2024年10月16日水曜日

iFi Audio GO bar Kensei DACアンプのレビュー

 iFi AudioからGO bar KenseiというUSBドングルDACを購入したので感想を書いておきます。

iFi Audio GO bar Kensei

2024年3月発売で約8万円弱という、ドングルDACとしては非常に高価な製品です。JVCのK2テクノロジーが実装されているということで、K2ファンとして興味本位で買ってみました。

iFi Audio

英国iFi Audioの製品を買うのは意外と久しぶりです。15年くらい前は革新的な製品を次々と出すスタートアップ企業の勢いがあり、とくに出世作のmicro iDSDシリーズを気に入って、初代からBlack Label、Signatureまでモデルチェンジごとに買い替えていました。今でも職場のパソコンで常用しています。

近頃は中国系メーカーの追い上げが激しく、優れたライバル製品が続々登場する中でmicro iDSDの後継機はどんどん高額化していく一方なので(最新のiDSD Diablo 2は20万円です)だんだんと興味が遠のいてしまいました。

それでも低価格Zenシリーズや高級Signatureシリーズなど、色々と手広く頑張っているメーカーだと思います。新しいことにチャレンジする技術力がある一方で、多機能すぎて使いこなすのが難しいガレージ気質なイメージがあります。

剣聖

今回紹介するGO bar Kenseiは2022年に登場したGO barというモデルのデラックス版といった感じで、基本的なデザインは共通しています。

豪華なパッケージや、シャーシがアルミからステンレスに変更されるなど高級志向が伺えますが、一番肝心なのはJVC K2テクノロジーを導入している点で、これについては後述します。

豪華なパッケージ

モデル名のKenseiというのは、本体やパッケージに堂々と書いてあるとおり「剣聖」の事だそうです。

日本のJVC K2を搭載しているからでしょうか。全体的に日本をテーマにしたデザインになっており、Youtubeのプロモーション動画も和風テイストを押し出しています。

日本人からすると、ちょっと厨二っぽくて気恥ずかしいですが、我々アジアのメーカーもパラディンとかエクスカリバーみたいなイキったネーミングを使いたがるわけで、あちら目線では似たような感覚なのでしょう。実際のところ、私のような日本人目線で商品を手にとってみても偏見やステレオタイプ的な悪い印象は受けません。オリエンタルな雰囲気を出すための真摯な努力に好感が持てます。

木箱入り

パッケージはずいぶん豪華な木箱になり、上蓋にはレーザー刻印の凝った波模様、その下にはラメ入りの紙が敷いてあるなど、全体的に上質な和風デザインに仕上がっています。

この手のパッケージというと、日本人は贈呈品などで日常で触れる機会が多いので見慣れている一方で、海外製品となると、蓋の嵌め合いが悪くてスライドしなかったり、テカテカにニスを塗ってあったり、削りカスが残ってたりなど、細部の配慮が甘く、そもそも売る側も買う側も品質の違いすら認識できていないと感じるブランドが多いです。その点今回iFiのパッケージはまるで日本の工芸展で茶器を買った時の梱包みたいな綺麗な仕上がりで十分満足できます。

いつものステッカー

アクセサリー

本体は手触りの良いプラフィルムに包まれていて、アクセサリー類はその下に格納されているなど、全体的に豪華ながら嵩張らずスマートに梱包されています。iFi Audio製品といえば謎のスマイルステッカーは今作でも貼ってありました(QC用でしょうか)。

付属レザーポーチはケーブルを接続した状態では入らないので、あまり実用的ではありません。ゴムバンドやクリップなど別の工夫を凝らした携帯アクセサリーが欲しかったです。本体がステンレスで65.5gとかなり重いので、他のカジュアルなドングルDACみたいにUSBケーブルのみの保持力で吊り下げるのは厳しいです。

USBケーブルはC-CとC-Lightningの短いタイプに、C→Aの変換アダプターが付属しています。後述しますが古いLightning端子のiPhoneでは起動すら厳しいので、Lightningケーブルは付属しないほうがよかったと思います。

デザイン

高価なモデルではあるものの、一般的なUSBドングルDACらしい仕様で、デザイン面での余計なギミックはありません。

ちなみにiFi AudioというとバーブラウンのD/Aチップを搭載するブランドイメージがありますが、GO barではシーラスロジックを採用しているそうです。最近はどのメーカーもシーラスロジックなので賢明な判断だと思います。

他社のドングルDACと並べて比べてみると、そこまでサイズが大きいわけではありませんが、ステンレス製なので65.5gと非常に重いです。iBasso DC-Eliteの方が大きいもののチタン製で60.5gと若干軽いです。iBasso DC07PROは小型で液晶画面もついて23gと軽量なので、常識的に考えるとベストな選択肢だと思います。

3.5mm・4.4mm

それにしても、一昔前のドングルDACはケーブル固定だったり3.5mmと4.4mmで別製品だったりなどで悩まされましたが、最近はほぼ全てのメーカーがUSB-C入力で3.5mm・4.4mm両対応という標準デザインに収束したのは素直に嬉しいです。

