan Zweden指揮ブルックナー8番ではもの凄いノイズが発生します。他にもノイズが出るものと出ないものに分かれます。

DXDデジタルデータの波形とFFT

どちらもデジタルデータの波形を確認してみると、ノイズシェーピングによる高周波ノイズが入っていますが、たとえば件のブルックナーでは50kHzにて-110dBくらいのノイズフロアが確保できており、聴感上ノイズは無いはずです。

普段から愛聴しているアルバムなので、QP2Rだけがおかしいです。ためしにQP2RとiFi micro iDSDで同じDXDファイルを再生して、アナログ出力をRMEでキャプチャーしてFFTを重ねて見たところ、両者の違いが一目瞭然です。

マーラーでは、QP2R (赤) iDSD (青) はほぼ同じです

ブルックナーでは、QP2R(赤)で大量のノイズが聴こえます

マーラーではQP2Rでもノイズは聴こえませんので、グラフがほぼ重なります(赤がQP2R、青がiDSD)。一方、問題ありのブルックナーではQP2Rの高周波特性が明らかにおかしい事がわかります。

DXDなんて、普通はあまり縁が無い超高レートファイルですが、せっかく高音質DAPを語るのであれば、原因を究明して改善してもらいたいです。少なくともAKやPlenueでは快適に聴けてます。

余談ですが、Fiio X7 Mark IIも似たような致命的不具合で購入を断念しました(DSD再生中にポーズして再生しなおすと、サンプルレートがおかしくなる)。どのDAPメーカーも、目先だけの派手な機能にばかり注力せず、十分なテストを行い、DAPの本来の役目である音楽再生の完成度をもっと高めてほしいです。

出力

いつもどおり、QP2Rのヘッドホン出力電圧の上限を測ってみました。0dBFSの1kHzサイン波信号を再生しながら、クリッピングするまでボリュームを上げた状態でのPeak to Peak電圧です。

3.5mmアンバランス

まず3.5mmアンバランス接続ですが、QP2Rの最大出力電圧は他のDAPと比べてもそこまで高くないです。無負荷だと5.1Vppくらい出せました。公式カタログスペックにて1.6Vrmsと書いてあり、換算すると4.5Vppなので、大体合ってます。

DT1770/DT1990はアンバランスでちょっと厳しいです

たとえばベイヤーダイナミックDT1770 PROは250Ω・102dB/mWという若干鳴らしにくいスペックですが、アンバランス接続でクラシックなどを聴く場合、QP2Rのボリュームは80~90%くらいまで上げることもありました。ポピュラーやジャズなどは平均音圧が高いので、60~70%くらいで十分な音量が得られました。

アンバランスとバランスの比較

QP2Rはバランス接続だと本領発揮という感じで、一気に出力電圧が上がり、カタログスペック3.2Vrms(9Vpp)で、実測も無負荷で10Vppくらい出せています。

インピーダンスが高く、能率が悪い大型ヘッドホンなどでは、バランス接続を使ったほうが良いようです。先ほどのDT1770 PROはバランス接続未対応なのが残念です。

ゲイン切り替え

さらに、設定メニューでゲインを切り替えてみると、こんなふうになりました。単純にソフト上で電圧上限がリミットされるだけなので、ボリュームノブの有効範囲が使いやすいよう選べば良いです。たとえばWestoneとかのIEMでは「L」で十分でした。

BIAS設定を変えてみた

ここまでのグラフはBIASコントロールシステムが「標準」の状態でしたが、「High」に切り替えてみると、破線のような感じになりました。実用上ほとんど変化が感じられないと思います。(クリッピング音量までボリュームを上げることは無いと思うので)。ただ、100Ω付近で電圧上限に移行する部分で若干の凹みがあるので、それだけ余分に電流を消費している(つまり100Ωでは電圧上限ではなく電流上限に達してしまう)ということでしょう。

ボリュームを1Vpp出力に合わせた状態

バランスでも落ち込まないのが凄いです

ボリュームノブを1Vppになるよう合わせて、ヘッドホン負荷を変えることで、QP2Rの出力インピーダンス特性を確認してみました。

これを見ると、Questyleが主張しているアンプ設計の凄さが実感できます。つまりQP2Rは最大電圧はそこまで高くないものの、電流供給がしっかりしており、10Ωほどの低インピーダンスイヤホンでも出力が落ち込まず完璧に駆動できています。

