2024年3月11日月曜日

iBasso D16 Taipan ポータブルDACアンプの試聴レビュー

前回のDC-Eliteに続いて、iBassoからのポータブルDACアンプD16 Taipanを試聴してみました。

iBasso D16 Taipan

バッテリー搭載の大型DACアンプなので、IEMイヤホンから大型ヘッドホンまで何でも鳴らせる万能機として活用できます。値段もUSD $1500という高級機です。

D16 Taipan

この手のポータブルDACアンプでは、iBasso以外にも古くはiFi Audio micro iDSDや最近はFiio Q7・Q15などを筆頭に、各メーカーが作り続けているあたり、あいかわらず人気ジャンルなのでしょう。

ポータブルでここまで大掛かりな機器を使いたがるのは相当なマニアだけですし、ヘッドホンも存分に鳴らせるとなると、高級ヘッドホンに見合う高音質が求められるわけで、価格帯も最近では10万円以上のモデルが多くなっています。40万円もするChord Hugo 2なんかが最たる例です。

D14 Bushmaster & D16 Taipan

iBassoというと今はDAPやイヤホンのイメージが強いかもしれませんが、昔はD2 Boa、D4 Mamba、D10 Cobraなど、それぞれ蛇の名前がついたポタアンがカタログの中核のような存在だったので、2024年になってもその伝統が続いているのは嬉しいです。

私自身も2015年のiBasso D14 Bushmasterというモデルのサウンドが好きで、今でもたびたび使っているので、今回試聴するD16 Taipanは久々の後継機ということでずいぶん楽しみです。

トグルスイッチに伝統を感じます

D14 Bushmasterは安価なアルミケースやボリュームノブに油断しがちですが、ESS9018K2MでPCM384kHz・DSD256対応と、当時としてはかなり凄いモデルでした。しょぼい外観とハイスペックな中身のミスマッチがiBassoの魅力だったりします。

そんなD14のMini-USBをUSB-Cにアップデートしたモデルがあったらいいなと思ったりもしましたが、D14はシングルエンドのみなので、これでバランス対応になるとアンプ回路基板が二倍になって、結局D16と同じサイズになってしまいそうですし、そう考えるとD16はまさしく後継機なのでしょう。背面のトグルスイッチの感触がD14とD16で同じなのも親近感が湧きます。

D/A変換とヘッドホンアンプ

今回D16ではiBasso独自のFPGAディスクリート1bit PWM DACとクラスAアンプを搭載しているのがセールスポイントになっています。

D/A変換の流れとしては、まず入力データはいくつかのオーバーサンプリング段階を経て49MHz・1bitの高速PWM信号に変換され、それらが各チャンネルごとに32個のPWMスイッチに送られるという仕組みです。

各チャンネルに32個、つまり左右バランスで合計128個のスイッチを搭載しており、物量投入という点でかなりコストをかけている事が伺えます。

ユニークな点として、32個のスイッチが並列に動作するのではなく、一サンプルごとにずらすことで時間軸でスムージングする仕組みになっています。

このPWMスイッチ出力から、iBassoが得意なクラスAのディスクリートアンプ回路でヘッドホンを駆動します。公式サイトによるとDX320のアンプ設計を継承しており、20個のトランジスターで1125mWの出力が得られるそうです。

そんなわけで、見かけによらず独自色の強い設計になっており、一般的なESSやAKMのD/AチップからTPA6120Aなどのチップアンプを通しただけのポタアンと比べると中身に手間がかかっています。

私の個人的な感想としては、たしかに物量投入という点では面白いですし、価格設定に説得力もあるのですが、音質面でのメリットという点があまり説明されていないようにも思います。

公式サイトを見ても、PWMスイッチのエレメント数やTHD+N数値などの仕様ばかり言及して、オーディオ機器として肝心のアンプの音質設計についてはほとんど触れていません。

