2015年6月3日水曜日

Fiio X3 2nd Generation ポータブルDAPのレビュー

Fiioのポータブルデジタルオーディオプレーヤー(DAP)「X3 2nd Generation」のレビューです

2015年5月発売の小型プレイヤーで、二万円台という低価格ながら192kHz/24bitのハイレゾPCMおよび、DSDをネイティブ再生できるという高スペックな商品です。

Fiio X3 2nd gen

個人的にFiioとは縁が深く、初代X3を気に入ったのがきっかけで、2014年のX5、そして今回のX3 2nd genと毎回発売と同時に購入してきました。今回はこれら過去モデルと比較してみようと思います。さらに低価格帯のX1というプレイヤーがありますが、これは所有していません。

左から:ソニーNW-ZX1 Fiio X3 2nd gen Fiio X3(初代) Fiio X5


Fiioは2013年に同社初のDAP「X3」を発売しており、今回は後継機の第二世代ということで「2nd Generation」という名称になっています。発売までに「X3K」「X3II」など色々な仮称で呼ばれていたのですが、「X3 2nd Generation」および「X3 2nd gen」が正式名称になっています。筐体のロゴは単純に「X3」と書いてあるので混乱します。

Fiioの正式名称は日本語表記で「広州飛傲電子科技有限公司」という中国の会社で、Fiioは「飛傲」の英語読みということです。「傲」はおごり高ぶるという漢字なので、誇り高く飛翔するという意味でしょうか。新興メーカーですがポータブルオーディオに特化しており、自社開発を熱心に行っている地道で意欲的な会社です。DAP以外ではポータブルヘッドホンアンプも主力商品で、とくに一万円の「E12」というヘッドホンアンプが日本で大人気ですが、ほかにも三千円の「E6」から二万円の「E18」まで比較的安価で音質の良い商品ラインナップが好評です。

このような単体ヘッドホンアンプの音質には定評のある会社なので、今回のX3 2nd genのようなDAPでも他社の類似品と比べて高品質なアンプ回路を投入できるということがFiioの一番の利点ではないでしょうか。

2013年に登場した初代X3は192kHz/24bitまでのPCMファイルに対応しており、マイクロUSB端子とマイクロSDカードスロットを装備し、とても使い勝手の良い、手軽に高音質を楽しめるDAPでした。さらに同軸デジタル出力端子やパソコン上でUSB DACとして活用できるなど、2万円台にしては非常に充実した機能のおかげで、当時ハイレゾ対応DAC・ヘッドホンアンプ入門機としてコストパフォーマンスの高い商品だったように思います。

2014年に発売された上位機種のX5は5万円台ということで音質向上はもちろんのこと、マイクロSDカードスロットが2枚になったり、色々とパワーアップされたモデルでした。このX5から画面操作に初代iPodのようなスクロールホイールが採用されましたが、個人的には操作性にイライラさせられることが多かったです。

さらにX5のノウハウを元に廉価モデルのX1が15,000円で登場し、これもスクロールホイールを搭載していますが非常にコンパクトな筐体になりました。低価格なため同軸デジタル出力端子やUSB DACモードなどの機能は削られましたが、さすがヘッドホンアンプに定評のあるメーカーなので音質に関しては妥協はありませんでした。

今回発売されたX3 2nd genの商品コンセプトは、そろそろ古くなってきた初代X3を引退させ、最新モデルX1の筐体デザインをベースにアップデートしたモデルです。

各モデルのサイズ比較

厚さはどれもほぼ同じ


X3 2nd genは正面から見るとX1と同じ形状ですが厚みが2mmほど増えました。また、X1では無かった同軸デジタル端子やUSB DACモードも追加されました。

[X1] 57 x 97 x 14 mm 106g
[X3] 55 x 109 x 16 mm 122g
[X3 2nd gen] 57 x 97 x 16 mm 135g
[X5] 68 x 114 x 16 mm 195g

筐体サイズは上記のようになっており、X3 2nd genは初代X3よりも若干重くなっています。個人的に195gのX5はポケットに入れて携帯するには重すぎると感じていたので、これくらいがちょうど良いです。参考までにソニーのウォークマンNW-ZX1は 60 x 122 x 14 mm 139g です。