他のDAPでは50Ωほどから緩やかに下降していくのがわかりますが、QP2Rはほぼ一直線です。ここまで駆動力に自信があるアンプというと、最近ではChord Hugo 2とかくらいしか思い浮かびません。(Hugo 2は4Ωまで負荷に負けず一直線でした)。少なくともDAPでこれほど「鳴らし切る」パワーを持っているのは極めて珍しいです。

さらにバランス出力では、前回のAK70 MKIIのように、ほとんどのDAPで出力インピーダンスが悪化するのですが、QP2Rではバランス・アンバランスでほぼ同じ特性を維持できています。つまり、IEMイヤホンなどでも積極的にバランス接続を試してみる価値があります。

音質とか

インターフェースなどの不満ばかり色々書いてきましたが、そもそもこのQP2Rを買おうと決めたのは、純粋に「音が良い」と思ったからです。近頃のDAPで、ここまで欲しくなったのは久しぶりでした。


Onyxレーベルから、キリル・カラビツ指揮・ボーンマス交響楽団のウォルトン交響曲1・2番を聴いてみました。

カラビツという指揮者はこれまでノーマークだったのですが、演目のウォルトンが好きで買ってみたら、これがかなりの名演でした。代表的なLSOやBBCなどの堂々としたウォルトンとは一味違い、オーガニックで生々しいスリルの連続で、高レベルの曲芸を見ているかのようです。

指揮者がウクライナ出身で、すでにプロコフィエフ交響曲集シリーズで名声を上げていることもあり、あらためてウォルトンというのはブリテン、ストラヴィンスキー、プロコフィエフなどと同じ怒涛の時代に生きた作曲家だということを意思させてくれる演奏です。

Campfire Audio Andromeda

Dita Dream (バランス)

ポータブルDAPなので、とりあえず普段から聴き慣れているイヤホンを使ってみました。
まずCampfire Audio Andromedaですが、感度が高すぎるため、いくつかのDAPではアンプのバックグラウンドノイズが気になることがありましたが、QP2Rでは問題なかったので一安心しました。ボリュームをゼロにして耳をすますと薄っすらとホワイトノイズが聴こえるので、Plenue SやSP1000の圧倒的な静けさには敵いませんが、音楽鑑賞の妨げになるようなレベルではありません。

Dita Dreamは逆に感度が低いため鳴らすのに苦労するのですが、とくにバランス接続にすることで音の余裕と鮮やかさが増して、性能を存分に引き出してくれるようです。DAPというよりも、まるで強力なポタアンで聴いている感覚です。

QP2RはクラスA・フルバランスアンプということで、たとえばJVC SU-AX01みたいな、厚くリッチな響きをなんとなく想像していたのですが、意外にも響きは控えめで、むしろ繊細で見通しの良いサウンドです。低音や高音もよく伸びて、これといって目立ったクセも無い優秀な仕上がりなのですが、あえて特徴を表現するならば「楽器の音色が鮮やかで、ちゃんと前に出てきてくれる、迫力のあるサウンド」です。

第一印象の時点で、音色の鮮やかな鳴り方にグッと心を掴まれてしまいました。よく料理などで「素材の味が活かされている」なんて言いますが、QP2Rの音色がまさにそんな感じです。アタック部分に固有の硬さやクセが無いため、楽器それぞれの表情が豊かに再現されます。

豊かといっても、アタックを意図的に丸く鈍くしたような感じではなく、楽器の音が軽めにスッと入ってきて、そこから音色がギュッと伸びるような印象です。たとえば一音一音、音の頭だけを追っていると軽快で繊細な感じなのですが、一方で、長い音を最後までずっと追っていれば色彩の豊かさを堪能できる、といった二面性があります。
つまり時間方向の再現性が充実しているため、聴いていて飽きないという事だと思います。

