Audirvana for Windows 10 |
AudirvanaはこれまでMac専用のUSB DACハイレゾ再生定番ソフトでした。私も長年ずっと愛用してきたので、Windows版も出ないかと首を長くして待っていたところです。
私自身はWindowsの音楽鑑賞にはJRiver Media Centerを使っているのですが、Audirvanaのほうが手軽なので、乗り換えるべきか検討したいと思いました。
AudirvanaとMac
Audirvanaはフランス製のソフトで、古くからMacでハイレゾPCMやDSD音源などをUSB DACで再生する際には定番のソフトでした。有料で64ユーロ(約8,000円)と安くないですが、安定性は抜群で、パソコンに詳しく無い人でも使いやすいので、とくに家庭でのハイエンドシステム用に、オーディオマニアに愛用されています。何百万円もするようなオーディオシステムで、変なフリーソフトで不具合やノイズが出たりしたら最悪ですから、ちゃんとした再生ソフトが重宝されます。というか、何十万、何百万円のオーディオを買っていながら、たかが8,000円を出し惜しむ人の気が知れません。それでいてスピーカーケーブルの振動を吸収するらしい木材のブロックに3万円払って安いと思っていたりするのです。
こういうオーディオ再生ソフトというと、なぜか音質が良くなるとか、魔法のような効果を期待する人がいるのですが、実際はもっと現実的で、パソコン上にあるハイレゾPCMやDSDなどのファイルを一括観覧して、USB DACに接続して、音飛びや誤動作せず、ビットパーフェクトで再生できるソフト、という事が最重要です。つまり「信頼できるデジタルトランスポート」です。そこにアップサンプリングやエフェクトなどが盛り込まれているものもありますが、それらは本来の意図ではありません。
このブログとかを読んでいる人は、大抵パソコンに詳しいマニアだと思いますが、たとえばオーディオショップでよくある話として、「最近ハイレゾとやらを買ったけど、パソコンでどうやって鳴らすのかわからない」という客のサポートが結構多いそうです。
その場合、たとえば電話越しでFoobarとかを設定するのはかなり難解ですし、有料のAmarraやJRiverなども無駄に多機能すぎて設定ミスで音が出ないなど、混乱しやすいです。
私が考える内で、一番シンプルにパソコンのハイレゾ音源をUSB DACで再生する方法がAudirvanaだと思います。かなり初期の頃からDSD(DSF)ファイルにも対応していました。しかもこれまでは「Mac限定ソフト」というのが大きなメリットでした。
世の中にはアンチMacの人も多いと思いますが、Macの最大のメリットは、アップル社がOSとハードウェアをセットで販売しており、同じスペックのモデルを世界中の何十万人という人が使っているので、互換性トラブルが起こりにくく、自分だけ特別な状況に陥るリスクが少ない、という点です。叩き売りの格安パソコンとかを回避できて、「最低Mac OS10.9以上が必須です」というだけで、一括した線引きで、OSとハードの最低ラインを保証できるのが、サポートする側として非常に楽です。
USB DACもドライバー不要ですし、特に「音楽再生メインで、ちょっとネットをブラウズしてメールを書くくらい」の用途なら、これほど安心して他人に進められるパソコンはありません。最近はネットワークストリーミング機器やオーディオNASとかを導入する人も増えてきましたが、とりあえずMacbook AirとかにAudirvanaをインストールしておけば、自宅でも、ショップでの試聴でも、マニア友人宅へお邪魔するにしても、とにかく行く先々で相手のUSB DACを挿して再生するだけという手軽さがメリットです。
そんなわけで、MacとAudirvanaという組み合わせは、古くから各国オーディオショウやイベント試聴会では定番の組み合わせです。私自身も、5年くらい前にとあるハイエンドオーディオイベントにて、信頼するメーカーの人がこの組み合わせを使っていたので、どんなものか尋ねてみたたところ、一番確実だから使っている、と言われたので、それ以来ずっと受け売りで使っています。確かにシンプルで無駄な機能が無く、使いやすいです。
Windows版
