2020年5月24日日曜日

Astell&Kern SR25 DAPの試聴レビュー

Astell&Kernの新作DAP SR25を試聴してみたので、感想を書いておきます。

2020年5月発売、価格は10万円弱で、AK70→AK70 MKII →SR15といった一連のモデルの最新進化版です。

A&norma SR25

個人的にこの価格帯のAK DAPは結構好きなのですが、近頃はライバルも多いですし、前モデルSR15と比べてどの程度変わっているのか気になります。


SR15とSR25

Astell&Kern (AK)はSR15とSR25を「A&norma」というシリーズとして扱っており、本体裏面ロゴもそのように書いてあります。その上の20万円のSE100は「A&futura」、最上位SP1000やSP2000は「A&ultima」といった名称です。

A&normaと書いてあります

具体的に何が違うというよりも、新作や後継機を出す際に、シリーズの位置づけがわかりやすいというのと、KANNやSA700など特殊なモデルはあえて通常シリーズとは別という事を明確にする意図があるようです。SR15・SR25は同社では一番安いモデルですが、チープな廉価版ではなく、日常的に使いやすいノーマルモデルという意味でA&normaと名付けているのでしょう。

実際、ポータブルDAPというのは難しいもので、音質やスペックばかり注目していると、やはり最上位のSP2000が欲しくなるのですが、さすがに430gという巨体を「ポータブル」するのは大変です。その点SR25の178gというのは妥協できるサイズではないでしょうか。

ところで、先日私はスマホを買い換えようと思い、ある機種のレビューを読んでいると、マイナス点として「200gを超えるボディは重くて持ち歩くのが大変」なんて書いてあったのですが、いざ実際に買って使ってみたら「こんなのDAPと比べたら全然軽いぞ」と拍子抜けしました。

私みたいにオーディオマニアとして飼い慣らされていると、普段から重いDAPやポタアンとかを持ち歩くことに慣れているので、一般人の常識に当てはまらないのですが、初めてDAPを買おうと思っている人は、200gでも重いと思うかもしれません。

ただしあまり小さすぎても画面操作が大変ですし、搭載アンプや電源回路なども不利になるので、「それならスマホで十分だろう」と思えてしまう境界線があります。SR15・SR25は軽量小型だけど陳腐に見えない、絶妙なポイントを狙った機種だと思います。

ちなみに最近のAK DAPは最上位モデル以外は保護ケースが付属しておらず、このSR25も同様です。純正ケースは7000円くらいするので、もし必要なら余計な出費になります。上位モデルのケースは本皮で2万円近くしますが、SR25は低価格モデルということで純正ケースは合皮なので安くなっています。

ずいぶん大きくなりました

新作SR25はSR15と比べてサイズが大きく、重さも154gから178gへと増加しましたが、そのおかげで画面が大きくなり、オーディオ回路も進化したそうです。写真で見比べてみると、たしかに大きく感じます。あいかわらず斜めに配置された液晶画面は違和感がありますが、実際に手にとって使ってみるとむしろこの方が使いやすいです。

中身の違い

SR15とSR25のスペックを比較してみると、D/AチップはどちらもシーラスCS43198のデュアル構成、アンプのパワースペックもほぼ同じといった感じで、そこまで大きく変わったようには見えません。

そもそもCS43198は最先端の高性能D/Aチップなので、まだ交代する時期ではありませんし、確かに公式スペックの歪み率やクロックジッター値などは向上していますが、そもそもSR15の時点で十分優秀だったため、それだけ見て驚くようなものでもありません。

しかしSR25における変更は、実際は基板全体の作り直しというくらい大幅なもので、CPU SoCのアップグレードに伴い、システム全体の省電力化、処理の高速化、そしてノイズ低減といった、様々な改善が行われています。

音質スペックが向上したのにもかかわらず、バッテリー再生時間も10時間から21時間に一気に伸びたことも、最新設計による進化のおかげです。ほとんどのハイエンドDAPは10時間が目安なので、これはかなり嬉しいです。