個人的な希望を言えるなら、ニンテンドースイッチなどゲーム機で使えるよう全メーカーにUSB Audio Class 1モードを実装してもらいたいです。大手だとFiioやLotooくらいしか思い浮かびません。

GO bar & GOLD bar

GO bar, GOLD bar, Kensei

ところで、Kenseiとは別に、GO barの発売と同時期にiFi Audio 十周年記念ということでGOLD barという金ピカの限定モデルも出してました。

単純に金メッキを施しただけでなく回路も高級化されているということで、私も多少は興味があったのですが、購入すべきか悩んでいるうちに販売終了となってしまいました。

幸いなことに、公式で内部の基板写真が公開されているため、三つのモデルを比較することができます。

表面実装の小さな部品の変更は判別できませんが、基板レイアウト自体は同じようで、一番わかりやすい点では電解コンの数がGO barが一本、GOLD barが四本、Kenseiが三本という違いが確認できます。検索すれば裏面の写真も見つかり、こちらもレギュレーターの構成が若干異なるようです。

大昔のK2テクノロジーというと、それ専用のプロセッサーICが搭載されていたわけですが、流石に最近はFPGAのコード上で実行しているようです。このあたりもワイヤレスイヤホンにおけるK2の技術が活かされているのでしょう。ともかくKenseiはK2ギミックだけでなくコンデンサーなど電源周りが強化されているようなので、K2 OFFの状態でも通常版GO barとはサウンドが違うことが予想されます。

機能

GO barに限らず、iFi Audio製品を買ったら必ず説明書を熟読することをお薦めします。

他のメーカーと比べて、ボタン長押しやLED点滅などでの隠し機能が多いため、知らずに使っても真価を発揮できません。私としては、このあたりのUI/UXの複雑さがiFi Audioの長年の弱点であり、万人に薦められない最大の理由だと思っています。

実際に購入して使い方に慣れてしまえば必然のように思えてきますが、店頭試聴などで魅力を訴える妨げになっているのであれば困ります。ちょっと試してみるだけなら説明書など読まないでしょうし、いざ購入したものの試聴機と挙動が違うなどの混乱を招きます。オーディオショップとしてもアフターサポートが面倒な製品は積極的に売りたくありません。

優れたデザインというのは、各スイッチと機能の関係性を明確にして、長押しや二重押しなどでの誤操作を未然に防ぎ、設定項目の状況を一望して視認でき、初見でも直感的に操作できるものが望ましいです。

メーカーや熱心なファンが「説明書を読まないのが悪い」と切り捨てると誰も得をしないので、今後の改善を期待したいです。

側面ボタン

状況表示

そんなわけで、個別の機能について解説します。

説明書を読まないと絶対に気が付かないと思われる機能の代表格として、音量のターボモードというのもあり、ボリューム上下を2秒間同時押しすることで切り替わります。背面LEDが上に向かって流れるように点滅したらターボモード、下に向かえば通常モードになった事がわかるのですが、常駐ステータスLEDが無いので、普段はどちらのモードになっているのか判別できません。

K2、XSpace、XBass+はLEDがあり、上の写真だとK2のみONになっている状態です。XSpaceはステレオクロスフィード、XBass+は低音ブーストです。

側面モードボタンを押すことで「Off ・ XSpace ・ XBass+ ・ XSpace & XBass+」が巡回します。このボタンは間違えて押してしまうことが多いので、LEDの状況を頻繁にチェックするクセがついてきますが、慣れてくると音の変化を聴いて手探りで切り替えできるようになります。

モードボタンを長押しするとMQAのLEDが点滅します。この状態でボリューム上を押すとK2モードのON/OFF、ボリューム下を押すとデジタルフィルターが切り替わります。

LEDにMQAと書いてあればユーザーは当然MQA関連の情報だと誤解しますし、今回目玉機能であるはずのK2モードの聴き比べがワンタッチでできない、このあたりがUI/UXデザインが悪いと思う一例です。

デジタルフィルターはMQA LED点滅の色で判別でき、黄色=ミニマムフェーズ、赤=スタンダード、緑=ビットパーフェクト、白=GTOの順番に巡回します。GTOというのはiFi Audio独自の高度なオーバーサンプリングフィルターモードです。

モードボタンを8秒以上長押しすると、ボリューム調整がスマホのボリューム操作と連動するモードに切り替わります。メリットはあると思いますが、3秒長押しのつもりで8秒長押ししたせいで変なモードになってしまうあたり、ユーザーを混乱させやすいのは困ります。

最後に、iEMatchという音量アッテネーターのスライドスイッチがあり、「4.4・OFF・3.5」の三段階が選べます。通常はOFFで、IEMイヤホンなどで音量が大きすぎたりバックグラウンドノイズが目立つ場合に活用します。

出力

いつもどおり、0dBFSの1kHzサイン波を再生しながらボリュームを上げて歪みはじめる(THD < 1%)最大出力電圧(Vpp)を測ってみました。ちなみにデジタルフィルターやK2モードのON/OFFは出力に影響しません。

まず、バランスとシングルエンドでそれぞれターボモードのON/OFFを比べてみたところ、確かにドングルDACとしては圧倒的な高電圧を発揮しています。公式情報によるとバランスで477mWと書いてあり、実測でも確かに50Ω付近でピッタリその通り出せています。