デザイン

外箱と内箱
付属のシリコンケース
付属品一覧


パッケージは従来のFiio製品と同じようなデザインです。同梱品は画面と背面の保護シールが数枚と、シリコンケース、マイクロUSBケーブルと同軸デジタル用変換ケーブルです。保護シールはすでに本体に一枚貼ってあるので、丁寧に貼る手間が省けて助かります。

外観はX1とほぼ同じ(色が違う)

カーボン調の保護シールを装着
端子のラベルが見えない
背面はまあまあ良い
シールの精度があまり良くない

さらにボディ用保護ステッカーが数枚入っているのですが、カーボン、ウッド、そして星条旗という変なセレクションです。中国メーカーなのに星条旗というのは意味不明で、ネタなのか本気なのかよくわかりません。使わないと意味がないので、さっそくカーボン調を試してみました。質感はザラザラとしてカーボンっぽくて良いのですが、あまり精度が良くないのと、ボタンやジャックの表記が隠れてしまうので実用性は悪いです。背面に使う部分はカッコ良いのではないでしょうか。

操作性について

ホーム画面
日本語表示も可能で、視認性は良好

今回もスクロールホイールということでX5で困った操作性の悪さを想像していたのですが、実際に使ってみるとそれなりに良好でした。スクロールホイールはX5とくらべてしっかりと固めに作られており、回転時に若干のクリック感もあるため操作ミスは少ないです。

ユーザーインターフェースはX1のものが好評だったので同じものを使っているそうです。初代iPodと似ているシンプルなテキスト表示で、ホイールの回転と、センター及び周辺のボタンを使って操作します。X5ではこれらのボタンに表記が無かったため非常にわかりづらかったのですが、今回はちゃんと印刷されています。

使い方のおおまかな流れとしては、パソコン上でマイクロSDカードに楽曲を取り込み、これらをフォルダブラウザで選曲するか、事前に設定画面でSDカードをスキャンすることによりタグで選曲できるようになります。

操作ボタン類と、底面のマイクロUSB端子
選曲画面については、さすがにiOSやAndroid系の大型タッチスクリーンDAPと比べるとシンプルで原始的です。とくにジャケット画像でアルバムをリストアップしたりできないので、直感的に聴きたい曲を探せないのは面倒です。ジャケット画像というのは単純に見栄えだけではなく、何気なく画面を見ながら「そういえばこんなアルバムもあったな」と視覚へ訴える重要な要素だと思っています。

タグでの選曲インターフェースはあまり使い勝手が良いとはいえず、初代X3やX5で感じていた問題点はX3 2nd genにそのまま継承されています。例を挙げると、「アルバム」、「アーティスト」、「ジャンル」などの一般的なタグ選択方法は存在するのですが、たとえば「ジャンル」→「アルバム」といったような二段階の絞り込みができないため、ジャズのアルバムが複数あった場合など、「ジャンル」でジャズを選んでしまうと、すべてのジャズアルバムの曲がアルファベット順に混同して並べられてしまいます。128GBのマイクロSDカードだと、数千曲、数百枚以上のアルバムを保存できるわけですので、二段階の絞り込み選曲ができないというのは致命的です。

たとえばiPhoneやウォークマンなどでは、ジャンルでロックと選べば、ロックのアルバムが表示され、さらにアルバムを選べば、その中の曲がトラック番号順に再生できる、といった段階検索が可能です。

結論として個人的にベストな使い方は、タグ検索は放棄して、マイクロSDカード内でのフォルダ管理を階層的にすることで対処しています(「ジャズ」フォルダの中にアーティスト別フォルダ、そしてその中にアルバム別フォルダ、など)。時代に逆行しているようですが、Fiioのユーザーインターフェースが時代に追い付いていないので仕方がありません。

また、iPhoneやウォークマンなどで当たり前のように使っていた「最近追加したアルバム」などの機能もX3 2nd genには無いのが地味に辛いです。普段同じ曲しか聴かないユーザーならば問題無いでしょうけれど、頻繁に新譜を追加するような使い方では聴きたい曲を探すのに時間がかかってしまいます。