近頃のDAPはAndroidスマホから通話機能を取り払ってオーディオ機能を増強したようなものなので、たとえば画面操作やアプリ処理、無線やSDカード読み書きといった基本的な回路がしっかり作り込まれていないと、バッテリー駆動時間はもちろんのこと、オーディオ回路の電源供給が不安定になったり、ノイズが飛び移ったりなど音質面での不具合が発生します。

そのためDAPにおいてはパフォーマンスよりも省エネで安定したSoCの方が望ましいのですが、近年のDAPはストリーミングアプリなどスマホと同じくらいの高パフォーマンスが求められるようになったので、従来のようなファイル再生のみの省エネ設計は通用しなくなりました。

AKはそのあたりは(例えばGoogle Playやホーム画面に対応しないなど)極力オーディオ回路への影響を抑えるようにバランスよく導入してきたのですが、他社の最新DAPを見ると、初期のモデルと比べてAndroidフル対応モデルになってからは音質面でグレードダウンが感じられるものが多いです。多機能になるにつれコストパフォーマンスが悪くなるのは当然です。

DXDもネイティブ再生だそうです

機能面では、SR25は新たにDSD128・DSD256・DXDのネイティブ再生が可能になり、BluetoothもLDACコーデック対応になりました。

LDACは最上位SP2000も未対応なので、これは嬉しい人も多いでしょう。高音質DAPなのにBluetoothを使うのはもったいない気もしますが、あれば便利なことは確かです。

私の勝手な想像ですが、SR15はAK70の流れを汲むDAPなので、多分現在のAKラインナップの中で唯一、旧世代のSoCや基板設計を使い回していたのかもしれません。それをSR25にてようやく現行第四世代と同じ最先端設計に進化させたのだろうと思います。

デザイン

個人的にSR25で一番重要な変更点は、画面が720×1280ドットになった事です。

これは最上位SP2000などと同じなので、画面サイズは小さいものの、表示できる情報量は同じという事になります。下の写真では、SP1000Mは4.1インチ、SR25が3.6インチ、SR15が3.3インチです。

画面解像度が720×1280で上位相当に

SR15は480×640ドットでした。つまりAK240やAK380など第三世代までのAK DAPと同じ画面解像度なので、現行DAPやスマホと比べるとかなり表示が粗く見劣りします。

SP1000以降の第四世代AK DAPは、720×1280の高解像画面を採用するとともに、それを活かすためにインターフェースOSを一新したのが大きな転換点でした。つまりSR15のみ旧世代に取り残されていたわけです。(あとAK KANNも480×640で、KANN CUBEで720×1280になりました)。

インターフェースが結構違います

SR25とSR15を並べて比べてみると一目瞭然ですが、SR15のインターフェースというのは、一見第四世代と同じように見せかけて、実は解像度が粗いせいで、真似するのに苦労している事が伝わります。(さらに、同じ輝度でもSR15の方は白飛びが目立ちますね)。

上の写真で見ても、画面上ににあるAロゴ(ブラウザを呼びだすボタン)やプレイリストボタン、さらにアルバムアートの下の各種ボタンがSR15では無いのがわかります。(アルバムアートをタップすることでこれらのボタンが上に現れます)。

ブラウザ画面

選曲画面でも、SR25の方が表示できる文字数が縦横ともに増えています。僅かな差のように見えるかもしれませんが、頻繁に使う部分なので、体感では結構違います。またプロセッサーの高速化のおかげでナビゲーションもかなりスムーズになっています。

ようするにSR25はインターフェースにおいてはSP2000やSP1000Mなど最上級機と同じ操作性に進化したということです。

Tidal

上の写真はTidalのホーム画面ですが、このように外部アプリを使う場合、表示面積が増えたことでかなり使いやすくなっています。SR15の480×640はさすがに現代のAndroidアプリを使うにはちょっと無理がありました。

余談ですが、そういえば先日Fiioも、これまで低価格DAPに使っていた低解像液晶画面の供給元が枯渇してきたので、新型DAPは高解像の大画面で作り直す事になってしまう、なんて言ってました。

そもそもDAPの中身はスマホ部品の流用で作られているので、スマホの進化にDAPも追従せざるを得ないのでしょう。もちろん小型低解像液晶が市場から無くなるわけではありませんが、ガラケーなどの需要が減ることで特殊用途専用になり、安価に調達できなくなります。