D/Aがどれだけ高精度になっても、結局はアンプがボトルネックになるわけで、ブロック図での説明以上に、配線や基板レイアウトなど実装次第で音は大きく変わります。ベテランのオーディオマニアとなると製品全体の音作りのセンスが肝心で、D/A変換の測定数値の比較などにはそこまで興味が無いものです。

THD+Nとかの測定数値の勝ち負けに興奮するようなコミュニティがターゲットなのでしょうか。iBassoですからアンプの音作りもこだわりを持っていると思いますが、そのあたりの説明が軽く流されているのがちょっと残念です。


余談になりますが、最近流行りのFPGA系のD/A変換については個人的に疑問に思っている点が二つあります。

まず、数年前に「FPGA + ディスクリートR2R」が一時期流行りましたが、往年のCDプレーヤーへの憧れから、当時のIC技術では実現できなかった高精度なR-2R実装を現代に実現するノスタルジーやオマージュとして有意義だったと思います。

その一方で、PWMスイッチング式の高速演算はICチップが得意とする手法なので(そのため90年代にR-2Rからデルタシグマに移行したわけですし)、ESSや旭化成など最先端のD/Aチップもこれを進化させた方式を現在でも採用しています。そのため、わざわざFPGAとディスクリート回路でスイッチングする特殊性やメリットが薄いです。

それでもFPGAにこだわる理由があるとするなら、Chordのように巨大なデータバッファを使った独自の波形復元アルゴリズムを使いたい場合が思い浮かびますが、今回D16が使っている32個のスイッチをカスケードする仕組みは、点と点を線でつなぐリニアインターポレーションのようなものなので、波形復元という観点では極めて初歩的です。

画像のアップスケールを想像してみればわかりやすいです。320×240ピクセルのドット絵を4Kに拡大する場合、ドット間の階調をリニアに補完するとエッジがぼやけてしまいます。そうならないように高度なスケーリングアルゴリズムが考案されているわけです。

つまり32エレメントをリニアに並べてカスケードするよりも、波形復元アルゴリズムを通した高速データを少数のエレメントでスイッチングする方が良いように思います。

もう一点、FPGA+PWMについて疑問に思うのは、後続するヘッドホンアンプの存在です。これまたChordの例を見ると、FPGAから出力される複数の高速データをそのまま強力なトランジスターでスイッチングすることで、直接ヘッドホンを鳴らせる出力を取り出しています。

その一方で、FPGAからPWMをディスクリートでスイッチングしても、そこからボリューム回路や複数のアンプIC回路を通すとなると、ESSなどのD/Aチップを使う場合とさほど変わりませんし、アンプ回路の音作りの方に重点が傾きます。高級食材を使った料理にソースを沢山かけるようなものです。

もちろん最終的には音質の良さで判断すればよいのですが、R2Rはともかく、PWMスイッチングとなると「FPGA+ディスクリートだから市販のICよりも高音質だ」と信じ込んでしまうのは早計です。

デザイン

D16の無骨なアルミシャーシはまさしくiBassoらしい重厚感があります。エレガントな流線型のスポーツカーというよりは、四駆のモンスタートラックというところでしょうか。放熱フィンのようなデザインも力強さがあります。

一般的なポータブルDACアンプです

上面には設定メニュー用のシンプルな液晶画面が用意されています。ある程度機能が豊富になると、側面にディップスイッチをたくさん搭載するよりもソフト制御するほうが合理的なのでしょう。試聴の際には、前の人が設定をいじった可能性もあるので、各種項目を確認するのが大事です。

背面

背面には同軸と光兼用の3.5mmデジタル入力、USB-Cはデータと充電用に分かれており、電源のトグルスイッチもここにあります。全体が黒いのでラベルが見えにくい点だけは困ります。

付属ケース

ケース裏面

付属ケースはPB5 Ospreyと共通のもので、周囲をぐるっと囲ってベルクロで留めるタイプなので前後は保護されません。底面には金属グリルがあります。

液晶画面

ファームウェア

前面のエンコーダーノブは押し込むとボタンになっており、これを押したり回したりで設定画面を操作します。ゲイン設定はアンプとDACの両方でハイとローが選べるという不思議な設計です。