X3 2nd genは筐体が小さいため、片手で握って操作できるのは嬉しいです。特にボリュームボタンが指に調度良い位置にあるためポケットの中でも音量調整は簡単で、音量は120ステップとかなり細かいので微調整が可能です。唯一困ったのは、ボタン長押しで色々なショートカット機能が割り当てられており、ボリュームボタンを長押しすることで曲のスキップが実行されるため、ボリュームを調整しようとして曲がスキップされるということが何度かありました。このショートカットは設定画面でOFFにすることができません。

X5やソニーNW-ZX1などと比較してとても良かった点は、選曲してPLAYボタンを押すと、瞬時に音楽が再生されることです。従来のDAPはたとえばサンプルレートが変わったりすると再生までに時間がかかるのですが、X3 2nd genの場合はたとえPCM再生中にDSDファイルを選択しても、全く遅延無く再生が始まります。

もうひとつ良い点は、省電力設計になりスマホのように待機状態から瞬時に復帰できるのも非常にありがたいです。電源ボタン長押しでシャットダウンされ、ここから立ち上げるには30秒ほどかかりますが、通常はシャットダウンせず休止状態のままでも問題ないように、電力をあまり消費しないように設計されているそうです。これまでの初代X3やX5では停止状態で数分放置すると勝手に電源OFFになり、ここから電源長押しで起動して30秒待つ必要があるので非常に面倒でした。

X3 2nd genのセールスポイントの一つとして、AppleやAndroidなどが採用しているリモコンケーブル(いわゆる4極端子)に対応していると広告に書いてあるのですが、これについてはヘッドホンによって動くものと動かないものがあったので注意が必要です。たとえばオーディオテクニカATH-MSR7のリモコンは動きませんでしたが、ゼンハイザーMomentumはリモコンのセンターボタン(再生・停止など)のみ対応して、ボリュームボタンは動きませんでした。もしかするとヘッドホンごとに端子接触部の微調整が必要なのかもしれません。

DACについて

X3 2nd genの大きなセールスポイントはDSDファイルをネイティブ再生できるということです。2万円台の価格帯では初めての機能ではないでしょうか。DSDファイルが本格的に普及してきたのは2014年になってからなので、ソニーのNW-ZX1など一世代前のDAPは高価なモデルでもDSDネイティブ再生ができず、ソフトウェアの後付け機能としてPCM変換して再生するといった対応がなされていました。このようなDSD→PCM変換はけっして音質が悪いとは限らないのですが、余計な演算処理で負担をかけてしまうため電池の消費が増えるなどのデメリットが多いです。精神的にもせっかく入手したDSDファイルはネイティブで再生したくなるのが心情というものです。

まずFiio歴代モデルに搭載されているDACチップとアナログアンプをリストアップします。

[X1] バーブラウン (TI) PCM5142 → インターシル ISL28291
[X3] ウォルフソン WM8740 → アナログ・デバイセズ AD8692 / AD8397
[X5] バーブラウン (TI) PCM1792 → TI OPA1612 / LMH6643
[X3 2nd Gen] シーラス・ロジック CS4398 → TI OPA1642 / LMH6643

このように、あまりポリシーが無く各モデルで全然違うメーカーの半導体を使っている無節操な開発理念です。逆にいうと、それぞれ価格帯に見合ったベストな選定をしているフットワークの軽さとも考えられます。

一番安いX1ではオールインワンで2Vアナログ出力まで内蔵されているPCM5142というDACを選択しており、最高級モデルのX5ではバーブラウンの最高級DAC PCM1792からOPA1612などの高級オペアンプを駆使したI/V変換やLPF、電流バッファなど、アナログ回路に力を入れています。こういったアナログ回路はブランドとしての音作りができるということなので、高級モデルになるほどオールインワンチップはあえて使わず、自作回路による設計にすることで自由度が増します。

初代X3はウォルフソン WM8740という2000年台初頭の大人気DACを採用しており、後続するアナログ回路もウォルフソンの推奨回路通りにアナログ・デバイセズのオペアンプを使うという、非常に実績があり安定した音作りでした。