USB C

他のAK DAPと同じUSB Cになった事も嬉しい変更点です。SR15のみマイクロUSBのまま取り残されていました。マイクロUSBは5V1Aが上限ですが、公式スペックによるとSR25のUSB Cは5V2A充電が可能になりました。

ちなみにマイクロSDカードスロットの位置も本体側面から下面へと変わっています。

上面

側面

側面

本体上面を見ると、かなり横幅のサイズが大きくなった事が実感できます。厚さはどちらも16.1mmです。相変わらずバランス出力端子は2.5mmタイプを採用しています。

ボリュームノブのデザインはAKが毎回かなりこだわっているポイントだと思いますが、SR25では円錐になっています。SR15よりも長く飛び出しているため、指で回しやすくなっています。カチカチ感も明確になったように感じますが、新品だからかもしれません。

SA700とSR25

個人的にデザインが好きなSA700と並べてみます。ステンレス削り出しで15万円のSA700と比べると、アルミのSR25は多少は安価に見えますが、使用感や操作性に関してはほぼ互角だと思います。

どちらを買うべきかはSA700の303gという重さを許容できるかで決まると思います。SA700は重いのですが、シャーシの質感がとても美しいので、実物を見ると欲しくなってしまいます。一方SR25は軽量でデザインも悪くないのですが、個人的に唯一不満な点があるとすれば、アルミシャーシの銀塗装がちょっとチープに見えます。

シルバー

今後カラーバリエーションや限定版を出すことを踏まえてなのでしょうけれど、やはり銀塗装というのはプラスチックを金属に見せる時に使う手法と質感が似ているので、あまり魅力がありません。なにか新世代を感じさせる斬新さや奇抜さが感じられない、極めてベーシックなデザインだと思います。普及モデルとしてはこれが正解なのでしょう。

上端からスワイプ

ライン出力選択

インターフェースOSに関しては、第四世代AK DAPと同じものなので、相変わらず素晴らしい完成度の高さを誇っています。OTGトランスポート、Car Mode、AK Connectなどの機能や、ライン出力モードの固定出力電圧を細かく選択できるなど、幅広いユーザー層が満足できる多機能インターフェースです。

とくにAK DAPは他社のようなAndroidホーム画面をあえて出さず、純粋なファイルプレイヤーとして使う場合、余計な機能は目障りにならないよう配慮されているのが嬉しいです。

真逆の例として、たとえば私が普段使っているHiby R6PROの場合、Androidホーム画面から再生アプリを起動するタイプなのですが、DSDやUSB OTG出力はアプリの設定からで、ゲインやライン出力はAndroidの設定からなど、オーディオ各種設定が各所に散らばっていて面倒です。慣れれば大丈夫ですが、初心者に説明するとしたら大変でしょう。

出力

いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波信号を再生しながら負荷を与えて、波形が歪み(THD > 1%)はじめる最大電圧(Vpp)を測ってみました。


参考までにSR15とSA700のデータも重ねてみましたが、ピッタリ一致します。つまりアンプ回路は第四世代AK DAPの基本設計を踏襲しています。


無負荷時1Vppに合わせて電圧の落ち込みをチェックしたグラフですが、こちらもほぼ同じです。(上下の差はボリュームノブのステップによって1Vppぴったりに合わないためです)。

第四世代AK DAP全体に言えることですが、シングルエンドと比べてバランス出力でも低インピーダンス時のパワーの落ち込みが目立たないため、IEMイヤホンなどでも安心してバランス出力を使えそうです。(一つ前のブログ記事で紹介した第二世代AK DAPとはずいぶん違いますね)。


同価格帯で他社のDAPと比べるとこんな感じです。各社の個性が明確に現れていますね。やはり最大音量を目指すならFiio M11PROが有利で、逆にソニーNW-ZX507はかなり保守的です。50Ω以下くらいからSR25とZX507の立場が逆転しますね。ソニーはMDR-Z1Rでさえ64Ωですから、こういうアンプ設計なのが納得できます。