QP2Rのもうひとつの魅力の「迫力」というのは、ダイナミクスと空間表現の相乗効果なのですが、これは他のDAPではあまり感じたことのないユニークな体験です。

一般的に「スケールの大きい」アンプと言うと、響きが奥の方に展開して、目を閉じるとどこまでも遠くへ広がっていくような距離感を演出できるアンプの事だと思います。

一方QP2Rの場合はそれとは一味違い、まず音像そのものの基準点が、普段聴き慣れているよりも若干遠くに配置され(普段が目の前1mだとすれば、2m先にあるような)、そこから音楽が奥に向かって響くのではなく、グッと前に押し出されるような空間表現です。残響の奥行きはそこまで遠くなく限定的なのですが、そのかわり、音の粒がリスナーに向かって飛んでくる錯覚があります。

いわゆる空間表現が豊かなアンプというと、遠くへ展開するような音響は得意とするものの、実際の楽器音は平面的もしくはモヤモヤする、というタイプが多いと思うのですが、QP2Rはその逆のアプローチをとっており、とくにDAPでこういうサウンドが出せるのは驚きました。こういうのは古いオーディオマニア的には「クラスAっぽい」なんて言えるかもしれません。

このQP2R特有の空間表現の何が面白いのかというと、まず、基準点がハッキリとしているため、楽器の音像が安定しており、無駄にフワフワとしないため、演奏家が定位置からブレない力強さがあります。

さらに、たとえば交響曲で弦楽セクションが徐々に盛り上がってきたり、管楽器の咆哮が迫り来るような肝心のワンシーンにおいて、ただ単に音量や刺激が増すのではなく、指揮者の指示に従い、徐々に音像が迫り来る、リスナーの顔面に向かって浴びせかけるような大迫力を実現してくれます。

試聴したウォルトンももちろんですが、ブルックナーやマーラーなどの大編成でも、ストラヴィンスキーやバルトークなどリズミカルな演目でも、フィナーレに向かう圧倒的な盛り上がりを鮮やかな大迫力で演じきってくれます。ドキドキしながら聴き込むほど感動できました。

そんな「音を浴びる」快感を味わってしまうと、他のDAPではどれだけダイナミックさが不足しているか気付かされてしまいます。QP2Rと同じくらいの迫力を得ようとすると、音が重なり潰れて、単に飽和状態になってしまいます。


Pentatoneレーベルから10月の新譜で、ローレンス・フォスター指揮グルベンキアン管弦楽団のヴェルディ「オテロ」をDSDで聴いてみました。あまりメジャーではないオケですが、ポルトガルのリスボンを本拠地として60年代から活動しているそうです。主人公オテロ(オセロ)がムーア人という設定なので、なんだか歴史的な繋がりを感じます。

豪華絢爛なグランド・オペラといった派手な演奏ではありませんが、Pentatoneらしい暖かくまろやかな雰囲気に仕上げており、近年よくあるスカスカなオペラ録音と違って、十分な厚みと貫禄を感じます。主役のニコライ・シューコフはベテランですが若々しく良く通る歌声が新鮮です。準主役イアーゴのレスター・リンチも若干荒々しくも重厚感があるので、全体的にキャスティングも良く、満足に楽しめました。


ところで、QP2Rは私がこれまでずっと使い続けているCowon Plenue Sと値段がほぼ同じなので、これは買い足しなのか、買い換えなのか、なかなか購入するための自分への説得や名目が見つからず、けっこう悩みました。

Plenue Sの方がインターフェースなどトータル完成度は圧倒的に優れているため、いまだに自分にとってのメインDAPはPlenue Sだという意識が強いです。Plenue Sが家族用の高級セダンで、QP2Rは二人乗りのスポーツカーといった感じでしょうか。

Plenue SとQP2R、どちらも中域の鳴り方が自分好みで、あまりギラギラしないことが共通しているのですが、Plenue Sの方が絶対的なノイズ感は少なく、空間奥行きもしっかり行き届いており、コンサートホールの臨場感が出ています。音色が極めてマイルドで破綻が少ないため、とくに派手になりがちなIEMイヤホンなどではPlenue Sの大人しさに助けられることが多いです。