今回のX3 2nd genでは、2014年にウォルフソンがシーラス・ロジックに買収されたこともありWM8740がディスコンとなり、代用品として現在シーラスが推奨しているCS4398に変更されています。CS4398系のDACはマランツや英国系メーカーのハイエンドオーディオに多く使われている上質なチップであり、2万円台のX3 2nd genが採用しているのは非常に嬉しいです。

DACチップのみで音質が決まるわけではないですが、例えばFiioのライバルであるiRiver Astell & Kernでは、6万円のAK Jrでは初代X3と同じWM8740、上位機種のAK100II、AK120II、AK240などではX3 2nd genと同じCS4398を選択しているのは興味深いです。さらにFiioはアナログヘッドホンアンプ回路設計には定評とノウハウがあるメーカーということで、DAPとしてのコストパフォーマンスの高さは納得していただけると思います。

現在シーラスやTIなどの大手DACチップメーカーは携帯電話やポータブルオーディオ業界を視野に入れた、省電力でUSB入力からヘッドホンアンプまでオールインワンな半導体の開発を急いでいます。将来的にはこのようなチップが主流になってくると思うので、PCM1792やCS4398のような従来のハイエンドCDプレイヤーで活躍していたDACチップをそのまま使ったポータブルDAPというのは今世代が最後になるのかもしれません。

USB ファイル転送モードについて

マイクロSDカードスロット
X3 2nd genをマイクロUSBでパソコンに接続すればマイクロSDカードが外付けドライブとして表示されるので、そのまま楽曲ファイルを転送できます。これまでのFiio DAPはこのやりかただと転送速度が非常に遅かったため、あえてマイクロSDカードを外して別のSDカードリーダー経由でパソコンに接続していました。

今回も転送レートを測ってみました。Mac OS上で1370MBのアルバムをMacbook ProからマイクロSDカードに転送する時間をストップウォッチで計測した簡単なテストです。使用したカードはFAT32でフォーマットしたSandisk Extreme 64GBなので、カードの公証スペックでは最高30MB/sだそうです。

[X3] 4分08秒 (5.5MB/s)
[X5] 4分57秒 (4.6MB/s)
[X3 2nd gen]  4分52秒 (4.7MB/s)
Macbook Pro内蔵SDカードリーダ:2分10秒 (10.5MB/s)
USB3.0 外付け高速カードリーダ(Vantec): 2分12秒 (10.4MB/s)

上記のような結果になりました。X5やX3 2nd genよりも初代X3の方が高速なのは不思議ですが、どちらにせよやはり直接転送するよりはマイクロSDカードを外して別のカードリーダを使ったほうが転送速度は倍くらい速いです。64GBのカードを全部書き換えるとなると数時間かかるので、この差は大きいです。参考までに、ソニーNW-ZX1にウォークマンUSBケーブルで同じファイルを転送すると1分35秒(14.4MB/s)だったので、想像以上に優秀です。

ちなみにFiioは一部exFATに対応していると聞いたので試してみましたが、転送レートはFat32と変わらなかったのであまりメリットは無いようです。どちらにせよマイクロSDカードのフォーマットは互換性問題などが多いので、X3 2nd gen本体メニューからFAT32フォーマット機能を使うのが確実です。また、カードのメーカーによる相性問題などもありますので、基本的に格安カードよりもSandiskなどのメーカー品がおすすめです。

Sandisk Ultra 128GBカードも試してみましたが、初代X3、X5、X3 2nd genともに問題なく認識しました。

USB DACモードについて

X3 2nd genはマイクロSDカード内のDSF・DFFファイルはもちろん、USB DACモードでのDoP再生にも対応しているのが嬉しいです。試してみた結果、DSD 2.8MHzはDoPで問題なく再生出来ましたがが、5.6MHzのファイルは無音でした。

PCMファイルは192kHz・24bitまで対応ということで、それよりレートの高いファイルはトランスコードしないと無理でした。MacでAudirvanaとJRiver Media Centerを使ってみましたが、ドライバ不要でDirect Mode、Integer Modeともに問題なく動作しました。