1Vppでのグラフは各社の曲線がほぼ一緒なのが面白いです。近頃のDAPはどれも低インピーダンス側でも粘ってくれるようです。つまり最大音量が足りないという場面以外ではあまり意味のない比較なのですが、それだけDAP市場も成熟期だということでしょう。

音質とか

肝心の音質についてですが、当初の予想では「SR15のマイナーチェンジ程度で、サウンドはそんなに変わらないだろう」なんて思っていたのですが、いざ聴き比べてみると、想像以上にサウンドが進化していて驚きました。

とくに肝心なのは、サウンドの味付けを多少変えたというレベルではなく、明らかに「進化」だと思えた事です。つまり同じ傾向のサウンドでありながら、全体的に音が良くなっています。

Andromeda

まずバックグラウンドノイズに関してですが、SR15でもそこまで気にならなかったので、SR25も同様に非常に静かでした。

感度が高いCampfire Audio Andromedaで無音ファイルを再生しても、シューッというバックグラウンドノイズは非常に静かな環境でほんのうっすら聴こえるのみで、ボリュームにも連動しません。これ以上を望むのは難しいでしょう。

Dita Dream

試聴にはDita Dreamイヤホンを主に使いました。AK DAPはバランス接続を使うことで電圧出力が大幅に向上する設計なので、Dreamのように鳴らしにくいイヤホンや大型ヘッドホンではバランス接続を使うメリットは大きいです。

ちなみに13Ω・94dB/mWのDan Clark Audio Aeon 2を使ってみたところ、シングルエンドではボリュームが90%を超えてしまい音が歪みはじめたので、それくらいからバランス接続が必須になると思います。


HighNoteレーベルから、Tom Harrell 「Infinity」を聴いてみました。90年代に活躍した有名なトランペット奏者、というくらいしか印象が無かったのですが、先日音楽に詳しい方からTom Harrellは良いと教えてもらったので、一番新しい2019年のアルバムを買ってみたところ、たしかに素晴らしいです。

なんというか、ジャズ・ファンが求めているバンド演奏の理想形をそのまま体現しているような傑作です。知性派ですがエキサイティングで、テクニカルですがスゥイング感があり、アルバムの構成も充実しています。近年のジャズは他分野を取り込み混沌とした作風が多い中で、久々に気持ちの良いストレート・アヘッドなジャズが楽しめました。


まずSR25のサウンドの第一印象は、SR15と同じ系統で、それ以外のAK DAPとは方向性がちょっと違います。ようするに第二・第三世代 → AK70 → AK70 MKII → SR15 → SR25といった一連の流れで、順当に進化している最新版といった印象です。

SE100やSP1000などよりも、もう少し音色を明確に厚く力強く描く感じなので、空気感とか臨場感をふわっと描くタイプではありません。

SR15も同じように出音が明確に出るタイプだったのですが、エントリーモデルということもあり、音源やイヤホンとの相性問題が極力起こらないように、意図的に丸く無難に仕上げたような印象がありました。ロックやポップスの圧縮ストリーミングなどでも薄く貧弱にならないように、ボーカルの中低域をしっかり前に張り出して、低音の暴れや高音のシュワシュワ感が目立たないようなサウンドです。

一方SR25では、中低域の充実具合はそのままで、低音と高音の両端がもっと余裕を持って鳴っています。そのため、同じボリューム位置でもSR25の方が若干ダイナミックに聴こえます。この変化は、オーディオ機器では電源回路がグレードアップされた時に感じるアップグレード感と似ています。

高音側は派手に響くとかシャカシャカするといった感じではなく、楽器音のみが硬めで明確な印象です。たとえば試聴に使ったジャズアルバムでは、ドラムのシンバルが目立つ作風なのですが、SR25では輪郭のディテールがしっかりしており、自分の間近でオンマイク気味に歯切れよく鳴ってくれます。

SP1000Mなど上位モデルではもうちょっと周囲の空間に溶け込むような、楽器音と空間の境界線が曖昧になる感じなのですが、SR25ではシンバルに限らず、各楽器がそれぞれ専用の空間を確保して、お互い干渉せずにキッチリと明確に主張する印象です。