ただしターボモードであっても使える電力は結局バスパワーの供給電力(グラフ左側の傾斜)を超えることはできないので、負荷が増してくると(インピーダンスが低いと)高電圧を維持できなくなり、上のグラフではバランスで40Ω、シングルエンドで20Ω以下ではターボモードは関係なくボリュームを上げすぎると音が歪みはじめます。

他の製品と比較してみました。それぞれバランス接続で最高出力モードのみのグラフです。

iFiのZen Can SignatureはACアダプター駆動の据え置きアンプなので圧倒的な高出力です。GO bar Kenseiの半額くらいで買えますから、純粋に音量を求めているなら素直に据え置きアンプを導入すべきです。

バッテリー駆動のモデルではFiio Q15はかなり優秀です。20Ω以下のヘッドホンならZen Canにも負けていません。一方FiioのM23 DAPは高価な割に最大電圧は弱いものの、同じく20Ω以下あたりでは優秀なので、IEMイヤホンなどに特化しているのがわかります。

iBasso DC-EliteはKenseiほどの高電圧は発揮できないのに、40Ω以下の傾向はKenseiと一致しているのは面白いですし、安価なiBasso DC07PROの方が低インピーダンス側の出力が粘り強いのも面白いです。このあたりにメーカーやモデルごとの設計思想の違いが伺えます。

GO bar KenseiにはIEMatchというアッテネーターが搭載されているので、その効果を確認してみました。

ちなみに4.4と3.5切り替えスイッチがあり、4.4mmバランス接続ならスイッチを4.4に合わせるよう説明書に書いてあります。バランス接続でスイッチを3.5に合わせてもよいのですが、波形が歪みやすくなるので、上のグラフでは正しい使い方でのみ測りました。

グラフを見ると、スイッチを4.4に合わせた方が音量の下がり幅が大きいようで、これは実際に音を聴いてもそのとおりです。micro iDSDにあったHigh Sensitivity・Ultra Sensitivityみたいなものでしょうか。

実際考えてみると、バランス接続だと出力電圧は二倍になるのに、感度の高いIEMイヤホンこそ4.4mmバランスケーブルが標準付属していることが多いので、あえてスイッチの音量下がり幅を大きくしたのかもしれません。

IEMatchスイッチは音量を下げてノイズフロアを抑えるのに便利なのですが、単純なアッテネーターなので、出力インピーダンスが悪化するという弊害もあります。

上のグラフは無負荷時にボリュームを1Vppに合わせてから負荷を与えていったものですが、IEMatchスイッチがOFFの状態だと横一直線で出力インピーダンスは1Ω以下なのに対して、スイッチを3.5と4.4にするとそれぞれ7.6Ω、3.8Ωくらいに悪化します。IEMatchが必要になる高感度のIEMイヤホンこそインピーダンスが低く変動が激しいモデルが多いので、これはちょっと困ります。

USBバスパワー

GO barは消費電力が高く、古いスマホ(LightningのiPhoneなど)ではUSBの電力不足で挙動が不安定になるという難点があり、そのあたりはKenseiも変わっていないようです。

そのためか、iFi Audio公式サイトのタイトルを見ると「GO bar Kensei - Portable DAC/Amp for MacBook Pro」なんて書いてあります。

アイドル電流

ボリューム最小でフィルターはStandard (赤)で起動してみると、アイドル電流は100~120mA程度で落ち着きました。Xspace、Xbass、K2はONにしても10mAほど上昇する程度です。

唯一の注意点として、デジタルフィルターのGTOモードを選択した状態ではアイドルで160mAくらいに上昇します。

ちなみにStandardフィルターでPCM 352.8kHzファイルを再生した場合も160mA程度なので、GTOモードは特殊なオーバーサンプリング処理ということで、常時ハイレゾファイルを再生しているような演算状態なのかもしれません。

近頃のスマホであれば160mAは余裕で供給できますが、Lightning端子のiPhoneはバスパワーの上限が100mA付近だったのでかなり厳しいです。

Lightningの問題は、iOS側がバッテリーの残量に応じて勝手にバスパワー上限を制限する仕様になっているため、iPhoneがフル充電の時はドングルDACを認識できても、バッテリーが減ると接続が不安定になります。どうしても接続できない場合は別途給電できる「Lightning to USB 3 Camera Adapter」を通すか、他で起動してGTOモードを解除してから接続してみると良いかもしれません。

それはさておき、上で述べているのは待機中のアイドル電流の事で、実際はヘッドホンを駆動するために消費する電力の方が肝心です。今回LightningのiPhone 14でも試してみた結果、問題なく接続できているのに、ボリュームを上げていくと急に「このアクセサリは電力使用量が大きすぎます」エラーで切断してしまうトラブルが頻発しました。USB CのiPhone 15では問題なく使えました。

8Ωの負荷を接続して最大までボリュームを上げると560mA・2.7Wも消費します。実際ここまで上げると音が歪んでしまい非現実的な条件ですが、それでもヘッドホンと音量次第でバスパワー電力要求が大きく変わるのが理解できます。