AudirvanaのWindows版が出る、というのは2017年末くらいからネットニュースなどで情報が出ていたのですが、待てども一向にリリースする気配がなく、たまに思い出しては公式サイトをチェックして様子を見ていました。2018年6月末になってようやく正式に登場して、15日間のトライアル版と、Mac版と同じ値段で64ユーロの有料版が発売されました。
早速トライアル版をダウンロードしてみました。Window 10 64bit版が必須だそうです。DSD256とかは再生中にメモリーを結構食うので、64bit必須なのは理解できますが、Windows 7は未対応な理由は不明です。
インストーラー |
インストーラーは最近ブラウザとかでよくあるタイプの、ランチャーを立ち上げて、そこから最新ビルドがダウンロードされる仕組みです。Windows 10にて、トラブルも無くスムーズにインストールできました。
インターフェース |
タグ編集 |
インターフェースはこれまでのMac版Audirvanaと一味違いますが、これを期にMac版も似たようなデザインにアップデートされるそうです。
iTunesから余計な機能を消して、より簡略化したような、単純に「楽曲フォルダーを読み込んで、USB DACを選んで、再生する」だけに特化したソフトです。タグ編集とかも一応可能ですが、かなりシンプルなので、たとえば大量のファイルを真面目に編集したい場合などは、やはりJRiverのほうが得意です。その辺の多機能性を求めると、逆に再生だけしたい人にはややこしくなるので、Audirvanaはそのあたりのバランスがよくとれていると思います。
設定画面 |
画面右上の歯車アイコンでソフトの設定画面に行けます。ここのMonitored Foldersに自分のパソコン上の音楽フォルダーを指定することで、ライブラリーに登録されます。ソフト起動時に毎回フルスキャンするようにも設定できます。
ストリーミングとの連携 |
さらに設定画面ではフランスQobuz、ドイツHIGHRESAUDIO、アメリカTidalと、各国ロスレス定額ストリーミングサービスと連携できます。残念ながら私はどれもアカウントを持っていないので試せませんでした。各サービスごとにリージョン制限とかあるので、日本での状況はどんなものでしょうね。
スマートプレイリスト作成 |
スマートプレイリスト |
お気に入り |
スキャンでデータベースに取り込んだアルバムは、メインのライブラリー画面で一覧表示され、そこから検索バーやフィルターで聴きたい曲を見つけるのも良いですが、それ以外では、DAPのように、お気に入り(Favorites)に追加するか、もしくはiTunesのようにプレイリストやスマートプレイリストを作れます。
ちなみに、お気に入りだとアルバムの並べ替えができるのに、なぜかプレイリストだとできませんでした。
アルバムジャケット表示が基本らしく、iTunesやJRiverのようにタグによるカラムブラウザー表示にはできないのが残念です。
個人的には、スマートプレイリストで「クラシックの48kHz以上のFLAC」「ジャズのDSDファイル」「1970年以前のアルバム」みたいに条件設定して自動分類しておく使い方が好きです。
そんなわけで、あえて説明するまでもなくシンプルなソフトで、むしろそれがセールスポイントです。無料トライアル版もあるので、興味があるなら試してみてください。
WASAPIデバイスリスト |
ASIOドライバーリスト |
個人的にとくに優れていると思うのが、画面右下のUSBアイコンを押すと、出力デバイスを即座に選べる事です。標準でWASAPIが出ますが、さらにASIOボタンで現在インストールされているUSB DACのASIOドライバー一覧が表示されます。
JRiverや旧Audirvanaでは、これを毎回わざわざ設定画面にいってやらなければならなかったので、試聴などで沢山のUSB DACを聴き比べる場合は面倒くさかったです。
ASIOドライバーの設定 |
アップサンプリングもできます |
ASIOドライバーを選択すると、そのデバイスの詳細設定が表示されます。今回はiFi Audio micro iDSD BLを選びましたが、MQAやバッファ量など色々設定できます。
さらにここではPCMファイルのアップサンプリングやDSD変換なんかのギミックも設定できます。