SR25が優れている点は二つ思い浮かびます。まず空間定位が安定しており、楽器音がフラフラせずにしっかり定位置についています。下手なDAPだと、周波数帯ごとの空間表現にばらつきがあったりして、楽器を構成する音のまとまりが悪く感じることがありますが(たとえばボーカルの残響の方が歌手よりも前に出てきたりとか)、SR25はそのあたりを非常に優秀に処理しているため、違和感が無く、長時間でも聴き疲れせずに楽しめます。

もう一つのメリットは、低域の土台がしっかりしており、厚さと見通しの良さを両立できています。たとえばこのアルバムではドラムとベースとギターとサックスの低音が同時に重なる事があり、多くのDAPではそれらがまとまって適当にモコモコと鳴るのですが、SR25では楽器ごとにしっかりした輪郭と独自の空間を持って、正しく区別できます。

AK T9IE

せっかくのAK DAPなので、AK T9iEイヤホンを使ってみたところ、かなり相性が良いです。

とくにSR25の聴き応えのある低音は、BAよりもDreamやT9iEのようなダイナミック型で鳴らした方が効果的です。響き過剰になりがちなダイナミックドライバーをSR25がしっかり制御してくれるので、大型ヘッドホンと組み合わせても相性が良さそうです。

SR15はもうちょっと控えめで無難な鳴り方で、大型ヘッドホンだと勢いが足りない感じだったのですが、SR25では十分な聴き応えがあります。SP1000Mなど上位モデルとは一味違う、どちらかというとポタアンっぽい力強さが感じられます。

SR15の落ち着いたサウンドはGradoなどの派手目なダイナミック型ヘッドホンとの相性が良かったのですが、SR25はちょっと注意が必要かもしれません。SR15と比べて低域も高域もはっきり出るようになったので、とくに派手なヘッドホンだと音楽によっては刺激が強いと感じることもあります。

つまりSR25は無難なエントリーモデルという殻を破り、もうすこし音楽やイヤホン・ヘッドホンのクオリティに対してシビアになっています。逆に言えば、クオリティの差がわかりやすくなったことは長所でもあります。楽曲の新旧リマスター盤の聴き比べや、Gradoだと安価なSR125eと高価なRS2eの違いが明確に感じられるなど、オーディオマニアとして聴き応えがある面白いDAPに仕上がっています。


SR25はDSD256・DXDネイティブ再生対応になったということで、DSD256録音のDenis Lupachev「A Flute for the Tsar」を聴いてみました。

ロシア・サンクトペテルブルクにあるReachsound Artというレーベル(https://www.reachsound.art/)による作品で、Lupachevはマリインスキーの主席フルート奏者だそうです。200年を超える帝室マリインスキー劇場の歴史における宮廷作曲家が作った古典~ロマン派フルート作品を時系列で演奏するという面白い企画です。演奏、録音ともにものすごい高水準で、普段フルートはあまり聴かない私でも、美しい音色に引き込まれてしまいました。こういう地味に頑張っているレーベルは長続きできるよう応援したくなります。


SR25はたしかに高レートDSDやDXDの再生が上手くなっています。SR15はそれが弱点だったので、これだけでも個人的には大きなメリットです。おかげで上位モデルと比べて明確に劣っている部分がほぼ無くなったと言っても良いと思います。

SR15はPCM変換だったせいか、とくにDSD128・DSD256ファイル再生では高域の空気がうねるような違和感があったのですが、SR25ではそれが改善され、自然な鳴り方に近くなりました。DSDのメリットである臨場感の再現や雰囲気の良さが十分に引き出せています。

こうなると、上位AK DAPとの差が気になるのですが、とくにSA700とは僅差だと思います。SA700の方が落ち着いた美音系で、フルートやピアノの音色の奥行きや深みがあります。前に出てくるよりも奥の方まで見通せて引き込むような鳴り方なので、じっくりと腰を据えて聴くにはSA700の方が良いです。ただし派手さはそこまで無いので、騒音下だと負けてしまいがちです。本体がステンレスで重いということもあり、ポータブルというよりもむしろ自宅でくつろぐ使い方が良さそうです。

SR25はディテールが自分から前に出ている感じなので、とくにフルートのキーをカチャカチャと押す音なども明確に聴こえます。それを含めてリアルだと感じるか、それとも美音の邪魔になるかで好みが分かれると思います。とくにそういった細かいディテールを強調するようなイヤホンと合わせた場合、SR25ではうるさく感じるかもしれません。