ただし、以前から感じていたことなのですが、Plenue SはイマイチDSD再生の押しが弱いというか、マッタリしすぎてあまりパッとしないと思うようになりました。どうもCD音源と同じノリで、あえてDSDであるメリットが伝わらない、といった感じです。その点、他社の最新DAPは低価格モデルであってもDSDが良いと思えるものが多くなってきました。

試聴に使ったDSDオペラアルバムでも、Plenue Sと比べるとQP2RはちゃんとDSDらしさを引き出せていると実感できる素晴らしいサウンドです。壮大な合唱では心躍り、イアーゴの独白では手に汗を握り、デズデモーナの哀愁のアリアでは息を呑む、なんて、場面場面でムードや表情がコロコロ変わり、しかもステージのガサガサで気が散ることもなく、演劇そのものに集中できる、しっかりした音作りのアンプです。

私にとってDSDらしいというのは、具体的には、たとえば同じデータ量(DSD64とPCM192kHzのアルバムはどちらも2.5GBくらい)でも、QP2Rで聴くPCMアルバムのほうが表面の質感やマイクの歪み、床板の軋みなどの細かなディテールが豊富な一方で、DSDアルバムの方が漠然としたコンサートホール感やアンサンブル全体の体感が現実の生演奏に近いようです。そのためDSDというのはクラシックやジャズファンにとっては切っても切れない存在なのだと思います。

そんなDSDの再現性が良好で、表情が豊かだからこそ、QP2Rが単なる「アナログ臭い珍品DAP」に留まらず、D/A変換を含めた優れたDAPだという確信が持てました。

SP1000 Copperと並べてみました

NW-WM1Zと

せっかくゴールドカラーのQP2Rを選んだので、世間の金色クラブに仲間入りしようかと、友人のソニーNW-WM1ZとAK SP1000 Copperと並べて比較してみました。どちらも高級DAPの代名詞です。(SP1000は銅ですが、色合いはよく似てます)。

聴き比べてみるまで気が付かなかったのですが、QP2RはちょうどWM1ZとSP1000の中間に収まるようなサウンドで、それらハイエンド機と比べると若干個性やインパクトが薄い、無難なDAPのように聴こえてしまいます。

やはりトップクラスの高級DAPとなると、それ相応の明確な特徴や性格が強調されているようで、つまり「この音がどうしても欲しい」と唸らせるだけの説得力に満ちあふれているようです。

SP1000は圧倒的な高音の情報量と突き抜けるような空気感が凄まじく、青空がパーッと広がるような爽快感があるので、それと比べるとQP2Rは素朴で控えめな、あくまで楽器音像がそこにあるだけというイメージです。勝手な感想ですが、QP2Rはスピーカーオーディオ的な迫力や充実感に寄せたサウンドで、一方SP1000はイヤホン・ヘッドホンのみでしか味わえない、ある意味スピーカーオーディオを超越した世界が垣間見えます。

ソニーWM1Zは真逆で、QP2Rが軽々しいと思えてしまうくらい、とても厚くゴージャスなサウンドです。オーケストラに例えると、弦楽奏者が二倍に増強されたような、SP1000とは違った意味でのスケールの大きさ(空間ではなくオケの規模)を感じます。しかもそれが鈍く遅くならず、絶妙なラインで、まさに金色の響きを付加しているため、一音に込められた充実感や満足感が凄まじいです。

とくにハイレゾ楽曲やDSDなどにこだわらず満足感が得られるのはメリットなのですが、一方で、どの楽曲でも、このDAP特有の音色が付加されるため、人を選ぶサウンドだと思いました。とくに古い録音に新しい息を吹き込む能力は凄いです。QP2Rはそこまでの色濃さは持ち合わせていないのですが、その分アルバムごとの音色やダイナミクスの違いがわかりやすくなっていると思います。

あえて自己満足のために言いたいのは、もしQP2RがAKやソニーほどの優れた操作性と、美しい液晶画面を登載していたとすれば、値段もそれなりになっていただろう、ということです。つまりQP2Rは簡素化を徹底してくれたことで、これほどのサウンドを自分に手が届く価格帯にもたらしてくれたことに感謝しようと思います。