Fiio Q7と比較

液晶は必要最低限の機能としては十分だと思うのですが、なんというか、高級機に見合わないセリフ書体のダサフォントなのが残念です。たとえばライバルのFiio Q7と比べてみると一目瞭然です。

このあたり、近頃のFiioはゲーミング系デザイン路線になってずいぶん良くなったと思いますが、iBassoを含めて中国のメーカーというと、なぜかタイプフェイスによるデザインセンスが欠落しているのが、文化的なものなのか、面白いです。

AliExpressの格安中華ガジェットとかも、アルファベットはTimes系のセリフ体、日本語だと謎の明朝体の画面表示や説明書フォントを見るだけで明らかに中国だとわかってしまうのが面白いです。アップルみたいに独自のエレガントなフォントを導入すれば、小さな画面でもずいぶんブランドイメージや高級感が増すと思うので、その点はもったいないです。

フロントパネル

フロントパネルには4.4mmバランスと3.5mmシングルエンド出力、エンコーダーとアナログボリュームノブがあります。

このアナログボリュームに関しては、前回DC-Eliteにていくつかの問題を指摘しましたが、それらはD16でも全く同じです。24ステップなので細かい音量調整ができず、しかも接触不良を起こしやすく、片側もしくは両側の音が鳴らず、音が聴こえるまでノブをガチャガチャと何度か動かすのを頻繁に行うことになります。今後部品のマイナーチェンジで改善するのでしょうか。

それでも、左右独立の固定抵抗式ということはボリュームポットにありがちなクロストークやギャングエラーの問題が改善されるので、音質面でのメリットが期待できます。

D16のデジタルボリューム

DC-EliteとPB5ではボリュームノブのステップの粗さに悩まされたわけですが、D16ではアナログボリュームノブとは別に、エンコーダーノブを回すことでデジタルで音量調整が出来るようになっています。

デジタルボリューム

24ステップのアナログボリュームと100ステップのデジタルボリュームの両方を活用することで音量の微調整を可能にする仕組みです。ところが実際に使ってみると、これが要注意でした。

上の画像は、1kHzサイン波のフルスケール信号を再生しながら1Vppにボリュームを絞った時の波形をオシロで観測したものです。

左側はアナログボリュームノブのみを使った場合で、右側はエンコーダーのデジタルボリュームのみを使った場合です。

アナログボリュームはサイン波が綺麗に現れているので良いのですが、デジタルボリュームの方はビットが削られたような酷い波形です。つまり音質面ではデジタルボリュームを使うデメリットがあまりにも大きすぎます。

デジタルボリュームだから悪いのは当然だろうと思う人もいるかもしれませんが、最近のDACであれば、D/A変換の過程でデータを一旦64bitなどにアップスケールして高速オーバーサンプリングしてからボリューム調整を行うので、スムーズな波形を保ったまま調整されます。実際デジタルボリューム式のDAPやポタアンはたくさんありますが、1Vppでここまで波形が酷く潰れるのは見たことがありません。

D16はiBasso独自のFPGAベースのPWM-DACを搭載しているということで、ChordやdCSのようにFPGA上のデジタルボリューム調整はむしろ有利であるべきなのに、このあたりのDSP演算プログラムがしっかり作られていないのでしょうか。一般的なD/Aチップよりも劣った挙動になっています。

出力

いつもどおり0dBFSの1kHzサイン波信号を再生しながら負荷を与えて歪みはじめる(THD > 1%)最大出力電圧(Vpp)を測ってみました。

D16はヘッドホンアンプとDACのそれぞれゲインをHighとLowで切り替えられるようになっています。DACをLowにするよりアンプをLowにする方が効果が大きく、バランス接続で両方ともLowにすると、シングルエンドで両方Highにした状態と同じくらいの出力になります。