USB DACモードで使用する際にはX3 2nd gen内部のボリュームとパソコンのシステムボリュームが連動していないので、基本的に音量調整は本体のボリュームボタンを使います。一つ気になった点は、USB DACモードでボリュームボタンを押すたびに、プチプチというデジタルノイズが聴こえます。また、曲の変わり目などにも同様のプチノイズが入ります。気になるほどではないですが対策して欲しいものです。このノイズはDAPとして単独使用している際には存在しません。

また、現在のファームウェア(Ver 1.1)では致命的なバグがあり、USB DACとして使用中に画面をロックした状態でボリュームボタンを長押しすると、先ほど説明したショートカットキーが作動してしまい、SDカード内の音楽まで再生されてしまいます。つまりパソコンからUSBで再生中の曲と、SDカード内の曲が同時にDACに送られるため、とんでもないデジタルノイズが発生します。こうなると、USBケーブルを外してもX3本体はおかしなことになってしまうので、再起動が必要です。

これは単純に設計の不手際で、ヘッドホンと鼓膜を壊しかねない致命的なバグなので、早急な対応が必要です。たしか前モデルのX5でも同様の問題が発生したので、こういった点でFiioのような中小企業の品質管理とプログラミングの甘さが仇になります。

ヘッドホン出力について

電源とボリュームボタン


ヘッドホン出力とライン・同軸デジタル出力兼用端子
Fiioはさすがヘッドホンアンプの大手メーカーだけあって、DAPでも大型ヘッドホンを十分な音量で駆動できる大出力がセールスポイントです。

今回のX3 2nd genの音量は従来のX3、X5とほぼ同等で、0~120のデジタルボリュームは3機種とも同じ位置で聴感上ほぼ同じ音量になります。設定画面にハイ・ローゲイン切り替えがありますが、毎回設定画面に行くのは面倒なので私は常にローゲインにしています。ちなみにこのハイ・ローゲイン設定はどちらを選んでも音質的にあまり変化がなく、ローゲインの最大ボリューム120は、ハイゲインでの109と同等です。

各モデルの最大出力電圧

グラフはヘッドホンの負荷に対する最大Peak to Peak電圧を表しています。歪み率やクリッピングは無視した数値なので、どれだけ音量が出せるかという意味であって、音質については別問題です。

ごらんのとおり最大電圧や出力インピーダンスに関しては初代X3、X5とあまり変わらないので、音量のとりやすさという意味ではほぼ互角です。とくに50Ω以上ではかなり高い電圧が発揮できるので、たとえば平面駆動型のHIFIManのような極端に低能率なヘッドホンでないかぎり、一般的に能率が悪いと言われているAKG K701やゼンハイザーHD650などの開放型ヘッドホンでも問題なく駆動できます。この点では最大電圧が限られていて高能率IEMなどに特化したソニーNW-ZX1よりも汎用性があります。

もちろんいくら大音量が出せても、ポータブルアンプではどうしても音痩せして不自由な出音になってしまうことが多く、据置型のコンセント電源を使った大出力ヘッドホンアンプのほうが音に余裕がある場合が多いです。

音質について

Fiio X3 2nd genの音質は、一言にまとめると、歯切れがよくシャープで空間的といった印象です。今回は初代X3、X5、X3 2nd gen、そしてSony NW-ZX1を交互に比較してみたのですが、それぞれプレイヤーの個性が目立ちます。試聴比較には主に、駆動が難しいFostex TH600ヘッドホンと、ポータブル向けで鳴らしやすいJVC HA-FX1100イヤホンを使いました。

まずせっかくなのでX3 2nd genからネイティブ再生対応となったDSFファイルを試聴してみました。X3などでPCM変換されたものと比較すると、X3 2nd genはリバーブなどの奥行き・立体感が感じられます。全体的なプレゼンテーションはあまり変わりませんが、例えば旧X3などは平面的でベタッとした出音になります。

つぎにPCMで96kHz・24bitのヴァイオリン・ソナタ曲を再生してみました。DSDの時と同じように、X3 2nd genでは残響・リバーブが強調されて、自然な朝霧の中での演奏のような空気感がありますが、旧X3の場合はもっとシンプルで音場感の乏しいスタジオ録音のように聴こえます。上位モデルのX5では力強さが増して、大きなコンサート会場のような音場になり「聴かせる」演奏になります。残響の空気感は残したまま、楽器や奏者のイメージが太く存在感があるため、リスニングという意味ではやはりX5が一番理想的なプレゼンテーションだと思います。