参考までにiBasso DC07PROを試してみると、起動時のアイドル電流が31mA、最大負荷で610mAくらい消費します。確実に動作できるために起動電力を下げる努力が伺えますし、8Ω負荷ではGO bar以上に電力を引き出すことができるのがわかります。これは先程の出力グラフでも確認できました。

K2テクノロジー

Kenseiの目玉機能のK2というのはJVCが考案したデジタル信号処理で、録音から失われた音を復元するというギミックです。

よくあるナイキスト周波数以上の高周波を補完するオーバーサンプリングとは違い、可聴帯域の音も調整するあたりがユニークです。

この手のDSPギミックはオーディオマニアに敬遠される傾向にありますが、K2は古くから浸透しているブランドネームなので肯定的なファンが多いという珍しい存在です。

今回のGO bar Kenseiでも任意でK2モードのON/OFFが切り替えられるので、必要でなければ切ればよいですし、聴き比べてみるのも楽しいです。(しかしK2に興味が無いのにわざわざこんな高価なモデルを購入する人は少ないと思います)。

これまでK2モードを扱えるのはJVC製品に限定されましたし(超ハイエンドのReimyoもありますが)、海外サードパーティであるiFiがK2を導入したことはちょっとした衝撃で、それが購入の最大のきっかけでした。

SU-AX01

最近はJVCのワイヤレスイヤホンにK2モードが導入されているようですが、オーディオファイル向けの製品ではJVCが2016年に出したSU-AX01というポータブルDACアンプが最後になります。これは確かに名機だったので、大事に愛蔵している人や後継機を待ち望んでいる人も多いと思います。私もこのアンプの音の良さとK2効果に心を打たれた一人として、今回K2というブランドに釣られてしまったわけです。

K2はブランドネームであって、どれも同じ効果とは限りませんし、そもそも私のようなオーディオマニアにとってK2というのはDSPエフェクトの事ではありません。

CDの全盛期、K2テクノロジーを駆使して名盤を高音質化したK2リマスターCDというのがオーディオマニアに定評があり、特にK2 XRCDシリーズはゲートフォールドジャケットの見栄えも良く、ジャズ、クラシック、歌謡曲などのコレクターに好評でした。値段も普通のCDとさほど変わらず、普通のCDプレーヤーで再生できたのも良いです。

K2というとこちらのイメージです

これらK2 CDの場合、特殊なギミックというよりも、K2プロセッサーを含めた当時のJVCビクターレコーディングスタジオの優れた手腕によるマスタリング技術が根底にあるので、素人が凡庸な楽曲にK2エフェクトを通すことでK2 XRCDと同レベルに高音質になるというわけではありません。しかしK2というブランドネームがオーディオマニアにあまりにも浸透しているため、往年のK2 XRCDのような音質向上効果を期待してしまうわけです。

XRCD以降のK2というと、主にストリーミングの圧縮音源をオリジナルのレベルに復元するといった文脈で使われる事が多いようです。つまりK2といっても世代ごとに売り出し方が変わっており、実際のアルゴリズムも変化しているのだろうと想像します。

それでもオーディオマニアがK2に好意的である理由を私なりに考えてみると、一般大衆に媚びていないという点が大きいと思います。他社のDSPエフェクトのように高音を派手に広げたり低音をブーストしたりなどの素人でもわかりやすい「高音質化」ではなく、オーディオマニアが聴いて「なにをやっているのかわからないけど、確かに良い音だ」と感じ取れる自然な説得力があります。SU-AX01のK2モードなんかはまさにそんな感じでした。今回GO bar KenseiのK2モードもそのような体験ができるのか気になります。

KenseiのK2モード

音質についての話に入る前に、K2モードの効果について触れたい事があります。

ひとまずKenseiの試聴を兼ねて最近の新譜を色々とチェックしていたところ、K2モードをONにした時だけ高音にピーピーと耳障りな異音が聴こえるアルバムがあり、不思議に思って調べてみたところ面白い結果となりました。

ちなみにKenseiのファームウェアは出荷時のVer. 1.05と、これを書いている時点で最新のVer. 1.60のどちらで試しても同じ挙動です。

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件のアルバムはSWR MusicのIngo Metzmacher指揮SWRストラヴィンスキー管弦楽集です。オリジナルのフォーマットは48kHz・24bitで、私はFLACをダウンロード購入しましたが、Tidalなどストリーミングでもハイレゾロスレスなら同じ異音が確認できます(今後修正されるかもしれませんが)。

20kHzにノイズが確認できます

SWRつまり南西ドイツ放送によるクラシック録音なので、音源に不備があるとは信じがたいものの、オリジナルFLACファイルをDAWでスペクトル表示してみると、20kHzに細切れのノイズ信号が混入しているのが確認できます。上の画像は19曲目ですが、どの曲も同じようなノイズが混じっています。

エイリアシングとかノイズシェーピングの残留でも無さそうなので、ラジオ局のライブ収録ということで信号経路に変な機器を通しているか、放送時のキャリアーやパイロット信号でしょうか。