破線はライン出力で、ちゃんと専用の高インピーダンス出力になっており、それぞれ定格は2.1Vrms、4.2rmsです。


アナログとデジタルボリュームの両方を駆使して無負荷時1Vppに合わせて負荷を与えていったグラフです。出力インピーダンスは2Ω、1Ω程度で、バランスの方が若干落ち込みますが、ゲイン設定による影響は無さそうです。

音質

今回の試聴ではHiby RS6 DAPをUSB OTGトランスポートとして使いました。

ひとまずD16の音質特性を把握するためにも、個人的に聴き慣れたD14と比較してみようと思ったのですが、ものの数秒聴いただけで明らかな進歩を実感できてしまいました。D14は平均的に優れたDACアンプだとは思っていたものの、D16はさらにその先のステージに進んでいます。

D14とD16

D16はバランス出力がありますが、D14はシングルエンドのみなので、3.5mmで個人的に最近よく使っているWestone Mach 80やUE Live CIEMなどを鳴らしてみました。(他に持っているIEMはどれも4.4mmだったので)。

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LSO Liveからラトル指揮カーチャ・カバノヴァーを聴いてみました。最近のLSO Liveは気合が入っていてDSD256録音なのが嬉しいです。私はDSD128で買いました。

母国Supraphonから最近は決定版みたいなリリースが無いので、LSOの新譜は嬉しいですし、ラトルも年季が入って堂々とした長い線で演奏してくれるので良いです。ストーリー展開がイェヌーファと似すぎて混乱しますが、音楽的にはこちらの方が好きです。歌唱も演奏も前回の女狐よりも一段と良くなっており、楽しめる一枚です。


このようなハイレゾオーケストラ作品でD14からD16に切り替えると、ノイズの低さ、そして圧倒的な帯域の広さを真っ先に感じます。じっくり集中して音を聴いてみると、細部まで解像できている帯域が、より高く、より低く拡張されたような感覚があり、録音の末端までストレートでリニアに鳴っている感じがします。

とくに低音は、これまでのiBassoのイメージというと、厚く盛って勢いに任せて鳴らしていた印象がありますが、今回はずいぶんと分析的で直線的に感じます。同じ量感でも、もっと低いところで音が鳴っているのが聴こえるため、単純に量が多い少ないという比較ではなく、まるで帯域を分割する定規が広がったような感覚です。

一旦D16を聴いてしまうと、D14は両端が丸め込まれたような限界を感じるようになってしまいます。このあたりがオーディオの面白いところで、一度でも良いものを聴いてしまうと、これまで満足していたものが急に色褪せて見えてしまうが恐ろしいです。

Chord Hugo 2

3.5mmシングルエンドのままでChord Hugo 2と聴き比べてみました。2017年に登場したモデルですが、まだまだ現役で通用する高級機です。(そろそろ新型を期待したい頃ですが、最近はとんでもなく値上がりしているので、新型が出ても高くて買えないでしょう)。

音質面では、これだけの年月が経っても、相変わらず私はHugo 2の方が好みです。オペラの歌唱はもちろんのこと、生楽器の粒立ちの良さ、音の立ち上がり方、艶の乗り方など、楽器演奏における音色の美しさが引き立ちます。そのあたりはD16は芸術性が今一歩というか、アタック成分の単調さが目立ちます。例えばトランペットやヴァイオリンなど、出音の最先端の、いわゆるタッチと言われるような部分は演奏者や楽器の指紋みたいなもので、これが表現の豊かさや生っぽい質感を生み出しているわけですが、Hugo 2はこのあたりの再現が得意で、D16はどの音も同じような感じがして物足りません。

その一方で、録音全体の情景を広く精密に描写するという点ではD16の方が優秀です。Hugo 2の場合は、声や楽器音の質感が目立つ反面、その上や下に広がる音場展開が目立たなくなってしまい、主に音色の流れだけを聴いている感覚があるのですが(これについてはMojo 2の方がさらに顕著ですが)、D16では音色よりもむしろ構成やスケール感が重視されて、普段聴き慣れた音楽でも楽譜に隠された新たな発見があったりします。