LINNレーベルから、Florian Boeschのシューマン・マーラー歌曲集を192kHzハイレゾPCMで聴いてみました。シューマンがリーダークライス39番、マーラーはさすらう若者の歌で、ピアノのMalcolm Martineauは歌曲集となると必ず歌手から声がかかる屈指の名盤奏者で、今回も素晴らしい仕事をしてくれます。

このアルバムでは、いくつかの大型ヘッドホンを使ってみました。小さなDAPでありながら大型ヘッドホンもそこそこ満足に駆動できるのですが、やはり据え置き型アンプと比べると、ヘッドホンごとの相性の良し悪しがあると思いました。

たとえばゼンハイザーHD800とQP2Rは相性が良いと思いました。HD800はちょっとドライで硬質すぎるため、私は普段はめったに使う機会がないのですが、QP2Rと合わせることで、中域の音色と迫力を補ってくれて、音楽の中身が充実してきます。

とくに歌曲のようにシンプルな録音の場合、普段HD800では空間に余裕がありすぎて、肝心の音楽が軽くなってしまいがちなのですが、QP2Rでは歌声をしっかり主張してくれます。バリトンのような低い男性ボーカルというのは、倍音を多く含む高帯域な音色を持っているため、オーディオ装置のクセや問題が明らかになりやすいのですが、QP2RとHD800のコンビネーションは、厳密な試聴テストにも合格するような完璧さと、音楽鑑賞の楽しさをしっかり両立できている絶妙なコンビネーションだと思いました。

一方、たとえば個人的にGradoとQP2Rはどうも上手く行きませんでした。RS1i、PS500、GH1などの小型モデルを色々試してみたのですが、QP2Rの中高域の充実感とGradoの持ち味が被ってしまい、過度の鮮やかさが刺激に繋がり、聴き疲れしやすくなってしまうようでした。

QP2Rはアンバランスだと出力電圧があまり高くないせいか、たとえばベイヤーダイナミックDT1770、Ultrasone Signature Proなど、そこそこ駆動力が必要なものの、ケーブルが片出しでバランス接続が使えないヘッドホンでは不満を感じました。

どちらもボリューム100/120くらいで十分な音量が得られるので、ちゃんと駆動出来ているように思えるのですが、ピアノは張り裂けるような響きが付与されてしまい、歌手の歌声も息切れしているかのように細く乾いた声質に変化しています。

高出力で有名なiFi Audio micro iDSD BLと聴き比べてみると、鳴らしやすいヘッドホンではQP2Rとmicro iDSD BLはどちらも互角の音質だと思えたのですが、ある領域を超えるとQP2Rが不利になってくるようでした。感覚的には、QP2Rのボリュームを90以上に上げる必要があるヘッドホンは要注意なようです。

そこまでパワーが必要ない場面では、QP2Rとmicro iDSD BLのどちらも勢い良く音を前に押し出す力強さがあり、とくにハイレゾPCMやDSDのポテンシャルが存分に引き出せるところは共通しています。44.1kHz CD音源ではmicro iDSD BLはちょっと淡々として味気ないところ、QP2Rの方が音の色付けが上手というメリットも感じました。

Audeze iSINE 20

個人的な意見として、バランス接続を全面的に支持しているわけでもないのですが、QP2Rの場合バランス接続のメリットは十分あります。鳴らしにくいヘッドホンの場合バランス接続を選ぶことで、パワー不足や息切れ感が大幅に解消されるようです。

たとえば先程のHD800も、バランスケーブルを使った方が中低域までガッシリしますし、Audeze iSINE/LCDi4など、下手なアンプだとスカスカなサウンドになってしまうようなイヤホンは、バランス駆動であれば音色の厚みがしっかり出てくれて、ようやくイヤホン本来のポテンシャルを全部引き出せた気持ちになりました。

この組み合わせは圧倒的に凄いです

とくに驚いたのが、ベイヤーダイナミック「T5p 2nd Generation」との組み合わせです。最近になってベイヤーダイナミック公式2.5mmバランスケーブルが登場したので、QP2Rとバランス接続を試してみたところ、このコンビネーションは本当にものすごかったです。