なんにせよ肝心なのは、20kHzの高周波ということで、K2 OFFの状態だと私の耳では聴こえないのに、K2 ONではかなりの音量でピーピーと聴こえています。

録音した波形

そこで、19曲目の冒頭20秒のみを拡大して、Kensei K2 OFFとONの出力をRMEのインターフェースで96kHz・24bit録音したものを比較してみました。ゲインは合わせてあります。

まずどちらも20kHzのノイズが突然発生しているのがハッキリと視認できますが、K2 OFFで録音したファイルはオリジナル音源データとほぼ同じなのに対して、K2 ONではその下の可聴帯域全体にノイズ由来のアーティファクトが複数発生しているのが確認できます。特に13kHzや4kHzに目立つ波形が生まれています。これらがピーピー聴こえるのでしょう。

このような不具合のあるアルバムに遭遇したおかげで、奇しくもK2の効果が悪目立ちしてしまったわけです。

ちなみに48kHzの音源なのに96kHzで録音してみた理由は、KenseiのK2が48kHzオリジナルフォーマット以上の高音への補完を行っているか確認したかったからです。スペクトルを見ると24KHz以上は真っ黒な無音なので、つまり疑似ハイレゾ的な補完ではなく、むしろ可聴帯域内の信号処理を積極的に行っていることがわかります。

SU-AX01

せっかくなので、K2モードを搭載しているJVC SU-AX01でも確認してみたところ、Kenseiと同じようにK2 ONにすると20kHzのノイズが13kHz付近にも現れているのがわかります。

しかし、細かい点ではKenseiのK2モードとは挙動がだいぶ違うようで、たとえばKenseiで見られたような13kHz以外(4kHzなど)の膨大なアーティファクトは確認できません。さらに面白い点として、SU-AX01のK2では24KHz以上にも若干の信号が作られているのが見えます。

KenseiとSU-AX01

ノイズ発生部分の数秒間をFFTで比較してみると、KenseiとSU-AX01ではK2の挙動がだいぶ違うのがわかります。Kenseiでは24KHz以下の信号が増大しているのに対して、SU-AX01では24KHz以上にも信号が発生している点など、スペクトルで見た状況と一致します。

この曲をSU-AX01で聴いてみると、K2 ONでも高音のノイズがほとんど聴き取れません。やはりKenseiのK2で確認できたような広範囲のノイズアーティファクトが少ないからでしょうか。

StandardとGTOフィルターの違い

KenseiにはK2とは別にGTOモードというiFi独自のオーバーサンプリングフィルターが用意されています。

GTOをONにすると、K2 OFFの状態でも20kHzのノイズがもっと上の帯域に反復されています。これはGTOのアルゴリズムに由来するものです。そしてGTO ONでK2 ONにしてみると、高周波の反復はそのままですが、K2由来の可聴帯域でのノイズは明らかに減っています。つまりGTOでオーバーサンプリングされたデータをK2に送っているので、K2があまり手を加えていないのでしょうか。

実際に曲を聴いてみても、K2 ONでもGTO ONにした方が高音のノイズは減っています。

さらに面白いデータです。48kHzのオリジナルFLACファイルをDAWで96kHzと192kHzにオーバーサンプリングしたFLACファイルを作り(ディザリング無し)、それをKenseiを通して再生してみると、K2の挙動がだいぶ大きく変わっています。

まずK2 OFFの状態では、三つのファイルのスペクトルはほぼ同じであることがわかります。つまりオーバーサンプリングによる可聴帯域への影響は最小限です。ところがK2をONにすると、96kHzではノイズが多く、192kHzでは少ないです。

K2のアーティファクトはノイズが始まるタイミングで発生しているので、音楽ではなくノイズ由来であることは明らかです。実際に曲を聴いても96kHzファイルがK2 ONでのノイズが一番多く聴こえます。

BISの合唱アルバム

問題が発生したアルバムは他にもありました。BISレーベルのシュニトケ合唱曲集(BIS-2292)をなにげなく聴いてみたら、開幕から「キーン」という耳鳴りのような異音が聴こえたので、とっさにK2をOFFにしたら異音は消え去りました。

ハイレゾの老舗BISで、合唱曲で、購入音源は96kHz/24bitということで、高音質であることに異論は無いのですが、あらためてDAWで見ると26kHzにノイズがはっきりと確認でき、Kenseiの出力を録音してみると、K2 ONではノイズが可聴帯域に複製されており、これらが耳鳴りのように聴こえているようです。

これまた、不本意にもKenseiのK2が「高周波ノイズ発見機能」として活躍することになってしまいました。

話が長くなってしまいましたが、まとめると、まずK2モードは実際に可聴帯域内での鳴り方を大きく変える効果があり、さらにKenseiとSU-AX01ではK2のアルゴリズム挙動が違うということが言えると思います。

今回取り上げた高周波ノイズは明らかに録音の不具合が原因なので、K2の責任ではありませんが、それでもK2のせいで可聴ノイズが生成されてしまうのはJVCが本来意図するK2の挙動なのか気になるところです。

音質とか

そんなわけで、K2の話は一旦保留にして、GO bar Kenseiそのものの音質について確認してみます。

試聴には普段から聴き慣れているゼンハイザーIE900などのIEMイヤホンから大型ヘッドホンまで色々と挑戦してみました。

IE900

まず最初に、感度が高いイヤホンではボリュームにかかわらずシューッというノイズが聴こえるので、静かな環境では結構気になります。これは通常版GO barでも同じでした。