Fiio Q7

Fiio Q7と比較してみたところ、両者のサウンドの仕上がりが意外と似ているので、このような音作りが最近のトレンドなのかもしれません。

どちらも広帯域でありながらパワフルな駆動というのを目指しており、D/A変換方式の違いはそこまで明確ではありません。測定スペックなどの特性を追い込むと、これらの系統のサウンドに収束するのかもしれません。

個人的にどちらが好みかとなると難しいです。ここまで大きいとサイズの差はどうでもよくなりますし、ボリュームノブなど利便性はFiioの方が有利です。

ただしFiioの方は、兄弟機のM17 DAPでも感じたようにゲインモードやDC給電の有無などでサウンドが変わってしまうため、Q7らしいサウンドというのが掴みにくいです。ボリューム調整範囲に余裕があるので、各モードごとの鳴り方の違いを楽しんで、イヤホン・ヘッドホンごとに相性を探るのも面白いかもしれません。D17はゲインモードやボリューム位置に関わらずサウンドが一貫しているため、信頼の置けるレファレンスとしてはこちらの方が有利です。

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ジャズのアルバムで、Posi-Tone RecordsからDiego Rivera 「With Just a Word」を聴いてみました。

リーダーのサックスと、今回はPete Rodriguezのトランペットを迎えたオーソドックスな二管クインテットです。今回はあまりラテン風味を推してないので作風に目新しさはないかもしれませんが、最近でここまでストレートに綺麗な音色で吹いてくれるサックス奏者も珍しいので、純粋に演奏の上手さに惚れ込んでしまい、余計な小細工が無いのがかえって嬉しいです。Hirahara、Curtis、Roystonのトリオも非の打ち所がありません。ドラムだけでも最後まで聴き終えてしまいそうです。

iFi iDSD Diablo EarMen Angel

身近にあった他のポタアンと比べてみました。

iFi Audioは初代Diabloのみで後継機のDiablo XやDiablo 2は使えなかったのが残念です。D16と比べるとDiabloは押しが強すぎる感じがあり、平凡なモニターヘッドホンにメリハリを与えるような使い方に向いています。ベース楽器の低音が弾む感覚や、トランペットとサックスの激しい掛け合いなど、ボリュームを上げると音量以上に体感的な音圧とスリルが増していく充実感があります。一方D16の方がリズムトリオとのアンサンブルが埋もれず、ステージのどの部分にも注目できるような感覚です。

EarMen Angelはユニークでクセが強いので、いつか紹介しようかと思っていた製品です。ES9038Q2M搭載など、見かけ上は無難に思えますが、サウンドはかなり高音寄りでエッジが効いており、変な言い方になりますが、昔風のヘッドホンリスニングの感覚があります。D16やQ7が現代のトレンドなら、AngelはむしろStaxやオーテク、AKGなどがハイエンドの主流だった頃のような、ハイハットとシンバルの軽くて鋭角な鳴り方や、ピアノのツヤ、サックスの空気の押し出しなどが呼び起こされます。

実際に使ってみると、各メーカーのボリュームノブへのアプローチの違いが面白いです。D16は抵抗切り替え式でステップの粗さや接触不良が難点でしたが、iFi Diabloは一般的なボリュームポットで、小音量時の左右ステレオギャングエラーが気になり、ポットの適正位置(12時付近)だとうるさすぎるという問題があり、EarMen Angelはエンコーダーで、ステップが細かすぎるため何度もグルグル回すことになり、瞬時のボリューム調整ができないという、三者三様の使いづらさがありました。その点Fiio Q7が一番無難で使いやすいです。

Abyss Diana MR

シングルエンドやバランス接続で色々なイヤホンとヘッドホンを聴き比べてみたところ、やはり鳴らしにくいヘッドホンを駆動した時にこそD16のポテンシャルが最大限に実感できました。