SP1000MはアルミシャーシなのでSA700ほど重くないため(SR25とSP1000Mでは、たったの25gしか差がありません)、予算次第ではライバル候補になるかもしれません。先程のジャズと同様に、この高レートDSDクラシックアルバムでも、両者のサウンドは大幅に異なります。

私がよく使う表現ですが、SP1000Mではリスナーと音楽演奏の間にワンクッション空気を挟んでいるような感覚があります。フルートとピアノが同じステージ上にて演奏しており、それを遠くの別の空間(観客席)からリスナーが聴いているような感覚を生み出します。楽器そのものの音色だけでなく、床、壁、天井など周辺の立体空間音響を表現してくれるため、とくにこういった高レートDSD録音では効果を発揮しますし、高解像で情報量の多いマルチBA型IEMなどとの相性も良いです。たとえばAKのイヤホンでも、JHとかはSP1000Mで聴いたほうが良いと思います。個々の楽器のディテールや迫力はSR25の方が伝わりやすいので、どれを選ぶかはかなり趣味が分かれると思います。

おわりに

SR25はSR15と比べて期待以上に大幅な進化が実感できました。画面解像度やインターフェースOSなどがようやく第四世代AK DAPと同等になりましたし、音質面でも確実にレベルアップしています。

低価格だからといって、わざと機能やスペックを削ったようには感じません。とくにSR25・SA700・SP1000Mの三機種においては、価格差による上下関係ではなく、純粋に音質やデザインの好みで選べるくらい僅差だと思います。

SR25とSA700では個人的にかなり悩みます。音色やデザインはSA700の方が好きなのですが、178gと303gでは使いやすさに明らかな差があります。外出時に持ち出すか、主に自宅で使うのかで好みが分かれそうです。

SR25とSP1000Mでは根本的にサウンドの性格が違うので、ひとまず試聴してみれば、どちらが自分の好みに合うかすぐに決められると思います。もっと上位のSP1000・SP2000は文句無しに素晴らしいのですが、価格やサイズの面で競合しないだろうと思います。

さらに今回SR25にてLDACコーデックに対応した事や、これまで同様APKアプリインストールなど、他社のフルAndroid仕様のDAPと比べて機能面でも健闘しています。10万円という価格も、もちろんもっと安いDAPはいくらでもありますが、各メーカーの最上級フラッグシップ機と比べて遜色無いレベルだと思いますし、同価格帯のFiio M11PRO・iBasso DX220と比べてもバッテリー持続時間やインターフェースの完成度といった面でも優位性があります。重量や再生時間といったスペック面で近いモデルだと、やはりソニーNW-ZX507が目下のライバルでしょうか。


それにしても、SP25を見ると、近年のポータブルDAPというジャンル自体がもはや成熟期を迎えたようで、サウンドやスペック面での差が狭まり、今後これ以上の焼き直しは無意味になってきたように思えてきました。

サイズ面でも、Shanling M0やHidizs AP80など手のひらに収まる超小型DAPがある一方で、KANN CUBEのような巨大なモデルもあるので、どんなユーザーでも満足できるDAPが見つかる時代です。

低価格帯のDAPはスマホのワイヤレスイヤホンブーム以降は需要が大幅に減ってしまいましたから、今後は5~10万円前後のDAPがどのように進化していくのか注目が寄せられます。さすがにもう高出力・低ノイズ・高レートファイル再生など基礎的な部分以外で、なにか革新的な変化を見たいところです。4G/5G通信が普及することで、常時通信でのストリーミングが主流になり、ますますSIM非対応のDAPの需要は下がるでしょう。

時代の流れで、Youtubeでも満足できるカジュアルユーザーが求めているスタイルと、DSDとかを重宝するオーディオマニアが求めているものが変わってきており、DAPはそれらに取り残されず追従できるのかという過渡期だと思います。

回りくどい話になってしまいましたが、SR25は現在のスタンダードなDAPの手本として、これまで以上にハイエンド機との差が狭まった、素晴らしいDAPだという事です。