しかも音楽をそこそこ大音量で聴いていても演奏の隙間から常に存在が確認できる、厄介な広帯域ノイズです。

iEMatchをONにすればノイズを消すことができるものの、同時にサウンドも変化してしまうので使うべきか判断が難しいです。micro iDSDシリーズでも全く同じ点で悩まされました。

VE EXT MKII LE

シングルダイナミック型のIE900であれば出力インピーダンスの影響はそこまでありませんが、私が普段使っているUE Liveや、今回試聴に使ったVision Ears EXT MKII LEなどのマルチドライバー型では、iEMatch ONだとなんとなく音が痩せてしまい、ダイナミックな押し引きやレスポンスの速さが損なわれる感覚があります。単純な周波数特性の変化というよりもクロスオーバー付近の位相変動が目立つのでしょうか。慣れてしまえばそういう音だと思えますが、普段と違う鳴り方なのは明らかです。

アッテネーターは余計な負荷ですから、例えるなら非力な車でエアコンをONにすると運転のフィーリングが変わるようなものです。600Ωのヘッドホンでは問題なくとも、IEM用アンプにアッテネーターは得策とは思えません。

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Eratoからクラシックの新譜でGautier Capuçonのエルガーとウォルトンのチェロ協奏曲を聴いてみました。

どちらもソリストがアグレッシブに熱演するイメージのある楽曲ですが、今作はさすがベテランだけあって大きく優雅な演奏が楽しめます。対称的にPappano指揮LSOが大迫力のオケサウンドを発揮しているのも嬉しいです。いつものBarbicanのLSO Liveよりこちらの方が良い気がします。


ジャズではSunnyside RecordsからAndy Milne and Unison 「Time Will Tell」を聴いてみました。

ピアニストリーダーが自身の人生体験をもとに書き上げた自作集だそうです。トリオを中心に、曲ごとに作風のバリエーションが豊富で、数曲ではドイツのサックスと日本の琴をゲストで入れており、スタイルや世界観の交差が楽しめるあたり凡庸なジャズアルバムとは一線を画す良盤です。


Kenseiでじっくり音楽を聴いてみると、やはり通常版GO barとの共通点が多い中で、明確な違いも感じられます。

まず共通点について、ドングルDACの中では比較的派手で押しが強いサウンドなので、騒音下でも音楽が負けず、メロディラインやリズム感がハッキリと伝わるため、ポータブル用途に最適です。派手といっても制御不能に暴れるのではなく、むしろエネルギッシュで骨太な演奏が楽しめるあたり、ソロ中心のバンドミュージックが好きな人に向いています。

クラシック音楽では空間の奥行きや立体感の乏しさが気になるものの、肝心のソリストが至近距離で鮮やかに描かれるため、気を取られず音楽体験に専念できるあたりはiFiらしいというか、Hip-DACやZenシリーズと共通する魅力があります。

私はiBasso DC07PROというドングルDACも使っており、そちらとKenseiは対照的なのが面白いです。DC07PROではバックグラウンドノイズが全く聴こえず、繊細で高解像なサウンドなのですが、外部騒音に負けてしまい、自宅でじっくり聴くには良いけれどポータブルには向いていないあたり、ドングルDACとして正解なのか悩みます。

外出時に迫力のあるサウンドを味わえるドングルDACを求めているならKenseiの方が良いと思いますし、iBassoもそのためにDC-Eliteというモデルを出していたり、他にもDita Navigatorなど、高価なドングルDACは測定性能よりもポータブルに向けた楽しいサウンドを目指しているようです。自宅では優れた据え置き機器を持っている前提でしょうか。

次に、通常版GO barとKenseiの違いについて、GO barは勢いや派手さが先行して、落ち着きが無いというか、自己主張が強すぎる印象もあったところ、そのあたりがKenseiでだいぶ改善されているように感じます。

GO barの派手さが逆三角形のイメージだとすれば、Kenseiでは低音の土台がしっかりした正三角形に収まっています。低音に向かって厚みが増すことで、ジャズトリオにおけるピアノコードとベースの役割が明確になり、演奏に安定感が生まれます。おかげでGO bar本来の派手さも許容できるようになり、ドングルDACというよりもバッテリー駆動のポタアンの表現に近づいています。

Dita Navigatorの方が古典的な乾電池オペアンプポタアン的な素朴さや荒削りの魅力があり、一方DC-EliteはiBassoらしい低音や高音のレンジの広い鮮烈さがあるなど、やはり高価なモデルはメーカーごとの個性が出てきますし、価格相応の音質向上も実感できます。

ただしドングルDAC以外に視野を広げると、Kenseiの8万円弱というのは結構厳しいです。一般的なドングルDACの1‐3万円くらいならライバルのポタアンやDAPもあまり思い浮かびませんが、8万円となると選択肢が一気に増えるので、どうしてもドングルDACが必要でなければ素直にバッテリー搭載モデルに行った方が良いと思います。