最近の新型ヘッドホンの中ではAbyss Diana MRが好きでよく使っているのですが、このヘッドホンはカジュアルな見かけによらず相当難しい部類です。多くのアンプはボリュームを上げていくと低音がコントロールできず暴れたり、高音がロールオフされたりなど、イヤホンを鳴らす時よりもアンプの弱点が明らかになってしまいます。そんな中でD16とDiana MRの組み合わせではシングルエンド接続であってもパワー不足感は無く、ボリュームを上げると全帯域の音量がリニアに増していく安心感があります。

試聴に使ったジャズのアルバムでは、たとえば6曲目マイルスで有名な「Pee Wee」はゆったりした作風で、バンド全体の押し引きによる波のようなゆらぎが肝心なのですが、D16で聴くと、楽器ごとに受け持つ帯域が変わっても一貫した正三角形のような安定した定位が保たれて、特定の楽器だけが常に目立ったり、空間が乱れて翻弄されることがありません。おかげで一曲を通しての構成の上手さを堪能する事ができます。

その点では、D16はこれまでのiBassoのポタアンやDAPのイメージよりもRMEなどプロ用オーディオインターフェースの鳴り方に近いかもしれません。他にもFocal StelliaやAeon Noirなど音色にこだたりのある最新ヘッドホンとの相性が良かったので、それらをしっかりと鳴らすのに最適なポタアンです。

おわりに

iBasso D16はハードウェアとしての作り込みは甘い部分が目立ちますが、音質に関しては一級品なので、そのあたりは相変わらずiBassoらしいモデルと言えると思います。

ボリュームノブの使いづらさにさえ慣れてしまえば、音質面でのメリットの方が上回るので、そういった些細な事よりも音質重視でポタアンを極めたい人はぜひ聴いてみる価値があります。

ところで、一昔前に私がD14やifi Micro iDSDなどを絶賛していた頃と2024年現在では周囲の状況も変わってきている点も留意しなければなりません。

十年前はまだ相当ハイエンドなDAPでさえも出力が弱かったので、イヤホンユーザーもポタアンを導入するメリットがありました。しかし現在はドングルDACでさえイヤホンには十分すぎるほどパワフルになったおかげで、大型DAPやポタアンの方は据え置きデスクトップ機の代用、つまりヘッドホンへとターゲットが移行しているように思います。イヤホン用に検討しているのなら、本当に必要かどうか再考すべきです。

もう一点、こちらも最近のトレンドの話になりますが、近頃のICチップの発展は、Bluetoothやトゥルーワイヤレスなどの小型省電力化、オールインワンチップ化に特化しており、そのあたり日進月歩の目覚ましい成長を見せているのに対して、オーディオファイル向けのD/Aチップやオペアンプ、ディスクリートICの選択肢はそこまで変化していません。

ESSやAKMの開発者には申し訳ないですが、D/Aチップは十年前のES9028とかAK4490の頃で十分すぎるほど高性能になっており、あとは周辺回路の作り込み次第でどうにかなる世界です。2020年のコロナやチップ供給不足の頃に中国メーカーのFPGA+ディスクリートのトレンドが一気に加速しましたが、物量の部品代が増すだけで、メーカーが主張するほど明確な優位性はありません。寿司の上にキャビアを乗せるような、単純に付加価値を高めるための一手間という考え方もできます。

どれも同じ音がすると言っているわけではなく、たしかに音は違いますが、それは優劣ではなく感性や好みの範囲なので、今回のD16も含めて、スペックで盛り上がるのではなく実際に試聴してみることが肝心です。私の場合はD14と比べてD16は明らかな進化が実感できましたが、それは単純にFPGAディスクリートDACだからではなく、クロックや電源、そしてiBassoが得意なアナログアンプ回路の進化による貢献も大きいと思います。

昨今のディスクリートDACのトレンドも、どのメーカーもやるようになって、格安モデルにも導入されるようになると、実際それだけで音質の良し悪しは語れないという風潮が生まれてくるので、その次は、電源か、クロックか、アンプか、また別のキーワードのトレンドが生まれると思います。幸いそれらについてもiBassoは他社と比べて趣が深く経験豊かなので、これからも大いに期待できるメーカーです。

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