T5p 2nd はT1を凌ぐほどの最高峰ヘッドホンだと思っていながら、かなり切れ味の鋭いドライなサウンドは、ソースやアンプに対してシビアで使いどころが難しいため、購入をためらっていました。密閉型ポータブルヘッドホンで32Ω・102dB/mWというスペックは一見無難なようですが、実はDAPではゲインが足りず、据え置きアンプにはインピーダンスが低すぎる、アンプとのマッチングが難しい鬼門のヘッドホンです。

QP2Rのバランス接続では、持ち前の圧倒的な電流供給と高ゲインのおかげか、このT5p 2ndをグイグイ駆動して、まさに「ダイナミックレンジ」と「空間スケール」の大きさを感じさせる組み合わせになりました。音圧が高まることで音が潰れるのではなく、迫りくる雄大な音像になってくれるため、強弱や緩急の差が凄く、胸に響きます。

壮大な交響曲やオペラはもちろんのこと、歌手とピアノだけの歌曲集でも、彫りが深く腰の座った素晴らしいサウンドを体験できます。

非常に困るのが、私自身がT5p 2nd Generationを持っていないため、QP2Rのせいでどうしても欲しくなってしまった、という事です。バランスケーブルを含めると10万円を超えてしまうので、QP2Rを買った直後では予算的にちょっと無理ですが、そのうち手を出してしまいそうです。

おわりに

Questyle QP2Rは近頃の高級DAPとしてはかなり簡素でマニアックなDAPだと思います。

しかしサウンドはトップレベルに素晴らしく、色彩豊かな音色と迫力のあるスケール感はポータブルDAPとしては異例のポテンシャルを秘めています。小さな画面やシンプルなインターフェースはその代償として我慢できそうです。将来的に、細かな点をファームウェアアップデートで対応できるだけの余力があるかどうかで今後の評価が変わってくると思います。

余裕があれば、AK SP1000やソニーNW-WM1Zの圧倒的なサウンドも捨てがたいですし、タッチインターフェースもそっちのほうが数倍優れていますが、高価すぎて手が出せませんし、重くて持ち歩きたくありません。その点QP2Rは純粋に音楽ファイル再生のためだけのDAPとして、まさにiPod Classicのごとく日々快適に使えています。逆に言うと、音質以外にこれといって話題性も無い、値段も機能も中途半端で地味な存在です。重厚感を出さずに軽量コンパクトな点もしかりです。

個人的にQP2Rを気に入ったポイントは二つあって、まずCD音源の時点でしっかり鮮やかな音色で楽しめて、さらにそこから、ハイレゾPCMやDSDでは広いダイナミックレンジを活かしきって、大きな音も潰れず天井知らずの余裕を堪能できる音作りが気に入りました。

そして二つめは、これまでDAPでは鳴らすのが難しかったヘッドホンの本領を引き出す力が凄いと思いました。T5p 2ndが良い例ですが、とくにバランス接続のドライブ力は一聴の価値があります。ケーブルはそこまで高価なものでなくても良いので、積極的にバランス接続を選ぶメリットがあると思いました。

音質はもちろんのこと、PCインターフェースの利便性や、他にもSACDやLPレコードを聴くこともあり、据え置きの大型ヘッドホンアンプを放棄する気はまだありません。しかし、以前なら、新しく買った高音質アルバムとかは、まず自宅の据え置きアンプでじっくり聴きたい、と取り置いておくことが多かったものの、QP2Rを買ってからは、もっと積極的にポータブルで聴いてみようという気が向いてきました。

また、大型ヘッドホンでも、これを機会に2.5mmバランス端子の1.2mくらいのショートケーブルを買って、手元のQP2Rで聴いてみようという気が起きます。

個性的で良い音色のするDAPは世の中にたくさんありますが、QP2Rほどちゃんとイヤホン・ヘッドホンを鳴らせる潜在能力は並大抵のことではありません。これを使えば、当面のあいだ、毎週のルーチンである新譜チェックも新型ヘッドホン試聴も満足に楽しめそうだ、という期待が持てました。

そして購入からすでに一ヶ月以上、毎日2~3時間は使っていますが、心変わりもせず、同じ気持ちで楽しめています。