Kensei & xDSD Gryphon

Zen Can、Fiio Q15、K9

iFi AudioからもxDSD Gryphonがほぼ同価格で買えることを考えると、Kenseiは相当ニッチな製品です。他にも最近のモデルではFiio Q15は結構良いと思います。

GryphonやQ15くらいであれば、上の写真のZen CanやK9のような据え置きアンプと互角に戦えるレベルにあると感じるのですが、Kenseiでは明らかなギャップを感じます。

それではDAPはどうかと考えてみると、実は8万円弱というのは意外と難しい価格帯です。ポタアンと比べるとタッチスクリーンやAndroid OS回路一式のコストが価格に含まれ、オーディオ回路に使える予算が限られるため、音質面での優位性はそこまでありません。KenseiレベルのドングルDACからのアップグレードとしては弱いです。

10‐20万円くらいのDAPになれば、UIの固定コストに対してオーディオ回路に多くの予算を充てることができるため、明確なステップアップが実感できます。たとえばHiby RS6やFiio M15SなどではKenseiよりも明らかに優れていると思えてきます。

具体的に何が優れているかというと、やはり低音側の空間余裕の差に注目するのが一番わかりやすいです。周波数特性はほとんど同じに思えても、Kenseiでは低音の出音から残響まで顔の間近に張り付いているのに対して、バッテリー内蔵のDACアンプや高級DAPでは音像の定位や残響の広がり方に立体的な奥行きがあります。

高音側はそこまでの違いは無く、表現の硬さや艶っぽさは機器ごとの味付け次第で、メーカーの腕の見せどころでもあるので、機器の大きさや価格に依存するほどでもありません。

低音側の余裕を出すには電源回路の作り込みと余裕が必要だというあたりに、ドングルDACのボトルネックを実感しました。

ATH-R70x

Abyss Diana MR

電源のパワーに依存するのなら、Kenseiに大型ヘッドホンは避けるべきで、IEMイヤホン程度なら大丈夫だろうと思うかもしれませんが、実は真逆なのが面白いです。

Kenseiで470ΩのATH-R70xを鳴らしてみたところ意外と良い感じで、Q15やmicro iDSD Signatureなどと比較しても、Kenseiの方が若干フワフワする感じはあるものの、十分に満足できる鳴り方です。少なくともイヤホンで感じたほどの格差はありません。

私が普段聴く音量ならターボモードすら不要で、通常モードで70%上げたくらいがちょうどよいです。Abyss Diana MRのような30Ωの平面型ヘッドホンでもターボモードは不要でした。

つまりドングルDACは単純に音量面(電圧)でのパワー不足というよりも、イヤホンのように急激に変化する負荷に対応する余裕が不足しており、負荷が比較的平坦な大型ヘッドホンであればドングルDACの弱点が目立たないのかもしれません。

ただし、色々と実験してみると、開放型と比べて密閉型ヘッドホンではそこまで上手く行きません。私が普段使っている中ではDan Clark Audio Aeon NoirやUltrasone Signature Masterなどの密閉型では、もともと中低音が厚めというのもありますが、Kenseiだと低音全般が至近距離に張り付いて、遠くへと発散してくれません。Xbass+エフェクトも活用して、打ち込みの重低音を身近に体感したいなら良いかもしれません。

エフェクトの話に移りますが、Xbass+はかなり低い帯域のみを持ち上げるので、そもそも最低域に音が無い楽曲では違いが感じられないかもしれません。ハウスなどEDMのキックドラムでは威力があり、長時間ONにしていると流石に耳が疲れてくるのですが、一発芸として楽曲ごとに効果を試してみたくなる中毒性があります。

Xspaceのクロスフィード効果は、ステレオミックスが優秀な楽曲であるほど効果が薄いので、逆に言うとレコーディングエンジニアの腕前を評価するギミックとしても活用できます。

左右全振りの古いステレオ楽曲でXspaceを活用したいわけですが、あいかわらず他社のクロスフィード機能と比べて高音がかなり強調されるので使いづらいです。高音のホワイトノイズやアタックが目立ってしまい、リラックスした聴き方ができません。スピーカーであれば、ツイーターの高音は指向性が強くトーインの調整や耳介で緩和されるため、耳の真横でスピーカーを鳴らした時と比べて高音はここまで強くありません。そのあたりの説得力はやはりSPL Phonitorのクロスフィード機能が優秀です。

デジタルフィルターについては、音楽の気分に合わせて切り替えるのが良いですが、私は結局Standard(赤LED)に落ち着きました。そもそもハイレゾ音源を聴いていれば影響はありません。

ただしGTOフィルターモードだけは例外で、確かにハイレゾっぽさは感じるのですが、どの音楽を聴いても同じように高音側の情報量にバランスが傾き、腰高で落ち着きがない感覚があり、それによって生まれる具体的なメリットが掴めず、個人的にあまり好きになれませんでした。

このように、Xbass+、Xspace、GTOフィルターモードなどの機能はmicro iDSDシリーズなどと全く同じ感想に至ったので、ドングルDACになってもiFi Audioらしいサウンドが継承されているのは興味深いです。

K2モードが効果的な例

肝心のK2モードについて、上述した高周波ノイズが発生する特殊な例を除けば、ほとんどの楽曲で良好な効果が得られます。ちゃんとKenseiの特色が実感できたので一安心しました。