色々使ってみたところ、ファイル再生に関してはPCM・DSDともに良好のようです。音質についてはパソコンやDACのスペックの影響が大きいのでなんとも言えませんが、少なくとも私の環境ではASIOのDXD(PCM352.8kHz)やDSD256なども音飛びなどせず快適に再生できました。
WASAPIだと、iFi Audio micro iDSD BLのWASAPIドライバー仕様上192kHzまでで、DoPもDSD64までになり、それ以上はPCM変換になりました。JRiverだとWASAPIドライバー仕様を無視して、WASAPIダイレクトでmicro iDSD BLにDoP DSD256やDXDも送れるのですが、残念ながらAudirvanaではそのような設定が見つかりませんでした。
ASIO設定でサンプルレート変更時に無音やディレイ時間を挿入するなどもできるので、一部DACで再生開始時にパチッと音がするのが回避できるかもしれません。(これもDACの仕様によるものなので、なんとも言えません)。DACごとに挙動が異なるので、ASIOドライバーごとに個別に設定できると便利なのですが、今のところこれらの設定は共通のようです。micro iDSD BLの場合、PCMはスムーズなギャップレス再生ができますが、DSDだと瞬間的にプチッと音が入ります。これはAudirvanaのみでなくJRiverなどでも同様です。
ASIO設定画面では、さらに再生開始時のメモリーバッファー(プリロード量)を設定できるので、メモリーを十分に積んでいるパソコンであれば、開始時に一曲まるごとメモリー上に取り込まれるので、再生中の頻繁なディスクアクセスが行われません。とくに電力が非力なノートパソコンや、接続機器が多くグラウンドが不安定なデスクトップパソコンとかだと、SSDやHDDの小刻みなディスクアクセスがUSB電源を不安定にさせ、USB DACのプチプチノイズになったりするのは体験しているので、できるだけ十分なメモリーバッファーを設けておいた方が良いと思います。
私のパソコンは16GBのメモリーで、Audirvanaの設定画面ではデフォルトで5.6GBをアサインしてありましたが、そこに目安として「44.1kHzなら564分」「768kHzなら32分」みたいな情報が書いてあるのが便利です。
768kHzというとDSD256のDoPにも相当するので、それで交響曲の一楽章というワーストケースでも大体大丈夫なくらいのバッファーということです。
DXD再生開始時 |
たとえば10分程度のDXDファイルをNASから再生してみたところ、再生開始時にNASから1Gbpsで一曲まるごとメモリーに転送されました。再生ボタンを押すとメモリー読み込みが始まり、二秒後くらいに音楽が流れ始め、約十秒くらいで転送終了で、それ以降はネットワークやディスクアクセスは無くなり、メモリー再生が続きます。
DSD256 |
エラー |
まだソフトがVer. 1.0ということで未熟な部分も多く、バグや不満も多かったです。公式掲示板で色々報告が上がっているので、いずれ解消するだろうと思いますが、売上次第でしょうかね。
たとえば単純なところでは、DXDやDSD256などは問題なく再生できたのですが、DSD64の後にDSD256を再生すると、DSD64のサンプルレート(2.8MHz)のまま再生されてしまい、つまり4倍のスローモーションで音楽が流れました(ヴァイオリンがチェロのように聴こえてホラーな音楽になります)。PCMを再生をあいだに挟むとちゃんとDSD256として鳴ります。上のスクリーンショットだと、画面左下がファイルのサンプルレート(DSD256)で、右下がDACの再生レート(DSD64)なのが見えます。
また、スマートプレイリストの条件設定がなぜか正しく適応されなかったり、偶発的なエラーが出たりなど、初回バージョンだけあって完成度は低いです。
メインライブラリーを追加したら遅くなりました |
今のところ、Ver. 1.0で一番の不満点は、動作が遅い事です。とりあえず700枚程度のアルバムを取り込んだくらなら、まあまあ快適だったのですが、いざ自分のメインライブラリーを取り込んでみたら全ての動作が急激に遅くなり、プレイリストを移行したり、設定画面に行くだけで数分かかるようになってしまいました。上の画面の例だと、TrackからAlbumに行くのに6分程度待たされます。