同じハイレゾのヴァイオリン・ソナタ曲をソニーNW-ZX1で再生すると、Fiioと根本的に違うことがわかります。ソニーでは色気やツヤなど、音楽の質感部分がすばらしく、聴いていて一番うっとりする音色だと思います。その半面、音色のパワーが弱く、たとえばピアノの低域部分などが不足気味になり、いわゆるパンチ足りないフワフワした印象を受けます。

ジャズのカルテット演奏を聴いてみたところ、やはりX5が一番力強さがああり、たとえばコントラバスの演奏が飛び跳ねるように感じられます。X5は高域が落ち着いて全体的に重心が低く、演奏中にサックスとベースのインタープレイなどが手に取るように体感できます。

X3 2nd genはX5よりも空間に余裕があり、ドラムの空気感やピアノ弦の金属感などにフォーカスがあたり、アンサンブル全体のバランスも高域よりになります。つまりコントラバスよりもハイハットが聴き取りやすいバランスで、サラウンド感が強くシャキッとした音色です。

初代X3の場合は低域はX3 2nd genよりも強くて張りがあるのですが空間がぐっと近くなりるため、見通しが悪く低域楽器のコントラバスが高域のドラムと被ってしまい不明瞭になります。X3 2nd genでは分離が良くなるため、明らかに解像度が上がります。

初代X3からX3 2nd genでこれだけ音質向上が感じられると、あえて初代X3を推すメリットはひとつも感じられないくらい進化していると思います。

低域に関してはX5の圧勝、高域や空間に関してはX3 2nd genとソニー NW-ZX1が印象的ですが、双方の個性は違います。アコースティックギターに例えると、X3 2nd genはジャーンといったコード弾きのやリバーブの響き強めに出る一方、ソニー NW-ZX1は単音のツヤやアルペジオ、キュッキュッという運指音が美しく聴こえるという特色があります。

まとめ

Fiio X3 2nd genは初代X3から音質やデザイン面で大きなアップグレードを遂げたすばらしいDAPです。X3はもともと非常にコストパフォーマンスの高いDAPですが、今回上級DAC採用やネイティブDSD再生など最新スペックに対応したことで、2万円台という価格帯での決定モデルだと思います。低能率のヘッドホンを駆動するためのパワーも十分あるので、他社のDAPよりも幅広い用途で活用できます。

高音寄りで空間の広がりが特徴的な音作りで、とくに残響音の奥行き感は優秀です。楽曲によっては多少のシャリシャリ感は感じますが、耳に刺さるというよりは「腰が高い」といった印象で、音色の質は良好です。もうちょっと低域にエネルギーが感じられれば良いのですが、これについては上位機種のX5に譲ります。

今回比較試聴した結果、あらためてX5やソニーNW-ZX1などの上位機種の音質の良さを実感しました。これらよりも上位クラスのAK120IIやNW-ZX2などもさらに音質向上が感じられるので、オーディオは底なし沼です。

X3 2nd genはコンパクトながら操作性は良好でボタンの配置などもよく考えられていますが、選曲などの画面操作はかなり限定されているので、この辺はiPhoneのOnkyo HFプレイヤーや、ソニーNW-ZX1などを使い慣れているユーザーにとってはかなり苦労すると思います。「この価格でこの音質」という格安商品なのでユーザーインターフェースについてはあまり言及するのは酷かもしれません。

FiioのDAPは音質面での土台はすでに完成されていると思うので、あとはもう少しユーザーインターフェースについてiPodやウォークマンを見習うことによって、完璧なプレイヤーに仕上がると思います。逆にこれができなければ「中華の格安メーカー」というイメージは払拭できません。

2015年7月にはX5の後継機X5 2nd genが発売され、さらに2015年後半には、X5を超える上位機種のX7が登場予定で、これはAndroidベース(タッチ操作)になるという噂なので、非常に期待しています。Fiioは低価格が魅力なのでAKなどのように不必要に高価な商品にしないことを望んでいます。