JVC SU-AX01のK2モードと比べても、効果がわかりやすいよう強調されている印象です。

K2は基本的に高音の倍音成分を補完しているのだと思いますが、感覚的な効果としては高域に限らず全体的にサウンドの輪郭がクッキリして引き締まります。

EQのように高音を盛るのではなく、中低域の楽器に本来あるはずの自然倍音などが拡張されることで、それらの楽器の実在感が増すようです。特に上の写真のT50RPのようなドライなモニター系ヘッドホンに色艶を加えるのに効果的です。ただし演奏のメリハリや自己主張は強くなるので、ちょっと過剰に感じてOFFにしたくなることもあります。

試聴に使ったジャズアルバムでは、K2をONにすることでピアノの左手のコードが明確になり、伴奏として背景に埋もれず浮き上がってきます。琴の弦を弾く音やサックスも色彩豊かに、全体的に深みが増すというか華やかな方向に拡張される印象です。

似たようなギミックとしてソニーのDSEEが思い浮かびますが、あちらは高音側に特化して瑞々しさやクリア感の雰囲気を増強するイメージがあり、一方K2は楽器の音色そのものの彫りが深くなる感じです。

さらにK2のメリットとして、オーバーサンプリングフィルターと違ってハイレゾ楽曲でも効果が実感できます。(ただしDSDではK2は強制的にOFFになります)。特に最近のサブスクリプション契約だと、楽曲ごとのサンプルレートを気にして聴いている人は少ないと思います。そして96kHzの配信音源でも実際の中身は44.1kHz/16bit相当だったりすることも多く、その場合でもK2の効果が活用できるのはありがたいです。

私の場合、K2は常時ONで使っているのですが、特に良い音色が聴こえた時は「これは楽曲そのものの音を聴いているのか、K2の効果を聴いているのか」という疑問が湧いてきて一旦OFFにしてみる、そして、そのたびにK2 OFFでの鳴り方は味気無いと思えてきて、やっぱりK2をONにする、というのを懲りずに何度も繰り返しています。

最後に余談になりますが、USBケーブルは結構影響があります。データだけでなくバスパワーの電力伝送に関わるからでしょうか。Kenseiを一ヶ月ほど色々な場面で活用していて、どうしてもサウンドの評価がまとまらないと困っていたところ、出先と自宅で使うケーブルを変えていて、それらの音質差が意外と大きかったことに後で気が付きました。信じるかどうかはお任せしますが、適当なUSB C-Cケーブルは身近に沢山あると思うので、実験してみると面白いかもしれません。

おわりに

GO bar Kenseiは非常に高価なドングルDACなので、実際に購入する人はかなり限られていると思います。私のようにK2への興味でネタ的に買ってみる人が多いのではないでしょうか。

バスパワー電力の要求が高いため、LightningのiPhoneを使っている人は避けるべきですし、古いノートパソコンなどでも意外と電力供給のトラブルが起こりやすいです。

また、IEMメインで検討している人はノイズが許容レベルなのか注意すべきです。騒がしい店頭試聴ではノイズフロアの高さが確認しづらいので、いざ購入して自宅で落胆しないよう気を付けてください。

そのあたりの弱点をクリアできれば、本体の高級感や、K2を含めて音質も申し分ない仕上がりで、通常版GO barと比べても十分なアップグレード感があるので、私は満足できています。ちなみに私はDAPなどでアルミと比べてステンレスシャーシには不思議な音質向上効果があると信じているので、Kenseiもステンレスの効能があると思いたいです。

このあたりの遊び心とは無縁の人には、単純に値段が高すぎるので、ドングルDACに限定するならもっと安いモデルでも良いと思いますし、8万円の予算での最適解としては、やはりxDSD GryphonやFiio Q15とかの方が賢明に思えます。

ちなみにGryphonは2021年発売の三年選手なので、そろそろ後継機を期待したい時期です。micro iDSDシリーズはボリュームポットやIEMatchなどさすがに基礎設計の古さが目立ち、音質面での優位性の説得力が弱いと思うので、今後はGryphonをベースに、それこそ音質を向上してK2を搭載したモデルなんかが出たら、かなり興味が湧くと思います。その際にはmicro iDSDみたいに値上がりしないことを期待しています。

Kenseiに話を戻すと、個人的にじっくり使ってみた結果、ドングルDACでありながら開放型ヘッドホンを鳴らすのが最適という、想定外の結論に至りました。

それはそれで独自の魅力がありますし、意外と需要はありそうです。私みたいに、普段使いの標準的なドングルDACとは一味違う二本目が欲しい人もいますし、ヘッドホン初心者でも、「ゼンハイザーやHIFIMANなどの高級開放型ヘッドホンを買ったけれど大げさなアンプは欲しくない、スマホとドングルDACで済むのならそれに越したことは無い、予算はそこまで気にしない」というような人もショップでよく見る光景というか、むしろIEMガチ勢よりも潜在的な人口は多いかもしれません。

そんな場面でショップが「一応こんなのもありますけど」と提案できる製品として、Kenseiは意外と良いニッチを突いたモデルです。


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