タスクマネージャーを見ると、ディスクやメモリーはほとんど使っておらず、CPUのみ負荷がかかっており、Audirvanaは6コアCPU中1コアのみ利用しており、つまりソフトの内部処理の効率が悪いようです。
私のメインライブラリーは、約3TBで98,000曲程度、大半がCDから取り込んだALACで、ダウンロード購入のハイレゾPCMやDSDも少々です。これらがNASにあり、1Gbpsでパソコンに繋がってます。初回のスキャン取り込みは2時間程度で完了したので、これはiTunesやJRiverと比べても速い方です。
全ての動作が遅いというわけではなく、同じプレイリスト内にて数千アルバムをスクロールする場合には至って快適なので、特定の動作がまだ効率化されていないようです。
今後これが改善するかで使い物になるかどうか決まりますが、とりあえず15日間のトライアル版が終了したら、お布施の気持ちでライセンスを購入してみようと思います。
iTunesは本当に高性能なソフトです |
ちなみに、余談になりますが、現状で私の音楽ライブラリーはiTunesで管理しており、iTunesライブラリーをJRiverでスキャンしたものをUSB DACで再生しています。DSDファイルやFLAC DXDなどiTunesでは読めないものはJRiverで直接タグ管理しています。
オーディオマニアなのにiTunesを使っていると言うと、よく驚かれるのですが(しかもWindowsです)、それでも私が毎回力説しているのは、実際10万曲近くの楽曲ファイルをスイスイ観覧して、タグ管理をして、自動的にファイル名やフォルダー生成して仕分けしてくれるソフトというのは、iTunes以外に見たことがありません。過去に色々なソフトを試していますが、どれもデータベースが肥大化しすぎて、今回のAudirvanaのように、動作が遅くなるかクラッシュします。
その点iTunesは驚異的な安定感と快適さがあり、数々のバージョンを経て、10年以上ずっと愛用しています。CDやハイレゾダウンロードを買ったら、dBpowerampやXLDなどでALAC(Apple Lossless)に変換して、iTunesからNAS上のライブラリーに取り込む、という作業を、毎週末、新譜を買うたびにやっています。(iTunesのCD取り込み機能だけは、以前痛い目にあったので使っていません)。
そういえば最近になってiTunesの取り込みやタグ変更処理が遅くなったなと思っていたところ、Windows DefenderがNAS上の楽曲ファイルにウイルススキャンを行っていたせいだったので、*.m4aをスキャン対象から外すことで飛躍的に高速化されました。
JRiverも軽快動作で実用的です |
iTunesで自動生成されたNAS上のライブラリーフォルダーを参照して、USB DACで音楽を再生するために、JRiverを使っています。DSDなどハイレゾ再生はもちろんのこと、連番やコピーペースト、検索置き換えなどのタグ管理も優秀ですし、とくにDAPのSDカードに楽曲を転送する機能が非常に優秀です。JRiverはしっかり使いこなせば色々な事ができる、多機能で優秀なソフトだと思います。
一方Audirvanaは、Macのノートパソコンに、出先で使うアルバムを入れたフォルダーを参照する、いわゆるDAP的な使い方をしていました。(本来そういう用途のソフトだと思います)。勝手な目安としては、アルバムが1,000枚以下ならAudirvana、それ以上ならJRiverを検討する価値があると思います。最近は定額ストリーミングサービスとかが流行っているのに、古臭い話ですね。
最近といえば、NAS上にある音楽ライブラリーは、パソコンを使わず、ネットワークオーディオストリーミング機器にマウントして、そこにDACを接続するのが流行っています。たとえばAurenderとかAuralic Ariesとか、そういうやつです。NASへの転送はこれまでどおりiTunesを使うとして、再生用途にそういうのに興味があり、使ってみたいのですが、実際10万曲規模のライブラリーを取り込んでサクサク観覧再生できるのかどうか、まだ試すことができていません。
もしどなかた、そういったネットワークストリーミング機器で同じくらいの規模のライブラリーを問題なく使えているという人がいましたら、ぜひご一報頂けると嬉しいです。